MOOC(ムーク)とは、Massive Open Online Courseの略で、大学などの講義をインターネットで公開し、多数の人に受講機会を開いたオンライン講座です。複数形でMOOCsとも書きます。無料で学べる範囲はサービスごとに違い、日本のJMOOC認定講座は一部のオプションを除いて修了証まで無料、Courseraは原則として最初のモジュールだけを無料で試せる方式です。
この記事では、2008年の命名から始まる成り立ち、Coursera・edXの運営体制の変化、日本のJMOOCとgaccoの関係、講座数で世界最大になった中国の慕課(ムーク)を、各運営主体の公表値で整理します。
まとめ:MOOCの意味と選び方の要点
- MOOCは大規模(Massive)・公開(Open)・オンライン(Online)・講座(Course)の頭文字で、読み方は「ムーク」です。
- 語は2008年にカナダのマニトバ大学で開かれたCCK08講座をきっかけに生まれ、2012年にCoursera・edXが相次いで始まって世界に広がりました。
- Courseraは2026年5月11日にUdemyとの統合を完了し、edXは2021年に2Uへ移管されました。サービスの運営主体は大きく変わっています。
- 日本ではJMOOCが講座を認定・紹介する協議会で、gaccoはその認定を受けた配信プラットフォームの一つです。gaccoは2026年4月1日にデジタル・ナレッジへ譲渡されました。
- 中国の慕課は2024年12月時点で9.7万講座超・延べ13.9億人の学習実績が公表されています。大学の単位認定との連携が進んでいますが、欧米にも単位認定につながるプログラムがあります。
- 修了率は低く、MITとハーバードのedX講座では2017-18年に3.13%でした。同年度の有料認定証コース参加者群では、修了率は46%でした。
以下、定義と歴史、主要サービス、日本と中国の状況、市場の数字、向き不向きの順に説明します。
MOOC(ムーク)の意味と通常のオンライン講座との違い
MOOCの4つの頭文字と基本的な特徴
MOOCの基本的な特徴は、多数の受講者を想定すること(Massive)、入学試験や在籍資格なしで誰でも登録できること(Open)、学習がネット上で完結すること(Online)、開講期間・課題・修了条件をもつ講座であること(Course)の4条件を満たします。単発の講演動画や、社員だけが見られる社内研修の動画は、4番目か2番目の条件を欠くためMOOCとは呼びません。
学び方は、1本10分前後の講義動画を見て、週ごとの小テストや課題を提出し、掲示板で質問し合う形が標準です。JMOOCの受講案内では、1か月コースの例として、1週間分の学習後に課題を提出し、これを4週繰り返して最後に総合課題を出す流れが示されています。
命名の由来とcMOOC・xMOOC
MOOCという略語は、2008年にマニトバ大学でGeorge SiemensとStephen Downesが開いた講座「CCK08」をきっかけに、Dave CormierとBryan Alexanderが名付けました。Downesの記録によると、授業料を払ってマニトバ大学に登録した学生は24人で、無料参加者が2,200人いました(Stephen Downes)。
この講座は、受講者同士がブログやSNSでつながって学ぶ設計でした。後にこの型をcMOOC(コネクティビズム型)、大学の講義を動画と課題に置き換えた型をxMOOCと呼び分けるようになります。現在「MOOC」と言えば、ほぼxMOOCを指します。
xMOOCが広まったきっかけは、2011年にスタンフォード大学のSebastian ThrunとPeter Norvigが人工知能の講義をオンラインで公開したことです。オンライン登録は16万人で締め切られ、受講者は190以上の国から集まりました(Udacity)。Thrunは同年6月にUdacityを始め(2024年5月にAccentureが買収)、2012年にはAndrew NgとDaphne KollerがCourseraを、ハーバード大学とMITの教員がedXを立ち上げています。
主要なMOOCプラットフォームの運営主体と料金
| サービス | 開始 | 2026年9月時点の運営主体 | 主な有料部分 |
|---|---|---|---|
| Coursera | 2012年 | Coursera, Inc.(Udemyを統合) | Coursera Plus 月59ドル・年399ドル |
| edX | 2012年 | 2U(非上場) | 認定証コース 概ね50〜300ドル |
| Udacity | 2011年 | Accenture(2024年に買収) | 有料プログラム中心 |
| gacco | 2014年 | デジタル・ナレッジ | 一部の有料講座 |
| 中国大学MOOC | 2014年 | 网易(NetEase)と高等教育出版社 | 認定証(講座による) |
| 学堂在线 | 2013年 | 清華大学 | 講座による |
料金は2026年9月17日時点の各公式表示です。Coursera Plusは期間限定の割引が頻繁にあり、edXの認定証は講座ごとに価格が違うため、申し込む前に講座ページで確認してください。
Coursera:Udemyとの統合後の規模
Courseraは2025年12月17日にUdemyとの全株式交換による統合を発表し、2026年5月11日に完了しました。Udemyの株主は1株につきCoursera株0.800株を受け取っています。統合完了時の発表では、両社を合わせた学習者は2億9,000万人、法人顧客は1万8,000社、講師は9万5,000人です(Coursera IR)。
大学講座中心のCourseraと、個人講師が実務講座を売るUdemyは性格が違います。統合直後は両サイトが別々に運営され、受講中の講座や修了証の扱いはすぐには変わらないと説明されています。Coursera上の企業提供講座の例は、GoogleのGoogle Prompting Essentialsの料金・難易度・修了証で詳しく扱っています。
edX:非営利から2Uの事業へ
edXはハーバード大学とMITが非営利で運営してきましたが、2021年6月に両大学が教育企業2Uへ移管する8億ドルの取引を発表しました。売却益は非営利法人側に残されています(MIT News)。その2Uは2024年7月25日に連邦破産法11章の適用を申請し、同年9月13日に非上場企業として再建手続きを終えました。edXは現在も2Uの学習プラットフォームとして続いています。
無料で学べる範囲と修了証の料金
海外サービスの無料範囲は一律ではありません。edXの多くの講座には期間限定の無料聴講枠(audit track)があり、採点付き課題と修了証は対象外です。Courseraは2025年に従来の聴講方式をやめ、ほぼすべての講座で最初のモジュールだけを無料で試せるプレビュー方式に切り替えました(Coursera Blog)。edXでは有料の認定証コース(verified track)が講座ごとに設定され、価格は概ね50〜300ドルです(edXヘルプセンター)。Courseraでは、対象講座の修了証を定額で取り放題にするCoursera Plusが米ドル建てで月59ドル、年399ドルです。
Coursera Plusと講座単位の支払いは、対象講座・受講期間・割引を含めた総額で比較してください。1講座だけでも、講座単位の支払いが安いとは限りません。修了証を職場に出す予定がなければ、無料の範囲だけで十分なことも多いです。
日本のMOOC:JMOOCとgaccoの違い
JMOOCは協議会、gaccoは配信プラットフォーム
JMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)は、2013年11月1日に一般社団法人として設立された団体です。自ら講座を作るのではなく、会員の大学や企業が作った講座を認定し、ポータルサイトで紹介します。認定講座を配信する場は、gacco、OpenLearning, Japan、OUJ MOOC(放送大学)の3つと、JMOOC自身が運営するPlatJaMです(JMOOC)。
つまりgaccoは、JMOOCの認定を受けた配信プラットフォームの一つです。JMOOCのサイトで講座を探し、受講登録はgaccoなど各プラットフォームで行う、という2段構えになっています。gaccoにはJMOOC認定講座のほかに、gacco独自の講座や法人向けサービスもあります。
| 項目 | JMOOC | gacco |
|---|---|---|
| 立場 | 認定・紹介を行う協議会 | 講座の配信サービス |
| 運営 | 一般社団法人(2013年11月設立) | デジタル・ナレッジ(2026年4月から) |
| 受講登録 | 各プラットフォームへ誘導 | gacco上で登録 |
| 規模 | 認定779講座・登録約165万人 | 会員100万人以上 |
JMOOCの数字は2025年3月時点で、延べ学習者数は187万人を超えます。gaccoの会員数は公式サイトの表示で、譲受の発表では130万人超とされています。
gaccoの2026年4月の事業譲渡と運営主体
gaccoは2014年4月にNTTドコモとNTTナレッジ・スクウェアが開講を始めたサービスで、その後はNTTドコモ系の株式会社ドコモgaccoが運営してきました。そこへeラーニング事業者の株式会社デジタル・ナレッジが事業を譲り受けることで合意し、譲受日を2026年4月1日としました(デジタル・ナレッジ)。現在のgacco公式サイトは「デジタル・ナレッジが提供する」「原則無料のオンライン動画学習サービス」と説明しています。
「gaccoはドコモのサービス」と書かれた解説記事は、この変更より前の情報です。法人研修で導入を検討する場合は、契約主体が変わっている点に注意してください。
JMOOC講座が無料で受けられる範囲
JMOOCは「良質な講義」を「誰も」が「無料」で学べる機会の提供を使命に掲げ、講座は一部のオプションを除いて修了証の取得まで無料と案内しています。講座を提供するのは会員の大学や企業で、配信プラットフォーム側は有料講座や法人向けサービスも別に用意しています。無料なのは講座の受講と修了証までで、対面授業などのオプションには費用がかかることがあります。
中国のMOOC(慕課)の規模と主要プラットフォーム
中国の慕課の講座数と延べ学習者数:2024年12月の公表値
中国ではMOOCを「慕課(慕课)」と書きます。中国教育部が2024年12月に公表した数字では、全国に30以上のオンライン講座プラットフォームがあり、公開された慕課は9.7万講座を超え、学習者は延べ13.9億人に達しました。教育部はこれを講座数・学習者数ともに世界一としています(中国教育部)。
比較のために、Class Centralが集計した中国以外の世界全体の数字を見ると、2021年時点で学習者2億2,000万人、講座1万9,400講座です(Class Central)。中国の2024年の公表値とClass Centralの2021年の集計は、時点と集計方法が異なります。この2つの数字から、同時点の中国と中国以外の講座数の比率は判断できません。
中国大学MOOC・学堂在线・国家智慧教育平台
- 中国大学MOOC(icourse163):ポータル大手の网易(NetEase)と高等教育出版社が共同で運営し、2014年に公開されました。教育部の「国家精品開放課程」の受け皿です。
- 学堂在线(XuetangX):清華大学が2013年10月に立ち上げた中国初の慕課プラットフォームです。2026年3月末時点で1.2万講座、世界の累計学習者は1.65億人です(清華大学)。
- 国家智慧教育公共服務平台:教育部が2022年3月28日に公開した国の教育プラットフォームで、高等教育部分では2024年12月の教育部新聞弁公室の公表時点で3.1万講座を公開していました。
欧米ではCourseraやUdacityのような企業が普及の中心になりましたが、中国では教育部と有力大学が主導して整備を進めてきました。
中国の慕課と大学の単位認定の連携
中国の数字を読むときに重要なのは、慕課の学習が在学生の単位認定にも使われている点です。教育部新聞弁公室の2024年12月12日の公表では、在学生が慕課で単位認定を受けた実績は延べ4.4億人次、登録ユーザーは4.83億人です。西部の大学に東部の有力大学の慕課を提供する「慕課西部行計画」では、20.7万講座を提供してきました。
延べ13.9億人は学習人次の集計で、在学生の単位認定に関する学習も含みます。授業として受講を指定された学生の割合は、この公表値だけでは分かりません。自発的な学び直しの人数とは性格が違う可能性があるため、欧米のMOOCの登録者数と並べるときは集計単位の違いに注意が必要です。
MOOC市場の規模を数字で読む際の注意点
「MOOC市場」の推計値を比較する際は、調査対象のサービス、対象地域、基準年、売上高などの集計指標が一致しているかを確認する必要があります。規模をつかむには、上場企業の決算と運営主体の公表値を見るほうが確実です。
Courseraの2026年4〜6月期の売上高は2億9,860万ドルで、前年同期の1億8,710万ドルから大きく増えました。ただしこの期にはUdemyの5月11日以降の売上が含まれているため、増加分の多くは統合によるもので、Coursera単体の伸びではありません。Coursera単体の登録学習者数は2026年3月末時点の2億500万人が最後の開示で、統合後は両社合計の2億9,000万人という別の定義に変わりました。年度をまたいで比べるときは、数字の定義がそろっているかを先に確かめてください。
修了率の低さとMOOCが向かないケース
MOOCでよく指摘される弱点は、登録しても最後まで終える人が少ないことです。Reich(MIT)とRuipérez-Valiente が2019年に学術誌Scienceで発表した分析では、MITとハーバードのedX講座で、2017-18年の登録後に講座を閲覧した参加者群約98万人の修了率は3.13%でした。一方、有料の認定証コースを選んだ約4.6万人に限ると、修了率は46%でした(Science)。
JMOOCは、OpenLearning, Japanで開講したJMOOC講座の平均修了率を29.1%(2019年4月末)と案内しています。集計の方法が違うので上の数字とは並べられませんが、これらの集計だけでは、未修了の理由や、支払い自体が修了率を高める因果関係までは判断できません。
このため、次のような目的ではMOOCだけに頼らないほうが確実です。
- 期限までに資格や学位を取る必要がある場合:MOOCの修了証は大学の学位とは別物です。学位が必要なら、大学のオンライン学位課程や通信制課程を選びます。
- 一人で学習を続ける習慣がない場合:週ごとの締め切りがある講座を選び、学習仲間や指導者に進捗を確認してもらえる環境を用意します。
- 社員研修として受講を管理したい場合:個人向けMOOCでは受講状況を会社側で把握しにくいため、法人向けサービスやLMS(学習管理システム)を使います。
社会人の学び直しの制度全体はリカレント教育の意味と政府の定義で、職務に必要な技能を身につける取り組みはリスキリングのメリットと取り組み事例で解説しています。
MOOCの始め方:講座選びから修了証まで
- 学びたい分野と使える言語を決め、日本語ならJMOOCやgacco、英語ならCourseraやedXで講座を探します。
- 講座ページで開講期間・週あたりの学習時間・修了条件・修了証の有無と料金を確認します。
- 各プラットフォームで無料の会員登録をし、講座に受講登録します。
- 週ごとに講義動画を見て小テストと課題を提出し、わからない点は掲示板で質問します。
- 修了条件を満たしたら修了証を受け取り、必要なら職場やSNSのプロフィールに登録します。
開講期間が決まっている講座は、締め切りを過ぎると課題を出せなくなります。登録したら最初の週に、1週間の学習時間を確保できるかを見極めると挫折しにくくなります。
よくある質問
MOOCの料金はいくらですか?
無料で視聴できる範囲はサービスによって異なり、Courseraは原則として最初のモジュールのプレビューに限られます。JMOOC認定講座は一部のオプションを除いて修了証まで無料です。海外のサービスでは修了証が有料で、edXの認定証コースは講座ごとに概ね50〜300ドル、Coursera Plusは月59ドルまたは年399ドルです(2026年9月時点)。
JMOOCはなぜ無料なのですか?
JMOOCは良質な講義を誰もが無料で学べる機会の提供を使命とする協議会で、講座は会員の大学や企業が提供しています。配信プラットフォームは無料講座とは別に、有料講座や法人向けサービスを用意しています。
MOOCのおすすめはどれですか?
日本語で大学の講義を受けたいならJMOOC認定講座(gacco・OpenLearning, Japan・OUJ MOOC)、英語で海外大学や企業の講座を受けたいならCourseraかedXが候補です。中国語の講座なら中国大学MOOCや学堂在线に大学講座が集まっています。
MOOCで大学の単位や学位は取れますか?
通常のMOOCの修了証は学位ではありません。学位を出すのは、MOOCのプラットフォーム上で大学が提供する有料のオンライン学位課程です。中国では在学生が慕課で単位認定を受けた実績が延べ4.4億人次に上るなど、所属大学が単位として認める仕組みが広がっています。
MOOCとMOOCsの違いは何ですか?
意味は同じで、MOOCsは複数形です。読み方はどちらも「ムーク」で、日本の解説記事や総務省の白書ではMOOCsと書かれることもあります。