Qwen3.8-Maxは、AlibabaのQwenチームが2026年8月に正式提供を始めたフラッグシップモデルです。8月12日にはその元になった重みQwen3.8-2.4T-A95B(総2.4兆・活性約950億パラメータのMoE)が、8月14日には小型のQwen3.8-27Bが公開されました。この記事では、2.4兆MoEを自社で動かすときの必要VRAMとGPU台数を公式レシピと設定ファイルから計算し、独自ライセンスの商用条件、東京リージョンを含むAPI単価、24GB級のGPUで動く27Bとの選び分けまでを2026年10月16日時点の情報で整理します。
まとめ:Qwen3.8-Maxを使う3つの経路と2026年10月時点の結論
Qwen3.8を業務で使う経路は3つあります。API版のQwen3.8-Max、公開重みの2.4T-A95Bを自前のGPUで動かす経路、そして27Bをローカルで動かす経路です。選び方の結論は次の表のとおりです。
| 経路 | 入力 | 文脈長 | ライセンス | 向く案件 |
|---|---|---|---|---|
| Qwen3.8-Max(API) | テキスト・画像・動画 | 1M(既定) | 利用規約 | 大半の業務 |
| 2.4T-A95B(重み) | テキストのみ | 262K(1.01Mまで拡張) | Qwen3.8-Max License | GPU 8枚以上の専有環境 |
| Qwen3.8-27B(重み) | テキスト・画像・動画 | 262K(1Mまで拡張) | Apache 2.0 | 24GB級GPU・社外に出せないデータ |
2.4T-A95Bの自前運用は、NVFP4で量子化してもB300を8枚積んだノードが最小構成です。H200なら16枚、BF16のままならB300で24枚が要ります。活性95Bは計算量の指標であって、メモリは総2.4兆分を確保しなければなりません。ここを読み違えると調達計画が桁でずれます。
APIを使うなら、東京リージョン(Global)の単価は100万トークンあたり入力1.65ドル・出力4.951ドルで、シンガポールの2ドル・6ドルより2割近く安くなります。社外にデータを出せない案件で手元のGPUが24GB級なら、選択肢は27Bです。2.4T-A95Bの重みを使ってサービスを作る場合は、月間アクティブユーザー1億人超か月間売上2,000万ドル超の製品に使うとモデル名の表示義務がかかる点と、AIのAPI提供(Model as a Service)やコーディング・事務作業の支援(AI Work Assistant)の事業を営む企業は、グループの売上合計が連続12か月で5,000万ドルを超えると別ライセンスが要る点を先に確認してください。以下、それぞれの根拠を順に説明します。
Qwen3.8-Maxと公開重み2.4T-A95B・27Bの関係
「Qwen3.8」という名前は、API版・2.4兆の公開重み・27Bの3つを指します。数値が記事ごとに食い違って見えるのは、どれを指しているかと、いつ時点の情報かが混ざっているためです。
8月のAPI正式提供から8月12日・14日の重み公開までの日付
Qwen3.8-Maxは2026年7月にプレビュー版が先行提供され、8月3日付の公式ブログでAPIの正式提供と重みの翌週公開が告知されました。実際の公開日は、公式リポジトリQwenLM/Qwen3.8のNewsに記録されています。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年7月 | Qwen3.8-Max-Preview を先行提供 |
| 2026年8月3日 | Qwen3.8-Max のAPI正式提供を告知 |
| 2026年8月12日 | Qwen3.8-2.4T-A95B をHugging Face・ModelScopeで公開 |
| 2026年8月14日 | Qwen3.8-27B を公開 |
Qwen CloudのToken Planでは、プレビュー版のモデルIDqwen3.8-max-previewは退役し、現在はqwen3.8-maxへ自動で転送されます(Qwen CloudのToken Plan説明)。8月上旬に書かれた解説は「ライセンス未公表」「公開日未定」のまま止まっているものが多く、この記事の旧版もそうでした。仕様やライセンスを引用するときは、8月12日より後の情報かを先に確かめてください。
API版と公開重みの機能差:画像入力・非思考モード・1M文脈
公開重みは、API版のQwen3.8-Maxと同じものではありません。2.4T-A95Bのモデルカードは、API版を「2.4T-A95Bを基にした公式版で、画像入力と非思考モード、既定で1Mの文脈長、公式の組み込みツールを備える」と説明しています。逆に言えば、公開重みは画像入力・非思考モード・公式の組み込みツールを持たず、文脈長も標準は262,144トークンです(1,010,000トークンへは起動時の設定で拡張します)。
同じモデルカードには、2.4T-A95Bはテキスト専用で、すべての対話で思考モードが必須であり、マルチモーダル入力は非対応、思考は無効にできないと明記されています。応答は必ず<think>の推論ブロックから始まります。設定ファイルのarchitecturesもQwen3_5MoeForCausalLMで、画像エンコーダーの設定はありません。
実務への影響は2つです。図表入りのPDFや動画を読ませたい案件は、API版か27Bしか選べません。短い分類やタグ付けのように思考を省いて速く返したい処理も、公開重みでは毎回推論トークンを生成するぶん遅く高くつきます。思考の深さはreasoning_effort(xhigh・medium・low、既定はxhigh)で下げられますが、ゼロにはなりません。
Qwen3.8のMoE構成:512エキスパートと92層ハイブリッド注意
2.4T-A95Bの構成は、Qwen3.5と同じ系統の「Gated DeltaNet(線形注意)+Gated Attention(通常の注意)+MoE」です。以下の数値はモデルカードとconfig.jsonから取っています。
| 項目 | 2.4T-A95B | 27B |
|---|---|---|
| 総パラメータ | 2.4兆(MoE) | 27B(密) |
| 層数 | 92 | 64 |
| 通常の注意を使う層 | 23 | 16 |
| エキスパート | 512(1トークンあたり10+共有1) | なし |
| KVヘッド×次元 | 4×256 | 4×256 |
| 語彙 | 248,320 | 248,320 |
| 文脈長 | 262,144(1,010,000まで拡張) | 262,144(1,000,000まで拡張) |
512エキスパートから10+1を通す活性95Bの意味
各層のMoEは512個のエキスパートを持ち、トークンごとにルーターが10個を選び、共有エキスパート1個と合わせて通します。1トークンの計算に使われるのが約950億パラメータ分で、これが「A95B」の意味です。計算量(FLOPs)は95B級の密モデルに近くなります。
重みのほうは事情が違います。どのエキスパートが選ばれるかはトークンごとに変わるため、推論中は512個すべてをGPUメモリに置いておく必要があります。ディスクやCPUメモリへ逃がせば載りますが、その分だけ生成速度が落ちます。速度は活性パラメータで、メモリは総パラメータで見積もるのがMoEの原則です。ルーターと疎活性化の仕組みはMoE(Mixture of Experts)の仕組みとVRAM要件の解説で、小さい規模の例はQwen3.6-35B-A3Bの必要VRAMと動かし方で確認できます。
92層のうち23層だけが通常の注意:Gated DeltaNetの3対1配置
92層は「線形注意3層→通常の注意1層」の組を23回繰り返す構成です(full_attention_interval: 4)。線形注意のGated DeltaNet層は、文脈がどれだけ長くても一定サイズの状態しか持ちません。トークン数に比例して膨らむKVキャッシュを持つのは、通常の注意を使う23層だけです。
この配置のおかげで、2.4兆パラメータの規模でも長文脈のメモリ負担は小さく収まります。具体的な容量は次の章で計算します。なお、同じ系統の構成はQwen3.5-397B-A17BやQwen3-Next-80B-A3Bでも使われています。
Qwen3.8-Max(2.4T-A95B)の必要VRAMとGPU台数
必要量は「重み」と「KVキャッシュ」に分けて見積もります。重みは精度で決まり、KVキャッシュは文脈長と同時処理数で決まります。
精度別の重み容量とvLLM公式レシピのGPU台数
BF16の重みは2,446,182,725,504パラメータ×2バイトで約4.89TBです。vLLMの公式レシピは、精度ごとに必要なGPUの枚数を次のように示しています(「確保量」はレシピが重みの容量に1.2倍の余裕を掛けて見積もった値)。
| 精度 | 重み | 確保量 | B300 | MI355X | H200 |
|---|---|---|---|---|---|
| BF16 | 4.45TiB | 5,871GB | 24枚 | 24枚 | 48枚 |
| FP8 | 2.27TiB | 2,996GB | 16枚 | 16枚 | 32枚 |
| MXFP4(AMD) | 1.45TiB | 1,917GB | - | 8枚 | 16枚 |
| NVFP4(NVIDIA) | 1.32TiB | 1,737GB | 8枚 | - | 16枚 |
FP8以下の行で枚数が2のべき乗に揃っているのには理由があります。テンソル並列の分割数は通常の注意のヘッド数64を割り切れる値(1・2・4・8・16・32)しか取れないため、容量だけなら12枚で足りる構成でも16枚に切り上がります。BF16の24枚・48枚のように2のべき乗にならない枚数は、テンソル並列にパイプライン並列を組み合わせて分けます。レシピはこの組み合わせの動作を確認済みとしつつ、枚数が2のべき乗ならテンソル並列やエキスパート並列のほうが速いとしています。
H100 80GBはレシピの表にありません。FP8の重みだけで割っても31枚を超え、32枚(8枚×4ノード)では重みを載せた残りが合計60GB程度しか残りません。レシピが各行で使っている「重み×1.2」の見積もり(FP8で2,996GB)に当てると38枚以上が要り、テンソル並列だけなら64枚、パイプライン並列を併用しても40枚規模になります。
最小構成のNVFP4・B300×8枚の起動コマンドは、レシピでは次のとおりです。
vllm serve Inferact/Qwen3.8-2.4T-A95B-NVFP4 \
--tensor-parallel-size 8 \
--max-model-len 262144 \
--kv-cache-dtype fp8 \
--reasoning-parser qwen3 \
--enable-auto-tool-choice --tool-call-parser qwen3_coder
レシピの計測では、この構成で1ユーザーあたり毎秒133トークン、起動コマンドに--speculative-config '{"method":"mtp","num_speculative_tokens":3}'を足してMTP(複数トークン予測)を3段で有効にすると毎秒304トークンでした。前提はvLLMのnightlyビルドとtransformers>=5.4.0です。
KVキャッシュは23層分だけ:262Kで24.7GB、1.01Mで95GB
KVキャッシュの1トークンあたりの容量は「通常の注意の層数×2(KとV)×KVヘッド数×ヘッド次元×バイト数」で決まります。設定ファイルから計算するスクリプトと、その実行結果を示します。
import json, sys
def kv_bytes_per_token(cfg, kv_bytes=2):
# full attention 層だけがトークン数に比例するKVを持つ
full = cfg["layer_types"].count("full_attention")
return full * 2 * cfg["num_key_value_heads"] * cfg["head_dim"] * kv_bytes
def linear_state_bytes(cfg):
# Gated DeltaNet 層は文脈長に依存しない固定サイズの状態を持つ(float32)
lin = cfg["layer_types"].count("linear_attention")
per = cfg["linear_num_value_heads"] * cfg["linear_key_head_dim"] * cfg["linear_value_head_dim"] * 4
return lin * per
cfg = json.load(open(sys.argv[1]))
cfg = cfg.get("text_config", cfg)
for name, b in [("BF16", 2), ("FP8", 1)]:
per = kv_bytes_per_token(cfg, b)
for ctx in (262144, 1010000):
print(f"KV {name}: {per:,} B/token ctx={ctx:,} -> {per*ctx/1e9:.1f} GB")
print(f"線形注意の状態: 1系列あたり {linear_state_bytes(cfg)/2**20:.0f} MiB")
$ python3 kv_calc.py Qwen3.8-2.4T-A95B/config.json
KV BF16: 94,208 B/token ctx=262,144 -> 24.7 GB
KV BF16: 94,208 B/token ctx=1,010,000 -> 95.2 GB
KV FP8: 47,104 B/token ctx=262,144 -> 12.3 GB
KV FP8: 47,104 B/token ctx=1,010,000 -> 47.6 GB
線形注意の状態: 1系列あたり 552 MiB
BF16のKVで1系列あたり262Kトークンなら24.7GB、上限の1.01Mでも約95GBです。レシピどおり--kv-cache-dtype fp8にすれば半分になります。この記事の旧版は「100万トークンではKVキャッシュが数百GB単位」と書いていましたが、23層しかKVを持たない構成では誤りでした。お詫びして訂正します。
効いてくるのは同時処理数です。KVと線形注意の状態(1系列約0.54GiB)は系列ごとに積み上がるため、262Kの長文を16本並行で処理すると、計算上はFP8のKVだけで約200GBになります。テンソル並列8ではKVヘッド4本を各GPUへ複製して持つため、実際の消費はこの約2倍です。レシピの計測でも、NVFP4・B300×8枚で--max-model-lenを262144にすると、KVに回せた領域(GPUあたり70GiB)で同時25リクエスト分しか確保できず、9,240トークンに絞ると506リクエスト分に増えました。重みの1.3〜2.3TiBに比べれば小さいものの、GPUの枚数を「重みがぎりぎり載る数」で決めると同時実行数が出ません。
GGUFの1bit版は397GB:CPUメモリへ逃がす運用の上限
llama.cpp向けにはUnslothがGGUFを配布しています。Hugging Face上の実ファイルを合計すると、容量は次のとおりでした(2026年10月16日時点)。
| 量子化 | 合計サイズ |
|---|---|
| UD-Q1_0(1bit最小) | 397.3GB |
| UD-IQ1_S | 508.4GB |
| UD-IQ2_XXS | 656.6GB |
| UD-IQ4_XS | 1,310.9GB |
| Q8_0 | 2,600.2GB |
| BF16 | 4,893.2GB |
Unslothのガイドは、1bit最小版の実行に少なくとも450GBのRAMを求め、目安を「RAM+VRAM≒量子化サイズ」としています。足りなければディスクへのオフロードで動きはしますが、かなり遅くなるとも書かれています。なお、ガイドに載っている1bit系データ型の精度表(PPL・KLD)は他の大規模モデルで測った値で、Qwen3.8での評価は実施中とされています。1bit版は精度を自社の評価セットで確かめる前提で、512GBのメモリを積んだワークステーション1台で「動くことを確かめる」用途までと考えてください。
セルフホストを見送る判断基準と失敗パターン
判断基準は単純です。NVFP4でB300×8枚、またはH200×16枚を専有できないなら、2.4T-A95Bの自前運用は見送ります。この規模を持つ企業でも、ライセンスの条件(次章)を法務が確認する前にGPUを調達する理由はありません。
よくある失敗は、活性95Bという数字から「95B級の密モデルと同じくらいのGPUで動く」と見積もることです。95B級ならFP8で約95GBですが、2.4T-A95BはFP8で2.27TiB(約2,500GB)あり、約26倍の差があります。社外に出せないデータを扱うために自前運用を検討しているなら、先に27B(後述)で精度が足りるかを測るほうが現実的です。
Qwen3.8-Max Licenseの商用利用条件
2.4T-A95Bの重みは、Apache 2.0ではなく独自の「Qwen3.8-Max License」で配布されています。Qwen3.5の397B-A17BやQwen3.8-27BはApache 2.0なので、同じ「Qwen3.8」でもモデルによって条件が違います。LICENSE本文は、使用・改変・再配布・販売・ホスティング・ファインチューニングを無償で許諾したうえで、2つの条件を付けています。
月間1億ユーザーまたは月商2,000万ドル超はモデル名の表示義務
1つ目の条件は表示義務です。2.4T-A95B(またはその派生物)を、月間アクティブユーザーが1億人を超えるか、月間売上が2,000万ドル(他通貨で同等額)を超える商用製品・サービスに使う場合、モデル名をUIの目立つ位置に表示しなければなりません。著作権表示と許諾文をすべての複製に含める義務は、規模に関係なくかかります。
AIのAPI提供・作業支援の事業者はグループ売上5,000万ドル超で別ライセンス
2つ目の条件は、特定の事業者に別ライセンスを求めるものです。利用者またはその関連会社が「Model as a Service」か「AI Work Assistant」の事業を営み、グループの売上合計が連続12か月で5,000万ドルを超える場合、商用目的で使う前にQwenから別途ライセンスを得る必要があります。
Model as a Serviceは、第三者が入力・パラメータ・学習データを実質的に操作できる形でAPIなどの推論やファインチューニングを提供することを指します。他社がホストするモデルへの中継だけなら該当しません。AI Work Assistantは、コーディングや事務作業の支援を主目的にした独立のAI製品で、例としてQoderとQwenWorkが挙がっています。翻訳ツールのような単機能ツールや、主目的が別の製品に付いたAI機能は含みません。
社内利用は、ソフトウェア・出力・モデルの能力を第三者に提供しない限り、この別ライセンスの対象外です。売上規模の大きい企業が社内向けの業務支援に使う分には条件に触れにくく、外部向けのAPI再販やコーディング支援SaaSに組み込む場合は事前の確認が必要、と整理できます。Qwen系の他モデルの条項はQwen3のモデル一覧と商用利用条件にまとめています。
Qwen3.8-MaxのAPI料金とリージョン別単価
APIはAlibaba Cloud Model Studioと、Qwen公式のQwen Cloudから使えます。以下の単価はModel Studioの料金表の値です。Model Studioの料金表(2026年10月15日更新)では、リージョンによって単価が違います。
シンガポール2ドル・6ドル、東京などGlobalは1.65ドル・4.951ドル
| モデルID | リージョン | 入力(100万トークン) | 出力(100万トークン) |
|---|---|---|---|
| qwen3.8-max | シンガポール | 2ドル | 6ドル |
| qwen3.8-max | 東京・フランクフルト等(Global) | 1.65ドル | 4.951ドル |
| qwen3.8-max | バージニア(US) | 2ドル | 6ドル |
| qwen3.8-max-prime | 北京(高速版) | 3.301ドル | 9.902ドル |
| qwen3.8-2.4t-a95b | シンガポール | 2ドル | 6ドル |
| qwen3.8-27b | シンガポール | 0.5ドル | 3ドル |
qwen3.8-maxは入力100万トークンまで単価が一定で、文脈が長くなると単価が上がる段階課金はありません。思考モードの推論トークンは出力として課金されます。固定版のモデルIDqwen3.8-max-0902も同じ単価で並んでいます。本番では、挙動を固定したいなら日付付きIDを、常に最新を使いたいならqwen3.8-maxを指定します。
日本の企業が使うなら、単価と保存先の両面で東京リージョンが第一候補です。ただし東京のqwen3.8-maxはデプロイ範囲が「Global」だけで、入出力の保存先は東京でも、推論そのものは国外のノードで実行されることがあります(推論を国内に限る「Japan」範囲の料金表にqwen3.8-maxは載っていません)。国内での処理が契約上の条件なら、この点を先に確認してください。新規利用時の100万トークンの無料枠(90日間有効)はシンガポールだけに付いているため、疎通確認をシンガポールで済ませてから東京で本番を組む進め方もできます。
暗黙キャッシュは入力の12.5%:東京0.206ドル・シンガポール0.25ドル
Model Studioのキャッシュは、自動で効く暗黙キャッシュと、自分で指定する明示キャッシュの2種類です。Context Cacheの説明では暗黙キャッシュのヒット分を「通常は入力単価の20%」としていますが、qwen3.8-maxはその例外に挙がっています。実際の単価はqwen3.8-maxのモデルページに載っています。
| 区分(100万トークン) | 東京(Global) | シンガポール |
|---|---|---|
| 通常の入力 | 1.65ドル | 2ドル |
| 暗黙キャッシュのヒット | 0.206ドル | 0.25ドル |
| 明示キャッシュの作成 | 2.063ドル | 2.5ドル |
| 明示キャッシュの読み取り | 0.137ドル | 0.17ドル |
暗黙キャッシュのヒット分は通常入力の12.5%、明示キャッシュの読み取りは東京で約8.3%、シンガポールで8.5%です。暗黙キャッシュは共通の前置き部分が1,024トークン以上あるときに効く可能性があり、ヒットは保証されません。効かせるには、システム指示・社内規程・製品マニュアルなど変わらない部分を先頭に固定し、ユーザーの質問やツールの結果を末尾に付けます。プロンプトの先頭に現在時刻やリクエストIDを差し込む実装は、それだけで毎回キャッシュが外れます。
同じページによると、APIの上限は入力991,808トークン(思考モードでは983,616トークン)、出力131,072トークン、思考の長さ262,144トークンです。バッチ推論の割引単価は北京リージョンにだけあり、東京とシンガポールでは使えません。
月10万リクエストでの月額試算
社内文書の検索アシスタントを想定し、月10万リクエスト・平均入力8,000トークン・平均出力1,500トークンで試算します。出力1,500トークンは、後述のコード例のように非思考モードにするか、reasoning_effortをlowにした場合の想定です。既定のxhighで思考させると推論トークンが出力として加算され、出力側はこの前提を大きく超えます。入力の半分が暗黙キャッシュに当たる場合も並べます。
| 条件 | シンガポール | 東京(Global) |
|---|---|---|
| 入力8億トークン | 1,600ドル | 1,320ドル |
| 出力1.5億トークン | 900ドル | 742.65ドル |
| 月額(キャッシュなし) | 2,500ドル | 2,062.65ドル |
| 月額(入力の半分がヒット) | 1,800ドル | 1,485.05ドル |
1ドル150円で換算すると、キャッシュなしでシンガポール月約37.5万円・東京月約30.9万円、半分ヒットなら東京で月約22.3万円です。リージョンの選択とプロンプトの並べ方だけで、月額は4割変わります。稟議に出すときは平均入力・平均出力・キャッシュヒット率の3つを前提として明記し、ヒット率は保守的に置いてください。思考の深さをreasoning_effortで下げると出力側が減るので、分類のような単純作業はlowで測り直す価値があります。料金設計が段階課金のQwen3.6-Plusとの違いはQwen3.6-Plusの1Mコンテキストと階梯課金で比べられます。
OpenAI互換APIで東京リージョンから呼ぶ設定
APIはOpenAI互換です。東京リージョンのエンドポイントはhttps://{WorkspaceId}.ap-northeast-1.maas.aliyuncs.com/compatible-mode/v1で、{WorkspaceId}は自分のワークスペースIDに置き換えます。思考モードの切り替えはOpenAIの標準パラメータではないため、Python SDKではextra_bodyに入れます(OpenAI互換APIの説明)。
import os
from openai import OpenAI
client = OpenAI(
api_key=os.environ["DASHSCOPE_API_KEY"],
base_url="https://" + os.environ["WORKSPACE_ID"] + ".ap-northeast-1.maas.aliyuncs.com/compatible-mode/v1",
)
resp = client.chat.completions.create(
model="qwen3.8-max",
messages=[
{"role": "system", "content": "社内規程に沿って回答する。"},
{"role": "user", "content": "経費精算の締め日を教えて"},
],
extra_body={"enable_thinking": False}, # API版は非思考モードを選べる
)
print(resp.choices[0].message.content)
print(resp.usage)
enable_thinkingをFalseにできるのはAPI版だけです。自前でホストした2.4T-A95Bでは思考を無効にできません。モデルIDをqwen3.8-maxと直書きせず設定ファイルへ出しておくと、日付付きIDへの切り替えや、同じ世代のQwen3.8-Omni-Flashへの振り分けがコードを触らずにできます。
Qwen3.8-27Bを24GB級GPUで動かす条件
自前のGPUで動かすなら、現実的な候補は27Bです。Qwen3.8-27BはApache 2.0の密モデルで、画像と動画の入力に対応し、思考モードもリクエストごとに無効にできます。2.4T-A95Bが持たない機能を、27Bのほうは持っています。
Ollamaは18GB、Unsloth GGUFのQ4_K_XLは17.56GB
Ollamaのライブラリにはqwen3.8として27Bのタグが並び、既定のqwen3.8:27bは18GB・256K文脈・テキストと画像入力です(2026年10月16日時点)。2.4T-A95Bのタグはありません。
ollama run qwen3.8:27b
APIで使う場合は、Qwen Cloudにqwen3.8-27bが2026年8月19日から並び、シンガポールで入力0.5ドル・出力3ドルです。手元で動かす場合、UnslothのGGUFでは4bitのUD-Q4_K_XLが17.56GB、UD-Q4_K_Mが16.46GB、8bitのQ8_0が29.05GBです。ガイドは4bit版の目安を16〜19GBのVRAM、または24GBのRAMを積んだMacとしています。
262K文脈を取るとKVだけで17.2GB:24GBでは数万トークンに絞る
前出のスクリプトを27Bの設定ファイルに当てると、通常の注意を使う16層ぶんでKVは1トークンあたり65,536バイトです。262Kトークンを1本処理するとBF16のKVだけで17.2GBになり、4bitの重み17.56GBと合わせると24GBのGPUには収まりません。
24GBのGPUで画像入力用のファイル(mmproj、約0.93GB)まで載せると、KVに回せるのは概算で数GBです。文脈は数万トークンまでに絞るか、KVを8bitにして倍に延ばすのが現実的な設定になります。262Kをそのまま使いたいなら、48GB級のGPUか、ユニファイドメモリの大きいMacを選んでください。
27BとMaxの性能差:SWE-bench Proは61.7対67.7
両モデルのカードに共通して載っているベンチマークから抜き出すと、差が大きいのはリポジトリ単位のコーディング(DeepSWE・NL2Repo-Bench)、職務タスク(JobBench)と難問の推論(HLE)です。指示追従(IFBench)や社内のコーディング評価(QwenSWEBench 79.0対80.7)の差は小さく収まっています。表の※のTerminal Bench 2.1は、27BをTerminus、MaxをClaude Codeのハーネスで測っており、条件が揃っていません。
| ベンチマーク | Qwen3.8-27B | Qwen3.8-Max |
|---|---|---|
| Terminal Bench 2.1(※) | 73.0 | 86.6 |
| SWE-bench Pro | 61.7 | 67.7 |
| DeepSWE 1.1 | 42.2 | 56.6 |
| NL2Repo-Bench | 42.3 | 55.9 |
| QwenSWEBench | 79.0 | 80.7 |
| JobBench | 33.4 | 53.4 |
| CoWorkBench | 70.7 | 74.8 |
| IFBench | 79.5 | 82.8 |
| HLE | 30.8 | 43.6 |
社内文書の要約・抽出や定型の問い合わせ対応なら、27Bで足りる可能性が高い領域です。ターミナル操作を伴うコーディングエージェントや、専門的な難問を解かせる用途ではMaxとの差がはっきり出ます。どちらも同じ評価セットを自社データで作って比べてから決めてください。
Qwen3.8-Maxを選ぶ業務と見送る業務
公表ベンチマークを見ると、Qwen3.8-Maxは指示追従(IFBench)と論文の再現実装(PaperBench)で首位ですが、既存リポジトリのコード修正(SWE-bench Pro・DeepSWE)では首位に届かず、長文の読解(MRCR v2・LongBench v2)でも首位ではありません。
IFBenchとPaperBenchは首位、SWE-bench ProはFable 5の80.0に12.3ポイント差
| ベンチマーク | Qwen3.8-Max | Opus 4.8 | Fable 5 | GPT 5.6 Sol (max) |
|---|---|---|---|---|
| PaperBench | 93.0 | 80.3 | 88.8 | 90.5 |
| IFBench | 82.8 | 62.2 | 63.5 | 72.7 |
| MRCR v2 256K | 92.9 | 83.2 | - | 93.8 |
| Terminal Bench 2.1 | 86.6 | 84.6 | 84.6 | 88.8 |
| SWE-bench Pro | 67.7 | 69.2 | 80.0 | 64.6 |
| DeepSWE 1.1 | 56.6 | 59.0 | 70.0 | 73.0 |
| HLE | 43.6 | 45.7 | 53.3 | 47.2 |
数値はすべてQwenチームがモデルカードで公表したもので、評価のハーネスも自社で選んでいます。たとえばTerminal Bench 2.1は、Qwen3.8-MaxをClaude Codeで測った値と、他社モデルについて公開済みの最高値(Artificial AnalysisのTerminus 2やOpenAIのCodexでの値)を並べたもので、条件は揃っていません。Fable 5の結果にはフォールバックが含まれ得るとの注記もあります。第三者による再現結果ではありません。
切り替える価値が出る業務:数十万トークンの一括読解・書式制約・図表入りPDF
移行の価値が出るのは、数十万トークン規模の文書を1リクエストで読ませる業務、細かい書式や制約を守らせる業務、図表入りのPDFや画像を処理対象に含む業務です。200ページ級の技術仕様書や財務資料から論点を抽出する作業のように、人手の読解に数時間かかっている業務なら、月30万円前後のAPI費用でも回収の説明が立ちます。どの業務から当てるかを業務プロセスごと整理したい場合は、生成AI導入支援で設計段階から相談できます。
見送るべき場面:自律コーディングの中核と月10万円以下の予算
コーディングエージェントの中核に据える用途は見送ります。SWE-bench Proで67.7、DeepSWEで56.6と、首位から10ポイント以上離れているためです。月のモデル費用が10万円規模の社内ツールも対象外です。この規模なら27Bや下位モデルで組み、精度が足りない箇所だけMaxへ振り分ける2段構成のほうが費用対効果は高くなります。
既存の本番系をそのまま差し替えるのも避けてください。プレビューのモデルIDが退役して正式版へ転送されたように、IDの中身は提供の途中で入れ替わります。新旧を2〜4週間並行稼働させ、実データで品質とトークン消費を比べてから切り替えます。同じ兆単位のオープンウェイトMoEとしてはKimi K3(総2.8兆パラメータ)も比較候補になります。
よくある質問
Qwen3.8に35Bや小型のモデルはありますか?
2026年10月16日時点で、Qwen公式がHugging Faceで公開しているQwen3.8系は、2.4T-A95B、27B、Flash-Next(とそれぞれのFP8版)です。35B-A3BはQwen3.6世代のモデルで、Qwen3.8には同じサイズはありません。24GB以下のGPUで動かせるQwen3.8は27Bの量子化版です。Flash-Nextは125B規模の別系統のモデルで、仕組みはQwen3-Next-80B-A3Bの記事で扱っています。
RTX 3060(12GB)や24GBのGPUでQwen3.8は動きますか?
24GBなら27Bの4bit版(16〜18GB)が載ります。ただし文脈を長く取るとKVキャッシュで溢れるため、数万トークンまでに絞ってください。12GBのGPUでは27Bの4bit版も載りきらず、2〜3bit版(UD-Q2_K_XLの9.83GBやUD-IQ3_XXSの10.93GB)にするか、CPUメモリへ一部を逃がす設定になり、速度と精度が落ちます。文脈を伸ばす余地もほとんど残りません。2.4T-A95Bは1bit版でも397GBあり、家庭用GPUでは動きません。
Qwen3.8-Maxは無料で試せますか?
Model Studioのシンガポールリージョンには、qwen3.8-maxに100万トークンの無料枠があります。有効期間はModel Studioの有効化日・モデルの公開日・申請の承認日のうち遅い日から90日間で、ほかのリージョンには無料枠がありません。2.4T-A95Bのモデルカードは、ブラウザで試せるQwen Studio(chat.qwen.ai)へのリンクも載せています。業務データを入れる検証は、利用規約とデータの保存先を確認してから行ってください。
Qwen3.8の重みはModelScopeやOllamaから入手できますか?
2.4T-A95Bと27Bの重みは、Hugging FaceとModelScopeの両方で公式に配布されています。Ollamaのライブラリにあるのは27Bのタグだけで、ollama run qwen3.8:27bで18GBの量子化版が取得されます。2.4T-A95BはOllamaには無く、vLLM・SGLang・TokenSpeedのような推論サーバーか、llama.cppとUnslothのGGUFで動かします。
日本語の業務文書でも精度は出ますか?
Qwen3.8はQwen3.5のアーキテクチャを土台にしており、語彙(248,320トークン)も同じです。201の言語・方言への対応をうたっていたのはQwen3.5で、Qwen3.8のモデルカードは対応言語数を明記していません。日本語に限った公式ベンチマークも公表されておらず、PaperBenchなどの数値は英語中心の評価です。業界の用語を含む自社資料での精度は、実データで50件ほどの評価セットを作り、27BとMaxの両方で測ってから判断してください。