セレブラス(Cerebras Systems)は、米国カリフォルニア州サニーベールに本社を置くAI半導体の会社です。シリコンウエハー1枚を切り分けずに1つのチップとして使う「ウエハースケール・エンジン(WSE)」を作り、そのチップを載せたシステムと、そのシステムで動かす推論クラウドを売っています。2026年5月14日にNasdaqへ上場しました(ティッカーCBRS)。公開価格は185ドルでしたが、10月12日の終値は146.62ドルで公開価格を下回っています。売上は伸びている一方で、4〜6月期は4億5,053万ドルの純損失でした。この記事では、何の会社か、技術のどこが違うか、上場後の決算で何が起きたかを、SEC提出書類と公式資料をもとに整理します。
まとめ:セレブラスの要点(2026年10月時点)
- 何の会社か:AI専用の巨大チップ「WSE」と、それを載せたシステム(CS-3・CS-4)、推論クラウドを提供する米国企業。2015年設立、CEOは共同創業者のアンドリュー・フェルドマン氏。
- 技術の要点:現行チップWSE-3は4兆トランジスタ・90万コア・オンチップSRAM 44GB。大規模AI向けGPUのようにHBMメモリを外付けせず、ウエハー上のSRAMで計算する。同社公表の比較では1ユーザーあたりの応答生成がGPUより速い。
- 新製品:2026年8月に、高クロック版WSE-3Tを3基載せたラック型システム「CS-4」を発表。WSE-4という名前のチップは未発表で、次世代WSEは2027年目標のCS-5で登場する予定。
- 顧客:2025年の売上の86%をUAEのMBZUAI(62.0%)とG42(24.0%)が占めた。OpenAIと750MW・200億ドル超の複数年契約、AWSとも提携し、分散を進めている。
- 上場後の決算:4〜6月期の売上は1億8,011万ドル(前年同期比74%増)、うちクラウドが1億2,599万ドルでハードウェアを上回った。営業費用が5億279万ドルに膨らみ、純損失は4億5,053万ドル。
- 株価:初値350ドル、初日終値311.07ドル。10月12日の終値は146.62ドルで公開価格185ドルを下回る。次の節目は7〜9月期決算と、それに連動するロックアップ(売却制限)の解除。
セレブラスは何の会社か:どこの国・事業内容・日本での窓口
セレブラスはアメリカの会社です。パソコンやスマートフォン向けの汎用チップではなく、大規模言語モデル(LLM)を中心とするAIの学習・推論と、科学技術計算向けの半導体を設計しています。製造は台湾のTSMCに委託しています。
会社の基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Cerebras Systems Inc. |
| 設立 | 2015年 |
| 本社 | 米国カリフォルニア州サニーベール |
| CEO | アンドリュー・フェルドマン(共同創業者) |
| 従業員数 | 708名(2025年12月末・うち米国426名) |
| 上場 | Nasdaq・CBRS(2026年5月14日) |
| 主な製品 | WSE-3/WSE-3T、CS-3、CS-4、推論クラウド |
| 国内代理店 | 東京エレクトロンデバイス |
従業員数は上場時の登録届出書(Form S-1)の記載で、カナダとインドにも人員を置いています。日本では東京エレクトロンデバイスが国内販売代理店で、CS-3の導入相談はここが窓口です。
売上の中身:ハードウェア販売からクラウドへ
売上はハードウェア(システムの販売)と、クラウド・その他サービス(推論クラウドや計算能力の提供)の2区分で開示されています。2026年4〜6月期は、ハードウェアが5,412万ドル、クラウド・その他サービスが1億2,599万ドルで、クラウドが前年同期の3,303万ドルから約3.8倍になりました(2026年8月12日の決算発表)。機械を売り切る売上より、推論APIや計算能力を継続して提供する売上の比率が高くなっています。提供経路は、自社の推論クラウド、AWSなどのクラウド事業者経由、顧客施設へのオンプレミス設置の3つです。
WSE(ウエハースケール・エンジン)の仕組みと現行仕様
大規模AI向けのGPUは、1枚のウエハーから多数のチップ(ダイ)を切り出し、それぞれにHBMという積層メモリを横付けします。セレブラスはウエハーを切らず、1枚をまるごと1つのプロセッサーにします。製造時の欠陥は避けられないため、予備のコアと配線を作り込み、欠陥のあるコアを止めて迂回する設計で歩留まりの問題を解いています(公式ホワイトペーパー)。
WSE-3とWSE-3Tの仕様比較
| 項目 | WSE-3 | WSE-3T(Turbo) |
|---|---|---|
| 搭載システム | CS-3(1基) | CS-4(3基) |
| トランジスタ数 | 4兆 | 4兆 |
| チップ面積 | 46,225mm² | 46,225mm² |
| AIコア数 | 90万 | 90万 |
| AI演算性能 | 125ペタFLOPS(FP16・疎演算) | 250ペタFLOPS |
| メモリ帯域 | 21PB/s | 43.2PB/s |
| 製造プロセス | TSMC 5nm | TSMC 5nm |
WSE-3の値はCS-3・WSE-3データシート、WSE-3Tの値は公式のチップページによります。オンチップSRAM 44GBはWSE-3のデータシートの値です。WSE-3Tはトランジスタ数とコア数が同じで、演算性能とメモリ帯域が約2倍です。新しい世代のチップではなく、電力供給と冷却を強化して同じ設計を速く回した版と読むのが正確です。公式ページはWSE-3TをNVIDIA B300と比べて「トランジスタ19倍・演算56倍」としています。
SRAMに載せる設計の利点と限界
LLMが1トークンずつ文章を出す段階(decode)は、計算量よりもメモリから重みを読む速さで律速されます。WSEは重みをウエハー上のSRAMに置くので、この読み出しが速く、同社が公表する比較では1ユーザーあたりの応答速度でGPUを上回っています。差はモデルや同時接続数、GPU側の構成で変わります。2026年8月13日には、OpenAI APIでGPT-5.6 Solを速く動かす「Ultrafast」モード(限定プレビュー)をセレブラスが担い、最大で毎秒750出力トークンを出すと発表しました。
限界は容量です。WSE-3のSRAMは1枚44GBで、たとえば700億パラメータのモデルは16ビットの重みだけで約140GBあり、1枚には収まりません。こうしたモデルは複数のシステムに分けて載せるため、モデルが大きいほど必要な台数が増えます。費用面で有利かどうかは、必要台数と処理量、GPU構成の費用を同じ条件で比べないと決まりません。セレブラス自身も、ウエハーにDRAMを3D積層してこの容量を広げる「CS-6」を開発中と公表しています。
システム製品CS-3とCS-4(2026年8月発表)
CS-3:WSE-3を1基載せた水冷システム
CS-3はWSE-3を1基搭載するシステムで、データシート上の寸法は16RU、消費電力は最大27kW、冷却は水冷です。2024年に出荷が始まり、OpenAIやAWSとの契約で使われているのもこの世代です。
CS-4:WSE-3Tを3基束ねたNexusラック
CS-4は2026年8月18日に発表された、ラック単位の新システムです。1つのラックにWSE-3Tを3基、それぞれ「バックパック」と呼ぶ交換単位に収めて背面から差し込みます。公式の製品ページが挙げる数字は次のとおりです。
- GPUシステム比で最大30倍速い推論、CS-3比で電力あたりスループット最大10倍(いずれも同社の主張)
- 電源変換器をウエハーから約0.5mmに置き、GPU基板の約50mmより約100倍近い
- ウエハー間の通信遅延2マイクロ秒で、50兆パラメータを超えるモデルでも毎秒1,000トークン超
- ラック全体のAI演算性能は750ペタFLOPS(WSE-3T 3基分)
「30倍」は条件を同社が選んだ比較で、モデル・同時接続数・GPU側の構成で差は変わります。導入判断には自社のモデルと負荷での測定が要ります。
WSE-4はまだ無い:CS-5・CS-6のロードマップ
「WSE-4」という名前のチップは2026年10月時点で発表されていません。Hot Chips 2026での公式解説では、次世代WSEは2027年目標のCS-5で初登場し、gpt-oss-120bなどのオープンモデルで1ユーザーあたり毎秒最大10,000トークン、GPT-5.6 Solのような数兆パラメータ級で毎秒最大5,000トークンを目標にしています。その次のCS-6は、ウエハーにDRAMを3D積層してメモリ容量を広げる計画です。どちらも目標値であり、出荷された製品の実測ではありません。
GPU・NVIDIAとの違いと「NVIDIAキラー」評価の妥当性
設計と供給網の違い
| 観点 | NVIDIAの大規模AI向けGPU | セレブラス WSE |
|---|---|---|
| チップ | ウエハーから切り出した多数のダイ | ウエハー1枚で1プロセッサー |
| メモリ | HBMを外付け(大容量) | オンチップSRAM(高速・小容量) |
| 実装 | CoWoSパッケージ | CoWoS・HBMを使わない |
| 得意な処理 | 学習・推論の両方、汎用計算 | 推論の応答生成(decode) |
| ソフトウェア | CUDAの開発資産が厚い | 自社スタック・API提供が中心 |
供給網の違いは見落とされがちです。4〜6月期の決算発表で同社は、品薄が続くHBMメモリ、CoWoSパッケージ、3nm製造をどれも使っていないと説明しています。GPUの増産を縛っている部品に依存しないので、需要が急増した局面で供給を伸ばしやすい構造です。
NVIDIAの代替ではなく、低遅延推論の専用レーン
「NVIDIAキラー」という呼び名は実態より強すぎます。根拠はセレブラス自身の提携の形にあります。AWSとの提携では、AWSのTrainium3がプロンプトを読み込む処理(prefill)を、CS-3が応答を生成する処理(decode)を受け持つ分担を発表しています(2026年6月23日の1〜3月期決算発表)。AMDとも2026年7月23日に同じ分担の技術提携を発表し、4〜6月期の決算発表では2026年10〜12月期に本番稼働させる計画としています。つまりGPUや他社チップと並べて使い、速さが効く部分だけを取る位置づけです。
NVIDIAも同じ分担を自社で取りにきています。低遅延のdecodeを専用チップで速くするという狙いはNVIDIAのGroq 3 LPXと重なりますが、LPXはGPUと処理を分け合う構成が複数あり、作り方も異なります。違いはGroq 3 LPU(LPX)とは?NVIDIAの推論チップの仕組み・GPUとの違い・出荷状況【2026年10月】で比べています。NVIDIA本体の次世代構成はNVIDIA Rubin(Vera Rubin)とは?7チップ構成・性能・出荷時期とBlackwellとの違い【2026年10月】、GoogleのAI専用チップはTPUとは?GPU・CPUとの違い、世代別の性能と料金、TorchTPUでのPyTorch対応にまとめています。
セレブラスを選ぶべきでないのは、CUDA前提のコードやGPU向けに組んだ学習パイプラインを手直しせずに動かしたい場合です。CS-3は学習にも対応していますが、移行には同社のソフトウェアスタックへの対応が要ります。逆に、コーディング支援やエージェントのように1回の応答待ちが作業時間を決める用途では、APIで試す価値があります。料金ページ(2026年10月13日時点)では、Developer Tierでgpt-oss-120bを毎秒約3,000トークン、100万トークンあたり入力0.35ドル・出力0.75ドルで提供しています。
主要顧客と大型契約:OpenAI・G42/MBZUAI・AWS
OpenAI:750MW・200億ドル超の複数年契約
OpenAIは2026年1月14日に、セレブラスの低遅延計算750MWを自社基盤に加えると発表しました。セレブラスは1〜3月期決算で、この複数年契約の価値を200億ドル超と開示しています。土台となる基本契約(MRA)は2025年12月に結ばれ、1月にはOpenAIから10億ドルの運転資金融資も受けています。
実際の提供としては、2026年2月にコーディング向けモデル「GPT-5.3-Codex-Spark」を共同で出し、毎秒1,000トークン超で応答させました。このモデルは2026年9月14日に提供を終えており、経緯はGPT-5.3-Codex-Sparkとは?2026年9月14日の廃止と代わりに速さを取る方法にあります。2026年8月には別の協業として、前述のGPT-5.6 Sol向けUltrafastモードを担っています。OpenAIは自社設計の推論チップも開発しており、その動きはOpenAI Jalapeño(ハラペーニョ)とは|初の自社AI推論チップと脱Nvidia戦略で扱っています。
G42・MBZUAI:UAE依存の大きさ
S-1によると、2025年の総売上5億999万ドルのうち、アブダビの研究大学MBZUAIが62.0%、同じくUAEのG42が24.0%を占めました。2024年はG42だけで85.0%です。2社の契約条件やUAEに関わる規制が変われば、売上が直接揺れる構造です。2026年6月末の受注残(残存履行義務)は254億ドルで、その大半はOpenAI契約とみられます。依存先がUAEからOpenAIへ移る形になり、顧客の数が少ないという性質自体は残ります。
AWS・AMDと新規顧客
AWSとは2026年3月13日に複数年の提携を発表し、前述のprefillとdecodeの分担構成を2027年1〜3月期にAmazon Bedrockで提供する予定です。4〜6月期には、コーディング支援のCognitionやLovableとクラウド容量の契約を結び、Block、Figma、AlphaSense、GSK、CrowdStrike(2026年7月22日に提携発表)を顧客に挙げています。計算能力の置き場も増やしており、稼働中と2027年末までの契約分を合わせたデータセンター容量は600MW超、9月1日にはフィンランドのミッケリで最大165MWのデータセンター開発を発表しました。
上場後の決算と株価:公開価格185ドルを割った背景
IPOの数字(2026年5月14日)
公開価格は1株185ドル、初値は350ドル、初日終値は311.07ドルでした。引受会社が追加売出し枠をすべて行使したため売却株数は3,450万株となり、総調達額は約63.8億ドルでした(4〜6月期の四半期報告書(Form 10-Q))。同社はこれを半導体企業として過去最大のIPOと説明しています。上場前の2月にも10億ドルのシリーズHを調達しています。
1〜3月期・4〜6月期の決算
| 項目 | 2026年1〜3月期 | 2026年4〜6月期 |
|---|---|---|
| 総売上(GAAP) | 1億9,341万ドル | 1億8,011万ドル |
| うちハードウェア | 1億1,059万ドル | 5,412万ドル |
| うちクラウド等 | 8,281万ドル | 1億2,599万ドル |
| 純損益(GAAP) | 1,401万ドルの損失 | 4億5,053万ドルの損失 |
| 通期コア売上見通し(非GAAP) | 8.55億〜8.65億ドル | 8.80億〜8.90億ドル |
| 発表日 | 2026年6月23日 | 2026年8月12日 |
出典は1〜3月期と4〜6月期の決算発表(いずれもSECへの8-K提出書類)です。会社が強調する「コア売上」は、顧客に付与したワラントの償却やデータセンター費用の立替分などを除いた非GAAPの数字で、4〜6月期は2億990万ドル(前年同期比103%増)でした。GAAPの総売上とは約3,000万ドルずれるので、報道で数字が食い違うときはどちらの指標かを確かめてください。
4〜6月期の赤字は、営業費用が前年同期の8,928万ドルから5億279万ドルへ増えたことによります。このうち3億6,166万ドルは株式報酬費用(現金の支出を伴わない費用)です。売上原価分を含む全社の株式報酬費用は、1〜3月期の959万ドルから4〜6月期は3億7,701万ドルへ増えました。売上総利益率はGAAPで14%にとどまり、ハードウェア売上は前四半期の半分以下でした。一方で通期のコア売上見通しは引き上げています。株価の評価は、この赤字と見通しの両方をどう読むかで分かれます。
なお2025年通期は2億3,783万ドルの純利益でしたが、本業の営業損益は1億4,586万ドルの赤字で、黒字は営業外の利益3億9,075万ドルによるものです(S-1)。2025年の黒字を読むときは、純利益と営業損益を分けて見てください。
株価の推移と次に見る材料
6月23日の1〜3月期決算の発表後には、時間外取引で10%以上下げたとSBI証券のレポートが伝えています。Yahoo!ファイナンスの表示では、10月12日の終値は146.62ドルで、公開価格185ドルを下回っています。株価は日々動くので、最新値は証券会社の銘柄ページで確認してください。
次に効く材料は3つあります。まずロックアップです。S-1では、経営陣と既存株主の売却制限は「7〜9月期の決算発表から2取引日後」か「目論見書の日付から180日後」の早いほうで切れ、それまでにも決算後の一部早期解除があると定めています。7〜9月期決算は売却制限の解除と重なるため、需給面の注目点になります。次に、CS-4の出荷が売上に乗るかどうか、最後に2027年1〜3月期予定のBedrock提供で顧客が広がるかどうかです。この記事は投資を勧めるものではありません。
よくある質問
セレブラスはどこの国の、何の会社ですか?
アメリカの会社です。本社はカリフォルニア州サニーベールで、2015年に設立されました。ウエハー1枚を丸ごと使うAIチップ「WSE」と、それを載せたシステム、推論クラウドを提供しています。
セレブラスの株価はどこで見られますか?日本から買えますか?
ティッカーはCBRS(Nasdaq)で、Yahoo!ファイナンスや日経の銘柄ページで株価を確認できます。米国株を扱う国内の証券会社で取引できますが、取り扱いの有無は各社のサイトで確認してください。
セレブラスは何がすごいのですか?
ウエハー1枚を1つのプロセッサーとして実用化した点です。WSE-3は4兆トランジスタ・90万コアで、重みをチップ上のSRAMに置きます。同社が公表する比較では、LLMの応答生成がGPUより速いとされています(条件で差は変わります)。
WSE-4は発表されていますか?
2026年10月時点で、WSE-4という名前のチップは発表されていません。2026年8月発表のCS-4はWSE-3の高クロック版WSE-3Tを3基載せたシステムで、次世代のWSEは2027年目標のCS-5で登場する予定です。
「セレブラス」の読み方と正式名称は?
正式名称はCerebras Systems Inc.で、読みは「セレブラス・システムズ」です。「セレブレス」「セレプラス」と書かれることもありますが、同じ会社を指します。