ガバメントAI「源内(げんない)」とは?使い方・何ができるかとデジタル庁の生成AI基盤を解説
「源内(げんない)」は、デジタル庁が政府職員の業務を支援するために内製開発した生成AI利用環境です。政府全体のAI基盤「ガバメントAI」の第一歩と位置付けられ、機密性の高い行政情報を扱える設計と、行政実務に特化したアプリ群を備えます。2025年5月にデジタル庁内で提供が始まり、2026年4月24日には主要部分がオープンソース(OSS)として公開されました。この記事では、名前の由来から、汎用AIと行政実務用AIで具体的に何ができるか、政府職員の使い方とOSSを使った企業・自治体の再利用方法、そして18万人規模への展開計画までを整理します。
まとめ:源内の要点
- 読み方・由来:読みは「げんない」。生成AI(Gen AI)の語呂と、江戸時代の発明家・平賀源内の名を掛けた命名。
- 開発元:デジタル庁の内製開発。特定ベンダーへの一括発注ではない。
- 何ができる:汎用AI(対話・文章作成・要約・校正・翻訳)と、行政実務用AI(国会答弁検索・法制度調査支援など20種類以上)の2系統。
- 使い方:政府職員はGSSポータルからSSOでログインして利用。一般の人や企業は、GitHubで公開されたOSSを自前環境に構築して再利用する。
- 展開:デジタル庁内の実績を経て、2026年5月から全府省庁約18万人を対象とする大規模実証、2027年度に本格利用へ。
源内とは──デジタル庁が内製した政府職員向けの生成AI利用環境
源内は、政府職員が安全にAIを活用できる共通基盤「ガバメントAI」の中核として構築された生成AI利用環境です。市販の対話AIをそのまま導入したものではなく、行政特有の機密情報を扱える設計と、政府共通データを参照するアプリ群を自前で組み込んでいる点が一般の生成AIサービスと異なります。
「源内(げんない)」の読み方と平賀源内・Gen AIに由来する命名
読み方は「げんない」です。名称にはデジタル庁が公式に説明する二重の意味が込められています。ひとつは「Generative AI(生成AI)」を略した「Gen AI」を「ゲンナイ」と読む語呂合わせ、もうひとつは江戸時代中期の発明家・平賀源内から取ったものです。平賀源内はエレキテル(静電気発生装置)の復元などで知られ、新しい技術で社会の課題に挑んだ人物であり、その精神を継ぐという政策的メッセージを名前に持たせています。海外サービスの輸入ではなく、日本の文脈を踏まえた国産基盤を志向する姿勢が、プロジェクト名そのものに表れています。
開発元はデジタル庁の内製開発──ベンダー一括発注ではない理由
源内の開発元はデジタル庁です。外部ベンダーへの一括発注ではなく、民間人材を含む庁内エンジニアチームによる内製で構築されました。内製を選んだ理由は主に3つあります。行政特有の機密情報をプロンプトとして扱える環境を自前で確保すること、行政実務向けアプリを随時追加・改修できる体制を持つこと、そして特定ベンダーへの依存(ベンダーロックイン)を避けることです。開発を通じて行政側にAI活用の知見が蓄積される構造になっており、「政府全職員をAIエンジニアに」というデジタル庁自身の表現もこの方針を象徴しています。
ガバメントAIの中核基盤としての位置づけ
源内は、上位概念である「ガバメントAI」の一部です。ガバメントAIは、下層の大規模言語モデル・クラウド、中間層の共通プラットフォーム、上層の各府省庁の業務アプリという構造のうち、中間の共通基盤を担います。デジタル庁は「高度なAIアプリの開発」「国内LLM開発支援」「政府共通データセット整備」「他府省庁の技術支援」の4軸でこれを推進しており、法令や官報などの政府共通データを取り込んで各省庁のデータと組み合わせられる設計です。個別省庁がばらばらにAIを調達するのではなく、共通基盤で知識とアプリを横展開する発想が土台にあります。
源内で何ができるか──汎用AIと行政実務用AIの2種類のアプリ
デジタル庁の公式説明では、源内のアプリは「汎用AI」と「行政実務用AI」の2種類に分かれます。前者が日常業務全般を、後者が特定の行政業務を支える役割分担です。
汎用AIアプリ:対話・文章作成・要約・校正・翻訳
汎用AIは、市販の対話AIに近い一般用途を政府環境の中で使えるようにしたものです。中核となる機能は次の5つです。
- 対話型チャット:質問応答、論点整理、ブレインストーミング
- 文章作成:通知文・報告書・回答案などの初稿生成
- 要約:議事録・政策資料・長文報告書の要点抽出
- 校正:誤字脱字・表記ゆれ・不自然な言い回しの指摘
- 翻訳:海外資料や国際関係文書の和訳・英訳
これらは単独よりも連結して使うことに価値があります。英文資料を翻訳し、要約し、対話で論点を整理する、といった一連の流れで日常事務から政策検討までを支え、利用の入口になっています。
行政実務用AIアプリ:国会答弁検索AI・法制度調査支援AI「Lawsy」など20種類以上
もう一方の柱が、特定の行政業務に最適化した行政実務用AIです。代表例が、過去の国会答弁を検索して答弁作成を支える国会答弁検索AIと、法令・制度を素早く調べる法制度調査支援AI「Lawsy」で、行政特化アプリは20種類以上が開発されています。これらは汎用AIと違い、権威ある一次データを参照するRAG(検索拡張生成)を介して回答する設計です。参照元を限定することで、生成AI特有の誤情報(ハルシネーション)を抑え、行政実務に必要な正確性を確保しています。RAGでの誤情報対策の考え方はハルシネーションを防止するための具体的な対策と運用上の工夫でも整理しています。
機密性2情報まで扱える範囲と選べる複数LLM(Claude・OpenAI・国産)
源内はデジタル庁において機密性2情報を含むプロンプト入力に対応します。機密性2は、秘密文書には至らないものの、漏えいすれば国民の権利や行政事務に支障を及ぼしうる区分で、ここまで扱えることで行政文書の起案や審査に関わる情報を一定範囲でAIに入力できます。モデルは特定の1社に固定せず選択できる設計です。ラインナップは時点で変わり、2025年8月時点ではAmazon Nova Lite・Claude 3 Haiku・Claude 3.5 Sonnetの3モデル、2025年10月2日にOpenAIの最先端モデルの追加が決定、2026年3月には試用する国産LLMが15社の応募から7社に絞られました。ここに挙げたモデルは最新の全ラインナップではなく各時点のスナップショットで、実際の選択肢は更新され続けます。国産モデルを併用する狙いはデジタル庁が国産AI7モデルを選定した背景とAI主権確立への政策転換で詳しく解説しています。
源内の使い方──政府職員の利用手順とOSSによる企業・自治体の再利用
「源内の使い方」は、利用者が政府職員か、それ以外かで大きく分かれます。経路は二通りです。源内というサービスそのものは政府職員向けであり、一般の人が同じ画面にログインして使えるわけではありません。一方で、システムのソースコードがOSSとして公開されたため、企業や自治体は自前で同等の基盤を構築できます。
政府職員の使い方:GSSポータルからSSOでログインし2種のアプリを選ぶ
政府職員は、ガバメントソリューションサービス(GSS)のポータルサイトからシングルサインオン(SSO)で源内にアクセスします。専用のIDやパスワードを新たに管理する必要はなく、既存の業務環境を経由して利用できる設計です。ログイン後は、前述の汎用AIと行政実務用AIから目的に応じたアプリを選び、チャット画面でプロンプトを入力して使います。たとえば議事録を要約したい職員は汎用AIのチャットに原文を貼り、過去の国会答弁を調べたい職員は行政実務用AIの検索アプリを開く、という使い分けです。利用可能なアプリや対象職員の範囲は展開フェーズによって変わり、まずデジタル庁内、続いて希望する府省庁へと段階的に広がっています。
一般の人や企業が使うには:GitHubで公開されたOSSを自前構築する
一般の人や民間企業・自治体が源内を「使う」場合の実体は、公開されたOSSを自組織の環境に構築することです。2026年4月24日、デジタル庁は源内の主要部分を商用利用可能なライセンスでGitHubに無償公開しました。公開されたのは、利用者が操作するWebインターフェースの「源内Web(genai-web)」と、行政実務用AIアプリ群の「genai-ai-api」の2つが柱です。ライセンスはソフトウェアがMIT中心(一部Amazon Software License)、ドキュメントがCC BY 4.0で、いずれも商用利用が可能です。AWS・Azure・Google Cloudの主要3クラウドに対応した開発テンプレートが用意されているため、既に使っているクラウド基盤の延長で構築を始められます。構築の大まかな順序は、GitHubから対象リポジトリと自組織のクラウドに合うテンプレートを取得し、いずれかのクラウドにデプロイし、利用するLLMを接続する、という流れです。
OSS再利用で別途必要になるもの(LLM契約・RAG用データ)と公開対象外
OSSはあくまで基盤の骨格であり、コピーすればそのまま業務に使えるわけではない点に注意が必要です。デジタル庁のリードエンジニアによる公式noteでも、公開対象外の要素が明示されています。実際の源内が行政実務用RAGで参照している内部マニュアル類、そしてデジタル庁が権利を持たない大規模言語モデル本体や書籍などは、公開に含まれません。したがって自組織で動かすには、業務に効かせるための独自マニュアルをRAG用に整備し、利用するLLMを別途契約・調達する必要があります。RAGの精度は参照データの質と量に左右されるため、自組織の業務知識をどう用意するかが、OSS活用の成否を分ける実務上の鍵になります。
源内の利用実績と18万人規模への展開ロードマップ
源内は、デジタル庁内での検証を経て、政府全体への展開フェーズに入っています。実績データと展開計画は、自治体や企業が自組織で生成AIを導入する際の参考にもなります。
デジタル庁1200人の3か月実績と「利用の両極化」という課題
デジタル庁が2025年8月29日に公表した資料によれば、2025年5月から7月の3か月間で、全職員約1200人のうち約950人(約80%)が源内を利用し、利用回数はのべ6万5000回以上、1人あたり平均70回に達しました。ただし同資料の内訳を見ると、100回以上使ったヘビーユーザーが150人以上いる一方、5回未満で離脱した職員も170人おり、デジタル庁自身が「利用の両極化」と整理しています。特に課長級の半数が利用実績ゼロで、若手や民間人材が多用する構図でした。これは、ツールを配るだけでは組織全体には浸透せず、業務フローへの組み込みと管理職の利用が定着の条件になることを示す実データです。
2026年の一部省庁先行→18万人大規模実証→2027年度本格利用の段階展開
展開は一斉ではなく段階的に進みます。2026年1月から一部省庁での試験利用(数百人規模)が始まり、2月には行政資料を扱うRAGアプリが加わりました。第3回人工知能戦略本部での総理指示を受け、2026年5月からは10万人以上が使える体制の整備が求められています。さらにデジタル庁が2026年3月6日に公表した計画では、令和8年(2026年)5月から令和9年(2027年)3月まで、全府省庁約18万人を対象とする大規模実証を実施し、2027年度に本格利用を開始する段取りです。関連予算として、令和7年度補正予算に「ガバメントAI整備事業」44.0億円が計上されています。
自治体・企業が源内やOSSを活用するときの判断ポイント
OSS公開により、自治体や企業が源内相当の基盤を持つ選択肢が広がりました。ただし技術的に構築できても、組織側の準備が伴わなければ効果は限定されます。導入を検討するときに押さえるべき判断ポイントを整理します。
ワークフロー見直しを伴わない導入は効果が限定される
最も陥りやすい失敗は、既存の業務手順を変えないままツールだけを足すことです。AIで初稿を作っても従来通りの工程で確認・修正すれば、全体の時短効果は小さくなります。デジタル庁のAI領域統括参事官も「ワークフロー見直しが成功の鍵」と明言しており、源内内部の検証で見えた両極化や課長級の不使用も、業務設計の不在と結びついています。導入時は、AIが担う範囲と人が判断する範囲の線引き、成果物の品質基準の見直しまでを含めて業務プロセスを再設計すべきで、ツール導入と業務改革を切り離した組織では成果が出にくいと言い切れます。
内製・外部調達・OSS活用の3パターンと組織規模別の選び方
AI基盤の整備方法は、大きく内製開発・外部調達・OSS活用の3つに整理できます。それぞれコスト構造と必要人材、カスタマイズ性が異なります。
| 導入方法 | 初期コスト | 必要な技術人材 | カスタマイズ性 | 向く組織 |
|---|---|---|---|---|
| 内製開発 | 大 | 高度なエンジニア複数 | 非常に高い | 大規模・専門人材が豊富 |
| 外部調達 | 中〜大 | 調達管理人材 | 契約で制限 | 人材が限られる組織 |
| OSS活用 | 小〜中 | 中程度のエンジニア | 高い | 中規模・技術志向 |
源内のOSS公開で現実味が増したのが「OSS活用」で、内製と外部調達の中間に位置します。技術人材が限られる自治体でも、公開テンプレートを出発点にして必要に応じて支援事業者を組み合わせれば、ゼロから作るより低い負荷で構築できます。特に、AI基盤の調達仕様書に源内のOSSを参照・指定すれば、白紙から要件を組み立てる従来の調達より検討負荷を大きく下げられます。国産LLMを組み合わせる選択肢もあり、たとえば国産LLM「Sarashina」の開発背景とソフトバンク戦略における位置づけのような国産モデルの動向も、モデル選定時の判断材料になります。
よくある質問
源内の読み方は何ですか?
「げんない」と読みます。生成AI(Generative AI)の略「Gen AI」を「ゲンナイ」と読む語呂合わせと、江戸時代の発明家・平賀源内の名前を掛け合わせた命名です。
源内の開発元・提供元はどこですか?
デジタル庁です。外部ベンダーへの一括発注ではなく、民間人材を含む庁内エンジニアチームによる内製開発で構築されています。
一般の人や民間企業も源内を使えますか?
源内というサービス自体は政府職員向けで、一般の人が同じ画面にログインして使うことはできません。ただし2026年4月24日にソースコードが商用利用可能なライセンスでOSS公開されたため、企業や自治体は源内Web(genai-web)などを自前環境に構築して同等の基盤を利用できます。
源内では何ができますか?
対話・文章作成・要約・校正・翻訳といった汎用AIの機能に加え、国会答弁検索AIや法制度調査支援AI「Lawsy」など、行政実務に特化したアプリを20種類以上利用できます。機密性2情報まで扱える設計です。
源内は無料で使えますか?
公開されたOSSはMITなど(ソフトウェアは一部Amazon Software License、ドキュメントはCC BY 4.0)のもとで無償かつ商用利用可能です。ただしOSSはあくまで基盤の骨格で、実際に動かすにはLLMの契約やクラウド費用、RAGで参照する自組織のデータ整備が別途必要になります。