JVNVU#93693807は、トレンドマイクロのDeep Security Agent(Windows版)とDeep Security NotifierにあるOSコマンドインジェクションの脆弱性CVE-2024-51503です。対象はWindows版Agentのビルド20.0.1-21510未満で、端末にログインできる攻撃者がSYSTEM権限で任意のコードを実行できる可能性があります。
ただし、2026年10月時点で21510まで上げただけでは足りません。同じWindows版Agentには、その後も権限昇格の脆弱性が続けて公表されているためです。この記事では、脆弱性の中身、手元のビルドの確かめ方、Notifierの扱い、サポート期限までを公式アドバイザリとJVNの記載に沿って整理します。
まとめ:CVE-2024-51503の要点と対応
- 影響範囲はWindows版Deep Security Agent 20.0.1-21510未満と、DSVA保護環境のWindows VMで動くNotifier 20.0.0-8438です。Linux版Agentはこの脆弱性の対象外です。
- CVSS v3はトレンドマイクロ評価が8.0、NVD評価が8.8です。悪用の前提として、対象端末で低権限のコードを実行できること(他端末への攻撃にはドメインユーザー権限)が必要です。
- CISAの既知悪用脆弱性カタログ(KEV)には2026年10月1日版の時点で載っていません。
- 修正ビルドは20.0.1-21510(20 LTS Update 2024-10-16)です。2025年4月公表のCVE-2025-30640〜30642まで含めると、最低でも20.0.1-25770が必要です。
- Windows版の最新ビルドは20.0.3-29020(2026年9月30日リリース)です。
- Notifier単体パッケージには修正版が出ていません。20.0.0-8438より前のビルドを使うか、Agent 20.0.1を導入します。
以下、脆弱性の中身から順に根拠を示します。
CVE-2024-51503の中身:手動検索を悪用するコマンドインジェクション
トレンドマイクロ英語版アドバイザリ(KA-0018154、2024年11月18日公開)での名称は「Security Agent Manual Scan Command Injection Remote Code Execution Vulnerability」です。手動検索(Manual Scan)の処理にOSコマンドを注入できる欠陥で、JVNはCWE-78(OSコマンドインジェクション)に分類しています。報告者はZero Day InitiativeのSimon Zuckerbraun氏で、識別番号はZDI-CAN-25215です。
JVNの記載では、被害は2段階に分かれます。当該製品が入ったWindowsにログインできる攻撃者はSYSTEM権限で任意のコードを実行できる可能性があり、特定の条件下ではドメインアクセス権を持つ攻撃者が同一ドメイン内の他のWindowsへ遠隔でコマンドを注入できる可能性があります。
CVSS 8.0と8.8の違い:攻撃元区分・攻撃条件・スコープの評価差
同じCVEでも、トレンドマイクロとNVDでスコアが異なります。
| 評価者 | スコア | 攻撃元区分 | 攻撃条件 | スコープ |
|---|---|---|---|---|
| トレンドマイクロ | 8.0 | 隣接(AV:A) | 高(AC:H) | 変更あり(S:C) |
| NVD | 8.8 | ネットワーク(AV:N) | 低(AC:L) | 変更なし(S:U) |
両者とも「低権限が必要(PR:L)・利用者の関与なし(UI:N)・機密性/完全性/可用性が高」は共通です。表に示した評価差は、攻撃元区分、攻撃条件の複雑さ、スコープの3項目です。開発元は、ローカルでの悪用には対象システム上で低権限のコードを実行できること、他端末への攻撃にはドメインユーザー権限が必要と説明しています。対応優先度は、両者の評価差を記録したうえで、対象端末への到達可能性、ドメイン権限の取得リスク、業務影響を踏まえて決めます。開発元のスコアが低いことだけを理由に更新を先送りしないでください。
悪用状況:KEV未登録でも警戒が必要なドメイン内の権限昇格と横展開
CISAのKEVカタログ(2026年10月1日版・1,731件)を確認すると、CVE-2024-51503は載っていません。同カタログに載るトレンドマイクロ製品の12件は、すべてApex One、OfficeScan、Worry-Free Business Security、Apex Centralの脆弱性で、Deep Security系は1件もありません。NVDの評価もCVE-2024-51503のNVDページで確認でき、NISTはCWE-77、トレンドマイクロはCWE-78に分類しています。同じ社内の管理サーバー製品で起きた事例はApex Centralの脆弱性と修正パッチで扱っています。
KEV未登録は「悪用されない」という意味ではありません。この脆弱性は、侵入後に権限を上げてドメイン内へ広げる段階で使われる種類です。フィッシングなどで一般ユーザー権限を奪われた時点で、サーバーを守るはずのエージェントが攻撃の足場になります。KEVに載った脆弱性を最優先にする判断軸はPAN-OSの脆弱性CVE-2024-0012と悪用済みCVE一覧でも同じ考え方を取っています。
Windows版AgentとNotifierの影響ビルドと対策の違い
トレンドマイクロ日本語版アドバイザリ(KA-0018161)とJVNVU#93693807の記載をまとめると、対象と対策は次のとおりです。表のDeep Security AgentはWindows版、Deep Security NotifierはDSVA保護環境のWindows版を指します。
| 製品 | 影響を受けるビルド | 対策 |
|---|---|---|
| Deep Security Agent | 20.0.1-21510未満 | 20.0.1-21510以降へ更新 |
| Deep Security Notifier | 20.0.0-8438のみ | 8438未満かAgent 20.0.1導入 |
公表は英語版アドバイザリが2024年11月18日、日本語版の更新が11月22日、JVNの公開が12月5日です。修正ビルドの20.0.1-21510(20 LTS Update 2024-10-16)は公表より約1か月早く配布されていたため、毎月の更新を当てていた環境では公表時点で対応が済んでいました。
Notifier単体環境の対策:旧ビルドの利用とAgentへの切り替え
Notifierは、不正プログラムのブロックなどをWindowsのタスクバーにポップアップで知らせる常駐アプリです。通常はAgentと一緒に入りますが、エージェントレス型のDeep Security Virtual Appliance(DSVA)で守るVMには単体版を入れます。JVNによると、トレンドマイクロはDSVA保護環境向けのNotifier単体パッケージについて20.0.1以降をリリースしていません。修正版を待つ選択肢はなく、20.0.0-8438より前のビルドに戻すか、フルパッケージのAgent 20.0.1へ切り替えるかの2択です。
DSVA自体も、日本地域では2027年8月2日に製品サポートが終わります(KA-0007638)。Notifierを旧ビルドに戻して延命するより、Agentへの切り替えか後述の移行先を決めるほうが手戻りは少なくなります。
続けて公表された権限昇格の脆弱性:21510では足りない理由
CVE-2024-51503の前後にも、Windows版Agentでは権限昇格の脆弱性が続いています。21510を合格ラインにすると、その後に公表された脆弱性が残ります。
| CVE | 公表 | 種類 | CVSS | 修正ビルド |
|---|---|---|---|---|
| CVE-2023-52337/52338 | 2024年1月 | ローカル権限昇格 | 7.8 | 20.0.0-8438 |
| CVE-2024-36358 | 2024年5月 | ローカル権限昇格 | 7.8 | 20.0.1-3180 |
| CVE-2024-48903 | 2024年10月 | ローカル権限昇格 | 7.8 | 20.0.1-17380 |
| CVE-2024-51503 | 2024年11月 | コマンドインジェクション | 8.0 | 20.0.1-21510 |
| CVE-2024-55955 | 2024年12月 | ローカル権限昇格 | 6.7 | 20.0.1-23340 |
| CVE-2025-30640〜30642 | 2025年4月 | 権限昇格・DoS | 5.5〜7.8 | 20.0.1-25770 |
CVSSはトレンドマイクロの評価値、公表はトレンドマイクロのアドバイザリの日付です(NVDの公開日は2か月以上遅れることがあります)。これらのローカル攻撃には、対象端末で低権限のコードを実行できることが前提となります。影響には権限昇格だけでなくサービス拒否(DoS)も含まれ、CVE-2024-51503では条件を満たすと同一ドメイン内の他端末への攻撃も可能です。
実務上の判断ははっきりしています。CVE-2024-51503だけを見て21510以上かを確かめる運用はやめ、20.0.1-25770を最低ラインにして、実際には最新の20.0.3系へ上げるのが妥当です。Deep Security Agentのリリースノートでは、Windows版の最新は20.0.3-29020(20 LTS Update 2026-09-30)、Linux版は20.0.3-28120(20 LTS Update 2026-09-23)です。
管理画面と個別端末でのインストール済みビルド確認と更新対象の抽出手順
台数が多い環境では、まず管理サーバー側で一覧を出し、個別の端末で確かめるのは例外だけにします。
Deep Security ManagerでのAgentビルド一覧確認
Deep Security Managerの[コンピュータ]画面にある[バージョン]列に、各端末のAgentのビルドが表示されます。列で並べ替えると、20.0.1-25770未満の端末をまとめて抽出できる仕組みです。オフラインのまま長く放置された端末には更新が届かないため、同じ画面で接続状態も合わせて確認します。
Windows端末でのAgentビルド確認:管理者権限でのコマンド照会
管理者権限のコマンドプロンプトでAgentのインストールディレクトリへ移動し、dsa_queryでAgentと保護モジュールのバージョンを照会します。
cd "C:\Program Files\Trend Micro\Deep Security Agent"
dsa_query -c "GetPluginVersion"
上記は既定のインストール先です。エージェントのセルフプロテクションでパスワードを設定している場合は、-pでパスワードを付けます。
Linux端末でのAgentパッケージ情報の確認:更新計画に向けた棚卸し
Linux版はCVE-2024-51503の対象外ですが、同じ棚卸しで確認しておくと後の更新計画が立てやすくなります。パッケージ管理コマンドでバージョンを表示します(KA-0007311)。
# Red Hat系
yum info ds_agent
# Debian/Ubuntu系
dpkg -s ds-agent
Deep Security ManagerからAgentを更新する手順
個別にインストーラーを配るより、Managerからまとめて更新するほうが漏れを防げます。公式ヘルプ(Deep Security Agentのアップグレード)の手順は次のとおりです。
- [コンピュータ]画面で、更新したい端末を選んで右クリックします。
- [アクション]→[エージェントソフトウェアのアップグレード]を選びます。
- 表示されたダイアログで更新先のビルドを指定して実行します。
更新前に対象端末のバックアップを取得し、更新先のパッケージをManagerへ取り込んだうえで、すべてのDeep Security RelayをAgentより先に更新します。新しい20.0.3系のAgentには対応するManagerのバージョンが必要な場合があります(例:Ubuntu 26.04対応のLinux版20.0.3-28120はManager 20.0.1181以降が条件)。旧ビルドからの更新経路も確認が必要です。公式アップグレード手順では、ネットワーク保護機能が有効な20.0.0-3771以前から20.0.3-8030以降へ直接更新できないため、20.0.0-3964~20.0.3-5660の中間ビルドを経由する必要があります。対象OSとManagerの互換性を確認し、少数の端末で更新後の保護状態を確認してから展開します。
更新が行き渡らない原因:エージェント型の弱点とオフライン端末への対応
トレンドマイクロ自身がエージェント型の弱点として、端末ごとのインストールが必要なこと、多数のAgentが同時に更新するとネットワーク負荷が上がること、オフラインのAgentは更新されずバージョンがばらつくことを挙げています(KA-0003503)。脆弱性対応で問題になるのは3つ目で、停止中のVMや持ち出し端末が古いビルドのまま残ります。脆弱性公表時と更新展開後に[バージョン]列で未対応端末を抽出し、オフラインだった端末が再接続した時点で更新対象に加えると、取りこぼしを減らせます。
Agentの更新と並行して、ネットワーク側で不審な通信を止める仕組みも残しておきます。トレンドマイクロが挙げている緩和策も、アクセス制御や侵入防御です。侵入防御の役割はIDS・IPSの違いと使い分けで整理しています。
Deep Security 20の日本地域のサポート期限と移行先
脆弱性への対応は、サポートが続いている系統にいることが前提です。日本地域のDeep Security 20 LTSでは、ビルドのリリース年に応じた製品サポート期限が定められています。ただし、Agentの実際のサポート期限はOSサポートポリシーにも制約され、どちらかが期限に達するとサポート対象外になります。日本地域のビルド別サポート期限は次のとおりです(KA-0009810)。
| リリース年 | サポート終了日(日本地域) |
|---|---|
| 2020年 | 2025年12月31日(終了済み) |
| 2021年 | 2026年12月31日 |
| 2022年 | 2027年12月31日 |
| 2023年 | 2028年12月31日 |
| 2024年 | 2029年12月31日 |
| 2025年 | 2030年12月31日 |
| 2026年 | 2031年12月31日 |
海外向けの規定(dates-lts)は、2023年以降のリリースについて標準サポートがリリース日から3年、延長サポートが4年です。日本向けの説明だけを読んで海外拠点の端末を同じ期限で管理すると、期限がずれます。Deep Security 12.0は日本地域でも2024年6月20日に延長サポートが終わっています。
移行先の比較:オンプレミスのManagerからクラウド管理への切り替え
移行先として挙げられるのがTrend Vision One Server & Workload Protectionです。Deep Security Managerには、オンプレミスのManagerからTrend Vision One Endpoint Security – Server & Workload Protection、またはTrend Cloud One – Endpoint & Workload Securityへ移す移行ツールがあります。Manager 20.0.940で、既定の移行先がVision One側に変わりました(KA-0017138)。クラウド版のDeep Security as a Serviceは名称がCloud One – Workload Securityに変わっただけで、Agentは同一でインストールパスやサービス名も変わりません(KA-0010530)。
移行するとManagerのパッチ管理がなくなり、Agentの更新もSaaS側から配布できます。Azure中心の環境なら、ワークロード保護をクラウド事業者側のMicrosoft Defender for Cloudに寄せる方法も選択肢の一つです。移行前後でサーバーの公開面や設定の抜けを第三者に確認してもらう場合は、脆弱性診断・セキュリティ診断が使えます。
よくある質問
CVE-2024-51503はインターネットから直接攻撃されますか?
開発元の評価では、対象端末で低権限のコードを実行できること、他端末への攻撃にはドメインユーザー権限が必要です。単独でインターネットから侵入される種類ではなく、侵入後の権限昇格や横展開に使われます。
Linux版のDeep Security Agentは影響を受けますか?
受けません。アドバイザリが対象としているのはWindows版AgentとDSVA保護環境のWindows版Notifierです。
この脆弱性の悪用は確認されていますか?
CISAのKEVカタログ(2026年10月1日版)には載っていません。ただし侵入後に使われる種類のため、未掲載でも更新は先延ばしにしないでください。
Deep Security Notifierだけを使っている場合はどうすればよいですか?
Notifier単体の修正版は出ていません。20.0.0-8438より前のビルドを使うか、Deep Security Agent 20.0.1を導入します。DSVAは日本地域で2027年8月2日にサポートが終わるため、移行計画と合わせて判断します。
Deep Security 20のサポートはいつまでですか?
日本地域ではビルドのリリース年で決まり、2024年リリースは2029年12月31日、2026年リリースは2031年12月31日までです。2020年リリースのビルドは2025年12月31日でサポートが終わり、2021年リリースのビルドも2026年12月31日で終わります。OSのサポート期限に先に達した場合は、その時点でサポート対象外です。