Vertex AI Model Gardenは、Gemini以外のモデルをGoogle Cloudの中で使うための窓口です。AnthropicのClaudeのようにAPIとして呼ぶだけのモデルと、Gemmaのように自分のプロジェクトのGPUへ載せて使うモデルが同じ画面に並んでいます。ところが両者の違いは、有効化の手順と課金の仕組みの両方に及ぶものです。本記事では、Claudeをモデルカードから有効にしてAnthropic SDKで呼ぶ手順と、GemmaをL4 GPUのエンドポイントへデプロイして推論し、課金を止めるまでのPythonコードを示します。あわせて整理するのは、エンドポイントの種類で変わるClaudeの単価と、GPUを借りる場合との損益の分かれ目です。根拠は2026年10月時点の公式ドキュメントです。
まとめ:Vertex AI Model GardenでGemini以外を使うときの要点
判断の起点は「そのモデルがAPIで提供されているか、自分でデプロイするものか」です。
- Claudeはフルマネージドの従量課金で、モデルカードの「有効にする」とIAMロール2つで使えます。GPUの手配は要りません。
- Claudeの単価は呼び先で変わり、Sonnet 5.5の入力はglobalが100万トークン2.00ドル、USとEUのマルチリージョンは2.20ドルです。
- Gemmaなどのセルフデプロイ型はサーバーレスではなく、エンドポイントにGPUを割り当てた時間だけ課金されます。L4 GPU1基のg2-standard-12は1時間1.15069ドルで、置きっぱなしにすると月840ドル前後です。
- 組織に属するプロジェクトでは、Claudeのweb検索と構造化出力が組織ポリシーで既定拒否になっています。
- 公式のデプロイ手順はまだ旧SDKの書き方です。新規に書くなら
agentplatform.Clientのclient.model_gardenにそろえます。
Model Gardenの3つの使い方とマネージドAPI・セルフデプロイの違い
Model Gardenに並ぶモデルは、使い方で大きく3種類に分かれます。
2026年4月の改称でModel Gardenの名前と呼び出し口が変わった点
Gemini Enterprise Agent Platformのリリースノートの2026年4月22日の名称対応表で、Vertex AI Model GardenはModel Garden、Vertex AI MaaSはMaaSになりました。プラットフォーム全体の構成はVertex AIの機能・料金とSageMaker・Azure MLとの違いで解説しています。名前は変わりましたが、改称後のドキュメントにあるREST APIの呼び出し例も、ホスト名はaiplatform.googleapis.comのままです。
Model Gardenの概要ページによると、Hugging Faceから取り込むサードパーティモデルはHugging Face側でマルウェアやシークレットの有無を検査され、安全でないと判定されたものはデプロイがブロックされます。疑わしいと判定されたモデルは表示されたままデプロイできるため、レビューしてから載せるよう案内されています。
ClaudeはMaaS、Gemmaはエンドポイントに載せるという課金の分かれ目
| 使い方 | 代表例 | 課金の単位 | GPUの手配 |
|---|---|---|---|
| パートナーモデル(MaaS) | Claude・Grok・Mistral | 入出力トークン | 不要 |
| オープンモデル(MaaS) | Llama・DeepSeek | 入出力トークン | 不要 |
| セルフデプロイ | Gemma・Hugging Face | マシンの稼働時間 | 必要 |
表はオープンモデルのサービング方法の比較ページをもとにまとめました。同じオープンモデルがMaaSとセルフデプロイの両方で並ぶことがあり、MaaSの利用ページでは、マネージドAPI側のモデルカード名に「API Service」が付くと説明されています。カードを開く前に名前で見分けてください。
Claudeを有効化してAnthropic SDKから呼ぶまでの実装手順
Claudeの紹介ページのとおり、Claudeはフルマネージドのサーバーレスモデルで、インフラの用意は要りません。手順は権限の準備と有効化、呼び出しの3段です。
モデルカードの有効化に要るIAMロール2つと組織ポリシーの確認
パートナーモデルの利用ページでは、有効化する人にConsumer Procurement Entitlement管理者、呼び出す人にAgent Platformユーザーのロールが要るとされています。
# Agent Platform APIを有効にする
gcloud services enable aiplatform.googleapis.com --project=your-project-id
# モデルカードで「有効にする」を押す人に付けるロール
gcloud projects add-iam-policy-binding your-project-id \
--member="user:[email protected]" \
--role="roles/consumerprocurement.entitlementManager"
# アプリのサービスアカウントには呼び出し用のロールだけを付ける
gcloud projects add-iam-policy-binding your-project-id \
--member="serviceAccount:[email protected]" \
--role="roles/aiplatform.user"
ロールを付けたら、Model GardenでClaude Sonnet 5.5などのモデルカードを開き、「有効にする」を押します。組織のポリシーでサービスの利用を絞っている会社では、cloudcommerceconsumerprocurement.googleapis.comが許可されていないと有効化できません。またClaudeの呼び出しページには、請求先アカウントをAnthropicが再販を禁じる販売パートナーが管理している場合、利用規約への同意自体ができないと書かれています。AnthropicのClaude Codeドキュメントは、アクセスの承認に24〜48時間かかる場合があるとしています。検証の日程は、この待ち時間を見込んで組んでください。
AnthropicVertexでClaude Sonnet 5.5を呼ぶ最小コード
# pip install -U "anthropic[vertex]"
# gcloud auth application-default login
from anthropic import AnthropicVertex
# region="global" は aiplatform.googleapis.com に、"us" と "eu" はマルチリージョンのホストに向く
client = AnthropicVertex(project_id="your-project-id", region="global")
message = client.messages.create(
model="claude-sonnet-5-5",
max_tokens=1024,
messages=[{"role": "user", "content": "請求書の支払期日を抜き出す正規表現を作ってください"}],
)
print(message.content[0].text)
print(message.usage) # 入出力トークン数。請求額の見積もりに使う
認証はAPIキーではなく、Google Cloudのアプリケーションのデフォルト認証情報です。anthropicの1.15.0(2026年10月15日公開)のソースを読むと、regionにglobalを渡すとaiplatform.googleapis.com、usとeuはマルチリージョン用のホストへ自動で切り替わります。呼び出しページによると、Agent Platform上のClaudeはクライアント側で実行するツールには対応し、サーバー側で実行するツールには対応していません。Anthropicと直接契約する場合との料金や機能の違いはAnthropic API(Claude API)の料金とAPIキーの取得方法と比べてください。
globalとリージョンで単価が1割違うエンドポイントの選び方
生成AIの料金ページでClaudeの表を地域タブごとに見ると、Sonnet 5.5の入力は100万トークンあたりglobalが2.00ドル、USとEUのマルチリージョンが2.20ドルです。Haiku 5.5の入力もglobalの0.10ドルに対しUSは0.11ドルで、地域を固定すると1割高くなります。
globalは、Googleが対応リージョンのどこかで処理するぶん可用性が高く、エラーも減ると説明されています。そのかわり、パートナーモデルの利用ページではglobalでプロビジョンドスループットが使えません。データを米国内やEU内に留める契約がある案件だけUSかEUを選び、それ以外はglobalで始めるのが単価の面では有利です。2026年10月時点の料金ページの地域タブにasia-northeast1(東京)は無く、国内リージョンで処理させたい要件には応えられません。プロンプトキャッシュの効かせ方はプロンプトキャッシングの仕組みと主要5社APIの使い方で比べています。
GemmaをGPUエンドポイントへデプロイして推論するPython実装
オープンモデルのデプロイページは、セルフデプロイ型はサーバーレスではなく、自分のプロジェクトとVPCの中に載ると説明しています。公式のサンプルは旧来のfrom vertexai import model_gardenのままなので、ここでは新SDKで書き直します。
list_deployable_modelsでデプロイ可能なモデルと構成を調べる
# pip install --upgrade google-cloud-agentplatform
import agentplatform
PROJECT_ID = "your-project-id"
LOCATION = "us-central1"
client = agentplatform.Client(project=PROJECT_ID, location=LOCATION)
# デプロイできるGemmaの一覧(Hugging Faceのモデルは既定で含まれない)
print(client.model_garden.list_deployable_models(config={"model_filter": "gemma"}))
# 検証済みのマシンタイプとGPUの組み合わせを人が読める形で出す
print(client.model_garden.list_publisher_model_deploy_options(
"google/gemma3@gemma-3-1b-it", config={"concise": True}
))
google-cloud-agentplatformの2.5.0(2026年10月14日公開)では、Model Gardenの操作がclient.model_gardenにまとまっています。gcloudならgcloud ai model-garden models list --model-filter=gemmaで同じ一覧が出ます。Gemmaの世代ごとの違いと必要なメモリはGemma 4のモデル一覧と必要スペックで確かめてください。
deploy_publisher_modelでL4 GPU1基のエンドポイントを作る
deployed = client.model_garden.deploy_publisher_model(
model="google/gemma3@gemma-3-1b-it",
config={
"accept_eula": True, # Gemmaの利用規約に同意する
"machine_type": "g2-standard-12",
"accelerator_type": "NVIDIA_L4",
"accelerator_count": 1,
"min_replica_count": 1, # 既定値も1。1台は常に起動したままになる
"max_replica_count": 1,
"endpoint_display_name": "gemma3-1b-poc",
},
)
print(deployed.endpoint) # projects/.../locations/us-central1/endpoints/数字のID
型定義を読むと、deploy_publisher_modelは既定で完了まで待ち、上限はコンソールのワンクリックデプロイと同じ2時間です。レプリカ数の既定は最小・最大とも1台で、エンドポイントは他の利用者と分離された専用DNSで公開されます。Gemmaのデプロイと推論のチュートリアルでも、既定の構成はg2-standard-12とL4 1基です。中のサービングにはvLLMが使われており、仕組みはvLLMの仕組みと使い方で解説しています。
専用エンドポイントへの推論リクエストとデプロイ解除で課金を止める
# チュートリアルのsampleRequestと同じchatCompletions形式で送る
res = client.endpoints.predict(
name=deployed.endpoint,
instances=[{
"@requestFormat": "chatCompletions",
"messages": [{"role": "user", "content": "請求書と見積書の違いを1文で説明してください"}],
"max_tokens": 200,
}],
)
print(res.predictions)
# 検証が済んだら、モデルをデプロイ解除してからエンドポイントを消す
ep = client.endpoints.get(name=deployed.endpoint)
client.endpoints.undeploy(name=deployed.endpoint, deployed_model_id=ep.deployed_models[0].id)
client.endpoints.delete(name=deployed.endpoint)
チュートリアルのPythonサンプルはPredictionServiceClientを地域のAPIホストに向けています。新SDKのclient.endpoints.predictはエンドポイントを読み、専用DNSが有効なら送信先をそちらへ切り替えてから送ります。課金はGPUを割り当てている間ずっと続くため、検証のたびに最後の3行まで実行してください。チュートリアルにあるとおり、エンドポイントはモデルをすべてデプロイ解除しないと削除できません。
MaaSとセルフデプロイの月額をトークン量で比べる損益分岐の考え方
「オープンモデルを自分で載せれば安い」とは限りません。固定費とトークン単価を同じ単位にそろえて比べます。
L4 GPU1基のエンドポイントを24時間動かすと月840ドル前後
Agent Platformの料金ページの予測の表で、既定表示のus-central1(アイオワ)ではg2-standard-12が1時間1.15069ドルです。1か月を730時間とすると、1.15069×730で約840ドルになります。G2シリーズの提供リージョンには東京(asia-northeast1)も並んでおり、地域を切り替えて単価を確かめられます。リクエストが1件も来ない夜間も、この費用は止まりません。
Claude Haiku 5.5の単価で同じ金額を使い切るトークン量
1回あたり入力4,000トークン・出力1,000トークンの問い合わせを仮定します。globalのHaiku 5.5(入力0.10ドル・出力0.50ドル)なら1回0.0009ドルで、840ドルは月93万回、1日あたり約3.1万回に相当します。Sonnet 5.5(入力2.00ドル・出力10.00ドル)では1回0.018ドルで、月4.7万回、1日約1,550回です。
Gemma 3 1BとClaudeでは回答の質が違うので、この比較は費用の目安でしかありません。それでも、Sonnet 5.5なら1日1,500回前後、Haiku 5.5なら3万回前後までは、GPUを常時借りるより従量課金のほうが安く済む計算です。比較ページが挙げるセルフデプロイの条件は、独自の重みやファインチューニング済みモデルを使う場合と、予測できる大量のトラフィックがある場合です。
Model Gardenを使う条件と別の窓口を選ぶ場面の判断基準
ここまでの手順と費用を前提に、Model Gardenを使う場面と使わない場面を分けます。
Google Cloudにデータと権限がまとまっている場合の採用条件
採用してよいのは、次の3条件がそろうときです。業務データとIAMがGoogle Cloudにまとまっている。Claudeなど複数のモデルの請求を、Google Cloudの請求先アカウント1つに寄せたい。どのモデルを誰に使わせるかを、組織のポリシーで一元管理したい。モデルへのアクセス制御のページによると、制約vertexai.allowedModelsで、モデルごとに予測・デプロイ・チューニングを許可または拒否できます。GeminiとClaudeの比較はVertex AI Studio(現Agent Studio)の使い方で扱っている画面で、コードを書く前に試せます。
モデルの選定から、権限設計、費用の見積もり、社内システムへの組み込みまでをまとめて任せたい場合は、一創の生成AI開発・AI受託開発で、Model Gardenのどのモデルをどの形で使うかから一緒に決められます。
販売パートナー経由の請求やAWS中心の構成で採用を見送る場面
見送るのは、請求先アカウントの管理会社の都合でClaudeを有効にできない案件です。組織配下のプロジェクトでは、アクセス制御のページにあるとおり、Claudeのweb検索と構造化出力もvertexai.allowedPartnerModelFeaturesで明示的に許可するまで使えません。ポリシーを変える権限を持つ部署と話がつかないなら、Anthropicと直接契約するほうが早く進みます。
業務データと認証基盤がAWSにあるなら、Claudeを呼ぶためだけにGoogle Cloudを足す理由は薄くなります。その場合はAWS Bedrockのモデル選定と切り替えの判断を先に検討してください。Geminiだけで足りるかを確かめたい場合は、Vertex AIとGemini APIの違いで窓口ごとの差を比べられます。
Vertex AI Model Gardenの導入前によくある質問
Model Gardenを使い始めるときに出やすい疑問に、公式ドキュメントの記載をもとに答えます。
Vertex AI Model GardenとModel Gardenは別の製品ですか?
同じ製品です。2026年4月22日のリリースノートで、Vertex AI Model GardenはModel Gardenへ改称されました。改称後のドキュメントでも、APIのホスト名はaiplatform.googleapis.comのままです。検索で見つかる手順の多くは改称前の画面と旧SDKで書かれていますが、操作の流れはそのまま当てはまります。
Model Garden経由のClaudeとAnthropic直契約は何が違いますか?
両者で異なるのは、請求と認証の窓口です。Model Garden経由では、Google Cloudの請求先アカウントにまとめて請求され、APIキーの代わりにIAMで呼び出しを許可します。プロンプトとレスポンスは第三者と共有されないと、パートナーモデルの利用ページに書かれています。一方で、サーバー側で実行するツールには対応していません。
東京リージョンでClaudeを呼べますか?
2026年10月時点の料金ページで、Claudeの地域タブはglobal・US・EU・us-east5・europe-west1・asia-southeast1・asia-east1で、asia-northeast1(東京)は並んでいません。日本から使う場合は、単価の安いglobalか、近いasia-southeast1(シンガポール)などを選びます。地域ごとの対応はモデルによって違います。国内での処理を契約で求められる案件は、事前にモデルカードの対応リージョンを確かめてください。
Hugging Faceのモデルもデプロイできますか?
デプロイできるのは、Model Gardenが対応しているモデルです。deploy_publisher_modelのmodelにmeta-llama/Llama-3.3-70B-InstructのようなHugging FaceのIDを渡し、利用申請が要るモデルではhugging_face_access_tokenも渡します。安全でないと判定されたモデルは、デプロイのブロック対象です。Hugging Face自体の使い方はHugging Faceでできることと料金で解説しています。
社内で使えるモデルを限定できますか?
利用モデルの限定は可能です。組織・フォルダ・プロジェクトの単位でvertexai.allowedModelsを設定し、許可するモデルをpublishers/anthropic/models/モデル名:predictの形で並べます。値は500個までで、親で明示的に拒否したモデルは、子のポリシーで親を上書きする設定にしない限り、子で許可しても拒否が優先されます。ポリシーはModel Gardenのモデルにだけ効き、Model Registryに登録した自前のモデルには効きません。
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