営業プロセスとは、見込み客を見つけてから受注し、契約後に取引が定着するまでの流れを工程に分けたものです。工程の名前を並べただけでは、どこで案件が止まっているかは見えません。この記事では、営業プロセスを5工程で捉える考え方、各フェーズの退出条件を顧客側の事実で書く方法、工程別の転換率と滞留日数で詰まりを見つける手順を説明します。HubSpotの取引パイプラインとSalesforceの商談フェーズでの設定例は、2026年11月時点の公式ヘルプで確認しました。後半では、営業プロセスを作り込むべき組織と、そこまでしなくてよい組織の境目を示します。
まとめ:営業プロセスは段階の名前より退出条件と転換率の定義で成果が決まる
営業プロセスの可視化で失敗する会社の多くは、「アポ」「提案」「交渉」といったフェーズ名を決めた時点で設計を終えています。名前だけのフェーズは担当者ごとに解釈がずれ、同じ「提案中」に先方の検討が始まった案件と、資料を送っただけの案件が混ざります。
手を入れる順番は3つです。最初に、各フェーズを抜ける条件を「顧客が予算額を開示した」のような先方の行動で書きます。次に、工程ごとの件数・転換率・滞留日数を毎月同じ定義で測ってください。最後に、その定義をSFAのパイプラインに設定し、条件を満たさない案件が次へ進めないようにします。
月間の新規商談が30件を超え、担当者が3人以上いる営業組織なら、この設計に工数をかける価値があります。担当1〜2人で商談が月10件に満たないなら、表計算の案件一覧で十分です。
営業プロセスの定義と範囲|リード獲得から受注後の定着までを一続きで捉える視点
営業プロセスという言葉は、会社によって商談の進め方だけを指すこともあれば、マーケティングから契約更新までを含めることもあります。範囲を決めずに議論を始めると、部署ごとに別のものを見て話すことになります。
営業プロセスと商談プロセス・営業フローの違いは扱う範囲と粒度の2点
3つの言葉の差は、どこからどこまでを扱うかと、どこまで細かく書くかにあります。商談プロセスは初回の面談から受注までに絞った区切りで、営業プロセスはその前のリード獲得と、受注後の導入・継続取引までを含みます。営業フローは、各工程の中で誰が何をするかという作業手順の粒度です。
設計の順番も、この包含関係に沿った組み立てです。先に営業プロセスで工程の境界を決め、その中の商談部分をSFAのフェーズに落とし、最後に工程ごとの作業を営業フローとして手順書にします。逆から始めると、手順書は厚いのに工程間の受け渡しが抜けた状態になります。
リード獲得・商談化・提案・受注・定着の5工程に分ける一般的な区切り方
BtoBの法人営業であれば、次の5工程で区切ると部署の受け持ちと数字の両方を整理できます。工程名は自社の言葉に置き換えて構いませんが、境界の位置は動かさないほうが比較しやすくなります。
| 工程 | 主な担当 | 工程の出口 | 測る数字 |
|---|---|---|---|
| リード獲得 | マーケティング | 連絡先と関心が分かる | リード件数・獲得単価 |
| 商談化 | インサイドセールス | 課題と検討時期を確認 | 商談化率・接触までの日数 |
| 提案 | フィールドセールス | 見積と提案を先方が受領 | 提案率・滞留日数 |
| 受注 | フィールドセールス | 発注書または契約の締結 | 受注率・平均単価 |
| 定着 | カスタマーサクセス | 利用開始と初回の成果確認 | 継続率・追加受注額 |
表の「工程の出口」は、次の章で扱う退出条件の素案になります。担当が1人で全工程を回す会社でも、工程の区切りは同じように置いておくと、後から人を増やしたときに分担の線を引き直さずに済みます。
営業プロセスを可視化して分かること|工程別の転換率と滞留日数でボトルネックを特定
営業プロセスを可視化する目的は、受注件数が足りない理由を「担当者の頑張り」以外の言葉で説明できるようにすることです。見る数字は、工程ごとの件数、転換率、滞留日数の3種類に絞ります。
工程ごとの件数と転換率を並べると失注の発生場所が数字で見える
たとえば月にリード200件、商談化60件、提案30件、受注9件という営業組織があるとします(設例)。転換率は商談化30%、提案50%、受注30%です。受注件数を12件に増やしたいとき、リードを1.3倍に増やす案と、提案から受注への転換率を30%から40%へ上げる案は、同じ結果になります。
どちらが安く済むかは、失注理由の記録で決まります。提案後の失注理由が「価格」に偏っていれば、見積の出し方や提案の相手を見直すほうが、広告費を増やすより早く効きます。転換率を工程ごとに出しておかないと、この比較そのものができません。
平均滞留日数を工程別に測り、日数が伸びた工程から手を入れる順番
件数と転換率が同じでも、案件が各工程に何日とどまっているかで売上の立ち方は変わります。提案から受注までの平均が30日から60日に伸びれば、同じ件数でも四半期の売上は後ろへずれます。
滞留日数は、フェーズが変わった日付をSFAが自動で記録していれば、追加の入力なしで集計できます。実務ではまず、平均日数の2倍を超えて同じフェーズにいる案件を毎週一覧にし、担当者と上長で「進めるか、失注として閉じるか」を決める運用から始めてください。閉じない案件が溜まると、パイプラインの金額だけが膨らみます。
受注見込み額は確度を掛けた加重額で出し、担当者の申告と分けて扱う
売上の見込みは、案件ごとの金額にフェーズの確度を掛けた加重額で合計します。確度60%のフェーズにある300万円の案件は、加重額では180万円という計算です。HubSpotの既定設定では、フェーズごとの確度は20%から90%まで段階的に割り当てられています。
この加重額とは別に、担当者が「今月取れる」と申告した金額を並べて見ると、どちらがずれているかが分かります。加重額の予測と実績の差は、月次で予実管理の進め方と予算管理との違いに沿って振り返り、ずれが続くフェーズの確度を実績の受注率に合わせて直します。
営業プロセスの設計手順|現状の棚卸しから退出条件の定義と運用開始までの流れ
理想の営業プロセスを机上で描くより、直近の案件が実際にどう動いたかを先に調べるほうが、現場に定着する定義になります。手順は棚卸し、退出条件の定義、フェーズ数の決定、部署間の受け渡しの順に進めます。
直近の受注案件と失注案件を各10件たどり、実際に通った工程を書き出す
最初に、直近半年の受注案件10件と失注案件10件を選び、初回接触から結果が出るまでに何が起きたかを時系列で書き出します。使うのは、メールの日付、見積書の版、会議の記録です。担当者の記憶だけに頼ると、うまくいった案件ほど流れが整って語られます。
20件を並べると、受注案件にだけ共通する出来事が見つかります。決裁者との面談が提案の前に入っている、無料の試用を経ている、といった出来事です。これが次の手順で退出条件に組み込む候補になります。
フェーズごとの退出条件は「顧客側で起きた事実」で書き、担当者の感触を除外
退出条件とは、案件がそのフェーズを抜けて次へ進んでよい条件です。「感触が良い」「前向き」のような担当者の評価で書くと、人によって進め方が変わり、転換率の比較が意味を持たなくなります。条件は、第三者が記録を見て確認できる先方の行動で書きます。
- 商談化:先方が課題と検討時期を口頭またはメールで示した
- 要件確認:予算の目安と決裁者の氏名・役職が分かった
- 提案:見積と提案書を送り、先方から質問か修正の依頼が返ってきた
- 条件交渉:先方が社内稟議の日程を示した
- 受注:発注書を受領した、または契約を締結した
条件を書いたら、手順1でたどった20件に当てはめて検算します。受注案件の多くが条件を満たさずに次へ進んでいたなら、条件が厳しすぎるので書き直してください。
商談のフェーズは進行中5段階前後に絞り、成約と失注は必ず別に持つ
フェーズの数を増やすほど、担当者は更新を後回しにします。進行中の段階は5つ前後にとどめ、終点として「成約」と「失注」を別々に用意してください。HubSpotのヘルプも、パイプラインには成約と失注の両方のステージを含めるよう注意しています。終点が1つしかないと、失注した案件がいつまでも進行中に残ります。
フェーズの定義を日々の入力でどう守らせるかは、SFAの使い方と運用設計(入力が続く仕組みとデータで営業判断する手順)で、必須項目の数や入力のタイミングと合わせて扱っています。
インサイドセールスと外勤の受け渡し条件は工程の境界に1つだけ置く
分業している営業組織では、案件を渡す条件が曖昧なことが転換率の低下につながりやすくなります。インサイドセールスは件数を、外勤は受注率を評価されるため、渡す側は早く渡したく、受ける側は確度の高い案件だけを欲しがるからです。
受け渡しの条件は、商談化と要件確認の境界に1つだけ置き、双方が合意した文言でSFAの項目にします。差し戻すときは理由を選択式で残すと、条件の見直しに使えます。分業の組み立て方そのものはインサイドセールスの意味とフィールドセールスとの違い・導入手順を参照してください。
SFAのパイプラインで営業プロセスを運用する設定|HubSpotとSalesforceの例
退出条件を文書にしただけでは、忙しい時期に守られなくなります。SFAのパイプラインに設定し、条件を満たさない案件が先へ進めない状態にしておくと、定義が運用の中で保たれます。ここで確認するのは、代表的な2製品の具体的な設定項目です。
HubSpotの取引パイプラインは既定7ステージと確度を自社の条件で置き換える
HubSpotの取引には、既定で7つのステージと確度が用意されています。HubSpotのナレッジベース「オブジェクトパイプラインのセットアップと管理」(2026年9月29日更新)によると、既定値は次のとおりです。
| 既定ステージ | 確度 | 自社で置き換える退出条件の例 |
|---|---|---|
| 予定されているアポイントメント | 20% | 課題と検討時期を確認 |
| 購入見込みあり | 40% | 予算目安と決裁者が判明 |
| 予定されているプレゼンテーション | 60% | 提案への質問・修正依頼あり |
| 意思決定者の賛同 | 80% | 稟議の日程が判明 |
| 契約書送付済み | 90% | 契約書を送付 |
| 成約/失注 | 100%/0% | 発注書受領/失注理由を記録 |
同じ記事によれば、既定とは別にカスタムパイプラインを作れる数は、無料ツールで0件、Starterで15件、Professionalで100件(フレキシブル・シート型の契約では350件)、Enterpriseで350件です。新規と既存顧客で工程が違う会社でも、無料ツールでは既定パイプライン1本の中で区別することになります。
ステージ移動時の必須項目とスキップ制限で、入力漏れを仕組みで止める設定
HubSpotでは、ステージごとに入力を求めるプロパティーを指定し、「必須」にすると値が入るまで取引を作成・更新できなくなります。退出条件の「決裁者の氏名」をこの必須項目にすれば、条件を満たさない案件は次のステージへ動かせません。設定には「プロパティー設定の編集」権限が要ります。
パイプラインのルールを説明したHubSpotのナレッジベース(2026年9月15日更新)では、ステージのスキップ制限、前のステージへの後戻り制限、作成できるステージの限定を設定できます。成約・失注へのスキップは制限中も可能で、承認プロセス以外のルールはスーパー管理者やワークフローなどの更新では迂回できます。データ移行や自動処理を組むときは、この迂回経路で定義外の動きが起きないかを確かめてください。
Salesforceの商談はフェーズから確度が自動で入り、手動変更の扱いを決める
Salesforceでは、商談のフェーズを選ぶと確度が自動で設定されます。Salesforce公式の学習コンテンツTrailhead「商談での作業」は、確度が実態と合わない場合は手動で変更できること、フェーズは企業ごとに異なることを説明しています。
運用上の論点は、手動変更を許すかどうかです。担当者が確度を自由に上書きできると、加重額の予測が申告ベースに戻ってしまうためです。確度はフェーズに連動させて固定し、担当者の見立ては別の項目に入れてもらう設計にすると、前の章で触れた加重額と申告額の比較が成り立ちます。担当交代のときにフェーズと活動履歴がそのまま後任の判断材料になる点は、営業の引継ぎを顧客と商談履歴の記録で進める方法でも扱っています。
営業プロセスを作り込むべき組織と見送る組織|商談件数と担当者数で決める判断基準
ここまでの設計は、すべての会社に必要なわけではありません。工数をかける価値があるかは、商談の件数と担当者の人数でおおむね決まります。以下は、これまでの論点を踏まえた当社の判断基準です。
新規商談が月30件超で担当者3人以上なら、工程定義とSFA設定に投資する
月の新規商談が30件を超えると、上長が全案件の状況を会議で聞き取るのは難しくなります。担当者が3人以上いる場合は、同じフェーズ名でも人ごとに解釈のずれが生じやすい状況です。この2つがそろった組織では、退出条件を定義してSFAに設定する作業が、毎週の案件確認の時間を減らす形で回収できます。
分業体制を敷いている、または今後1年以内に敷く予定がある場合も、作り込む側に入ります。受け渡しの条件がない分業は、件数の取り合いで終わるからです。
担当1〜2人で商談が月10件未満なら、表計算の案件一覧で足り作り込みは過剰
担当者が1〜2人で商談が月10件に満たない会社では、SFAのフェーズ設定や必須項目の設計は過剰です。案件ごとに次の行動と期日を書いた表計算の一覧と、週1回の見直しで、ほぼ同じ効果が得られます。
ただし、失注理由の列だけは最初から作っておいてください。件数が増えてSFAへ移るとき、過去の失注理由が残っていれば、退出条件を最初から実績に基づいて書けます。
工程を細かく刻みすぎてステージ更新が止まる失敗と、立て直すときの削り方
よくある失敗は、営業フローの作業単位をそのままフェーズにしてしまうことです。「資料送付」「日程調整」「初回訪問」まで別ステージにすると、10段階を超えるパイプラインになり、担当者は複数のステージを一度に飛ばして更新するようになります。そうなると滞留日数も転換率も測れません。
立て直すときは、先方の行動が変わる境目だけを残し、自社側の作業は活動履歴やToDoへ移します。削った後のフェーズで直近の案件を数件たどり直し、抜けが出ないかを確かめてから切り替えます。
パイプライン設計と他システム連携は外部に切り出し、運用ルールは社内で持つ
外部の支援を使う場合、切り出しやすいのはパイプラインの設計、必須項目とルールの設定、MAや基幹システムとのデータ連携です。退出条件の文言と、差し戻しの判断は社内の営業責任者が持つべき部分で、外部に任せると現場が使わない定義になります。
HubSpotを使う場合の移行と立ち上げの段取りはHubSpot導入の進め方(既存CRM・名刺データの移行設計とオンボーディング)にまとめています。退出条件の整理からパイプラインの設定、他システムとの連携までをまとめて相談したい場合は、一創のHubSpot導入支援サービスで対応しています。
よくある質問
営業プロセスの設計や可視化について、検討段階でよく出る質問に答えます。
営業プロセスと営業フローは何が違うのですか?
営業プロセスは、リード獲得から受注後の定着までを工程に区切った全体の流れです。営業フローは、その各工程の中で誰が何をするかを書いた作業手順を指します。営業プロセスで工程の境界と出口を決め、営業フローで工程内の作業を決める、という上下の関係で捉えると混乱しません。SFAに設定するのは主に営業プロセス側で、営業フローは手順書やToDoとして持つのが一般的です。
営業プロセスの見える化はExcelでもできますか?
できます。案件ごとに現在のフェーズ、フェーズが変わった日付、金額、失注理由の列を持てば、件数・転換率・滞留日数は集計できます。限界が来るのは、担当者が3人を超えて同じファイルを同時に更新するときや、フェーズ変更の日付を手で入れ忘れるようになったときです。その段階で、変更日を自動で記録できるSFAへ移ることを検討してください。
商談のフェーズはいくつに分けるのが適切ですか?
進行中のフェーズは5つ前後を目安にし、終点として成約と失注を別に持つ形が扱いやすい構成です。HubSpotの既定パイプラインも、進行中5つと成約・失注の計7ステージで構成されています。これより増やす場合は、追加するフェーズの出口が先方の行動で定義できるかを確かめてください。自社側の作業で区切ったフェーズは、更新が止まる原因になります。
受注確度は何%に設定すればよいですか?
導入時は製品の既定値(HubSpotなら20%から90%の段階)から始めて構いません。3か月から半年分の実績がたまったら、各フェーズに入った案件のうち最終的に受注した割合を計算し、その値に置き換えます。確度を担当者の感覚で決めると加重額の予測が当たらなくなるので、フェーズに連動した値として管理し、個別の見立ては別の項目で持つのが安全です。
営業プロセスはどのくらいの頻度で見直すべきですか?
退出条件と確度の見直しは四半期に1回が目安です。ただし、主力商材の変更、価格改定、分業体制の導入があったときは、その時点で見直します。毎月の会議では定義そのものは変えず、工程別の転換率と滞留日数の変化を確認するにとどめると、数字の比較が途切れません。定義を変えたときは変更日を記録し、変更前後の数字を分けて扱ってください。
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