Haiku OS(正式名称は「Haiku」)は、1990年代のBeOSの設計と操作感を受け継ぐオープンソースのデスクトップOSです。Linuxのディストリビューションではなく、カーネルからGUI、ファイルマネージャーまでを1つのプロジェクトが作っています。最新版は2026年8月26日公開のR1/beta6で、ベータ扱いのまま公式にはx86(32bit・64bit)向けに配布されています。この記事では、BeOSとの関係、beta6で変わった点、Linuxとの違い、VirtualBoxと実機へのインストール、日本語入力、使えるアプリ、そして何に使うと割に合うかを、公式サイトとHaikuPortsのレシピを根拠に整理します。
まとめ:Haiku OSの要点
- BeOSの後継を目指して2001年8月にOpenBeOSとして始まり、2004年に「Haiku」へ改称したOSです。BeOS由来のコードはTrackerとDeskbarだけで、残りは独自コードか既存オープンソースの派生です。APIはBeOSとほぼ互換です。
- 最新版はR1/beta6(2026年8月26日)。Firefoxの公式ブランドでの提供、HaikuWebKitのビルド時間がほぼ半減する性能改善、32bit版の最低メモリ256MBへの引き下げが主な変更です。
- Linuxとは別系統です。NewOS由来のカーネル、属性とクエリで検索できるファイルシステムBFS、起動時に合成されるパッケージ方式を持ちます。
- 公式ISO(anyboot)はUSBメモリに書き込んでライブ起動でき、VirtualBoxやQEMUでも動きます。UEFI機への実機インストールはEFIパーティションを手で作ります。
- 日本語表示はLocaleの設定で、日本語入力はHaikuDepotから入れるMozcなどで行います。
- 向くのは、OSの設計を学ぶ用途、BeAPIでのアプリ開発、x86_64の旧PCでの試用です。業務のメイン機は、データ消失を保証しないベータである点から勧めません。
Haiku OSの成り立ちとBeOSとの関係
BeOSは、Be Inc.が1990年代に開発したマルチメディア志向のOSです。同社の事業終了後、BeOSを受け継ぐOSを作る目的で、2001年8月18日にOpenBeOSとしてプロジェクトが始まりました。商標の衝突を避けるため2002年末の投票で「Haiku」が最多票を集め、2004年6月に新名称として発表されています。
BeOSのコードをどこまで引き継いだか
公式FAQによると、HaikuはBeOSの技術と使い心地を作り直したもので、コードベースとしてBeOSを土台にしてはいません。BeOSから取り込まれたのは、2001年にBe Inc.がオープンソース化したTracker(ファイルマネージャー)とDeskbar(スタートメニューとタスクバーに当たる部分)だけです。残りは独自に書いたコードか、既存のオープンソースの派生です。それでもAPIはBeOSとほぼ互換なので、BeOS向けに作られた多くのアプリがHaikuで動きます(バイナリのまま動かせるのは32bit版だけです)。
「HaikuOS」と呼ばれる理由と名前の由来
プロジェクトの名称はあくまで「Haiku」です。haiku.orgのドメインを取得できなかったため公式サイトがhaiku-os.orgになり、そこから「Haiku OS」「HaikuOS」という呼び方が広まりました。名前は日本の俳句から採られています。BeOSのWebブラウザがネットワークエラーを俳句で表示していたことと、俳句の簡潔さがBeOSの持ち味と重なることが理由です。
開発の主な節目
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2001年8月18日 | OpenBeOSとして開始 |
| 2004年6月 | 新名称「Haiku」とロゴを発表 |
| 2009年9月14日 | R1/alpha1 公開 |
| 2018年9月 | R1/beta1 公開 |
| 2024年9月13日 | R1/beta5 公開 |
| 2026年8月26日 | R1/beta6 公開(現行版) |
R1(最初の正式版)はまだ出ていません。beta6のリリースノートは「機能は揃っているが既知・未知のバグが残る」段階と説明しています。
最新版R1/beta6の変更点
beta6はbeta5から約2年ぶりのリリースで、530件以上のバグ・改善チケットが解決されました。利用者に効く変更は次のとおりです。
- Firefoxが正式な名前で使える:Mozillaから公式ブランドの使用許可が出て、HaikuDepotで「Firefox」として配布されています。LibreWolf、Floorp、Thunderbirdの名称を外したIcedoveなども入手できます。ただしいずれもx86_64版のみです。
- 体感速度の改善:ディレクトリエントリのキャッシュとディスクのブロックキャッシュのロックを見直した結果、16万ファイルを超えるリポジトリでの
git statusがキャッシュ有りで約15秒から約2.5秒に短縮されました。HaikuWebKitの全体ビルドはbeta5の4時間53分からbeta6の2時間33分へとほぼ半減しています。 - 最低要件の引き下げ:32bit版の最低メモリが384MBから256MBへ、ストレージが3GBから2GBへ下がりました。
- 画面サーバーの自動復帰:app_serverが落ちても、起動中のアプリが再接続して作業を続けられるようになりました。
- 古いパッケージ状態の自動削除:SoftwareUpdaterが古い状態を一定期間後に消し、
pkgman cleanupでも手動で削除できます。 - ハードウェア対応:直近5年ほどのx86機での起動不良が多数修正され、USB接続の有線LANとWi-Fiアダプタの対応が広がりました。Haiku上で動かすQEMUで、NVMMによるハードウェア仮想化(
-accel nvmm)が試験的に使えます(x86_64のみ)。
64bit版と32bit版の選び方
配布されるISOは x86_64(64bit)と x86_gcc2h(32bit)の2種類です。32bit版はBeOSとのバイナリ互換を保つため、独自に保守しているgcc2でシステムを組み、新しいアプリ用にgcc13も同梱しています。BeOS R5時代のアプリを動かしたいなら32bit版、それ以外は64bit版を選びます。Firefoxなど新しいソフトの多くは64bit版にしかないためです。公式の推奨環境は64bit版でCore i3(またはPhenom II)、メモリ2GB、ストレージ16GBです。
ARM対応の現状
beta6の配布対象はx86のみで、ARM版のISOはありません。リリースノートでは、ARM64版が仮想環境上でデスクトップまで起動するようになったと「開発中の機能」として紹介されています。Raspberry PiやApple Silicon搭載Macでふだん使いできる段階ではありません。
Haiku OSとLinuxの違い(カーネル・BFS・パッケージ)
公式FAQは、HaikuはLinuxディストリビューションではなく、Linuxカーネルも使っていないと明言しています。カーネルは、Be Inc.の元社員Travis Geiselbrecht氏が書いたNewOSカーネルの派生です。Linuxの仕組みそのものはLinuxの仕組みとディストリビューションの解説で扱っており、ここでは違いだけを比べます。
| 項目 | Haiku | 一般的なLinuxデスクトップ |
|---|---|---|
| 開発体制 | カーネルからGUIまで1プロジェクト | カーネル・表示系・デスクトップ環境が別々 |
| カーネル | NewOS由来 | Linux |
| GUIツールキット | BeAPI(C++)に統一 | GTK、Qtなどが混在 |
| 標準ファイルシステム | BFS(属性の索引とクエリ) | ext4、Btrfsなど |
| パッケージ | hpkgを起動時にマウントして合成 | ファイルを展開して配置 |
| ライセンス | 大半がMIT | カーネルはGPLv2 |
FAQはLinuxを選ばなかった理由として、目標の異なる部品を積み重ねると複雑さと統合の甘さが生まれる点を挙げています。公式FAQは、OS全体を1つの方針で作ることで、隅々まで一貫した操作感を実現すると説明しています。
BFSはファイルに任意の属性を付けて索引を作れ、ファイルシステム全体にデータベースのような「クエリ」をかけられます。beta6ではTrackerの検索でフォルダを指定して結果を絞れるようになりました。パッケージは圧縮されたファイルシステムイメージで、起動のたびに合成されます。導入と削除が速く、ブートローダーから以前の状態で起動し直すこともできます。
POSIX互換にも力を入れており、beta6では最新POSIX規格の追加分(O_CLOFORK、qsort_r、posix_devctl など)が実装されました。ネットワークドライバーはFreeBSDとOpenBSDのものを互換レイヤー経由で使っています。同じくLinux以外のUnix系としてFreeBSDとLinuxの違いも比較の参考になります。
Haiku OSのインストール手順
公式ISOは「anyboot」形式で、USBメモリ・空のディスク・DVDにそのまま書き込め、インストールせずにライブ起動で試せます。
ISOのダウンロードと改ざんの確認
公式サイトの「Get Haiku!」から、ミラーかtorrentでISOを入手します。ファイル名は haiku-r1beta6-x86_64-anyboot.iso と haiku-r1beta6-x86_gcc2h-anyboot.iso です。ダウンロード後は、公式サイトに載っているSHA256値と一致するかを確かめます。
# Linux / Haiku
sha256sum haiku-r1beta6-x86_64-anyboot.iso
# macOS
shasum -a 256 haiku-r1beta6-x86_64-anyboot.iso
# Windows
certutil -hashfile haiku-r1beta6-x86_64-anyboot.iso SHA256
64bit版の公式値は bb7743474fd175aea511be1799764ba054465285bbdf54c4722ca61d1fb4f5c9 です。Minisignによる署名の検証手順も同じページにあります。USBメモリへの書き込み方法(ddやRufusなど)は、ISOをUSBに書き込む手順(dd・Rufus・Ventoy)と同じ要領です。
VirtualBoxで試す設定
公式ガイドの手順は次のとおりです。
- 新規仮想マシンの種類を「Other」、バージョンを64bit版なら「Other/Unknown (64-bit)」、32bit版なら「Other/Unknown」にします。
- メモリを割り当てます。ガイドの目安は384MB以上ですが、ブラウザを使うなら推奨値の2GBに合わせます。
- VDI形式の仮想ディスク(可変サイズ)を作り、ストレージ設定でISOを光学ドライブに割り当てます。
- 起動したらDriveSetupで仮想ディスクをBe File Systemで初期化し、Installerでインストールします。
- 終わったらISOの割り当てを外します。
システム設定のポインティングデバイスを「USBタブレット」にするとマウスの統合が使えます。ネットワークにつながらないときは、ネットワークのアダプタータイプを「Intel PRO/1000 MT」に変えます。VirtualBox自体の導入はVirtualBoxのインストール方法と使い方を参照してください。
実機へのインストールとUEFI起動
レガシーBIOS機は、USBから起動してDriveSetupでパーティションを作り、Installerを実行するだけです。UEFI機は公式ガイドに従って、次の手順でパーティションを手で作ります(対象ディスクは全消去されます)。
- DriveSetupでディスクを「GUID Partition Map」で初期化します。
- 64MiBの「EFI system data」パーティションを作り、ラベル
EFIBOOTでFAT32にフォーマットします。 - 残りに8GiB以上の「Be File System」パーティションを作ってフォーマットします。
- DriveSetupを閉じ、Installerの「Tools > Install EFI loader」でEFIBOOTパーティションを選んでブートローダーを入れます。
- InstallerでBFSパーティションを指定してインストールします。
インストール前にライブ起動し、ネットワークと音が使えるかを確かめておくと、対応しない機種を事前に外せます。
beta5からbeta6への更新
公式に対応している更新元はbeta5だけです。Terminalでリポジトリをbeta6のものに差し替え、全体を同期してから再起動します。
pkgman add-repo https://eu.hpkg.haiku-os.org/haiku/r1beta6/$(getarch)/current
pkgman add-repo https://eu.hpkg.haiku-os.org/haikuports/r1beta6/$(getarch)/current
pkgman full-sync
shutdown -r
日本語表示と日本語入力の設定
表示言語は「Locale」プリファレンスの「Language」タブで、優先言語に日本語を加えて先頭に置きます。翻訳が欠けている箇所は、次の優先言語、最後は英語で表示される仕組みです。日付や通貨の書式は「Formatting」タブで言語と別に設定できます。
日本語入力は標準では入っていません。公式のウェルカムページ(日本語版)は、中国語・日本語・韓国語のインプットメソッドをHaikuDepotから入手できると案内しています。HaikuPortsには、Mozc(2.26.4451.1、Mozc-UT辞書入り)、Canna、Anthyのレシピがあります。辞書の語彙量で選ぶなら、Mozc-UT辞書で100万語以上を追加したMozcが第一候補です。
Haiku OSで使えるアプリ
アプリはGUIのHaikuDepotか、Terminalの pkgman install <パッケージ名> で入れます。標準のWebブラウザはWebKitベースのWebPositiveで、beta6の時点ではまだ単一プロセス版のエンジンです。重いサイトを見るなら、64bit版でFirefoxを入れる方が現実的です。
| 用途 | HaikuPortsのレシピ(2026年9月29日時点) |
|---|---|
| Webブラウザ | Firefox 156.0(x86_64のみ) |
| オフィス | LibreOffice 24.8.1.1(x86_64のみ) |
| 画像編集 | GIMP 3.2.4 |
| 動画再生 | VLC 3.0.23 |
| Windowsアプリ | Wine 11.8(x86_64のみ・64bitのexeのみ) |
| 開発言語 | Go 1.26.8(x86_64のみ)、Rust 1.94.1 |
KDEやGTKのアプリも多数移植されていますが、見た目はHaiku標準のアプリと揃いません。Wineのレシピは「このバージョンではWin64の実行ファイルしか動かない」と明記しており、32bitのWindowsソフトは対象外です。
Haiku OSの使い道と導入の判断基準
公式FAQは「メインのOSとして使えるか」に「はい」と答えつつ、個人ファイルの定期的なバックアップを強く勧めています。beta6のリリースノートも、データ損失が起きないことは保証できないと書いています。バグトラッカーには3,900件を超える未解決チケットがあります。この前提で、用途ごとの判断は次のとおりです。
Haiku OSが向いている用途(学習・BeAPI開発・旧PC試用)
- OSの設計を学ぶ教材:カーネル、表示サーバー、ファイルシステム、パッケージ管理までが1つのリポジトリにあり、全体を追えます。コードの大半はMITライセンスで、パッチはGerritで受け付けています。
- C++でのデスクトップアプリ開発:GUIがBeAPIに統一されているので、ツールキットの選定に迷いません。BeOS時代の資料もそのまま参考になります。
- 眠っているPCでの試用:64bit版が動くCore i3クラスで、メモリが2GB以上あれば、Firefoxも含めて一通り試せます。
Haiku OSが向かない用途(業務メイン機・32bit機でのWeb・Windowsソフト)
- 業務のメインPC:ベータでデータ損失の保証がなく、Windows・macOS向けに配られている業務ソフトの多くは使えません。
- 32bit専用の古いPCでWebを使う:最低メモリは256MBまで下がりましたが、Firefoxは64bit版にしかありません。32bit機はWebPositiveに頼ることになり、現代の重いサイトは厳しくなります。古いPCを軽いOSで再生する目的なら、Tiny Core Linuxなど軽量なLinuxの方が選択肢は広がります。
- Windowsソフトが前提の作業:Wineで動くのは64bitのexeに限られ、動作も保証されません。
判断の目安は、「Haiku自体に興味があるか」です。BeOSの操作感やOSの仕組みに関心があるなら、サブ機やVirtualBoxで十分に楽しめます。単に軽いOSが欲しいだけなら、Linuxの軽量ディストリビューションの方が早く目的を達成できます。
よくある質問
Haiku OSは無料で使えますか?商用利用はできますか?
無料で使えます。Haikuのコードの大半はMITライセンスで、改変や商用製品への組み込みも許されています。ただし一部のサードパーティ製コンポーネント(メディアコーデックなど)は別のライセンスで、「Haiku」の名称とロゴはHaiku, Inc.の登録商標です。
Haiku OSの最新バージョンはいくつですか?
2026年9月29日時点ではR1/beta6(2026年8月26日公開)が最新です。正式版のR1はまだ出ていません。毎日ビルドされる開発版(nightly)もありますが、安定性はリリース版より劣ります。
Haiku OSはRaspberry PiやM1 Macで動きますか?
公式リリースは動きません。配布されているのはx86の32bit版と64bit版だけです。ARM64版は仮想環境上でデスクトップまで起動する段階の開発中機能で、M1実機での起動は未マージのブランチにとどまっています。
BeOSのアプリはHaiku OSで動きますか?
32bit版(x86_gcc2h)ならBeOS R5のバイナリをそのまま動かせる可能性があります。64bit版はBeOSとのバイナリ互換を持たないため、ソースコードから再ビルドが必要です。
Haiku OSでLinuxのアプリは使えますか?
Linux向けのソフトは、ソースコードからHaiku向けにビルドし直して使うのが基本です。HaikuはPOSIX互換を広く実装しているため移植しやすく、HaikuPortsプロジェクトが移植したものがHaikuDepotにパッケージとして並んでいます。