ICT施工とは?5工程の流れと工種別の機器・積算の扱いを解説
ICT施工は、測量から設計データの作成、施工、出来形の計測、成果品の納品までを3次元データでつなぐ施工方法です。国土交通省の直轄工事では土工と浚渫工で原則化され、対応の可否が受注の前提に近づいています。ただし現場から見ると、知りたいのは施策の趣旨ではなく「どの工程で何のデータを作り、どの機器が要り、費用はどこに乗るのか」という手触りのほうでしょう。この記事では5工程の中身、土工・舗装工・浚渫工で変わる実施フロー、機器を自社で持つかどうかの線引きまでを実装側の目線で整理します。
まとめ|ICT施工を現場に入れる順序と、機器を持つか借りるかの線引き
最初に押さえるべきは、ICT施工が「機械を買う話」ではなく「データを作って引き渡す話」だという点です。3次元設計データがなければマシンコントロールを積んだ重機は動きませんし、3次元出来形データがなければ検査も通りません。機械よりデータのほうが先に要ります。
着手の順序は、出来形計測の3次元化からです。測量機器のレンタルで1現場だけ試せば、施工方法を変えずにデータの作り方と検査の流れを覚えられます。3次元設計データの作成は最初から外注で構いません。マシンコントロール搭載機の購入判断は、対象工種の年間施工数量が読めてからで遅くありません。
機器を自社保有すべきなのは、原則化された工種で年間の稼働が数カ月規模に達する会社だけです。年間数件にとどまるなら、レンタルと外注の組み合わせのほうが手元に現金が残ります。ただし外注へ全部を出すと、3次元データの検収ができる人材が社内に育ちません。データの中身を読める担当を1名だけ置く、という中間解が現実的な落としどころです。
ICT施工の定義と、i-Constructionの中で本記事が扱う工程範囲
ICT施工の定義と、i-Constructionにおける位置づけの整理
ICT施工とは、建設生産プロセスの各段階に情報通信技術を通し、3次元データを一本の流れとして扱う施工方法を指します。国土交通省がi-Constructionのトップランナー施策の1本目に据えたもので、2016年度(平成28年度)の土工から始まりました。
施策としての全体像、つまり3本柱の中身や2024年4月に公表されたi-Construction 2.0のロードマップ、原則化される工種の年度別の広がりはi-Constructionとは?3本柱と2.0のロードマップ・着手順序を解説で扱いました。本記事はその中の実装側、つまり現場で動く工程と機器・データに範囲を絞ります。
情報化施工という旧来の呼び方との違いと、対象になる工事の範囲
ICT施工は、2000年代から進められてきた情報化施工の考え方を引き継いでいます。違いは適用の広さです。情報化施工が個別の技術の導入だったのに対し、ICT施工は測量から納品までを一続きの要件として定めた点が変わりました。どこか1工程だけを3次元にしても、要件を満たしたことにはなりません。
対象になる工事は、国土交通省の直轄工事が中心です。都道府県や市町村の工事では、各発注機関が基準類を準用するかたちで広がっています。民間の建築工事に同じ要件が課されることはありませんので、自社が対応すべきかどうかは公共土木の受注比率から判断してください。
3次元起工測量から3次元データ納品まで、5工程で必要なデータと機器
ICT施工は、5つの施工段階に分けて定義されています。工程ごとに使う機器と生まれるデータが違うため、まず対応表で全体をつかみます。
| 工程 | 主に使う機器 | 生まれるデータ |
|---|---|---|
| 3次元起工測量 | UAV・地上型レーザースキャナー | 現況の点群データ |
| 3次元設計データ作成 | 3次元設計ソフト | 設計面のTINデータ |
| ICT建設機械による施工 | MC・MG搭載の重機 | 施工履歴データ |
| 3次元出来形管理 | TS・レーザースキャナー | 出来形の計測点群 |
| 3次元データの納品 | 電子成果品の作成環境 | 納品用の成果品一式 |
3次元起工測量と3次元設計データ作成が後工程の精度を決める理由
起工測量では、UAVによる空中写真測量か地上型レーザースキャナーで現況地形を面的に計測します。従来のトータルステーションによる測点方式と比べ、取得できる情報量が桁違いに増える一方、点群の処理には相応の計算資源が要ります。現場のノートPCで開こうとして固まる、というのがよくある入り口の躓きです。
次の3次元設計データ作成は、発注図面の2次元断面を3次元の設計面に起こす工程です。ここで作った面が、以降の機械制御と出来形照査の基準になります。設計面に誤りがあれば重機はその通りに掘りますから、この工程の検図が実質的な品質管理の要になります。外注に出す場合も、検収は自社で行う体制にしてください。
ICT建設機械による施工と、3次元出来形管理に必要な計測機器
施工では、設計面のデータを読み込んだ重機が刃先の位置を自動制御したり、オペレーターへ表示したりします。丁張りの設置が大幅に減るのが実務上の効き目で、測量の待ちで重機が止まる時間もなくなります。ここが工期短縮の主な源泉です。
出来形管理では、施工後の形状を3次元で計測し、設計面との差を面的に評価します。基準は「3次元計測技術を用いた出来形管理要領(案)」として工種別に整備され、令和8年3月版まで改定が重ねられてきました。計測手法ごとに許容する精度や計測密度が定められているため、機器を選ぶ前に自社が扱う工種の要領を読む順序が確実です。
3次元データ納品で発注者へ渡す成果品と、社内に残す原本の保管先
納品では、起工測量データ・3次元設計データ・出来形計測データなどを電子成果品として提出します。形式や納品対象は要領で決まっており、現場側で自由に選べるものではありません。
見落とされやすいのは、納品したデータの原本を社内にどう残すかです。納品して終わりにすると、同じ路線で追加工事が出たときに現況を測り直すことになります。工事番号に紐づけて社内へ残しておけば、次の見積もりの根拠にも転用できます。この設計は工事着手前に決めておくものです。
工種別に違う実施フロー|土工・舗装工・浚渫工で変わる測量と機械
5工程の枠組みは共通ですが、計測の対象も機械も工種で変わります。原則化の対象になっている3工種を順に見ます。
ICT土工|掘削・盛土での起工測量と締固め管理の進め方の要点
土工は、ICT施工がもっとも早く標準化した工種です。UAVで現況を測り、掘削面や法面の3次元設計データを作り、マシンコントロール搭載のバックホウやブルドーザーで施工します。出来形はレーザースキャナーやUAVで面的に計測し、設計面との較差で評価します。
盛土では締固め管理が別途動きます。転圧回数をGNSSで記録し、規定回数に達したかを面で管理する方式が使われます。オペレーターの経験に頼っていた部分が記録として残るため、後から品質を説明できるようになるのが利点です。ただし現場によってはGNSSの受信が安定せず、山間部や高架下では別の手法を選ぶ判断が要ります。
ICT舗装工|対象となる面積条件と、路面の3次元計測による管理
舗装工では、路盤・表層の仕上がり面を3次元設計データで管理します。機械側はマシンコントロールを積んだモータグレーダやアスファルトフィニッシャが中心で、敷きならしの厚さを設計面に合わせて制御します。出来形は路面をレーザースキャナーで計測し、平坦性や厚さを面で評価する流れです。
土工と違うのは、対象規模に線引きがある点です。発注者指定型の対象は施工対象範囲が一定面積以上の工事に置かれており、小規模な補修工事まで一律には広がっていません。2026年度(令和8年度)は発注者指定型の範囲を段階的に広げる段階にあり、原則化は2027年度以降が目標として示されています(2025年7月時点の公表資料)。舗装が主力なら、対象になる規模の案件が年に何件あるかを先に数えてください。
ICT浚渫工|水中の出来形をマルチビームで測る河川と港湾の違い
浚渫工は、計測の対象が水中にある点で他工種と根本的に違います。起工測量も出来形計測もマルチビームによる音響測深で行い、船上の機器で水底の地形を面的に取得します。陸上のようにUAVやレーザースキャナーは使えません。
河川と港湾では、要領も発注機関も別です。港湾では海上地盤改良工やブロック据付工にもICT施工の対象が広がっており、水深や潮位の補正といった海上特有の処理が加わります。測深機と測位機器を積んだ作業船が必要になるため、機器を自社で持つ判断は土工よりさらに数量に依存します。
マシンガイダンスとマシンコントロールの違いと3次元設計データの位置
マシンガイダンスとマシンコントロールの違いと、機械の選び分け
マシンガイダンス(MG)は、設計面と刃先の位置関係をモニターに表示し、操作そのものはオペレーターが行う方式です。マシンコントロール(MC)は、設計面を超えて掘り込まないよう機械側が刃先を自動制御します。同じ3次元設計データを読み込みますが、人がどこまで判断するかが違います。
選び分けの基準は、仕上げ精度が求められる工程かどうかです。法面や路床の仕上げのように許容差が小さい工程ではMCが効きます。掘削の荒掘りや構造物まわりの作業では、MGで表示だけ受けて人が操作するほうが早い場面も少なくありません。全台をMCにする必要はなく、仕上げ用に1台という構成から始める会社が多くなっています。
2次元のマシンガイダンスから始める、未経験の会社の入り口の選択
3次元から入る必要もありません。標高と勾配だけを扱う2次元のマシンガイダンス(2DMG)でも、丁張りの設置回数は明確に減ります。機器の価格帯も3次元の制御装置より1桁低く、既存の重機に後付けできる製品が中心です。
未経験の会社や自治体工事が主力の会社には、簡易な技術で始められる工事の枠組みも用意されています。まず2DMGで機械側の運用に慣れ、出来形計測の3次元化を並行して覚え、両方が回るようになってから3次元のMCへ進む。この順序なら、途中でつまずいても投資が寝ません。
積算での扱い|ICT補正と経費加算額が工事価格のどこに乗るのか
ICT施工に伴う費用は、受注者が丸ごと負担する構造にはなっていません。積算上の受け皿が2つ用意されています。
ICT補正で共通仮設費率と現場管理費率に乗る補正係数の考え方
3次元出来形管理と3次元データ納品を行う場合、共通仮設費率と現場管理費率に補正係数が乗ります。2020年4月以降の実施要領では、共通仮設費率に1.2、現場管理費率に1.1という係数が示されてきました。これがICT補正と呼ばれる仕組みです。
係数の対象は、出来形管理の手法と工種で決まります。要領で認められた計測手法を使っていなければ補正は付きませんので、機器を選ぶ段階で対象手法に入るかを確認する必要があります。会計検査院からも対象範囲を明確にするよう指摘が出ており、年度ごとの要領改定で扱いが整理されてきた領域です。最新版の要領を発注機関ごとに確認してください。
経費加算額として計上されるICT建設機械の初期費と保守点検費
もう1つが経費加算額です。ICT建設機械のシステム初期費と保守点検費が、共通仮設費の技術管理費として計上されます。機械そのものの損料とは別枠で、制御システム側の費用を見る考え方です。
ここが実務上の判断の分かれ目です。レンタルで機械を調達すれば初期費の負担は軽くなりますが、稼働の多い会社では加算の積み上がりより保有のほうが安く付く場面も出てきます。発注方式によっても扱いが変わり、施工者希望型では契約後の設計変更で経費を計上する流れになります。年間の受注見込みを積算要領の条件に当てはめて試算する、という手順を踏むほうが確実です。
自社保有・レンタル・外注委託の判断軸と、中小企業の段階導入の順序
自社保有が成り立つ条件|年間の施工数量と稼働率から見る採算性
機器の自社保有が成り立つのは、次の2つがそろう場合です。1つは、原則化の対象工種が売上の主力を占めていること。もう1つは、その工種での年間稼働が数カ月規模に達することです。
逆に、この条件を満たさない会社が購入に踏み切ると、稼働率が上がらないまま基準類の改定を迎えます。3次元の制御装置も計測機器も、要領の改定に合わせてソフトウェアの更新が続く製品です。眠らせている間に更新費だけが出ていく構造になりますから、年間受注が数件の段階では買わない判断のほうが合理的といえます。
レンタルと外注委託で回すときに、社内へ残らなくなる技術の範囲
レンタルと外注で回す場合は、社内に技術が残らない点が課題です。3次元設計データの作成と点群処理を全部外へ出すと、成果物の妥当性を判断できる人が社内にいなくなります。設計面に誤りがあっても気づけないまま施工へ進むリスクが残ります。
そこで線引きを1つ置きます。データを「作る」技術は外注でよく、「読む」技術は社内に残す。具体的には、3次元設計データを開いて設計図と突き合わせられる担当を1名確保しておけば足ります。この1名がいるかどうかで、外注の品質管理が成立するかが変わります。
段階導入の順序|出来形計測の3次元化から機械投資までの5段階
導入は次の順序で進めるのが安全です。
- 自社の主力工種が発注者指定型の対象に入るかを、発注機関の年度方針で確認する
- 出来形計測の3次元化を、計測機器のレンタルで1現場だけ試す
- 3次元設計データ作成の外注先を1社決め、費用と納期の実績を取る
- 設計データを読める担当を1名決め、検収の手順を社内に文書化する
- 年間の施工数量が見えた段階で、MC搭載機の購入かレンタルかを判断する
この並びの意図は、投資額の小さい工程から実績を積むことにあります。3番目までは数十万円の規模で試せます。5番目の機械投資は桁が2つ変わりますから、1番から4番の実績を持たないまま踏み込むと回収の見通しが立ちません。
現場で生まれたデータを工事台帳へつなぐ、社内側の設計と内製範囲
点群データ・施工履歴・出来形データが社内で分散する状態の整理
ICT施工を続けると、現場から出るデータの種類が増えます。現況の点群、3次元設計データ、締固めや掘削の施工履歴、出来形の計測点群、電子小黒板つきの写真。容量も形式もばらばらで、扱う担当も測量・施工・事務で分かれます。
結果としてよく起きるのが、点群データが現場PCの外付けディスクに残ったまま社内へ共有されない状態です。工事が終われば誰も開かなくなり、次の工事で同じ場所を測り直します。工事着手前に置き場と命名規則を決めておくだけで、2年目以降の手戻りが減ります。
外注に回す3次元データ処理と、社内へ残す原価・工程情報の線引き
処理の重い領域は外へ、経営判断に効く領域は中へ、という切り分けになります。点群処理と3次元設計データ作成は専用ソフトと高性能なマシンが要るため、案件数の少ない会社が内製しても採算が合いません。
社内に残すのは、工事ごとの原価・工程・実行予算です。ICT施工で得た施工履歴や出来形の実績を工事番号に紐づけて工事台帳へ流し込めれば、工種別の歩掛かりが自社に蓄積され、次の見積もり精度が上がります。受け皿になる仕組みの選び方は工事管理システムとは?機能・施工管理との違いから選び方・開発判断まで解説で整理しました。会社全体でどこから手を付けるかの優先順位は建設DXとは?進まない構造要因と着手順・投資判断の線引きを解説を起点にしてください。既存の工事台帳と現場データの接続をどう設計するかは、建設業のDXコンサルティングで現状の仕組みを見たうえでご相談ください。
よくある質問
ICT施工をこれから始める現場から挙がることの多い質問を、制度上の扱いと実務の判断に分けて答えます。
ICT施工と情報化施工は何が違うのですか?
考え方の系譜はつながっていますが、適用の範囲が違います。情報化施工は2000年代から進められた個別技術の導入で、機械制御や締固め管理といった単位で取り入れるものでした。ICT施工は、測量・設計・施工・出来形管理・納品という5つの段階を一続きの要件として定めています。1工程だけ3次元にしても要件を満たさない点が、実務上の大きな違いです。
ICT施工は小規模な工事でも実施できますか?
小規模な工事でも実施は可能です。未経験の企業や自治体工事が中心の企業向けに、2次元のマシンガイダンスなど簡易な技術で始められる工事の枠組みが用意されています。ただし発注者指定型の対象になるかどうかは工種と規模で決まり、舗装工のように施工対象範囲の面積で線引きされる工種もあります。自社が受ける案件が対象に入るかは、発注機関の年度方針で確認してください。
ICT建設機械は必ず自社で購入する必要がありますか?
購入は必須ではありません。制御装置を積んだ重機はレンタルで調達でき、既存機への後付けキットを借りる方法もあります。積算上はICT建設機械のシステム初期費と保守点検費が経費加算額として計上されるため、レンタルでも費用の受け皿はあります。購入の判断は、対象工種の年間稼働が数カ月規模に達してからで構いません。
3次元設計データは自社で作成しなければなりませんか?
外注で問題ありません。専用ソフトの習熟と処理能力の高いマシンが要る領域なので、年間の案件数が少ないうちは外へ出すほうが速く安く済みます。ただし成果物の検収は自社で行ってください。設計面に誤りがあると重機はその通りに施工しますから、設計図と突き合わせて確認できる担当を1名は社内に置く必要があります。
ICT施工にすると工事の利益は増えるのですか?
利益への影響は工程ごとに異なるのが実情です。丁張りの設置と測量の待ち時間が減るため、土工のように土量が大きい工事では作業日数の短縮が利益に直結しやすい傾向です。一方で3次元設計データの作成費と機器の費用が新たに発生しますから、数量の小さい工事では相殺されて終わることもあります。共通仮設費率と現場管理費率へのICT補正が付く条件を満たしているかどうかも、収支を左右します。
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