Sentry(セントリー)は、Webアプリやモバイルアプリで起きた例外を自動で集め、原因になったコードの行まで示すエラー監視のSaaSです。英単語のsentryは「見張り番」を意味し、アプリに組み込んだSDKが本番環境の異常を見張って sentry.io へ送ります。
料金は、個人向けのDeveloperプランが無料、チーム向けのTeamが月29ドル(年払いなら月26ドル)、Businessが月89ドル(同80ドル)です。ただし請求額を決めるのは、枠を超えたエラーやスパンの従量分です。この記事では2026年10月時点の公式の料金表で規模別の月額を出し、超過を抑える設定、SDK v11の初期設定、セルフホストの条件までを、一次情報とローカルでの実測で整理します。
まとめ:Sentryの要点と料金の目安
Sentryは、エラー・トレース(APM)・リプレイ・ログをつなげて見られる開発者向けの監視ツールです。1人で試すなら無料のDeveloperプラン(エラー月5,000件・保持30日)で足ります。チームで本番運用するならTeamプランから始めるのが基本で、エラーが月20万件・スパン1,000万件なら月80ドル前後が目安です。Businessに上げると超過エラーの単価が量の帯に応じてTeamの約2〜3倍になるため、SAML認証やダッシュボード無制限が要らないうちはTeamのままにしてください。
導入前に決めるのは、従量予算(Pay-as-you-go)の上限、Spike Protectionの有効化、SDKのサンプリング率です。予算を使い切るとその月の残りは監視が止まります。JavaScript SDK v11はCookieや送信元IPを既定で送るので、更新前に設定を確認してください。データを国内に置く必要があるならSaaSでは満たせず、セルフホスト(4コア・メモリ16GB+スワップ16GB以上)が前提です。
Sentryの意味と、エラー監視ツールとしての役割
英単語「sentry」の意味と同名の製品
英単語の sentry は名詞で「歩哨、哨兵、見張り番」を意味し、発音は /séntri/(セントリー)です(Weblio英和辞典・研究社 新英和中辞典)。IT分野で「Sentry」と言えば、ほとんどの場合この記事で扱うエラー監視サービスを指します。運営会社は Functional Software, Inc.(Sentryの名称で事業を展開)で、2008年に71行のDjangoプラグインとして公開されたのが始まりです(Sentry公式ブログ)。
トレンドマイクロの「Cloud Sentry」など同名の別製品もあるため、URLが sentry.io かどうかで見分けてください。
SDKが送るデータとSentry側でできること
Sentryはログファイルを読みに行くのではなく、アプリに組み込んだSDKが例外の起きた瞬間に内容を送る方式です。送られる単位は「エラー」「スパン(処理時間の計測区間)」「リプレイ(画面操作の録画)」「ログ」などで、料金もこの単位で数えられます。
届いたエラーは、スタックトレースが似ているものごとに1件の「イシュー」へまとめられます。同じ不具合が1万回起きても一覧には1行で出るので、影響ユーザー数と回数で優先順位を決められます。圧縮済みのJavaScriptも、ソースマップをアップロードしておけば元の行番号で表示され、直前のクリックやAPI呼び出しは「ブレッドクラム」として残ります。
Sentryの主な機能と課金単位
Sentryの機能はそれぞれ別の課金単位と枠を持つため、機能は課金単位と合わせて見るのが実用的です。「含まれる枠」は有料プランの基本料金に含まれる月間の量です(Sentry Docs:Pricing & Billing)。
| 機能 | わかること | 課金単位 | 含まれる枠 |
|---|---|---|---|
| エラー監視 | 例外の発生箇所・回数・影響範囲 | エラー1件 | 50,000件 |
| トレーシング(APM) | 遅い処理・DBクエリ | スパン1本 | 500万本 |
| セッションリプレイ | エラー前後の画面操作 | リプレイ1本 | 50本 |
| ログ | エラーと同じトレースのログ | GB | 5GB |
| アプリケーションメトリクス | 任意の数値の推移 | GB | 5GB |
| Cron監視・Uptime監視 | 定期ジョブの失敗・URLの死活 | モニター1個 | 各1個 |
| プロファイリング | 関数ごとの処理時間 | 時間 | 従量のみ |
| Seer(AIデバッグ) | 原因の推定・修正PRの作成 | 貢献者1人 | 別契約 |
見落とされがちなのはリプレイの枠が50本しかない点で、通常のセッションを全件録画すると、1日50セッションのサイトでもその日のうちに月の枠を使い切ります。「エラーが起きたセッションだけ録る」設定から始めてください(設定例は導入手順の章)。トレーシングの考え方はAPM(アプリケーション性能監視)とは|仕組み・3種の監視データ・OpenTelemetry計装と導入判断を実装目線で解説で整理しています。
Seerは、エラー・トレース・ログと連携したリポジトリのコードを読み、原因の推定、修正PRの作成、コードレビューを行うAIエージェントです。修正の生成はClaude Code・Cursor Cloud Agents・GitHub Copilotへ引き渡すこともでき、対応はGitHub.comとGitLab.comのクラウド版だけです(Sentry Docs:Seer)。
Sentryの料金プラン(2026年10月時点)
4プランの月額と無料のDeveloperプランの範囲
料金はドル建てで、年払いにすると月払いより約1割安くなります(Sentry公式:Pricing)。
| プラン | 月払い | 年払い | ユーザー数 | エラー枠 | エラー保持 |
|---|---|---|---|---|---|
| Developer | 無料 | 無料 | 1人 | 5,000件 | 30日 |
| Team | $29/月 | $312/年(月$26) | 無制限 | 50,000件 | 90日 |
| Business | $89/月 | $960/年(月$80) | 無制限 | 50,000件 | 90日 |
| Enterprise | 個別見積 | 個別見積 | 無制限 | 個別 | 個別 |
無料のDeveloperプランでも、エラー監視とトレーシング、ログ5GB、スパン500万本、リプレイ50本は使えます。使えないのは、2人目以降のユーザー追加、Slackなどの外部連携とAPI(通知はメールのみ)、Seerです。トレースのデータ保持は全プランで30日で、Business以上だけがサンプリングしたスパンを13か月残せます(Sentry Docs:Data Retention Periods)。
Teamを選ぶ理由は、ユーザー数の上限がなくなることと、外部サービス連携とAPIが使えることです。Businessで増えるのは、カスタムダッシュボードの無制限化(Teamは20個まで)、高度なクォータ管理、SAMLによるシングルサインオン、SCIMによるユーザー・チームのプロビジョニングです。
新規アカウントには14日間の無料トライアルがあり、終了後に有料プランへ切り替えなければDeveloperプランに戻ります。新規ユーザーは最初の3か月、毎月5,000本のリプレイが無料になる特典もあります。設立2年以内・ベンチャーキャピタルからの調達額500万ドル未満・Sentryへの支払いが初めて、の3条件を満たすスタートアップは、12か月有効で最大5,000ドル分のクレジットを申請できます(Sentry for Startups)。
超過分の単価:帯ごとの段階課金
枠を超えた分は、前払いで確保する「予約(Reserved)」か、月末に精算する「従量(Pay-as-you-go)」で支払います。公式の料金計算機は従量の単価を使い、量の帯ごとに単価を切り替えて合計する段階課金で計算しています。エラーの単価は次のとおりです(ドル/1件)。
| 月間エラー数の帯 | Team予約 | Team従量 | Business予約 | Business従量 |
|---|---|---|---|---|
| 5万〜10万件 | 0.0002900 | 0.0003625 | 0.0008900 | 0.0011125 |
| 10万〜50万件 | 0.0001750 | 0.0002188 | 0.0005000 | 0.0006250 |
| 50万〜1,000万件 | 0.0001500 | 0.0001875 | 0.0003000 | 0.0003750 |
| 1,000万〜2,000万件 | 0.0001300 | 0.0001625 | 0.0002600 | 0.0003250 |
| 2,000万件超 | 0.0001200 | 0.0001500 | 0.0002400 | 0.0003000 |
表から読み取れる点が2つあります。1つは、従量の単価がどの帯でも予約の1.25倍になっていることです。毎月ほぼ同じ量が出るなら、その分を予約で確保したほうが安くなります。もう1つは、Businessのエラー単価がTeamより高く、5万〜10万件の帯で約3倍(0.0003625ドルに対して0.0011125ドル)、50万件を超える帯でも2倍あることです。スパンの単価もBusinessはTeamの2倍です。一方、リプレイの単価は両プラン共通です。
| 種類 | 単位 | Team従量 | Business従量 |
|---|---|---|---|
| スパン(500万〜1億本) | 1本 | $0.0000020 | $0.0000040 |
| リプレイ(50〜5,000本) | 1本 | $0.00375 | $0.00375 |
| ログ・メトリクス | 1GB | $0.50 | $0.50 |
| 添付ファイル | 1GB | $0.3125 | $0.3125 |
| Cron監視 | 1個 | $0.78 | $0.78 |
| Uptime監視 | 1個 | $1.00 | $1.00 |
| 継続プロファイリング | 1時間 | $0.0315 | $0.0315 |
| UIプロファイリング | 1時間 | $0.25 | $0.25 |
月の途中でTeamからBusinessへ上げると、残りの従量予算はBusinessの単価で計算し直されます。同じ予算額でも、消化される速さが上がります。ダウングレードと解約は契約期間の終わりに反映され、返金はありません。
Seerの料金:アクティブ貢献者1人あたり月40ドル
Seerは基本プランとは別の月額契約で、TeamとBusinessで使えます。料金は「アクティブ貢献者」1人あたり月40ドルです。アクティブ貢献者とは、Seerを有効にしたリポジトリへその月に2本以上のPRを出した人を指し、人数は毎月リセットされます。GitHubでは [bot] 付きのボットは数えられませんが、GitLabではグループメンバーの全アカウントが数えられます(Sentry Docs:Seer Pricing)。
たとえば開発者8人のうち5人が月に2本以上PRを出すなら、Seerの費用は月200ドルです。エラー監視の基本料金より高くなりやすいため、まずは主要なリポジトリ1つだけで有効にし、修正PRが実際にマージされる割合を見てから広げてください。なお、月20ドルにクレジット25ドル分が付く旧料金体系は、2026年1月から新規には提供されていません。
月額はいくらになるか:規模別の試算
公式の料金計算機と同じ段階課金と従量単価で、規模別の月額を計算しました。計算機のソースコードで単価表と計算式を確認したうえで、同じ式を再現しています。Seer・プロファイリング・税は含みません。公式の表示単価は丸めた値なので、実際の請求とは端数がずれることがあります。年払いの行は、年額の基本料金を12で割った額に、その月の従量分を足した月額換算です。
| 想定 | プラン | エラー/月 | スパン/月 | リプレイ/月 | 月額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 個人開発 | Developer | 3,000件 | 100万本 | 0本 | $0 |
| 小規模チーム | Team | 10万件 | 500万本 | 50本 | $47.13 |
| 中規模SaaS | Team | 20万件 | 1,000万本 | 500本 | $80.69 |
| 中規模SaaS(年払い) | Team | 20万件 | 1,000万本 | 500本 | $77.69 |
| 大規模 | Team | 100万件 | 5,000万本 | 5,000本 | $336.96 |
| 大規模 | Business | 100万件 | 5,000万本 | 5,000本 | $780.69 |
中規模SaaSの80.69ドルの内訳は、基本料金29ドル、超過エラー15万件で40.00ドル(5万件×0.0003625+10万件×0.0002188)、超過スパン500万本で10.00ドル、超過リプレイ450本で1.69ドルです。ログを月25GB送ると、超過20GB分の10ドルがさらに加わります。
最も差が大きいのはプラン違いで、同じ量でもBusinessはTeamの約2.3倍(月444ドル高い)になり、大半はエラーとスパンの単価差です。海外の解説記事には予約単価で計算した試算もありますが、従量で払うなら従量単価で見積もってください。
請求を抑える設定:予算・Spike Protection・サンプリング
予約枠と従量予算の使い切りによる監視停止
従量予算は、エラー・スパン・リプレイなど全カテゴリで共有され、先に来たデータから消費されます。予約分と従量予算を使い切った後に届いたデータは捨てられ、課金もされません。ただし公式ドキュメントが明記しているとおり、その請求期間の残りは監視ができなくなります。使わなかった予約分も月末で失効します(Sentry Docs:Pricing & Billing)。
予算を小さくしすぎると、障害でエラーが最も欲しい日に監視が止まります。従量予算は、平常月の超過料金に、障害時に許容できる追加支出を足した額で決めてください。後述のSpike Protectionは短期的な急増への補助策で、対象はエラー・スパン・添付ファイルだけです。ログやリプレイの増加と、じわじわ続く増加は防げません。
Spike Protectionは、プロジェクトごとに平常の消費量からしきい値を計算し、それを超えた分のイベントを捨てて枠の急激な消費を防ぐ機能です。Manager・Billing・Ownerのいずれかの権限を持つメンバーが Settings > Spike Protection からプロジェクト単位で有効にします(Sentry Docs:Quota Management)。
送信前に減らす:before_sendとサンプリングの実測
枠の消費を確実に減らすのは、SDK側で送らないことです。Python SDK 2.72.0をローカルの受け口へ向け、届いた件数と捨てた分の記録を測りました。
| 設定 | 送信 | 届いた件数 | client_reportの記録 |
|---|---|---|---|
| before_sendで1件を除外 | エラー2件 | 1件 | before_send:1件 |
| sample_rate=0.25 | エラー400件 | 92件 | sample_rate:308件 |
| traces_sample_rate=0.1 | トランザクション200件 | 19件 | sample_rate:181件 |
| traces_sample_rate=1.0で連続送信 | トランザクション200件 | 122件 | queue_overflow:78件 |
SDKが捨てたイベントはSentryに届かないため枠を消費しませんが、捨てた理由と件数は client_report という項目でSentryへ報告されます。エラーが減ったのかSDKで捨てているのかを後から区別できます。
4行目は設定ミスではありません。SDKの送信待ちキューが短時間に溢れると、溢れた分は手元で捨てられ queue_overflow と記録されます(受け口は1スレッドの簡易サーバーなので、本番での溢れ方はネットワーク次第です)。送信能力の確認は本番相当の負荷と通信条件で別に行い、traces_sample_rate は月間のスパン数(料金)と調査に必要なトレース数から決めてください。また、子スパンを1本持つトランザクションはスパン2本として数えられました。スパン量は「トランザクション数×(子スパン数+1)」で見積もってください。
実測に使った before_send の書き方は次のとおりです。None を返したイベントは送信されません。
import os
import sentry_sdk
def before_send(event, hint):
# ヘルスチェック由来のメッセージは送らない
if "healthcheck" in (event.get("message") or ""):
return None
return event
sentry_sdk.init(
dsn=os.environ["SENTRY_DSN"],
release="[email protected]",
environment="production",
traces_sample_rate=0.1,
before_send=before_send,
)
導入手順:DSNの設定とSDKの初期化
DSNの中身と取り扱い
導入はアカウント作成、プロジェクト作成(言語を選ぶ)、発行されたDSNをSDKに設定、の3段階です。DSNは https://公開鍵@ホスト/プロジェクトID の形の文字列で、SDKはここから送信先を組み立てます。実測では、プロジェクトIDが42のDSNに対してSDKは /api/42/envelope/ へPOSTし、認証ヘッダーには公開鍵に加え、プロトコルのバージョンとSDK名・バージョンが入っていました。
つまりDSNを知っていれば誰でもイベントを送れ、ブラウザ向けのコードに埋め込む値なので秘密にもできません。対策は、不要なイベントを枠に数えずに捨てるInbound Filters(Project > Settings > Inbound Filters)と、偽のイベントで枠を急激に消費されたときに働くSpike Protectionです。AIコーディングエージェントにSentry MCPでエラーを読ませる場合は、偽のエラーに仕込まれた指示を実行させられる攻撃にも注意が必要です。手口と防御設定はAgentjackingとは?偽のSentryエラーでAIコーディングエージェントを乗っ取る攻撃と防御設定にまとめています。
JavaScript(Vite+React)の初期化:SDK 11.8.0
この例はVite+React向けです。あらかじめ npm install @sentry/[email protected] でSDKを追加し、環境変数 VITE_SENTRY_DSN にプロジェクトのDSNを設定してください。
2026年10月時点の最新版は @sentry/react 11.8.0です。リプレイの枠が50本しかないため、通常セッションの録画は0にし、エラーが起きたセッションだけを録ります。
import * as Sentry from "@sentry/react";
Sentry.init({
dsn: import.meta.env.VITE_SENTRY_DSN,
release: "[email protected]",
integrations: [
Sentry.browserTracingIntegration(),
Sentry.replayIntegration(),
],
tracesSampleRate: 0.1,
replaysSessionSampleRate: 0,
replaysOnErrorSampleRate: 1.0,
});
tracesSampleRate は0から1の割合で、0.1ならトレースの1割だけを送ります。v11からは enableLogs オプションが削除され、Sentry.logger.info() などのログAPIを呼んだ時点でログが送られるようになりました。Node.jsの最低対応バージョンは20.19.0です(sentry-javascript MIGRATION.md)。
Python(Django・Flask・FastAPI)の初期化:sentry-sdk 2.72.0
Pythonの最新版は sentry-sdk 2.72.0(2026年10月12日公開)です。Django・Flask・FastAPIはインストール済みなら連携が自動で有効になるため、初期化は1か所で済みます。
pip install "sentry-sdk==2.72.0"
import os
import sentry_sdk
sentry_sdk.init(
dsn=os.environ["SENTRY_DSN"],
environment="production",
traces_sample_rate=0.1,
)
Python SDKでは send_default_pii が引き続き使えます。ただし実測では、set_user() で明示的に渡したユーザーIDやメールアドレスは、send_default_pii=False でも送られました。また、イベントの server_name には実行したマシンのホスト名が既定で入ります。ホスト名に個人名が含まれる環境では、server_name を明示的に上書きしてください。
動作確認:テストイベントの送信
初期化の後、わざとエラーを起こしてダッシュボードに届くかを確かめます。
import sentry_sdk
sentry_sdk.capture_message("Hello Sentry!")
division_by_zero = 1 / 0
capture_messageの呼び出しはメッセージを記録し、ゼロ除算は捕捉されなかった例外として記録されます。
JavaScript SDK v11で変わった初期設定:dataCollection
JavaScript SDK v11では、個人情報の送信を1つのスイッチで切り替えていた sendDefaultPii が廃止され、項目ごとに指定する dataCollection に置き換わりました。注意すべきは既定値です。v10では未設定なら控えめに集める動作でしたが、v11では未設定のままだとCookie・ユーザー情報・HTTPのリクエストとレスポンスの本文・データベースのクエリ・生成AIの入出力を集めます(MIGRATION.md)。
@sentry/node 11.8.0をNode.jsのHTTPサーバーに組み込み、Cookieとクエリ文字列付きのPOSTを送って、ローカルの受信サーバーに届いたSDK送信データを比べました。
| 送信された項目 | 既定(未設定) | userInfo・cookies・httpBodiesを制限 |
|---|---|---|
| Cookieヘッダー | session_id=[Filtered]; theme=dark | 送られない |
| 送信元IPアドレス | 送られる | 送られない |
| クエリ文字列 | coupon=SPRING | coupon=SPRING |
| その他のリクエストヘッダー | 送られる | 送られる |
セッションIDのような機密らしい値は既定でも [Filtered] に置き換わります。一方、それ以外のCookieと送信元IPはそのまま届きました。クエリ文字列は制限した設定でも送られているため、URLにメールアドレスやトークンを載せる設計なら urlQueryParams も絞る必要があります。v10の既定と同じ収集範囲に戻すには、移行ガイドが示す次の設定をすべて明示してください。一部の項目だけを書くと、書かなかった項目はv11の既定どおり集められます。
Sentry.init({
dsn: process.env.SENTRY_DSN,
dataCollection: {
userInfo: false,
cookies: false,
httpBodies: [],
genAI: { inputs: false, outputs: false },
databaseQueryData: false,
queues: false,
graphQL: { document: false, variables: false },
httpHeaders: {
request: { deny: ["forwarded", "-ip", "remote-", "via", "-user"] },
response: { deny: ["forwarded", "-ip", "remote-", "via", "-user"] },
},
urlQueryParams: { deny: ["forwarded", "-ip", "remote-", "via", "-user"] },
},
});
この実測で、v11のスパンはトランザクションにまとめず1本ずつ送る方式(ストリーミング)になっていることも確認できました。移行ガイドでも、これが新しい既定とされています。既にOpenTelemetryで計装している環境へ組み込む場合は、Sentry OpenTelemetry連携の3経路|OTLP直送とSDK併用の判断で経路ごとの制約を確認してください。
SaaS版とセルフホスト版の選び方
データの保存先は米国かEUの2択
SaaS版では、エラーやスパンなどの保存先を米国(アイオワ)かEU(ドイツ・フランクフルト)から選べ、日本のリージョンはありません。ただし、ユーザーアカウントや組織設定、Cronチェックインなどは選択にかかわらず米国に保存される場合があり、Uptimeチェックも選択リージョン外に保存される場合があります。保存先は組織の作成時に選び、後から変えるには組織を作り直すしかありません(Sentry Docs:Data Storage Location)。社内規程や契約でデータの国内保管を求められているなら、SaaS版はこの時点で候補から外れます。
セルフホストの要件と使えない機能
セルフホスト版はDocker Composeで動かし、最小要件はCPU 4コア、メモリ16GB+スワップ16GB、空きディスク20GBです(推奨メモリは32GB)。DockerとDocker Composeは、それぞれ19.03.6と2.32.2以上が必要です(Sentry Developer Documentation:Self-Hosted Sentry)。中ではPostgreSQL、Kafka、ClickHouse、Memcachedなど複数のミドルウェアが1台で動くため、ディスクI/Oが性能を左右します。2026年10月16日に公開された最新版は26.10.0です。JavaScript SDK v11が正式に対応するのはセルフホスト26.4.2以降なので、古いセルフホスト環境ではSDKより先にサーバー側を上げてください。
公式は、セルフホストを「ソフトウェアの制限がなく料金のないBusinessプラン」と位置づけています。ただし、課金と結びついたSpike Protection、クローズドソースのSeerなどのAI機能、データ保存先の選択は使えません。iOSのシンボル解決も、Appleが公開のシンボルサーバーを提供していないため制限されます。セルフホストの費用は、サーバー代に更新・バックアップ・障害対応の人件費を加えてSaaS料金と比較してください。国内保管が必須の場合は、費用とは別に、その要件を満たせる構成を選びます。
ライセンス:オープンソースではなくFSL
Sentryのソースコードは公開されていますが、OSIの定義でいうオープンソースではありません。2019年11月にBusiness Source License(3年後にApache 2.0へ切り替え)へ移行し、2023年11月からは自社で策定したFunctional Source License(FSL)を使っています(Re-Licensing Sentry)。現在の本体のライセンスはFSL-1.1-Apache-2.0で、各バージョンは公開から2年後にApache 2.0で使えるようになります(fsl.software)。
FSLが禁止しているのは、Sentryの代わりになる商用サービスとして提供する「競合利用」です。自社のアプリを監視するためのセルフホストや、受託先での導入支援は許可された用途に含まれます。
他のエラー監視ツールとの違いと選び方
Sentryの強みは、エラーからコードの行、直前の操作、関連するトレースまでをたどれる点です。インフラ全体をまとめて監視したい場合やモバイルのクラッシュだけを見たい場合は、別のツールが合います。
| ツール | 得意な範囲 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| Sentry | アプリのエラー・トレース・リプレイ | コードの行まで原因を追いたい |
| Bugsnag | エラー監視・リリースの安定性スコア | 安定性の数値で出荷を判断したい |
| Datadog | インフラからアプリまでの統合監視 | サーバー・ログ・APMを1つにまとめたい |
| New Relic | APM・インフラ監視 | データ量課金で全体を見たい |
| Firebase Crashlytics | モバイルアプリのクラッシュ | iOS・Androidのクラッシュだけを見たい |
同じエラー監視のSaaSで迷うなら比較相手はBugsnagとRollbarです。Rollbarの通知設計と段階課金はRollbarとは?エラー監視の仕組み・Node.js導入手順・通知設計と料金で整理しています。Bugsnagとの選び分けはBugsnagとは?エラー監視の仕組み・JavaScript導入手順・安定性スコアと料金、Sentryとの選び分け【2026年10月】で比べています。既にDatadogでAPMやRUMを計装しているなら、エラー追跡もDatadogに寄せられます(Datadog Error Tracking実装手順:イシュー集約とソースマップ登録、APM/RUM/Logs連携)。データ量課金の統合監視はNew Relicとは|APM・インフラ監視の構成とデータ量課金の設計を実装目線で解説、モバイルのクラッシュ収集はFirebase Crashlyticsとは|収集の3層とシンボル運用・速度アラート設計【2026年8月時点】を参照してください。
Sentryを選ばない方がよい場面
次のどれかに当てはまるなら、Sentryを主役にしないでください。
- 監視したいのがCPU・メモリ・ディスクなどサーバーのメトリクスである。Sentryはアプリのイベントを集める道具で、インフラ監視の代わりにはなりません。Prometheusで監視を構築する手順|exporter設計・PromQL・保持期間の見積りのようなメトリクス監視を別に用意します。
- データの国内保管が必須なのに、セルフホストを運用する人員がいない。SaaSは米国かEUにしか保存できません。
- 同じエラーが1日に数十万件出ている状態のまま、まず入れてみようとしている。先にエラーを直すか
before_sendで絞らないと、初月の従量分が基本料金の何倍にもなります。
Sentryの導入そのものより、アラートの基準づくりや本番障害の一次対応を誰が担うかで運用が止まるケースは少なくありません。監視設計から運用体制までまとめて整えたい場合は、一創の保守運用・内製化支援でご相談いただけます。
よくある質問
Sentryは無料で使えますか?
使えます。Developerプランは無料でエラー月5,000件まで送れますが、ユーザーは1人、通知はメールのみ、保持は30日です。チームで共有するならTeamプラン(月29ドル)が必要です。
Sentryの月額料金はいくらですか?
基本料金はTeamが月29ドル(年払いで月26ドル)、Businessが月89ドル(同80ドル)です。エラー5万件・スパン500万本を超えると従量分が加わり、エラー20万件・スパン1,000万本のTeamプランなら月80ドル前後になります。
セントリー(sentry)の日本語訳は?
英単語のsentryは「歩哨、哨兵、見張り番」です。エラー監視ツールのSentryも、本番環境のアプリを見張る役割を名前に込めています。
Sentryはどんな企業が提供していますか?
Functional Software, Inc.が「Sentry」の名称で提供しています。2008年にDjango向けの71行のプラグインとして始まり、現在はJavaScript・Python・モバイルなど主要な言語向けにSDKを提供しています。
Sentryはオープンソースですか?
OSIの定義ではオープンソースではありません。ソースは公開され自社利用のセルフホストもできますが、ライセンスはFSL-1.1-Apache-2.0で、各バージョンは公開2年後にApache 2.0になります。
関連記事
- Bugsnagとは?エラー監視の仕組み・JavaScript導入手順・安定性スコアと料金、Sentryとの選び分け【2026年10月】
- Sentry OpenTelemetry連携の3経路|OTLP直送とSDK併用の判断
- Datadog Error Tracking実装手順:イシュー集約とソースマップ登録、APM/RUM/Logs連携
- APM(アプリケーション性能監視)とは|仕組み・3種の監視データ・OpenTelemetry計装と導入判断を実装目線で解説
- Firebase Crashlyticsとは|収集の3層とシンボル運用・速度アラート設計【2026年8月時点】
- Orchestrionとは?DatadogのGoコンパイル時自動計装の仕組みと導入手順【v1.13】