ブロックチェーンのレイヤー2(L2)は、イーサリアムやビットコインのような基盤チェーン(L1)の外で取引を処理し、結果や証拠をL1に書き戻すことで処理量を増やす仕組みです。2026年のイーサリアムでは、ArbitrumやBase、OP Mainnetといったロールアップが主な実行の場になっています。この記事では、スケーラビリティ問題の原因から、L1とL2の違い、オプティミスティック・ロールアップとZKロールアップの仕組み、サイドチェーンやライトニングネットワークとの違いまでを整理します。そのうえで、L2の手数料がどう決まるかを公開RPCの実測値で示し、L2ごとの成熟度をL2BEATの「Stage」で見分ける方法と、その読み方の注意点を解説します。数値は2026年10月時点の公式ドキュメントと実測に基づきます。
まとめ:レイヤー2とロールアップの要点
- L2は「L1のセキュリティを借りて処理だけ外に出す」方式:ロールアップは取引データをL1に公開し、状態の正しさを不正証明か有効性証明でL1上で検証する。運営者が止まっても利用者がL1から出金できるかは、強制取り込みの経路やアップグレード権限など個々の実装で決まる。L1に安全性を依存しないサイドチェーンはL2と区別される。
- ロールアップは2種類:オプティミスティック・ロールアップは「正しいと仮定して、異議があれば不正証明で覆す」ため、L1への出金に約7日の待ち時間がある。ZKロールアップは有効性証明をL1で検証するので、証明が通れば待ち時間なしで確定する。
- L2の手数料は主に2つの要素から成る:L2での実行手数料と、取引データをL1に公開するためのL1データ手数料。OP Stack系ではこれにオペレーター手数料が加わり得る(実測時点のBase・OP Mainnetでは0)。2024年3月のEIP-4844でデータの置き場所がblobに移り、L1データ手数料は大きく下がった。
- 「ロールアップ」を名乗っていても成熟度は同じではない:不正証明が動いているか、運営者がコントラクトを即時に書き換えられないかで差が出る。L2BEATのStage 0/1/2で確認できるが、Stageは分散化の度合いでありバグの有無までは評価しない。
- L2を選ばない方がよい場面もある:高額の資産を長期で置く、L1の他のコントラクトと同じブロック内で連携する、といった用途はL1が向く。
ブロックチェーンのスケーラビリティ問題:取引が詰まる理由
スケーラビリティ問題とは、利用者が増えたときに処理が追いつかず、取引の遅延と手数料の高騰が起きる問題です。原因は、全ノードがすべての取引を検証する設計そのものにあります。1ブロックに入る取引量に上限を設けないと、性能の低いノードが検証についていけなくなり、分散性が失われます。
ビットコインのブロックは約10分に1回で、1ブロックの上限は重み(weight)で400万単位です。イーサリアムは12秒ごとにブロックが作られ、1ブロックで使えるガスの上限は2026年10月時点で約6,000万です(イーサリアムの公開RPCで最新ブロックの gasLimit を読むと60,000,000前後の値が返ります)。上限を超える取引が来ると、利用者は手数料を上乗せして順番を奪い合うため、混雑時には手数料が急騰します。
この上限をどこまで上げるかは、ビットコインで2015年から2017年にかけて「ブロックサイズ論争」と呼ばれる開発論争になりました。ブロックサイズの拡大を求める側は2017年8月1日にビットコインキャッシュとして分岐し、ビットコイン側は2017年8月24日のブロック481,824でSegWitを有効化して、署名データを重みの計算で割り引く形を選びました。L1の上限を大きく上げずに、処理を外に出す方向へ進んだことが、ライトニングネットワークやイーサリアムのロールアップにつながっています。
L1とL2の違い:スケーリングの対象と安全性の出どころ
L1のスケーリングはチェーンそのものの上限やルールを変える方法で、L2はチェーンの外に処理を出す方法です。両者の違いを、変更の手続きと安全性の出どころで比べると次のようになります。
| 観点 | L1のスケーリング | L2 |
|---|---|---|
| 手を入れる場所 | ブロックの上限・合意形成 | L1の外の別ネットワーク |
| 代表例 | 上限の引き上げ・シャーディング・blob | ロールアップ・ライトニング |
| 変更の手続き | ハードフォーク、またはガス上限のようにバリデーターの設定で調整 | L2側のリリースとL1上のコントラクト |
| 安全性の出どころ | L1の合意形成 | L1に置いたデータと証明 |
| 主なリスク | ノード要件の上昇 | ブリッジ・シーケンサー・アップグレード権限 |
L1側の改善:シャーディングからblobへの方針転換
イーサリアムはかつて、チェーンを64本のシャードに分割して並列に処理する計画を持っていました。2020年10月2日にヴィタリック・ブテリン氏が「A rollup-centric ethereum roadmap」を公表して方針が変わり、L1は実行を分割せず、ロールアップが置くデータの置き場所を広げる役に回りました。その最初の段階が2024年3月13日のDencunアップグレードで導入されたEIP-4844(proto-danksharding)です。EIP-4844は、ロールアップのデータを置く専用の領域「blob」を追加しました。blobは1個131,072バイト(約128KB)で、通常のガスとは別のblob用の手数料で取引されます。ノードがblobを提供しなければならない最低期間は4,096エポック(約18日)で、ロールアップに必要なのは「データが公開されたこと」を確かめられることなので、永久保存しない代わりに安く提供できます。
その後、1ブロックに入るblobの数は段階的に引き上げられています。
| アップグレード | メインネット有効化 | blobの目標/上限(1ブロック) | 主な変更 |
|---|---|---|---|
| Dencun | 2024年3月13日 | 3/6 | EIP-4844でblobを導入 |
| Pectra | 2025年5月7日 | 6/9 | EIP-7691でblob数を増加 |
| Fusaka | 2025年12月3日 | 6/9 | EIP-7594 PeerDAS |
| BPO1 | 2025年12月9日 | 10/15 | blob数だけを変更 |
| BPO2 | 2026年1月7日 | 14/21 | blob数だけを変更 |
Fusakaで入ったPeerDASは、ノードがblob全体ではなく一部だけをダウンロードし、データが公開されたことを標本調査で確かめる仕組みです(data availability sampling)。各ノードがダウンロードするデータ量の増加を抑えながらblobの数を増やせるようになったので、その後のBPO(Blob Parameter Only)と呼ばれる小さなアップグレードでblob数だけを引き上げています。通常のガス上限も、2025年2月に3,000万から3,600万、その後4,500万へ上がり、Fusakaの有効化に合わせてクライアントの既定値が6,000万になりました。ガス上限はハードフォークではなく、ブロックを作るバリデーターの設定で少しずつ動く値です。
ロールアップの仕組み:シーケンサー・データ公開・正しさの証明
ロールアップでは、利用者の取引をシーケンサーと呼ばれるノードが受け取って順番を決め、L2のブロックを作ります。シーケンサーは複数の取引をまとめて圧縮し、L1に公開します。L1上のロールアップ用コントラクトはL2の状態を表す値(状態ルート)を記録し、その値が正しいことを、不正証明か有効性証明のどちらかで担保します。
ロールアップの安全性を支えるのは、取引データがL1に残ることです。シーケンサーが停止したり不正をはたらいたりしても、L1に公開されたデータからL2の状態を誰でも再構成できます。ただし、再構成できることと利用者が実際に出金を完了できることは別で、後者にはL1から取引を強制的に取り込む経路や、状態を提案する役を誰でも引き継げる仕組みが必要です。有効性証明を使いながら取引データをL1以外(データ可用性委員会など)に置く方式はバリディウムと呼ばれ、ロールアップより安い代わりに、そのデータ保管の仕組みを信頼する必要があります。
オプティミスティック・ロールアップ:不正証明と出金の待ち時間
オプティミスティック・ロールアップは、提出された状態ルートを「正しい」とみなし、一定期間内に誰かが異議を申し立てたときだけ、L1上で不正証明(fault proof)を実行して判定します。異議を待つ期間があるため、L2からL1へ資産を戻す出金には待ち時間がかかります。Arbitrum Oneでは、BoLD(Bounded Liquidity Delay)と呼ばれる不正証明の仕組みのもとで異議申し立て期間が6.4日です。OP Mainnetは、誰でも不正証明に参加できるpermissionless fault proofsを2024年6月10日に稼働させ、出金の確定までに7日の待ち時間を置いています。
実務上の影響は、L2からL1へ戻すときに数日待つことです。取引所や他チェーンへ急いで移したい場合は、流動性提供者が手数料を取って先に払い出すサードパーティーのブリッジを使うことになり、その分だけ相手方のリスクが増えます。USDCのように発行元がチェーン間の移動手段を用意している資産もあり、その仕組みはUSDC Bridge(CCTP)とは|クロスチェーン送金の仕組み・手数料・安全性と使い方で解説しています。
ZKロールアップ:有効性証明の検証で確定
ZKロールアップは、L2で実行した取引の結果が正しいことを示す有効性証明(validity proof)を作り、L1のコントラクトで検証します。証明がL1で検証された時点で状態が確定するので、オプティミスティック型のような異議申し立ての待ち時間がありません。代わりに、証明を作る計算が重く、EVMと完全に同じ動作を証明するのは難しいという制約があります。代表例はZKsync Era、Starknet、Linea、Scrollです。一方、Polygon zkEVM Mainnet Betaは2025年6月11日に2026年中の廃止が発表され、2026年7月3日にシーケンサーが停止しました(外部所有アカウント向けの資産請求画面は2027年12月31日まで提供)。古い解説でZKロールアップの代表例に挙がっていても、新規に使う選択肢ではありません。
証明に使うzk-SNARKやzk-STARKの仕組み、実際に証明を作って検証する手順はゼロ知識証明(ZKP)とは?仕組みとzk-SNARKを実際に動かして解説で扱っています。
ロールアップ以外の方式:ライトニング・サイドチェーン・プラズマ
「レイヤー2」はロールアップだけを指す言葉ではありません。ただし、L1のセキュリティを引き継ぐかどうかで性質が大きく分かれます。
| 方式 | 代表例 | データの置き場所 | L1の安全性を引き継ぐか |
|---|---|---|---|
| ロールアップ | Arbitrum One・Base・zkSync Era | L1 | 引き継ぐ |
| ステートチャネル | ライトニングネットワーク | 当事者間 | 引き継ぐ(監視が必要) |
| プラズマ | 主要な稼働例なし | 運営者 | 出金時のみ |
| バリディウム | Sophon・Lens | データ委員会 | 一部 |
| サイドチェーン | Polygon PoS | 独自チェーン | 引き継がない |
ライトニングネットワーク:ビットコインのステートチャネル
ライトニングネットワークは、2者がビットコインをマルチシグのアドレスに預けて支払いチャネルを開き、チャネルの中で残高の更新を何度でもオフチェーンでやり取りする仕組みです。L1に記録されるのはチャネルを開くときと閉じるときだけです。チャネル同士をつないで経路を作れば、直接チャネルを持たない相手にも支払えます。プロトコルの仕様はBOLT(Basis of Lightning Technology)として公開されています。
mempool.spaceの統計では、2026年8月30日時点で公開チャネル32,511本、公開ノード16,230、総容量は約3,754BTCでした。少額の即時決済には向きますが、受け取る側がオンラインでいる必要があること、チャネルの受け取り容量を事前に確保する必要があることが制約です。L1とオフチェーンの使い分けそのものはオンチェーンとは?オフチェーンとの違い・仕組み・使い分けをわかりやすく解説で整理しています。
サイドチェーンとプラズマ:安全性とデータの置き場所の違い
サイドチェーンは、独自のバリデーターと合意形成を持つ別のブロックチェーンを、ブリッジでL1とつないだものです。手数料は安いものの、安全性はサイドチェーン自身のバリデーターに依存し、L1は何も保証しません。ethereum.orgもサイドチェーンをL2とは区別しています。「ポリゴンチェーン」と呼ばれることの多いPolygon PoSは、Polygon自身が公式ブログでサイドチェーンと呼んでおり、イーサリアムのロールアップではありません。
プラズマは、ジョセフ・プーン氏とヴィタリック・ブテリン氏による2017年8月11日付の論文で提案された、子チェーンの状態のハッシュだけをL1に置く方式です。取引データを運営者が持つため、運営者がデータを隠したときに全員が一斉にL1へ退出する「マス・エグジット」が必要になり、汎用のスマートコントラクトにも対応しにくいことから、データをL1に置くロールアップに主役を譲りました。ethereum.orgの解説も、ロールアップは運営者に取引データをイーサリアムへ投稿させることでこの問題を解いた、と位置づけています。
L2の手数料の内訳:実行手数料とL1データ手数料の実測
L2の手数料は、主に「L2での実行手数料」と「L1データ手数料」から成ります。Baseの公式ドキュメントは、すべてのトランザクションがL2(実行)手数料とL1(セキュリティ)手数料の2つで構成されると説明しています。L1データ手数料は、シーケンサーが取引データをイーサリアムに公開する費用を利用者が負担する分です。OP Stack系のチェーンでは、OP Mainnetで2025年5月9日に有効化されたIsthmusアップグレードで、チェーンの運営者が設定するオペレーター手数料の項目も加わりました。
OP Stack系のチェーン(OP Mainnet・Base等)では、L1データ手数料の見積もりをL2上の GasPriceOracle コントラクト(アドレス 0x420000000000000000000000000000000000000F)から読めます。未署名のシリアライズ済みトランザクションを渡す getL1Fee は呼び出し時点のL1データ手数料を、未署名トランザクションのバイト長だけを渡す getL1FeeUpperBound は上限の見積もりを返します。オペレーター手数料は getOperatorFee に使用ガス量を渡して読めます。次のスクリプトは、依存パッケージなしのNode.jsで、イーサリアムL1の基本料金とblobの基本料金、BaseとOP Mainnetの手数料の各要素を公開RPCから読み出します。
// fee.mjs : L1・L2の手数料要素を公開RPCから読む(Node.js 18以降・依存なし)
const RPC = {
ethereum: "https://ethereum-rpc.publicnode.com",
base: "https://mainnet.base.org",
optimism: "https://mainnet.optimism.io",
};
const ORACLE = "0x420000000000000000000000000000000000000F"; // OP StackのGasPriceOracle
const GET_L1_FEE_UPPER_BOUND = "0xf1c7a58b"; // getL1FeeUpperBound(uint256 _unsignedTxSize)
const GET_OPERATOR_FEE = "0x275aedd2"; // getOperatorFee(uint256 gasUsed)(Isthmus以降)
async function rpc(url, method, params = []) {
const res = await fetch(url, {
method: "POST",
headers: { "content-type": "application/json" },
body: JSON.stringify({ jsonrpc: "2.0", id: 1, method, params }),
});
const j = await res.json();
if (j.error) throw new Error(`${method}: ${j.error.message}`);
return j.result;
}
const u256 = (n) => BigInt(n).toString(16).padStart(64, "0");
const call = (url, sel, n) => rpc(url, "eth_call", [{ to: ORACLE, data: sel + u256(n) }, "latest"]);
const gwei = (hex) => Number(BigInt(hex)) / 1e9;
const eth = (wei) => Number(wei) / 1e18;
const GAS = 21000n; // 単純送金の実行ガス
const l1 = await rpc(RPC.ethereum, "eth_getBlockByNumber", ["latest", false]);
const blob = await rpc(RPC.ethereum, "eth_blobBaseFee");
const l1Price = BigInt(await rpc(RPC.ethereum, "eth_gasPrice")); // L2側と同じく推奨ガス価格で比べる
console.log(`L1 block ${BigInt(l1.number)} baseFee=${gwei(l1.baseFeePerGas).toFixed(4)} gwei blobBaseFee=${gwei(blob).toFixed(6)} gwei gasLimit=${BigInt(l1.gasLimit)}`);
console.log(`L1 単純送金=${eth(l1Price * GAS)} ETH`);
const unsignedTxSize = 200; // 未署名トランザクションのバイト長(単純送金を約200バイトと仮定した値)
for (const name of ["base", "optimism"]) {
const exec = BigInt(await rpc(RPC[name], "eth_gasPrice")) * GAS;
const l1Fee = BigInt(await call(RPC[name], GET_L1_FEE_UPPER_BOUND, unsignedTxSize));
const opFee = BigInt(await call(RPC[name], GET_OPERATOR_FEE, GAS));
console.log(`${name} 実行=${eth(exec)} ETH L1データ(上限)=${eth(l1Fee)} ETH オペレーター=${eth(opFee)} ETH 合計=${eth(exec + l1Fee + opFee)} ETH`);
}
2026年10月2日18時20分(日本時間)にNode.js v26.5.0で実行した結果は次のとおりです。L1・L2とも、各RPCの eth_gasPrice(優先手数料を含む推奨ガス価格)に単純送金の21,000ガスを掛けています。L2のL1データ手数料は上限見積もりなので、実際の支払額はこれより小さくなり得ます。
L1 block 26103705 baseFee=0.1090 gwei blobBaseFee=0.006272 gwei gasLimit=59999943
L1 単純送金=0.000002289926835 ETH
base 実行=1.26e-7 ETH L1データ(上限)=2.096999424e-9 ETH オペレーター=0 ETH 合計=1.28096999424e-7 ETH
optimism 実行=2.110185e-8 ETH L1データ(上限)=2.963396076e-9 ETH オペレーター=0 ETH 合計=2.4065246076e-8 ETH
| チェーン | 単純送金の手数料(ETH) | うちL1データ手数料 | L1との比 |
|---|---|---|---|
| イーサリアムL1 | 0.00000229 | - | 1 |
| Base | 0.000000128 | 約1.6% | 約18分の1 |
| OP Mainnet | 0.0000000241 | 約12% | 約95分の1 |
この1回の測定から読み取れることは2つあります。1つ目は、この時点のBaseとOP Mainnetでは、L1データ手数料(上限見積もり)が合計の約1.6%と約12%にとどまり、手数料の大半がL2での実行手数料だったことです。EIP-4844以前は取引データをL1の通常のcalldataとして書き込んでいたため、L1データ手数料が手数料の大半を占めるのが普通でした。2つ目は、L1の基本料金も約0.11gweiと低い水準にあり、この時点のL1とL2の差は約18〜95倍だったことです。L1の混雑やblobの需要で数値は大きく動くので、自分の取引で見積もるときは、getL1Fee に未署名のシリアライズ済みトランザクションを渡して、その時点の値を取ってください。なお、Arbitrumは同じ仕組みを持たず、L1分の見積もりは NodeInterface の gasEstimateL1Component で取得します。
L2の成熟度の見分け方:L2BEATのStageと読み方の注意
「ロールアップ」を名乗るL2でも、不正証明がまだ動いていない、運営者がコントラクトを予告なしにアップグレードできる、といった段階のものがあります。この成熟度を比べる物差しとして広く参照されているのが、L2の監視サイトL2BEATが定めたStageの枠組みです。ただしL2BEAT自身が、Stageは分散化の観点での成熟度であってセキュリティの評価ではないと明記しています。バグがない前提であれば、権限を持つ主体に対する安全性の目安として読める、という位置づけです。
L2BEATの定義では、Stage 0は少数の主体が全面的に制御している段階、Stage 2はコードが全面的に制御している段階、Stage 1はその中間です。主要なL2の評価は、2026年10月2日時点で次のとおりでした(L2BEATの各プロジェクトページとscalingサマリーAPIで確認)。
| L2 | 種別 | Stage |
|---|---|---|
| Arbitrum One | オプティミスティック | Stage 1 |
| OP Mainnet | オプティミスティック | Stage 1 |
| Base Chain | オプティミスティック | Stage 1 |
| Unichain | オプティミスティック | Stage 1 |
| Starknet | ZK | Stage 1 |
| ZKsync Era | ZK | Stage 0 |
| Linea | ZK | Stage 0 |
| Scroll | ZK | Stage 0 |
同じAPIでStage 2と評価されていたのはAztec Network、Facetなど4件で、表に挙げた主要L2はいずれもStage 1以下です。ZKロールアップだから安全、オプティミスティックだから危険、という単純な関係にはなっていない点に注意してください。
開発者として確認したいのは、Stageの数字そのものより、その理由に書かれた項目です。L2BEATの各プロジェクトのページには、シーケンサーが止まったり取引を検閲したりしたときにL1から取引を取り込めるか、アップグレードの前に利用者が退出できる猶予期間があるか、状態の提案者がいなくなったときに誰が代われるか、が個別に記載されています。ユーザー資産を預かるアプリをL2に載せるなら、これらを自社の要件と照らし合わせてからチェーンを選ぶべきです。
レイヤー3とSuperchain:L2の上に重ねる構成
レイヤー3(L3)は、L2を決済の基盤として使う、さらに上のチェーンです。L2の上で特定のゲームやアプリ専用のチェーンを動かし、そのデータや証明をL2に置きます。Arbitrumは、Arbitrum Oneなどを親チェーンとして決済するL3を作る手順を公式ドキュメントで公開しています。
似た言葉で混同しやすいのが、ZKsyncのElastic Network(ZKsync Network)とOptimismのSuperchainです。前者はZK Stackで作ったロールアップやバリディウムを相互接続したネットワーク、後者は共通のOP Stackのコードで作られ、セキュリティとガバナンスを共有するチェーンのネットワークです。どちらも「どのネットワークに属するか」の話で、「どのチェーンに決済するか」という階層の話とは別の軸です。OptimismはOP Stackで作ったL3もSuperchainに参加できると説明しており、L3がSuperchainの一員になることもあります。
L3は手数料をさらに下げたり、ガス代として独自トークンを使ったりできる一方で、ブリッジが二段になり、出金や障害時の復旧手順が複雑になります。一般向けの決済やDeFiでL3から始める理由は薄く、トランザクションが大量に発生する専用アプリで、L2の手数料でも賄えない場合に検討する構成です。
L2を選ぶべきでない場面と開発時の注意点
L2は万能ではありません。次の条件に当てはまる場合は、L1を使うか、L2に置く範囲を絞る方が安全です。
- 高額の資産を長期で置く:Stage 0のチェーンでは、運営者の鍵が漏えいするとコントラクトを書き換えられるおそれがある。Stage 1でもセキュリティカウンシルによる緊急アップグレードは可能で、通常の退出猶予がすべての変更に適用されるわけではない。保管用途はL1を基本とし、L2に置くならStageに加えて緊急権限の範囲と監査の状況まで確認する。
- L1の他のコントラクトと同じトランザクションで連携する:L2とL1の間のメッセージは非同期で、オプティミスティック型ではL1側への反映に出金と同じ待ち時間がかかる。L1のDeFiと同一ブロックで組み合わせる処理はL2に移せない。
- シーケンサー停止の影響を受け入れられない:多くのL2はシーケンサーが1つで、停止するとL2上の取引が止まる。L1から強制的に取り込む経路があるチェーンでも、反映まで時間がかかる。清算処理などの時間に敏感な処理では、停止時の挙動を設計に織り込む。
開発の手順そのものは、EVM互換のL2ならL1とほぼ同じです。HardhatやFoundryの設定でRPCのURLとチェーンIDを差し替えればデプロイでき、チェーンIDはBaseが8453、OP Mainnetが10、Arbitrum Oneが42161です(各公開RPCの eth_chainId で確認)。違いが出るのは手数料の見積もりで、L1データ手数料を含めずに残高チェックをすると送金が失敗します。開発環境の作り方とデプロイの流れはSolidity入門|開発環境の選び方・基本構文・Sepoliaデプロイまで【2026年版】とHardhatの基本概要とEthereum開発環境として選ばれる理由を参照してください。ウォレットにL2のネットワークを追加する方法はMetaMask(メタマスク)とは?仕組み・使い方・安全性を実務目線で解説で扱っています。
よくある質問
レイヤー1とレイヤー2の違いは何ですか?
レイヤー1はイーサリアムやビットコインそのもので、取引の最終的な記録と安全性を担います。レイヤー2はL1の外で取引を処理し、データや証明をL1に置くことでL1の安全性を借りるネットワークです。L1の処理量を増やすにはハードフォークやバリデーターによる上限の調整が必要ですが、L2はL1のルールを変えずに処理量を増やせます。
サイドチェーンとレイヤー2の違いは何ですか?
安全性をL1から得るかどうかです。ロールアップは取引データをL1に公開し、状態の正しさをL1上の証明で検証する設計です。ただし、運営者が即時にコントラクトを書き換えられる段階のロールアップもあるため、個々のチェーンの保証はL2BEATの評価などで確かめる必要があります。サイドチェーンは独自のバリデーターが合意を作るので、そのバリデーターが不正をすればL1は資産を守れません。
ZKロールアップとオプティミスティック・ロールアップはどちらが良いですか?
出金の速さを重視するならZKロールアップ、EVMとの互換性と実績を重視するならオプティミスティック・ロールアップが選ばれてきました。ただし成熟度は方式よりも、証明システムが動いているか、アップグレード権限がどう制限されているかで決まります。L2BEATのStageと各項目の説明で比べてください。
レイヤー2から出金するのに時間がかかるのはなぜですか?
オプティミスティック・ロールアップは、提出された結果に異議を申し立てる期間を設けているためです。この期間が過ぎるまで、L1側は結果を確定させません。ZKロールアップは証明がL1で検証されれば確定しますが、証明を生成してL1に提出するまでの時間は待つことになります。
イーサリアムのレイヤー2の手数料はなぜ安いのですか?
多数の取引をまとめて圧縮し、L1にはまとめたデータだけを公開するため、1件あたりのL1費用が小さくなります。2024年3月のEIP-4844以降は、データを通常のcalldataより安いblobに置けるようになり、L1データ手数料がさらに下がりました。