Gemini APIに送ったプロンプトがGoogleの学習に使われるかどうかは、APIの設定項目ではなく「どのプロジェクトから呼んだか」で決まります。課金が有効なCloudプロジェクト経由なら有料サービスとして製品改善に使われず、無料枠なら使われるというのが2026年11月7日時点の規約です。本記事では、その境目の条件に加えて、有料でも学習に回る例外、学習とは別に55日残るログ、store=Falseのコード、Vertex AI(現Gemini Enterprise Agent Platform)でゼロデータ保持まで詰める設定を整理します。最後に、業務データを送ってよい条件と見送る場面を言い切ります。
まとめ:Gemini APIに学習させない条件は課金済みプロジェクトと共有設定の2点
学習させないための条件は2つだけです。1つ目は、課金が有効なCloudプロジェクトのAPIキーで呼ぶこと。2つ目は、そのプロジェクトでContributor Tierを有効にせず、ログのデータセットをGoogleと共有しないことです。
学習に使われないことと、データが残らないことは、それぞれ別に確認すべき事項です。有料枠でも不正利用監視のために入出力が55日保持され、Interactions APIは既定でやり取りを保存します。社外秘を扱うなら、保持期間の短縮とstore=Falseまで設定してから本番に入ります。
契約でゼロデータ保持を求められる案件は、Developer APIではなくAgent Platformで組みます。キャッシュの停止とプロンプト記録の扱いを、プロジェクト単位で制御できるからです。Gemini API全体の位置づけは親記事のGemini APIとは?できること・料金・始め方とInteractions APIの最小コードにまとめています。
Gemini APIの入力が学習に使われる条件:無料枠と有料枠で分かれる規約の境目
根拠になる一次情報は、2026年3月23日発効のGemini API追加利用規約です。規約はサービスを「Unpaid Services(無料)」と「Paid Services(有料)」に分け、データの扱いをそれぞれ定めています。
無料枠の入出力は製品改善に使われ人間のレビュアーが読む場合がある規定
無料サービスについて、規約は入力と生成された応答を、Googleの製品・サービスと機械学習技術の提供・改善・開発に使うと定めています。品質向上のために人間のレビュアーが入出力を読み、注釈を付ける場合がある点も明記されています。レビューの前にGoogleアカウントやAPIキー、Cloudプロジェクトとの紐付けは外されますが、本文そのものは読まれる前提です。
規約には「Do not submit sensitive, confidential, or personal information to the Unpaid Services.」という一文があります。無料枠に顧客情報や社外秘を送るのは、学習の有無以前に規約の注意書きに反する使い方です。料金ページの「Used to improve our products」の行も、gemini-3.8-flashで無料枠が「Yes」、有料枠が「No」になっています。
有料扱いになるのは課金が有効なCloudプロジェクト経由の呼び出しだけという条件
有料サービスでは、プロンプトと応答を製品改善に使わず、データ処理補遺(DPA)に従って処理すると規約に書かれています。対象にはシステム指示、キャッシュしたコンテンツ、画像・動画・文書などのファイルも含まれます。
注意したいのは、有料扱いになる条件です。Gemini APIは、有効な請求先アカウントに紐づいたCloudプロジェクト経由で呼んだ場合にだけ有料サービスになります。同じ会社の開発者でも、個人で発行した無料プロジェクトのキーで呼べば無料サービスの扱いです。キーの発行と管理の手順はGemini APIキーの取得方法:AI Studioでの発行・環境変数・制限と漏洩時の失効で扱っています。
AI Studioの画面は少し扱いが異なります。利用者のアカウントに課金が有効なCloudプロジェクトが1つでもあるか、Workspaceのエンタープライズアカウントであれば、画面での入力も有料サービスとして扱われます。もう1点、欧州経済領域・スイス・英国の利用者に提供するアプリは、有料サービスでしか作れません。
有料枠でも学習に回る例外:Contributor Tierとデータセットの共有
課金済みのプロジェクトでも、入力が学習に使われる経路が2つあります。上位の解説記事では触れられていない部分です。
1つはContributor Tierです。データのログと共有のポリシーによると、データの利用を許可する代わりに、gemini-4-argon・gemini-3.8-flashなど対象モデルのトークン料金が最大50%割引になる招待制のプレビューです。有効にしたプロジェクトでは、対象モデルの利用データが無料サービスの規約で扱われます。料金ページのContributorタブでは、有料枠の列も「Yes」です。
もう1つはデータセットの共有です。AI Studioのログから作ったデータセットを「デモンストレーション例」としてGoogleに共有すると、製品と機械学習技術の改善に使われ、人間のレビュアーが読む場合があります。共有はプロジェクトの所有者が選んで有効にするもので、既定ではオフです。半額の誘いに乗る前に、そのプロジェクトで社外秘を扱っていないかを確かめてください。
学習させなくても残るデータ:不正利用監視の55日とInteractionsの保存期間
「学習に使わない」は「保存しない」を意味しません。有料枠でもGoogle側に残るデータは3種類あり、保持期間と止め方がそれぞれ違います。
有料枠でも不正利用監視のため55日間ログが保持される対象範囲
Gemini APIの不正利用監視のページは、ポリシー違反の検出と防止のため、プロンプト・追加のコンテキスト・生成された出力を55日間保持すると定めています。有料と無料の区別は書かれていません。規約側も、有料サービスのログを「限られた期間」、違反の検出・防止、安全性の維持、法令上の開示のためだけに保持するとしています。
このログは、承認されたGoogleの担当者だけが人手のレビューで参照できます。ポリシー執行用のモデル以外の学習には使わない、と明記されています。このページには、ログの保持を止める申請の手段は書かれていません。Azure OpenAIのように申請で不正使用監視のログ保持を止められる仕組みとの違いは、Azure OpenAIのオプトアウト申請:不正使用監視のログ保持を止める条件と手順と比べると分かりやすいです。
Interactions APIとログ機能の既定保存と7〜55日の保持期間の設定
2つ目は、開発者が見るためのログです。Interactions APIの概要ページによると、APIは既定ですべてのやり取りを保存し(store=true)、保持期間は有料枠で55日、無料枠で1日です。
見落としやすいのが、従来のgenerateContentの扱いです。ログとデータセットのページでは、2026年10月26日以降に作った新規プロジェクトは、generateContentの呼び出しも既定でログに保存されます。それより前のプロジェクトは、AI Studioで有効にしない限り保存されません。保持期間はプロジェクトごとに7日・14日・28日・55日から選べます。ただし、データセットに入れたログは期限で消えません。
Google検索・Googleマップのグラウンディングで30日保存される例外
3つ目は、検索連携の機能です。Google検索によるグラウンディングを使うと、プロンプト、コンテキスト、出力が検索結果の生成のため30日間保存され、デバッグやテストにも使われる場合があります。Googleマップによるグラウンディングも同じく30日です。いずれも規約上の扱いで、設定では止められません。
社外秘を含む問い合わせに検索連携を付けると、保存期間がこの30日に延びます。社内文書を根拠に答える処理なら、検索連携ではなく自前の検索で文書を取り出し、プロンプトに入れる構成にしたほうが扱いを説明しやすくなります。
Gemini APIに学習させない業務設定:課金確認からstore=Falseまで
ここからは、Developer APIの有料枠で業務データを扱う前に行う設定を順に示します。確認は課金、AI Studioの設定、コードの3か所です。
gcloudで本番プロジェクトの課金が有効かを確かめるコマンド
最初に、本番で使うAPIキーのプロジェクトが本当に課金済みかを確かめます。gcloud billing projects describeでプロジェクトの請求情報を表示できます。
# プロジェクトIDはAI StudioのProjects画面で確認する
gcloud billing projects describe my-gemini-prod
# 出力の形(値は例)
billingAccountName: billingAccounts/0X0X0X-0X0X0X-0X0X0X
billingEnabled: true
name: projects/my-gemini-prod/billingInfo
projectId: my-gemini-prod
ProjectBillingInfoの定義では、billingEnabledは有効な請求先アカウントに紐づいているときにtrueになります。falseなら無料サービスの扱いです。CIの本番デプロイの前にこのコマンドを流し、trueでなければ止める、という確認を入れておくと、個人の無料キーの混入を防げます。課金の有効化手順そのものはGemini APIの料金と無料枠:モデル別単価・課金設定・費用の計算コードにあります。
AI Studioのログ設定で保持期間とデータセット共有を見直す4つの手順
次にAI Studioの「Logs and Datasets」画面で、本番プロジェクトの設定を見直します。
- Settingsパネルで、
generateContentとInteractions APIのログを使うかをそれぞれ決める(両者は別々に切り替えられる) - ログを残す場合は、保持期間を55日から必要な最短の日数(7日・14日・28日)に下げる
- データセットのGoogleへの共有と、使用状況のフィードバック共有が有効になっていないことを確かめる
- Contributor Tierの招待を受けていても、社外秘を扱うプロジェクトでは有効にしない
ログを切ると、AI Studioのダッシュボードで障害時のやり取りを追えなくなります。デバッグ用には別の検証プロジェクトでログを残し、本番は短い保持期間にする分け方が現実的です。不正利用監視の55日は、この設定とは関係なく残ります。
store=Falseでやり取りをサーバーに残さないPythonコード
最後はコード側です。Interactions APIではリクエスト単位のstoreがプロジェクトの設定より優先されるので、顧客データを送る処理には毎回store=Falseを付けます。SDKの導入と基本の書き方はGemini APIの使い方(Python):google-genai 3.0で生成・ストリーミング・関数呼び出しを参照してください。
# 事前に: pip install -U "google-genai>=3.0.0"
from google import genai
def ask_without_storing(client, text):
# store=False でやり取りをGoogle側に保存させない
# この場合 previous_interaction_id とバックグラウンド実行は使えない
interaction = client.interactions.create(
model="gemini-3.8-flash",
system_instruction="問い合わせ内容を「請求」「障害」「その他」に分類し、分類名だけを返します。",
input=text,
store=False,
)
return interaction.output_text
# 環境変数 GEMINI_API_KEY には課金済みプロジェクトのキーを入れる
with genai.Client() as client:
print(ask_without_storing(client, "請求書の金額が先月と違います(顧客番号 A-1024)"))
store=Falseにすると、会話を続けるときにprevious_interaction_idが使えません。履歴は自社のデータベースに持ち、毎回送り直す設計になります。保存したやり取りを後から消すdeleteメソッドも公式に案内されていますが、Developer APIで501が返るという報告がSDKのissueに上がっており、消す前提より保存させない前提で組むほうが確実です。
Vertex AI(Agent Platform)で学習させずゼロデータ保持まで詰める設定
Developer APIで止められない保存を止める必要があるなら、Agent Platformに移ります。2つの製品の契約・SLA・料金の違いはVertex AIとGemini APIの違い:認証・SLA・データ保存・所在地・料金を比較で整理しています。
Agent Platformの学習制限とMaster Agreementの記録除外
Agent Platformのゼロデータ保持のページは、事前の許可や指示なしに顧客データでAI/MLモデルを学習・ファインチューニングしないと明記しています。GA版とプレビュー版のモデルの両方が対象です。
不正利用監視についても、Developer APIとは記録の条件が異なる仕組みです。Agent Platformの不正利用監視のページによると、生成AIサービス全般では、自動の分類器が不審な活動を検出したときにプロンプトを最大90日記録します。ただし、Google Cloud Master Agreementを結んでいる顧客は、このプロンプト記録の対象外です。Googleのフロンティアモデルについては、別枠で入出力を最大30日記録する場合があると書かれているので、使うモデルがどちらに当たるかの確認も必要です。一方、AnthropicのClaude Fable 5のように他社のAdvanced AIモデルに分類されるものは、入出力をすべて最大30日記録します。そのため、ゼロデータ保持が要件ならモデルの選択にも制約がかかります。
cacheConfigで最大24時間のキャッシュを止めるRESTリクエスト例
Agent PlatformのGeminiでは、入出力をインメモリと永続の2種類のキャッシュに置く仕組みが既定です。インメモリは書き込みから24時間以内に消えますが、ゼロデータ保持を求める契約ではキャッシュも止めます。設定はroles/aiplatform.adminを持つアカウントで、プロジェクト単位に行います。
# 現在の設定を確認する
curl -X GET \
-H "Authorization: Bearer $(gcloud auth application-default print-access-token)" \
https://us-central1-aiplatform.googleapis.com/v1/projects/PROJECT_ID/cacheConfig
# インメモリと永続の両方のキャッシュを止める
curl -X PATCH \
-H "Authorization: Bearer $(gcloud auth application-default print-access-token)" \
-H "Content-Type: application/json" \
https://us-central1-aiplatform.googleapis.com/v1/projects/PROJECT_ID/cacheConfig \
-d '{"name": "projects/PROJECT_ID/cacheConfig", "disableCache": true}'
永続キャッシュだけを止めてインメモリは残す場合は、本文を"disableCache": falseと"retentionConfig": {"retentionType": "EPHEMERAL"}にします。キャッシュを止めても残る機能がある点には注意が必要です。同じページでは、Google検索のグラウンディングが最大3日、Googleマップのグラウンディングが30日、Deep Researchエージェントが7日保存され、いずれも止められないとされています。Interactions APIのstoreも、Agent Platformで既定trueです。
Gemini APIで機密データを送ってよい条件と見送る場面の判断基準
判断の軸は、データの種類と、取引先や監査に説明しなければならない範囲です。モデルの性能より先に、この2つで送り先が決まります。
Developer APIの有料枠で社内データを扱ってよい条件
Developer APIの有料枠で進めてよいのは、次の4つをすべて満たす場合です。本番のキーが課金済みプロジェクトのもので、CIでbillingEnabledを確かめている。Contributor Tierとデータセット共有が無効になっている。顧客データを送る処理にstore=Falseが付いている。そして、不正利用監視で55日残ることを社内の情報管理の担当者が了承している。
4つ目が通らないなら、Developer APIは見送ります。規約上、有料サービスのデータはGoogleや代理人の施設がある国で一時的に保存される場合があり、保存場所も指定できません。個人情報の第三者提供や越境移転の説明を求められる案件では、この点が問題になります。
Agent Platformへ移す場面とGeminiアプリの設定では足りない理由
取引先との契約に「入力データを第三者に保存させない」と書かれている、医療・金融のように監査で保存期間を問われる、という場面ではAgent Platformを選びます。Master Agreementによるプロンプト記録の除外とキャッシュの停止を組み合わせれば、保存の範囲を説明できるからです。逆に、公開情報の要約や社内向けの文章作成だけなら、Agent Platformへの移行は過剰です。
よくある失敗は、社員のGeminiアプリで「アクティビティ」をオフにして安心し、APIの設定を見ないままにすることです。Geminiアプリの設定はアプリでの会話だけに効き、APIの規約とは別物です。社内のどの業務を、どの経路のGeminiで扱うかの線引きから決めたい場合は、生成AI導入支援で利用規程の整理から受けています。
Gemini APIに学習させない設定に関するよくある質問と回答
学習と保存の扱いについて、検索の多い質問に公式の規約とドキュメントをもとに答えます。
AI Studioの画面で入力した内容も学習に使われますか?
アカウントによって変わります。AI Studioの画面は全地域で無料で使えますが、利用者のアカウントに課金が有効なCloudプロジェクトが1つでもあるか、Workspaceのエンタープライズアカウントであれば、有料サービスとして扱われ、製品改善には使われません。課金プロジェクトを持たない個人アカウントで試す場合は無料サービスの扱いになるので、社外秘は入力しないでください。
Geminiアプリでアクティビティをオフにすれば、APIの入力も学習されませんか?
されないとは言えません。Geminiアプリのアクティビティ設定は、アプリでの会話の保存と利用を切り替えるもので、Gemini APIの扱いには影響しません。APIの入力が学習に使われるかは、本記事で説明したとおり、呼び出したプロジェクトの課金の有無とContributor Tier、データセット共有の設定で決まります。
有料枠に切り替える前に無料枠で送ったデータはどうなりますか?
送った時点の無料サービスの規約で扱われます。規約には、後から課金を有効にしたときに過去の無料枠の入出力を製品改善の対象から外すという定めは見当たりません。無料枠で顧客データを送ってしまった場合は、送った範囲と時期を記録し、社内の情報管理の手順に沿って報告してください。以後の送信は課金済みプロジェクトのキーに切り替えます。
EUの利用者向けアプリで無料枠を使えますか?
使えません。規約は、欧州経済領域・スイス・英国の利用者に提供するAPIクライアントでは有料サービスだけを使うよう定めています。これらの地域の利用者のデータは、無料サービスであっても有料サービス向けのデータ利用条項で扱われると書かれていますが、提供側の義務として課金済みプロジェクトを使う前提で設計してください。
学習に使われないなら個人情報を送っても問題ありませんか?
学習の有無だけでは判断できません。有料枠でも入出力は不正利用監視のため55日保持され、承認された担当者が人手で確認する場合があります。保存される国も指定できません。個人情報を送るなら、利用目的と委託先の管理を社内で整理し、必要ならAgent Platformでプロンプト記録の除外とキャッシュの停止まで行ってから扱ってください。
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