ガバメントAI「源内」の定義とデジタル庁が内製開発に踏み切った背景
ガバメントAI「源内」の定義とデジタル庁が内製開発に踏み切った背景
ガバメントAI「源内」は、デジタル庁が政府職員向けに整備を進める生成AIの利用環境です。まずは「源内」が何を指す取り組みなのか、そしてなぜデジタル庁が自ら開発に乗り出したのかという背景から整理します。
2025年5月に運用を開始した生成AI利用環境としての「源内」の概要
「源内」は、デジタル庁が2025年5月から運用を開始した政府職員のための生成AI利用環境です。単独のチャットツールというより、職員が安全に生成AIを使えるようにするための基盤全体を指す名称として用いられています。開発と運用はデジタル庁のガバメントAIリードエンジニアである大杉直也氏が中心となって担い、企画から開発、推進までを一体で進めている点が大きな特徴といえます。
位置づけとしては、政府全体のAI活用戦略である「ガバメントAI」の中核的なプロジェクトにあたります。海外製の汎用的なサービスを職員が個別に使うのではなく、政府の基準に沿った環境を自前で用意することで、機密性の高い情報も扱えるようにした点が従来の運用との違いです。こうした基盤を内製で立ち上げたこと自体が、行政のAI活用における転換点として広く注目を集めています。
つまり「源内」という言葉は、特定のアプリ一つを指すのではなく、政府が安全にAIを使うための仕組みと、その上で動く複数のアプリ群をまとめた総称だと理解するのが正確でしょう。読者がこの記事で「源内」をイメージする際は、行政専用に設計された生成AIのプラットフォームという捉え方が出発点になります。
平賀源内に由来する名称が示す「源内」の開発コンセプトと位置づけ
「源内」という名称は、江戸時代に多彩な発明や事業を手がけた平賀源内を思わせるものです。一つの専門に閉じこもらず、実際に手を動かして試し、検証しながら新しいものを生み出していく姿勢が、このプロジェクトの考え方とよく重なります。デジタル庁が掲げる「アイデアの価値は検証してみないとわからない」という言葉は、まさにこの開発思想を象徴しています。
運用を主導する大杉氏は「100回の会議より、1回のAPI callの方が理解が進む」とも述べており、議論を重ねるよりも実装して動かしてみることを重視する文化が背景にあります。行政の取り組みは慎重な合意形成が中心になりがちですが、「源内」はあえて作りながら学ぶアプローチを前面に出しているのが特徴です。
位置づけとしては、デジタル庁が単に既製品を導入するのではなく、自ら開発主体となって知見を蓄えるための実験的なプロジェクトでもあります。完成した製品を配るだけでなく、その背後にある思想や実装の知見を順次公開していく方針が示されており、名称が表す「創意工夫」の精神が運営全体に通底していると考えられます。
人口減少と担い手不足を背景とした行政へのAI活用の政策的必然性
「源内」が推進される最大の背景には、日本が直面する人口減少と少子高齢化があります。行政の現場でも担い手不足が深刻化しており、これまでと同じ人員で同じ量の業務を回し続けることは年々難しくなっています。こうした状況で公共サービスを維持し、さらに強化していくためには、生成AIをはじめとするAIの積極的な利活用が避けて通れないというのが政策上の前提です。
デジタル庁は、政府および地方公共団体がAIを使いこなすことを「不可避」と表現しています。単なる効率化の選択肢ではなく、社会の構造変化に対応するための必須の手段という位置づけです。限られた職員が、定型的な文書作成や情報整理といった作業をAIに任せられれば、その分を政策立案や住民対応など人にしかできない仕事へ振り向けられます。
このように「源内」は、便利な道具を増やす取り組みであると同時に、人手が減る中でも行政機能を落とさないための備えという側面を強く持っています。読者が背景を理解するうえでは、技術的な目新しさよりも、担い手不足という社会課題への対応策である点を押さえておくとよいでしょう。
2025年5月成立のAI法が「源内」推進に与える法的根拠と方向性
2025年5月には「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」、いわゆるAI法が成立しました。さらに同年12月には、このAI法に基づく「人工知能基本計画」が閣議決定され、「隗(かい)より始めよ」の観点から、政府自らが先導的にAIを利活用する方針が示されています。これらはAIの研究開発と活用を国として推進する方向性を定めるもので、政府が率先してAIを使っていく流れを支える内容です。「源内」は、こうした法と計画の裏づけのもとで進められている取り組みです。
法律が整備されたことで、政府がAIを利活用する取り組みは個別の判断ではなく、国全体の方針に沿った活動という性格を帯びました。デジタル庁が共通ルールの整備に向けた技術検討を行い、その過程や参照実装を公開していく姿勢も、この方向性と一致しています。AIを「使ってよいか」ではなく「どう安全に使い広げるか」へと議論の軸が移った点が重要です。
読者がこの法律と「源内」の関係を捉えるなら、法が大きな方向を示し、「源内」がその方向を行政の現場で具体的に形にする実装例にあたる、という構図が分かりやすいでしょう。法整備と実装が車の両輪として動いていることが、政府のAI活用を加速させる土台になっています。
デジタル庁が全てを内製せず代表的な実装パターンの獲得を狙う方針
「源内」では行政業務に特化したアプリを実際に内製していますが、これは生成AIアプリのすべてをデジタル庁が自前で作ろうとする試みではありません。広く使われるものを実際に開発して職員に展開し、そこから「代表的な実装パターン」とは何かを見極めることが目的です。手を動かして得た知見を、後続の開発に役立つ形へ整理していく狙いがあります。
具体的には、職員に使ってもらう中で見えてくる「あるべき記述」や、人が扱いやすいインターフェースの「約束」を検討するための材料を集めています。行政領域と一口にいっても、多種多様な組織がそれぞれ異なる業務を行っており、すべてを一つの正解で覆うことはできません。だからこそ、まず代表例を作って学ぶという進め方が選ばれています。
この方針の背景には、大勢の関係者の創意工夫と努力なしには、行政で本当に使えるAIの定着は難しいという認識があります。デジタル庁は検討過程や参照実装を広く公開することで、各府省庁や自治体が同じ車輪を再発明せずに済む環境づくりを目指しています。内製は目的ではなく、知見を共有するための手段として位置づけられている点が要点です。
「源内」が備える汎用AIと行政実務用AIという2系統の機能構成
「源内」が提供するAIアプリは、大きく汎用AIと行政実務用AIの2種類に分かれます。それぞれが担う役割と使い分けの考え方を整理し、現場でどのように業務を支えるのかを具体的に見ていきます。
対話・要約・校正・翻訳を担う汎用AIが支援する日常業務の範囲
汎用AIは、職員の日常業務を幅広く支援するためのツール群です。特定の業務に限定せず、文章を扱うあらゆる場面で使える汎用的な機能がそろっており、職員が最初に触れる入り口になる存在といえます。代表的な機能には次のようなものがあります。
- 対話型チャットによる質問への回答や下調べの補助
- 議事録やメール、報告書などの文章作成の下書き支援
- 長い資料を短くまとめる要約や論点の抽出
- 誤字脱字や表現の不自然さを直す校正のサポート
- 日本語と外国語のあいだを橋渡しする翻訳の補助
これらは特別な専門知識がなくても使える機能であり、まずは身近な作業から効率化を体験できる設計になっています。職員が日々向き合う「書く・読む・調べる」という作業を全体的に底上げする役割を担っており、汎用AIの定着が「源内」全体の利用拡大を支える土台です。逆にいえば、まず汎用AIに触れて手応えを感じてもらうことが、より専門的なアプリの活用へ進む足がかりにもなります。
どの機能も、これまで人が時間をかけて行ってきた文章まわりの作業を補助する点で共通しています。完全に任せきるというより、下書きやたたき台を素早く用意し、最終的な判断や仕上げは人が担うという役割分担が基本です。読者がこの範囲を押さえると、汎用AIが万能の魔法ではなく、日常の手間を着実に減らす実用的な道具であることが見えてくるでしょう。
行政実務に特化した業務支援アプリ群からなる行政実務用AIの中身
行政実務用AIは、行政職員の業務遂行をより深く支援するために、行政の実務に特化して作られたアプリケーション群です。汎用的な文章処理にとどまらず、行政ならではの手続きや専門的な判断が関わる場面を想定して設計されている点が特徴になります。
たとえば、最新の法律条文を参照したうえで回答する法制度に関するアプリのように、正確さと根拠が強く求められる業務を対象としたものが含まれます。一般的なチャットでは古い情報や曖昧な記憶に基づく回答が混じる懸念がありますが、行政実務用AIは参照する情報源を業務に合わせて設計することで、その弱点を抑える狙いがあります。
こうしたアプリ群は、それぞれの業務領域に合わせて個別に組み上げられる前提で考えられています。汎用AIが横に広く支えるのに対し、行政実務用AIは特定の業務を深く支えるという役割分担です。読者がこの違いを押さえると、「源内」が単なるチャットボットではなく、業務ごとに作り込まれた支援ツールの集合体であることが見えてきます。
汎用AIと行政実務用AIで異なる利用シーンと使い分けの判断基準
汎用AIと行政実務用AIは、得意とする場面が異なります。どちらを使うべきかは、扱う業務が「幅広く一般的な作業か」「特定領域の専門的な作業か」で判断するのが基本です。両者の違いを整理すると次のようになります。
| 観点 | 汎用AI | 行政実務用AI |
|---|---|---|
| 主な用途 | 対話・文章作成・要約・校正・翻訳 | 法制度照会など行政固有の実務支援 |
| 対象業務 | 部署を問わない日常的な作業 | 特定領域の専門性が高い作業 |
| 求められる正確性 | 一般的な水準で十分な場面が中心 | 根拠と最新性が強く求められる場面 |
| 使い始めやすさ | 誰でもすぐに利用しやすい | 業務理解を前提に活用する |
判断の目安としては、まず汎用AIで下書きや下調べを行い、専門的な正確さが必要な部分で行政実務用AIに切り替える、という併用が現実的です。両者は競合するものではなく、作業の段階に応じて使い分けることで効果が最大化されます。どちらか一方に固執せず、目的に合わせて選ぶ姿勢が活用の鍵になります。迷ったときは、扱う情報の専門性と求められる正確さの高さを基準にすると判断しやすいでしょう。
最新の法律条文を参照して回答する法制度AIアプリの具体的な役割
行政実務用AIの代表例として挙げられるのが、最新の法律条文データを参照しながら回答する法制度に関するアプリです。行政の仕事では、根拠となる条文を正確に押さえることが欠かせませんが、法令は改正が頻繁にあり、最新の状態を常に把握し続けるのは容易ではありません。このアプリは、その負担を軽くする役割を担います。
一般的な生成AIは、学習した時点の知識に基づいて回答するため、最新の改正が反映されていないことがあります。これに対し、法制度AIアプリは最新の条文を参照する仕組みを備えることで、古い情報に基づく誤った回答という典型的な失敗を避けやすくしているのです。根拠を確認しながら使える点が、行政業務との相性のよさにつながっています。
このアプリの再現可能な実装は、後述するオープンソース公開の中でも示されており、他の機関が同様の仕組みを参考にできるようになっています。法令という正確さが命の領域でAIを活かす一例として、「源内」が目指す行政特化の方向性をよく表したアプリだといえるでしょう。
国会答弁作成支援など今後実装が見込まれる行政実務用AIの広がり
行政実務用AIは、現時点の機能にとどまらず、業務領域を着実に広げています。すでにデジタル庁内では、国会で問われそうな質問に対し過去の政府答弁を検索する「国会答弁検索AI」が提供されています。さらに一歩進んだ「国会答弁作成支援AI」の開発も進められており、答弁業務を支える機能が段階的に拡充されてきました。答弁の作成は、関連資料を集めて整理し、整合性を確認する作業に多くの時間と労力がかかる業務として知られています。
開発が進む国会答弁作成支援AIは、国会質問の内容解析、過去答弁や根拠資料の検索、答弁の草案生成、更問(さらとい)の予測、矛盾の検証といった機能を統合的に提供することが想定されています。これにより、負担の重い答弁作成を効率化し、政府答弁の正確性と一貫性を高める狙いです。生み出された時間を、政策立案や住民への対応といった本来注力すべき業務へ振り向けられる点に大きな意義があります。
こうした高度なAIアプリケーションは、2026年12月頃に試験提供を始める計画が示されています。読者にとっては、「源内」が今できることだけでなく、行政の困りごとに合わせて育っていく拡張性を持つ基盤である点を理解しておくことが大切でしょう。負担が大きく繰り返しの多い業務ほど、支援による効果が出やすいと考えられます。
民間生成AIサービスと「源内」の違いと行政利用に適した設計思想
「源内」は、ChatGPTに代表される民間の生成AIサービスとは前提が異なります。両者を分ける本質的な違いと、行政での利用に合わせて作り込まれた設計の考え方を確認していきます。
ChatGPTなど民間サービスと「源内」を分ける情報の取り扱いの差
民間の生成AIサービスと「源内」を分ける最大の違いは、情報の取り扱い方にあります。一般向けのサービスは便利さを重視して幅広い利用者に開かれていますが、入力した内容がどのように扱われるかは提供事業者の方針に委ねられる部分があるのです。行政が扱う情報の中には、外部に出すことが許されないものが含まれるため、この点が大きな分かれ目になります。
「源内」は、政府の基準に沿った環境の中で情報を処理することを前提に設計されています。職員が業務上の情報を安心して入力できるよう、機密性の高い情報も扱える仕組みを整えている点が、一般向けサービスとの決定的な差です。便利さだけでなく、情報を守るという要件を最初から組み込んでいるところに行政専用らしさが表れています。
読者がこの違いを理解する際は、機能の優劣ではなく「誰のために、どんな情報を前提に作られているか」という設計の出発点が異なる、と捉えると分かりやすいでしょう。同じ生成AIでも、想定する利用者と守るべき情報が違えば、求められる作りは大きく変わってきます。
機密情報を外部に送信しない設計が示す行政利用に固有の前提条件
行政利用に固有の前提として、扱う情報を不用意に外部へ送信しない設計が強く求められます。一般のサービスでは、入力した文章が事業者側のサーバーで処理されることが当たり前ですが、行政の機密情報をそのまま外部へ流すわけにはいきません。「源内」は、この前提に正面から応える形で構築されています。
具体的には、機密性の高い情報を政府の管理下にある環境内で処理する仕組みを採用しています。これにより、情報が外部の手に渡るリスクを抑えながら、生成AIの利便性を享受できるようにしています。利便性とセキュリティはしばしば二者択一として語られますが、「源内」は両立を目指して設計されている点が重要です。
この前提条件は、民間サービスをそのまま行政に持ち込めない理由を端的に示しています。いくら高性能でも、情報の流れ方が行政の要件を満たさなければ、機密性の高い業務には使えません。だからこそ政府は自前の環境を用意する道を選びました。読者がこの章で押さえるべきは、行政利用には情報の取り扱いという譲れない一線があるという点です。
一般向けAIにはない行政文書の様式への適合という設計上の重点
「源内」の設計上の重点の一つに、行政文書ならではの様式への適合があります。行政の文書には、独特の言い回しや形式、表現のルールが数多く存在します。一般向けのAIは幅広い文章に対応する一方で、こうした行政固有の様式に必ずしも最適化されているわけではありません。
後述する国産モデルの活用方針においても、日本語の語彙や表現、行政文書特有の記述様式への適合が必要だと明確に位置づけられています。つまり「源内」は、ただ文章を生成できればよいのではなく、行政の現場でそのまま役立つ文章を生み出せることを重視しているのです。様式への適合は、現場の手直しの手間を減らすうえで欠かせない要素になります。
この重点は、汎用的な性能の高さだけでは行政業務を十分に支えられないという認識に基づいています。一般向けAIにない、行政の言葉づかいへの配慮があるからこそ、職員も安心して下書きを任せられるのです。読者にとっては、「源内」が量産型の汎用ツールではなく、行政の現場に寄せて調整された道具である点を理解する手がかりになります。
コスト・ガバナンス・データ主権の観点で見た自前構築の判断材料
政府が「源内」を自前で構築した判断は、コスト、ガバナンス、データ主権という複数の観点から理解できます。第一に、各府省庁や自治体が個別に似たような環境を整えると重複した投資がかさみますが、共通の基盤を用意すれば全体としての開発コストを抑えられるのです。第二に、政府が直接管理することで、利用ルールや品質を一元的に統制しやすくなります。
第三の観点が、データ主権です。重要な情報を国内の管理下で処理できる体制を持つことは、安全保障や自律性の面でも意味を持ちます。外部の事業者にすべてを依存していると、サービスの方針変更や提供停止といった事態に左右されかねません。自前で基盤を持つことは、こうした不確実性に対する備えにもなります。
もっとも、自前構築には開発と維持の負担が伴うため、利点と負担を比較したうえでの判断が欠かせません。「源内」はオープンソース公開などを通じて、その負担を社会全体で分かち合う工夫も取り入れています。読者がこの章で得られるのは、自前か外部委託かを考える際に押さえるべき判断軸の整理です。
海外製AIへの過度な依存が招くリスクと「源内」が避ける失敗構図
民間サービスとの違いを考えるうえで見落とせないのが、海外製AIへ過度に依存することのリスクです。便利で高性能なサービスであっても、提供する事業者が海外にある場合、その料金や利用条件、サービスの存続そのものが、こちらの意向とは関わりなく決まっていきます。重要な行政業務の土台を、自らの手で動かせない仕組みに委ねきってしまうことには危うさがあります。
具体的な失敗構図としては、依存していたサービスが急に値上げされたり、仕様が変わったり、提供が終了したりした場合に、業務が立ち行かなくなる事態が考えられます。一度その基盤に深く組み込んでしまうと、別の選択肢へ乗り換えるにも大きな労力がかかります。選択の自由を失った状態は、長期的に見ると行政運営にとって弱点になりかねません。
「源内」が国産モデルの活用や自前の基盤づくりを重視するのは、こうした失敗の構図をあらかじめ避けるためです。海外の力を一切借りないという意味ではなく、依存し過ぎないように自国でも選択肢を持っておくという考え方です。読者がこの章で押さえるべきは、性能や利便性の裏にある「依存のリスク」という観点が、行政のAI選びには欠かせないという点になります。
機密性2情報に対応する「源内」のセキュリティ基盤と認証の仕組み
行政でAIを使ううえで最大の関心事となるのがセキュリティです。「源内」がどのような基準のもとで機密情報を扱い、どのように認証と利便性を両立しているのかを具体的に見ていきます。
政府の統一基準群に準拠した「源内」のセキュリティ設計の基本要件
「源内」のセキュリティ設計は、政府の統一基準に準拠することを基本要件としています。各府省庁が守るべき情報セキュリティの共通ルールに沿うことで、特定の部署だけで通用する独自仕様ではなく、政府全体で安心して使える水準を確保しているのです。基準に合わせて設計されているからこそ、横展開する際にも一定の信頼が担保されます。
この準拠が意味するのは、利便性を追い求めるあまりセキュリティを後回しにしない、という姿勢です。生成AIは強力な道具である一方、扱い方を誤れば情報漏えいの入り口にもなりかねません。あらかじめ政府の基準という枠の中で設計することで、利便性と安全性のバランスを崩さないようにしています。
読者がこの基本要件を理解しておくと、「源内」が単に高性能なAIを用意しただけの取り組みではないことが分かります。どんな情報を、どの基準のもとで扱えるのかという土台があってはじめて、行政の現場で安心して使える環境が成り立ちます。基準への準拠は、その土台を支える前提条件です。
機密性2情報を含むプロンプト入力に対応する利用範囲とその制約
デジタル庁における「源内」は、機密性2情報を含むプロンプトの入力に対応しています。機密性2情報とは、行政内部で扱われる一定の機密性を持つ情報を指す区分であり、これを入力できることは、一般向けサービスにはない大きな特徴です。職員は、業務上の機微な内容も一定の範囲で安心して扱えるようになっています。
ただし、対応しているからといってあらゆる情報を無制限に入力してよいわけではありません。利用にあたっては、扱える情報の範囲やルールという制約が前提になります。どの区分までの情報を、どのような場面で入力できるのかを職員が正しく理解していることが、安全な利用の条件です。制約を踏まえたうえでこそ、利便性が活きてきます。
読者がこの点を捉える際は、「機密情報も扱える」という利便性と、「定められた範囲を守る」という規律が表裏一体である、と理解するのが正確でしょう。対応範囲が広いほど、利用する側の理解と適切な運用が重要になります。技術が許す範囲と、運用上守るべき範囲の両方を意識する姿勢が求められます。
GSSを活用したシングルサインオンで実現する認証と利便性の両立
「源内」は、ガバメントソリューションサービス(GSS)を活用したポータルサイトからのシングルサインオン(SSO)に対応しています。シングルサインオンとは、一度の認証で複数のサービスを利用できる仕組みのことで、職員は個別にログインを繰り返す手間なく「源内」にアクセスできます。日々の利用における入り口の負担が小さくなる点がメリットです。
認証を厳格にすると利便性が下がり、利便性を優先すると認証が甘くなる、というのはよくある悩みです。「源内」は、政府の共通基盤であるGSSを通じた認証を採用することで、なりすましなどのリスクを抑えつつ、使い始めの手間も小さく保とうとしています。安全性と使いやすさのどちらかを犠牲にしない設計が意識されています。
読者がこの仕組みを理解しておくと、「源内」が技術的な性能だけでなく、職員が日々無理なく使い続けられるかという運用面まで考えて作られていることが分かります。いくら高機能でも、ログインのたびに煩雑な操作が必要なら定着しません。認証と利便性の両立は、利用を広げるうえで地味ながら重要な要素です。
ガバメントクラウド内で機密情報を処理する仕組みと安全確保の要点
「源内」が機密情報を扱える背景には、政府が整備するガバメントクラウドの中で情報を処理する仕組みがあります。重要な情報を外部の不特定の環境に出すのではなく、政府の管理が及ぶ基盤の内側で処理することで、情報の流れを把握しやすくし、安全を確保しているのです。どこで情報が処理されるかが明確であることは、安心の前提になります。
国産モデルの活用方針においても、機密性2情報をガバメントクラウド内で処理するというセキュリティ要件が明示されています。つまり、どのモデルを使うかという話と、どこで処理するかという話は切り離せない関係にあります。性能だけでなく、政府の基盤の中で安全に動かせるかどうかが選定の条件として重視されているのです。
安全確保の要点は、情報が管理外へ漏れ出る経路を作らないことに集約されます。ガバメントクラウドという囲われた環境で完結させる発想は、その典型的な方法です。読者がこの章で押さえるべきは、「源内」の安全性が、AIそのものの性能だけでなく、それを動かす基盤の設計によって支えられているという点になります。
セキュリティ要件を満たさない運用が招く情報漏えいという失敗例
セキュリティ要件を軽視した運用は、情報漏えいという深刻な失敗につながりかねません。たとえば、機密情報を要件の整っていない一般向けサービスへ安易に入力してしまえば、その情報が外部に渡るリスクが生じます。便利だからという理由だけでツールを選ぶと、こうした落とし穴にはまりやすくなります。
「源内」が政府の基準への準拠やガバメントクラウドでの処理にこだわるのは、まさにこの種の失敗を避けるためです。職員が個々の判断でばらばらにサービスを使う状態は、統制が効かず、漏えいの温床になりかねません。共通の安全な環境を用意し、そこへ利用を集約することが、組織全体のリスクを下げる現実的な対策になります。
読者が教訓として受け取るべきは、セキュリティは利便性とのトレードオフではなく、利便性を持続させるための前提だという点です。一度大きな漏えいが起きれば、AI活用そのものへの信頼が失われ、取り組み全体が後退しかねません。要件を満たした環境で使うという当たり前を徹底することが、長く安全に活用し続ける条件になります。
国産LLMの公募と選定を軸とした「源内」のAI自律性確保の方針
「源内」のもう一つの大きな特徴が、国産の大規模言語モデル(LLM)を積極的に活用していく方針です。公募から選定、導入に至る流れと、その背後にある国家戦略としての意味を整理します。
2025年12月開始の国産LLM公募と15件から7モデルを選んだ経緯
デジタル庁は2025年12月から、「源内」で試用する国産LLMの公募を開始しました。これは、海外製のモデルに頼り切るのではなく、国内で開発されたモデルを積極的に取り入れていくための具体的な一歩です。公募という開かれた形をとることで、幅広い開発主体に参加の機会を用意した点に特徴があります。
この公募には15件の応募があり、審査と評価テストを経て7つのモデルが選定されました。選定結果は2026年3月6日に公表されています。選ばれたのは、次の7つのモデルです(五十音順)。
- 株式会社NTTデータ「tsuzumi 2」
- カスタマークラウド株式会社「CC Gov-LLM」
- KDDI株式会社・株式会社ELYZA共同応募体「Llama-3.1-ELYZA-JP-70B」
- ソフトバンク株式会社「Sarashina2 mini」
- 日本電気株式会社「cotomi v3」
- 富士通株式会社「Takane 32B」
- 株式会社Preferred Networks「PLaMo 2.0 Prime」
応募の半数近くが選ばれた形ですが、単に数をそろえたのではありません。試験当日に初めて開示された50問の評価テストや、海外主要LLMとのベンチマーク比較、機密性2情報をガバメントクラウド上で扱えるかなど、行政利用に求められる水準を満たすかを評価したうえでの結果です。複数のモデルを候補として確保し、比較しながら活用していく狙いがうかがえます。
読者がこの経緯を押さえると、「源内」が一つのモデルに固定されるのではなく、複数の国産モデルを試しながら最適なものを見極めていく段階にあることが分かります。公募から選定までのプロセスが公開されていること自体も、透明性を重んじる行政の取り組みらしさを示しています。
海外製依存を避け日本のAI自律性を確保する国策としての位置づけ
国産LLMを重視する方針は、単なる技術選択にとどまらず、日本のAI自律性を確保するという国策としての意味を持っています。AIが社会基盤として欠かせなくなるほど、その中核を海外の事業者だけに委ねることのリスクが大きくなります。重要な行政業務を支える技術は、自国でも開発し続けられる体制を保つことが望ましいという考え方です。
海外製への過度な依存は、価格や提供条件の変更、サービスの方針転換といった外的要因に左右されやすいという弱点があります。国産モデルの活用を進めておくことは、こうした不確実性に備える保険のような役割を担うものです。AIの分野で日本が国際競争のなかで強みを発揮し、確かな地位を築くためにも、自前の選択肢を持つことが重視されています。
読者がこの位置づけを理解すると、「源内」の国産LLM活用が、目先のコストや性能だけで語れない戦略的な判断であることが見えてきます。便利さや安さだけを基準にすれば海外製が有利な場面もありますが、長い目で見た自律性という観点が加わることで、国産を育てる意義が浮かび上がってきます。
日本語語彙や行政文書様式への適合という国産LLM選定の判断基準
国産LLMを選ぶ際の判断基準として、日本語の語彙や表現、行政文書特有の記述様式への適合が挙げられています。行政の文章は、独特の言い回しや形式が多く、一般的な文章とは異なる特徴を持つのです。こうした行政ならではの様式に自然に対応できるかどうかが、実務で使えるモデルかを左右します。
加えて、機密性2情報をガバメントクラウド内で処理できるというセキュリティ要件も、選定の重要な条件として位置づけられています。つまり、言語面での適合と、安全に動かせるかという運用面の両方を満たす必要があるということです。性能が高くても、これらの条件を欠けば行政利用には踏み込めません。
読者がこの判断基準を押さえると、国産LLMの選定が「単に賢いモデルを選ぶ」作業ではないことが分かります。日本語と行政文書への適合、そして安全な処理環境への対応という、行政に固有の要件をともに満たすことが求められるのです。これらの基準は、海外製の汎用モデルだけでは満たしにくい領域でもあり、国産を育てる根拠の一つになっています。
PLaMo翻訳やOpenAI連携に見る国内外モデルの併用という現実解
「源内」は国産モデルを重視する一方で、海外のモデルを一切排除しているわけではありません。2025年12月2日には国産モデルを用いた「PLaMo翻訳」の利用が始まり、同年10月2日にはOpenAI社との連携協力が示されています。国内外のモデルをそれぞれの強みに応じて使い分ける、現実的な姿勢がうかがえます。
この併用という現実解は、自律性を重んじる方針と、実際に使える性能を確保するという要請を両立させるための工夫です。実際、2025年8月時点の「源内」では、AWS社やAnthropic社など海外企業のモデルから職員が選んで利用する形が中心でした。高い性能を持つ海外モデルの力も借りて機能の質を保ちながら、並行して国産モデルへの移行準備を進めているわけです。理想と実用のあいだでバランスを取る発想がうかがえます。
読者がこの点を理解すると、「源内」の国産重視が、海外を完全に締め出す排他的な方針ではないことが分かります。最終的に国産モデルへ比重を移していくことを見据えつつ、移行の過程では国内外を柔軟に組み合わせる。こうした段階的なアプローチが、現実の行政運用に即した進め方として選ばれています。
2027年4月以降の有償調達まで見据えた国産LLM導入のロードマップ
国産LLMの導入は、一足飛びではなく段階を踏んで進められる計画です。公募と選定を経たうえで、試験的な導入を行い、評価を踏まえて本格的な調達へと移っていく流れが描かれています。導入までの大まかな段階は次の順序で整理できます。
- 2025年12月に国産LLMの公募を開始する
- 応募の中から審査と評価テストを行い、複数のモデルを選定する
- 2026年8月頃から「源内」で国産LLMの試用を始める
- 試用を通じて性能や適合性を評価する
- 2027年4月以降に評価を経た優れたモデルを有償で政府調達する
このロードマップが示すのは、性能を実際に確かめてから本格採用に進むという慎重な姿勢です。いきなり大規模に導入するのではなく、試用で課題を洗い出し、評価を踏まえて調達するという段階設計になっています。読者にとっては、国産LLMの活用が一過性の話題ではなく、年単位で計画的に進む取り組みである点を押さえる手がかりになります。
デジタル庁での導入で見えた「源内」の利用実績と他府省庁への展開
「源内」はまずデジタル庁内で運用が始まり、その実績をもとに他の府省庁へと広がりつつあります。初期の利用状況に表れた職員の反応と、横展開の実態を具体的に見ていきます。
登録約1,200人中約950人が利用したデジタル庁内の初期実績
「源内」の初期の利用実績として、デジタル庁では2025年5月から7月までの3か月間に、職員約1,200人のうち約950人が実際に利用したと公表されています。これは全職員の約8割にあたります。登録だけして使われないツールも珍しくないなかで、職員の大部分が実際に手を動かしたという数字は、現場での受け入れられ方を示す具体的な指標です。導入が形だけで終わっていないことがうかがえます。
利用の総量も小さくありません。3か月間の生成AIの利用回数はのべ6万5,000回以上に達し、利用した職員1人あたり平均でおよそ70回という計算になります。一般に、業務システムは導入しても一部の職員しか使わないまま終わることがありますが、「源内」では多くの職員が繰り返し利用しました。日常業務のなかで定期的に使われていた様子がうかがえる数字といえるでしょう。
読者がこの実績を捉える際は、絶対数の大小よりも、約8割という利用率の高さと、1人あたりの利用回数の多さに注目すると意味が見えてきます。実際に使われてこそツールの価値は生まれるのです。デジタル庁という、AI活用に前向きな環境での初期実績ではありますが、現場で機能した一つの事例として参考になります。
運用開始から約3ヶ月の利用実績に表れた職員の反応と定着の傾向
デジタル庁では、2025年5月の運用開始からおよそ3ヶ月、7月までの期間における利用実績が具体的な数字とともに示されています。短い期間でありながら、職員の反応が利用者数という形で表れている点は、初期の手応えを把握するうえで重要な材料になるのです。立ち上げ直後から一定の利用が積み上がったことが分かります。
ただし、利用の実態は一様ではなく、両極端に分かれていた点も見逃せません。3か月間で100回以上利用した職員が多数いた一方で、5回未満の利用にとどまり早々に離脱した職員も170人を超えていました。職制別に見ると、若手職員や民間専門人材が活発に使う傾向がある半面、課長級職員の半数は利用実績がゼロという結果も出ています。普段使いが定着した層と、なじめずに離れた層が併存していたわけです。
読者がこの傾向を理解すると、「源内」の評価が机上の期待ではなく、実際の利用データに裏づけられている点が見えてきます。一定の定着が確認できた一方で、利用の偏りという課題も明らかになりました。デジタル庁自身も、職員全体の理解促進とより実用的なツールの開発を今後の課題として挙げており、全府省庁への展開ではこの偏りへの対応が鍵になります。
文書作成や情報調査などの場面で表れた「源内」の業務効率化効果
「源内」の効果が表れやすいのは、文書作成や情報調査といった、日々繰り返される作業の場面です。汎用AIによる下書きの支援や要約、校正は、これまで職員が時間をかけて行ってきた作業の負担を軽くします。ゼロから書き起こす手間が減り、内容の確認や仕上げに力を注げるようになります。
情報を調べる場面でも、対話型のやり取りを通じて論点を素早く整理できれば、調査にかかる時間を短縮できます。こうして生まれた時間を、政策立案や住民対応といった、人にしかできない業務へ振り向けられる点に効率化の本質的な意義があります。単に作業が速くなるだけでなく、力の配分を変えられることが重要です。
読者がこの効果を捉える際は、AIが仕事を奪うのではなく、負担の重い定型作業を肩代わりすることで人の役割を引き上げる、という見方が役立ちます。担い手不足が進むなかで、限られた職員が本来注力すべき仕事に集中できる環境を整えることこそ、「源内」が目指す効率化の狙いです。
国土交通省など他府省庁への横展開が始まった「源内」導入の実態
「源内」は、デジタル庁内での実績を踏まえ、他の府省庁への展開が始まっています。報じられている例として国土交通省への導入が挙げられ、デジタル庁が開発した基盤が、実際に別の省庁の現場で使われ始めているといえるでしょう。一つの組織での試みが、政府全体へ広がる段階に入ったといえます。
横展開が進むということは、「源内」が特定の組織だけに適した特殊なツールではなく、行政に共通する業務を広く支えられることの裏づけにもなります。各省庁が個別にゼロから環境を整えるのではなく、共通の基盤を使い回せれば、全体としての効率は大きく高まるのです。重複した開発を避ける狙いとも合致します。
読者がこの実態を理解すると、「源内」が構想段階の話ではなく、現実に複数の省庁で動き始めている取り組みである点が見えてきます。展開の初期にあたるため、各現場での定着にはこれからの工夫も必要でしょう。とはいえ、デジタル庁から他府省庁へという広がりは、政府全体でのAI活用が前進していることを示す動きです。
成果が出やすい業務と効果が出にくい業務を分ける活用上の判断軸
「源内」を活かすうえでは、成果が出やすい業務と出にくい業務を見極める判断軸が役立ちます。一般に、文章の下書きや要約、定型的な情報整理のように、手順がある程度決まっていて量の多い作業は、AIの支援による効果が出やすい領域です。負担が大きく繰り返しの多い作業ほど、肩代わりの恩恵が実感されます。
一方で、高度な政治的判断や、複雑な利害調整を伴う意思決定、最終的な責任を負う場面などは、AIに任せきりにできない領域です。こうした業務では、AIはあくまで材料の整理や下調べを支える補助役にとどまります。効果が出にくい業務を無理にAI任せにすると、かえって確認の手間が増えることもあり得ます。
読者がこの判断軸を持っておくと、「源内」をどこに使えば効果的かを自分の業務に照らして考えやすくなります。すべての作業を一律にAI化するのではなく、向き不向きを見極めて使い分けることが、成果につながる活用の鍵です。得意な領域から着実に広げていく姿勢が、定着と効果の両立を後押しします。
OSSとして公開された「源内」の構成と地方公共団体・民間での活用余地
「源内」は2026年4月に、その一部がオープンソースソフトウェア(OSS)として公開されました。何がどのような形で公開されたのか、そして地方公共団体や民間企業がどう活用できるのかを整理します。
2026年4月24日に商用利用可能なライセンスで公開されたOSSの範囲
デジタル庁は2026年4月24日、ガバメントAI「源内」の一部を、商用利用が可能なライセンスのもとで無償のオープンソースソフトウェアとして公開しました。これまで政府職員が安全にAIを活用できる基盤として進めてきた「源内」の成果を、外部にも開いていく取り組みの一環です。利用実績や知見の公開をさらに前進させる動きと位置づけられています。
商用利用が可能なライセンスである点は重要です。単に中身を見せるだけでなく、企業がこのコードを使って事業として展開することまで認められています。これにより、公開されたコードが研究や参考にとどまらず、実際のサービス開発につながる道が開かれました。公開の目的が、社会全体でのAI活用の底上げにあることがうかがえます。
読者がこの範囲を理解する際は、「源内」のすべてが公開されたわけではなく、一部が商用利用可能な形で開かれたという点を正確に押さえることが大切です。公開された部分を土台に、各組織がそれぞれの工夫を加えて活用していくことが期待されています。無償かつ商用可という条件は、活用のハードルを大きく下げる要素になります。
源内Webと行政実務用AIアプリという2つの公開システムの中身
公開された「源内」は、大きく2種類のシステムで構成されています。一つは利用者が直接さわるWebアプリケーションである「源内Web」、もう一つは生成AIを活用したマイクロサービスにあたる「行政実務用AIアプリ」です。それぞれがGitHub上で公開されており、役割の異なる二つの層として整理できます。
源内Webは、職員が画面を通じてAIとやり取りするための入り口にあたる部分です。一方の行政実務用AIアプリは、その背後で具体的な処理を担う仕組みにあたります。利用者が触れる表側と、機能を支える裏側という形で構成を分けることで、それぞれを独立して改良したり再利用したりしやすくなっています。
読者がこの構成を理解すると、「源内」が一枚岩の大きなソフトではなく、役割ごとに分かれた部品の組み合わせで成り立っていることが分かります。表側と裏側が分かれているからこそ、自分たちの用途に合わせて必要な部分だけを活かすといった柔軟な使い方もしやすくなります。公開の形態自体が、再利用のしやすさを意識して設計されているのです。
GitHub公式リポジトリで配布されるコードとgenai-web等の構成
公開されたコードは、コードホスティングサービスであるGitHubの公式リポジトリで一般に配布されています。GitHubは世界中の開発者が利用する代表的な基盤であり、誰でもアクセスして中身を確認したり取得したりできる点が特徴です。政府の取り組みをこうした開かれた場で公開すること自体に、透明性を重んじる姿勢が表れています。
リポジトリ上では、利用者が直接さわるWebアプリケーションが genai-web 、生成AIを活用したマイクロサービスにあたる行政実務用AIアプリが genai-ai-api として公開されています。名称からも、表側のWeb部分と、AI処理を担うAPI部分という役割分担が読み取れるのです。さらに、最新の法律条文データを参照して回答する法制度アプリの再現可能な実装も示されています。
読者がこの構成を押さえると、公開が抽象的な宣言にとどまらず、具体的なコードという形で確認できる実体を伴っていることが分かります。技術者であれば、実際にリポジトリを確認することで、行政がどのようにAIアプリを組み立てているのかを学べるのです。再現可能な実装が示されている点は、他の組織が同じ仕組みを参考にするうえで大きな助けになります。
重複開発の回避とコスト削減という地方公共団体側の導入メリット
「源内」のOSS公開は、地方公共団体にとって大きなメリットを持ちます。多くの自治体がそれぞれ独自に似たようなAI基盤を一から作ろうとすると、社会全体で同じような開発が何重にも繰り返され、無駄なコストがかさむのです。公開されたコードを活用すれば、こうした重複開発を避け、開発にかかる費用や手間を抑えられます。
背景には、国と地方が一体となってAI導入を加速させる必要があるという認識があります。AIが実用と普及の段階に移るなかで、日本が国際競争で強みを発揮するには、地方を含めた導入のスピードが問われることになるでしょう。すでに動いている「源内」の実装を土台にできれば、自治体はゼロからの開発という重い負担を負わずに済みます。
読者がこのメリットを理解すると、OSS公開が単なる情報開示ではなく、地方の現場の負担を実際に軽くする実利的な施策である点が見えてきます。各自治体が車輪の再発明を避け、共通の土台を共有することで、社会全体としての開発コストを下げられるのです。限られた予算と人員で運営される自治体にとって、これは現実的な助けになります。
OSSを基盤に独自サービスを構築する民間企業向けの活用パターン
民間企業にとっても、「源内」のOSS公開は新たな機会を生みます。公開されたコードを土台にして、自社の独自のアイデアや技術力を加え、地方公共団体などに向けたサービスとして展開する道が開かれているからです。商用利用が可能なライセンスであるため、これを使って事業を組み立てることが認められています。
デジタル庁は、公開した「源内」のOSSを活用して自治体向けサービスを展開しようと検討する企業からの技術的な問い合わせに対応する姿勢を示しています。また、OSSを活用したサービスの開発実績や、自治体への導入事例についての情報提供を歓迎するとしているのです。政府と民間が協力して、より良い行政AIを作り上げていく構図が描かれています。
読者がこの活用パターンを理解すると、「源内」が政府内部だけの取り組みにとどまらず、民間のビジネスへとつながる広がりを持つことが見えてきます。企業は、ゼロから基盤を作る負担を軽くしつつ、付加価値の部分で競い合えるのです。官が土台を開き、民が工夫を重ねるという役割分担が、日本全体のAI活用を押し上げる原動力になると期待されています。
18万人規模の実証と今後の政府調達を見据えた「源内」の展開計画
「源内」は今後、全府省庁を対象とした大規模な実証へと進み、国産LLMの本格調達も視野に入れています。今後のスケジュールと政策上の位置づけ、そして広がりの余地を整理します。
2026年度に全府省庁約18万人を対象とする大規模実証の全体像
デジタル庁は、令和8年度(2026年度)に、全府省庁の約18万人の政府職員を対象とした大規模な実証を実施する計画です。これまでデジタル庁内や一部の省庁で進めてきた取り組みを、政府全体の規模へと一気に広げる段階に入ります。約18万人という人数は、政府のAI活用がいよいよ本格的な普及局面を迎えることを示しています。
大規模実証の狙いは、限られた範囲では見えなかった課題や効果を、多様な現場で確かめることにあります。組織が違えば業務も異なり、抱える課題もさまざまです。多くの職員が実際に使うことで、どのような場面で役立ち、どこに改善の余地があるのかという具体的な材料を、幅広く集められると見込まれています。
読者がこの全体像を理解すると、「源内」が実験的な試みから、政府全体の標準的な基盤へと移行しようとしている過程にあることが分かります。約18万人規模での実証は、その移行が現実の計画として動いている証です。大規模に使われてはじめて見えてくる定着の課題に、これからどう向き合うかが問われる段階に入っています。
2026年8月頃に始まる国産LLM試験導入のスケジュールと狙い
国産LLMについては、2026年8月頃から「源内」での試用が始まる見通しです。公募と選定を経て候補となったモデルを、実際の環境で試しながら評価していく段階にあたります。いきなり本番運用に組み込むのではなく、試用という形で慎重に性能や適合性を確かめる進め方が採られています。
試用の狙いは、行政の現場で本当に使えるモデルを見極めることにあります。日本語や行政文書への適合、ガバメントクラウド内で安全に処理できるかといった条件を、机上の評価だけでなく実地で確認する必要があるのです。試用を通じて課題が見つかれば、それを改善や選定の判断に反映できる点に意義があります。
読者がこのスケジュールを押さえると、国産LLMの活用が段階を踏んで着実に進められていることが分かります。2026年8月頃という時期は、選定から本格調達へと向かう途中の重要な節目にあたるといえるでしょう。試用で得られる結果が、その後の調達判断を左右する材料になるため、この段階の評価が今後の方向性を大きく左右します。
2027年4月以降の有償での政府調達に向けた評価と選定の流れ
試用で得た評価を踏まえ、2027年4月以降には、優れた国産LLMを有償で政府調達する予定が示されています。無償での試用や公募の段階を経て、いよいよ正式に対価を支払って採用する本格運用の段階へと移行していくのです。これは、国産モデルの活用が一時的な実験ではなく、継続的な仕組みとして根づくことを意味します。
有償調達に進む前に評価と選定を丁寧に行うのは、税金を使う以上、性能や適合性を確かめたうえで採用する責任があるからです。試用を通じて確認された結果をもとに、行政利用にふさわしいモデルを見極めていきます。性能だけでなく、安全に運用できるかや、行政文書への適合といった要件も総合的に判断されると考えられます。
読者がこの流れを理解すると、「源内」の国産LLM活用が、公募から試用、そして有償調達へと、年単位で段階的に積み上がっていく計画であることが分かります。各段階で評価を挟むことで、無理のない移行を図っているのです。最終的に国産モデルが本格採用されれば、日本のAI自律性を支える基盤として「源内」の役割が一段と高まります。
高市政権が最重要課題の第一に掲げた「源内」徹底活用の政策方針
「源内」は、政権の重要政策としても明確に位置づけられています。高市内閣総理大臣は2025年12月19日に開かれた第3回の人工知能戦略本部で、日本で初めての「人工知能基本計画案」を決定したうえで、「信頼できるAIによる日本再起」を掲げて7点の指示を出しました。その第一に挙げられたのが「ガバメントAI源内の徹底活用」であり、2026年5月から10万人以上の政府職員が活用できるようにする方針が示されています。一つのシステムが、国家戦略の指示の筆頭に据えられたことの意味は小さくありません。
政権が旗を振ることで、「源内」の活用は各府省庁にとって取り組むべき明確な方針となります。現場任せでばらつきが出やすい施策も、トップが優先度を示すことで全体の足並みがそろいやすくなるのです。約18万人規模の実証や国産LLMの導入計画も、こうした強い政策的後押しのもとで進められていると理解できます。
読者がこの方針を押さえると、「源内」が一部門の試みではなく、国を挙げて推し進める戦略の中心に位置することが分かります。「信頼できるAI」という言葉には、安全性や国産活用を重んじる「源内」の方向性が凝縮されています。政策の最前線に置かれたことで、今後の展開がさらに加速していく可能性が高いといえるでしょう。
地方公共団体への波及と民間のビジネス機会という今後の展開余地
「源内」の今後を考えるうえで欠かせないのが、地方公共団体への波及と民間のビジネス機会という広がりです。OSS公開によって、自治体は重複開発を避けながらAI基盤を導入でき、民間企業はそれを土台にした独自サービスを展開できます。政府内部の取り組みが、社会全体へと外側に広がっていく構図が見えてきます。これまでの流れを時系列で整理すると次のとおりです。
| 時期 | 主な動き |
|---|---|
| 2025年5月 | 「源内」の運用開始とAI法の成立 |
| 2025年12月 | 国産LLM公募の開始とPLaMo翻訳の利用開始 |
| 2026年4月 | 「源内」の一部をOSSとして公開 |
| 2026年度 | 全府省庁約18万人を対象とする大規模実証 |
| 2026年8月頃 | 国産LLMの試用開始 |
| 2027年4月以降 | 優れた国産LLMの有償での政府調達 |
この時系列が示すのは、「源内」が運用開始から数年のうちに、政府内部の実証から地方や民間を巻き込んだ広がりへと段階的に発展していく見通しです。読者にとっては、今後の動きを追ううえでの道しるべになります。官が基盤を開き、地方と民間が活用を重ねることで、日本全体のAI活用が底上げされていくことが期待されています。