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ソフトバンクの通信特化生成AI基盤モデル「LTM」とは|仕組み・精度・LLMとの違い

LTM(Large Telecom Model)は、ソフトバンクが2025年3月に発表した通信業界向けの生成AI基盤モデルです。汎用の大規模言語モデル(LLM)を土台に、自社の基地局データや通信の標準仕様を追加学習させ、モバイルネットワークの設計・運用を担わせる点が特徴です。この記事では、LTMが汎用LLMと何が違うのか、基地局最適化でどれだけの精度を出したのか、国産化やAITRAS(AI-RAN)との連携までを、公表資料をもとに解説します。

まとめ:LTMは「通信運用の暗黙知」をモデル化した基盤AI

  • 正体:通信ドメインに特化した生成AI基盤モデル。汎用LLMに通信データを追加学習させた二段階構造で、基地局のパラメータ調整など専門業務を自然言語で扱える。
  • 汎用LLMとの違い:ChatGPTのような汎用LLMは「頭は良いが経験のない新任者」(ソフトバンク先端技術研究所)で、通信固有の判断は苦手。LTMは学習段階から自社ネットワークデータを組み込む。
  • 実績:大規模イベント輻輳時のパラメータ最適化で94%、新設基地局のRAN設定生成で91%、学習から除外した既存基地局の設定再現で90%以上の精度を検証。
  • 国産化:2025年10月にSB Intuitionsの国産LLM「Sarashina」を統合し、学習から運用まで国内で完結。日本語性能とデータ主権を確保した。
  • 将来像:AI-RAN統合基盤「AITRAS」の判断エンジンとしてAPI連携し、2026年以降の商用ネットワーク導入を目指す。

以下、定義から精度、国産化、AITRAS連携、他社(NTT・KDDI)との違いまで順に見ていきます。

LTM(Large Telecom Model)とは──通信運用に特化した生成AI基盤モデル

LTMは、通信事業者のネットワーク運用に特化した生成AIの基盤モデルです。開発を主導したのはソフトバンクの先端技術研究所で、日本国内の拠点と米国シリコンバレー拠点が連携し、NVIDIAとの協業のもとGPU基盤上で開発を進めてきました。狙いは明快で、これまで一部のベテランエンジニアの経験に依存してきた基地局設定などの判断を、AIモデルに継承させることにあります。

汎用LLMとの違いは「学習段階から通信データを組み込む」点

汎用LLMとの最大の差は、専門知識の入れ方にあります。ChatGPTのような汎用LLMは自然言語の窓口としては優秀でも、基地局の周波数帯域や変調方式、アンテナのチルト角といった通信固有のパラメータを深くは理解していません。ソフトバンク先端技術研究所はこの状態を「頭は良いが経験のない新任者」と表現しています。

ここで、汎用LLMに通信データを後付けで参照させるRAG(検索拡張生成)では精度が足りない、という判断が効いています。LTMは検索で補うのではなく、モデルの学習段階から自社ネットワークデータを取り込む設計を採りました。専門書を手元に置いた素人と、現場経験を積んだベテランとの判断力の差に近い違いです。「LTMとLLMの違い」を一言でいえば、通信の実運用データで鍛えたかどうかに尽きます。

解決するのは基地局運用の属人化と専門家不足

LTMが向き合う課題は、通信運用の属人化です。基地局のパラメータ調整は、設定変更のたびに現地調査やシミュレーションを繰り返す必要があり、1件あたり数日を要することも珍しくありません。周辺基地局との干渉を避ける調整には複数の専門家の合意も要ります。ソフトバンクは、この数日がかりの作業を数分に短縮できる可能性をLTMに見いだしています。

さらに深刻なのが、暗黙知の消失リスクです。地形や建物配置に応じたセル境界の調整、時間帯ごとのトラフィック変動を見越したパラメータ設定は、マニュアル化しにくい判断を含みます。ベテランの退職でこうしたノウハウが失われれば、品質のばらつきに直結します。LTMは、組織に蓄積された運用ノウハウをデジタル資産として保存し、いつでも再現できる形に変えることを根本の動機に据えています。

3種の通信データで学習する設計と推論の最適化

LTMの技術的な芯は、通信事業者ならではのデータで追加学習した点にあります。テキストだけでなく、ネットワークの設定情報やパフォーマンス実測値、シミュレーション結果までを統合して取り込みます。

RAN設定・パフォーマンス・シミュレーションの3データ+国際標準

学習データは大きく3種類です。第一がRAN設定データ(基地局の位置、使用周波数、アンテナの方向やチルト角)。第二がパフォーマンスデータ(電波強度、スループット、接続数などの実測値)。第三がシミュレーションデータ(変復調処理の結果や仮想構成での性能予測値)です。これらを組み合わせることで、現実のネットワーク環境と通信工学の理論の双方を踏まえた推論が成り立ちます。

加えて、ITU(国際電気通信連合)や3GPPの標準仕様書もパブリックデータとして学習対象に組み込まれました。無線プロトコルの詳細や干渉管理の手法といった基盤知識を意図的かつ網羅的に学ばせることで、国際標準に沿った設定提案と、日本の通信環境に最適化した実践的な調整の両方を出力できるようにしています。全国の基地局群から集めた実データの規模は、他社が容易に模倣できない優位性の源泉です。

NVIDIA NIMでTTFT・TPSを約5倍に高速化

実用性を押し上げたのが推論の高速化です。NVIDIA NIM(NVIDIA Inference Microservices)を適用した結果、TTFT(最初のトークン出力までの時間)とTPS(1秒あたりのトークン生成速度)の両指標で約5倍の性能向上を達成したと公表されています。障害発生時の即応やトラフィック急増時の即時調整など、秒単位の判断が品質を左右する現場では、この速度差がそのまま運用品質に効きます。NIMの採用により、オンプレミスとクラウドの双方で柔軟に展開できる点も、セキュリティ要件が異なる利用シーンへの対応に不可欠でした。

この追加学習は、汎用LLMが既に持つ言語理解を活かしつつ通信知識を上乗せする方式で、ゼロから専用モデルを組むよりコストと期間を抑えられます。ファインチューニングの具体的な手法はLoRA(低ランク適応)の仕組みのような効率化技術と併せて理解すると位置づけがつかみやすくなります。

基地局最適化で示した精度──90%超の3ユースケース

LTMの実力を最も具体的に示すのが、基地局設定の最適化に特化したファインチューニングモデルの検証結果です。ソフトバンクは学習用エリアと評価用エリアを厳密に分け、評価用データを学習から除外したうえで、専門家が過去に行った最適化結果と突き合わせて精度を測りました。単なる暗記ではなく、未知の環境への汎化を検証する設計です。

既存局再現90%超・イベント最適化94%・新設局91%

公表された検証は3つのユースケースに整理できます。第一が既存基地局の再現テストです。学習データから意図的に除外した基地局(新設・既存の両ケースを含む汎化テスト)の設定をLTMに推論させ、社内の専門家が最適化した実設定と比較したところ、90%以上の精度で再現できたと報告されています(2025年3月発表)。単なる暗記ではなく、未知の環境へ汎化できることを示す結果です。

第二が大規模イベント輻輳時のパラメータ最適化で、94%の精度を記録しました。第三が新ビル建設に伴う新設基地局のRAN設定生成で、91%の精度で出力できたとされます。特に新設設計は、従来は現地調査・電波伝搬シミュレーション・干渉分析と複数工程を要したため、時間的制約の厳しい案件ほど効果が大きくなります。いずれもセル境界の調整値、アンテナのチルト角、送信電力といった複数パラメータの総合的な整合性として評価された点が要点です。

ファインチューニング未実施では精度が崩れる

見落とせないのが、検証から得られた「失敗パターン」です。通信データで追加学習しただけのモデルに、ユースケース固有のファインチューニングを施さないと、出力設定値の精度は大幅に低下しました。個々の値は妥当に見えても、送信電力とアンテナチルト角の組み合わせが不適切になり、カバレッジは改善するが隣接セルへの干渉が増える、といった副作用が典型です。つまりLTMは「導入すれば動く」ものではなく、用途ごとの適切なファインチューニングが前提になります。導入検討時は、対象業務に合わせた教師データの整備工数まで見込むべきです。

国産LLM「Sarashina」統合による国産化とデータ主権

2025年10月、ソフトバンクはLTMのベースモデルを国産LLMへ切り替えたと発表しました。SB Intuitionsが開発する国産LLM「Sarashina(さらしな)」を統合し、学習から運用まで日本国内で完結する国産AIモデルへ発展させたのです。SB Intuitionsはソフトバンクの100%子会社で、日本語に最適化したLLM開発に特化しています。

日本語の専門用語と機微データを国内で扱える構造

初期のLTMは英語中心の汎用LLMをベースにしており、英語圏の高い推論能力を使える利点はあったものの、日本語運用に課題が残っていました。運用手順書の曖昧な指示表現や障害報告書の微妙なニュアンスを取り違えれば、設定ミスに直結します。ベースモデルを日本語最適化されたSarashina(モデル一覧や提供形態)へ切り替えたことで、追加学習の効率が高まり、少ないデータでも精度の高い日本語出力が可能になりました。

もう一つの効果がデータ主権です。基地局の位置や設定、トラフィックの詳細は、国家の通信インフラに関わる機微情報です。学習から推論まで国内データセンターで完結させることで、機密データの国外流出リスクを避けられます。ソフトバンクの専務執行役員兼CTOである佃英幸氏は、この国産化により社内の知見や機微なデータを安全に活用できるようになると述べています。国産化は同時に、汎用LLM由来のライセンス制約を解消し、将来の外部通信事業者への展開余地を広げる布石でもあります。国産の生成AI基盤という文脈は、Noetra(旧・日本AI基盤モデル開発)の動きと合わせて見ると、通信・産業横断で進む主権AIの潮流が見えてきます。

AITRAS連携で描くAI-RAN時代の自律運用

LTMの価値は単体性能だけでなく、ソフトバンクのAI-RAN統合ソリューション「AITRAS(アイトラス)」と組み合わさって最大化します。AITRASは2024年11月に発表されたプロダクトで、AIとRAN(無線アクセスネットワーク)を同一の計算基盤上で統合運用します。LTMはその知的な判断エンジンとして位置づけられており、「ai-ran ltm」という検索意図の核心はこの連携にあります。

AIとRANを同一GPUで統合するアーキテクチャとオーケストレーター連携

AITRASはNVIDIA GH200 Grace Hopper Superchipを搭載した基盤上でAIとRANを同居させ、リソースを動的に配分します。トラフィックが少ない時間帯はGPUをAI処理へ、増えれば即座にRAN処理へ戻す制御により、RAN投資とAIインフラ構築の二重投資を避けられます。LTMはモデルサービスとしてAPI化され、AITRASのオーケストレーターに組み込まれてネットワーク計画・構成・最適化を担うAIエージェントとして機能する設計です。ネットワーク状況の変化を検知したオーケストレーターがLTMに最適化提案を求め、その出力でRAN設定を自動調整する、という一連のフローが想定されています。

SFC実証と2026年商用化に向けたロードマップ

実用性の検証は、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)での大規模実証で進みました。都市部想定の間隔でアンテナを設置し、GH200搭載サーバーがAIとRANの処理を担う環境で、高干渉エリアでの100台同時の動画再生をパケ詰まりなく実現。四足歩行ロボットの不審者追跡では0.1秒で制御情報を出力する低遅延も確認されています。商用化に向けては富士通と協力してC-RAN(集中型)とD-RAN(分散型)の2構成を実装し、都市部と地方で使い分けられる柔軟性を確保しました。NokiaのAnyRAN/MantaRay連携やRed Hatの電力最適化ツール「Kepler」の併用も進め、ソフトバンクは2025年度から屋外検証を進め、2026年以降の商用ネットワーク導入を目指しています。2026年3月にはLTMのマルチAIエージェント基盤を構築して分析・判断・実行を自動化する自律運用の検証を開始し、同月にはGSMAの「Open-Telco LLM Benchmarks」で総合第3位のトップクラス評価も獲得しました。

NTT・KDDIとのAI戦略の違い

通信大手3社はいずれも「通信企業からAI企業への転換」を掲げますが、アプローチは対照的です。ソフトバンクのLTMは通信運用というひとつの領域を深く掘る垂直深化型で、外部にAI基盤を提供するプラットフォーマー型のNTT・KDDIとは立ち位置が異なります。

項目 ソフトバンク(LTM) NTT(IOWN) KDDI(WAKONX)
戦略の軸 通信運用特化の生成AI基盤モデル 光電融合による次世代インフラ革新 業界横断のAIビジネス基盤
主な対象 自社ネットワークの設計・運用 多産業向けデータ活用基盤 小売・物流・製造等の産業DX
展開の型 垂直深化型(通信運用→海外展開) プラットフォーマー型(多産業横断) 水平展開型(業界横断)

NTTは次世代光通信基盤IOWNでインフラそのものを革新し、業界横断のデータ活用基盤を志向します(詳細はNTTのAIネイティブインフラ「AIOWN」構想を参照)。KDDIのWAKONXは、AIインフラ・モデル・サービスの三層で多様な産業のDXを支える水平展開型です。これに対しLTMは、通信事業者の実運用データを直接学習させたからこそ出せる精度を武器に、まず自社の本業をAIで変革し、その知見を海外事業者に展開する順序を描きます。どちらが優れているかではなく、深さで勝負するか広さで勝負するかという方向性の違いです。この垂直統合で培ったデータの独自性が、他社が入手しにくい競争優位(データモート)を形づくっています。

よくある質問

ソフトバンクのLTMとは何ですか?

LTMはLarge Telecom Modelの略で、ソフトバンクが2025年3月に発表した通信業界向けの生成AI基盤モデルです。汎用LLMを土台に、自社の基地局データや通信標準仕様を追加学習させ、基地局のパラメータ調整といった専門業務を自然言語で扱えるようにしています。開発はソフトバンク先端技術研究所が主導しました。

LTMと汎用LLM(ChatGPT等)は何が違いますか?

違いは専門知識の入れ方です。汎用LLMは通信固有のパラメータを深く理解しておらず、ソフトバンクは「頭は良いが経験のない新任者」と表現しています。RAGで後付け参照させても精度が足りないため、LTMは学習段階から自社ネットワークデータを組み込みました。通信の実運用データで鍛えている点が本質的な差です。

LTMは通信の現場で何ができますか?

中心は基地局設定の最適化です。検証では、学習から除外した既存基地局の設定再現で90%以上、大規模イベント輻輳時のパラメータ最適化で94%、新設基地局のRAN設定生成で91%の精度を確認しました。従来数日かかった調整を数分に短縮できる可能性があります。

AI-RANやAITRASとLTMはどう関係しますか?

AITRASは2024年11月発表のAI-RAN統合ソリューションで、NVIDIA GH200上でAIとRANを同一基盤に統合します。LTMはその判断エンジンとしてAPI化され、AITRASのオーケストレーターに組み込まれ、ネットワーク計画・構成・最適化を担うAIエージェントとして機能する構想です。

LTMはいつ商用導入されますか?

ソフトバンクは2025年度から屋外検証環境への導入を進め、2026年以降の商用ネットワークでの本格展開を目指すとしています。2025年10月にはSarashina統合による国産化と社内利用の開始も発表されました。具体的な時期は変わり得るため、最新情報は公式発表で確認してください。

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