ウェブキャスト(Webcast)は、映像や音声をインターネット経由で多数の視聴者へ一方向に届ける配信のことです。Web と broadcast(放送)を組み合わせた語で、米国の辞書 Merriam-Webster は初出を1995年としています。「Webキャスト」「Webキャスティング」「web cast」はいずれも同じものを指します。
日本語では「ウェビナー」と混同されがちですが、ウェブキャストは配信の形式を指す言葉で、ウェビナーはその形式で開くセミナーという催しの名前です。本記事では、語源と呼び方の違い、ウェビナー・Web会議・ライブ配信との違い、配信の仕組み、企業での使われ方、配信手段の選び方、音楽を流すときの権利処理を順に説明します。
まとめ:ウェブキャストの要点
- ウェブキャストは「一対多・一方向」のインターネット配信です。ライブで流す形と、録画をオンデマンドで見せる形があります。
- ウェビナーは視聴者が質問やコメントを送れるオンラインセミナーで、ウェブキャストという形式の上で開く催しの一つと整理できます。全員が発言する打ち合わせはWeb会議です。
- 企業での代表的な用途は、決算説明会のライブ配信、バーチャル株主総会の中継、社内向けのタウンホールです。
- 配信手段は「視聴者を特定する必要があるか」で分けます。不特定多数ならYouTube Live、社内ならTeamsのタウンホール、登録者を名寄せしたいならZoom Webinarsや動画配信システムです。
- Teamsのライブイベントは2026年6月30日に廃止されました。後継のタウンホールは最大1万人の視聴に対応し、それを超える規模には原則として参加者数に応じた Attendee Capacity Pack が必要です。
- ウェブキャストは著作権法上の「放送」ではありません。市販のCD音源を流すと、放送なら要らない実演家とレコード製作者の許諾が必要になります。
以下、言葉の整理から始めます。
ウェブキャストの語源と呼び方の違い
ウェブキャストは、テレビやラジオの broadcast(放送)をWeb上で行うという意味で作られた語です。Merriam-Webster の記載では webcast の初出が1995年、webinar(ウェビナー)が1998年で、ウェブキャストという言葉のほうが先に生まれています。
日本語の表記は「ウェブキャスト」「Webキャスト」「ウェブキャスティング」「Webキャスティング」が混在しています。キャスティングは配信する行為を、キャストは配信そのものを指す使い分けがありますが、実務ではほぼ同じ意味で使われます。俳優やタレントを選ぶ「キャスティング」とは無関係です。
ネットキャストの意味とポッドキャストの別称としての用例
似た言葉に「ネットキャスト(netcast)」があります。1995年8月24日のWindows 95発売イベントをネットで中継した際にも online netcast と呼ばれた記録があり、インターネットで番組を届けるという意味ではウェブキャストとほぼ重なります。
ポッドキャストの別称としての用例もあります。米国のテック番組ネットワーク TWiT を率いる Leo Laporte は2006年、「podcast という名前では iPod が必要だと誤解される」として netcast への呼び替えを提案しました(bit-tech、2006年10月2日)。TWiT は自社ネットワークの名称にも Netcast を使っています。
ウェブキャスト・ウェビナー・Web会議・ライブ配信の違い
4つの言葉は、何を指すかの軸がそれぞれ違います。ウェブキャストとライブ配信は配信の形式、ウェビナーは催しの種類、Web会議は会議の形です。
| 呼び方 | 指すもの | 視聴者の関わり方 | 代表的な道具 |
|---|---|---|---|
| ウェブキャスト | 一対多の配信形式 | 視聴が中心 | YouTube Live、Teamsタウンホール |
| ウェビナー | オンラインのセミナー | 質問・コメントを送る | Zoom Webinars |
| Web会議 | オンラインの会議 | 全員が発言する | Zoom ミーティング、Teams 会議 |
| ライブ配信 | リアルタイムの配信全般 | 配信者の設定による | YouTube Live、Twitch |
Merriam-Webster は webinar を「参加する視聴者が質問やコメントを送れる、ライブのオンライン教育プレゼンテーション」と定義しています。ウェビナーはウェブキャストの形式に質疑の仕組みを足した催しで、ウェブキャストの一種と考えると混乱しません。ウェビナーの開催手順や商談化の設計はウェビナーとは?セミナーとの違い・配信方式と商談化までの仕組みで扱っています。
ライブ配信はウェブキャストのうちリアルタイムで流すものを指すことが多く、個人の配信も含む広い言葉です。企業の発信で「ウェブキャスト」と書くときは、決算説明会のように主催者が話し、視聴者は聞く形を指すのが一般的です。
ウェブキャストを選ぶべきでない場面
一方向で届けるのが前提なので、発言の往復が欠かせない場面では別の形式を選びます。
- 参加者同士の議論が目的:研修のグループワークや商談は、発言の往復が前提のWeb会議で行います。
- 少人数で全員の発言が必要:定例の報告会や意思決定の会議はWeb会議で行います。少人数でも、参加者の顔や声を共有しない説明会ならウェブキャストが候補です。
ライブ型とオンデマンド型、ウェブキャストが届く仕組み
ウェブキャストには、決まった時刻に流すライブ型と、録画を好きな時に見てもらうオンデマンド型があります。決算説明会のように両方を用意し、ライブの録画をそのままオンデマンドで公開する運用が多く見られます。
ライブ型の映像は、おおむね次の順で視聴者に届きます。
- カメラとマイクの信号を、配信ソフトやエンコーダーで圧縮する
- RTMPやSRTといったプロトコルで配信サービスへ送る
- 配信サービスが複数の画質に変換し、HLSなどの形式で数秒単位の断片に分ける
- CDNが断片を各地のサーバーから配り、視聴者のプレーヤーが順に再生する
断片に分けて配るため、話し手と視聴者の間には数秒から数十秒の遅れが出ます。YouTube Liveのエンコーダ配信では遅延を3段階から選べ、「低遅延」は通常10秒未満、「超低遅延」は通常5秒未満です。どちらも4Kには対応せず、超低遅延は視聴者側で読み込み待ちが起きやすくなります。質疑を受けない一方向のウェブキャストなら、全画質と全機能が使える「通常の遅延」を選ぶのが妥当です。
配信方式の技術的な違いはストリーミングとは?仕組み・種類から配信システムの構成まで、取り込みから冗長化までの構築はライブ配信システムの構築|RTMP/SRT取り込みからLL-HLS配信・冗長化・費用設計までで詳しく説明しています。
企業がウェブキャストを使う代表的な場面
決算説明会のライブ配信
上場企業の決算説明会は、ウェブキャストの典型的な用途です。たとえばソフトバンクグループは、2027年3月期第2四半期の決算説明会を2026年11月10日16時30分から、自社サイト・YouTube・X・LinkedIn(英語のみ)でライブ配信すると告知しています。決算短信は同日15時30分に開示する予定です。
この告知には、視聴できない環境があること、通信料は視聴者負担であること、配信を中止する場合の知らせ方、将来見通しに関する免責事項が書かれています。IRでウェブキャストを行うなら、資料の開示時刻と配信開始の順序、配信できなかったときの代替手段まで事前に決めておく必要があります。
バーチャル株主総会の参加型と出席型
株主総会のオンライン化では、ウェブキャストで足りる形と足りない形があります。経済産業省が2020年2月26日に策定した「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」は、次の2つを分けています。
- ハイブリッド参加型:会場にいない株主が、株主であることを確認されたうえで中継動画を傍聴する形です。オンラインの参加者は会社法上の出席株主ではないため、議決権の行使は事前に済ませます。
- ハイブリッド出席型:会場にいない株主がインターネットで会社法上の出席をし、会場の株主と一緒に審議し決議にも加わる形です。
参加型は株主認証付きのウェブキャストで実現できます。出席型はその場での議決権行使や質問の受付が必要で、一方向の配信だけでは足りません。会場を設けない「場所の定めのない株主総会」は、2021年6月16日に施行された改正産業競争力強化法の第66条により上場会社で可能になり、定款の定めと経済産業大臣・法務大臣の確認などが要件です。
社内向けのタウンホール
経営層から全社員への説明会もウェブキャストの形をとります。Microsoft Teams では、この用途を担っていた「ライブイベント」が2026年6月30日に廃止されました。それより前に予約したイベントは2027年2月28日までサポートされます。後継のタウンホールは最大1万人の視聴に対応し、最大10万人への拡張には原則として Attendee Capacity Pack が必要です。2026年4月1日より前に購入したTeams Premiumでは、現在の契約期間が終了するまで従来の最大10万人の権利が維持されます。
視聴者の特定要件で分ける配信手段の選び方
ウェブキャストの道具は、規模よりも先に誰が見たかを主催者が把握する必要があるかで分けると選びやすくなります。
| 手段 | 視聴者の特定 | 規模の目安 | 向く用途 |
|---|---|---|---|
| YouTube Live | できない | 不特定多数 | 決算説明会、製品発表 |
| Teams タウンホール | 設定による | 1万人(追加パックで最大10万人) | 社内説明会 |
| Zoom Webinars | 事前登録で可 | 契約で500人〜最大100万人 | 顧客向けセミナー |
| 動画配信システム | 会員認証で可 | 契約・構成次第 | 有料配信、会員限定 |
YouTube Live は無料で使え、視聴者はアカウントなしで見られます。その代わり、誰が見たかは主催者に分かりません。配信を始めるには、チャンネルの確認を済ませ、過去90日間にライブ配信の制限を受けていないことに加え、配信者が16歳以上であることが必要です。モバイル配信には別途条件があります。
Teams のタウンホールは、Microsoft 365 を使う会社の社内配信に向きます。1万人を超える視聴規模には、原則として必要な参加者数に対応する Attendee Capacity Pack を追加します。
Zoom Webinars はミーティングとは別のアドオンで、ライセンスの定員は500人・1,000人・3,000人・5,000人・10,000人・50,000人から選びます。出席者は「視聴のみ」の扱いで、購入した定員に応じて最大100万人まで配信でき、20万人を超える回は事前の申請が必要です。申込フォームの情報と出席記録を結びつけられるため、セミナーからの商談化を追う用途に合います。
有料講座や会員限定の配信のように、視聴権限の管理やコンテンツ保護まで求めるなら動画配信システムを選びます。ASPと自社構築の比較は動画配信システムとは?仕組み・配信方式と、ASP/自社開発の選び方、製品ごとの比較軸は動画配信システムの比較|同時視聴数・DRM・課金・LMS連携で選ぶ判断軸にまとめています。
ウェブキャストは著作権法上の「放送」ではない:音楽を流す前の権利確認
ウェブキャストという言葉は「放送」を含みますが、日本の著作権法ではテレビやラジオの放送とは別の扱いになります。この違いは、配信中にBGMや市販の楽曲を流すときに効いてきます。
放送と自動公衆送信の定義の違い
著作権法第2条第1項第8号は、放送を「公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信」と定義しています。インターネットの配信は無線通信の放送ではなく、視聴者の求めに応じて送る「自動公衆送信」(同項第9号の4)に当たると考えられています。
文化庁の文化審議会著作権分科会でも、2003年に「ウェブキャスティングについて」という資料が出され、リアルタイムストリーミングとオンデマンドの両方を公衆送信と位置付けていました。当時、WIPOで交渉中だった放送条約では、米国がウェブキャストを保護対象に含めるよう提案し、日本はウェブキャストを対象とせず別の条約で扱うべきだと主張していました。
市販のCD音源を流すと許諾が必要になる理由
放送局が市販のCDを放送で使う場合、実演家とレコード製作者には事前の許諾ではなく二次使用料を払えば足ります(第95条・第97条)。ウェブキャストにはこの仕組みが適用されません。実演家とレコード製作者は、それぞれ実演やレコードを「送信可能化する権利」を持つため(第92条の2・第96条の2)、CDや配信サービスの音源をウェブキャストで流すには、原則として事前の許諾が必要です。
2021年の改正で、放送事業者などが行う放送番組の同時配信には、一定の条件で許諾を得ずに商業用レコードを使い、補償金を払う特例(第96条の3)が入りました。一般企業のウェブキャストはこの特例の対象外です。
作詞・作曲の権利は別に処理します。YouTube は2008年から JASRAC と許諾契約を結んでおり、2023年からは7,500万曲を超えるJASRAC管理楽曲に Content ID が使われています。ただし JASRAC が管理するのは作詞・作曲の権利で、録音物に関するレコード製作者と実演家の権利は対象外です。YouTube 上で管理楽曲を演奏するのは契約の範囲で済んでも、CD音源をそのまま流すことまでは認められていません。BGMは配信での利用を許諾した音源ライブラリから選ぶか、自社で制作します。録画を残して公開する場合の登壇者の同意や共催時の権利処理は、ウェビナーの記事の権利処理の章を参照してください。
よくある質問
ウェブキャストとウェビナーは同じものですか?
同じではありません。ウェブキャストは多数の視聴者へ一方向に届ける配信の形式で、ウェビナーはその形式の上で視聴者が質問やコメントを送れるようにしたオンラインセミナーです。ウェビナーはウェブキャストの一種と考えると整理できます。
ネットキャストとは何ですか?
インターネットで番組を配信することを指す言葉です。1995年のWindows 95発売イベントのオンライン中継をnetcastと呼んだ記録があり、2006年にはTWiTのLeo Laporteがポッドキャストをnetcastと呼び替える案を出しています。意味はウェブキャストとほぼ重なります。
ウェブキャストは無料でできますか?
YouTube Live を使えば配信自体は無料です。チャンネルの確認を済ませていることなどが条件になります。見せる相手を絞るだけなら YouTube の公開範囲の設定でも対応できますが、申込情報と個人ごとの視聴記録を結びつけたい場合は、登録と出席レポートの機能を持つ Zoom Webinars や動画配信システムを比較します。
Webキャスティングミキサーとは何ですか?
配信用にマイクやBGMの音をまとめてパソコンへ送る小型ミキサーのことです。ヤマハは2015年に AG03 系の製品を「ウェブキャスティングミキサー」として発表しており、2022年発売の後継機 AG06MK2・AG03MK2 は「ライブストリーミング向けのミキサー」と呼ばれています。
Teamsのライブイベントの代わりには何を使えばよいですか?
Microsoft は統合された Teams イベントへの移行を推奨しており、大人数への配信はその中のタウンホールで行います。最大1万人の視聴に対応し、最大10万人への拡張には原則として Attendee Capacity Pack が必要です。ライブイベントは2026年6月30日に廃止され、それより前に予約したイベントだけが2027年2月28日までサポートされます。