GenUは、AWS が GitHub で公開している生成AIアプリケーションの実装です。契約して使うSaaSではなく、自社のAWSアカウントにデプロイして動かすソースコードが本体なので、「いくらかかるのか」「何ができるのか」の答え方も市販の生成AIサービスとはまったく違います。この記事では、公式リポジトリとAWSの構成例から実測できる範囲だけを使って、GenUの正体・標準機能・料金・導入手順・つまずきやすい既定値を整理します。
まとめ:GenUはAWSが無償公開する生成AIアプリの実装で、費用はAWS利用料だけ
- GenUは Generative AI Use Cases の略称で、AWS が
aws-samples/generative-ai-use-casesにMIT-0ライセンスで公開しているアプリ実装です。製品として販売されているものではありません。 - ライセンス費用はゼロで、発生するのはAWSの従量課金だけです。AWSの構成例では、RAGなしのチャットが月39.63 USD、Bedrock Knowledge Base版のRAGが285.69 USD、Amazon Kendra版のRAGが942.21 USDと試算されています(いずれも利用者50人・1日10回質問・月22日の前提)。
- チャットや要約など12種類のユースケースを最初から備え、AWS Cloud Development Kit(CDK)で自社アカウントへデプロイします。公式READMEでは、デプロイ完了まで20分程度かかる場合があると案内されています。
- RAG・エージェント・MCPは既定ではすべて無効で、
cdk.jsonかparameter.tsで有効化します。これから新規にRAGを組むならKnowledge Base側を選びます。Amazon Kendraは2026年7月30日に新規顧客の受付を終了しているためです。 - セルフサインアップが既定で有効なので、社内配布の前にドメイン制限・SAML認証・AWS WAFのIP制限のどれを使うかを決めておく必要があります。
以下では、GenUの位置づけから順に、公式ドキュメントの記述と設定ファイルの実値で確認していきます。
GenUの正体:購入する製品ではなく、自社アカウントに配置するリファレンス実装
GenUの本体は、AWSのサンプル公開組織である aws-samples が管理するリポジトリ generative-ai-use-cases です。ライセンスはMIT-0、2026年9月9日時点でスター数は1,381、最新リリースは2026年7月19日公開の v5.5.0 です。日本語のREADMEでは「生成 AI を安全に業務活用するための、ビジネスユースケース集を備えたアプリケーション実装」と説明されています。
ここが理解の分かれ目になります。GenUには申し込み窓口も利用プランも存在しません。利用者はソースコードを取得し、自分のAWSアカウントにデプロイして、そのアカウントの請求としてAWS利用料を払います。したがって「GenUの料金プラン」を探しても見つからず、代わりに見るべきものはAmazon Bedrockをはじめとする各AWSサービスの従量課金です。
名称と読み方:Generative AI Use Cases の略で、旧称はGenerative AI Use Cases JP
GenUはGenerative AI Use Casesの略称です。もともとは Generative AI Use Cases JP という名前で公開されていました。多言語対応はv4.0.0で入り、続くv4.0.1のリリースノートには「fix application name: remove jp」と記録されています。現在は英語・日本語・韓国語のREADMEが並びます。旧URLは現在のリポジトリへ転送されます。なお、公式リポジトリの日本語READMEと日本語ドキュメント(docs/ja)には読み仮名の記載がありません(2026年9月9日時点)。日本語圏ではジェンユーと読まれることが多いものの、公式の表記はアルファベットのGenUです。
AWSの生成AIサービスとの関係
GenUは推論エンジンを自前で持たず、Amazon Bedrock上のモデルを呼び出します。既定の設定ファイルでは modelRegion が us-east-1、テキスト生成モデルにClaudeのグローバル推論プロファイルやAmazon Nova、DeepSeek-R1が並びます。つまりGenUは「Bedrockを業務利用しやすい画面と権限管理でくるんだ入れ物」であり、モデルの実力や課金はBedrock側の話になります。AWS上でのClaudeの提供形態を先に押さえたい場合は、AWS上でClaudeを利用する仕組みと提供形態の全体像整理が参考になります。
標準で使える12種類のユースケース
GenUをデプロイした直後の画面には、以下の12種類のユースケースが並びます(README_ja.mdの一覧より)。不要なものは hiddenUseCases で非表示にできます。画像生成・動画生成・音声チャットは対応するモデルIDが設定されていることが有効化の条件で、既定の cdk.json にはAmazon Nova系のモデルIDが入っています。映像分析はマルチモーダルモデルが modelIds に含まれていることが条件です。
| ユースケース | 主な用途 |
|---|---|
| チャット | LLMとの対話・プロンプト検証 |
| 文章生成 | 記事・レポート・メール |
| 要約 | 長文の要約・対話での抽出 |
| 執筆 | 推敲・改善提案 |
| 翻訳 | 文脈を指定した翻訳 |
| Webコンテンツ抽出 | URLから本文整形 |
| 画像生成 | プロンプト支援つき生成 |
| 動画生成 | テキストから短尺動画 |
| 映像分析 | 画像フレームの分析 |
| ダイアグラム生成 | 文章から図の作成 |
| 議事録生成 | 録音・文字起こしから作成 |
| 音声チャット | 割り込み可能な音声対話 |
この一覧に加えて、プロンプトテンプレートを書くだけで独自画面を生成するユースケースビルダーがあります。GenU本体のコードを変更せずに社内向けの用途を追加でき、作成したユースケースはJSONファイルとして書き出して共有できます。チャットのシステムプロンプト保存機能を使えば、用途特化のボットをワンクリックで用意することもできます。
アーキテクチャ:どのAWSサービスが立ち上がるか
CDKのコンストラクトが参照しているモジュールを見ると、GenUが組み立てる構成がそのまま読み取れます。フロントエンドはAmazon S3とAmazon CloudFront、認証はAmazon Cognito、APIはAmazon API GatewayとAWS Lambda、会話履歴やシステムプロンプトの保存はAmazon DynamoDBです。議事録ユースケースではAmazon Transcribeを使い、RAGを有効化するとAmazon KendraまたはBedrock Knowledge Basesが加わります。KendraのインデックスをスケジュールでつくるためのAWS Step Functionsや、アクセス制限に使うAWS WAFも同じ仕組みの中に含まれます。
認証にCognitoを使うため、ユーザープールの設計やトークン検証の考え方はGenU固有の話ではありません。仕組みから理解しておきたい場合は、Cognitoで認証基盤を実装する手順の内容がそのまま当てはまります。
導入手順:CDKで20分、手元環境がなければCloudShell
デプロイ前に確認しておく点がひとつあります。設定した modelRegion のリージョンで、modelIds に並ぶモデルを実際に呼び出せる状態かどうかです。GenUのREADMEはAmazon BedrockのModel access画面での有効化を案内していますが、AWSのドキュメントでは、商用リージョンの基盤モデルは適切なAWS Marketplace権限があれば既定で利用可能と説明されています。第三者提供のモデルは初回呼び出し時に裏でサブスクリプション処理が走るため、権限が足りないと呼び出しがAccessDeniedExceptionで失敗します。
手元にNode.jsとAWS認証情報がある場合の手順は次のとおりです。CDKを初めて使うアカウントでは、最初の一度だけBootstrapが必要になります。
git clone https://github.com/aws-samples/generative-ai-use-cases
cd generative-ai-use-cases
npm ci
npx -w packages/cdk cdk bootstrap
npm run cdk:deploy
READMEはデプロイ完了まで20分程度かかる場合があると案内しています。作成されるリソースの事前確認を省いて素早く反映したい場合は npm run cdk:deploy:quick を使います。
手元環境を用意できない場合はCloudShellのdeploy.sh
ローカルに実行環境を作れないときは、ブラウザだけで完結するAWS CloudShellからスクリプトを実行します。設定を変えたい場合は cdk.json か parameter.ts をCloudShellにアップロードし、パスを引数で渡します。
wget https://raw.githubusercontent.com/aws-samples/generative-ai-use-cases/refs/heads/main/deploy.sh -O deploy.sh
chmod +x deploy.sh
./deploy.sh --cdk-context ~/cdk.json
デプロイが終わるとCloudFrontのURLが表示され、そこがGenUの入口になります。なお、以前案内されていたAWS Cloud9を使う手順は、Cloud9が新規のお客様向けアクセスを閉じたことを受けて公式ドキュメント上で非推奨(DEPRECATED)と明記されています。検索で古い記事に当たった場合は、CloudShell側の手順に読み替えてください。
削除はスタックごと、S3の中身に注意
試用をやめるときは npm run cdk:destroy を実行します。Cognitoのユーザープールやテーブルのデータも消えるため、業務利用後の削除では退避を先に済ませます。デプロイ時と削除時で設定値が食い違うとスタックが残ることがあるので、CloudFormationの画面で modelRegion 側のリージョンも含め、関連スタックが残っていないか確認します。
料金:ライセンス費用はゼロ、見るのはAWSの構成例3種
GenU自体は無償のため、費用の話はデプロイ先AWSアカウントの請求に置き換わります。AWSは日本語のクラウド導入支援ページでGenU相当の構成例と月額試算を公開しており、選ぶ構成で桁が変わります。
| 構成例 | 月額概算 | 試算の主な前提 |
|---|---|---|
| RAGなしのチャット | 39.63 USD | 1質問50入力・200出力トークン |
| RAG(Bedrock Knowledge Base) | 285.69 USD | OpenSearch Serverless 0.5 OCU |
| RAG(Amazon Kendra) | 942.21 USD | Kendra Developer Edition |
3つとも共通の前提は、利用ユーザー50人・1日10回質問・月22日利用です。RAGありの2構成では1質問1,000入力トークン・1回答400出力トークンで計算されています。差額の大半はモデル利用料ではなく検索基盤側で、Kendraのインデックス費用が月額を押し上げます。Knowledge Base自体には料金がかからず、課金対象は裏で動くOpenSearch ServerlessとBedrockです。
この試算をそのまま自社の見積もりにはできません。チャットの試算はClaude 3 Sonnetの単価で計算された当時の資料であり、東京リージョン未提供を理由にバージニア北部の単価が使われています。無料利用枠も考慮されていません。実務では、使うモデルの現在の単価と、社内で想定するトークン量を当てはめ直す作業が必要です。Bedrock側の課金の考え方は、Amazon BedrockでRAGを実装する手順で扱っているKnowledge Baseの構成差を合わせて見ると見積もりの精度が上がります。
RAGを新規に組むならKnowledge Base一択になる理由
GenUのRAGチャットは、情報ソースとしてAmazon KendraとBedrock Knowledge Basesの2種類を選べます。設定上は今も両方が生きていますが、新規に構築する場合の選択肢は実質ひとつです。AWSのドキュメントには、Kendraについて「Amazon Kendra is no longer open to new customers.」と明記されています。公式の告知によれば、2026年6月30日付でメンテナンスモードに入り、2026年7月30日以降は新規顧客に提供されていません。既存顧客へのバグ修正とセキュリティ更新は継続されますが、新機能の開発は行われません。
つまり、これからGenUを立てるアカウントでは ragEnabled(Kendra側)ではなく ragKnowledgeBaseEnabled を有効化する形になります。前掲の料金でもKendra版が942.21 USD、Knowledge Base版が285.69 USDと3倍以上の開きがあり、コスト面でも同じ方向を向きます。Kendraの現状と移行先の考え方はAmazon Kendraとは?新規受付終了と移行先の判断に詳しく、社内文書をどう取り込むかという素材側の設計はナレッジベースとRAGの違いが扱っています。
既定値の落とし穴:セルフサインアップは最初から有効
GenUの設定ファイルを開くと、selfSignUpEnabled が true になっています。デプロイ直後の状態では、CloudFrontのURLを知っている人が自分でアカウントを作成できるということです。社内利用を前提にするなら、公開前に次のいずれかを決めておきます。
{
"context": {
"selfSignUpEnabled": false,
"allowedSignUpEmailDomains": ["example.co.jp"],
"allowedIpV4AddressRanges": ["192.168.0.0/24"],
"allowedCountryCodes": ["JP"]
}
}
allowedSignUpEmailDomains は許可ドメインの配列で、各要素にアットマークを含めません。上の例では selfSignUpEnabled が false のため画面からの自己登録は無効で、この配列は管理者によるユーザー作成時のドメイン制限として働きます。空配列を指定するとすべてのサインアップを禁止できます。既にCognitoに登録済みのユーザーには影響しないため、運用開始後に締める場合は既存ユーザーの棚卸しが別途必要です。IPと国の両方を指定した場合は、許可IPからのアクセスかつ許可国からのアクセスだけが通る、というAND条件になります。より厳密な運用が必要なら、SAML認証で社内IdPに寄せる設定も用意されています。
あわせて、RAG・エージェント・MCPチャット・AgentCoreは既定で無効ですが、ユースケースビルダーは既定で有効です。Web検索エージェントはBraveまたはTavilyの検索APIを呼び出すため、searchEngine でどちらを使うかを選び、searchApiKey にそのAPIキーを設定します。エージェントチャットのユースケースだけは外部APIへデータを送るため、社内ポリシーとの突き合わせが必要です。必要な機能だけを明示的に有効化していく設計だと理解しておくと、初回デプロイの構成を最小にできます。
運用の前提はmainブランチへの追従
公式ドキュメントは、機能追加だけでなくセキュリティ関連の更新も入るため、定期的にmainブランチをpullして再デプロイすることを勧めています。CloudShellのdeploy.shは常に最新のmainをデプロイする作りなので、再実行がそのまま更新になります。
この「mainが正」という運用は、リリースタグとの差として実際に現れます。2026年9月9日時点で、mainの cdk.json の既定モデル一覧には global.anthropic.claude-opus-5 が含まれますが、最新リリースであるv5.5.0のタグにはまだ含まれていません。タグで固定して運用すると、新しいモデルの既定追加やドキュメントの更新から取り残されます。一方でmainは常時変化するため、本番環境に直接当てるのではなく、検証用の環境を別に立てて確認してから反映する運用が現実的です。同一アカウントに複数環境をデプロイするオプションが用意されているのは、この使い分けのためです。
よくある質問
GenUは無料ですか?
ソフトウェアとしては無料です。MIT-0ライセンスで公開されており、利用料やサブスクリプションはありません。費用が発生するのはデプロイ先のAWSアカウントで、Bedrockのトークン課金やCloudFront、Lambda、DynamoDB、RAGを使う場合の検索基盤の料金が請求されます。
GenUの読み方と正式名称は?
正式名称はGenerative AI Use Casesで、GenUはその略称です。旧称はGenerative AI Use Cases JPでした。公式リポジトリの日本語READMEと日本語ドキュメントには読み仮名の記載がないため、表記としてはGenUをそのまま使うのが安全です。
東京リージョンだけで動かせますか?
既定の modelRegion は us-east-1 ですが、公式ドキュメントには ap-northeast-1 を指定する設定例が用意されています。指定できるのはそのリージョンで利用できるモデルに限られ、クロスリージョン推論のモデルIDを使う場合は接頭辞とリージョンを一致させる必要があります。
GenUをそのまま本番システムとして使ってよいですか?
aws-samplesで公開されているサンプル実装であり、AWSのサポート契約対象の製品ではありません。セルフサインアップの無効化、WAFによる制限、SAML認証、ガードレールの設定など、必要な設定を自社の基準に合わせて行い、更新にも追従する前提で使うことになります。
使わなくなったら消せますか?
npm run cdk:destroy でスタックごと削除できます。Cognitoのユーザープールやテーブルのデータも同時に消える点と、デプロイ時と設定が異なるとスタックが残る場合がある点に注意してください。