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ERPの歴史|MRPからSAP R/3、会計制度改革、クラウドERPまでの50年

ERPの歴史|MRPからSAP R/3、会計制度改革、クラウドERPまでの50年

ERPの歴史を扱う記事は多いものの、年代が「1970年代ごろ」「90年代半ば」とぼかされていて、どの年に何が起きたのかがつかみにくい。ここではSAPの社史、金融庁に残る当時の意見書、日本産業規格の定義に当たり、年が確認できた事実だけで流れを組み直した。用語の由来をたどるだけでなく、基幹システムをいつ何に合わせて入れ替えるかという判断の材料まで持ち帰れる構成にしている。

まとめ:ERP50年の流れと現在地

  • 源流は製造業の資材所要量計画(MRP)。JIS Z 8141:2022はMRPを「生産管理体系」、ERPシステムを「総合情報システム」と定義しており、計画の体系とソフトウェアによる情報システムを分けて読む必要がある。
  • パッケージとしての原型を作ったのはSAP。1972年4月1日に元IBM社員5人がドイツで設立し、1973年に財務会計システムRFが完成、1981年にR/2、1992年にR/3が市場へ出た。
  • 日本では1992年10月にSAPジャパンが設立された。その後、1998年から2001年にかけて会計基準の適用が集中し、会計システムの対応要件も変化した。2008年の内部統制報告制度、2010年のIFRS任意適用が要件をさらに広げた。
  • 標準機能と日本の実務のずれを埋めたのが国産ERPで、OBIC7は1997年発売、GRANDITは2004年提供開始。クラウド側は1998年設立のNetSuiteが先行した。
  • いま歴史が効いてくるのは保守期限の判断。SAP Business Suite 7のメインストリーム保守は2027年末に終わり、任意の延長保守は2030年末まで。2031年から2033年は期間限定の移行オプションが条件付きで用意されている。

ERPの源流|MRPが広げた計画対象と規格上の位置づけ

ERPは会計システムが大きくなったものではなく、製造業の資材計画が対象を広げていった系譜にある。この関係は日本産業規格で確認できる。JIS Z 8141:2022「生産管理用語」は、MRPとERPシステムを同じ節に連番で並べて定義している。

用語番号2101のMRP(資材所要量計画)は「資材の必要量(所要量)及び必要時期を求める生産管理体系」と定義される。2108のMRPIIは「総合的生産管理の概念及び技法」であり、注釈1に「従来のMRPと区別するため,広義のMRPと呼ぶこともある。」と書かれている。この注釈に従えば、MRPIIはMRPを置き換える後継というより、対象資源を要員や設備まで広げた広義の呼び方として読める。

これに対し2114のERPシステムは「統合業務パッケージを利用して,相互に関係付けながら実行を支援する総合情報システム」と定義される。MRPとMRPIIが計画の体系や技法として定義されているのに対し、ERPシステムはパッケージとデータベースで構成される情報システムとして定義されている。「MRPの範囲が広がったものがERP」という説明が広く流通しているが、規格の定義を読む限り、両者は別の観点から立てられた用語である。定義の細部と所要量計算の中身はERPとMRPの違いとは?JIS Z 8141の定義と所要量計算でみる役割分担で扱っている。

CIM構想が残した統合の系譜

同じ規格の2308はCIM(コンピュータ統合生産システム)を定義し、注釈1で「1980年代後半に提案された製造業アプリケーションのコンセプト」と年代を明記している。さらに注釈2は、現在でも統合の課題として連結すべきものに「ERP(MRPII,経理・財務報告システムなど)」を挙げる。規格自身がERPの内側にMRPIIを置いているわけで、1980年代後半の統合構想とERPが地続きであることが、二次資料に頼らず確認できる数少ない記述になっている。

SAP創業からR/3へ|業務パッケージの成立過程

ERPの歴史でSAPが必ず出てくるのは、業務ソフトを受託開発ではなくパッケージとして売る形を早くから作ったためだ。同社の社史には設立日と設立者が実名で残っている。

1972年の創業と1973年に完成したRF

SAPの社史は「On April 1, 1972, five former IBM employees - Dietmar Hopp, Hasso Plattner, Claus Wellenreuther, Klaus Tschira, and Hans-Werner Hector - started the company SystemAnalyse Programmentwicklung.」と記す。1972年4月1日、元IBM社員5人が設立し、社名はSystemAnalyse Programmentwicklungだった。本社はドイツのWeinheimに置かれ、近隣のMannheimにも事務所が開かれている。

ドイツ語版の社史(1972-1980)には、最初の財務会計システムRFが完成したと記され、RのつづりがReal-time(実時間処理)を指すことも同じページに書かれている。伝票を締めてから一括処理するのではなく、入力した時点で残高に反映する設計が当時の新しさだった。

ここで注意したいのが、日本語の解説によくある「1973年に世界初のERPが発売された」という書き方である。SAPの社史で確認できるのは財務会計システムRFの完成までで、これを製品名SAP R/1として市場に出した年の記載は見つけられなかった。年号を1年単位で扱うなら、RFの完成と製品としてのR/1は分けて書くほうが正確になる。SAPの社史は年代ごとにページが分かれており、原文で確かめられる。

R/2とR/3の提供開始年と稼働基盤

社史によれば、R/2は1981年に「SAP R/2 launches and quickly achieves the same high levels of stability as its predecessor.」として登場した。メインフレーム上で動く世代である。次のR/3については「Following successful installations at selected pilot customers, SAP releases SAP R/3 to the market and enters a new era of growth.」とあり、市場投入は1992年だった。パイロット顧客での導入を経てから一般提供へ移した経緯も同じ文から読み取れる。

年 できごと 確認した一次資料
1972 SAP設立(元IBM社員5人) SAP社史
1973 財務会計システムRF完成 SAP社史(独語版)
1981 SAP R/2 提供開始 SAP社史
1992 SAP R/3 市場投入 SAP社史
1992 SAPジャパン設立(10月) SAPジャパン会社概要
1997 OBIC7 発売 オービック統合報告書
1998 NetSuite 設立 NetSuite資料
2004 GRANDIT 提供開始 GRANDIT社リリース
2027 SAP Business Suite 7 メインストリーム保守終了 SAP News

日本上陸と会計制度改革|ERP導入を押し上げた適用年度

日本でERPの引き合いが増えた時期は、会計制度の改革と重なる。ベンダーの解説はこれを「会計ビッグバン」と一語でまとめるが、実際には基準ごとに適用年度が違い、システム側の対応期限も別々だった。金融庁に残る企業会計審議会の意見書で、その年度を一つずつ確認できる。

SAPジャパン設立と外資ベンダーの参入

SAPジャパンの会社概要には「設立:1992 年 10 月」とある。R/3が世界市場へ投入された年と同じだが、日本法人の設立年だけでは、国内でどの製品がいつから提供されたか、日本企業のERP導入がどれだけ進んだかまでは判断できない。年表としては、設立年月と制度改正の時系列を分けて読むほうが安全である。

1998年から2001年に集中した基準の適用

転機は連結決算の扱いが変わったことだった。企業会計審議会「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」は「平成10年4月以後開始する事業年度から一部実施し、平成11年4月以後開始する事業年度から、本格的に実施されるよう措置する。」と定めている。続く「税効果会計に係る会計基準の設定に関する意見書」は「平成11年4月1日以後開始する事業年度から実施されるよう措置することが適当である。」、「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書」は「本基準は、平成12年4月1日以後開始する事業年度から実施する。」、「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書」は「平成12年4月1日以後開始する事業年度から適用する。」と並ぶ。

ただし、どちらの基準にも経過措置が付いている。退職給付会計では、数理計算の整備が間に合わない会社は平成12年度は注記にとどめ、「平成13年4月1日以後開始する事業年度から会計処理を行うこととする。」とされた。金融商品会計では、その他有価証券の時価評価だけが「平成13年4月1日以後開始する事業年度から適用する」と1年遅れで、なおかつ「平成12年4月1日以後開始する事業年度から同時に適用することも妨げない」と早期適用を認めている。適用開始年を1本の年表に落とすときは、この幅を潰さないほうがよい。

4つの基準が3年のあいだに重なった結果、決算に必要なデータの範囲と締切が同時に動いた。部門ごとに分かれた会計システムを個別に改修していく方法では、改修の完了時期を基準ごとに合わせ続ける必要が生じる。この日程の重なりは、当時の会計システムに求められた制度対応を整理する手がかりになる。ERP側の会計機能がどこまでを担うのかはERPの会計機能とは?財務会計・管理会計と部門別採算の作り方で整理している。

内部統制報告制度とIFRS任意適用が広げた要件

2000年代に入ると、求められるものが決算数値の作成から作成過程の証明へ広がる。内部統制報告制度は金融庁の資料に「平成20年4月1日以後開始する事業年度から上場会社を対象に適用されている内部統制報告制度」と記されており、根拠となる金融商品取引法24条の4の4第1項は、内部統制報告書を「有価証券報告書と併せて内閣総理大臣に提出しなければならない。」と定める。制度対応では、財務報告に係る内部統制の整備・運用と評価の記録が必要になる。入力・承認履歴はその対応例だが、記録の範囲や方法が一律に定められたわけではない。

国際会計基準の側は金融庁の案内に「平成22年3月31日以後終了する連結会計年度から、任意に国際会計基準(IFRS)を適用することが可能となっています。」とあり、法令上の措置は2009年12月の連結財務諸表規則等の改正で行われた。この改正により、一定の要件を満たす企業は、日本の法定連結開示にIFRSを選択できるようになった。

制度 適用開始 対象
連結財務諸表制度の見直し 1998年4月(一部)/1999年4月(本格) 連結財務諸表
税効果会計 1999年4月1日以後開始事業年度 財務諸表・連結財務諸表
退職給付会計 2000年4月1日以後開始事業年度(経過措置あり) 退職給付
金融商品会計 2000年4月1日以後開始事業年度 金融商品
その他有価証券の時価評価 2001年4月1日以後開始事業年度(早期適用可) 有価証券
内部統制報告制度 2008年4月1日以後開始事業年度 上場会社
IFRS任意適用 2010年3月31日以後終了の連結会計年度 一定の上場企業

出典は、連結財務諸表制度の見直しから金融商品会計までが企業会計審議会の各意見書(金融庁ウェブサイトに掲載)、内部統制報告制度とIFRS任意適用が金融庁の公表資料である。いずれも年度の表記は元号のため、西暦へ読み替えている。

制度対応に際しては、システム改修に加え、決算データの収集や承認などの業務手順も見直しの対象になる。業務改革の側から見た整理はERPとBPRの違いとは?業務プロセス改革と基幹システム統合、その目的とアプローチの違いを詳しく解説にまとめている。

国産ERPとクラウドERPの広がり|1997年以降の日本市場

外資パッケージが入っても、標準機能と日本の実務のずれは残った。手形や締め日の扱い、稟議による承認の流れがどこまで標準で賄えるかは、製品と時期によって差があり、外資ERPの標準機能の外側にあると一律には言えない。それでも、日本市場向けの作り込みを前提にした製品への需要は残り、国内ベンダーの製品が出てくる。

OBIC7とGRANDITの提供開始年

オービックの統合報告書は「『OBIC7』は1997年の発売開始以来」と記し、GRANDITのリリースには「『GRANDIT』は2004年に提供を開始し」とある。外資ERPの日本法人設立から5年、12年というずれで国産製品が登場した形になる。なお、ワークスアプリケーションズの公式沿革は1996年9月にHRシリーズをリリースしたと記すが、その製品が当時からCOMPANYの名称だったかは公式資料で確認できなかったため、提供開始年としては扱わない。ベンダー別のシェアと市場規模の推移はERP市場規模とシェアの最新データ|国内2,558億円・ベンダー別順位の読み方で数値を追っている。

NetSuiteの創業とクラウドによる提供形態

提供形態の転換は米国側が先行した。NetSuiteは自社資料に「First Cloud ERP - founded in 1998」と記載しており、設立は1998年である。米国証券取引委員会に残る企業情報には旧社名としてNETLEDGER INCが記録されている。ただし、ヘッダーの日付だけではNetSuiteへの改称日を特定できない。創業時点の名称と現在の製品名が違う点は、年表を作るときに取り違えやすい。

自社でサーバを持たずに使える形が広がったことで、専任の情報システム部門を置きにくい規模の企業にも導入の選択肢が生まれた。オンプレミスとの費用構造や運用の違いはクラウド型ERPとは何か?企業導入のポイントからメリット・デメリットまで徹底解説で比較している。

SAPの保守期限と刷新時期の判断条件

ここまでの年表が実務で効いてくるのは、次の更新時期を決める場面だ。SAPは2020年2月の発表で、SAP Business Suite 7の中核アプリケーションのメインストリーム保守を2027年末まで延長し、その後は2028年初から2030年末まで任意の延長保守を用意すると表明した。移行先となるS/4HANAについては「SAP recently announced a maintenance availability commitment for SAP S/4HANA until the end of 2040.」と2040年末までの保守提供を示している。

ただし2030年末が最後の線引きというわけではない。SAPは2025年8月の発表で、SAP ERP, private editionの利用者向けに「a time-bound subscription offering designed to provide business continuity from 2031 to 2033」と説明する移行オプションを用意した。2031年から2033年までの期間限定で継続利用を認めるもので、2025年末までにSAP ERP, private editionを契約した企業は2031年に同等条件で移行できる優遇も示されている。つまり、期限の先を考える余地は残っているが、それは先に別の契約形態へ移っていることが条件になる。

判断としてはこう整理できる。現行構成を据え置く選択が成り立つのは、2030年末までに移行を終える計画と予算があるか、上記の期間限定オプションの条件を満たしている場合に限られる。どちらにも当てはまらないまま「まだ動いているから」と据え置くなら、それは延命ではなく移行判断の先送りである。長年の作り込みを資産とみなして温存するほど、移行時に検証しなければならない範囲は広がる。

判断の具体的な材料は個別記事に譲る。期限そのものの読み方はSAPの2027年問題とは?ERP保守終了の影響とS/4HANA移行・延命の判断を解説、移行方式の選び分けはSAP S/4HANAとは?ECCとの違い・導入形態・移行方式と2027年問題への備えを解説、統合パッケージ1本に寄せない構成の考え方はポストモダンERPとは?従来型ERPとの違い・メリット・注目される背景を詳しく解説で扱っている。

よくある質問

ERPの歴史はいつから始まったのですか?

起点をどこに置くかで答えが変わります。考え方の源流なら、製造業の資材所要量計画(MRP)までさかのぼります。JIS Z 8141:2022はMRPを「資材の必要量(所要量)及び必要時期を求める生産管理体系」と定義しており、要員や設備まで対象を広げた呼び方がMRPIIです。SAP製品の歴史では、1972年4月1日の創業に続く、1973年の財務会計システムRFの完成が初期の節目になります。

世界初のERPと呼ばれているのは何ですか?

ここで参照した一次資料だけでは「世界初のERP」は特定できません。SAPが1973年に完成させたRFは、後にSAP R/1と呼ばれるシステムの基礎となった財務会計システムです。製品名R/1としての発売年をどこまで一次資料で追えるかは、本文のSAPの章で説明しています。

SAPはいつ、誰が設立した会社ですか?

1972年4月1日に、Dietmar Hopp、Hasso Plattner、Claus Wellenreuther、Klaus Tschira、Hans-Werner Hectorの元IBM社員5人が設立しました。当時の社名はSystemAnalyse Programmentwicklungで、本社はドイツのWeinheim、近隣のMannheimにも事務所が置かれています。日本法人であるSAPジャパンの設立は1992年10月です。

日本でERPが使われ始めたのはいつからですか?

外資ベンダーの参入は1992年10月のSAPジャパン設立が目安ですが、導入が広がったのはその後です。1998年4月以後開始事業年度からの連結財務諸表制度の見直しを皮切りに、税効果会計が1999年4月、退職給付会計と金融商品会計が2000年4月と適用が続き、決算に必要なデータの範囲と締切が同時に動きました。国産ERPではOBIC7が1997年発売、GRANDITが2004年提供開始です。

ERPと基幹システムは何が違うのですか?

基幹システムは販売、会計、人事といった事業の根幹を支えるシステムの総称で、部門ごとに別々の製品で組んでいる状態も含みます。ERPシステムはJIS Z 8141:2022で「統合業務パッケージを利用して,相互に関係付けながら実行を支援する総合情報システム」と定義され、統合された形を指します。呼び分けと構成領域の整理は基幹システムとは?業務システム・ERPとの違いと構成領域・刷新の進め方を解説で扱っています。

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