社用携帯の位置情報は、MDMを入れれば常に見えるわけではありません。iPhoneは端末を管理対象紛失モードにしたときだけ、Microsoft Intuneは管理者が「デバイスの検索」を実行したときだけ位置を取得します。この記事では、OSと登録方式ごとに会社が位置情報を取れる条件を公式仕様で整理し、常時の所在把握が必要な業務での仕組みの選び方、個人情報保護法と就業規則に沿った規程と周知の手順、事業場外みなし労働時間制との関係までを、企業の管理者向けに解説します。
まとめ:社用携帯の位置情報は紛失時の検索と業務上の所在把握を分けて規程に書く
MDMの標準機能で取れる位置情報は、紛失や盗難に備えた一時的な検索が中心です。営業や保守の担当者がいまどこにいるかを業務時間中に把握したいなら、それは別の目的であり、業務アプリや動態管理の仕組みを追加することになります。2つの目的を混ぜたまま「会社は位置情報を見られる」とだけ周知すると、従業員の不信を招きます。
規程には、取得する目的、取得するタイミング、見られる担当者、記録の保存期間、勤務時間外と私物端末を対象外とすることを書いてください。個人情報保護委員会のQ&Aが示すモニタリングの留意点(目的の特定と明示、責任者の決定、ルールの徹底、運用の確認)がそのまま使えます。紛失対策だけが目的なら、常時の位置取得は見送るのが妥当です。
社用携帯の位置情報で会社が見られる範囲とMDM標準機能が想定する紛失時の検索
「会社に位置情報が筒抜けになる」という印象とは逆に、主要なOSのMDM機能は位置の取得を紛失時に絞る設計になっています。MDMそのものの仕組みはMDMとは:モバイルデバイス管理の仕組みとEMM/UEMの違いで解説しているので、ここでは位置情報に関わる仕様だけを取り上げます。
iPhoneは管理対象紛失モードの間だけ位置を取得できる監視対象端末の仕組み
Appleの管理対象紛失モードとリモートワイプの説明によると、監視対象のiPhoneやiPadを紛失したとき、管理者は遠隔で紛失モードを有効にでき、位置情報サービスがオフでも現在の位置情報の送信を要求できます。紛失モードを終える方法は管理者がオフにすることだけで、そのときロック画面またはホーム画面のメッセージで利用者に通知されます。
MDMから位置を問い合わせる命令も同じ条件です。Appleのデバイス情報クエリーの一覧では「デバイスの位置情報を取得」の対象を監視対象のiOSとiPadOSとし、管理対象紛失モードの場合のみ利用可能と明記しています。端末はロックされるので、業務中の社員の居場所を気づかれずに確認する用途には使えません。紛失時に紛失モードと回線停止をどの順で行うかは社用携帯を紛失したときの初動手順で解説しています。監視対象にする登録方式はMDMでiPhone・iPadを管理する方法で扱っています。
Intuneのデバイスの検索は実行した時点だけ収集し24時間で消える位置データ
Microsoft Intuneでは、管理センターから「デバイスの検索」を実行すると地図上に端末の位置が出ます。Microsoft Learnのデバイスの検索アクションの説明(2026年10月時点)によると、位置データはこの操作を始めたときにのみ収集され、それ以前は集めません。データは24時間保存されて自動的に削除され、手動の削除はできないとしています。
対応するのはAndroid Enterpriseの専用端末・完全管理端末・会社所有の仕事用プロファイル端末、監視モードのiOS/iPadOS、Windowsです。iOSで位置を取得するための前提条件は、紛失モードが有効になっていることです。完全管理端末と会社所有の仕事用プロファイル端末では、デバイス制限プロファイルで検索機能を明示的に有効にする必要があり、許可された時点で利用者に1回限りの通知が出ます。オフラインの専用端末だけは、8時間ごとかチェックイン時に集めた最後の位置を最大7日間保持します。
実行できる担当者も絞れます。同じページでは、ヘルプデスクオペレーターなどの組み込みロールか、「リモートタスク/デバイスの検索」の権限を持つカスタムロールが必要としています。規程に書く「位置を見られる担当者」は、このロール割り当てと一致させてください。
Androidの仕事用プロファイルでは利用者が業務アプリの位置情報を切れる
Android Enterpriseヘルプの仕事用プロファイルの位置情報をオンまたはオフにするでは、仕事用アプリが位置情報を収集している場合、管理者が利用者の位置情報を確認できる可能性があるとしています。そのうえで、利用者は設定の位置情報の画面から「仕事用プロファイルで位置情報を使用」をオフにできます。
つまり仕事用プロファイルでは、位置情報を取るかどうかを最終的に切り替えられるのは、利用者側です。訪問記録のために位置が欠かさず必要な業務なら、会社所有の完全管理端末を選ぶことになります。管理方式の違いはAndroid MDMで業務端末を管理する方法で比較しています。
OSと登録方式ごとに会社が位置情報を取得できる条件を並べた比較表
ここまでの公式仕様を、端末の種類ごとに並べます。
| 端末と登録方式 | 位置を取れる条件 | 利用者が気づくか |
|---|---|---|
| 監視対象のiPhone | 紛失モード中のみ | ロック画面に表示 |
| 非監視のiPhone | MDM標準では不可 | 該当なし |
| Android完全管理 | 制限プロファイルで許可 | 許可時に1回通知 |
| Android会社所有の仕事用 | 許可と常に許可の設定 | 許可時に1回通知 |
| Android私物の仕事用 | Intuneの検索は対象外 | 利用者がオフ可 |
| Windows | 位置情報アクセスを強制許可 | 製品の設定による |
表はIntuneとApple標準のMDMの仕様に基づきます。MDM製品が独自のエージェントアプリで定期的に位置を集める場合は、この表と条件が変わるので、製品の資料で取得頻度と保存期間を確かめてください。
常時の所在把握が必要な業務とMDM以外で位置を記録する仕組みの選び方
紛失時の検索ではなく、業務時間中の所在や訪問実績を残したい会社もあります。この場合はMDMの外に位置を記録する仕組みを用意します。
訪問営業・保守・配送で位置情報を使う目的別の取得頻度と記録の残し方
取得頻度は目的から逆算します。訪問営業の実績確認が目的なら、訪問先での打刻時に1回位置を記録する方式で十分です。設備保守で近い担当者に急な出動を割り振るなら、数分おきの位置が要ります。配送や巡回のように経路そのものが業務の記録になる場合は、移動中の連続した記録が必要です。
頻度を上げるほど、勤務の細部まで会社が把握することになります。目的に対して頻度が過剰でないかを、規程を作る前に部署ごとに確認してください。営業部門は打刻時だけ、保守部門は勤務時間中のみ数分おき、といった分け方が現実的です。
打刻時の位置記録と動態管理システムの常時取得で変わる従業員の負担
打刻時だけ位置を残す方式は、勤怠や日報のアプリに位置の項目を足すだけで実現でき、従業員が記録のタイミングを把握できます。常時取得は、移動の経路まで残るため管理側の利点が大きい一方、電池の消費と心理的な負担が増えます。
車両に載せた端末で位置を追う仕組みは動態管理システムとは:GPSでの位置把握の仕組み、社用車の運行記録やアルコールチェックとの関係は社用車の車両管理とはで整理しています。人が持つ社用携帯より、車両の位置として扱うほうが従業員の私的な行動と切り分けやすい点も、方式を選ぶときの材料になります。
個人情報保護法と就業規則から見た社用携帯の位置情報取得の手順と周知事項
位置情報の扱いは、システムの設定より先に社内の手続きで決まります。ここでは法令と公的資料に沿って、規程づくりの順番を示します。
従業員の位置情報が個人情報にあたり利用目的の特定と通知が要る根拠
社用携帯が特定の社員に割り当てられていれば、その端末の位置は社員の行動を示す情報になります。個人情報保護委員会のガイドラインに関するQ&AのQ1-20は、従業員に関する情報も法第2条第1項の定義に該当すれば個人情報にあたるとしています。
個人情報にあたる以上、個人情報の保護に関する法律の第17条に沿って利用目的をできる限り特定し、第21条に沿って本人に通知するか公表することが必要です。同じQ&AのQ2-2は、従業員の個人情報についても利用目的の特定が必要とし、労働組合等への事前通知や必要に応じた協議が望ましいとしています。紛失対策のために取得した位置を勤務評価に使うと、特定した目的の範囲を超えるおそれがあります。
個人情報保護委員会Q&Aのモニタリング4要件を位置情報の運用に当てはめる
同じQ&AのQ5-7は、個人データを扱う従業者をビデオやオンライン等で監視する際の留意点を示しています。本来は情報漏えいを防ぐ監督の文脈ですが、社員の行動を記録するという点で位置情報の運用にも当てはめやすい内容です。
- モニタリングの目的をあらかじめ特定し、社内規程等に定めて従業者に明示する
- 実施の責任者とその権限を定める
- 実施のルールを作り、運用する担当者に徹底する
- ルールどおりに行われているかを確認する
位置情報に置き換えると、1は「紛失時の検索に限る」などの目的、2はIntuneのロールを持つ担当者の指名、3は検索を実行してよい場面の手順書、4は検索の実行記録を定期的に見直す作業です。Q5-7は、重要事項を定めるときに労働組合等へ通知し、必要に応じて協議することが望ましいとも述べています。
就業規則への記載と常時10人以上の事業場で必要な意見聴取と届出の流れ
労働基準法の第89条は、常時10人以上の労働者を使う使用者に就業規則の作成と届出を義務づけ、全労働者に適用する定めをする場合はその事項を記載するよう求めています。社用携帯の位置情報の取得は全員に関わるルールなので、就業規則か、そこから委任した端末管理規程に書くのが筋です。
第90条により、作成や変更の際は過半数で組織する労働組合、ない場合は過半数代表者の意見を聴き、届出にその意見書を添えます。手順は、規程案の作成、意見聴取、労働基準監督署への届出、従業員への周知の順です。周知前に位置取得を始めると、規程の後追いになり説明がつかなくなります。
従業員へ配る案内文に書く項目と個別の同意書を取るかどうかの判断
案内文には、少なくとも次の項目を書きます。MDM導入の手順と失敗例で触れた事前案内に、位置情報の項目を足す形です。
- 位置情報を取得する目的と、目的外に使わないこと
- 取得するタイミング(紛失の届け出時のみ、勤務時間中の何分おき、など)
- 位置を見られる担当者の役職と人数
- 記録の保存期間と削除の方法
- 勤務時間外と休日は取得しないこと
- 私物端末は対象外であること
- 問い合わせ先
個別の同意書は、法令上の通知・公表とは別の手続きです。常時取得や経路の記録のように従業員の負担が大きい運用では、案内文の受領と内容の確認を書面で残しておくと、後の紛争で説明しやすくなります。紛失時だけの検索なら、規程の周知と案内文の配布で足ります。
事業場外みなし労働と勤務時間外の取得で社用携帯の位置情報が問題になる場面
位置情報は、個人情報の扱いとは別の角度でも労務に影響します。見落とされやすいのが、外回りの社員に適用している事業場外みなし労働時間制との関係です。
位置を随時把握して指示する運用が事業場外みなし労働時間制の前提を崩す条件
労働基準法第38条の2の事業場外みなし労働時間制は、労働時間を算定し難いときに使える制度です。厚生労働省の事業者向けQ&Aは、営業社員に携帯電話を持たせ、使用者から随時指示連絡できる体制を維持させているときは、制度を適用できないと考えられるとしています。
厚生労働省の事業場外労働のみなし制の裁判例では、携帯電話の常時電源オンと個別の指示があった阪急トラベルサポート事件(最二小判平成26年1月24日)で適用が否定されました。一方、協同組合グローブ事件(最三小判令和6年4月16日)では、貸与された携帯電話等で随時具体的な指示や報告をしていなかった点が指摘され、原判決の一部が破棄差し戻しとされています。
Q&Aと裁判例はGPSに直接触れていません。ただ、社用携帯の位置を常に把握し、それを見て行き先を指示する運用は「随時指示連絡できる体制」に近づきます。みなし制の対象者に常時の位置取得を入れる前に、労務担当と社会保険労務士に労働時間の算定方法を確認してください。
勤務時間外・休日・私物端末で位置情報を取らないための設定と運用の線引き
社用携帯を自宅に持ち帰る運用では、勤務時間外に位置を取らない仕組みが要ります。Intuneのデバイスの検索は実行したときだけ位置を集めるので、規程で「勤務時間外の実行は紛失の届け出があった場合に限る」と決め、実行記録で確認する形が取れます。常時取得する業務アプリは、勤務時間の外では記録を止める設定にしてください。
私物端末は対象から外すのが原則です。私物端末を業務に使う場合は、端末全体ではなく業務アプリだけを管理する方式を選ぶと、位置情報の論点自体を避けられます。管理範囲の決め方はBYODとは:私物端末の管理範囲と費用負担、アプリ単位の管理はMDMとMAMの違いを参照してください。
社用携帯の位置情報を取る条件と見送る場面:自社で設定するか外部に任せるかの判断
ここまでを踏まえ、位置情報の取得を採用する条件と見送る場面を言い切ります。
紛失対策だけならMDM標準機能で足り常時取得を見送るべき場面の条件
目的が紛失と盗難への備えだけなら、MDM標準の検索機能で十分です。常時の位置取得は入れません。次のいずれかに当たる場合も、常時取得は見送ってください。
第一に、位置の記録を見て判断する業務が具体的に決まっていない場合です。誰も見ない記録は、保存期間と漏えい時の影響だけを増やします。第二に、事業場外みなし労働時間制を適用している職種で、労働時間の算定方法を見直す準備ができていない場合です。第三に、私物端末を業務に使っている社員が多く、会社所有の端末と運用を分けられない場合です。
逆に、保守の出動割り振りや配送の経路記録のように、位置そのものが業務の入力になる場合は、取得頻度と保存期間を決めたうえで採用してよい場面です。
業務アプリへの位置記録の組み込みや勤怠連携を外部に任せる判断基準
MDMの設定とロールの割り当てだけで済むなら、情報システム担当が自社で進められます。外部に任せるのは、訪問先での打刻時に位置を残す機能を既存の業務アプリや日報に組み込む場合、勤怠システムと位置記録を突き合わせて労働時間の算定に使う場合、勤務時間外は記録を止める制御を自前のアプリに入れる場合です。いずれもMDM製品の設定画面では完結しません。
一創では、業務システムの改修や運用中のアプリへの機能追加を保守運用・内製化支援として承っています。目的と取得頻度、保存期間が決まった段階で相談いただくと、必要な改修の範囲を絞り込めます。
よくある質問
社用携帯の位置情報について、管理者と従業員の双方から寄せられやすい質問に答えます。
社用携帯の位置情報は会社にいつでも見られていますか?
MDMの標準機能に限れば、いつでも見られる状態ではありません。iPhoneで位置を取得できるのは、監視対象の端末を管理対象紛失モードにしたときだけで、その間の端末はロックされた状態です。Intuneのデバイスの検索も、管理者が実行した時点の位置を集めるだけで、データは24時間で削除されます。ただし、会社が業務アプリや動態管理の仕組みを別に入れている場合は、勤務時間中に定期的に記録されることがあります。何が記録されるかは、会社の規程と案内文で確認してください。
社用携帯の位置情報をオフにしてもよいですか?
会社の規程に従うのが前提です。Androidの仕事用プロファイルでは、利用者が設定から「仕事用プロファイルで位置情報を使用」をオフにできます。一方、iPhoneの管理対象紛失モードは位置情報サービスがオフでも位置を取得できるため、オフにしても紛失時の検索は止まりません。業務で位置の記録が必要と定められている職種で勝手にオフにすると、業務命令違反を問われる可能性があるため、まず上長か情報システム担当に確認してください。
従業員の同意がないまま位置情報を取得すると違法になりますか?
個人情報保護法は、取得の際に本人の同意ではなく、利用目的の特定と通知または公表を求めています。そのため同意書がないことだけで直ちに違法とはなりません。問題になりやすいのは、目的を示さずに取得すること、特定した目的の外で使うこと、勤務時間外や休日まで追うことです。個人情報保護委員会のQ&AのQ5-7が示すように、目的を規程に定めて明示し、責任者とルールを決めて運用を確認しておけば、説明のつく運用になります。
休日に社用携帯の位置情報を確認してもよいですか?
紛失や盗難の届け出があった場合を除き、確認しないルールにするのが妥当です。休日は労務を提供する時間ではないため、業務上の必要が説明できません。Intuneのように実行時だけ位置を集める仕組みなら、規程で休日の実行条件を限定し、実行記録を定期的に確認することで守れます。常時記録する業務アプリを入れている場合は、勤務時間外に記録を止める設定にしてください。
MDMを入れると私物スマホの位置情報も会社に知られますか?
私物端末に仕事用プロファイルを入れる方式では、会社が管理するのは仕事用の領域です。Intuneのデバイスの検索も、Microsoft Learnの対応一覧では私物の仕事用プロファイル端末は対象に入っていません。ただし、仕事用アプリが位置情報を集めている場合は管理者が確認できる可能性があるとGoogleは説明しており、利用者は仕事用プロファイルの位置情報をオフにできます。私物端末の業務利用では、業務アプリだけを管理する方式を選ぶと位置情報の論点自体を避けられます。
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