Azure AI Document Intelligenceの料金・使い方・精度|文書解析AIを実務目線で解説
Azure AI Document Intelligenceは、請求書やレシート、身分証明書といった帳票やPDFから文字・表・キー項目を構造化データとして取り出す、Microsoft Azureの文書解析サービスです。かつては「Azure Form Recognizer」と呼ばれ、現在はAzure AI Foundry(Foundry Tools)の一機能として提供されています。導入検討で最初に引っかかるのは「実際いくらかかるのか」「無料でどこまで試せるのか」の2点です。本記事は公式の価格・仕様(APIバージョン2024-11-30/v4.0時点)をもとに、料金をモデル別の実額で整理し、対応フォーマット・使い方・精度の勘所までまとめます。
まとめ:料金はページ課金、無料枠は月500ページ
結論を先に示します。課金は「解析したページ数×モデル単価」の従量制で、単価は用途ごとに大きく違います。文字起こしだけのRead(OCR)は1,000ページあたり約1.50ドル、レイアウトや請求書などの構造抽出は同10ドル、独自帳票のカスタム抽出は同30ドルが目安です(米国東部・USD建て、変動あり)。無料枠のF0は月500ページまで無料ですが、1リクエストで先頭2ページしか解析されないという実運用上の落とし穴があります。まず無料枠でStudioから精度を確認し、本番はPython/REST APIで自動化する、という順番が現実的です。
Azure AI Document Intelligenceとは(旧Form Recognizerの後継)
Azure AI Document Intelligenceは、スキャン画像やPDFに含まれる文字・表・チェックボックス・キーバリューを、座標や信頼度スコア付きのJSONとして返す文書解析AIです。単なるOCR(文字認識)にとどまらず、「どのラベルにどの値が対応するか」まで抽出できる点が特徴で、経理の帳票入力や契約書の項目抽出といった業務自動化に使われます。
サービス名は2023年に「Form Recognizer」から「Document Intelligence」へ改称され、2024年以降はAzure AI Foundry(旧Azure AI Studio)配下の「Foundry Tools」の一つとして整理されました。検索や公式ドキュメントで旧名が併記されるのはこのためで、機能実体は連続しています。
4系統のモデル:Read・Layout・事前構築・カスタム
モデルは役割で4系統に分かれ、選び方がそのまま料金と精度を左右します。
- Read(prebuilt-read):文字起こし専用のOCR。手書き・多言語に対応し、最も安価。テキストだけ欲しいときの既定候補。
- Layout(prebuilt-layout):文字に加えて表・段落・見出し・選択マーク(チェックボックス)の構造を抽出。Markdown出力にも対応し、RAGの前処理で使われる。
- 事前構築モデル:請求書(prebuilt-invoice)・領収書・身分証明書・納税フォーム・健康保険証などをMicrosoftが学習済み。定型帳票なら学習不要ですぐ使える。
- カスタムモデル:自社固有の帳票を数枚〜数十枚ラベル付けして学習させる。テンプレート型(同一レイアウト向け・高速)とニューラル型(レイアウト変動に強い)を選べる。
料金体系:1,000ページ単位のモデル別従量課金
料金は「1,000ページあたりの単価」で決まり、同じ1ページでも使うモデルで単価が変わります。以下は米国東部リージョン・USD建ての目安です(為替・改定で変わるため、最終確認は公式の価格ページで行ってください)。
| モデル/機能 | 単価(1,000ページ) | 主な用途 |
|---|---|---|
| Read(OCR) | 約 $1.50 | 文字起こしのみ |
| Layout | 約 $10 | 表・構造・Markdown抽出 |
| 事前構築(請求書・領収書・ID等) | 約 $10 | 定型帳票の項目抽出 |
| カスタム抽出(テンプレート/ニューラル) | 約 $30 | 自社固有帳票 |
| カスタム分類 | 約 $3 | 文書の種類振り分け |
| アドオン(高解像度・数式・フォント・バーコード等) | 各 約 $6 | 抽出精度の強化オプション |
| クエリフィールド | 約 $10 | 任意項目の指定抽出 |
Readが桁違いに安いのは、構造解析をしない文字起こし専用だからです。逆にカスタム抽出は最も高いため、「Microsoftの事前構築モデルで賄えるものをわざわざカスタム化しない」ことがコスト設計の起点になります。なお大量利用の場合、Readは月100万ページを超える分が約$0.60/1,000ページへ下がる段階制があります。
無料枠(F0)と有料(S0)の違い
Document Intelligenceには無料のF0と従量課金のS0の2つの価格レベルがあります。F0は月500ページまで無料で試用に向きますが、制限が実務にそのまま効くため、無料と有料の境界を正しく把握しておく必要があります。
| 項目 | 無料 F0 | 有料 S0 |
|---|---|---|
| 無料枠 | 月500ページ | なし(従量課金) |
| 1リクエストの解析ページ数 | 先頭2ページのみ | 最大2,000ページ |
| 最大ファイルサイズ | 4 MB | 500 MB |
| 解析リクエスト(TPS) | 1 | 既定15(引き上げ可) |
特に注意すべきは「先頭2ページのみ」です。F0で複数ページのPDFを投げても3ページ目以降は無視されるため、「精度が悪い」と誤解しがちですが、実際はプランの仕様です。3ページ以上の文書をまとめて解析する時点で、S0への切り替えが前提になります。
モデル選択とページ削減によるコスト最適化
コストは「どのモデルで何ページ投げるか」でほぼ決まります。実務では次の順で効きます。第一に、テキストだけで足りる工程はLayoutや事前構築ではなくReadで処理する(単価が約6分の1)。第二に、事前構築モデルで拾える帳票はカスタム化しない($30→$10)。第三に、アドオンは効果を検証した項目だけ有効化する(各$6が積み上がる)。第四に、事前にページ分割や不要ページの除去で解析ページ数そのものを減らす。カスタムのニューラルモデル学習は月10時間まで無料、超過分が約$3/時間なので、学習コストより解析ページ課金の方が本番では支配的です。
対応フォーマットとファイルサイズ・ページ数の上限
対応フォーマットはモデルによって範囲が異なります。PDF・JPEG/JPG・PNG・BMP・TIFF・HEIFの画像系は全モデルが対象ですが、Word(DOCX)・Excel(XLSX)・PowerPoint(PPTX)・HTMLはReadとLayoutモデルのみが対応します。請求書などの事前構築モデルはOffice形式を受け付けないため、Excel帳票を項目抽出したい場合はPDF化してから投入するのが確実です。
ファイルサイズとページ数の上限はプランで変わります。有料S0は最大500MB・2,000ページまで、無料F0は4MB・先頭2ページまでです。旧来「上限は一律50MB」と説明されることがありますが、現行v4.0の実際の上限はプラン別で、この数値は当てはまりません。画像は50×50〜10,000×10,000ピクセルの範囲が対象で、これを外れる極端に小さい/大きい画像はリサイズが必要です。
使い方:リソース作成からSDK・REST APIでの解析まで
利用開始の流れは、Azureポータルでリソースを作成し、まずStudioで精度を確認してから、SDK/REST APIでアプリに組み込む、という3段構えが定石です。
リソース作成とStudioでの試用
Azureポータルで「Document Intelligence」リソースを作成し、リージョン・価格レベル(F0/S0)を選ぶとエンドポイントとAPIキーが発行されます。コードを書く前に、ブラウザで動くDocument Intelligence Studioに自分のリソースを接続し、手元の帳票をドラッグ&ドロップして抽出結果と信頼度スコアを目視で確認します。ここでReadで足りるのか、Layoutや事前構築が必要なのかを見極めておくと、後の料金設計がぶれません。
Python SDK・REST APIでの解析
本番の自動化には、公式SDK azure-ai-documentintelligence(安定版1.0系、サービスバージョン2024-11-30対応)を使います。旧SDKの azure-ai-formrecognizer は非推奨のため、新規実装はこちらに寄せます。Layoutモデルで解析する最小コードは次の通りです。
pip install azure-ai-documentintelligence
from azure.core.credentials import AzureKeyCredential
from azure.ai.documentintelligence import DocumentIntelligenceClient
client = DocumentIntelligenceClient(
endpoint="https://<resource>.cognitiveservices.azure.com/",
credential=AzureKeyCredential("<api_key>"),
)
with open("invoice.pdf", "rb") as f:
poller = client.begin_analyze_document("prebuilt-layout", body=f)
result = poller.result()
for page in result.pages:
print(f"ページ {page.page_number}: {len(page.lines)} 行")
REST APIを直接叩く場合のエンドポイントは、モデルIDを含む次の形式です(prebuilt-read や prebuilt-invoice などモデルIDを差し替えて使います)。
POST {endpoint}/documentintelligence/documentModels/prebuilt-layout:analyze?api-version=2024-11-30
なお、OCR系の解説で見かける /vision/v3.2/read/analyze はComputer Vision(Azure AI Vision)のRead APIのエンドポイントで、Document Intelligenceのものではありません。解析は非同期(長時間実行操作)で、SDKでは begin_analyze_document が返すポーラーの result() を待つ設計になっています。
精度の勘所と、つまずきやすいポイント
精度は「モデル選択」と「入力画像の品質」でほぼ決まります。事前構築モデルは学習済みの帳票種別なら高精度ですが、レイアウトが自社独自なら値の取り違えが起きます。この場合はカスタムのニューラルモデルが有効で、レイアウトが揺れる帳票でも項目を追随できます。一方、同一レイアウトが大量にあるならテンプレート型の方が学習が速く安定します。
入力側では、傾き補正・十分な解像度・不要な背景の除去といった前処理が抽出精度に直結します。低解像度のスマホ撮影画像をそのまま投げると、Layoutでも表の罫線を誤検出しやすくなります。冒頭で触れた無料F0の「先頭2ページのみ」制限も、精度不良と誤認されがちな典型で、複数ページ文書を扱うなら最初からS0で検証するのが安全です。オープンソースのOCRと比較検討したい場合は、Tesseract OCRの基本的な使い方やTesseractの精度・商用利用とPSM/OEM設定の解説と、コスト・日本語精度・構造抽出の観点で突き合わせると判断しやすくなります。
よくある質問(FAQ)
Azure Document Intelligenceの料金はいくらですか?
解析ページ数に応じた従量課金で、単価はモデルで異なります。目安はRead(OCR)が1,000ページあたり約1.50ドル、Layoutや請求書などの事前構築モデルが約10ドル、自社帳票のカスタム抽出が約30ドルです(米国東部・USD建て、変動あり)。正確な金額は公式の価格ページで確認してください。
無料で使えますか?
無料のF0価格レベルで月500ページまで無料で試せます。ただし1リクエストにつき先頭2ページのみ解析され、ファイルサイズは4MBまでという制限があります。3ページ以上の文書を丸ごと解析するには有料のS0が必要です。
ExcelやWordのファイルは解析できますか?
ReadとLayoutモデルであれば、Excel(XLSX)・Word(DOCX)・PowerPoint(PPTX)・HTMLを直接解析できます。請求書などの事前構築モデルはOffice形式に非対応なので、その場合はPDF化してから投入します。抽出結果はJSONで返るため、Excelへの書き出しはアプリ側で行います。
Form Recognizerとの違いは何ですか?
実体は同じサービスで、名称が変わっただけです。「Azure Form Recognizer」が2023年に「Azure AI Document Intelligence」へ改称され、現在はAzure AI FoundryのFoundry Toolsに統合されています。SDKも旧 azure-ai-formrecognizer から新 azure-ai-documentintelligence へ移行しています。
対応している最大ファイルサイズ・ページ数は?
有料S0では最大500MB・2,000ページ、無料F0では4MB・先頭2ページまでです。「上限50MB」という古い説明が残っていますが、現行バージョンではプラン別のこの値が正となります。