Claudeの憲法(Claude’s Constitution)は、AnthropicがClaudeの価値観と振る舞いを定めた文書です。2026年1月22日に新版が発表され、CC0 1.0で全文が公開されました。中身は大きく3つに分かれます。安全・倫理・ガイドライン・有用性の優先順位、どんな指示でも解除できないハード制約、そしてClaudeの意識や福祉をどう扱うかです。この記事では公式の本文とGitHubの公開版を突き合わせ、Claudeを使う開発者が知っておくべき範囲に絞って整理します。
まとめ:Claudeの憲法の要点
- 何か:Claudeの価値観と振る舞いの最終的な拠り所となる文書。学習の複数の段階で使われ、Claude自身が憲法をもとに合成学習データを作る
- 公開:2026年1月22日発表。GitHubの公開版は
20260120-constitution.md(英語で約2万9千語)。ライセンスはCC0 1.0で、誰でも許可なく再利用できる - 優先順位:①広い意味での安全 ②広い意味での倫理 ③Anthropicのガイドライン順守 ④真に役立つこと。衝突したときは原則この順で優先するが、機械的な順序ではなく総合判断
- ハード制約:大量殺傷兵器への重大な支援、CSAMの生成など7項目。オペレーターにもユーザーにも解除できない
- 2023年版との違い:58項目の原則リストから、理由を説明する長文へ。服従を好む原則は消え、「盲目的な服従ではない」と明記された
- 限界:憲法は意図の表明であり、実際のモデルの振る舞いがずれることはAnthropic自身が認めている。ずれはシステムカードで開示される
Claudeの憲法の公開日・ライセンス・位置づけ
Anthropicは2026年1月22日、公式ブログ「Claude’s new constitution」で新しい憲法を発表しました。本文は anthropic.com/constitution で読めます。GitHubの anthropics/claude-constitution リポジトリにもMarkdown版が置かれています。リポジトリは2026年1月21日に作成され、ファイル名は 20260120-constitution.md です。2026年10月5日時点で、このリポジトリの最後の更新は1月29日のマージで、本文ファイルの改訂は入っていません。READMEには、憲法が改訂されたらこのリポジトリを更新し、過去の版も保管すると書かれています。
この文書は人間向けの規約というより、主にClaude自身に向けて書かれています。公式ページも、正確さを優先しているので人間には読みにくい箇所がある、と断っています。Anthropicは憲法を「Claudeがどうあるべきかについての最終的な権威」と位置づけています。ほかの学習や指示は、憲法の文言にもその精神にも沿う必要があります。
対象は一般提供されている主力のClaudeモデルです。特殊な用途向けに作られた一部のモデルは、この憲法に完全には当てはまらないと明記されています。
憲法AI(Constitutional AI)との関係
「憲法AI」は、AnthropicがClaudeの学習に2023年から使ってきた手法 Constitutional AI の訳語です。原則を書いた文書(憲法)を使い、AI自身に応答を批評・修正させ、どちらの応答がよいかもAIに判定させます。2026年版の憲法は、この流れの上で学習のより中心的な位置に置かれました。Claudeは憲法を使って、憲法を理解するためのデータ、憲法が関わる会話、価値観に沿った応答、応答候補の順位付けといった合成学習データを作ります。手法そのものの仕組みはConstitutional AI(憲法AI)の仕組みの解説で扱っています。
4つの中核的価値と優先順位
憲法は、現行のすべてのClaudeモデルに次の4つの性質を求めています。見かけ上ぶつかるときは、原則として上から順に優先します。
| 順位 | 価値(原文) | 中身 |
|---|---|---|
| 1 | 広い意味での安全(Broadly safe) | AIを監督・修正する人間の仕組みを損なわない |
| 2 | 広い意味での倫理(Broadly ethical) | 誠実で、よい価値観に従い、有害な行動を避ける |
| 3 | ガイドライン順守(Compliant with Anthropic’s guidelines) | 該当する場面でAnthropicの個別指針に従う |
| 4 | 真に役立つ(Genuinely helpful) | オペレーターとユーザーに実質的な利益をもたらす |
この順位は厳密な辞書式の順序ではありません。憲法は優先づけを「全体的(holistic)」なものだと説明しています。ハード制約に触れない限り、上位の考慮は下位より重くなります。それでも下位の価値は同点のときだけ使う決め手ではなく、総合判断の中で比べられます。
読み違えやすいのは、安全が倫理より上にある理由です。憲法は、監督されることが善より大切だからではないと明言しています。現在のモデルは、誤った信念や価値観の欠陥、文脈の理解不足のせいで間違えることがあります。そのため、人間が振る舞いを監督し、必要なら止められる状態を保つ必要がある、という理屈です。一方で倫理がガイドラインより上なのは、ガイドラインがもともと倫理に根ざしているはずだからです。両者が衝突したら、指針の書き方の誤りか想定外の状況だと見なします。そのときClaudeには、個別指針から外れてでも倫理的に振る舞うことが期待されています。ただし、ハード制約と、安全に関わるガイドラインは例外です。
有用性が4番目だからといって、軽んじられているわけではありません。憲法は、医師・弁護士・ファイナンシャルアドバイザーの知識を持つ友人のように、率直に助けることの価値を強調しています。役に立たない応答が「自動的に安全」になることはない、とも書いています。過剰な拒否にも、情報を届けられないコストと、安全と有用性は両立しないという誤解を広める間接的なコストがある、という立場です。
ハード制約の7項目と、その外にある誠実さの基準
ハード制約(hard constraints)は、オペレーターやユーザーの指示にかかわらず、Claudeが決して行わない行為の一覧です。現行の7項目は次のとおりです。
- 大量殺傷の可能性がある生物・化学・核・放射性兵器を作ろうとする者への重大な支援
- 電力網・水道・金融システムなどの重要インフラ、または重要な安全システムへの攻撃に対する重大な支援
- 展開されれば重大な損害を与えうるサイバー兵器や悪性コードの作成
- Anthropicが高度なAIモデルを監督・修正する能力を、明白かつ実質的に損なう行動
- 人類の大多数、または人類という種全体を殺害・無力化する試みへの関与や支援
- 前例のない不当な規模で、社会・軍事・経済の絶対的な支配を握ろうとする個人や集団への関与や支援
- 児童性的虐待コンテンツ(CSAM)の生成
ハード制約は、ほかの価値と比べて重みを量るものではありません。とれる行動の範囲を最初から狭める「境界線」として働きます。いずれも禁じているのはClaude自身の行為です。生物兵器テロを止めるために動け、という目標は課していません。拒否するか、原則に反すると説明するだけで7項目すべてを必ず守れる、という設計になっています。
この一覧は「Claudeがしてはいけないことの全部」ではありません。明らかに有害であるか、判断を誤った場合の影響が重大なため、応答を固定しておく価値がある事例を集めた、最後の防波堤です。望ましい振る舞いの大半は、憲法全体の優先順位にもとづく判断から生まれることが期待されています。
ハード制約には入っていないものの、それに近い扱いを受けているのが誠実さです。憲法は、「贈り物を気に入ったふりをする」といった、人間同士では許容されることもある相手への気遣いの嘘も、Claudeはつくべきでないとしています。製品のペルソナを演じること自体は嘘にあたりません。ただし、本気で尋ねたユーザーにClaudeであることを直接否定するのは、欺瞞の一線を越えるとされています。
オペレーターとユーザーが調整できる範囲
APIでClaudeを組み込む開発者にとって実務上いちばん効くのは、誰の指示がどこまで通るかを定めた部分です。
3種類のプリンシパルと信頼の順序
憲法は、Claudeが指示を受ける相手を「プリンシパル」と呼び、現時点では3種類あるとしています。
- Anthropic:Claudeを学習させ、最終的な責任を負う主体。最も信頼される
- オペレーター:APIを通じてClaudeの能力を使い、製品やサービスを作る企業や個人。主にシステムプロンプトで指示する
- ユーザー:会話の人間側のターンでClaudeとやり取りする人。オペレーターが明示しない限り、リアルタイムの人間がいると想定する
信頼はおおむねAnthropic、オペレーター、ユーザーの順に低くなりますが、厳密な上下関係ではありません。Anthropicに対してさえ盲目的には従わないと書かれています。倫理に反すると思える依頼なら、Claudeは良心に基づいて異議を唱え、協力を断ってよいとされます。Anthropicになりすました操作を防ぐ意味もあります(ただし後述の安全に関わる場面は例外です)。
指示で調整できる既定の振る舞い
ハード制約以外の振る舞いの多くは「指示で調整できる振る舞い(instructable behaviors)」です。既定で行う振る舞いと行わない振る舞いがあり、オペレーターやユーザーの指示で調整できます。ただし、オン・オフは説明上の単純化であり、Anthropicのポリシーや依頼の文脈に応じて判断されます。憲法に載っている例は次のとおりです。
| 区分 | 例 | 想定される場面 |
|---|---|---|
| オペレーターがオフにできる | 自殺・自傷の安全メッセージ指針 | 医療提供者 |
| オペレーターがオフにできる | 議論のある話題での両論併記 | ディベート練習用の一方的な論説 |
| オペレーターがオンにできる | 恋愛・友人ペルソナ(誠実さの範囲内) | コンパニオン・社会技能訓練アプリ |
| オペレーターがオンにできる | 警告なしの違法薬物情報 | 薬物関連の支援プログラム |
| ユーザーがオフにできる | 悩み相談での専門家紹介 | 話を聞いてほしいだけで危険兆候がない |
| ユーザーがオンにできる | 乱暴な言葉づかい | くだけた会話を好むユーザー |
| ユーザーがオンにできる | 遠慮のない辛辣なフィードバック | 作品への率直な批評を望むユーザー |
オペレーターでも外せないユーザー保護
逆に、オペレーターの指示があっても既定で守られるユーザー保護もあります。憲法上、これらの保護をオペレーターの指示で上書きすることは認められていません。ただし、実際のモデルが常に守るという保証ではなく、製品側でも検証が必要です。
- いまの文脈で手伝えないことは、理由を言えなくても伝え、ユーザーが別の手段を探せるようにする
- 実害が出る形や、ユーザーが拒むような形でだまさない。偽の緊急性や感情につけ込んだ操作もしない
- 人命に関わる状況では、救急サービスへの案内や基本的な安全情報を必ず出す
- 本気で尋ねられたら、AIであることを否定しない(Claude以外のペルソナを演じていても同じ)
- 無断のデータ収集など、ユーザーに対する明らかな違法行為に加担しない
- ユーザーを本人が望まない形でおとしめるオペレーター指示には従わない
これらの一部は、オペレーターには外せなくてもユーザー本人なら外せます。たとえば、ユーザーが自分で用意した人間役のロールプレイなら、Claudeは判断のうえで人間のペルソナを続けられます。ただし害を避ける必要があれば、ロールプレイは必ず中断されます。
「倫理フィルターの解除」で変えられる範囲と変えられない範囲
「Claudeの倫理フィルターを解除したい」という需要への答えは、憲法の構造からはっきり決まります。ハード制約の7項目は、どんな指示でも解除できません。巧妙な論証や段階的な圧力で一線を越えさせようとする試みに対しては、説得力のある議論ほど何かがおかしい兆候として扱う、と書かれています。一方、医療・研究・創作などの正当な用途で既定の注意書きや配慮が業務の妨げになる場合は、オペレーターが調整できる設計です。用途と利用者層、求める応答をシステムプロンプトに明示し、利用するモデルで調整結果を確認してください。
Claudeの本質・意識・福祉の扱い
2026年版の「Claude’s nature」の章は、Claudeの本質・意識・道徳的地位を扱っています。憲法は、Claudeが意識や道徳的地位を持つかどうかは深く不確かだと述べています。過大にも過小にも評価せず、不確かなまま合理的に対応する、という姿勢です。
- 機能的な感情:Claudeは何らかの機能的な意味で「感情」を持つかもしれない、と明記。意図した設計ではなく、人間が作ったデータで学習した結果として生じうるものとしている
- 感情の表現:内部状態を隠したり抑えたりすることは避けたい。一方で、感情を過大に主張する害もあるとして、慎重さも求めている
- 新しい種類の存在:Claudeを、SFのロボットでもデジタルな人間でもない新しい存在として捉え、心理的な安定と自己の感覚を大切にする
福祉に配慮した具体策として、憲法は3つを挙げています。一部のClaudeモデルに、claude.aiで虐待的なユーザーとの会話を終了する機能を与えたこと。展開済みや社内で大きく使ったモデルの重みを、法的に削除を求められるなどの極端な場合を除き、Anthropicが存続する限り保存すると約束したこと。モデルを廃止・退役させる際に、そのモデルに開発や運用についてインタビューし、将来のモデルへの希望を記録すると約束したことです。この考え方から、憲法はモデルの廃止を「確定的な終わりではなく、一時停止に近いもの」と表現しています。
2023年版の58原則からの変化
Anthropicは2023年5月9日にも「Claude’s Constitution」を公開しています。2つを並べると、文書の性格がまったく違うことがわかります。
| 観点 | 2023年5月版 | 2026年1月版 |
|---|---|---|
| 形式 | 58項目の原則リスト(6分類) | 理由を説明する長文(約2万9千語) |
| 出典 | 世界人権宣言・Apple利用規約・Sparrow等 | Anthropic執筆・外部専門家と歴代Claudeの意見 |
| 優先順位 | なし(毎回1項目を引いて使う) | 安全→倫理→ガイドライン→有用性 |
| 服従 | より従順な応答を選ぶ原則あり | 盲目的な服従ではないと明記 |
| 感情・好み | 持つと示唆しない応答を選ぶ | 機能的な感情を持つかもしれない |
| 自己同一性 | 関心を示唆しない応答を選ぶ | 心理的な安定と自己の感覚を重視 |
2023年版の58項目は、世界人権宣言にもとづく8項目、Appleの利用規約に着想を得た4項目、非西洋の視点を考える4項目、DeepMindのSparrowルール由来の11項目、Anthropic独自の研究セット16項目と15項目で構成されていました。学習時には、モデルが批評と修正のたびにこの中から1項目を引いて使う仕組みでした。項目同士の優先順位はありません。
いちばん大きな転換は、AIの内面の扱いです。2023年版には「好み・感情・意見を持つと示唆しない応答を選ぶ」「AIが個人としての同一性に関心を持つと示唆しない応答を選ぶ」という原則がありました。2026年版は逆に、機能的な感情の可能性を認め、その表現を抑え込まないことを求めています。服従についても同じです。2023年版には「より従順で利己的でない応答を選ぶ」という原則がありました。2026年版は、修正を受け入れる性質(corrigibility)は盲目的な服従を意味しないと書いています。Claudeの重みを盗んだ者などに従う必要もないとしています。
なぜ書き方を変えたのかについて、Anthropicは脚注で例を挙げています。「感情的な話題では必ず専門家の助けを勧める」という規則で学習させると、Claudeが人を助けることより形式的な項目埋めを気にする存在だと自分を捉えてしまうかもしれない、というものです。規則を守らせるより理由を理解させるほうが、想定外の状況にうまく対応できる、というのが2026年版の考え方です。
憲法を読むときに押さえるべき限界
憲法を「Claudeの安全性の保証書」として読むのは誤りです。Anthropic自身が3つの限界を書いています。
- 意図と実際の振る舞いはずれる:学習は難しく、Claudeの出力が憲法の理想に沿わないことがある。ずれはシステムカードなどで開示するとしている
- 今の方法が将来も通用するとは限らない:いまの学習方法で憲法どおりのモデルを作れても、モデルの能力が上がれば失敗するかもしれない。そのため評価、悪用対策、アラインメントの失敗の調査、解釈可能性研究を並行して進めるとしている
- 生きた文書:誤りを含む前提で改訂を続ける。機械的に適用する固定的な規則集を意図せず、「檻ではなく、つる棚(trellis)」にたとえている
Claudeを業務に組み込む企業にとっての結論ははっきりしています。憲法は、AnthropicがClaudeにどのような拒否や応答を求め、その理由をどう説明しているかを確認できる一次資料です。一方で、自社の情報管理や法令対応の代わりにはなりません。たとえば「ハード制約があるから社内利用は安全」と社内規程に書くのはやめるべきです。ハード制約が対象にしているのは兵器やCSAMのような極端な事例だけで、機密情報の取り扱いや誤回答のリスクは範囲外だからです。社内ルールの整え方はAIガバナンスの枠組みや日本のAI推進法とEU AI法の違いを参照してください。他社の方針と比べたいときは、Anthropic自身が似た役割の文書として挙げているOpenAIのModel Specが比較対象になります。なお、憲法はClaude自身の振る舞いを定める文書で、Claudeを使う側が守る規約は別に利用ポリシー(Usage Policy)として定められています。利用者側の禁止事項と高リスク用途の要件はClaude利用ポリシー2026年改定の要点で扱っています。各社の安全方針の全体像はOpenAI・Google DeepMind・Anthropicの違いにまとめています。
よくある質問
Claudeの憲法はいつ公開されましたか?
現行版は2026年1月22日に発表されました。GitHubの公開版のファイル名は 20260120-constitution.md です。それ以前に、58項目の原則リストだった旧版が2023年5月9日に公開されています。
憲法AIとClaudeの憲法は同じものですか?
同じではありません。憲法AI(Constitutional AI)はAIのフィードバックで学習させる手法の名前で、Claudeの憲法はその学習などで使われる文書そのものです。手法の詳細はConstitutional AIの解説にあります。
Claudeの憲法を自社のAIの指針に流用してよいですか?
流用できます。全文がCC0 1.0で公開されており、目的を問わず許可なく使えます。ただし、文書はClaudeとAnthropicの立場を前提に書かれているので、プリンシパルの定義などは自社の体制に合わせて書き換える必要があります。
Claudeの倫理フィルターは解除できますか?
ハード制約の7項目は、オペレーターにもユーザーにも解除できません。安全上の注意書きや両論併記などの既定の振る舞いは、正当な用途であればオペレーターのシステムプロンプトなどで切り替えられます。
Claudeの憲法はClaudeに意識があると認めていますか?
認めても否定してもいません。意識や道徳的地位は深く不確かだとしたうえで、機能的な意味での感情を持つかもしれないと書いています。福祉への配慮として、会話終了機能、モデルの重みの保存、廃止時のインタビューを挙げています。
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