AI

デジタル庁が選定した国産AI7モデルとは|源内で試用するソブリンLLMの比較・選定基準・活用事例

デジタル庁は2026年3月6日、政府共通の生成AI基盤「源内(GENNAI)」で試用する国産大規模言語モデル(LLM)として7モデルを選定しました。海外製AIへの依存を下げ、行政実務に最適化した国産モデルを育てるソブリンAI(AI主権)確立の一歩です。この記事では、選ばれた7モデルの比較、15件の応募から絞り込んだ選定基準、官公庁でのソブリンAI活用事例、そして2026年のOSS公開・国産クラウド稼働までの最新動向を整理します。

目次

まとめ:デジタル庁の国産AI7モデル選定で押さえるべき要点

  • 選定日と対象:2026年3月6日に7モデルを選定。試用の場は政府共通の生成AI基盤「源内」。
  • 選ばれた7モデル:tsuzumi 2(NTTデータ)、Llama-3.1-ELYZA-JP-70B(KDDI・ELYZA)、Sarashina2 mini(ソフトバンク)、cotomi v3(NEC)、Takane 32B(富士通)、PLaMo 2.0 Prime(Preferred Networks)、CC Gov-LLM(カスタマークラウド)。
  • 選定方式:15件の応募を書類審査+当日初開示の50問評価テストで選抜。「国産だから優先」ではなく品質エビデンス重視。
  • 使える時期:2026年5月に全39機関・約18万人への大規模実証を開始。国産7モデルは2026年8月以降に試用、2027年1月に評価公表、2027年4月以降に有償調達。
  • 活用事例:農林水産省では約8,000件のアンケート分析が約2か月から約3日に短縮。法制度調査支援AI「Lawsy」や国会答弁検索AIも稼働。
  • 2026年後半の動き:源内は2026年4月24日にGitHubでOSS公開。7月にはtsuzumi 2・Takane 32B・PLaMo 2.0 Primeがさくらのクラウド上で稼働し、クラウドとモデルの双方を国産で構成する事例が生まれました。

以下で、各モデルの特徴・選定基準・活用事例・最新動向を順に整理します。

デジタル庁が選定した国産LLM7モデルの一覧と各モデルの特徴

選ばれた7モデルは、大手ITベンダー系・通信キャリア系・純国産スタートアップ系と出自が多様で、独自開発と海外モデルの派生・共同開発が混在します。まず全体像を比較表で示します。

モデル名 提供企業 開発方式 規模・特徴
tsuzumi 2 NTTデータ(NTT開発) 独自開発 日本語特化・軽量設計
Llama-3.1-ELYZA-JP-70B KDDI・ELYZA 派生(Llama 3.1) 700億パラメータ・日本語追加学習
Sarashina2 mini ソフトバンク 独自(蒸留) 小型・高速・低コスト
cotomi v3 NEC 独自開発 日本語特化・公共分野の実績
Takane 32B 富士通(Cohere共同) 共同開発 320億パラメータ・大量文書処理向け
PLaMo 2.0 Prime Preferred Networks 独自開発 純国産・翻訳モデルも保有
CC Gov-LLM カスタマークラウド 独自開発 行政・政府特化型

独自開発が多数を占める一方、KDDI・ELYZAはオープンソースのLlama 3.1をベースにした派生モデル、富士通はカナダCohereとの共同開発と、アプローチは分かれます。デジタル庁は開発方式で優劣を付けず、品質と説明可能性で評価する姿勢を示しました。

大手ITベンダー系:tsuzumi 2・cotomi v3・Takane 32B

tsuzumi 2はNTTデータが提供するNTTグループ開発のモデルで、2025年10月に正式公開されました。日本語テキスト処理に特化し、法令文や行政文書に頻出する複雑な表現構造への対応力が強みです。NECのcotomi v3は日本語特化LLM「cotomi」の第3世代で、政府・公共分野での長年のシステム構築実績を背景に、法令用語や行政特有の敬語表現の精度向上に注力しています。富士通のTakane 32BはカナダのCohereと共同開発した320億パラメータ級モデルで、パブリックコメントのような大量文書の一括処理を想定した用途に向きます。3社はいずれも官公庁向けの大規模ITインフラ構築の経験を持ち、導入後のカスタマイズや運用支援を自社で担える点が調達上の強みです。

通信キャリア×スタートアップ系:Llama-3.1-ELYZA-JP-70B・Sarashina2 mini

KDDIと東京大学発スタートアップELYZAが共同応募したLlama-3.1-ELYZA-JP-70Bは、Meta社のLlama 3.1をベースに日本語性能を強化した700億パラメータの派生モデルです。ベースモデルの高い汎用推論力に日本語表現を追加学習で上乗せできる一方、ライセンスや更新がベースモデルに依存する構造的リスクもあります。ソフトバンクのSarashina2 miniは、SB Intuitionsが開発した国産LLM「Sarashina」シリーズの小型・高効率版で、大規模モデルの出力を小型モデルに学習させる「蒸留」でモデルサイズを圧縮し、応答速度とコストを両立させています。定型文書の校正や簡易な質疑応答など、大規模モデルを使うまでもない処理を低コストでさばく用途に適します。Sarashinaの各モデルやライセンスはSarashinaのモデル一覧(TTS・OCR・Vision)と提供形態の解説で詳しく確認できます。

純国産スタートアップ系:PLaMo 2.0 Prime・CC Gov-LLM

Preferred Networks(PFN)のPLaMo 2.0 Primeは、基礎研究から応用まで一貫した開発力を持つ国産スタートアップの純国産モデルです。翻訳特化の「PLaMo Translate」も開発しており、多言語文書の翻訳ニーズに応えられる点が差別化要素です。カスタマークラウドのCC Gov-LLMは、7モデルのなかで唯一「Gov(政府)」を名称に冠する行政特化型モデルで、大企業とは異なるニッチな行政ドメインに焦点を絞っています。大手が並ぶなかにPFNとカスタマークラウドが選ばれたことは、企業規模ではなく技術力に基づく選定が行われたことを示しています。

15件の応募から7モデルへ絞り込んだ選定プロセスと評価テストの設計

今回の公募には15件の応募があり、書類審査と評価テストの二段階で7モデルが選ばれました。「国産だから」という理由での優遇を排除し、客観的な品質評価に基づく公正性を重視した設計です。

当日初開示の50問テストと安全性・法令遵守の要件

書類審査では、開発経緯・技術仕様・安全性対策・学習データの法令遵守状況などが確認されました。特徴的なのは第二段階の評価テストです。デジタル庁が独自に作成した50問は試験当日に初めて開示される形式で、応募企業がテスト内容を事前にモデルへ学習させる「テストデータの汚染」を防ぐ狙いがあります。安全性の要件では、ハルシネーション(事実と異なる情報の生成)、バイアス・差別的表現、有害コンテンツ生成の3観点について、具体的な対策を説明できることが求められました。加えて、海外主要LLMとのベンチマーク比較結果の提出も課され、国産モデルが「海外製の劣った代替品」ではないことをエビデンスで示させる設計になっています。

2026年度は無償提供、インフラ費用はデジタル庁が負担する費用分担

選定された7社は、2026年度(令和8年度)中はLLMを無償で政府に提供し、ガバメントクラウド上の推論環境の運用に係るインフラ費用はデジタル庁が負担します。企業側は18万人規模の実証で自社モデルを使ってもらえる大規模なショーケースを得られ、政府側は無償期間中に複数モデルを比較して2027年度以降の有償調達先を合理的に選べます。中小・スタートアップの参入障壁も下がり、大企業だけが有利にならない競争環境が保たれます。なお2027年度の本格調達に向けては、2026年5月に再公募の方針が示され、評価テストを50問から300問へ拡大し、評価方法も事前に開示する方式へ見直すことが予告されています(公募は2026年11月に実施予定)。

ソブリンAIを行政に導入した官公庁の活用事例

「ソブリンAIを導入した官公庁の活用事例は?」という問いに対し、源内はすでに具体的な成果を出しています。ここでは先行運用の実績と、省庁横断で生まれた事例を整理します。

デジタル庁の先行運用:約8割が利用、6.5万回超の実行実績

源内は2025年5月にデジタル庁の全職員約1,200人を対象に運用を開始しました。5〜7月の3か月間で約950人(全職員の約8割)が利用し、生成AIの実行回数はのべ6万5,000回を超えています。職員アンケート(回答110人)では、業務効率化に「寄与している」との回答が約79.1%を占めました。一方で3か月間の利用が5回未満にとどまる職員も一定数おり、利用の二極化が課題として残ります。特に課長級では約半数が利用実績ゼロで、職制が上がるほど利用が減る傾向が明確に表れました。

農林水産省・厚生労働省など省庁横断の活用事例

実用性を示す代表例が農林水産省との連携です。今後の米政策の検討にあたり、販売農家・農業法人を対象とした約8,000件のアンケート回答に対し20件以上の仮説検証を行う分析を、AI活用で支援しました。職員1人で約2か月を要していた作業が約3日に短縮され、職員はより高度な政策立案に時間を割けるようになっています。厚生労働省(雇用環境・均等局)とは労働相談対応業務を対象としたAIアプリを共同開発中で、デジタル庁が開発基盤と技術支援を、所管省庁が業務要件を担う分業モデルで進められています。このほか源内には、国会議事録から関連答弁を検索する国会答弁検索AIや、法制執務システムと連携して条文・関連資料を横断検索する法制度調査支援AI「Lawsy」など20種類以上の行政特化アプリが用意されています。

生成AI基盤「源内」の構成・性能とOSS公開(2026年4月)

源内は、AWSのオープンソース「Generative AI Use Cases(GenU)」をベースにデジタル庁が内製開発した政府共通の生成AI利用環境です。名称の由来や基本的な使い方はガバメントAI「源内(げんない)」の使い方と何ができるかの解説にまとめています。ここでは選定後に関心が高まっている構成・性能とOSS公開を扱います。

海外モデルと国産モデルを使い分けるマルチモデル構成

源内は複数のLLMを切り替えて使えるマルチモデル設計を採用しています。導入初期の2025年8月時点では、Amazon Nova Lite、Anthropic社のClaude 3 Haiku・Claude 3.5 Sonnetから職員が用途に応じて選べる構成でした。2025年10月にはデジタル庁がOpenAIとの戦略的連携を発表し、OpenAIのモデルも追加されています。ここに国産7モデルが順次組み込まれることで、英語論文の調査や海外事例の分析には汎用性の高い海外モデルを、国会答弁草案や法令文書の校正には日本語・行政ドメインに強い国産モデルを、といった使い分けが可能になります。実際に利用可能なモデルの構成は随時更新されるため、最新の一覧はデジタル庁の公表資料での確認が確実です。なお、各モデルの性能を横並びで比較できる公式な評価結果は2027年1月に公表される予定で、現時点で確定した性能ランキングは示されていません。

2026年4月のOSS公開と国産クラウド稼働

選定後の大きな動きが、源内のオープンソース化です。デジタル庁は2026年4月24日、源内のWebインターフェースやアプリ開発用テンプレートを商用利用も可能なライセンスでGitHubに公開しました。これにより地方自治体や独立行政法人は、セキュリティ設計やアプリ開発をゼロから行わずに源内と同等の環境を導入でき、独自に構築するより短期間・低予算で整えやすくなります。さらに2026年7月には、tsuzumi 2・Takane 32B・PLaMo 2.0 Primeがさくらインターネットの「さくらのクラウド」上で稼働し、源内から利用できるようになりました。クラウド基盤とモデルの双方を国産で構成した初の政府事例です。

全39機関・18万人への展開スケジュール

源内の全府省庁展開は段階的に進みます。2026年5月から外局を含む全39機関・約18万人の国家公務員を対象とした大規模実証が始まり、既存モデルでの運用がスタートしました。国産7モデルは2026年8月以降に順次試用され、2027年1月にデジタル庁が評価結果の一部を公表、2027年4月以降に評価を踏まえて優れたモデルの有償調達へ移行します。令和9年度以降は各省庁が個別に予算を要求し、本格的な導入・利活用へ進む計画です。

なぜ国産AIか:AI主権(ソブリンAI)確立という政策背景

政府が国産LLMにこだわる背景には、実務上の要請と政策的な後押しの両方があります。ソブリンAIそのものの概念はソブリンAI(AI主権)とは何かの解説に譲り、ここでは源内での選定に直結する要因に絞ります。行政AI基盤の全体像はガバメントAIとは何かの解説も参考になります。

機密性2情報を国内で処理するデータ主権の要件

最も実務的な理由は、機密性2情報の取り扱いです。機密性2情報とは、関係者以外に流出した場合に業務上の支障が生じうる情報で、日常的な行政事務の多くが該当します。海外企業が運営するクラウドではデータが国外を経由する可能性があり、この水準の情報は原則入力できません。今回選ばれた7モデルは、いずれもデータ処理が国内で完結するガバメントクラウド上の推論環境で動作することが要件とされました。海外製LLMとの最大の差別化ポイントは、このデータ主権の確保にあります。

AI法施行と政策連鎖が後押しした選定

制度面では、2025年5月28日に成立・6月4日に公布され、9月1日に全面施行されたAI関連技術の推進法(AI法)が土台になっています。全面施行により内閣総理大臣を本部長とするAI戦略本部が設置され、政府自らがAIを利活用する枠組みが整いました。2025年12月にはデジタル庁が国産LLMの公募を開始し、高市首相がAI戦略本部で「2026年5月から10万人以上への源内展開」を指示、同月23日にはAI基本計画が閣議決定されるという政策連鎖が起きています。予算面でも、デジタル庁のガバメントAI整備事業として令和7年度補正予算に44億円が計上され、国産LLMの推論に係るインフラ費用などに充てられます。

企業・自治体は源内の国産LLM選定をどう活かすか

この選定は政府内の話にとどまりません。国産LLMの調達や生成AI導入を検討する企業・自治体にとって、実務的な示唆がいくつもあります。

第一に、「政府が実務で評価した国産LLM」というリストは調達の有力な判断材料になります。7モデルはいずれも安全性・法令遵守・技術支援の要件を満たしており、2027年1月に評価結果の一部が公表されれば、日本語・行政文書に強いモデルの実力が客観的な比較データとして参照できます。自社の用途が日本語の定型文書処理なら小型・低コストのSarashina2 mini、大量文書の一括処理ならTakane 32B、というように用途起点で候補を絞るのが現実的です。

第二に、源内のOSS公開は自治体の生成AI導入コストを直接下げます。セキュリティ設計や行政アプリの雛形を流用できるため、独自にゼロから作るより短期間・低予算で環境を整えられます。ただし、OSSの運用にはセキュリティ更新やアプリ改修を自組織で担う体制が要る点は見落とせません。

一方で、安易な全業務のLLM化は推奨しません。18万人規模での運用では、AIが生成した誤情報がそのまま行政文書に転記されるハルシネーション混入リスクが構造的に避けられず、CAIO(最高AI責任者)による監視にも限界があります。生成結果はドラフトとして扱い、必ず人が確認する運用を前提にすべきです。7モデルの並行採用はベンダーロックインを避ける一方で管理コストを押し上げ、2027年4月の有償調達で選ばれなかったモデルは事実上退場するため、長期のモデル更新をどう設計するかが導入側にも問われます。国産LLMは「日本語・行政ドメインで海外モデルを補完する選択肢」と位置づけ、海外モデルとの使い分けを前提に検討するのが妥当です。

よくある質問

生成AI基盤「源内」とは何ですか?

デジタル庁が内製開発した政府共通の生成AI利用環境です。名称は「Gen AI(ゲンナイ)」と江戸時代の発明家・平賀源内を掛け合わせたもので、AWSのオープンソース「GenU」をベースに行政実務向けの拡張が施されています。複数のLLMを切り替えて使えるマルチモデル基盤である点が特徴です。名称の由来や使い方は源内の解説記事で詳しく扱っています。

デジタル庁が選定した国産AI7モデルは何ですか?

tsuzumi 2(NTTデータ)、Llama-3.1-ELYZA-JP-70B(KDDI・ELYZA)、Sarashina2 mini(ソフトバンク)、cotomi v3(NEC)、Takane 32B(富士通)、PLaMo 2.0 Prime(Preferred Networks)、CC Gov-LLM(カスタマークラウド)の7モデルです。2026年3月6日に選定され、独自開発・派生モデル・共同開発が混在しています。

ソブリンAIを導入した官公庁の活用事例はありますか?

デジタル庁の源内が代表例です。農林水産省では約8,000件のアンケート分析が約2か月から約3日に短縮され、法制度調査支援AI「Lawsy」や国会答弁検索AIも稼働しています。厚生労働省とは労働相談対応のAIアプリを共同開発中で、省庁横断での活用が広がっています。

源内はいつから全省庁で使えますか?

2026年5月から全39機関・約18万人を対象とした大規模実証が始まっています。国産7モデルは2026年8月以降に順次試用され、2027年1月に評価結果が公表、2027年4月以降に有償調達へ移行する予定です。

源内はオープンソースで公開されていますか?

公開されています。デジタル庁は2026年4月24日、源内のWebインターフェースやアプリ開発用テンプレートを商用利用も可能なライセンスでGitHubに公開しました。自治体や独立行政法人が源内と同等の環境を導入しやすくなっています。

各モデルのバージョンや規模はどう違いますか?

PLaMoは2.0 Prime、Takaneは320億パラメータの32B、Llama-3.1-ELYZA-JP-70Bは700億パラメータです。tsuzumi 2とcotomi v3は日本語特化の独自開発、Sarashina2 miniは蒸留による小型・高速版で、用途に応じて規模と特性が使い分けられます。最新の対応モデル構成はデジタル庁の公表資料で確認するのが確実です。

関連記事

資料請求

RELATED POSTS 関連記事