元Microsoft副社長が上海で創業した階躍星辰(StepFun)の設立経緯とAGI構想
元Microsoft副社長が上海で創業した階躍星辰(StepFun)の設立経緯とAGI構想
中国のAI業界では、2023年以降に相次いで誕生したスタートアップ群が世界的な注目を集めています。その中でも階躍星辰(StepFun)は、マルチモーダルAIという明確な技術方針と大型資金調達の実績により、投資家やエンジニアの双方から高い関心を得ている企業です。本章では、この企業がどのような背景から生まれ、どこへ向かおうとしているのかを掘り下げます。
2023年4月設立——姜大昕CEOがMicrosoftを離れた背景と創業メンバーの技術的蓄積
階躍星辰は2023年4月、上海市徐匯区に本社を置く形で正式に設立されました。創業者でありCEOを務める姜大昕(ジャン・ダーシン)氏は、Microsoftに16年間在籍し、Vice Presidentおよび Microsoft Software Technology Center Asia 首席科学家という要職を歴任した人物です。Bing検索エンジン、音声アシスタントCortana、Azure Cognitive Services、Microsoft 365の自然言語理解システムなど多数のプロジェクトを率いた経験が、階躍星辰の技術基盤を支えています。共同創業者には同じくMicrosoft出身で検索部門を統括した焦彬星氏と、ByteDanceでAIインフラ責任者を務めた朱亦博CTO(現職)が名を連ね、初期段階から高度なモデル開発と大規模クラスタ運用の両面で実力を備えていました。設立からわずか2年余りで29を超える自社開発モデルをリリースしてきた開発スピードは、この技術的蓄積に裏打ちされたものです。なお正式な英語表記は「StepFun」であり、中国語社名は「上海阶跃星辰智能科技有限公司」です。
中国「AI六虎」の一角として注目される理由と他5社との立ち位置の違い
中国のAIスタートアップ業界では、百川智能・智譜AI・零一万物・MiniMax・Moonshot AI、そして階躍星辰の6社が「大模型六虎」と呼ばれ、投資家やメディアから集中的に注目されています。それぞれの企業は異なる戦略を採用しており、たとえば百川智能はAI医療へ軸足を移し、智譜AIはAIエージェントとモデルAPIの法人展開を重視しています。零一万物は海外市場での収益化、Moonshot AIは自社チャットアシスタント「Kimi」のユーザー定着率向上、MiniMaxは消費者向け製品とグローバル展開に注力する中、階躍星辰はモデル基盤能力の継続強化と消費者向けアプリケーションのカバレッジ拡大という二軸戦略を鮮明にしています。とくにマルチモーダル領域(テキスト・画像・動画・音声の統合処理)での先行投資が、他5社との最大の差別化要因になっています。各社が自社の得意分野に特化していくなかで、階躍星辰は技術力と応用範囲の広さを同時に追求するという野心的なポジションを維持している点が、投資家から高く評価されています。
マルチモーダル統合という技術方針を初期から掲げた戦略判断の根拠
階躍星辰がマルチモーダルAIを中核に据えた判断には、明確な実務的根拠があります。CEO姜大昕氏は公式発表の場で「多くの応用場面では、数学オリンピックの金メダリストのようなモデルよりも、画像の意味を理解し音声でユーザーと対話できるモデルのほうが必要とされている」という趣旨の発言をしています。実際、スマートフォンのカメラ機能やカーナビの音声操作、ECサイトの画像検索といったBtoC領域では、テキストだけでなく複数のモダリティを横断して処理する能力が不可欠です。この認識のもと、階躍星辰は設立当初からテキスト・画像・動画・音声を一貫して扱える基盤モデルの研究開発にリソースを集中させてきました。2024年3月のStep-1シリーズ投入以降、わずか2年間でマルチモーダル系を含む29以上のモデルを矢継ぎ早にリリースしている事実が、この方針の一貫性を物語っています。テキスト処理だけに集中していた競合がマルチモーダル対応を後付けで追加する流れとは対照的に、階躍星辰は最初から統合設計を選択したことで、モダリティ間の連携品質で優位に立っている点も見逃せません。
上海市の「模塑申城」戦略と階躍星辰が受ける政策的支援の具体内容
階躍星辰の成長を語るうえで、上海市政府の政策的後押しは無視できない要素です。上海市は「模塑申城(モデルで上海を形作る)」と銘打ったAI産業振興戦略を推進しており、AI関連スタートアップへの算力(計算資源)提供、データセット整備、応用場面の創出、資金面での保障を包括的に行っています。2025年7月のWorld Artificial Intelligence Conference(WAIC)では、上海市の副市長が階躍星辰を名指しで支援対象に挙げ、AI初創企業の技術高度化を加速させる方針を表明しました。また、上海市国有資本投資有限公司(上海国投)との深度戦略提携も発表されており、資本面・事業面の双方で公的セクターとの連携が進んでいます。登録資本100億元規模の上海国投が投資ラウンドに参加したことは、国策としてのAI産業支援の本気度を象徴する出来事です。こうした政策的バックアップは、計算資源の確保や大規模データの利活用において、純粋な民間スタートアップにはない優位性を階躍星辰にもたらしています。中国のAIスタートアップが成長するうえで、地方政府との関係構築は技術力と並ぶ重要な成功要因となっています。
AGI到達に向けた3段階ロードマップと現時点での進捗を示す公開指標
階躍星辰はAGI(汎用人工知能)の実現を長期目標として公式に掲げています。CEO姜大昕氏はAGI到達までのプロセスを3段階に整理しており、最終段階ではマルチモーダルの理解と生成を一つのモデル内で統合し、身体性を持つ知能(Embodied Intelligence)へ発展させる構想を示しています。現時点での進捗としては、Step 3で「理解と推論の統合」を実現し、Step 3o Visionでマルチモーダル理解・生成の一体化モデルを発表しています。さらにStep 4のトレーニング開始も公表されており、次世代モデルへの布石が着々と打たれています。同社は創業時から「単一モーダルモデル→マルチモーダルモデル→マルチモーダル理解・生成の統合→世界モデル→AGI」という5段階のロードマップを設定しており、CEO姜大昕氏はこの順序を変更する予定はないと明言しています。2024年下半期にはマルチモーダルAPIの利用量が45倍以上に急増したという数値も公開されており、研究開発フェーズから商業化フェーズへの移行が加速していることを示す客観的な指標となっています。
総パラメータ196B〜321Bを操るStepシリーズ各モデルのアーキテクチャと得意領域
階躍星辰の技術力を理解するには、同社が展開するモデル群の設計思想と技術仕様を把握することが欠かせません。Stepシリーズは世代ごとに大きく進化しており、それぞれが異なるユースケースに最適化されています。ここでは主要モデルの構造と適用領域を具体的な数値とともに解説します。
Step 3の321B MoEアーキテクチャ——激活38Bで実現するコストと性能の両立設計
2025年7月にWAICで発表されたStep 3は、階躍星辰の最新世代の基盤モデルです。総パラメータ数はLLM部分が316B、視覚エンコーダが5Bの合計321Bで構成されています。アーキテクチャにはMixture of Experts(MoE)を採用し、推論時に実際に活性化されるパラメータは38Bに抑えられています。これはDeepSeek R1の活性化パラメータ37Bとほぼ同水準であり、Qwen(活性化22B)を上回る計算容量を持ちながら、全パラメータを常時使用するDenseモデルと比較して推論コストを大幅に削減できる設計です。さらにStep 3は「原生多模態推理模型」、すなわち設計段階からマルチモーダル対応を前提としたネイティブ推論モデルであり、テキスト・画像・動画・音声を一つのアーキテクチャ内で処理できます。この点がテキスト専用モデルに視覚機能を後付けした競合製品との本質的な違いです。
Step 3.5 Flashの196B総パラメータ中11Bのみ起動するSparse MoE構造の技術的意義
2026年2月にリリースされたStep 3.5 Flashは、階躍星辰のオープンソース戦略を象徴するモデルです。総パラメータ196Bに対し、トークンごとに起動するパラメータはわずか11Bという極めてスパースなMoE設計を採用しています。これにより、Mac Studio M4 MaxやNVIDIA DGX Sparkといったハイエンド消費者向けハードウェアでもローカル実行が可能になりました。Apache 2.0ライセンスで公開されており、商用利用・改変・派生開発が自由に行えます。「思考するのに十分速く、行動するのに十分信頼性が高い」というスローガンのもと、AIエージェント用途に特化した設計が施されています。とりわけコーディング領域ではSWE-bench Verifiedで74.4%、Terminal-Bench 2.0で51.0%という高い成果を示し、パラメータ数が5分の1以下でありながら1兆パラメータ級の競合モデルに匹敵する性能を発揮しています。
Step-1V・Step-Audio 2・Step-Video-T2Vなどマルチモーダル派生モデルの役割分担
階躍星辰は基盤モデルに加えて、特定のモダリティに特化した派生モデル群を展開しています。画像理解モデルStep-1Vは32Kコンテキスト長で写真や図表の内容分析に対応し、2025年4月に公開されたStep-R1-V-Miniは視覚的な解釈と画像理解に特化した推論モデルです。音声領域ではStep-Audio 2が第2世代のエンドツーエンド音声大モデルとして稼働しており、step-audio-2・step-audio-2-mini・step-audio-2-think・step-audio-2-mini-thinkの4バリエーションでリアルタイム音声対話に対応します。動画生成分野ではStep-Video-T2Vが2025年2月に吉利自動車との共同でMITライセンスのもとオープンソース化されました。公式のテスト結果では全球オープンソース動画生成モデルの中でトップクラスの品質を達成しています。これらのモデルは「1+N」のマトリクス構造と呼ばれ、Step 3を中核(1)として多数の専門モデル(N)が特定用途をカバーする体制になっています。
256Kコンテキスト長とMTP-3による毎秒100〜350トークン生成速度の実測条件
Step 3.5 Flashの実用面で注目すべき仕様が、256K(約25万6000トークン)のコンテキストウィンドウとMulti-Token Prediction 3(MTP-3)による高速生成です。MTP-3は1回の推論ステップで複数トークンを同時に予測する技術であり、通常のテキスト生成では毎秒100〜300トークン、コーディングタスクではピーク時に毎秒350トークンの生成速度が報告されています。この速度はリアルタイム性が求められるAIエージェントの運用において大きなアドバンテージです。この256Kのコンテキスト長は、数百ページの技術文書や複数のソースコードファイルを一度に読み込ませるといった実務シナリオに対応します。ただしQwen3-Max-Thinkingが100万トークンに対応している点を考えると、超長文処理が主目的の場合は用途に応じたモデル選択が必要になります。実運用ではコンテキスト長とレスポンス速度のバランスを重視し、案件の特性に合わせてモデルを切り替える戦略が推奨されます。
Apache 2.0ライセンスで公開されたモデルの商用利用範囲と制約事項
Step 3.5 FlashはApache 2.0ライセンスのもとで公開されており、商用利用・再配布・改変・派生物の作成がいずれも許諾されています。このライセンス選択はDeepSeek R1が採用したMITライセンスと同様に極めて寛容であり、企業がプロダクトに組み込む際の法的ハードルを最小化しています。Hugging Face上ではBF16・FP8・INT4の各量子化バージョンが配布されており、ハードウェアリソースに合わせた柔軟なデプロイが可能です。一方でStep 3(321Bモデル)は2025年7月31日に開源予定とされましたが、クラウドAPI経由での利用が先行する形になっており、セルフホスティングを前提とする場合はモデルごとの公開状況と利用条件を事前に確認する必要があります。また、中国国内向けのプラットフォーム(platform.stepfun.com)と国際版(platform.stepfun.ai)ではエンドポイントURLが異なるため、開発時にベースURLの設定を間違えないよう注意が求められます。
DeepSeek R1比で推論スループット最大3倍——ベンチマークが裏づける技術的優位性
AI基盤モデルの評価において、ベンチマークスコアと推論効率はともに不可欠な判断材料です。階躍星辰のモデル群は複数の主要ベンチマークでSOTA(State of the Art)を記録するとともに、独自アーキテクチャによるコスト優位性を明確に示しています。本章では具体的な数値をもとに競合との差を検証します。
NVIDIA Hopper実測でDeepSeek R1比70%超のスループット向上を実現した要因
階躍星辰はStep 3のリリースにあたり、NVIDIA Hopper世代のGPUによる分散推論の実測データを公開しました。その結果、DeepSeek R1と比較してスループット(処理量)が70%以上向上していることが確認されています。この改善を支えているのが、Attention-FFN Disaggregation(AFD)と呼ばれる独自の分散推論方式です。従来のDeepSeekが採用していた「大EP(Expert Parallelism)」方式に対し、AFDではAttention処理とFFN(Feed-Forward Network)処理の計算特性に着目して、メモリ帯域幅が大きいGPU群と演算性能が高いGPU群にそれぞれ割り振るアプローチをとっています。これによりリソースの精密なマッチングが実現し、推論コストの圧縮につながっています。さらにAFDはNVIDIA固有のIBGDA機能に依存しない設計であるため、国産チップを含む多様なハードウェア上でも同等の最適化効果が期待できます。
AIME 2025・MMMU・LiveCodeBenchなど主要ベンチマーク5種での順位と得点差
Step 3およびStep 3.5 Flashは、複数の権威あるベンチマークでオープンソースモデルのトップスコアを記録しています。Step 3はMMU(マルチモーダル大規模理解)、MathVision(数学的視覚推論)、SimpleVQA、AIME 2025(数学オリンピック級推論)、LiveCodeBench(2024年8月〜2025年5月期間のコード生成)において、オープンソースのマルチモーダル推論モデルとしてSOTAを達成しました。Step 3.5 FlashはAIME 2025やIMOAnswerBenchなど4つの推論ベンチマークでDeepSeek・Moonshot AI・智譜AI・MiniMaxの各モデルを上回り、OpenAIのモデルのみが競合する位置にあると報じられています。これらの結果は、パラメータ数が1兆規模のKimi K2.5やDeepSeek V3.2と比較しても、効率的なアーキテクチャ設計によってベンチマーク性能を犠牲にしていないことを示す重要な証左です。
独自MFAアーキテクチャがQwen GQA比KV量1/3・DeepSeek MLA比計算量1/4を達成した仕組み
Step 3の推論効率を支える中核技術がMFA(Multi-head Fused Attention)アーキテクチャです。これは階躍星辰が独自に開発したアテンション機構で、同一の活性化パラメータ量・同一のモデルサイズという条件下で、QwenのGQA(Grouped Query Attention)と比較してKV(Key-Value)キャッシュ量を3分の1に削減し、DeepSeekのMLA(Multi-head Latent Attention)と比較して絶対計算量を4分の1に圧縮することに成功しています。この技術的ブレイクスルーが意味するのは、同じ推論品質を保ちながらメモリ消費量と計算コストの双方を劇的に低減できるという点です。結果として、国産チップ上でのStep 3運用コストが、DeepSeekやQwenを高性能な国際チップで動かす場合よりも低くなるシナリオすら生まれています。これは補助金や価格競争ではなく、アーキテクチャレベルのイノベーションによって実現されたコスト優位であり、持続性の高い競争力といえます。
Kimi K2・Qwen3との1兆パラメータ級モデル比較で見える小規模高効率の実力
| モデル名 | 総パラメータ | 活性化パラメータ | コンテキスト長 | ライセンス | 主な強み |
|---|---|---|---|---|---|
| Step 3.5 Flash | 196B | 11B | 256K | Apache 2.0 | コーディング・エージェント・高速推論 |
| Step 3 | 321B | 38B | 非公開 | オープンソース予定 | マルチモーダル推論・国産チップ最適化 |
| Kimi K2.5 | 1T級 | 非公開 | 非公開 | 独自 | 大規模推論・広範な知識 |
| DeepSeek V3.2 | 1T級 | 37B | 128K | MIT | ハイブリッド推論・ツール呼び出し |
| Qwen3-Max-Thinking | 非公開 | 22B | 1M | 独自 | 超長文コンテキスト |
上記の比較表から読み取れるのは、Step 3.5 Flashが総パラメータ数で競合の5分の1以下でありながら、複数のベンチマークで同等以上の成績を残しているという事実です。とくに11Bという極小の活性化パラメータは、推論1回あたりのGPUメモリ使用量と電力消費を大幅に抑えます。大規模モデルは精度面で有利な場面もありますが、運用コストやデプロイの柔軟性まで含めた総合評価では、小規模高効率モデルの実務的価値はきわめて高いといえるでしょう。
国産チップ上でDeepSeek R1の推理コストを下回る可能性とその前提条件
階躍星辰は2025年7月、華為昇腾(Ascend)を含む約10社のチップ・インフラ企業と「模芯生態創新聯盟(モデル・チップエコシステム革新アライアンス)」を設立しました。公式発表によれば、Step 3は国産チップ上での推論効率がDeepSeek R1の最大300%に達するとされています。ただし、この数値はあくまで「原理分析に基づく」理論値であり、すべての国産チップで同一の結果が保証されるわけではありません。現時点で華為昇腾がStep 3の搭載・運用を最初に実現しており、沐曦・天数智芯・燧原科技が初期段階での稼働を確認しています。壁仞科技・寒武紀・摩尔線程などの他アライアンスメンバーは適配作業を進行中です。米中半導体規制によってNVIDIAの高性能GPUの調達が制限される環境下で、国産チップ上のコスト効率が高い点は、中国市場でのStep 3の採用を後押しする決定的な要因になり得ます。ただし日本を含む中国国外のユーザーにとっては、NVIDIA GPU上での70%スループット向上のほうが実務的に関連性の高い指標となるでしょう。
OpenAI互換APIを最短で動かすための導入手順と料金設計の実務知識
階躍星辰のAPIはOpenAI互換のインターフェースを採用しているため、既存のOpenAI SDKを使ったコードをわずかな修正で移行できます。本章では実際の導入手順からコスト最適化まで、開発者が押さえるべき実務的な情報を整理します。
OpenAI SDKのbase_url書き換えだけで接続できるAPI設計と初回セットアップ5ステップ
階躍星辰のAPIは、OpenAIのPython SDK(openaiライブラリ)をそのまま利用できる互換設計になっています。具体的な接続方法は驚くほどシンプルです。
- 階躍星辰開放平台(platform.stepfun.com)にアカウント登録する
- アカウント管理画面でAPIキーを発行する
- Pythonの環境変数にAPIキーとベースURLを設定する
- OpenAI SDKのクライアント初期化時にbase_urlを階躍星辰のエンドポイントに変更する
- モデル名を指定してリクエストを送信し、動作を確認する
コード上の変更点は、base_url="https://api.stepfun.com/v1"のようにベースURLを書き換え、モデル名をstep-1-8kやstep-3.5-flashなどに変更するだけです。国際版を利用する場合はbase_url="https://api.stepfun.ai/v1"となります。OpenRouterやSiliconFlowなどのサードパーティプラットフォーム経由でも利用可能であり、Step 3.5 FlashはOpenRouter上で無料枠が提供されているため、評価目的であれば初期コストゼロで試すことができます。
step-1-8k・step-1-128k・step-1-256kなど用途別モデル選定の判断基準
階躍星辰のAPIでは、コンテキスト長の異なる複数のモデルが提供されており、用途に応じた使い分けが重要です。step-1-8kは標準的な対話や短文処理に適した軽量モデルで、開発中のデバッグや簡単なテストに最適です。step-1-128kは中規模の文書要約や複数ページの仕様書解析に対応し、step-1-256kは数百ページの技術文書や長大なコードベースの一括処理を想定した超長文モデルです。画像理解が必要な場合はstep-1v-32kを選択します。コスト効率の観点からは、普段の開発やテストには8kモデルを使用し、本番環境で長文処理が必要な場合にのみ128kや256kモデルに切り替えるという運用が実務上もっとも合理的です。最新のStep 3やStep 3.5 Flashについては、APIモデル名としてstep-3やstep-3.5-flashを指定することで利用できます。モデル選択を誤ると、不要なトークンコストの発生や処理速度の低下といった実害が生じるため、要件定義の段階で入力データの長さと処理内容を明確にしておくことが重要です。
トークン単価・コンテキスト長別の課金体系とOpenAI GPT-4oとの料金比較
階躍星辰のAPI料金体系は、入力トークンと出力トークンの従量課金制です。中国語では1文字が1文字として、英語では2文字が1文字として、句読点は2つで1文字としてカウントされる独自の計算方式を採用しています。具体的な単価はモデルとコンテキスト長によって異なりますが、全般的にOpenAI GPT-4oと比較して大幅に安価に設定されています。とくにStep 3.5 FlashはOpenRouter上で無料利用枠が設けられており、SiliconFlow経由でも低コストでアクセスできます。ただし、無料枠では同時接続数や呼び出し頻度に制限がかかるケースがあるため、商用利用を前提とする場合は専用のAPIキーを取得して有料プランに移行することが推奨されます。料金の最新情報はプラットフォームの公式ドキュメント(platform.stepfun.ai/docs/en/pricing/details)で確認できます。
ストリーミング出力・画像リサイズ・リトライ戦略で実現するコスト最適化3手法
API利用コストを抑えながらユーザー体験を維持するための実務的なテクニックが3つあります。第一に、長文回答の生成にはストリーミング出力を活用します。クライアント初期化時にstream=Trueを設定することで、生成途中のテキストを逐次表示でき、ユーザーの体感待機時間を短縮しつつタイムアウトのリスクも低減できます。第二に、画像を含むリクエストでは送信前に画像を1024×1024ピクセル以下にリサイズすることが有効です。認識精度をほぼ維持したまま、トークン消費とレスポンス速度を劇的に改善できるためです。第三に、APIの一時的な不安定性に備えてtenacityライブラリなどを使った指数バックオフによる自動リトライを実装しておくと、障害時にも安定した運用が可能になります。この3つの手法はStepFunに限らずOpenAI互換APIを使うあらゆるプロジェクトで応用できる汎用的なベストプラクティスです。
APIキー漏洩リスクと環境変数管理——開発現場で起きた失敗事例と対策
API開発においてもっとも避けるべきリスクの一つが、APIキーのソースコードへのハードコーディングです。実際の開発現場では、APIキーをコードに直接書いた状態でGitリポジトリにプッシュしてしまい、数時間で利用枠を使い切られるという事故が報告されています。階躍星辰のAPIに限った問題ではありませんが、このリスクを回避するために環境変数での管理が必須です。Pythonであればpython-dotenvライブラリを使い、.envファイルにAPIキーを格納してコードから参照する方法が標準的です。.envファイルは必ず.gitignoreに追加し、バージョン管理対象から除外してください。チーム開発では、APIキーの発行と無効化の権限管理、利用量のモニタリングアラート設定、そして定期的なキーのローテーションを運用ルールに組み込むことが、商用運用レベルでのセキュリティを確保するうえで不可欠です。
スマホ搭載・車載AI・動画生成に広がるマルチモーダル活用の具体事例
階躍星辰の技術がどのような形で実社会に浸透しているかを把握することは、導入検討者にとって最も関心の高いテーマの一つです。本章では、すでに商用展開が進んでいるスマートフォン・自動車・動画制作・音声対話・ノーコード創作の各領域における具体的な活用事例を紹介します。
Honor・OPPO・ZTEなど主要スマホメーカー60%に採用され4200万台超に搭載された端末AI連携の仕組み
階躍星辰のマルチモーダルモデルは、中国市場の主要スマートフォンブランドの約60%に採用されています。Honor(栄耀)、OPPO、ZTEなどの端末に組み込まれており、2025年末時点で4200万台以上のデバイスに搭載され、日間アクティブユーザーは約2000万人に達しています。とりわけ注目されたのは、iPhone 16のカメラ機能と連携する「跃問(Yuewen)」アプリのマルチモーダル視覚検索機能です。これはスマートフォンのカメラで撮影した対象物をAIが即座に解析し、関連情報を提供するサービスで、消費者向けAI応用の代表例といえます。2026年1月には、Megvii Technology(旧視)の共同創業者・元CEOである殷齐(Yin Qi)氏が新たにChairmanに就任しました。殷齐氏は吉利系のスマート運転企業・千里科技(Qianli Technology)の会長も兼任しており、「AI+端末デバイス」戦略の推進を統括する体制が構築されています。階躍星辰のモデルはモジュール化設計が高度に進んでおり、初期導入にはコストがかかるものの、他のメーカーへの横展開は極めて低コストで実現できる構造になっています。
吉利自動車との共同開発で進む車載マルチモーダルAIの技術要件と導入効果
階躍星辰は吉利自動車(Geely)と戦略的なパートナーシップを結んでおり、車載AIの分野で共同開発を進めています。2025年2月には両社が共同で動画生成モデルStep-Video-T2Vと音声対話モデルStep-Audioをオープンソース化しました。車載AIに求められる技術要件は、リアルタイム性・低遅延・マルチモーダル対応(音声コマンド・車内カメラ映像解析・ナビゲーション連携)と多岐にわたります。階躍星辰のモデルは設計段階からこれらの要件を想定しており、たとえばStep-Audio 2は端到端(エンドツーエンド)の音声処理により、音声認識・自然言語理解・応答生成を一貫して処理できます。CEO姜大昕氏はスマートカーをAI技術の重要な応用先と位置づけており、パーソナルAIハードウェアアシスタントとしての車載端末の将来像を構想しています。吉利との協業は、階躍星辰にとってBtoBの主要な収益源の一つに成長する可能性を秘めています。
Step-Video-T2Vによる映像生成が商用レベルに達した評価根拠と実制作ワークフロー
Step-Video-T2Vは、テキストの記述から動画を生成するText-to-Videoモデルです。2025年2月にMITライセンスでオープンソース化され、Hugging Faceのコミュニティ評価者からは「階躍星辰は次のDeepSeekだ」と評されるほどの注目を集めました。映像制作において特筆すべきは、カメラワーク(パン・ズーム・トラッキング)の自然な再現能力です。映画やショートフィルムで最も制作者の力量が問われるカメラの動きを、テキスト指示だけで高品質に生成できる点が、既存の動画生成AIとの差別化ポイントになっています。実際の制作ワークフローとしては、「跃問」のWeb版またはデスクトップ版からテキストプロンプトを入力し、生成された動画を確認・修正するという流れです。プロンプトの調整は対話形式で行えるため、専門的な動画編集スキルがなくても繰り返しの試行で品質を高められます。商用利用にはMITライセンスの範囲内であれば追加費用は発生しません。
Step-Audio 2の4モデル構成がもたらすリアルタイム音声対話の精度と遅延実績
Step-Audio 2は階躍星辰が開発した第2世代のエンドツーエンド音声大モデルで、4つのバリエーションが用意されています。標準版のstep-audio-2はフル機能の音声対話モデル、step-audio-2-miniは軽量版で端末側の負荷を抑えたい場合に適しています。step-audio-2-thinkとstep-audio-2-mini-thinkは推論機能を強化したバージョンで、複雑な質問に対してより深い思考プロセスを経た回答を音声で返すことが可能です。接続にはWebSocketプロトコル(wss://api.stepfun.com/v1/realtime)を使用し、音色設定として「qingchunshaonv(清純少女)」「wenrounansheng(温柔男声)」などのプリセットを指定できます。リアルタイム音声対話では送受信の遅延が体験品質を大きく左右しますが、Step-Audio 2はエンドツーエンド設計により音声認識・理解・生成の各工程間のオーバーヘッドを最小化しています。開発者はSvelteKitベースのデモアプリケーションを参考にして、カスタムAIアシスタントを短期間で構築できます。
創意板(クリエイティブボード)機能で非エンジニアがポスター・ゲームを生成する手順
階躍星辰のコンシューマー向けアプリ「StepFun(旧称Stepchat)」には、創意板(クリエイティブボード)と呼ばれるノーコード創作機能が搭載されています。この機能を使えば、プログラミング経験のないユーザーでも自然言語での対話を通じて、ポスター・簡易ゲーム・Webページなどの成果物を生成できます。操作の流れは、チャット画面で「夏祭りのポスターを作って」のように指示を入力するだけで、AIがデザインやコードを自動生成し、プレビューを表示します。気に入らない点があれば「背景色を青に変えて」などと追加指示を出すことで修正が可能であり、多ターンの対話による反復改善、バージョン履歴の記録と巻き戻し、エラーコードの自動修復といった機能も備わっています。SNSへのワンタップ共有にも対応しているため、マーケティング担当者やフリーランスのクリエイターが、企画からアウトプットまでをAIとの対話だけで完結させることも現実的になっています。
累計7億ドル超の資金調達と香港IPO観測から読む成長余地と導入時の留意点
技術力だけでなく、企業としての財務基盤と成長戦略も導入判断の重要な要素です。階躍星辰は急速な資金調達と商業化の加速に成功していますが、AIスタートアップ特有のリスクも存在します。本章では資金調達・IPO動向・規制環境を俯瞰し、導入を検討する際に確認すべきポイントを整理します。
Series B+ラウンド50億元調達の投資家構成——Tencent・上海国投・啓明創投の狙い
階躍星辰は直近のSeries B+ラウンドで50億元(約7億1700万ドル)を超える資金調達を完了しました。この金額は、上場直後の智譜AIやMiniMaxのIPO調達額を上回る規模であり、中国AI業界における未上場企業としては突出した実績です。投資家構成にはTencent(テンセント)、上海国有資本投資有限公司(上海国投)、啓明創投(Qiming Venture Partners)、五源資本(5Y Capital)のほか、浦東創投、華勤技術(Huaqin Technology)、中国人寿といった国有系ファンドや産業系投資家が参画しています。Tencentの参加はコンシューマー向けエコシステムとの連携可能性を示唆し、上海国投の出資は国策としてのAI産業育成意図を反映しています。調達資金は基盤モデルの研究開発継続、マルチモーダル・複雑推論能力の強化、そしてコンシューマー向けアプリケーションのエコシステム拡大に充当されると発表されています。多様な投資家が参画している点は、技術面と市場面の双方で階躍星辰のポテンシャルが評価されていることの証拠です。
2025年売上10億元目標と上半期の高成長率が示す商業化フェーズへの移行度
階躍星辰は2025年の年間売上として10億元を目標に掲げています。CEO姜大昕氏は2025年上半期の高い成長率を根拠に、この目標の達成可能性に自信を示しています。収益の柱は、スマートフォンメーカーへのモデル提供によるBtoBライセンス収入、車載AIの共同開発契約、そしてクラウドAPIの従量課金です。中国のAIスタートアップ業界では、技術力の高さと収益性が必ずしも一致しないケースが目立ちます。智譜AIは2025年上半期だけで23.58億元の赤字を計上し、MiniMaxは2022年から2024年にかけて約8億ドルの累積赤字を抱えています。こうした競合の財務状況と比較して、階躍星辰が10億元の売上目標を掲げている点は、技術開発への投資と商業化のバランスを意識した経営姿勢として注目に値します。ただし純利益ベースでの黒字化時期は未公表であり、大規模言語モデルの開発コストを考慮すると、短期的な収益性よりも中長期的な市場シェア拡大を優先する戦略と見るのが適切でしょう。
2026年2月報道の香港IPO計画がもたらす企業評価額の変動リスクと機会
2026年2月には、階躍星辰が香港証券取引所でのIPO(新規株式公開)を模索しているとの報道がなされました。中国のAIスタートアップの上場動向を見ると、智譜AIが2026年1月に上場して株価が65%上昇し、MiniMaxも香港上場後に時価総額が127%急騰するなど、投資家のAIセクターへの関心は極めて高い状態にあります。階躍星辰がIPOを実現した場合、得られる資金は次世代モデルの開発やグローバル展開に充当されることが予想されます。一方で、上場に伴う情報開示義務の強化は財務実態の透明化を促す反面、開発中の技術情報が競合に察知されるリスクも伴います。また、AI関連銘柄は市場センチメントの変動に左右されやすく、技術的なブレイクスルーの有無や規制環境の変化が株価に直結する構造的な不安定性があります。導入検討者としては、IPOの進捗を注視しつつも、企業評価額の変動に過度に左右されず技術的な適合性を軸に判断することが賢明です。
模芯生態創新聯盟と華為昇腾チップ対応が意味する米中半導体規制下での生存戦略
2025年7月に設立された「模芯生態創新聯盟」は、階躍星辰の技術戦略を理解するうえで見逃せない取り組みです。華為昇腾(Ascend)、沐曦(MetaX)、壁仞科技(Biren Technology)、燧原科技(Enflame)、天数智芯、無問芯穹、寒武紀(Cambricon)、摩尔線程(Moore Threads)、硅基流動(SiliconFlow)など約10社のチップ・インフラ企業が参画し、チップ・モデル・プラットフォームの全レイヤーにわたる技術協調を目指しています。この動きの背景には、米国による中国へのAI半導体輸出規制があります。NVIDIAの最先端GPUの調達が制限される環境下で、国産チップ上でも高効率に動作するモデル設計は生存戦略そのものです。Step 3のMFAアーキテクチャが国産チップフレンドリーである点は、この文脈で大きな意味を持ちます。聯盟への参画企業がStep 3の最適化を進めることで、中国国内市場での採用が加速する可能性がある一方、国際市場では依然としてNVIDIA GPUでの実測性能が選定基準になることを認識しておく必要があります。
日本企業が階躍星辰を導入する際に確認すべきデータ保管・規制・言語対応の3条件
日本企業が階躍星辰のモデルやAPIの導入を検討する場合、技術的な適合性に加えて3つの観点からの事前確認が不可欠です。第一にデータ保管場所です。クラウドAPI経由で利用する場合、ユーザーの送信データがどの地域のサーバーに保管されるかは、日本の個人情報保護法や業界固有のコンプライアンス要件に直結します。オンプレミスでの運用を希望する場合は、Apache 2.0ライセンスのStep 3.5 Flashをセルフホスティングする選択肢もあります。第二に規制環境です。中国企業が提供するAIサービスの利用に関しては、経済安全保障推進法や外為法上の留意事項がある場合があり、事前に法務部門との確認が推奨されます。第三に言語対応です。階躍星辰のモデルは中国語と英語を中心に最適化されており、日本語での回答品質は用途によって差が出る可能性があります。商用導入前には日本語タスクでの精度評価を実施し、必要に応じてファインチューニングを検討することが、運用開始後の品質トラブルを防ぐ最善の手段です。