Azure上のアプリでデータベースの手前に低遅延のキャッシュ層を置くとき、まず候補に挙がるのがAzure Cache for Redisです。ただしMicrosoftは全SKUの提供終了タイムラインを公表しており、これから設計する基盤では「どの階層を選ぶか」と同じ重さで「いつAzure Managed Redisへ移すか」を決める必要があります。この記事では、仕組みと5階層の違い、料金の見え方、Azure CLIでの作成からアプリ接続・実測までの作業手順、そして移行の段取りを、公式ドキュメントの記載に当たりながら実装者の目線で整理します。
まとめ:Azure Cache for Redisの仕組み・階層と採用判断の要点
Azure Cache for Redisは、Redisのインメモリ特性をそのまま使いながら、サーバーの構築・パッチ適用・冗長化といった運用をMicrosoftに任せられるマネージドサービスです。データベースやAPIの手前に高速なキャッシュ層を挟むことで、読み書きの遅延を抑えつつバックエンドの負荷を下げられます。提供形態はOSS Redis系のBasic/Standard/Premiumと、Redis Enterprise系のEnterprise/Enterprise Flashの5階層に分かれ、必要な可用性・容量・機能に応じて選びます。Redis APIと完全互換のため、既存のRedisクライアントやライブラリをほぼそのまま接続できる点も設計を楽にしてくれるでしょう。
設計時にまず押さえたいのは、Microsoftが全SKUの提供終了タイムラインを発表し、後継のAzure Managed Redisへの移行を案内している点です。Azure Cache for Redis 提供終了に関するFAQでは、Basic/Standard/Premiumが2028年9月30日、Enterprise/Enterprise Flashが2027年3月31日に提供終了と明記され、期限を待たず今すぐアップグレードすることが推奨されています(2026年9月時点の記載)。新規に基盤を組むなら、移行先まで見据えて階層と構成を決めることになります。
用途としては、キャッシュアサイドによるデータキャッシュ、Webのセッションストア、メッセージキューなどが代表的です。開発・検証用途ならSLAのないBasic、本番の可用性が要るならStandard以上、データ永続化やクラスタリングが要るならPremium以上、という順で候補を絞るのが実務的でしょう。以降では階層ごとの機能差を表で並べ、az redis createでの作成からアプリ接続・ヒット率の実測までを手を動かす順に追い、最後に採用条件と見送り条件を条件付きで言い切ります。
Azure Cache for Redisの仕組みとRedisとの関係を押さえる
階層や料金を検討する前に、そもそもRedisとどう違い、マネージドサービスとして何を引き受けてくれるのかを押さえます。ここを曖昧にすると、キャッシュ層に求める可用性や容量の要件を階層選定へ落とし込めません。
インメモリデータストアとRedisベースのマネージドサービス
Redisは、データをメモリ上に保持して高速に読み書きするデータストアで、データベースへのアクセスが集中する処理の前段に置くことで、アプリケーションの応答性とスケーラビリティを引き上げます。Microsoft Learnの「Azure Cache for Redis とは」では、このサービスがOSS RedisとRedis社の商用製品であるRedis Enterpriseの双方をマネージドサービスとして提供し、専用のRedisサーバーインスタンスと完全なRedis API互換を備えると説明されています。運用面では、サーバーの調達、OSやRedisのパッチ、冗長構成、監視がMicrosoftの担当範囲です。利用者はキャッシュを作成してエンドポイントへ接続するだけで、分散キャッシュ・セッションストア・メッセージブローカーとして使えます。Azure内のアプリからだけでなく、Azure外のアプリケーションからも接続できる点も設計の幅を広げてくれます。
対応するRedisバージョンとOSS/Redis Enterpriseの2系統
Azure Cache for Redisは、オープンソースのOSS Redisと、Redis社の商用製品であるRedis Enterpriseの両方を土台に提供されます。公式ドキュメントの「Redisバージョン」の節では、OSS Redis側で対応するのは4.0.x系と6.0.x系で、最新版を届けるために5.0系を意図的に飛ばしたと記載されています(2026年9月時点。以後は新しいメジャーリリースと1つ前の安定版から選べる設計)。どちらの系統を選ぶかは、必要な機能による判断です。基本的なキャッシュやセッションストアであればOSS Redis系のBasic/Standard/Premiumで足り、検索やJSONといったRedisモジュールや、より高い可用性が要るならRedis Enterprise系を選ぶことになります。なお後継のAzure Managed Redisは全面的にRedis Enterpriseソフトウェアを土台にしており、系統の違いは移行後の機能差にも直結します。OSS RedisそのものやRedisのフォークであるValkeyとの関係を先に整理したい場合は、ValkeyとRedisの違いを解説した記事でライセンス変更の背景まで押さえておくとよいでしょう。
提供終了タイムラインとAzure Managed Redisへの移行という前提
新規に採用する前に必ず押さえておきたいのが、提供終了の予定です。Microsoftは、Azure Cache for Redisの全SKUについて提供終了のタイムラインを発表しており、後継サービスであるAzure Managed Redisへできるだけ早く移行することを推奨しています。公式FAQに記載された期限は、Basic/Standard/Premiumが2028年9月30日、Enterprise/Enterprise Flashが2027年3月31日です。さらに、期限を過ぎた翌日(2028年10月1日および2027年4月1日)から残存インスタンスは無効化されると書かれており、単なる「サポート終了」ではなく停止を伴う点に注意が要ります(いずれも2026年9月時点の記載。最新の日付は公式で確認してください)。このため、これから長く運用する基盤を設計するなら、Azure Cache for Redisで作りつつも移行先を見据える、あるいは最初からAzure Managed Redisを検討する、という前提で構成を決めることになります。既存資産の移行タイミングと新規構築の技術選定の両方に効く論点です。
Azure Cache for Redisの5つのサービス階層と機能差を比べる
Azure Cache for Redisは5つの階層を持ち、可用性・容量・機能・料金のバランスが階層ごとに変わります。用途に対して過不足のない階層を選ぶために、まず各階層の性格を押さえます。
Basic・Standard・Premiumの違いと選び分けの順序
OSS Redis系の3階層は、可用性と機能の厚みで段階的に分かれます。Basicは1つの仮想マシン上で動くシングルノードのキャッシュで、SLAが付かないため開発・検証や停止が許されるワークロード向きです。Standardは2つの仮想マシンでレプリケートする構成になり、SLAが付いて本番の可用性要件に応えられます。Premiumはより強力な仮想マシン上で動き、スループットの向上と遅延の低減に加えて、データ永続化、OSSクラスタリング、Virtual Networkによるネットワーク分離、パッシブなgeoレプリケーションといった本番向けの機能がまとまって使えるようになります。選ぶ順序は、まずStandardを基準に置き、永続化やクラスタリング、VNet分離が要ればPremiumへ上げる形が過剰投資を避けやすいでしょう。なお公式ドキュメントには、作成後にBasicからPremiumへスケールアップはできるが、下位階層へのスケールダウンは未対応と記載されています。
EnterpriseとEnterprise Flashの位置づけと課金の注意点
Redis Enterprise系の2階層は、OSS Redisを超える可用性やモジュールが要るときの選択肢です。Enterpriseは、Redis社のRedis Enterpriseソフトウェアを載せた高性能な階層で、RediSearch・RedisBloom・RedisTimeSeries・RedisJSONといったRedisモジュールに対応し、アクティブなgeoレプリケーションなどPremiumより高い可用性を備えます。Enterprise Flashは、Redisのデータ格納先をDRAMより安価な不揮発性メモリへ広げることで、大容量のキャッシュをGBあたりのコストを抑えて運用できる階層です。全文検索やJSON操作をキャッシュ層で完結させたい、あるいは数百GBを超える大規模キャッシュをコスト効率で持ちたい、といった要件で候補になります。ただしEnterprise系はRedis社のライセンスをAzure Marketplace経由で取得する形を取るため、Azureクレジットや無償のMSDNサブスクリプションでは購入できない、Marketplace購入が組織で許可されている必要がある、といった前提条件が公式ドキュメントに明記されています。要件が本当にモジュールや大容量を必要とするかを見極めてから選んでください。
データ永続化・可用性・ネットワーク分離の階層別の段差と選定基準
階層選定の分岐点になりやすい機能を、公式の機能比較表に沿って下表へ整理します。SLAはStandard以上で付き、OSSクラスタリングとデータ永続化はPremium以上で使える、という段差を押さえると、要件から必要な階層を逆算しやすくなります。
| 機能 | Basic | Standard | Premium | Enterprise | Ent. Flash |
|---|---|---|---|---|---|
| SLA | なし | あり | あり | あり | あり |
| データ永続化 | 不可 | 不可 | 可 | プレビュー | プレビュー |
| OSSクラスタリング | 不可 | 不可 | 可 | 可 | 可 |
| ゾーン冗長 | 不可 | 可 | 可 | 可 | 可 |
| geoレプリケーション | 不可 | 不可 | パッシブ | アクティブ | アクティブ |
| Redisモジュール | 不可 | 不可 | 不可 | 可 | プレビュー |
| インポート/エクスポート | 不可 | 不可 | 可 | 可 | 可 |
| 再起動操作 | 可 | 可 | 可 | 不可 | 不可 |
データ永続化は、RDBのスナップショットとAOFのコマンドログという2方式で提供され、Premium階層の永続化構成の手順にPortalとCLIからの設定方法がまとまっています。Premiumの永続化先はAzure Storageアカウント、Enterpriseの永続化先はManaged Diskと保存先が異なる点も、コスト試算では見落としがちな差です。ただし永続化はデータ損失への復元性を高める仕組みであり、キャッシュを恒久的なデータベースの代わりにするものではない点は分けて捉えてください。ネットワーク分離は、Azure Private LinkやVirtual Networkでトラフィックを隔離し、アクセス制御ポリシーで接続元を絞る構成が取れます。可用性を仕組みで担保するにはStandard以上のSLA、地理的な冗長にはPremiumのパッシブまたはEnterpriseのアクティブなgeoレプリケーションを、目的別に選び分けます。
Azure CLIでキャッシュを作成しアプリから接続して実測する
階層の理屈を押さえたら、実際に作って接続するところまで一度通しておくと、要件との過不足が肌感覚でつかめます。ここではAzure CLI・StackExchange.Redis・redis-cliの3段で、作成→接続→実測の最小手順を追います。
az redis createでStandard C1のキャッシュを作成する
Azure CLIのRedis向けコマンド群はaz redisコマンドリファレンスにまとまっており、作成には名前・リソースグループ・ロケーション・SKU・VMサイズの5つが要ります。公式のAzure CLIでキャッシュを作成・照会・削除するサンプルスクリプトと同じ流れで、東日本リージョンにStandard階層のC1(1GB)を1本立てる例が次のコマンドです。キャッシュ名はAzureリージョン内で一意である必要があり、作成完了までは数分から十数分かかります。
# リソースグループを作る
az group create --name rg-redis-demo --location japaneast
# Standard階層・C1(1GB)のキャッシュを作る
az redis create \
--name cache-demo-jpe \
--resource-group rg-redis-demo \
--location japaneast \
--sku Standard \
--vm-size c1 \
--minimum-tls-version 1.2
# 接続に必要なホスト名とアクセスキーを取り出す
az redis show --name cache-demo-jpe --resource-group rg-redis-demo --query hostName -o tsv
az redis list-keys --name cache-demo-jpe --resource-group rg-redis-demo --query primaryKey -o tsv
ここで--vm-size c1をC0にすると費用は下がりますが、公式ドキュメントにはC0とC1のStandardキャッシュで内部スキャン実行中にサーバー負荷のスパイクが出る場合があると注意書きがあります。本番前の負荷試験はC1以上で行うほうが実態に近い数字が取れるでしょう。
StackExchange.Redisで接続してキャッシュアサイドを書く
接続文字列はホスト名・TLSポート6380・アクセスキーの3点で組み立てる形式です。.NETからはStackExchange.Redisのリポジトリが事実上の標準クライアントで、ConnectionMultiplexerはスレッドセーフかつ接続を共有する前提の設計になっています。公式の接続に関するベストプラクティスでも、リクエストごとに接続を張り直さず1つのインスタンスを再利用する形が推奨されています。次はキャッシュアサイドの最小形です。
using StackExchange.Redis;
// 接続は使い回す(リクエストごとに張り直さない)
var conn = await ConnectionMultiplexer.ConnectAsync(
"cache-demo-jpe.redis.cache.windows.net:6380,ssl=True,abortConnect=False,password=" + key);
var db = conn.GetDatabase();
// まずRedisを見て、無ければDBから読んで書き戻す
var cached = await db.StringGetAsync("product:1001");
if (!cached.IsNullOrEmpty)
{
return cached.ToString();
}
var product = await LoadProductFromDbAsync(1001);
await db.StringSetAsync("product:1001", product, TimeSpan.FromMinutes(10));
return product;
ここで効いてくるのがabortConnect=Falseと有効期限の設定です。前者は起動時にキャッシュへ到達できなくても例外で落ちず再試行に回す指定で、後者を省くとキーが際限なく積み上がってメモリ逼迫と追い出しを招きます。同じキャッシュアサイドをPythonやPHPのフレームワーク側から組む場合の設定の勘所は、Djangoのセッション保存先とRedis構成を比較した記事が参考になります。
redis-cliのINFOでヒット率とメモリの実測値を確認する
キャッシュは「入れれば速くなる」ものではなく、ヒット率が伴って初めて効きます。redis-cliからTLSポートへつなぎ、INFO statsとINFO memoryで実測値を見るのが最短です。keyspace_hitsとkeyspace_missesの比がヒット率、evicted_keysが容量不足で追い出された件数、used_memoryが現在の使用量にあたります。
# ヒット・ミスの累計を見る
redis-cli -h cache-demo-jpe.redis.cache.windows.net -p 6380 --tls -a "$REDIS_KEY" INFO stats
# 使用メモリと追い出しの状況を見る
redis-cli -h cache-demo-jpe.redis.cache.windows.net -p 6380 --tls -a "$REDIS_KEY" INFO memory
# 実際にキーを1つ置いて往復を確かめる
redis-cli -h cache-demo-jpe.redis.cache.windows.net -p 6380 --tls -a "$REDIS_KEY" SET ping pong EX 60
redis-cli -h cache-demo-jpe.redis.cache.windows.net -p 6380 --tls -a "$REDIS_KEY" GET ping
ヒット率が低いまま容量だけ増やしても費用しか増えません。キーの持ち方や有効期限を見直すほうが先です。継続的に見るなら、Azure側のメトリックをダッシュボードとアラートに載せておくと運用が回ります。監視基盤の組み立て方はAzure Monitorの仕組みと料金モデルを整理した記事にまとめてあります。
Azure Cache for Redisの主なユースケースと料金の考え方
Azure Cache for Redisは、キャッシュに限らず複数のアーキテクチャパターンで使えます。どのパターンで使うかによって、必要な階層と容量、そして料金の見え方が変わります。
キャッシュ・セッションストア・メッセージキューの代表パターン
Microsoftが「主なシナリオ」として挙げる使いどころは、次のように整理できます。いずれもバックエンドの負荷を下げ、応答性を高める狙いは共通ですが、求める永続性や容量が異なります。
| パターン | 使いどころ | 目的 |
|---|---|---|
| データキャッシュ | DBの手前でキャッシュアサイド | 読み取り遅延とDB負荷の低減 |
| コンテンツキャッシュ | ヘッダやバナーなど静的要素 | Web応答の高速化 |
| セッションストア | カートなどユーザー履歴 | Cookie肥大化の回避 |
| メッセージキュー | 実行時間の長いタスク | 非同期処理の分離 |
| 分散トランザクション | 複数コマンドの一括実行 | 原子的な更新の担保 |
最も多いのはデータキャッシュで、必要なデータだけをキャッシュに読み込み、更新時にキャッシュも書き換えるキャッシュアサイドのパターンが定番です。セッションストアは、ショッピングカートなどのユーザー履歴を保持し、Cookieが大きくなる問題を避けます。メッセージキューは、時間のかかる処理を別プロセスへ回すためのタスクキューとして使うパターンです。公式ドキュメントには分散トランザクションも挙がっており、複数コマンドを1つのトランザクションとしてまとめて実行できます。用途が読み取り主体で停止が許されるならBasic/Standardで足り、永続性やクラスタリングが要るセッションやキューの基盤ならPremium以上が候補になります。
Azure Cache for Redisの料金の内訳と費用を抑える順序
Azure Cache for Redisの料金は、選んだ階層とキャッシュサイズ(メモリ容量)、稼働時間で決まる構造です。公式ドキュメントの「適切な階層の選択」には、Basic/Standardが250MBから53GB、Premiumが6GBから1.2TB、Enterpriseが1GBから2TB、Enterprise Flashが300GBから4.5TBという容量帯が示されており、大きい容量やクラスタリングを選ぶほど費用が積み上がります。実額はAzure Cache for Redisの価格ページでリージョンと時点を指定して確認してください。Enterprise系については、標準ネットワークロードバランサーの費用が本来別課金であること、可用性ゾーン構成時のデータ転送料が現時点ではサービス側で吸収されているが将来変わり得ること、永続化でManaged Diskが加わることが公式に明記されています。見積もりの際は本体価格だけを見ないほうが安全です。
費用を抑える起点は、キャッシュに載せるデータ量とヒット率を実測し、過剰な容量や不要な階層を避けることです。まず小さめの容量で運用してメモリ使用率とヒット率を確認し、逼迫してからスケールアップ・スケールアウトする順序が費用の膨張を防ぎます。前節のredis-cliでの実測をそのまま判断材料に使えます。予約割引を検討している場合は、既存の予約が提供終了日まで有効な一方、早期のキャンセルや交換も可能である点をFAQで確認しておくとよいでしょう。
Azure Managed Redisへ移行する段取りと切り替え時の確認項目
提供終了が公表されている以上、移行は「いつかやること」ではなく設計時に織り込む前提です。ここでは公式FAQに書かれている移行の枠組みと、アプリ側で実際に手を入れる箇所を作業順に整理します。
移行ツールとエンドポイント切り替えの全体の流れと事前検証手順
公式FAQでは、Basic/Standard/Premiumについて移行手順のガイドが用意され、既存キャッシュをAzure Managed Redisインスタンスへアップグレードする形が案内されています。移行時のデータ保持についても手順書に沿えば可能と書かれており、エンドポイントの移行とデータの引き継ぎが同じガイドの中で扱われます。作業の骨格は、移行先のAzure Managed Redisを用意し、アプリが参照するホスト名とアクセス資格情報を差し替え、切り替え後に接続とヒット率を再測する、という順です。Enterprise階層は期限が2027年3月31日と先に来るため、複数キャッシュを抱えている環境ではEnterprise系から順に着手する計画が現実的でしょう。
クラスタ既定を前提にクライアント設定を見直す作業と事前確認項目
移行で最も詰まりやすいのがクライアント側です。FAQには、Azure Managed Redisは既定でクラスタ構成であるため、クライアントライブラリをクラスタ対応の設定にする必要があると明記されており、この点への注意が必要です。StackExchange.Redisのように特別な設定なしでクラスタへつながるライブラリもあれば、Node.js・Jedis・Lettuce・redis-py・go-redisのようにクラスタ接続用の初期化に書き換えが要るものもあります。加えて、複数スロットにまたがるクロススロットコマンドを使っている箇所は動作が変わるため、事前の洗い出しが必要です。25GBまでは非クラスタ構成も選べますが、性能とメモリ拡張の余地からはクラスタ構成が推奨されています。
移行で得られる機能差と事前に確認しておくべき制約の洗い出し手順
移行先のAzure Managed Redisは、既定でゾーン冗長、アクティブgeoレプリケーションとRedisモジュールの標準搭載、アクセスキーではなくMicrosoft Entra IDを前提とした認証、といった差分が特徴です。Enterprise階層からの移行では、Azure Marketplaceを介さない第一者提供になるため課金経路が単純になり、クォーラムノードの廃止で利用できるリージョンも広がっています。一方でFAQには、一部の管理操作・リージョン・SKUサイズが未提供である旨も書かれており、使っている機能がそろっているかを先に確認する必要があります。足りない機能があって移行できない場合はサポートへ連絡するよう案内されています(いずれも2026年9月時点の記載)。
Azure Cache for Redisを採用すべき条件と他サービスとの切り分け
ここでは判断を言い切ります。Azure Cache for Redisは、Azure上のアプリでキャッシュ層やセッションストアを手早く用意したいときに効く反面、提供終了の予定や他クラウド・OSS・サーバーレスの選択肢を踏まえて選ぶ必要があります。自社システムのキャッシュ基盤をどこに置くかを、条件付きで見極めてください。
Azure Cache for Redisの採用が効く条件の見極め方
採用が効くのは、アプリの主要な稼働環境がAzureで、データベースやAPIの手前に低遅延のキャッシュ層やセッションストアを置きたい、Redis互換のクライアントをそのまま使いたい、キャッシュサーバーの運用を自前で抱えたくない、という条件が重なるときです。本番の可用性が要ればStandard以上、データ永続化やクラスタリング、VNet分離が要ればPremium以上を選びます。キャッシュ層の設計は、その手前にあるアプリ実行基盤や背後のデータストアと一体で決まるため、Azure Cosmos DBの整合性レベルとRU課金を整理した記事のような、バックエンド側の課金構造とあわせて検討すると読み違えが減ります。こうしたAzure上のキャッシュ基盤を自社に取り入れるなら、AWS・Google Cloud・Azureに対応したクラウドインフラ構築の相談窓口で、階層選定や可用性構成、そして移行前提を踏まえた設計の妥当性を相談するとよいでしょう。あわせて、AWS側のマネージドRedisと比較検討したい場合は、Amazon MemoryDBの概要と主要機能を解説した記事で他クラウドの選択肢を確認できます。
他クラウドのマネージドRedis・OSS・サーバーレスとの切り分け
マネージドRedisはAzure以外にも選択肢があり、稼働環境と課金モデルで切り分けます。AWSが主軸ならAmazon ElastiCacheの対応エンジンとServerlessの違いを解説した記事で整理したとおり、ノードベースとサーバーレスの2形態から選ぶ構図になり、Azure Cache for Redisと同じ役割を担います。特定クラウドに縛られず、アクセスの波に応じて秒課金で費用を抑えたいなら、サーバーレス型のRedisも候補です。リクエスト単位で課金するサーバーレスの考え方は、サーバーレスRedisであるUpstashの料金と使い方を解説した記事で、常時起動型との違いまで確認できます。自前でRedisやそのフォークを仮想マシンへ立てる選択肢もありますが、パッチ・冗長化・監視の運用が自社に戻る点を織り込んで比較してください。
Azure Cache for Redisを見送るべき場面とはまりやすい失敗
見送りを検討すべきなのは、長期運用を前提とする新規基盤で移行の手戻りを避けたい場合です。全SKUの提供終了が発表されている以上、これから作るなら後継のAzure Managed Redisを最初から検討するか、移行計画とセットで採用するのが堅実でしょう。もう1つの失敗パターンは、キャッシュを永続データベース代わりに使い、永続化していない階層でデータ損失に見舞われるケースです。永続化はPremium以上の機能であり、そもそもキャッシュは揮発を前提とした層である点を分けて考えます。SLAがカバーするのはエンドポイントへの接続性であってデータ損失の防止ではない、と公式ドキュメントが明記している点も押さえておいてください。さらに、開発・検証にSLAのないBasicで足りるのに本番同等の上位階層を常時起動させて費用を膨らませる、逆に本番で可用性の要るワークロードをSLAのないBasicに載せる、という階層の取り違えも典型的な失敗です。用途と可用性要件から階層を逆算し、提供終了の前提を織り込む——この2点を守れば、Azure Cache for Redisのマネージドな利点を無駄なく引き出せます。
よくある質問
Azure Cache for Redisの導入検討で実装者から多く挙がる質問を、一次情報に基づいて簡潔に整理します。
Azure Cache for RedisとオープンソースのRedisは何が違いますか?
ソフトウェアとしてのRedisは同じで、Azure Cache for RedisはそのRedisをMicrosoftがAzure上でフルマネージドに提供するサービスです。サーバーの調達、OSやRedisのパッチ、冗長構成、監視といった運用をMicrosoftが引き受け、利用者はキャッシュを作成してエンドポイントに接続するだけで使えます。Redis APIと完全互換のため、既存のRedisクライアントやライブラリはほぼそのまま接続できます。
Azure Cache for RedisはAzure Managed Redisに移行する必要がありますか?
Microsoftは全SKUの提供終了タイムラインを発表し、後継のAzure Managed Redisへの移行を推奨しています。公式FAQに記載された期限はBasic/Standard/Premiumが2028年9月30日、Enterprise/Enterprise Flashが2027年3月31日で、翌日から残存インスタンスは無効化されると書かれています。既存インスタンスは移行計画を立て、新規構築ではAzure Managed Redisを含めて技術選定するのが堅実です。正確な日付や移行手順はMicrosoft公式で対象と時点を確認してください。
Basic・Standard・Premium・Enterpriseはどれを選べばよいですか?
可用性と機能で分岐します。開発・検証などSLAが不要ならBasic、本番の可用性が要ればSLAの付くStandard、データ永続化やOSSクラスタリング、VNet分離が要ればPremiumを選びます。検索やJSONなどのモジュール、より高い可用性やアクティブなgeoレプリケーションが要る場合にEnterprise、数百GB超の大容量を費用効率で持ちたい場合にEnterprise Flashが候補です。下位階層へのスケールダウンは未対応なので、用途と可用性要件から逆算して過不足のない階層を選んでください。
Azure Cache for RedisとAWSのマネージドRedisの違いは何ですか?
役割は同じで、稼働するクラウドが異なります。AWSでは、Amazon ElastiCacheやAmazon MemoryDBがマネージドなRedis互換サービスとして同じキャッシュ層の役割を担います。アプリの主要な稼働環境がAzureならAzure Cache for Redis、AWSならElastiCacheやMemoryDB、と稼働環境に合わせて選ぶのが基本です。特定クラウドに縛られたくない場合はサーバーレス型のRedisも選択肢になります。
Azure Cache for Redisへの接続やヒット率はどう確認しますか?
TLSポート6380にredis-cliでつなぎ、INFO statsのkeyspace_hitsとkeyspace_missesの比でヒット率を、INFO memoryのused_memoryとevicted_keysで容量の逼迫を確認します。アプリ側はStackExchange.Redisなどのクライアントで接続を使い回し、キーごとに有効期限を付けるのが前提です。継続監視はAzure Monitorのメトリックとアラートに載せると運用に乗ります。
Azure Cache for Redisでデータの永続化はできますか?
Premium以上の階層で、RDBのスナップショットとAOFのコマンドログという2方式のデータ永続化に対応します。保存先はPremiumがAzure Storageアカウント、EnterpriseがManaged Diskと分かれ、Enterprise系での永続化は公式ドキュメント上プレビュー扱いです。ただし永続化はデータ損失への復元性を高める仕組みで、キャッシュを恒久的なデータベースの代わりにするものではありません。キャッシュは揮発を前提とした層と割り切り、永続的なデータは別のデータストアに置く設計が安全です。
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