「Base Azul」アップグレード全体像とメインネット活性化の位置付け
目次
「Base Azul」アップグレード全体像とメインネット活性化の位置付け
Base Azulは、Coinbaseがインキュベートしたイーサリアム・レイヤー2ネットワーク「Base」における最初の独立ネットワークアップグレードです。2026年5月13日にメインネット活性化が予定されており、セキュリティ・性能・開発者体験の3領域にまたがる大規模な変更が同時に行われます。本章では、読者が最低限押さえておくべき全体像と、このアップグレードが持つ戦略的な位置付けを整理します。
2026年5月13日メインネット活性化予定と現在のテストネット稼働状況
Base Azulのメインネット活性化日は、2026年5月13日18:00 UTC(Unixタイムスタンプ1778695200)に設定されています。Base Engineering Blogの公式発表および公式仕様ページによれば、アップグレードは先行してSepoliaテストネットで2026年4月20日18:00 UTCに稼働済みであり、多重証明システムと新クライアントの双方が、実ネットワーク環境で検証できる状態になっています。この段階で外部の研究者や監査者が挙動を確認できる点は、大規模アップグレードの信頼性を高める重要な要素です。
テストネット期間は、コード最終確認とノード運用者の移行準備に充てられる重要な時間帯にあたります。開発者やセキュリティ研究者は、この間に新アーキテクチャの挙動を本番環境に近い条件で検証できます。並行してImmunefiプラットフォームで監査コンペも走り、メインネット活性化前に可能な限り脆弱性を洗い出す体制が敷かれました。活性化以降は、一般ユーザーが特別な操作を行わなくても、Baseネットワーク全体が新アーキテクチャで稼働を始めます。読者の立場としては、5月13日以降に利用するdAppsやウォレットが、同じ操作感のまま高速かつ安全なネットワーク上で動作する形に変化するという理解で差し支えありません。
Base初の独立アップグレードとしてのAzulの戦略的な意義
Base Azulが「最初の独立ネットワークアップグレード」と位置付けられる点は、技術的にも戦略的にも重要な意味を持ちます。これまでBaseは、主にOptimismのOP Stackを基盤として運用されてきました。Azulは、Baseチームがスタック全体をエンドツーエンドでコントロールできる体制に移行したうえで設計・実装された、初めてのメジャーアップグレードにあたります。この変化は、単なる技術的な更新ではなく、プロジェクト運営の自律性を示す象徴的なマイルストーンです。
独立性の確立により、Baseは他のL2プロジェクトのスケジュールに依存せず、自ネットワークの優先課題に合わせて機能追加を進められるようになりました。Azulに続く6月末・8月末のアップグレード計画も公開されており、継続的かつ予測可能なリリース体制への移行が明示されています。また、6月末には性能特化型の機能群、8月末にはUX特化のネイティブアカウント抽象化という方向性が示され、中長期的な開発方針が透明化されました。結果として、開発者はより安定したロードマップのもとでBase向けの実装を計画できる環境を得ることになります。
セキュリティ・性能・開発者体験の3領域にまたがる変更範囲の全体像
Azulは、単一の機能追加ではなく、3つの独立した改善領域を同時に前進させる複合アップグレードです。1つ目はセキュリティと分散化で、マルチプルーフ導入によってStage 2分散化への道筋をつけます。2つ目は性能で、クライアントスタックの統合と高性能化によって、1ギガガス毎秒を目指したスループット向上の基盤が整います。これらは互いに切り離された改善ではなく、設計レベルで連動させる形で実装されました。
3つ目は開発者体験であり、Ethereumの最新実行層仕様であるOsakaへの整合が図られました。具体的には、トランザクションガス上限の導入、新しいCLZオペコードの追加、MODEXP関連のガスコスト調整、secp256r1プリコンパイルの料金改定、Flashblocksペイロードの軽量化など、複数のEIPベースの変更が含まれています。この3領域は独立しつつも相互補完的に設計されており、例えばクライアント統合はセキュリティ面の検証コストを下げる効果も持ちます。結果として、利用者・開発者・ノード運用者という異なる立場の関係者に、それぞれ異なる恩恵が段階的に届く構成となっているのです。
Coinbase主導から自立したBaseチームによる開発体制の転換点
Base Azulの登場は、Baseチームの開発体制が新たな段階に入ったことを明確に示すマイルストーンです。従来は、上流プロジェクトであるOP Stackの仕様更新や、他のL2関係プロジェクトとの調整に多くの工数が割かれてきました。Azul以降は、Baseチームが独自にクライアント実装と仕様を管理できる構成となり、意思決定のサイクルが短くなります。この変化は、プロジェクトの成熟度が運営面でも一段上がったことを示す実例です。
この転換は、単なる体制変更ではなく、ネットワークの価値提供スピードに直結する大きな変化です。実際にクライアントリリースは隔週のペースで行われるようになり、バリデーターの性能改善や空ブロックの削減といった具体的成果が連続して実現されました。また、バグ修正や機能追加が外部スケジュールに左右されにくくなった点も、実務面での大きな利点です。Coinbaseとの関係は維持しつつ、Baseとしての独立性を獲得した状態は、今後のアップグレード計画の実効性を支える基盤として機能していきます。
一般ユーザーに作業が不要な設計思想と裏側で進むBaseインフラ刷新
Azulの設計で特徴的なのは、一般ユーザー側に特別な対応を求めない点です。ウォレットのアップデートや資産の移動、設定変更といった作業は一切必要ありません。メインネット活性化後も、ユーザーがBaseを利用する手順は従来とまったく同じで、速く・安全に・安価になった体験が自動的に届けられます。この「透過的な改善」は、マスマーケット向けプロダクトにとって非常に重要な特性です。
一方で裏側では、クライアントスタックの全面刷新と多重証明システムの投入という、インフラレベルの大規模な変更が同時進行しています。具体的には、従来の実行・コンセンサスクライアントがbase-reth-nodeとbase-consensusに一本化され、出金時の証明体系もTEE/ZK二重体制に更新されました。この「ユーザーに透過的」という方針は、マスアダプションを志向するBaseの戦略と整合的です。Web3サービスに不慣れな利用者にも影響が及ばない形でネットワーク品質を底上げする設計は、多くのL2プロジェクトにとって参考になる考え方となるでしょう。
マルチプルーフによるStage 2分散化と出金時間短縮の仕組み
Azulの中核機能であるマルチプルーフは、Baseのセキュリティと分散化の到達点を大きく前進させる仕組みです。TEE証明とZK証明という2つの独立した検証方式を組み合わせ、片方の故障や攻撃が他方で補完される構造が実現されます。本章では、その技術的な構造と、ユーザーに直結する出金時間短縮のメカニズムを解説します。
TEEプルーフとZKプルーフを組み合わせる二重検証システムの構造
マルチプルーフは、TEE(Trusted Execution Environment)証明とZK(Zero-Knowledge)証明という、性質の異なる2種類の証明方式を1つのセキュリティ層に統合した仕組みです。どちらか一方の証明だけでも提案を単独で確定できますが、両方が合意した場合には出金が最短1日で確定するという設計が採られました。この「どちらでも動くが、両方合意ならより速い」という構造が、性能とセキュリティの両立を支えます。
それぞれの証明方式には固有の強みと弱みがあり、両者を組み合わせることで単独方式では得られない「多層防御」が成立します。以下の表は、両プルーフの役割を比較したものです。
| 証明方式 | 実現技術 | 主な役割 | 運用形態 |
|---|---|---|---|
| TEEプルーフ | 信頼実行環境を用いたハードウェア保証 | 高速な提案確定と運用実用性の担保 | パーミッションド |
| ZKプルーフ | ゼロ知識証明による数学的検証 | 暗号学的に堅牢な検証と矛盾検出 | パーミッションレス |
TEEの高速性とZKの堅牢性を組み合わせることで、性能とセキュリティの両立が図られました。
両プルーフ合意時に最短1日で完了するBase出金フローの具体的流れ
Baseからイーサリアムへの出金は、従来のオプティミスティックロールアップ方式では最大7日程度かかることが一般的でした。Azul導入後は、TEEプルーフとZKプルーフの両方が合意に至った場合、この待機時間が最短1日まで短縮されます。この改善は、ユーザーの資本効率に直接影響する、実務的にも大きな変化です。
具体的な流れとしては、Base上のトランザクションに対してまずTEEプルーフが生成され、続いてZKプルーフが独立に計算・投稿されていく形です。両者の証明内容が一致した時点で、L1イーサリアム上での確定が可能となり、出金の引き出し処理が進みます。従来は長期間ロックされていた資金が、より短いサイクルで循環可能になる点は、DeFiトレーダーやブリッジ運用者にとって大きなインパクトを持ちました。マルチプルーフ体系が成熟するにつれ、この最短値はさらに短縮される計画で、最終的には即時出金に近い状態を目指す設計となっています。
パーミッションレスなZK証明投稿とTEE証明オーバーライドの実装
マルチプルーフ設計で特に重要な要素が、ZK証明のパーミッションレス性です。TEEプルーフは特定の運用者によって生成されるパーミッションド型であるのに対し、ZK証明は誰でも投稿できる仕組みになっています。この非対称性は、攻撃耐性と検出能力を両立するための意図的な設計です。誰もが独立に証明を投稿できる構造があるからこそ、ネットワーク全体の検証性が保たれます。
もし何らかの原因でTEE証明とZK証明の内容に矛盾が生じた場合、パーミッションレスなZK証明が優先される仕組みが組み込まれました。これは、ハードウェアベースのTEE実装に欠陥や侵害があった場合でも、独立した数学的検証であるZK証明がオーバーライドする形でネットワークの正当性を保護する構造です。こうした冗長性により、単一の障害点が即ちネットワーク全体のリスクにならない多層防御が実現されています。攻撃者にとっては、複数の独立した証明体系を同時に破らなければならないため、現実的な攻撃コストが大きく跳ね上がる設計です。
Stage 2分散化要件を満たすオンチェーン障害検出の仕組み
イーサリアムL2の分散化には、L2Beatが定義する段階的な評価基準が広く参照されており、Stage 2は最も厳格な信頼最小化の水準を示します。Stage 2に到達するための中核要件の1つが、「証明システムの不具合をオンチェーンで検出・処理できる能力」です。Azulのマルチプルーフは、この要件を満たすための技術的基盤として設計されました。単なる謳い文句ではなく、プロトコルレベルで障害対応が可能な構造になっている点が特徴です。
具体的には、複数の独立した証明体系が並行稼働し、いずれかにバグや攻撃が発生した場合、もう一方の証明と矛盾する形でオンチェーンに可視化される仕組みが採られています。この設計により、運用者の裁量に依存せず、プロトコルレベルで障害対応が進められる構造となりました。単一の運用エンティティへの信頼に依拠しないStage 2の到達点に向けて、Baseは明確な技術的ステップを踏み出したと評価できます。この動きは、イーサリアムコミュニティ全体が目指す「信頼最小化された大規模スケーリング」の具体的な実装例でもあります。
Vitalik氏のL2ファイナライゼーションロードマップに準拠した設計思想
Base Azulのマルチプルーフ設計は、イーサリアム共同創設者Vitalik Buterin氏が提唱した「L2セキュリティおよびファイナライゼーションのロードマップ」に明確に基づいています。このロードマップは、L2の安全性を段階的に高めつつ、最終的には完全なZK証明による即時出金を実現するビジョンを示したものです。公式ブログでも、このロードマップへの準拠が明記されています。
Azulでのマルチプルーフ採用は、このロードマップの中間ステップに位置付けられました。攻撃者が高速出金を操作するためには、TEEとZKという複数の独立システムを同時に侵害する必要があり、単一の侵害点で破られることのない構造となっています。設計思想としては「セキュリティ・イン・デプス(深層防御)」が貫かれており、イーサリアムエコシステム全体が目指す方向性とBaseの技術的歩みが一致している実装例です。こうした設計方針は、Baseが単独のL2としてではなく、エコシステム全体の一部として機能することを強く意識している姿勢を示しています。
完全ZK証明による即時出金実現に向けた複数ZKVM導入の進化計画
マルチプルーフは、最終到達点ではなく、完全ZK証明方式への移行過程における中間ステップとして位置付けられています。Base公式ブログでは、最終的なゴールとして「完全なZK証明による、即時に近い出金」を目指す方針が明記されました。そのために必要な複数のステップが、すでに計画として共有されています。段階的な移行は、現実的な運用リスクを抑える観点でも合理的な選択です。
まず、追加のZKVM(ゼロ知識仮想マシン)のオンボーディングが進められる予定で、単一のZK実装への依存から脱する方向性が示されました。次に、リアルタイム証明の性能投資が継続され、証明生成にかかる時間そのものを短縮する取り組みが行われます。最後に、技術への信頼が蓄積されるにつれて、段階的にファイナリティ時間を短縮していく計画です。複数のZKVMが共存することで、単一実装に起因するバグリスクも分散されます。この漸進的アプローチは、リスクを抑えつつユーザー体験を着実に向上させる現実的な道筋となっています。
新クライアントbase-reth-nodeへの移行とノード運用者への影響
Azulは、Baseのクライアントスタックを一気に統合する大きな区切りとなるアップグレードです。これまで複数の実行・コンセンサスクライアントがサポートされていた構成から、base-reth-nodeとbase-consensusという単一構成への集約が行われます。本章では、ノード運用者や開発者が押さえるべき変更点と、実務上の移行ポイントを整理します。
Rethベースのbase-reth-nodeが唯一の実行クライアントとなる理由
Azul以降、Baseの実行クライアントはbase-reth-node一本に統合されます。公式発表によれば、Reth(イーサリアム向けの高性能実行クライアント)は、これまで常に高いパフォーマンスを示してきた実装であり、Baseのスケール目標を実現するのに十分なヘッドルームを提供する選択とされました。単一クライアントへの集約は、リソースを最適化するための意図的な設計判断です。
複数クライアント体制には、ネットワーク多様性という利点がある一方で、性能最適化や機能追加の工数が分散してしまうデメリットもありました。Baseチームは、スケーリング最優先の戦略において、特定の高性能実装に集中するメリットの方が大きいと判断したと見られます。Reth自体はイーサリアムメインネットにおいても信頼性の高い実装として知られており、単一クライアント化による短期的リスクを最小化する選択肢として合理的です。今後の1ギガガス毎秒目標に向けては、この判断が性能面でのボトルネック解消に直結します。
Konaベースのbase-consensusによる履歴同期の高速化の実例
コンセンサスクライアント側では、Konaを基盤とする新しいbase-consensusが導入されました。公式ブログでは、このクライアントがすでに履歴同期を大幅に高速化していると明言されており、ノード運用者にとって体感できるレベルの改善が実現されています。クライアント変更は、単なる名称変更ではなく、運用効率に直結する実質的なアップデートです。
履歴同期の高速化は、新規ノードのセットアップにかかる時間を短縮するだけでなく、障害復旧時の再同期にも効果を発揮します。これにより、ノード運用者の運用負荷は実務ベースで軽減される見込みです。今後もbase-consensusは継続的な最適化が予定されており、1ギガガス毎秒という大きな目標に向かって段階的に性能が引き上げられていきます。長期的には、この最適化の積み重ねが、大規模トラフィック下でもBaseが安定的に動作するための技術基盤として機能するでしょう。
他の実行・コンセンサスクライアントのサポート終了と切り替え時期
Azul活性化に伴い、base-reth-nodeとbase-consensus以外のすべての実行・コンセンサスクライアントへのサポートが打ち切られます。これはソフトな非推奨ではなく、明確な切り替え期限を伴う完全な移行です。ノード運用者は、メインネット活性化日である2026年5月13日までに、必ず新しいクライアントへの移行を完了しておく必要があります。
サポート終了の影響は、旧クライアントを継続利用した場合にネットワーク参加が不可能になる点に集約されます。移行を怠った運用者は、新しいブロックの同期ができなくなり、結果として自ノードが機能停止する状態に陥る可能性が高いでしょう。公式のクライアントリリースは、GitHubのbase/baseリポジトリで配布されており、最新版の入手経路も明確化されました。切り替え作業自体は、既存の運用ドキュメントに沿って進められる設計となっており、過度に複雑なプロセスは要求されません。
近い将来予定される単一バイナリ「base」への統合ロードマップ
Base Azulでの2クライアント構成は、最終形ではなく、さらなる統合に向けた中間段階として位置付けられています。公式ブログでは、今後数ヶ月のうちにbase-reth-nodeとbase-consensusを単一のバイナリ「base」に統合する計画が明らかにされました。これは、ノード運用者にとって運用の簡素化につながる大きな変更です。
単一バイナリ化により、プロセス管理、ログ収集、アップデート手順といった運用タスクが1本化されます。現在は2つの独立したプロセスを並行管理する必要がありますが、統合後はより単純なオペレーションで済むようになるでしょう。このロードマップは、6月末に予定される次期アップグレードで具体的な前進が見込まれており、性能特化型の機能群と並行して投入される計画です。運用者の視点からは、今回のAzulでの2クライアント体制移行は「統合への助走」であり、中長期的には運用コストが段階的に低減していく方向性が示されています。
履歴プルーフRPCを提供するノードで必要となる拡張機能の有効化手順
履歴プルーフ関連のRPCエンドポイントを提供するノード運用者には、Azul移行時に追加対応が求められます。具体的には、パフォーマンスを担保しつつ履歴プルーフ系のリクエストに応えるための、専用の拡張機能を有効化する必要があります。この対応を怠ると、特定のRPC呼び出しに対する応答速度が著しく低下する、もしくは応答できなくなる可能性があるため注意が必要です。
対象となるRPCメソッドは、公式ドキュメントで明示されています。代表的なものとしては eth_getProof、debug_executionWitness、debug_executePayload の3つが挙げられ、これらを外部に提供しているノードでは「historical proofs extension」の有効化が必須になります。
拡張機能の有効化手順自体は、ノード運用者向けドキュメント内で詳述されており、設定ファイルへの追記や起動オプションの調整によって対応可能です。インフラプロバイダーや独自にRPCサービスを運用する事業者は、顧客影響を避けるため、メインネット活性化前に必ずテストネット環境で動作確認を済ませておくことが推奨されます。
ノード運用者がメインネット活性化前に実施すべき移行作業の優先順位
ノード運用者にとって、Azulメインネット活性化前の移行作業は、明確な優先順位付けで進めることが成功のポイントとなります。作業量自体はそれほど大きくないものの、切り替え期限が設定されているため、計画的な実行が欠かせません。以下の手順は、公式ドキュメントに基づく推奨フローを整理したものです。
- 現行のノード構成と運用パラメータを棚卸しし、影響範囲を特定する
- base-reth-node(実行クライアント)とbase-consensus(コンセンサスクライアント)の最新版をGitHubリリースページから取得する
- テストネット環境で新クライアントの起動を確認し、同期完了までの挙動を検証する
- 履歴プルーフRPCを提供している場合は、historical proofs extensionを有効化し動作確認を行う
- メインネットの切り替えウィンドウに合わせて本番移行を実施し、ブロック同期の継続性を監視する
各段階でロールバック可能な状態を維持しておくことが、運用継続性を守る鍵となります。特にテストネット検証フェーズを省略せず、実運用に近い負荷条件で動作確認を行うことで、本番移行時のトラブルを大幅に減らせるでしょう。
Osaka仕様準拠で変わるEIP対応と開発者が確認すべき変更点
Azulは、Baseをイーサリアムの最新実行層仕様である「Osaka」に整合させるアップグレードでもあります。複数のEIPが同時に取り込まれ、ガス計算やオペコードの挙動、プリコンパイルの料金体系に変更が及ぶ構成です。公式仕様(specs.base.org)ではEIP-7823、7825、7883、7939、7951、7642、7910、およびFlashblocksペイロード変更の計8項目が列挙されており、本章では開発者や契約運用者が特に押さえるべき主要な変更点と、実装面での対応要否を解説します。
EIP-7825による1トランザクション1700万ガス上限導入の意義
EIP-7825は、1トランザクションあたりのガス使用量に上限を設ける仕様で、Azulでは約1,700万ガスがそのキャップとして導入されます。この上限設定は、バリデーターの性能予測可能性を高め、将来的な処理最適化の余地を広げる目的で採用されました。単一トランザクションが極端に大きな計算を占有する状況を防ぐ、構造的な安全装置として機能する仕様です。
従来、ブロックガス上限の範囲内であれば、単一トランザクションでもブロックの大半を占有することが可能でした。この仕様では、ブロック単位での混雑制御はできても、バリデーター個別の処理負荷最適化には限界がある状況でした。EIP-7825によって、トランザクション単位でのガスキャップが明示的に定義されたことで、バリデーターはより細やかな処理スケジューリングが可能になります。大規模なバッチ処理を行うコントラクトについては、1,700万ガスの上限を前提とした設計見直しが必要になる場合があるため、該当する開発者は影響範囲を事前に確認することが望ましいでしょう。
EIP-7939で追加されるCLZオペコードとスマートコントラクト最適化
EIP-7939は、「先頭の0ビットをカウントする」CLZ(Count Leading Zeros)オペコードをEVMに追加する仕様です。この新しいオペコードにより、ビット操作を多用するスマートコントラクトのガスコストと処理効率が改善されます。特に、固定小数点演算や数値ライブラリを内部で持つDeFiプロトコルにとって、恩恵が大きい変更です。
従来、Solidityレベルで先頭ゼロカウントを実装する場合、複数のオペコードを組み合わせたループ処理が必要で、ガス消費量も比較的多くなっていました。CLZオペコードが直接利用可能になることで、同等の処理が単一命令で完結し、ガス効率の大幅な改善が見込まれます。スマートコントラクト開発者にとっては、既存の数値処理ライブラリを最適化する機会であり、これを活用することでBase上のガス代をさらに圧縮できる余地が生まれました。新しいコンパイラオプションやライブラリ側の対応を待つ必要はありますが、中期的には多くのコントラクトで自然と採用が広がっていくでしょう。
EIP-7883によるMODEXPガスコスト引き上げの実務的な影響
EIP-7883は、MODEXPプリコンパイルのガスコストを引き上げる仕様です。MODEXPはモジュラ指数演算を行うプリコンパイルで、ゼロ知識証明や暗号処理の内部で幅広く使われてきました。ガスコストの引き上げは、実際の計算コストを反映させた合理化と、DoS攻撃ベクトルの低減という2つの目的を持ちます。
実務的な影響としては、MODEXPを頻繁に呼び出すコントラクトのトランザクションコストが上昇する点が挙げられます。例えば、オンチェーンで楕円曲線暗号処理を行うライブラリや、一部のZK関連コントラクトでは、ガス消費量の見直しが必要になる可能性が高いでしょう。公式の勧告でも、「MODEXPを多用するコントラクト」は仕様変更の詳細を事前に確認することが推奨されました。この変更はイーサリアム本体との整合性も意図されており、L1とL2で同じ料金体系を維持することによる、開発者体験の一貫性確保という側面もあります。
EIP-7823によるMODEXP入力サイズ上限とDoS対策の観点
EIP-7823は、MODEXPプリコンパイルに入力サイズの上限を設ける仕様です。入力サイズに上限がない場合、極端に大きな値を使った呼び出しがガス料金の予測可能性を損ねる問題がありました。このEIPでは、MODEXPの入力サイズ上限を明示することで、ガス料金設定を予測可能な範囲に保つことを目的としています。
この上限設定は、DoS攻撃対策としての側面も持ちます。攻撃者が極端に大きなMODEXP呼び出しを繰り返すことで、バリデーターの計算資源を不当に消費させる手口を、構造的に封じる効果が期待できるのです。特にL2ネットワークにおけるバリデーター計算リソースの保護は、全体のスループット維持に直結する観点であり、軽視できない設計要素と言えます。EIP-7883とEIP-7823はセットで取り込まれており、モジュラ指数演算の料金体系全体を健全化する方向性を持ちます。特別な対応を行うケースは少ないものの、MODEXPへの極端な入力サイズを前提にしていた既存契約があれば、呼び出し側の実装見直しが必要になるでしょう。
secp256r1プリコンパイル料金改定とEthereum整合性の確保
secp256r1(別名P-256)は、Webや一般的な暗号システムで広く使われているECDSA署名方式です。このプリコンパイルの料金改定は、Base Azulの仕様上はEIP-7951として位置付けられており、AzulでEthereum本体と整合する形に引き上げられます。BaseとEthereumでプリコンパイル料金が異なる状態を解消し、開発者体験の一貫性を確保することが主な目的です。
secp256r1プリコンパイルは、WebAuthnやパスキーといった一般ユーザー向け認証機構と親和性が高く、アカウント抽象化の文脈でも注目される要素です。料金改定により、これを多用する認証系コントラクトのガスコストが上昇する可能性はありますが、Ethereumとの整合性を保つことで、L1とL2間でのコントラクト移植性や設計の共有が容易になります。8月末に予定されるネイティブアカウント抽象化との組み合わせを見据えると、この料金改定はBase上でパスキーベースの認証フローを安心して設計できる基盤を整える動きとしても捉えられるでしょう。
Flashblocks WebSocketペイロード変更とアプリ側の対応要否
Flashblocksは、Baseが提供する高頻度ブロック更新のリアルタイム配信機構で、取引所アプリやインデックス事業者など、低レイテンシ情報を必要とするサービスで利用されています。AzulではFlashblocksのWebSocketペイロードから、アカウント残高(account balances)と実行結果(receipts)が削除されます。これは互換性を破る変更であり、対象サービスでの対応が必要になる破壊的変更です。
ペイロード縮小の狙いは、将来的に「ブロックアクセスリスト」や、その他の性能最適化ヒントをペイロード内に組み込む余地を確保することにあります。つまり、今回の削減は単なる軽量化ではなく、中長期的な機能拡張への布石という位置付けです。Flashblocks WebSocketを直接消費している事業者は、自社アプリケーションが残高や実行結果をどのソースから取得するかを改めて確認する必要があります。場合によっては、標準の`eth_*` RPCや、別のインデックス経路へ切り替えるアーキテクチャ変更が求められるでしょう。
空ブロック99%削減など実績で見るBase性能向上と今後の道筋
Azulは、単発のアップグレードとして評価されるだけでなく、それまでに積み上げられた性能改善の延長線上に位置付けられる点に意味があります。直近数ヶ月のBaseでは、空ブロック削減やバーストスループット達成といった目に見える改善が実現されてきました。本章では、数字で見る実績と、1ギガガス毎秒という大きな目標に向けたロードマップを整理します。
空ブロック1日200件から2件への99%削減を実現した技術要因
Base公式ブログによると、Azul活性化に先立つ2ヶ月間で、Baseは空ブロック数を1日あたり約200件から約2件へと、およそ99%削減することに成功しました。空ブロック、すなわちトランザクションを含まないブロックの発生は、ネットワーク全体の効率性を直接損なう要因の1つです。この改善は、単なる数値の改善ではなく、ビルダー(ブロック生成者)側の信頼性が大きく向上したことを示す実績です。
削減を実現した背景には、クライアント実装の最適化、ビルダー側のメモリプール処理改善、そしてネットワーク全体のレイテンシ最適化といった複数の要因があります。これらは地道な改善の積み重ねであり、Base自立運営体制の効果が具体的な数字として表れた例と言えるでしょう。空ブロック削減は、ユーザーにとっては「取引が含まれないままブロックが進む」という不利益の減少につながります。結果として、トランザクションの確定スピード予測可能性が上がり、DeFiやNFTなど即応性が求められる領域のUXが底上げされました。
5000TPSバーストを複数回達成したスループット向上の実績
性能面のもう1つの重要な実績として、Baseは5,000TPS(秒間トランザクション数)のバーストを複数回にわたって達成したことが公式に報告されています。TPSはブロックチェーンの処理能力を測る代表的な指標で、一般的なL1ネットワークでは数十から数百程度が現実的な水準とされています。5,000TPSという数値は、大規模な需要ピークにも耐えられる潜在能力をBaseが持つことを示す結果です。
この数字は、継続的に5,000TPSを維持できるという意味ではなく、ピーク時に短時間で到達できる能力を示すものです。ただし、こうしたバーストを複数回達成できた事実は、アーキテクチャ上のボトルネックが一定水準で取り除かれていることを意味します。スループット向上は、大型NFTミントや急なエアドロップ請求など、予測困難な需要集中イベントに対するネットワーク耐性を強化します。AzulによるReth単独構成と多重証明システムの導入は、今後このバースト耐性をさらに持続的な性能へと引き上げる基盤となるでしょう。
隔週リリース体制がもたらすクライアント安定性向上と開発速度の両立
Baseチームは、クライアントリリースを隔週ペースで実施する体制を確立しました。従来のブロックチェーンインフラ開発では、大きな変更をまとめて投入するモノリシックなリリースが一般的でしたが、Baseは頻繁な小規模リリースを選択した形です。このアプローチは、変更点ごとの影響範囲を限定し、問題発生時の切り戻しコストを下げる効果を持ちます。
同時に、新機能の投入やバリデーター性能の改善が継続的に積み重なるため、開発速度と安定性を両立できる点が特徴です。公式ブログでも、この隔週リリース体制のもとで「新機能追加」「バリデーター性能改善」といった進歩が実現したと明言されています。ユーザーや開発者にとっては、バグ修正や改善が素早く届く環境が整うことで、ネットワーク全体への信頼感が段階的に高まっていく効果があるのです。リリース頻度の高さは、逆説的に聞こえるかもしれませんが、プロジェクトの安定性を示す実務的な指標の1つとも捉えられます。
バリデーター性能改善で変わるブロック生成信頼性とファイナリティ時間
Baseチームによる継続的な改善の中でも、バリデーター側のパフォーマンス向上は特に実務的なインパクトが大きい変化です。バリデーターの処理速度が上がれば、ブロック生成の遅延が減り、結果としてブロックのファイナリティ(確定)時間も短縮されます。Azulで導入されるトランザクションガス上限(EIP-7825)は、この性能予測可能性をさらに高める役割を果たします。
ブロック生成信頼性とは、期待したタイミングでブロックが生成され、トランザクションが適切に含まれる度合いを指します。空ブロック削減と合わせて、この信頼性は実データとして明確に向上した状態です。ファイナリティ時間の短縮は、取引所・ブリッジ・決済サービスといった事業者にとって、着金確認のリードタイムを縮める直接的なメリットになります。マルチプルーフによる出金最短1日は、L2からL1への引き出しファイナリティに関する部分であり、L2内でのファイナリティは従来通り秒単位で確定する仕組みが維持されています。
1ギガガス毎秒のスループット目標に向けた具体的な段階的ロードマップ
Baseが中長期目標として掲げているのが、「1ギガガス毎秒(1 gigagas/s)」というスループット水準です。これは、1秒あたり10億ガスを処理できるネットワーク能力を意味し、現行のL1およびほとんどのL2を大きく上回る規模感を持ちます。Azulでのクライアントスタック統合は、この目標への道筋を加速するための基盤整備という位置付けです。
公式ブログによれば、1ギガガス毎秒への到達は単一のアップグレードで実現するものではなく、複数の段階を経て達成される構想となっています。Reth採用による実行層の高速化、Konaベースのコンセンサスクライアント最適化、そして今後予定される性能特化型アップグレードが、それぞれの段階を担う形です。6月末に予定される次期アップグレードでも、この目標に向けた具体的な機能追加が見込まれています。1ギガガス毎秒の実現は、BaseがEthereumエコシステム全体のスケーリング戦略の中核を担う存在となるための重要なマイルストーンです。
性能向上がユーザー手数料削減とdAppsのUXに与える具体的な波及効果
性能向上の成果は、単なる技術指標にとどまらず、ユーザーの手数料負担やdAppsの体験品質に具体的な形で波及します。スループットが向上すれば、単位時間あたりに処理できるトランザクション数が増え、結果として各トランザクションが占有するリソースの単価が下がる傾向があるからです。Baseはすでに、Ethereum本体に比べて大幅に低い手数料水準を実現してきた実績があります。
dAppsの立場では、性能向上はUX改善の重要な要素となります。トランザクション確定までの待機時間が短く、手数料も予測可能な範囲に収まることで、エンドユーザーへの体験設計が柔軟になるのです。また、NFTミントやゲーム内アクションといった、高頻度に発生するマイクロトランザクションの実用性が大きく広がります。Azul以降の継続的な性能改善は、Baseが志向する「次の10億人をWeb3に導く」というビジョンと整合的であり、インフラ性能の底上げがそのままユーザー体験の底上げにつながる構造が築かれつつあります。
Immunefi監査コンペと25万ドル賞金制度を含むセキュリティ検証
Azulのようなネットワーク基盤アップグレードでは、セキュリティ検証の徹底が不可欠です。Baseチームは、内部監査・外部監査に加えて、Immunefiを通じた公募型の監査コンペを併設し、最大限のコードレビューを実現する体制を敷きました。本章では、監査コンペの概要から、発見された脆弱性の処理フローまでを整理します。
2026年4月21日から5月4日まで実施される監査コンペの概要
Base Azulの監査コンペは、Immunefiプラットフォーム上で2026年4月21日から5月4日までの期間に実施されます。この2週間は、メインネット活性化予定日である5月13日の直前にあたり、最終的なコード検証を行う重要な時間窓です。コンペ形式を採用した意図は、単一の監査会社に依存せず、幅広い独立した視点でコードを検査することにあります。
コンペには、世界中のセキュリティ研究者やホワイトハットハッカーが参加可能です。対象となるコードベースはテストネットで稼働中のものと一致しており、参加者は実環境に近い条件で挙動を検証できる環境が用意されました。公募型コンペの特徴は、多様なバックグラウンドを持つレビュアーが参加することで、単独監査では見落とされがちな脆弱性も発見しやすくなる点にあります。期間を短期集中型に設定することで、メインネット活性化スケジュールとの整合性が確保されているほか、レビュー集中期を明確に区切ることで監査結果の集約と修正が進めやすくなる利点もあるのです。
最大25万ドル賞金プールの対象となる重大脆弱性報告の具体的要件
今回の監査コンペでは、最大25万ドル(約数千万円相当)の賞金プールが設定されています。この賞金は、発見された脆弱性の重大度に応じて段階的に支払われる仕組みで、最上位カテゴリーの「Critical(重大)」脆弱性に対しては、この上限に近い金額が適用されます。金額設定は、実力あるセキュリティ研究者を引き付けるのに十分な水準と言えるでしょう。
重大脆弱性として認定される条件には、再現可能な攻撃シナリオの提示、具体的なコード箇所の特定、修正可能性の実証など、厳格な要件が設けられることが一般的です。Immunefiプラットフォームを通じたバグバウンティでは、報告内容のトリアージと検証プロセスが標準化されており、公平な評価が行われる設計となっています。参加者にとっては、報告フォーマットの完成度と再現手順の明確さが、賞金獲得の鍵を握る要素となるでしょう。Baseチーム側にとっても、厳格な要件を設定することで報告の質を高め、真に重要な脆弱性に対して集中的なリソースを投じられる体制を築いているのです。
社内監査と外部監査の二重チェック体制とコード公開による透明性の確保
Azulのセキュリティ検証は、単一の手段に頼らず、複数レイヤーを重ねた構造となっています。公式発表によれば、オンチェーンコンポーネントと証明システムは、社内監査と外部監査の両方を経ており、さらにImmunefiでの公募型監査コンペが追加されました。この三重構造は、セキュリティの確度を段階的に高める設計の典型例です。
具体的な検証レイヤーは、以下のように整理できます。
- Baseチーム内部のエンジニアによる社内監査(継続的レビュー)
- 外部のプロフェッショナル監査会社による独立監査
- Immunefi経由のホワイトハットコミュニティによる公募型コンペ監査
- テストネット稼働中のコードを対象とした実環境観測
これらが組み合わさることで、異なる視点からの脆弱性発見確率が大幅に高まります。コード公開と監査プロセスの透明化は、エンドユーザーや開発者にとっても、Baseというインフラへの信頼感を裏打ちする具体的な根拠となるでしょう。
Immunefiプラットフォーム活用によるホワイトハッカー参加の仕組み
Immunefiは、Web3分野におけるバグバウンティの代表的なプラットフォームで、プロジェクトとホワイトハットハッカーをつなぐ役割を担っています。Baseチームがこのプラットフォームを選択した理由には、参加者の質と信頼性が一定レベルで担保されている点、報告処理のフローが標準化されている点が挙げられます。プラットフォーム経由での参加は、双方にとってリスクの低い協力形態です。
ホワイトハットハッカーは、コンペページに公開されたルールと対象範囲を確認した上で、脆弱性報告を提出します。報告はImmunefi側でトリアージされ、Baseチームにエスカレーションされた後、技術検証と重大度評価が行われる流れです。一般公募型のコンペでは、参加者のインセンティブ設計が成否を左右しますが、25万ドル規模の賞金プールはそれに応える水準と言えるでしょう。この仕組みにより、Baseチーム単独ではアクセスしづらい「外部視点からの鋭いレビュー」を集められる構造が整っています。
オンチェーンコンポーネントと証明システムの監査プロセスの実態
Azulの監査対象は、マルチプルーフ関連のオンチェーンスマートコントラクトと、TEE/ZK両プルーフシステムの実装に重点が置かれます。これらは、ネットワークの安全性に直結するコンポーネントであり、攻撃者が狙いを定めやすい領域でもあります。公式発表では、すべてのオンチェーンコンポーネントと証明システムが、社内外の監査を経ていると明言されました。
証明システムの監査は、暗号学的な正当性と実装の細部の両方を対象とします。ZK回路の健全性、TEE環境の信頼境界、プルーフ生成と検証のロジック、パーミッションレス投稿経路の整合性など、多岐にわたるチェック項目がある分野です。オンチェーンコントラクトの監査では、Stage 2分散化要件に関わる「障害検出と処理」のロジックが特に入念にレビューされます。こうした細部への徹底した監査姿勢は、メインネット活性化後にマルチプルーフが実データ上で期待通りに機能することを担保する、重要な事前検証プロセスです。
発見された脆弱性の修正フローとメインネット活性化前に完了する対応
監査コンペや内外部監査で発見された脆弱性は、5月13日のメインネット活性化までに修正を完了させるスケジュールが組まれています。重大度に応じたトリアージが行われ、Critical・Highレベルの問題は最優先で対応される流れです。修正後には再レビューが実施され、修正自体が新たな問題を生んでいないかが確認されます。
メインネット活性化日までの残り期間を考慮すると、修正ウィンドウは極めてタイトです。そのため、Baseチームはコンペ期間中からリアルタイムに報告を処理し、修正を並行して進める体制を採用していると考えられます。万が一、期間内に解決できない重大脆弱性が発見された場合は、活性化スケジュールの見直しも選択肢に入るでしょう。安全性を犠牲にしてまでスケジュールを守らないという姿勢は、大規模なインフラプロダクトにおいて絶対に必要な判断基準であり、Baseチームもこの原則に沿った運用を行う方針を明らかにしています。
他のEthereum L2と比較したBase Azulの独自性と競争優位の評価
イーサリアムL2のエコシステムには、Arbitrum、Optimism、zkSync、Scroll、Lineaなど多様なプロジェクトが存在し、それぞれ異なる技術的アプローチを採用しています。Base Azulを理解する上では、他のL2との比較を通じて独自性を把握することが有効です。本章では、分散化ステージ、証明方式、出金時間、クライアント戦略などの観点から、Base Azulの競争優位を整理します。
ArbitrumやOptimismと比較したBase Azulの分散化ステージの位置
L2の分散化水準を評価する代表的な枠組みが、L2Beatが提唱する「Stage 0〜Stage 2」の3段階モデルです。Stage 2は最も厳格な信頼最小化水準を示し、運用エンティティへの依存を最小化することが求められます。Azulでのマルチプルーフ導入は、BaseをStage 2に向けて明確に前進させる技術的ステップです。
ArbitrumとOptimismは、いずれもBaseより歴史の長いL2として知られ、分散化への取り組みも継続的に進められています。両プロジェクトは、独自のガバナンスプロセスやフラウドプルーフ機構の改善を通じて、段階的に分散化水準を引き上げてきました。Base AzulがユニークなのはTEEとZKを組み合わせる多重証明アプローチで、「オンチェーンでの証明システム障害検出」というStage 2要件に、具体的な技術実装で応える構造を採っている点です。分散化ステージの位置付けそのものは、各L2の評価機関や時点によって変動しますが、Azulは「技術的アプローチで明確な到達点を示した」という意味で独自性のあるマイルストーンと言えます。
TEE+ZKマルチプルーフ方式と他L2が採用する証明方式の比較観点
L2が採用する証明方式は、大きく分けて「オプティミスティックロールアップ」と「ZKロールアップ」の2種類が中心です。前者はフラウドプルーフ(不正証明)に依存し、後者はZKP(ゼロ知識証明)による数学的検証を用います。Base Azulのマルチプルーフは、この2つの既存アプローチの組み合わせでもなく、TEEという第3の要素を加える独自路線です。
TEE(信頼実行環境)は、ハードウェアレベルで保護された実行環境を前提に、高速な提案確定を可能にします。一方でハードウェア依存という特性から、単独での信頼モデルとしては議論の余地があるアプローチでもあります。Base Azulは、TEEの実用性とZKの暗号学的堅牢性を組み合わせることで、それぞれの弱点を補完する設計を選択しました。以下の表は、主要な証明方式と採用L2の概要を整理したものです。
| 証明方式 | 特徴 | 代表的な採用プロジェクト(例) |
|---|---|---|
| オプティミスティック(フラウドプルーフ) | デフォルト承認・異議申立期間で検証 | Arbitrum、Optimism、従来のBase |
| ZKロールアップ(ZK証明) | 数学的証明で即時的な検証 | zkSync、Scroll、Linea |
| マルチプルーフ(TEE+ZK) | 2種類の独立した証明を組み合わせる | Base Azul |
Base Azulのアプローチは、単独方式では得難い「多層防御と高速性の両立」を目指す、現実的かつ野心的な選択肢として位置付けられます。
出金最短1日を実現する仕組みと他L2の出金所要時間の具体的な差分
L2からL1への出金所要時間は、L2選定の重要な基準の1つです。従来のオプティミスティックロールアップでは、フラウドプルーフのための異議申立期間として、最大7日間の待機が一般的でした。この7日という数字は、ArbitrumやOptimism、従来のBaseでも長く採用されてきた水準です。一方、ZKロールアップでは、証明生成時間を除けば、理論上は即時に近い出金が可能という違いがあります。
Base Azulの「最短1日」は、オプティミスティックの7日より大幅に短く、ZKロールアップの即時性には及ばないものの、現実的な中間地点を提示する水準です。ただし、この「最短1日」はあくまでTEEとZKの両プルーフが合意した場合の値であり、条件が満たされない場合はより時間がかかる点には注意が必要です。サードパーティブリッジを経由した「即時的な移動」は、各L2で従来から提供されてきましたが、これらは追加の信頼前提を必要とします。ネイティブブリッジ経由で最短1日の出金が実現する点は、ユーザーの資本効率向上にとって実質的なインパクトを持つ進化と言えるでしょう。
クライアント多様性の放棄と性能特化型アーキテクチャの選択の是非
Azulは、複数クライアントのサポートを打ち切り、base-reth-nodeとbase-consensusの2本構成に集約する方針を採りました。この選択は、ネットワーク多様性という観点からは議論の余地が残ります。イーサリアムメインネットでは、クライアント多様性がネットワーク障害への耐性として重視されており、単一クライアントへの集中は一般的にリスク要因とされてきた歴史があります。
一方で、BaseのようなL2は、上流のL1(イーサリアム)に最終的なセキュリティを依存できる立場にあります。この構造の違いが、単一クライアント戦略を採れる合理的根拠です。高性能なReth単独構成に絞ることで、最適化リソースを集中投下できるメリットは非常に大きく、1ギガガス毎秒という高い目標を実現する上では、現実的な選択と言えます。もちろん、長期的にクライアントの多様性を再度導入する可能性も残されており、Baseチームは性能と多様性のバランスを継続的に評価していくことが求められます。この戦略判断は、他のL2にとっても重要なケーススタディとなるでしょう。
Coinbase主導からBase独立運営への体制変化が与える市場評価
Base Azulは、技術面の変更だけでなく、運営体制の変化という面でも注目されています。Baseは、Coinbaseによってインキュベートされた経緯があり、これまでCoinbaseの信用力と資金力を背景に急速にエコシステムを拡大してきました。Azulを機に、Baseチームが独自のアップグレードサイクルを運用する体制に移行した点は、プロジェクトの成熟を示す重要なシグナルです。
市場評価の観点からは、Coinbase依存からの段階的な独立は、分散化ストーリーの強化につながります。同時に、Coinbaseとの関係を完全に断つわけではなく、エコシステムのサポートは継続される見通しです。これにより、Baseは「大企業バックアップの安心感」と「自律的プロジェクト運営の機動力」を両立する独自のポジションを確立しつつあります。今後の市場評価は、Azul以降のアップグレード計画がどれだけ予定通りに実行されるか、そしてオンチェーンエコシステムの活性度が継続するかに大きく左右されるでしょう。
1ギガガス毎秒目標と他L2のスケーリングロードマップの相対比較
スループット目標は、各L2が中長期的にどの規模を志向するかを示す重要な指標です。Baseが掲げる「1ギガガス毎秒」という目標は、現行のL1およびほとんどのL2を大きく上回る野心的な水準です。他のL2もそれぞれスケーリングロードマップを公表しており、数値目標と実現時期には差があります。
多くのL2は、ガス単価の低減とTPSの向上を主軸に据えつつ、自プロジェクト独自の技術優位をアピールしています。Baseの特徴は、単に数値を掲げるだけでなく、クライアントスタックの統合、Flashblocksによる高頻度更新、ブロックアクセスリスト導入といった具体的な機能群と合わせて目標を設定している点です。これにより、1ギガガス毎秒達成への道筋が、他のL2より実装レベルで明確に描かれています。もちろん、実際に到達できるかは継続的な実行力にかかっており、Azulはその第一歩に位置付けられるアップグレードです。スケーリング競争は今後も各L2間で加速する見込みで、Baseはその中で存在感をさらに高めていくことが期待されます。
Azul以降の6月・8月アップグレードとVibenetなど今後の展望
Azulは、Baseにとって独立アップグレード時代の始まりに過ぎません。公式ブログでは、6月末・8月末に予定される次期アップグレードの概要と、新たなパブリックデブネットVibenetの計画が公開されています。本章では、Azul以降に控えるロードマップと、その戦略的な意義を整理します。
2026年6月末予定の性能特化型アップグレードに含まれる主要機能
Baseは、2026年6月末に予定される次期アップグレードを、性能特化型のアップデートとして位置付けています。公式ブログには、このアップグレードに含まれる予定の主要機能が列挙されており、Azulで整えた基盤の上にさらなる性能拡張機能が積み上げられる構成です。6月末という短いスパンでのリリースは、Azulで確立した「隔週リリース+メジャーアップデートの定期サイクル」という開発体制の成果でもあります。
含まれる機能としては、Enshrined Token Standard(組み込み型のトークン規格)、Flashblock Access Lists、Glamsterdam関連EIPs、単一バイナリ「base」の実現、そして出金時間のさらなる短縮が挙げられています。これらはいずれも、Azulで整えた多重証明システムとクライアント統合という土台の上で意味を持つ拡張です。特に出金時間のさらなる短縮は、マルチプルーフ体系の成熟と連動しており、ユーザー体験の継続的向上を具体的な形で示す要素となるでしょう。
EnshrinedトークンとFlashblock Access Lists導入の意義
Enshrined Token Standardは、トークン規格をプロトコルレベルに組み込むアプローチを指します。従来のERC-20規格は、スマートコントラクトとして実装されるものですが、これをプロトコル側の標準機能として取り込むことで、ガス効率や相互運用性の面で大きな改善が期待できるのです。特にBaseのような高頻度トランザクションが発生するL2では、この最適化効果は無視できない規模になります。
一方、Flashblock Access Listsは、ブロック生成時にどのアカウントや状態スロットがアクセスされるかを事前に宣言する仕組みです。これにより、並列処理やキャッシュ効率の改善が可能となり、ブロック処理全体の高速化に寄与します。両機能は独立した改善要素ですが、組み合わさることで、Baseの実行層全体のスループットを押し上げる相乗効果を生むと考えられます。6月末アップグレードは、Azulほどのインフラ大改革ではないものの、実務的なスループット向上に直結する機能群を束ねたリリースとして注目されるでしょう。
2026年8月末予定のネイティブアカウント抽象化とUX改善の全体像
2026年8月末に予定されるアップグレードは、UX(ユーザー体験)特化型として位置付けられており、最大の目玉が「ネイティブアカウント抽象化」の導入です。アカウント抽象化とは、従来のEOA(Externally Owned Account)とコントラクトアカウントの区別を取り払い、より柔軟で使いやすい口座モデルを実現する概念を指します。
ネイティブ対応の意義は、アカウント抽象化機能がプロトコルの標準機能として組み込まれる点にあります。従来はERC-4337などの規格を通じて間接的にアカウント抽象化を実現していましたが、ネイティブ対応では、より効率的で直感的な実装が可能になります。パスキーや生体認証と連携した「ガスレス・シームレス」な体験、複雑なリカバリーロジック、ソーシャルリカバリーといったユーザー志向の機能が、Base上で標準的に利用できるようになる見通しです。この8月末アップグレードは、Baseが志向する「次の10億人のWeb3オンボーディング」というビジョンを、UXレベルで具現化する重要なステップとなるでしょう。
Glamsterdam EIPs対応と単一バイナリ「base」完成の時期
Glamsterdamは、イーサリアムのFusakaに続く次期ハードフォークの名称で、恒星「Gloas」と「Amsterdam」を組み合わせて命名されました。2026年内の活性化を目指して開発が進められており、ePBS(EIP-7732)やBlock-Level Access Lists(EIP-7928)といった大型EIPが主力機能として検討されています。6月末予定のBaseアップグレードでは、このGlamsterdamに含まれるEIPへの対応が計画されており、Baseが引き続きEthereum本体との整合性を重視している姿勢が見て取れます。
また、同タイミングで単一バイナリ「base」の完成も予定されています。Azulではbase-reth-nodeとbase-consensusという2本のクライアント構成となっていますが、6月末にはこれらを1本のバイナリに統合する計画です。ノード運用者にとっては、プロセス管理や運用監視がさらに簡素化される大きな改善となり、インフラコストの削減にも直結する変更と言えるでしょう。Baseの開発スタックが、高性能かつシンプルな構成に向けて段階的に進化していく明確な軌跡を示す動きです。
2026年5月中旬ローンチのパブリックデブネット「Vibenet」の用途
公式ブログで発表された「Vibenet」は、2026年5月中旬にローンチされる予定のパブリックデブネットです。Vibenetの特徴は、特定のハードフォークに紐づかず、Baseチームが新機能を実験するための「恒久的な場」として位置付けられている点にあります。メインネット投入前の機能を、開発者コミュニティが早期に試せる環境として機能します。
従来のテストネットは、特定のアップグレードのステージング環境という性格が強いものでした。これに対しVibenetは、開発中機能の早期フィードバックを集めるという明確な目的を持っており、Baseチームとコミュニティの協働サイクルを加速する仕組みです。開発者は、メインネット投入前に新機能の挙動を検証し、自プロジェクトへの影響を事前に把握できます。Vibenetの存在は、Baseが「クローズドで完成品を提供する」のではなく、「開発プロセスを開き、コミュニティと共に進化する」方針を採っていることを示す象徴的な取り組みです。
完全ZK証明と即時出金の実現へ向けた長期ロードマップの全体像
Azul以降のロードマップを俯瞰すると、Baseが目指す終着点が明確に見えてきます。それは、完全なZK証明による即時に近い出金と、1ギガガス毎秒のスループット、そしてネイティブアカウント抽象化による直感的なUXが揃った状態です。これらは単一のアップグレードで到達するものではなく、Azulから始まる一連のステップを経て段階的に実現される構想となっています。
公式ブログでは、「Azulは、終わりなき上り坂の第一歩」という趣旨のメッセージが示されました。具体的には、TEE/ZKマルチプルーフの成熟、追加ZKVMのオンボーディング、リアルタイム証明の性能向上、ファイナリティ時間の継続的な短縮、そしてアカウント抽象化や組み込みトークン規格などのUX機能群が、長期ロードマップの主要ステップを構成します。読者がBaseを評価する際は、Azul単独の機能だけでなく、この長期ビジョンの中での位置付けを理解することが重要です。Baseは、イーサリアムエコシステム全体のスケーリング戦略の一角として、継続的に進化していく存在となるでしょう。