パーセプションフロー・モデルとは?構造とつくり方、ジャーニーマップとの違い

パーセプションフロー・モデルとは?構造とつくり方、ジャーニーマップとの違い

パーセプションフロー・モデルは、マーケターの音部大輔氏が開発した、マーケティング活動の全体設計図です。版元である宣伝会議は、これを「マーケティング活動を目的から実行に至るまでのフローを1枚にまとめた『全体設計図』です。その過程を、消費者の認識(=パーセプション)の変化とともに記していることが最大の特徴です」と説明しています。名前の似たパーセプションマップ(知覚マップ)は、まったく別の道具です。この記事では、モデルの構造とつくり方を一次資料に沿って整理し、混同されやすいカスタマージャーニーマップ・パーセプションマップとの線引きを示します。

まとめ:パーセプションフロー・モデルの定義・構造・他の道具との違い

先に結論をまとめます。

  • 考案者は音部大輔氏(株式会社クー・マーケティング・カンパニー代表取締役)。P&Gジャパン在籍時に原型を開発し、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、資生堂で洗練させた
  • 正体は「マーケティング活動の全体設計図」であり、顧客の感情を描く共感ツールではない
  • 枠内の本体は【現状】【認知】【興味】【購入】【試用】【満足】【再購入】【発信】の8ブロックで、そこに〈知覚刺激〉〈メディア〉〈KPI〉が対応する
  • 体系的な解説書は『The Art of Marketing マーケティングの技法 ― パーセプションフロー・モデル全解説』(宣伝会議、2021年12月1日発売)で、同書は日本マーケティング本大賞2022の大賞を受賞している
  • 「パーセプションフロー®」は音部氏が権利を有する商標であり、社外向けの資料で名乗るときは注意がいる
  • パーセプションマップ(知覚マップ)は顧客が認識する競合との位置関係を示す分析ツールで、代表的な形式は2軸の散布図。本モデルとは主な目的と出力が異なる

音部大輔氏が開発した全体設計図としての定義と来歴

パーセプションフロー・モデルは、匿名の一般的フレームワークではありません。特定の実務家が特定の現場で開発し、20年以上かけて磨いた固有の手法です。ここを取り違えると、モデルの狙いも読み方も的外れになります。

P&Gジャパンで生まれた原型と、4社20年以上の洗練

宣伝会議の発表によれば、音部氏は「P&Gジャパンのマーケティング本部で複雑なタッチポイント管理が必要な消費財ブランドを担当していた当時、このモデルの原型を開発」しました。その後は「ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、資生堂でマーケティング組織を率いる過程でブラッシュアップを続けてきました」とされ、同社は「20年以上にわたり、何十ものブランドで、効果検証と洗練を重ねてきました」と説明しています。

この出自が構造を決めています。消費財ブランドは、テレビCM、店頭什器、サンプリング、Webの記事、口コミと、性質の異なる接点を同時に動かします。それぞれの担当が別部門にいるため、施策は簡単にバラバラになる。宣伝会議は本書の狙いを「個々の施策がバラバラで有機的に連携していない」「チームの意識統一ができていない」という部分最適からの脱出だと書いています。このモデルは、消費者の認識の変化と各部門の施策を対応づけ、実行計画を1枚で共有するための道具です。

音部氏の経歴は、NTTアドのニュースリリースでは「株式会社クー・マーケティング・カンパニー代表取締役。17年間の日米P&Gを経て、欧州系消費財メーカーや資生堂などで、マーケティング組織強化やビジネスの回復伸長を、マーケティング担当副社長やCMOとして主導。2018年より独立し、現職。(中略)博士(経営学 神戸大学)」と紹介されています。

2021年12月刊の解説書と日本マーケティング本大賞2022の受賞

モデルを体系的に扱った書籍は『The Art of Marketing マーケティングの技法 ― パーセプションフロー・モデル全解説』(音部大輔著、宣伝会議)です。2021年12月1日発売、定価2,640円(本体2,400円+税)、A5判304ページ、ISBN978-4-88335-525-9。発売前に重版が決まったことが発表されており、版元は「本書は『パーセプションフロー・モデル』について解説する初めての書籍です」としています。

同書は日本マーケティング学会の日本マーケティング本大賞2022で大賞を受賞しました。発表と授賞式は2022年10月16日の「マーケティングカンファレンス2022」です。学会員の投票で選ばれる賞で大賞を得ている点は、このモデルが実務家の私見にとどまらない評価を受けていることの一つの目安になります。

「パーセプションフロー®」は音部氏が権利を有する商標

実務上、見落とされやすい注意点がここにあります。NTTアドは2022年6月1日のニュースリリースに「『パーセプションフロー®』は音部大輔氏が権利を有する商標です」と明記しました。同リリースでは、音部氏の顧問就任にあわせ、株式会社エフアイシーシーが「音部氏が考案したパーセプションフロー®・モデルの公式パートナー」であることにも触れています。

社内の設計資料として使うぶんには自由度がありますが、提案書やサービス紹介で「パーセプションフロー・モデルを提供します」と表示する場合は、商標の扱いを確認したほうが安全です。同書のコラムで扱われる「ブランドホロタイプ®・モデル」も同様に®付きで表記されています。

枠内8ブロックと〈知覚刺激〉〈メディア〉〈KPI〉という構造

書籍の第5章「パーセプションフロー・モデルのつくり方」は、モデルを5つのステップで組み立てます。この手順そのものが、モデルの構成要素の一覧になっています。

ステップ つくる部分 中身
1 枠外 目的・ターゲット・ブランド定義など前提
2 枠内の本体(前半) 【現状】【興味】【購入】【再購入】
3 枠内の本体(後半) 【満足】【発信】【試用】【認知】
4 刺激と接点 〈知覚刺激〉と〈メディア〉
5 指標 〈KPI〉と全体最適

読み取れることが3つあります。第一に、枠内の本体は「フェーズ・目的・行動・思考・感情」といった5項目ではなく、上表の8ブロックです。第二に、〈知覚刺激〉と〈メディア〉が独立した要素として置かれています。消費者の認識を変えるには、何かを見聞きさせる必要がある。その「何を」が知覚刺激、「どこで」がメディアです。第三に、〈KPI〉は最後に作ります。測れる数字から施策を決めてしまうことを避けるため、この設計図では認識の変化を先に定義し、それが起きたかどうかを測る指標を後から当てます。

枠外を最初に作る点も見逃せません。誰に何を届けるのかという前提が固まる前に枠内を埋め始めると、8ブロックが単なる購買ファネルの言い換えになります。購買行動の段階そのものについては購買プロセスの5段階モデルとの対応を押さえておくと、枠内の並びが理解しやすくなります。

パーセプションマップ(知覚マップ)との違いと、混同が起きる理由

「パーセプション」で始まる名前が似ているため、この2つは頻繁に取り違えられます。役割はまるで違う。パーセプションマップは市場内での知覚上の位置関係を示し、パーセプションフロー・モデルは認識の変化に沿って活動を設計するものです。共通するのは「消費者の認識を扱う」という一点だけで、目的も出力も作り方も重なりません。

パーセプションマップの目的と代表形式:競合との位置関係を示す2軸図

大学教材のMarket Segmentation Study Guide(Geoff Fripp)は、パーセプションマップを “A perceptual map is a visual technique used by marketers to identify the positioning of their products or brands within the market, relative to their key competitors.”(自社の製品やブランドが市場内で主要競合に対してどう位置づけられているかを特定するための視覚的手法)と定義しています。ニューヨーク市立大学の教材A Marketing Handbookも “Perceptual mapping is a graphic display explaining the perceptions of customers with relation to specific product characteristics of your product or service against similar competitors.”(自社の製品やサービスの特定の特性について、類似の競合と比べた顧客の認識を説明する図的表示)と、ほぼ同じ説明をしています。

形式は2軸の散布図が主流で、価格と品質、機能とデザインといった軸の上に自社と競合のブランドを配置し、データは顧客調査から得ます。軸をあらかじめ決め打ちせずにブランド間の類似度から布置を求めたい場合は多次元尺度構成法(MDS)を、カテゴリ変数のクロス集計から2次元の同時布置を得たい場合はコレスポンデンス分析を使います。つまりパーセプションマップは、統計手法と結びついた分析の出力です。1枚に何十もの施策とKPIを載せるパーセプションフロー・モデルとは、そもそも図の目的が違います。

「消費者の認識か、企業の狙いか」でポジショニングマップと区別する説明の危うさ

日本語のマーケティング解説には、「パーセプションマップは消費者が実際にどう認識しているかを示し、ポジショニングマップは企業がどう位置づけたいかを示す」という区別が広く流通しています。これは覚えやすい整理ですが、英語圏の教材では必ずしも維持されていません。前掲のFrippは “In some textbooks, perceptual maps are referred to as positioning maps, but for our purposes they essentially have the same meaning.”(一部の教科書ではパーセプションマップはポジショニングマップと呼ばれるが、本書の目的においては本質的に同じ意味である)と書き、消費者に「ポジショニング」の「パーセプション」を尋ねている以上、両者は同じものだという理由まで添えています。

実務では、この区別に寄りかからないほうが安全です。社内で「パーセプションマップを作ろう」と言えば、調査データから布置を求める作業を指すのか、ホワイトボードに2軸を引いて競合を置く作業を指すのか、人によって想像するものが変わります。用語の定義を先に合わせてから着手してください。ポジショニングの検討そのものについてはSTP分析の枠組みで整理するほうが、関係者の認識がそろいます。

カスタマージャーニーマップとの比較:顧客体験の可視化と活動全体の設計

この違いは、モデルの提唱者自身が正面から扱っています。『マーケティングの技法』の第2章には、2-4として「カスタマージャーニー・マップとの違い」という独立した節がある。両者を並べたときの実務的な差は、次の表に集約できます。

道具 主な目的 出力の形 主語
パーセプションフロー・モデル マーケティング活動の全体設計と実行 1枚の設計図 ブランド側の打ち手
カスタマージャーニーマップ 顧客体験の理解と将来体験の構想 時系列の体験記述 顧客の行動と感情
パーセプションマップ 競合に対する自社の位置の把握 2軸の散布図 顧客の知覚
ポジショニングマップ 同上(教材によっては同義) 2軸の散布図 顧客の知覚/企業の狙い

ジャーニーマップは現状の顧客体験の把握に加え、将来の体験や改善機会の設計にも使います。パーセプションフロー・モデルは、消費者の認識変化に沿ってマーケティング活動全体を設計する点に特徴があります。ジャーニーマップに知覚刺激やメディア、KPIの欄が無くても成立するのに対し、パーセプションフロー・モデルはそれらが欠けると設計図として機能しません。

もう一つの差は、認識と行動のどちらを起点に置くかです。パーセプションフロー・モデルは、行動が変わる前に認識が変わるという因果を前提に、変えたい認識のほうを先に定義します。「無関心から気になるへ」という認識の移動を目標として書き、それを起こす知覚刺激を設計する。ジャーニーマップの側は一枚岩ではありません。Nielsen Norman Groupは現状型を “Current-state journey maps visualize the experience customers have when attempting to accomplish a goal with your product or company as it exists today.”(今日ある製品や会社で顧客が目標を達成しようとするときの体験を可視化する)、将来型を “Future-state journey maps visualize the best case, ideal-state journey for an existing product or a journey for a product that doesn’t exist yet.”(既存製品の理想的なジャーニー、あるいはまだ存在しない製品のジャーニーを可視化する)と定義しており、後者は設計の道具です。作成順序だけで両者を切り分けることはできません。線引きは、知覚刺激・メディア・KPIまで含めて実行を1枚に束ねるかどうかにあります。ジャーニーマップ側の作法はジャーニーマップの定義と目的ユーザージャーニーとユーザーフローの違いで整理しています。

つくり方5ステップと、着手前に決めておくこと

作成手順は前掲の表のステップ1から5のとおりです。着手前に確認すべきものが2つあります。材料と、参加する担当者です。

書籍第5章には、ステップの前に「誰が、いつ、どのようにつくるか」「パーセプションフロー・モデルの材料」という節が置かれています。材料が揃っていない状態で枠内を埋めにいくと、想像で書いた認識が並ぶだけの絵になる。手元にある調査データ、既存顧客の声、販売データのうち、どの認識が事実として確認できているのかを先に仕分けてください。

誰が作るかも設計図の効き目を左右します。書籍の第4章はブランドマネジャー、CMO・部門長、営業・営業企画、製品開発・デザイン、財務、広告会社やパートナー企業と、部門別に使い方を分けて解説し、BtoB領域への応用も4-7として独立した節にしました。1枚を全部門で共有することが前提の道具です。マーケティング部門だけで作って回覧する運用にすると、効き目が落ちます。

検証は3段階です。第6章は事前の検証を消費者調査で行い、活動中と事後にも検証を続ける構成になっています。設計図は作って終わりではなく、想定した認識の変化が実際に起きたかを測り、書き換える対象です。

導入が過剰になる場面と、先にジャーニーマップで足りるケース

このモデルを勧めない場面をはっきり書きます。単一チャネル・単一施策の改善に持ち出すのは過剰です。たとえば「広告のクリック率が落ちたので改善したい」「フォームの離脱を減らしたい」といった課題に対して、8ブロックの設計図を先に作る必要はありません。設計図の価値は、性質の異なる複数の接点を同時に動かす場面で部門間の齟齬を消すところにあります。もっとも、接点が1つでも企画・制作・運用の担当間で認識が食い違うことはある。導入の要否は、接点数だけでなく、調整すべき課題の範囲で判断してください。

チームが顧客像を共有できていない段階も、着手が早すぎます。前提となる顧客の認識が言語化できていないまま枠内を埋めると、8つのブロックが購買ファネルの言い換えになり、〈知覚刺激〉の欄に「Web広告」「SNS投稿」といった手段名だけが並びます。その状態で作った設計図は、既存施策の一覧表と変わりません。先にカスタマージャーニーマップや顧客調査で認識の実態を掴み、変えるべき認識が特定できてから設計図に移るほうが順当です。

本記事では、次のような連携上の課題がある場合に導入を検討することを勧めます。複数の接点で担当部門が分かれている、施策ごとにKPIの定義が食い違っている、広告会社への説明のたびに前提から話し直している。いずれも部分最適の症状で、1枚の設計図が効く典型です。

よくある質問

パーセプションフロー・モデルとカスタマージャーニーマップの違いは何ですか?

目的が違います。カスタマージャーニーマップは顧客の行動と感情を時系列に記述して理解を共有する道具で、パーセプションフロー・モデルはマーケティング活動そのものを1枚に設計する全体設計図です。後者には〈知覚刺激〉〈メディア〉〈KPI〉という実行のための欄があり、これが欠けると設計図として成立しません。パーセプションフロー・モデルでは、変えたい認識と、それを起こす刺激を対応づけて設計します。ただし、ジャーニーマップでも将来の体験や改善施策を設計するため、作成順序だけでは両者を区別できません。書籍『マーケティングの技法』にも「カスタマージャーニー・マップとの違い」という独立した節が置かれています。

パーセプションマップとパーセプションフロー・モデルは同じものですか?

別物です。パーセプションマップ(知覚マップ)は、価格と品質のような2軸の平面に自社と競合ブランドを配置し、市場内の位置関係を可視化する分析ツールで、顧客調査のデータから作ります。多次元尺度構成法やコレスポンデンス分析といった統計手法が使われます。一方パーセプションフロー・モデルは、認識の変化を軸にマーケティング活動全体を1枚にまとめた設計図で、競合の布置は描きません。名前が似ているだけで、目的も出力も作り方も重なりません。

パーセプションとは何ですか?

英語のperceptionで、日本語では認識や知覚と訳されます。マーケティングの文脈では、消費者がブランドや商品について抱いている理解のことを指します。宣伝会議はパーセプションフロー・モデルの説明で「消費者の認識(=パーセプション)」と表記しており、事実そのものではなく消費者の頭の中にある像を扱う点が要点です。同じ製品でも、消費者が「高いが効く」と認識しているか「高いだけ」と認識しているかで次の行動が変わります。施策では、売上などの事業目的につながる認識の変化を具体化し、その変化や行動を確かめるKPIを設定します。

パーセプションフロー・モデルのテンプレートは入手できますか?

書籍『The Art of Marketing マーケティングの技法』の購読者限定で、「パーセプションフロー・モデル」「クリエイティブ・ブリーフ」「ブランドホロタイプ・モデル」の3種類のテンプレートがダウンロードできると版元が案内しています。形式はPowerPointで、加工して使える旨が明記されています。無償で一般公開されているテンプレートではないため、正確な枠組みで作りたい場合は書籍から入手するのが確実です。

パーセプションフロー・モデルは自由に使ってよいのですか?

「パーセプションフロー®」は音部大輔氏が権利を有する商標であるとNTTアドのニュースリリースに明記されています。社内の設計資料として使う場合と、対外的なサービス名や提案書の見出しとして掲げる場合では、注意の度合いが変わります。後者にあたるなら、商標の使用可否を確認してから表示してください。なお同氏が考案したモデルの公式パートナーとして、株式会社エフアイシーシーの名前が同リリースに挙げられています。

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