OrbStack(オーブスタック)は、macOSでDockerコンテナとLinuxマシンを動かすためのアプリです。Docker Desktopと同じ docker コマンドがそのまま使え、起動の速さとメモリの返却に強みがあります。2026年9月28日時点の最新版は2026年8月7日公開のv2.2.3(公式リリースノート)で、対応OSはmacOS 14.0以上です。
この記事では、仕組みと料金、インストールとDocker Desktopからの移行、orb コマンドの使い方、Rosettaでのx86イメージ実行、Kubernetes、容量管理までを公式ドキュメントに沿って整理します。導入を見送るべき条件も最後に挙げます。
まとめ:OrbStackの要点
- 何か:Mac専用のDocker Desktop代替。1つの軽量Linux VMの上でDocker EngineとLinuxマシン(Ubuntu等16ディストリ)を動かします。
- 料金:個人の非商用利用は無料。業務・商用利用はProライセンス(年払い96ドル=1ユーザー月額換算8ドル)が必要です。フリーランスや非営利団体も有料の対象です。
- 動作要件:macOS 14.0以上。Apple Silicon版とIntel版のDMGがあり、Windows・Linuxホストでは使えません。
- 移行:初回起動時か
orb docker migrateで、Docker Desktopのコンテナ・ボリューム・イメージをコピーできます。元データは残ります。 - x86イメージ:Apple SiliconではRosettaで実行します。
--platform linux/amd64を付けるだけです。 - 向かない条件:Windowsと同じツールで揃えたいチーム、業務利用で有料ライセンスを出せない組織、macOS 13以前のMacです。
OrbStackの仕組みとDocker Desktop・Colimaとの違い
共有カーネルの軽量Linux VM1台で動く構成
OrbStackは、共有カーネルを持つ軽量なLinux仮想マシンを1台起動し、その中でDocker EngineとLinuxマシンをまとめて動かします。Linuxマシンは別のVMではなく同じカーネル上の独立した環境なので、アイドル状態のマシンを追加してもCPU使用量の増分はほとんどありませんが、処理を実行すれば負荷に応じて増えます。
メモリは必要になった分だけ確保され、使わなくなった分はmacOSへ自動で返却されます。公式ドキュメントでは、アイドル時のCPU使用率は約0.1%、新規インストール直後のディスク使用量は10MB未満とされています。Docker Desktopでメモリ割り当てを固定して、Macの他のアプリが重くなっていた場合に差が出る部分です。
Docker Desktop・Colima・Apple containerとの機能差
Mac上のコンテナ実行環境は、OrbStackのほかにDocker Desktop、OSSのColima、Apple純正の container CLIがあります。OrbStack公式の比較表(Docker Desktopとの比較は2025年1月時点のv4.37.2が対象)、ColimaとApple containerの公式ドキュメントから、判断に効く項目だけを抜き出しました。
| 項目 | OrbStack | Docker Desktop | Colima | Apple container |
|---|---|---|---|---|
| 対応ホスト | macOS 14以上 | Mac・Windows・Linux | macOS・Linux | macOS 26・Apple Silicon |
| Linuxマシン | ○(16ディストリ) | × | ○(Incus。VMはM3以降) | ○(container machine) |
| GUI | ○ | ○ | × | × |
| メモリの動的返却 | ○ | × | × | 公式比較なし |
| コンテナのドメイン名 | ○ | × | × | 公式比較なし |
| Rosettaでのx86実行 | ○ | ○ | ○(VZ使用時) | 公式比較なし |
| レジストリアクセス制限 | × | ○ | 公式比較なし | 公式比較なし |
| 業務利用の費用 | 有料(Pro) | 条件付きで有料 | 無料(OSS) | 無料(OSS) |
Apple containerはコンテナ1つごとに軽量VMを立てる方式で、OrbStackの「VM1台に全部載せる」構成とは設計が逆です。Docker互換のcomposeやGUIを前提にするならOrbStack、Apple純正の最新方式を試すならApple containerという分け方になります。Apple container側の現状はApple containerの使い方とDockerとの違い、Colimaの設定はMacでDocker Desktopを外すColimaの導入手順で整理しています。
OrbStackの料金と無料で使える範囲
OrbStackはベータ終了後に有料製品になりました。無料なのは個人の非商用利用だけです。
| プラン | 料金 | 対象 |
|---|---|---|
| Free | 0ドル | 個人の非商用利用 |
| Pro | 月額換算8ドル/ユーザー(年96ドル) | 業務・商用利用 |
| Enterprise | 要問い合わせ | SAML SSO・請求書払いが必要な組織 |
公式ライセンス規定では、フリーランスとしての業務利用、営利・非営利法人や政府機関での利用、OrbStackを使う仕事から年1万ドルを超える収益を得る利用が有料の対象です。非営利団体も免除されない点に注意してください。教育目的と非商用のOSS開発では、無料ライセンスを申請でき、承認された場合に発行されます。ただし、学生の授業など個人の非商用の教育利用には、ライセンス購入は不要です。
新規インストールには業務利用もできる30日間のProトライアルが付き、終了後はFree(個人利用のみ)に戻ります。コンテナをデバッグする「Debug Shell」はPro側の機能です。
Docker Desktopも、従業員250人以上または年間売上1,000万ドル以上の組織では有料サブスクリプションが必要です。会社でDocker Desktopの費用を払っているなら、1人あたりの費用を比べてから乗り換えを判断するのが筋です。境界の詳細はDocker Desktopのライセンス境界の記事にまとめています。
OrbStackのインストール手順と動作要件
macOS 14以上・Apple SiliconとIntel Macの対応状況
現行版はmacOS 14.0以上で動き、公式ダウンロードページにApple Silicon用とIntel用のDMGが別々に置かれています。Intel Macでも使えますが、Haswell(第4世代)・Broadwell(第5世代)以前のCPUに対応した最後の版はv1.5.1です。macOS 14の対応機種は2018年以降のモデル(iMac Proは2017年)なので、Haswell・Broadwell世代のMacはそもそも現行版の要件を満たしません。
Windows版はなく、公式比較表でもWindows対応は「非対応」です。Linuxホスト向けの配布もありません。
DMGとHomebrewでの導入
公式サイトからDMGを入手してアプリを開けば、追加のインストール作業なしで使い始められます。Homebrewを使う場合は、インストール後に一度アプリを起動します。docker や orb のコマンドは起動時に自動で配置されるためです。
brew install orbstack
open -a OrbStack
# 初回設定を完了し、Docker Engineが起動してから以下を実行
# 動作確認
docker run --rm hello-world
orb version
管理者権限がある環境では、OrbStackが /var/run/docker.sock のシンボリックリンクを自分のDocker Engineへ向け直します。ソケットのパスを直接見るサードパーティ製ツールも、設定を変えずにそのまま動きます。ただし、Docker DesktopやHomebrewで入れた docker コマンドが既にある場合、OrbStackはそれを上書きしません。OrbStack版に切り替えるには、古いコマンド(/usr/local/bin/docker* など)を削除してからアプリを再起動します。
Docker DesktopからOrbStackへの移行手順
初回起動時に、Docker Desktopのコンテナ・ボリューム・イメージなどを移行するか聞かれます。後から実行する場合は、メニューの File > Migrate Docker Data か、次のコマンドを使います。
orb docker migrate
移行はコピーなので、Docker Desktop側のデータは消えません。OrbStackで問題なく動くのを確かめてから、Docker Desktop側のデータをリセットすれば安全です。
しばらく両方を併用するなら、Dockerのコンテキストで切り替えます。切り替えはそれ以降のすべての docker コマンドに効きます。
# OrbStackを使う
docker context use orbstack
# Docker Desktopに戻す
docker context use desktop-linux
OrbStackをやめる場合は、OrbStackを止めてDocker Desktopを起動し、docker context use desktop-linux を実行すれば元に戻ります。認証情報をDocker Desktopの資格情報ストアに保存していた場合は、~/.docker/config.json の credsStore を合わせて見直してください。
orbコマンドでのLinuxマシンとコンテナの操作
Linuxマシンの作成・一覧・シェル接続
OrbStackはGUIなしでも、orb コマンドだけで操作できます。対応ディストリはAlma、Alpine、Arch、CentOS、Debian、Devuan、Fedora、Gentoo、Kali、NixOS、openEuler、openSUSE、Oracle、Rocky、Ubuntu、Voidの16種類です。
# Ubuntuマシンを作成(メモリ4GB・2コア・ディスク64GBに制限)
orb create --memory 4G --cpus 2 --disk 64G ubuntu my-machine
# マシン一覧
orb list
# 既定マシンでシェルを開く/マシンとユーザーを指定する
orb
# my-userはマシン内に存在するユーザー名に置き換える
orb -m my-machine -u my-user
# シェルに入らずコマンドだけ実行
orb -m my-machine uname -a
引数なしの orb はシェル起動、サブコマンド付きはマシン管理と、1つのコマンドが2役を持ちます。スクリプトで明示的に書きたいときは長形式の orbctl shell・orbctl run を使います。作成後の上限変更は orb config set machine.my-machine.memory_mib 4096 のように設定キーで行います。
Macとのファイル共有
ファイル共有は双方向です。Linux側からはMacと同じパス(/Users/foo/Downloads)か /mnt/mac 付きのパスでMacのファイルを読めます。Mac側からは ~/OrbStack かFinderの「OrbStack」タブでLinuxマシン内のファイルを開けます。コピーで済ませたいときは orb push(Macから Linuxへ)と orb pull(LinuxからMacへ)があります。
コンテナのドメイン名と自動HTTPS
各コンテナには コンテナ名.orb.local、Composeのサービスには サービス名.プロジェクト名.orb.local というドメインが自動で付きます。プロジェクト名は通常 docker-compose.yml のあるフォルダ名です。localhost:3000 と localhost:8080 のどちらが何かを覚えておく必要がなくなります。
これらのドメインにはローカル認証局とドメイン別のTLS証明書、リバースプロキシが自動で設定され、http:// を https:// に変えるだけでHTTPS接続できます。一方、-p で転送したポートは既定でLAN上の他の端末からも到達できます。カフェなど信頼できないネットワークでは、公開したくないサービスをポート転送せずドメイン経由で使うほうが安全です。複数サービスの定義方法はdocker-composeの仕組みで解説しています。
Rosettaでx86(amd64)イメージを動かす設定
Apple Silicon Macでは、Intel向け(x86_64/amd64)のイメージをRosettaで実行します。イメージ側がarm64版を用意していない場合や、本番サーバーと同じamd64で動作確認したい場合は、--platform を指定します。
docker run -it --rm --platform linux/amd64 alpine uname -m
docker build --platform linux/amd64 -t myapp:amd64 .
Rosettaの使用は設定キー rosetta で切り替えられます。無効にすると遅い代替方式に落ちるため、公式は互換性の問題が出ない限り有効のままにすることを勧めています。ARMネイティブのコードにもわずかな負荷がかかりますが、通常は体感できない程度とされています。
速度差の実測例として、PLAY社の開発者ブログ(2023年12月公開)はM2搭載Macでのwebpack初回ビルド時間を次のように報告しています。条件はamd64環境の開発用コンテナで、OrbStackとDocker Desktopの版は当時のものです。
| 環境 | 初回ビルド | ファイル更新時 |
|---|---|---|
| Docker Desktop(QEMU) | 674,900ms | 26,101ms |
| Docker Desktop(Rosetta) | 469,741ms | 12,638ms |
| OrbStack(Rosetta) | 375,708ms | 12,278ms |
差が大きいのはQEMUからRosettaへの切り替えで、Rosetta同士ではOrbStackの初回ビルドが約2割短い程度です。Docker Desktopでamd64イメージが遅いと感じているなら、乗り換える前に「Use Rosetta for x86/amd64 emulation」を有効にして差を確かめる価値があります。この数値は2023年当時の特定アプリケーションでの測定結果であり、現行版や別の処理で同じ速度差が出ることを示すものではありません。
OrbStackのKubernetes:単一ノードクラスタの起動と公開
OrbStackには開発向けの単一ノードKubernetesクラスタが内蔵されています。起動と停止はコマンドかGUIのどちらでも行えます。
orb start k8s
kubectl create deployment nginx --image nginx
kubectl expose deploy/nginx --type=NodePort --port=80
kubectl get svc # 表示されたNodePortに localhost:PORT でアクセス
使い終わったクラスタは orb stop k8s で停止、orb restart k8s で再起動、orb delete k8s で削除します。削除するとDeploymentなどのリソースも消えます。
Kubernetesは他の機能と同じコンテナエンジンを使うため、docker build したイメージをレジストリへpushせずにPodで使えます。ただし :latest タグは毎回pullを試みるので、ローカルイメージには :dev などの別タグを付けるか、imagePullPolicy: IfNotPresent を指定します。
サービスへはポート転送なしでMacから届きます。NodePortは localhost:PORT、ClusterIPはIPアドレスで直接、LoadBalancerとIngressは *.k8s.orb.local のワイルドカードドメインで公開されます。Ingressコントローラーは既定では入っていないので、Traefikなどを別途導入します。Ingress-NGINXは2026年3月で保守が終了したため、新規導入の候補から外します。NodePortとLoadBalancerは既定でlocalhostからしか届かず、LANへ公開するには設定の「Expose services to local network devices」を有効にします。
複数ノード構成を試したい、CIと同じツールで揃えたいという場合は、kindでのクラスタ構築手順のほうが向いています。
メモリ上限とディスク容量の管理
コンテナとLinuxマシンが使えるメモリの合計上限は設定キー memory_mib で決まり、既定は最大8GBです。「Out of memory」の通知が出る場合は上限を上げ、逆に他のアプリを優先したい場合は下げます。
orb config set memory_mib 4096 # 全体の上限を4GBに
docker builder prune # ビルドキャッシュを削除
docker system prune # 停止中のコンテナ・未使用ネットワーク・danglingイメージ・未使用ビルドキャッシュを削除
ディスクは data.img という見かけ上8TBのAPFSスパースファイルに入っており、実際に使った分だけ消費され、データを消すと自動で縮みます。容量が足りなくなったら、公式が勧めるとおりまずビルドキャッシュを消すのが効果的です。
OrbStackを選ばないほうがよい条件
OrbStackはMacで1人がDocker中心に開発する場面では有力ですが、次の条件に当てはまるなら採用しません。
- 業務利用なのに有料ライセンスを出せない:Freeは個人の非商用に限られ、フリーランスや非営利団体も対象外です。費用をかけられないなら、OSSのColimaを選びます。
- WindowsやLinuxの開発者と同じツールで揃えたい:OrbStackはMac専用です。手順書やトラブル対応を1本化したいチームでは、全OS対応のDocker Desktopか、各OSで動くPodmanのほうが運用が楽です。PodmanとDockerの違いはPodmanとdockerの違いで比較しています。
- 管理者がレジストリアクセスを制限する必要がある:公式比較表では、OrbStackはこの機能が「非対応」です。社内ポリシーで取得元を絞るなら、Registry Access Managementを利用できるDocker Businessを選び、組織アカウントでのサインインを強制します。
- macOS 13以前のMacを使い続ける:現行版はmacOS 14.0以上が必要で、それ未満のOSでは現行版を使えません。公式は可能な限り最新版を使うよう案内しており、ダウングレードの動作や後方互換性は保証していません。
逆に、Mac上でコンテナとLinux環境を両方使い、Docker Desktopのメモリ消費や起動待ちに不満がある個人・小規模チームなら、30日トライアルで試す価値は十分にあります。
OrbStackに関するよくある質問
OrbStackの読み方は?
「オーブスタック」と読みます。コマンド名の orb も「オーブ」です。表記はOrbStackで、Sが大文字です。検索では「orb stack」と分けて入力しても同じ製品が見つかります。
OrbStackは無料で使えますか?
個人の非商用利用なら無料です。業務・商用利用にはProライセンスが必要で、年払いで96ドル(1ユーザーあたり月額換算8ドル)です。フリーランスの受託開発、会社の業務、非営利団体や政府機関での利用も有料の対象になります。新規インストール時の30日トライアル中は業務でも使え、終了後は個人利用専用のFreeに戻ります。
OrbStackはWindowsやLinuxで使えますか?
使えません。OrbStackはmacOS専用で、現行版はmacOS 14.0以上が必要です。Apple Silicon版とIntel版のDMGが用意されているので、Macであればどちらのチップでも動きます。WindowsではDocker DesktopやWSL上のDocker Engine、LinuxではDocker Engineを直接入れるのが一般的です。
OrbStackのバージョンを戻す(ダウングレード)ことはできますか?
公式ドキュメントの「Older versions」ページに、v1.0.1以降の旧版のApple Silicon用・Intel用DMGが掲載されています。ただしダウングレードは公式サポート外で、後方互換性は保証されていません。大きな変更を含む更新の後に戻すと、設定が壊れたり起動しなくなったりする可能性があります。不具合が理由なら、戻す前に報告して修正版を待つのが推奨されています。
OrbStackをアンインストールするには?
アプリケーションフォルダからOrbStackを削除します。コンテナやLinuxマシンのデータも消す場合は、~/.orbstack と ~/Library/Group Containers/HUAQ24HBR6.dev.orbstack を削除します。Homebrewで入れた場合は brew uninstall orbstack で削除できます。Docker Desktopに戻るなら、先に docker context use desktop-linux を実行しておきます。