Oracle Cloud Infrastructure(OCI)は、オラクルが提供するIaaS/PaaSの総称です。「Oracle Databaseを動かすためのクラウド」という理解で止まりがちですが、2026年8月時点では中身がかなり変わっています。Autonomous Databaseは「Autonomous AI Database」へ改称され、Always Freeの無料枠は縮小し、OCIのデータベースサービスはAWSの東京・大阪リージョン内でも動きます。この記事では、公式ドキュメントとオラクルの価格APIから取得した実数だけを使って、OCIの構成・料金・選定基準を整理します。他社との単価比較でつまずきやすいOCPUの換算と、日本発の通信料金についても実額で示します。
まとめ
先に結論を5点だけ挙げます。
- OCIはOracle Cloudの土台側です。Oracle Cloudという傘の下に、インフラ/プラットフォーム層のOCIと、Fusion等のアプリケーション層(SaaS)が並びます。
- 他社と単価を比べるときはOCPUをvCPUに換算します。換算比は系列ごとに違い、x86とArm A2・A4は1 OCPU=2 vCPU、Arm A1だけ1 OCPU=1 vCPUです。
- 通信料は「10TB/月まで無料」が効きます。ただし超過後の単価は発信地域で3段階に分かれ、日本発は北米・欧州発の約2.9倍です。
- Always Free枠の記述は2025年から縮小しています。Ampere A1は公式ドキュメント上で4 OCPU・24GB相当から2 OCPU・12GB相当へ変わりました。ただし価格APIは旧枠を返し続けており、一次情報が食い違っています。
- 「OCIかAWSか」という二択は崩れています。Oracle AI Database@AWSがGAし、東京・大阪リージョンでも利用できます。
OCIの位置づけとクラウドインフラストラクチャとしての中身
Oracle CloudとOCIの関係
Oracle Cloudは、オラクルのクラウド事業全体を指す名称です。そのうちコンピュート・ストレージ・ネットワーク・データベースといった基盤サービス群がOracle Cloud Infrastructure(OCI)にあたります。公式ドキュメントはOCIを「高可用なホスト環境でアプリケーションを構築・実行できる補完的なクラウドサービス群」と定義し、物理ハードウェアインスタンスとしての高性能コンピュートとストレージ容量を、オンプレミスから安全に接続できる柔軟なオーバーレイ仮想ネットワーク上で提供するものだと説明しています。ERPやHCMといった業務アプリケーションはOracle Fusion Cloud ApplicationsというSaaS製品群として別に提供されており、OCIとは製品ページも階層も分かれています。
オラクルは公開リージョン全体で200を超えるクラウドサービスを一貫した構成で提供していると説明しており、OCIがデータベース専用クラウドではなく汎用のIaaS/PaaSであることの裏付けになります。IaaSという区分そのものの整理はIaaSとは?PaaS・SaaSとの違いと責任共有モデル・自動スケールから採用判断まで解説で扱っています。
「クラウドインフラストラクチャ」一般との違い
クラウドインフラストラクチャは、本来は特定製品名ではなく、サーバー・ストレージ・ネットワーク・仮想化といったITインフラの構成要素を事業者がサービスとして提供する形態を指す一般語です。構成要素そのものの整理はインフラストラクチャとは?ITインフラの構成要素とオンプレミス・クラウドの違いを実装目線で解説、サービスモデルとしての定義はクラウドコンピューティングとは?仕組み・NISTの5つの特徴からサービス/実装モデルと採用判断まで解説で整理しています。
つまりOCIはクラウドインフラストラクチャの一実装で、AWS・Azure・Google Cloudと同じ土俵に立ちます。規模の観点での位置づけはハイパースケーラーとは?AWS・Azure・Google Cloudの定義と技術的特徴・採用判断まで実装者向けに解説が参考になります。料金比較のときは、OCI固有の課金単位と、クラウド一般の責任分担を分けて読む必要があります。
OCIのサービス構成と提供カテゴリ
OCIのサービスは機能カテゴリ単位で整理されています。中核となるものを挙げます。
| カテゴリ | 代表サービス | 課金の単位 |
|---|---|---|
| コンピュート | Standard E5/E6(AMD)、Standard A1/A2/A4(Arm)、ベアメタル | OCPU時間+メモリGB時間 |
| ストレージ | ブロックボリューム、オブジェクトストレージ、アーカイブストレージ | GB/月 |
| ネットワーク | VCN、フレキシブルロードバランサ、FastConnect、サイト間VPN | 帯域・送出GB |
| データベース | Autonomous AI Database、Base Database、Exadata、MySQL HeatWave | OCPU/ECPU時間+ストレージ |
| セキュリティ | Vault、Cloud Guard、WAF、Bastion、Zero Trust Packet Routing | 鍵バージョン・ノード時間等 |
| 監視・運用 | Monitoring、Logging、APM、Resource Manager(Terraform) | データポイント・イベント数 |
注目すべきはコンピュートの課金単位です。OCIはvCPUではなくOCPUで課金し、メモリを別軸で加算します。仮想マシンのシェイプを「4 vCPU/16GB」ではなく「2 OCPU/16GB」と数えるため、他社の料金表と並べる際は必ず換算が必要になります。サイト間VPNはポート時間の課金がなく、通信料だけが発生する点も、拠点接続を設計するときに効いてきます。
第2世代アーキテクチャの実体とSLAで保証される範囲
SmartNICでネットワーク仮想化をホストから切り離す設計
OCIが「第2世代クラウド」と称する根拠は、ネットワーク仮想化の置き場所です。オラクルはこれをIsolated Network Virtualizationと呼び、独自設計のSmartNICでネットワークを隔離・仮想化すると説明しています。公式の記述では、SmartNICはハードウェアとソフトウェアの両面でホストから隔離されており、侵害されたインスタンスがネットワークを侵害することを防ぎます。ホストのネットワーク機能に対する制御をホストの外側に置くことで、ネットワークを横断する攻撃を抑止する、という構成です。
可用性の側も同じ思想で組まれています。OCIの全リージョンには少なくとも3つのフォールトドメインがあり、インスタンスを同一の物理ハードウェアに載せない配置(アンチアフィニティ)が取れます。ソフトウェア展開もフォールトドメインをまたいで時間差で行われます。
可用性・管理性・性能の3種のSLAと、返金が自動ではないこと
OCIのSLAは可用性・管理性・性能の3種類に分かれています。3つを揃えて提供する最初の事業者だという説明はオラクルの自社公表であり、他社との先後関係を第三者が検証したものではありません。管理性はリソースを管理・監視・変更できる状態を、性能はIaaSリソースが期待どおりの性能を出すことを対象にします。適用対象は50を超えるPaaS/IaaSサービスで、水準はサービスごとに異なります。公式が例示しているのはOracle NoSQL Database Cloud Serviceの可用性99.995%です。
ここで実務上重要なのは、SLA違反時の扱いです。オラクルが提供する救済手段はサービスクレジットのみで、顧客がアカウントマネージャーに連絡し、違反の裏付けとなる証拠を提出して申請する必要があります。監視ログを自分側に残していなければ申請自体が難しくなるため、SLAを前提に設計するなら計測と保存を先に用意してください。あわせて公開されているSLO(サービスレベル目標)は、未達でも金銭補償の対象外である点も押さえておきます。SLAの数字を「落ちたら自動的に返ってくる保険」と読むのは誤りです。
料金の実額とOCPU換算・日本発エグレスの単価
OCPUとvCPUの換算比がシェイプ系列ごとに違う点
公式のシェイプ解説は、x86を含むほとんどのCPUアーキテクチャが物理コアあたり2スレッドを実行するため、x86ベースのコンピュートでは1 OCPUが2 vCPUに等しいと明記しています。プロビジョニングの最小単位は、x86(IntelおよびAMD)とOCI Ampereのいずれも1 OCPUです。
ここで見落としやすいのは、換算比が系列ごとに違うことです。同じドキュメントはプロビジョニング単位を3行で示しており、Arm A1だけ1 OCPUが1 vCPUに対応します。
- 1 OCPU on Arm A1 = A1の1コア、すなわち1 vCPU
- 1 OCPU on Arm A2およびA4 = 2コア、すなわち2 vCPU
- 1 OCPU on x86(AMDおよびIntel)= 2 vCPU
この比を入れて、オラクルの価格API(2026年8月6日更新時点)の単価をvCPU換算まで揃えたものが次の表です。オラクルはリージョンによらず一貫した価格を掲げているため、東京・大阪でも同額が適用されます。構成はいずれも4 vCPU・メモリ16GBを730時間動かした場合で統一しています。
| シェイプ系列 | OCPU単価 | vCPU換算単価 | メモリ単価 | 4 vCPU/16GBの構成 | 月額 |
|---|---|---|---|---|---|
| Standard E5/E6(AMD・x86) | $0.03/OCPU時 | $0.0150/vCPU時 | $0.002/GB時 | 2 OCPU | $67.16 |
| Standard A4(Arm) | $0.0138/OCPU時 | $0.0069/vCPU時 | $0.0027/GB時 | 2 OCPU | $51.68 |
| Standard A2(Arm) | $0.014/OCPU時 | $0.0070/vCPU時 | $0.002/GB時 | 2 OCPU | $43.80 |
| Ampere A1(Arm) | $0.01/OCPU時 | $0.0100/vCPU時 | $0.0015/GB時 | 4 OCPU | 後述の無料枠次第 |
E5の「$0.03/OCPU時」を他社のvCPU単価と直接並べると、OCIが2倍高く見えます。4 vCPU相当が必要なら2 OCPUで足りるため、比較の際は必ずvCPU数を揃えてから総額で見てください。逆に、OCPU単価だけを見てArmを「x86の3分の1」と読むのも誤りです。A1は1 OCPUが1 vCPUなので、vCPU換算では$0.0150に対して$0.0100、つまり3分の2にとどまります。実際にvCPU単価が最も安いのはA2とA4で、x86の半分未満です。オラクル自身は競合比で3倍超のコンピュート価格性能を主張していますが、これは自社公表値であり、対象シェイプと比較条件によって変わります。
A1の月額だけを空欄にしたのは、無料枠の扱いについてオラクルの一次情報が食い違っているためです。価格APIはA1のOCPUを月3,000時間まで、メモリを月18,000GB時間まで単価$0のレンジとして返します。一方で公式ドキュメントのAlways Free枠は月1,500 OCPU時間・9,000GB時間です。4 vCPU・16GBを730時間動かすと2,920 OCPU時間・11,680GB時間となり、価格APIの解釈では$0.00、ドキュメントの解釈では$18.22になります。A1で見積もる場合は、この差が丸ごと乗ることを前提に、Cost Estimatorと実際の請求で確認してください。
10TB/月まで無料でも、超過後の日本発単価は北米発の約2.9倍
OCIのアウトバウンド通信は、価格表上は発信地域ごとに月10,240GB(10TB)までが無料単価のレンジとして設定されています。超過後の単価は3地域に分かれており、価格APIで取得した値は次のようになっています。
| 発信地域 | 10TB/月まで | 超過分 | partNumber |
|---|---|---|---|
| 北米・欧州・英国 | 無料 | $0.0085/GB | B88327 |
| APAC・日本・南米 | 無料 | $0.025/GB | B93455 |
| 中東・アフリカ | 無料 | $0.05/GB | B93456 |
「OCIはエグレスが安い」という説明は日本でも成立しますが、超過後の単価は北米・欧州発の約2.9倍です。動画配信や大容量ファイルの外部提供のように月10TBを超える設計では、この差がそのまま請求額に乗ります。なお無料レンジは3つのpartNumberにそれぞれ設定されているため、複数地域から送出したときにテナンシ合計で10TBなのか地域ごとに10TBなのかは価格表からは判別できません。複数リージョンから配信する構成では、この点をCost Estimatorと請求で確認してください。単価も改定されるので、設計時点の値は自分で引くのが確実です。
curl -s "https://apexapps.oracle.com/pls/apex/cetools/api/v1/products/?partNumber=B93455"
比較対象として、AWSの東京リージョンからインターネットへ送出する場合の単価を挙げます。AWSが公開する料金一覧(2026年7月20日発行分)では、全体無料枠100GB/月を超えた分について最初の10TBが$0.114/GB、次の40TBが$0.089/GB、次の100TBが$0.086/GB、150TB超が$0.084/GBです。段階単価は無料枠100GBを差し引いた後の量に適用されます。この単価とOCIの単価から、月間の送出量ごとの総額を計算すると次のとおりです。
| 月間送出量 | OCI(日本発) | AWS 東京リージョン | 差額 |
|---|---|---|---|
| 1TB | $0.00 | $105.34 | $105.34 |
| 5TB | $0.00 | $572.28 | $572.28 |
| 10TB | $0.00 | $1,155.96 | $1,155.96 |
| 20TB | $256.00 | $2,069.82 | $1,813.82 |
| 50TB | $1,024.00 | $4,803.90 | $3,779.90 |
通信量が多いシステムでは、コンピュートの単価差よりエグレスの差のほうが総額に効きます。自社がどちらの帯にいるかを先に測ってから、コスト理由でOCIを選ぶかどうかを判断してください。
Autonomous AI DatabaseとMySQL HeatWaveの現在の名称と使い分け
データベースはOCIの中心にあるサービス群ですが、名称が変わっています。2026年8月時点の公式ドキュメントは「Oracle Autonomous AI Database」と表記し、ワークロード種別をAutonomous AI Transaction Processing、Autonomous AI JSON Database、Oracle APEX Application Development、Autonomous AI Lakehouseの4つとしています。従来のデータウェアハウス向け構成はAutonomous AI Lakehouseに対応します。旧称のAutonomous DatabaseやAutonomous Data Warehouseで書かれた記事を読む場合は、この読み替えが必要です。トランザクション処理向けとデータウェアハウス向けの設計差そのものはAutonomous Transaction ProcessingとData Warehouseの違いで整理しています。
自律型データベースの位置づけは、プロビジョニング・バックアップ・パッチ適用・容量の伸縮をサービス側が実行する点にあります。専任のDBAを立てずに運用したい場合の候補になります。ただしAlways Free枠のAutonomous AI Databaseについては、リージョンによって対応バージョンが19cのみ、あるいは21cのみと分かれることが公式に明記されています。無料枠で特定バージョンの機能を検証するなら、ホームリージョンの対応状況を先に確認してください。エンジン側の機能追加の流れはOracle Database 23aiの新機能とAI強化機能を徹底解説:パフォーマンス最適化とセキュリティ向上に整理しています。
分析系のワークロードにはMySQL HeatWaveがあります。こちらは公式表記が「Oracle MySQL HeatWave」で、MySQL互換のまま分析クエリを高速化する構成です。既存のMySQLアプリケーションを持ち込むならHeatWave、Oracle Databaseの機能とライセンス資産を活かすならAutonomous AI Database、が実務的な出発点です。
OCIをどこで動かすか:リージョン・レルム・他クラウド内配置
商用41リージョンと日本の2拠点
リージョン数は数え方で変わります。オラクルは全体として28カ国・50超のパブリッククラウドリージョンを掲げていますが、これは後述する政府向けやソブリンを含む合計です。誰でも利用できる商用クラウドリージョンに限ると26カ国に41で、そのうち14カ国とEUが国内ディザスタリカバリ用に2つ以上のリージョンを持ちます。日本はJapan East(東京)とJapan Central(大阪)の2拠点なので、国内2リージョン構成でのDRが組めます。
レルムごとに分離された政府向け・ソブリンクラウド
OCIのリージョンは「レルム」という単位に分かれ、レルム間は物理インフラ・アカウント・データ・リソース・ネットワーク接続を一切共有しません。テナンシは単一のレルムに属し、そのレルムのリージョンにしかアクセスできません。商用レルムのほかに、EU域内で別法人が運営するEUソブリンクラウド(フランクフルトとマドリードの2リージョン)、米国政府向け(DoDのImpact Level 5、FedRAMP High JAB、機密情報向けのエアギャップ環境)、英国政府向け(ロンドンとニューポートの2リージョン)、オーストラリア政府向け(キャンベラ、IRAP PROTECTED認定)が用意されています。データ所在地や主権の要件が絡む案件では、この分離の粒度が選定理由になります。国内でのソブリンクラウドの考え方はソフトバンクCloud PF Type Aとは?ソブリンクラウドの特徴・料金・OCI比較で比較しています。
他クラウド内で動くOCIとオンプレミス連携
2026年時点で最も実務への影響が大きい変化は、OCIのデータベースサービスが他社クラウドの中で動くようになったことです。Oracle AI Database@AWSは2025年7月8日にGAが発表され、Live regionsにはAsia Pacific(Tokyo)とAsia Pacific(Osaka)が含まれます。公式が挙げているのは、Oracle AI Database@AWS上のExadataワークロードをAWS CloudFormation、AWS CloudTrail、Amazon CloudWatch、Amazon EventBridge、Amazon S3、Amazon VPC Latticeといったサービスと統合できる、という組み合わせです。あわせてAutonomous AI Database Serverless for AWSも提供されています。この経緯はOracle Database@AWSとは?AWSでOracle Exadata/Autonomous Databaseを利用できるマルチクラウドサービスに整理があります。
ここから導かれる判断は明確です。「Oracle Databaseを使い続けたいからクラウド全体をOCIに寄せる」という理由づけは、2026年時点では弱くなりました。アプリケーション基盤をAWSに置いたままデータベースだけをオラクル管理下に置く構成が正式に選べるためです。オンプレミスを残す構成でも、専用リージョンやCompute Cloud@Customerのように顧客データセンターへ配置する形態が用意されています。移行形態の選び方はハイブリッドクラウド移行とは?接続方式・ネットワーク設計・アプリ配置判断まで解説で扱っています。
Cloud Adoption Frameworkの6本柱と使いどころ
OCIへの移行を体系立てるための指針が、Cloud Adoption Framework(CAF)です。公式が示す柱は6つで、それぞれに3つの構成要素が定義されています。
| 柱 | 構成要素 |
|---|---|
| Business strategy | 目標/ビジネスケース/ビジネス価値 |
| People strategy | クラウドCoE/変更管理/トレーニングと準備 |
| Security | アーキテクチャ/デプロイ/保守 |
| Process design | ガバナンス/リスクとコンプライアンス/エンタープライズアーキテクチャ |
| Technology implementation | ランディングゾーン/移行/モダナイゼーション |
| Management and operations | 監視/最適化/インシデント管理 |
実装の入口はTechnology implementationのランディングゾーンです。オラクルは「エンタープライズスケール・ベースラインランディングゾーン」として、ワークロード移行前にテナンシを構成するための手順をドキュメント化しています。CAFは読み物としてではなく、この6分類を移行計画のレビュー観点として使うのが実用的です。とくにPeople strategyとProcess designは技術検証だけを先に進めると抜け落ちやすく、移行後の運用でつまずく箇所になります。
移行効果として公開されている数字も、このCAFのページに載っています。オラクルはマツダのOCI移行で70%のパフォーマンス改善があったとし、コンピュートの価格性能を競合比で3倍超と表示しています。いずれもオラクル自身の公表値で、対象ワークロードや比較条件は明示されていません。社内の稟議に使うなら、この2つは「ベンダーの主張」として扱い、自社ワークロードでの検証結果を別に用意してください。
Always Freeと無料トライアルで確かめられる範囲
OCIには、期限のないAlways Freeと、30日間・US$300クレジットの無料トライアルがあります。トライアル期間中はAlways Freeの対象サービスに加えて全OCIサービスを試せます。30日を過ぎても何もしなければ、Always Freeのサービスは使い続けられます。ただしUS$300のクレジットは提供国が限定される旨が公式に注記されているので、契約主体の国で使えるかは申込前に確認が必要です。
注意が必要なのは、公式ドキュメント上のAlways Free枠が縮小していることです。2026年8月時点のドキュメントでは、Ampere A1(VM.Standard.A1.Flex)の無料枠は月1,500 OCPU時間と9,000 GB時間で、Always Freeテナンシでは2 OCPU・12GBメモリ相当と明記されています。同じページの2025年5月30日時点のアーカイブでは3,000 OCPU時間・18,000 GB時間、すなわち4 OCPU・24GB相当でした。ドキュメントを基準にする限り、「無料で4 OCPU・24GBのArmサーバーが持てる」という説明は現行の枠と合いません。ただし料金の章で触れたとおり価格APIは旧枠を返し続けているため、どちらで請求されるかは自分のテナンシで確かめるほかありません。
| リソース | Always Freeの枠(2026年8月時点) |
|---|---|
| AMDコンピュート | VM.Standard.E2.1.Micro を2台(8分の1 OCPU・1GB) |
| Armコンピュート | 1,500 OCPU時間+9,000 GB時間/月(2 OCPU・12GB相当) |
| ブロックボリューム | ブートボリュームとの合計で200GB |
| Autonomous AI Database | 2つ(各1 OCPU・20GB・同時セッション20、スケール不可) |
| MySQL HeatWave | 1ノード構成・データ50GB+バックアップ50GB |
| ロードバランサ | フレキシブルLB 1本(帯域10Mbps固定・2020年12月15日以降作成のテナンシ) |
| アウトバウンド通信 | 10TB/月 |
もう1つ、検証環境を放置すると消える仕様があります。Always Freeのコンピュートインスタンスは、7日間にわたってCPU使用率の95パーセンタイルが20%未満、ネットワーク使用率が20%未満、A1シェイプではメモリ使用率も20%未満という条件をすべて満たすとアイドルと判定され、回収の対象になります。動かしっぱなしにするだけの待機用サーバーとしては使えません。無料枠で確かめるべきは、シェイプの実性能とコンソールの操作感、そして自分のワークロードがArmで動くかどうかです。2 OCPU・12GBの枠内で実際に何本立てられるかの算数や、ホスト容量不足エラーが出たときの回避手順はOracle Cloud Free Tierの無料枠を2 OCPUで組む手順に分けて書いています。
OCIを選ぶ基準と、選ばない方がよい場面
ここまでの数字を踏まえると、OCIが合うのは次の条件が重なるときです。第一に、Oracle Databaseのライセンス資産があり、BYOLを含めて総額を下げたい場合。第二に、月10TBを超えるアウトバウンド通信があり、通信料が総額の主要因になっている場合。第三に、ワークロードがArmで動き、Ampere系の単価差を取りに行ける場合。第四に、データ所在地や主権の要件があり、レルム単位の分離が要件表に書ける場合です。
逆に、選ばない方がよい場面も明確です。エコシステムの広さが要件になる構成、たとえばサードパーティのマネージドサービスやSaaS連携を多用する設計では、対応の厚みで不利になります。日本語の実装情報の量もAWSやAzureとは差があり、障害時に社内で切り分けを完結させたい体制ではその差が運用コストとして跳ね返ってきます。もう1つは、月間の送出量が1TBに届かない社内システムでエグレス単価を主な選定理由に挙げるパターン。差額は月100ドル前後にとどまり、移行工数を回収できません。
そして2026年時点でもっとも実務的な選択肢は、全面移行を前提にしないことです。移行の議論は「クラウド事業者の二択」ではなく「レイヤーごとの配置」で組み立てるほうが現実的な計画になります。
よくある質問
OCIとは何の略ですか?
Oracle Cloud Infrastructureの略です。オラクルのIaaS/PaaS基盤サービス群を指します。なお同じ3文字の略語は医療など他分野でも別の意味で使われるため、検索するときは「Oracle」を添えると目的の情報にたどり着きやすくなります。
Oracle CloudとOCIは同じものですか?
同じではありません。Oracle Cloudがオラクルのクラウド事業全体を指す名称で、そのうち基盤サービス層がOCIです。Fusion Applicationsなどのアプリケーション層(SaaS)はOCIには含まれません。
OCIにはどんな種類のサービスがありますか?
コンピュート、ストレージ、ネットワーク、データベース、セキュリティ、監視・運用などのカテゴリに分かれ、オラクルは公開リージョン全体で200を超えるサービスを一貫した構成で提供していると説明しています。コンピュートはE5/E6(AMD)とA1/A2(Arm)に加えてベアメタル、データベースはAutonomous AI Database、Base Database、Exadata、MySQL HeatWaveが中心です。
OCIはAWSより本当に安いのですか?
項目によります。アウトバウンド通信は月10TBまで無料で、超過後も日本発が$0.025/GBのため、AWS東京リージョンの$0.114/GB(最初の10TB)と比べて差が大きく出ます。一方コンピュートは、OCIがOCPU単位で課金するため、単価をvCPU単価と並べると比較を誤ります。x86とArm A2・A4は1 OCPU=2 vCPU、Arm A1は1 OCPU=1 vCPUなので、vCPU数を揃えたうえで総額を出してください。
Always Freeは無料で使い続けられますか?
期限はありません。ただし枠は変わります。2026年8月時点の公式ドキュメントでは、Arm系無料枠は月1,500 OCPU時間・9,000 GB時間(2 OCPU・12GB相当)で、2025年5月時点の4 OCPU・24GB相当から縮小しました。ただし価格APIは旧枠を返すため、実際の請求は自分のテナンシで確認してください。また7日間の低稼働が続いたインスタンスはアイドル判定で回収対象になるため、待機専用サーバーとしての常時稼働には向きません。