Power Appsで画像認識を組むなら、使うのはAI Builderです。自社の部品や商品を見分けるなら物体検出のカスタムモデル、学習用の画像を用意できないならプロンプトの画像入力を選びます。どちらもスマートフォンのカメラで撮った写真をその場で判定でき、結果はPower Appsの画面へ直接流し込めます。
費用の前提は2026年11月1日に変わります。この日以降に新規購入・更新するPower Apps Premiumなどのライセンスには、AI Builderの実行に使うシードクレジットが付かなくなります。この記事では、4つの実装手段の選び方、モデルの作成手順、1枚あたりのクレジット、11月以降の見積もり方を、2026年10月12日時点のMicrosoft Learnの記載で整理します。
まとめ:Power Appsの画像認識で使う物体検出・プロンプトと選定基準
- Power Apps標準の画像認識はAI Builderです。独自の物体を検出するならカスタム物体検出モデル、学習を省くならプロンプトの画像入力を使います。
- AI Builderに画像分類モデルはありません。Lobeによる画像分類(プレビュー)は2023年1月に非推奨となっています。
- カスタム物体検出は物体名ごとに15枚以上タグ付けしないと先へ進めません。学習画像はJPG・PNG・BMP、最大6MB、最小256×256ピクセルです。
- 物体検出は1画像8クレジットです。プロンプトはトークン課金で、4032×3024ピクセルの画像部分は765トークンに換算されます。実行全体では、指示文・システムメタプロンプト・回答などのトークンも加算されます。
- 2026年11月1日以降に新規購入・更新したライセンスにはシードクレジットが付きません。既存の契約分は契約期間の終わりまで使えます。不足分はCopilot Creditsで払います。
- 外部の画像解析を使う場合、Azure Custom Visionは2028年9月25日に提供終了予定のため、新規の組み込み先には向きません。
Power Appsで画像認識を組む4つの手段の比較
経路は4つあります。選定は「独自の物体を覚えさせる必要があるか」「座標や個数まで要るか」「月の処理枚数」の3点でほぼ決まります。
| 手段 | 学習 | 返る結果 | 向く要件 |
|---|---|---|---|
| 物体検出コンポーネント | 要 | 物体名・個数・枠 | 撮影から判定までノーコード |
| Power FxのPredict | 要 | 物体名・確度・枠 | 結果を自前の画面へ |
| プロンプトの画像入力 | 不要 | 指示どおりの文章 | 画像が集まらない・読み取り |
| Azure ML・外部API | 自前 | APIの仕様次第 | 精度・単価を自前で詰める |
物体検出コンポーネントによる撮影から判定までの一括処理
キャンバスアプリの挿入タブにある物体検出コンポーネントは、写真を撮るか画像ファイルを選ぶと自動で解析し、写っている物体を識別します。前提は、学習済みかつ発行済みの物体検出モデルが同じ環境にあることです。画面に置くとAIモデルの選択ペインが開くので、そこでモデルを紐づけます。
Microsoft Learnの物体検出コンポーネントの解説が挙げる用途は、小売の在庫管理と、製造現場で型番の分からない部品のマニュアルへたどり着く場面です。棚卸や設備点検のように「現物を撮って記録する」業務はこの延長にあります。
Power FxのPredictで検出結果を自前の画面へ渡す方法
コンポーネントの見た目が要件に合わないときは、数式からモデルを直接呼びます。データの追加からAIモデルを選んで追加すると、モデル名に .Predict を付けて呼び出せます。
Set(varResult, 'Parts detector'.Predict(Image1.Image));
Concat(varResult.Objects, Name & ":" & Round(Confidence * 100, 1) & "%", "、")
上のコードは設定先を分けます。1行目のSetはボタンのOnSelectに、2行目のConcatは結果表示用ラベルのTextに設定します。'Parts detector' は追加したモデル名、Image1 は判定対象の画像を表示する画像コントロール名に置き換えます。戻り値の Objects はテーブルで、各行が Name・Confidence・BoundingBox(Left・Top・Width・Height)を持ちます。Power Fxの解説ページは、テキスト入力の OnChange ではなくボタンのような単発の操作から予測を起動し、結果をグローバル変数に保存して使い回すよう勧めています。入力のたびにモデルが走る作りは、そのままクレジットの消費に跳ね返るためです(ページは OnClick と書いていますが、キャンバスアプリのボタンのプロパティ名は OnSelect です)。
注意点は2つあります。1つ目は、数式からの利用が概要ページで今もプレビューと記載されていること(2026年1月14日更新)。2つ目は、アプリを別の環境へ移すと、追加したモデルを新しい環境で手動で追加し直す必要があることです。開発環境から本番環境へ移した直後に予測が動かない場合は、ここを確認します。
プロンプトの画像入力で学習なしに画像を読み取る方法
学習用の画像を集められないときは、AI Builderのプロンプトに画像を渡します。プロンプトビルダーの指示文で入力に Image or document を追加すると、実行時に渡した画像に対して「写っている部品の型番を答えて」「破損の有無を判定して」といった指示を適用できます。Power Appsからは、プロンプトをデータソースに追加してカスタムモデルと同じく .Predict で呼びます。
入力の追加に関するページが示す制限は、対応形式がPNG・JPG・JPEG・PDF、ファイル合計25MB未満、処理は最大100秒、文書は50ページ未満です。Copilot Studioのエージェントにツールとして追加したプロンプトでは、画像・文書の入力はまだ使えません。出力形式は文章のほかJSONも選べます。ただし、物体検出モデルのように境界ボックスを専用の出力項目として返す機能とは異なります。個数や位置を後続の処理に使うなら物体検出、読み取りや分類の判断を文章かJSONで受け取れば足りるならプロンプト、と分けて考えます。
Azure Machine Learningと外部の画像解析APIを使う連携
Azure Machine Learningで作ったモデルは、AI Builderの「独自のモデルを導入する」機能で取り込み、Power Fxから呼べます。それ以外の推論APIを使う場合は、カスタムコネクタを作ってPower Appsから呼ぶ構成です。カスタムコネクタはPremiumの範囲なので、ライセンスの前提も一緒に変わります。
既存の解説記事にはAzure Custom Visionのコネクタで画像を分類する手順がよく載っていますが、これから組むなら避けてください。Custom Visionの移行ガイドは「The Custom Vision Service will be retired on September 25, 2028」と書き、移行計画の期限を2026年9月25日としています。AI Builder側の画像分類(Lobe)も、Power Platformの重要な変更ページで2023年1月に非推奨となり、当時の代替として案内されたのがそのCustom Visionでした。Lobeは非推奨となり、代替として案内されたCustom Visionも提供終了が予定されています。移行先の選び方はAzure Custom Visionとは?2028年9月の提供終了と移行先の選び方、他社APIの料金比較は画像解析APIとは?主要4サービスの料金・無料枠を比較して選ぶで扱っています。
カスタム物体検出モデルを作る手順
モデルはPower AppsまたはPower Automateの画面から作ります。物体検出の作成手順に沿うと、流れは次のとおりです。
- 左ペインのAIハブからAIモデルを開き、画像の「物体検出」でカスタムモデルの作成を選ぶ。
- ドメインを選ぶ。共通のオブジェクト(規定値)、小売棚のオブジェクト、ブランドロゴの3つから選ぶ。
- 検出する物体名を登録する。1モデルあたり最大500個で、手入力かDataverseテーブルの列から選ぶ。
- 画像を追加する。ローカル、SharePoint、Azure Blob Storageから取り込める。
- 各画像で物体を四角形で囲み、物体名を割り当てる。物体名ごとに15枚以上タグ付けするまで次へ進めない。
- 学習させ、クイックテストで精度を確かめてから発行する。発行したモデルだけがアプリから使える。
ドメインの選択には費用の注記があります。小売棚とブランドロゴのドメイン固有モデルは、共通のオブジェクトより多くクレジットを消費する仕様です。棚の確認だからと反射的に小売棚を選ばず、まず共通のオブジェクトで精度が足りるかを試します。
学習画像の形式・枚数・クラス間バランスの要件
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| 形式 | JPG・PNG・BMP |
| ファイルサイズ | 学習用は最大6MB |
| 解像度 | 幅・高さとも最小256ピクセル |
| 枚数 | 物体あたり15枚が出発点 |
| クラス間の比 | 最少:最多を1:2以上 |
枚数の偏りも確認します。ある物体が500枚なら、最も少ない物体にも250枚以上用意することが推奨されています。枚数より効くのは多様性で、Microsoft Learnは手に持ったリンゴと白い皿の柑橘類で学習させると、モデルが果物ではなく「手」と「白い皿」を覚えてしまう例を挙げています。背景、光、物体の大きさ、角度を散らして撮影ルールを決めてから集めてください。
入力モードの切り替えでタグ付けが消える仕様
物体名の入力方法(手入力とDataverseから選択)を途中で切り替えると、入力済みの物体名と紐づく境界ボックスがすべて削除され、元に戻せません。数十枚のタグ付けを終えてからDataverse管理に移そうとすると、作業が丸ごと消えます。どちらで管理するかは着手前に決めます。
検出結果のプロパティ名とコンポーネント・数式の違い
同じ物体検出でも、コンポーネントと数式では結果の名前が違います。取り違えると、動いているのに値が取れない状態になります。
| 経路 | 主な出力 | 物体名 | 個数 |
|---|---|---|---|
| コンポーネント | GroupedResults・Results | TagName | ObjectCount |
| Power Fx | Objects | Name | Filter後にCountRows |
コンポーネントの GroupedResults は物体ごとの要約で TagId・TagName・ObjectCount を返し、Results は検出1件ごとの BoundingBox・Confidence・TagId・TagName を返します。日本語版の解説には GroupedResults の2項目目を「TagId」と書いた誤記があり、プロパティ名の変更表と英語版では TagName が正です。2020年4月のコンポーネント刷新で旧名の VisionObjects.displayName などから現在の名前に変わっており、古い社内アプリでデータテーブルが空になった場合は、データテーブルを追加し直して Items を設定し直すと復旧します。
2026年11月1日のAI Builderクレジット終了後の費用
画像1枚あたりのクレジット消費と金額の目安
AI Builderは実行時にだけクレジットを消費し、モデルの学習やテストでは消費しません。AI Builderのライセンス管理ページの料率表から画像まわりを抜き出すと次のとおりです。
| 機能 | 単位 | Copilot Credits | AI Builderクレジット |
|---|---|---|---|
| 物体検出 | 1画像 | 8(0.08ドル) | 8 |
| 画像の説明 | 1画像 | 8(プレビュー中無料) | 32(同) |
| テキスト認識(OCR) | 1ページ | 0.1 | 3 |
| プロンプト(標準モデル) | 1,000トークン | 1.5(目安) | 入力20・出力60 |
プロンプトの画像は、トークン換算のページの規則でトークンに直ります。512×512ピクセル未満は一律85トークン。それより大きい画像は2048ピクセル四方に収まるよう縮小し、短辺が768ピクセルを超えれば768ピクセルまで縮めたうえで、512ピクセル四方のタイル1枚あたり170トークンに85トークンを足します。スマートフォンの4032×3024ピクセルの写真なら1024×768ピクセルに縮んでタイル4枚、合計765トークンです。画像・指示文・回答に加え、Microsoftのシステムメタプロンプト(約1,200トークン、変動あり)も入力に含まれます。これらの総数を仮に約2,200トークンとすると、同じ目安レート(1,000トークンあたり1.5)では約3.3クレジットとなり、物体検出の8クレジットより安く収まる計算です。ただし1.5は入力9割・出力1割を想定した平均値で、回答を長く書かせるほど増えます。
月の処理量で見ると、物体検出を1日500枚・月22日動かせば11,000枚で88,000 Copilot Credits、従量課金なら約880ドルです。消費枠は毎月1日にリセットされて繰り越せないため、買う量は年間の平均ではなく単月のピークで決めます。
2026年11月の変更内容と契約更新前の確認事項
AI Builderクレジット終了のページ(2026年10月2日更新)の予定表は次のとおりです。機能そのものは終わらず、終わるのは課金の通貨です。
| 日付 | 対象 | 内容 |
|---|---|---|
| 2025年11月1日 | 新規顧客 | 容量アドオンの販売終了 |
| 2026年11月1日 | アドオン保有者 | アドオンの提供終了 |
| 2026年11月1日 | シード付きライセンス | 以後の新規・更新分に付与なし |
11月1日より前に購入・更新したライセンスのシードクレジットは、その契約期間の終わりまで月ごとに使えます。Power AppsとPower Automateでは、AI Builderクレジットを先に消費し、尽きるとCopilot Creditsへ切り替わり、両方が無ければ実行は失敗します。両通貨の間に変換はありません。アドオンを持つ組織は、Microsoft 365管理センターかパートナーセンターで自動更新を切るよう求められています。
契約更新前の確認は3つです。Power Platform管理センターで直近の月間消費量を確かめます。次にライセンスの更新日から、シードクレジットが無くなる月を特定します。その月までに、Copilot Creditsの従量課金か事前購入を手当てしておきます。Power Automate側でAI Builderを使っている場合の二重通貨の見積もりはPower AutomateのCopilotとAI Builderとは?生成できる範囲とクレジット二重通貨の見積もりを実装目線で解説で扱っています。
Power Apps側に必要なライセンスと無料で試せる範囲
AI BuilderはMicrosoft 365付帯のPower Appsでは使えません。プレミアムな機能の扱いで、Power Apps Premiumなどの有料ライセンスと、Dataverseのある環境が前提です。日本向けの価格ページでは、Power Apps Premiumが1ユーザー月額2,998円相当(年払い・税別)、2,000シート以上で1,799円相当と示されています(2026年10月12日時点)。Microsoft 365付帯の範囲との境界はPower AppsとPower Automateの違いとは?成果物・起動条件・ライセンス境界で選び分けるで整理しています。
無料で試す経路は2つです。開発者プランは開発とテスト専用の環境を無料で使え、本番で動かすには有料プランが要ります。Power Appsの試用版は30日間で、30日ずつ2回まで延長でき最大90日です。ただしAI Builderの試用版は提供を終えているため、画像認識の検証でクレジットを消費する段階では、Copilot Creditsかシード付きのライセンスが必要になります。
AI Builderの画像認識を選ばないほうがよい条件
次の条件では、カスタム物体検出以外の手段や、AI Builder以外の構成を検討します。費用だけでなく、学習画像の確保、通信、応答時間、判定責任を分けて判断してください。
- 物体あたり15枚の画像を揃えられない:ツールが先へ進ませません。枚数が少ないとノイズを学習する危険もMicrosoft Learnが明記しています。プロンプトの画像入力へ切り替えるか、撮影ルールを決めてから出直します。
- 月の処理枚数が数万枚を超える:物体検出は1枚0.08ドルで、月10万枚なら8,000ドルです。この規模ではクラウドの画像解析APIや自前モデルと単価を並べて比べます。自前で組む場合のライブラリは画像認識のPythonライブラリ比較|PyTorch・OpenCV・YOLOの選び方とライセンス【2026年10月】が参考になります。
- 通信のない現場やミリ秒単位の判定が要る:キャンバスアプリはオフラインで動いても、推論はクラウドで走ります。プロンプトの画像処理には100秒の上限もあります。
- 検査の合否を精度で保証する:信頼度スコアのどこで合格とするか、誤検出のときの責任をどう分けるかは利用側の設計です。外観検査の最終判定をアプリに任せる設計は避けます。物体検出の手法そのものの比較は物体検出とは?仕組み・代表手法の比較から実装判断までエンジニア向けに解説にまとめています。
逆に、社内の限られた品目を判別し、月の処理が数千枚に収まり、入力画面をノーコードで作りたいという条件が揃えば、AI Builderの物体検出コンポーネントから試すことを勧めます。
画像認識アプリの内製と外注の線引き
SharePointリストを台帳にした1業務の撮影アプリなら、業務担当者が自分で組めます。撮影・判定・台帳登録の試作をまず内製し、かかった作業量で外注の要否を判断します。一方、環境の分け方、データ損失防止ポリシー、Dataverseのセキュリティロール、モデルを環境間で移す手順は、アプリ作成者と管理者が役割を分担して整備する項目です。Power Platform全体の役割分担はPower Platformとは?5つのサービス・できること・料金と内製の判断まで解説で確認できます。
カスタムコネクタの認証設計、部門横断のアクセス制御、AI Builderの費用管理を担当できる人が社内にいない場合は、初期の設計と統制だけでも外部に頼むほうが手戻りは少なく済みます。当社のPower Platform(PowerApps)導入支援サービスでは、環境設計からアプリの実装、社内で運用を引き取れる状態への引き渡しまでを請け負っています。画像認識を含む案件では、ライセンスの更新日と想定処理枚数を相談時にお伝えください。
よくある質問
Power Appsだけで画像認識はできますか?
Power Apps単体の画面部品だけではできず、AI Builderを組み合わせます。キャンバスアプリに物体検出コンポーネントを置くか、Power FxのPredictでモデルを呼ぶ形です。AI Builderの利用にはPower Apps Premiumなどの有料ライセンスと、実行分のクレジットが必要です。
物体検出モデルの学習には画像が何枚必要ですか?
物体あたり15枚が出発点で、AI Builderは物体名ごとに15枚以上タグ付けするまで次の手順へ進ませません。加えて、認識結果の偏りを抑えるため、最少枚数が最多枚数の半分以上になるよう揃えることが推奨されています。
1枚の画像に同じ物体が複数写っていても数を取れますか?
取れます。物体検出コンポーネントの GroupedResults が返す ObjectCount がその物体の出現回数です。Power Fxから呼んだ場合は、Objectsを対象のNameでFilterしてからCountRowsで数えます。Objects全体を数えると、ほかの種類の物体も含む検出総数になります。
2026年11月以降もAI Builderの画像認識は使えますか?
機能は続きます。変わるのは課金で、11月1日以降に新規購入・更新したライセンスにはシードクレジットが付かず、実行にはCopilot Creditsが必要です。11月1日より前に購入・更新したライセンスの分は、契約期間の終わりまで使えます。
学習なしで画像の中身を読み取る方法はありますか?
AI Builderのプロンプトに画像入力を追加すれば、学習なしで画像に指示を適用できます。PNG・JPG・JPEG・PDFに対応し、ファイル合計25MB未満、処理は最大100秒です。個数や位置を検出結果として後続処理に使う場合は、境界ボックスと検出件数を扱える物体検出を選びます。