DeepSeek-V3.2は、DeepSeekが2025年12月1日に公開したオープンウェイトのLLMです。同じ日に推論特化の派生モデル「DeepSeek-V3.2-Speciale」も出ました。V3.1-Terminusとの構造上の違いは、長い文脈の計算量を減らす「DeepSeek Sparse Attention(DSA)」の1点だけです。この記事では、技術報告とモデルカードの数値でV3.2とSpecialeの違い、DSAの仕組み、ベンチマークを整理し、公式APIがV4へ切り替わった2026年10月時点でV3.2をどこでどう呼べるかを扱います。
DeepSeekの現行最新はV4系で、V3.2は1つ前の世代です。最新版はDeepSeek V4の解説記事で扱っています。
まとめ:DeepSeek-V3.2の要点
- 公開は2025年12月1日。V3.2-Exp(2025年9月29日)の正式な後継で、構造はV3.1-TerminusにDSAを足したもの。重みはMITライセンス。
- DSAは、軽量な「lightning indexer」で過去のトークンに点数を付け、上位2,048トークンだけに注意を向ける仕組み。主モデルの注意計算をO(L²)からO(Lk)に下げる。
- 技術報告の評価では、V3.2は推論でGPT-5-Highと同程度、Gemini-3.0-Proにはやや届かない。SpecialeはIMO 2025・IOI 2025・ICPC World Finals 2025で金メダル相当だが、ツール呼び出しに対応せず、出力トークンも多い。
- 公式APIでV3.2を使えたのは、2025年12月1日からV4が公開された2026年4月24日まで。今は旧モデル名も2026年7月24日に廃止され、公式APIからV3.2は呼べない。
- 2026年10月時点の主な経路は、Amazon Bedrock(
deepseek.v3.2・東京リージョンあり)、Microsoft Foundry(V3.2とSpecialeがGA)、OpenRouter(deepseek/deepseek-v3.2)、重みの自前ホスト。Vertex AIのマネージドAPIは2026年10月21日が廃止日。 - DeepSeek公式APIで新しく組むならV4。V3.2は、評価済みの版を固定したい、MITの重みを自社基盤で動かしたい、AWSやAzureの中で完結させたい、といった条件があるときの選択肢。
DeepSeek-V3.2の系譜:V3.2-Exp・V3.2・Specialeの公開日と提供期間
V3.2は単独のモデルではなく、試験版のV3.2-Exp、正式版のV3.2、推論特化のSpecialeの3本からなる系列です。Hugging Faceのdeepseek-aiに公開されたV3.2系のリポジトリは、この3つとV3.2-Exp-Baseだけです。「deepseek v3.2 flash」で探す人もいますが、Flashという名前はV4以降のモデルで使われています。
| 版 | 公開日 | 位置づけ | 公式APIでの扱い |
|---|---|---|---|
| V3.1-Terminus | 2025-09-22 | V3.2の学習の出発点 | 比較用の臨時APIが2025-10-15まで |
| V3.2-Exp | 2025-09-29 | DSAの試験版 | deepseek-chat/reasoner の中身 |
| V3.2 | 2025-12-01 | V3.2-Expの正式後継 | deepseek-chat/reasoner の中身 |
| V3.2-Speciale | 2025-12-01 | 推論特化の高計算量版 | 臨時エンドポイントで2025-12-15まで |
| V4(Pro/Flash) | 2026-04-24 | 次世代 | 旧名は2026-07-24に廃止 |
公式APIのモデル名は、版ではなく役割で固定されていました。DeepSeek API Docsの更新履歴によると、2025年12月1日にdeepseek-chatがV3.2の非思考モード、deepseek-reasonerが思考モードへ切り替わりました。2026年4月24日のV4公開で、この2つの名前はV4-Flashの非思考・思考モードに向け直され、3か月後の2026年7月24日に廃止されています。「deepseek-reasonerを呼べばV3.2が動く」のは、V4公開前日の2026年4月23日までの話です。
V3(2024年12月)やV3.1(2025年8月)との関係は、別記事のDeepSeek-V3の解説とDeepSeek-V3.1の解説にまとめています。V3.1で思考と非思考が1つのモデルに統合されたため、R1系を別に選ぶ必要はV3.1以降なくなりました。V3.2もその形を引き継いでいます。
DSA(DeepSeek Sparse Attention)の仕組みと長文コスト
技術報告「DeepSeek-V3.2: Pushing the Frontier of Open Large Language Models」は、V3.2の構造をV3.2-Expと完全に同じと書いています。V3.1-Terminusからの構造上の変更はDSAの導入だけです。総パラメータはHugging Faceの表示で685B(MTP層を含む)、ルーティング先の専門家は256個で、1トークンあたり8個が動くMoEです。MoEの考え方はMoE(Mixture of Experts)の解説で扱っています。
lightning indexerとtop-k選択
DSAは2つの部品でできています。1つ目のlightning indexerは、いまのトークンと過去の各トークンの組に「索引スコア」を付けます。ヘッド数が少なく、活性化関数にReLUを使い、FP8で実装できるので軽い計算で済みます。2つ目のトークン選択は、このスコアの上位k個のキー・バリューだけを取り出して注意計算に渡します。V3.2のconfig.jsonではindex_topkが2048、indexerのヘッド数が64です。
技術報告によると、主モデルの注意の計算量はO(L²)からO(Lk)に下がります(Lは系列長、kは選ぶトークン数)。indexer自体は全トークンを見るのでO(L²)のままですが、V3.1-TerminusのMLAより計算量は大幅に小さいと説明されています。「全部の計算がO(Lk)になる」わけではない点は押さえておくべきです。スパースアテンション全般とNSAとの違いはスパースアテンションの解説にまとめています。
継続学習の手順と、精度が落ちていないかの検証
DSAは新しく学習し直したものではなく、V3.1-Terminus(128Kまで文脈を拡張済み)からの継続学習で入れています。まず密な注意のまま他のパラメータを凍結し、indexerだけを1,000ステップ(計2.1Bトークン)学習させます。続いてトークン選択を有効にし、クエリごとに2,048トークンを選ぶ設定で、15,000ステップ(計943.7Bトークン)全体を学習しています。
精度への影響は、学習条件をそろえたV3.2-ExpとV3.1-Terminusの比較で確認されています。V3.2-Expのモデルカードの表では、MMLU-Proが85.0で同点、AIME 2025は88.4→89.3、HMMT 2025は86.1→83.6、Humanity’s Last Examは21.7→19.8でした。上下はありますが、ほぼ同等と言える範囲です。
コストは、H800を1GPU時間2ドルで借りた想定の実サービス計測で示され、トークン位置が後ろになるほどV3.1-Terminusとの差が広がります。短い系列のプリフィルについては、DSAを模した「masked MHA」モードを別に実装し、短文脈でも効率を上げていると説明されています。削減幅が大きくなるのは長い文脈です。
V3.2とV3.2-Specialeの違いと選び方
Specialeは、V3.2と同じ構造で、長く考えることを優先して学習させた実験的な派生版です。技術報告によると、強化学習では推論データだけを使って長さのペナルティを弱め、証明問題向けにDeepSeekMath-V2のデータセットと報酬の手法も取り入れています。逆に公式のV3.2には、配信コストと応答時間を抑えるために厳しめのトークン制約をかけています。両者の差は「どれだけ長く考えさせるか」です。
| 項目 | V3.2 | V3.2-Speciale |
|---|---|---|
| ツール呼び出し | 対応(思考中も可) | 非対応 |
| 思考モード | 思考・非思考を切替 | 深い推論専用 |
| AIME 2025の出力量 | 16k トークン | 23k トークン |
| Codeforcesの出力量 | 42k トークン | 77k トークン |
| 公式APIの提供 | 2026-04-24のV4公開まで | 2025-12-15まで(臨時) |
| ライセンス | MIT | MIT |
出力量は、技術報告のTable 3で正答率と並べて示された出力トークン数(千トークン単位)で、APIの最大出力の上限とは別物です。公開時の告知はSpecialeを「API-only(no tool-use)」とし、コミュニティによる評価と研究のための提供と位置づけていました。モデルカードにも、Specialeは深い推論専用でツール呼び出しに対応しないと明記されています。
Specialeを選ぶ場面と避ける場面
Specialeが向くのは、数学の証明や競技プログラミングのように、正解の検証ができて時間をかけてよい問題です。モデル自身に関数を呼ばせて検索やDB参照を進めるエージェント構成には使えません。アプリ側で検索結果を取ってきてプロンプトに入れる形のRAGなら組めますが、出力トークンが多いぶん応答は遅く、費用もかさみます。
2026年10月22日に確認した範囲では、Specialeをマネージドで呼べるのはMicrosoft Foundryです。Azureが直接販売するモデルの一覧にDeepSeek-V3.2-SpecialeがGAで載っており、引退日は未定です。この一覧はSpecialeのツール呼び出しを「Yes」としていますが、DeepSeekのモデルカードは非対応と明記しているので、ツールを渡す前提では使わないほうが安全です。Amazon BedrockのDeepSeekモデル一覧はR1・V3.1・V3.2の3つでSpecialeは無く、OpenRouterのdeepseek/deepseek-v3.2-specialeは同日時点で提供元(endpoints)が0件でした。
ベンチマークで見るDeepSeek-V3.2の実力
以下は技術報告のTable 2から、V3.2(思考モード)と主な比較対象を抜き出したものです。いずれもDeepSeek自身の評価で、第三者の再現ではありません。MMLU-ProとGPQA Diamond、AIME 2025、LiveCodeBench(2024年8月〜2025年4月の問題)は正答率(%)、SWE Verifiedは解決率(%)、Terminal Bench 2.0は正答率、τ2-Benchはカテゴリ平均のPass@1です。
| ベンチマーク | V3.2 | GPT-5 High | Gemini-3.0-Pro | Claude-4.5-Sonnet | Kimi-K2 Thinking |
|---|---|---|---|---|---|
| MMLU-Pro | 85.0 | 87.5 | 90.1 | 88.2 | 84.6 |
| GPQA Diamond | 82.4 | 85.7 | 91.9 | 83.4 | 84.5 |
| AIME 2025 | 93.1 | 94.6 | 95.0 | 87.0 | 94.5 |
| LiveCodeBench | 83.3 | 84.5 | 90.7 | 64.0 | 82.6 |
| SWE Verified | 73.1 | 74.9 | 76.2 | 77.2 | 71.3 |
| Terminal Bench 2.0 | 46.4 | 35.2 | 54.2 | 42.8 | 35.7 |
| τ2-Bench | 80.3 | 80.2 | 85.4 | 84.7 | 74.3 |
表のとおり、知識系(MMLU-Pro・GPQA)ではGPT-5 HighにもClaude-4.5-Sonnetにも届いていません。「GPT-5級」と言えるのは数学・コードの推論と一部のエージェント評価までです。Terminal Bench 2.0の46.4にも条件があります。技術報告によると、思考モードの文脈管理が評価用のTerminusフレームワークと合わないため、Claude Codeのフレームワークで測った値です。Terminusで非思考モードを測ると39.3でした。
Specialeの競技実績
技術報告のTable 4では、SpecialeはIMO 2025で35/42点、CMO 2025で102/126点、IOI 2025で492/600点、ICPC World Finals 2025で12問中10問を解き、いずれも金メダル相当です。順位はICPCで2位、IOIで10位でした。DeepSeekは各大会の最終提出物をモデルリポジトリのassets/olympiad_casesに置いており、第三者が答案を確認できます。
DeepSeek-V3.2の世界知識・トークン効率・複雑タスクの限界
技術報告の結論は、Gemini-3.0-Proのような最先端のクローズドモデルに比べた限界を3つ挙げています。1つ目は、学習FLOPsが少ないぶん世界知識の幅が劣ること。2つ目は、同じ品質を出すのにより長い生成が必要なこと(トークン効率)。3つ目は、複雑なタスクの解決力がまだ及ばないことです。固有名詞の多い質問応答や、応答時間が厳しい対話に使う前には、自分の業務データで試す必要があります。
2026年10月時点でDeepSeek-V3.2を使える経路
公式APIからV3.2が消えたあとも、クラウドと重みの配布でV3.2は使えます。ただし経路ごとに、コンテキスト長、最大出力、思考モードの扱いがそろっていません。Microsoft Foundryの値はFoundryのモデル引退スケジュールとAzure直販モデルの一覧によります。
| 経路 | モデルID | 状態 | 文脈長 | 最大出力 |
|---|---|---|---|---|
| DeepSeek公式API | – | 2026-04-24にV4へ切替 | – | – |
| Amazon Bedrock | deepseek.v3.2 | Active | 164K | 8K |
| Microsoft Foundry | DeepSeek-V3.2 | GA・引退日未定 | 128K | 128K |
| Vertex AI(MaaS) | deepseek-v3.2-maas | 2026-10-21が廃止日 | 163,840 | 65,536 |
| OpenRouter | deepseek/deepseek-v3.2 | 提供元12社 | 32,768〜163,840 | 7,168〜147,456 |
| 自前ホスト | deepseek-ai/DeepSeek-V3.2 | MITで配布中 | 163,840 | 設定次第 |
Bedrockの値はAWSのモデルカードによります。公開日は2025年12月1日、終了日は「2026年12月1日より前にはならない」とされ、東京(ap-northeast-1)のリージョン内推論にも対応します。知識のカットオフは2025年3月と書かれています。最大出力が8Kと短いので、長い思考を伴う使い方には向きません。
Vertex AIのモデルページは、deepseek-v3.2-maasエンドポイントを2026年7月21日に非推奨とし、2026年10月21日に廃止すると告知しています。同じページで、Thinkingは非対応です。Vertex AIで続けるなら、Model Gardenから自前デプロイする形になります。
Amazon BedrockのOpenAI互換APIによる呼び出し
Bedrockは、Bedrockの長期APIキーを使うとOpenAI互換のChat Completions APIで呼べます。モデルカードのサンプルはOPENAI_BASE_URLにhttps://bedrock-runtime.<region>.amazonaws.com/openai/v1を設定する形です。東京リージョンをcurlで呼ぶと次のようになります。
export BEDROCK_API_KEY="(Bedrockコンソールで発行した長期APIキー)"
curl https://bedrock-runtime.ap-northeast-1.amazonaws.com/openai/v1/chat/completions \
-H "Authorization: Bearer $BEDROCK_API_KEY" \
-H "Content-Type: application/json" \
-d '{"model": "deepseek.v3.2", "max_tokens": 1024,
"messages": [{"role": "user", "content": "DSAの仕組みを3行で説明して"}]}'
Pythonのopenaiパッケージを使う場合も、環境変数OPENAI_API_KEYにBedrockのAPIキー、OPENAI_BASE_URLに上記のエンドポイントを設定したうえで、model="deepseek.v3.2"を指定します。boto3のinvoke_modelやconverseでも同じモデルIDを使います。料金はAmazon Bedrockの料金ページで確認してください。
OpenRouterの量子化条件と提供元の指定
OpenRouterのdeepseek/deepseek-v3.2には、2026年10月22日時点で12社の提供元がぶら下がっています。同じモデルIDでも、提供元によって量子化(FP8かFP4か)、文脈長(32,768〜163,840トークン)、最大出力(7,168〜147,456トークン)が違います。OpenRouterの既定は、稼働状況のよい提供元のうち安い候補を価格の逆二乗で重み付けして選ぶ負荷分散です。何も指定しないと呼び出しごとに提供元が替わり、量子化や最大出力の違いが結果に出ることがあります。
{
"model": "deepseek/deepseek-v3.2",
"messages": [{"role": "user", "content": "..."}],
"provider": {"quantizations": ["fp8"]}
}
OpenRouterのプロバイダー選択の仕様にあるprovider.quantizationsで量子化を絞れます。提供元まで固定したいときは、provider.orderに1社だけを指定し、allow_fallbacksをfalseにします。既定ではフォールバックが有効で、指定した提供元が落ちると別の提供元に回るためです。提供元を固定しても、temperature=1.0でサンプリングする以上、同じ出力になる保証はありません。
料金:公式API時代の単価と現在の相場
V3.2-Expの公開時に、DeepSeekはAPI価格を50%以上下げました。V3.2の期間もその単価が続き、2026年1月時点の公式料金ページ(Wayback Machineの保存版)は次のとおりです。
| 項目(100万トークンあたり) | deepseek-chat | deepseek-reasoner |
|---|---|---|
| 中身 | V3.2 非思考 | V3.2 思考 |
| 入力(キャッシュヒット) | $0.028 | $0.028 |
| 入力(キャッシュミス) | $0.28 | $0.28 |
| 出力 | $0.42 | $0.42 |
| 文脈長 | 128K | 128K |
| 最大出力(既定/上限) | 4K/8K | 32K/64K |
公式APIの文脈長は128Kで、重みの設定値(163,840)より短く運用されていました。思考と非思考で単価は同じですが、最大出力が違い、FIM補完(Beta)は非思考のdeepseek-chatだけが対応していました。
現在の相場は経路で大きく開いています。OpenRouterのdeepseek/deepseek-v3.2を提供元別に見ると、2026年10月22日時点(100万トークンあたり)で最も安いGMICloudが入力$0.2088・出力$0.3096、Google Vertexが入力$0.56・出力$1.68、SambaNovaが入力$3・出力$4.5でした。同じモデルで出力単価に10倍以上の差があり、安い提供元はFP4量子化や最大出力の制限を伴うことがあります。単価だけでなく、前の節の量子化と最大出力をあわせて選んでください。
思考モードとツール呼び出しの扱い
V3.2は、思考を伴いながらツールを呼べるDeepSeek初のモデルです。告知では、学習用に1,800以上の環境と8万5千以上の複雑な指示を合成したと説明しています。この機能を正しく使うには、会話履歴のどこで思考を捨てるかの規則を知っておく必要があります。
公式エンコーダによる思考履歴の保持・破棄の検証
技術報告によると、過去の思考内容を捨てるのは新しいユーザーメッセージが来たときだけです。ツールの実行結果が追加されただけなら思考は残し、思考を捨てる場合もツール呼び出しとその結果の履歴は残します。V3.2の重みにはJinja形式のチャットテンプレートが含まれず、この規則はリポジトリのencoding/encoding_dsv32.pyに実装されています。Hugging Faceのmainブランチから取得したこのスクリプトに、「東京の天気を聞く→get_weatherを呼ぶ→結果「晴れ」が返る→続けて大阪の天気を聞く」という会話を渡し、encode_messages(messages, thinking_mode="thinking")が出力するプロンプトを確認しました(Python 3.14.6)。
[chat] '<|begin▁of▁sentence|><|User|>1+1=?<|Assistant|></think>'
[thinking] '<|begin▁of▁sentence|><|User|>1+1=?<|Assistant|><think>'
[tool後・思考保持?] True
[新しいuser後・思考保持?] False | ツール呼び出し履歴は残る? True
非思考モードはアシスタントの直後に</think>を置いて思考を閉じ、思考モードは<think>で開きます。ツールの結果を返しただけの段階では直前の思考が残り、ユーザーが次の質問をした時点で思考だけが消えて、ツール呼び出しの記録は残りました。ツール呼び出しは<|DSML|function_calls>という独自のタグで書かれます。
この規則のため、ツールの結果をユーザーメッセージとして返すエージェント実装では、ツールを呼ぶたびに思考が消えます。技術報告はRoo CodeやTerminusをその例に挙げ、こうした構成では非思考モードを使うよう勧めています。
経路ごとの切り替えパラメータの違い
思考モードの指定方法と応答のフィールド名は、経路によって違います。vLLMのDeepSeek-V3.2レシピは、公式APIとの差を次のように挙げています。
| 項目 | DeepSeek公式API(当時) | vLLM |
|---|---|---|
| 思考モードの有効化 | thinking: {"type": "enabled"} |
chat_template_kwargs: {"thinking": true} |
| 思考内容のフィールド | reasoning_content |
reasoning |
| ツール呼び出しが無いとき | tool_calls が None |
tool_calls が [] |
公式API向けに書いたコードを自前のvLLMへ向け替えると、reasoning_contentを読む処理が空振りし、tool_calls is Noneの判定も通らなくなります。経路を切り替えるときは、この3点を抽象化しておくと移行が楽になります。なお、Vertex AIのマネージドAPIはThinking非対応です。
DeepSeek-V3.2の自前ホストに必要な機材と起動設定
重みはHugging Faceのdeepseek-ai/DeepSeek-V3.2でMITライセンスで配布されています。safetensorsは163ファイル、合計約689.5GBで、ほぼ全体がFP8(E4M3)です。Specialeも同じ構造・同じサイズです。個人のPCや単一GPUに載る大きさではありません。
DeepSeek-V3.2のvLLM起動オプションと並列構成
vLLMのレシピでは、チャットテンプレートの大きな変更に--tokenizer-mode deepseek_v32で対応しています。起動の前に、対応GPUを用意し、レシピの指定どおりvLLM(nightly)とDeepGEMM(v2.1.1.post3)を入れておく必要があります。DeepGEMMはMQAロジットの計算に必須です。基本の起動コマンドは次のとおりです。
vllm serve deepseek-ai/DeepSeek-V3.2 \
--tensor-parallel-size 8 \
--tokenizer-mode deepseek_v32 \
--tool-call-parser deepseek_v32 \
--enable-auto-tool-choice \
--reasoning-parser deepseek_v3
ただし同じレシピは、H100・H200やB200・B300でFlashMLA-Sparseを使う場合にTP=8を避けるよう書いています。TP=8では1ランクあたり16ヘッドになり、64ヘッドへのパディングで性能が落ちるためです。推奨はHopperでTP=2、BlackwellでTP=1にデータ並列とエキスパート並列を組み合わせる構成(例:-dp 8 --enable-expert-parallel)です。レシピに載っている8×H20での計測(入力2,048・出力1,024トークン、10リクエスト毎秒)では、出力スループットが毎秒791.73トークン、最初のトークンまでの時間の中央値が約21.2秒でした。
サンプリングは、モデルカードの推奨どおりtemperature=1.0・top_p=0.95にします。V3.2-Expの推論デモコードには、indexerのRoPEの並び方に関する不具合があり、2025年11月17日に修正されています。それより前に自前で移植した推論コードを使っている場合は、更新されているか確認してください。
llama.cppも、2026年5月29日にマージされたPR #23346で、V3.2-Exp・V3.2・Specialeのlightning indexerとDSAに対応しました。PRの説明(マージ時点)には、モデル変換がtransformers 5.x で失敗するため4.x(例:4.57.6)に下げるよう注意書きがあります。GGUFに変換しても総パラメータ685Bのモデルである点は変わらず、量子化の度合いに応じた大容量メモリが要ります。
DeepSeek-V3.2を選ぶ場面と避ける場面
DeepSeek公式APIで新しくシステムを作るなら、選べるのはV4系だけです。V3.2は、クラウドや自前ホストの中で、次のような条件がはっきりしているときに選ぶモデルです。
- 過去にV3.2で評価・調整したプロンプトやエージェントがあり、モデルの版を変えずに運用を続けたい
- MITライセンスの重みを社内のGPU基盤で動かす必要があり、既にV3.2で評価済みの推論スタックを使いたい
- AWSやAzureの中で完結させる必要があり、Bedrockなら最大出力8K、Foundryなら入出力128Kの範囲で足りる
逆に、Specialeにツールを使わせたい用途は成り立ちません。Bedrock経由で長い思考や長文出力を前提にする用途も、最大出力8Kで頭打ちになります。知識の網羅性が問われる質問応答は、技術報告自身が弱点に挙げているので、自社データでの評価を先に行ってください。既存のV3.2連携をV4やほかのモデルへ移す作業は、API設計と経路の抽象化をまとめて見直す好機でもあります。移行の設計から相談したい場合は、API開発・システム連携の支援も参考にしてください。
DeepSeek-V3.2に関するよくある質問
DeepSeek-V3.2-Specialeとは何ですか?
V3.2と同じ構造で、学習時の出力長の制約を緩めて推論を伸ばした高計算量版です。IMO 2025やIOI 2025で金メダル相当の結果を出しましたが、ツール呼び出しには対応せず、出力トークンもV3.2より多くなります。公式APIでの提供は2025年12月15日までの臨時でした。
DeepSeek-V3.2は今も公式APIで使えますか?
使えません。公式APIは2026年4月24日にV4へ切り替わり、旧モデル名のdeepseek-chatとdeepseek-reasonerも2026年7月24日に廃止されました。V3.2を使うなら、Amazon Bedrock、Microsoft Foundry、OpenRouter、重みの自前ホストのいずれかになります。
deepseek-reasonerとDeepSeek-V3.2はどういう関係ですか?
deepseek-reasonerは公式APIで思考モードを呼ぶためのモデル名で、2025年12月1日から2026年4月23日まではV3.2の思考モードを指していました。それ以前はV3.2-ExpやV3.1-Terminus、その後はV4-Flashの思考モードに向いており、名前と中身の版は一致しません。
DeepSeek-V3.2のモデルサイズはどれくらいですか?
Hugging Faceの表示で685Bパラメータ、重みファイルは合計約689.5GBです。1トークンあたりに動く専門家は256個中8個のMoEですが、配布されたFP8の重みをGPUに常駐させるなら、複数GPUのサーバーが前提になります。重みの一部をCPUメモリに逃がす構成なら必要なGPUは減りますが、CPUとGPUの間の転送が増えるぶん速度は落ちます。量子化版はメモリを減らせる一方、精度への影響を自社の評価で確かめる必要があります。
DeepSeekの最新バージョンはどれですか?
2026年10月時点の最新はV4系で、V3.2は1つ前の世代です。最新版の構成と料金はDeepSeek V4の解説を見てください。