歯科医院の新規開業では、内装・ユニット・エックス線装置などの設備に数千万円単位の資金がかかり、その多くを融資で調達します。事業計画書は、その融資を受けるために「この診療所はいくら売り上げ、いくら残り、借りたお金をどう返すか」を数字で説明する書類です。この記事では、日本政策金融公庫の創業計画書を軸に、開業資金と運転資金の積み方、厚生労働省の統計から組む売上計画、経費と損益分岐点の検算、保険医療機関の指定日と診療報酬の入金時期から逆算する資金繰りまでを整理します。
まとめ:歯科開業の事業計画書で押さえる要点
- 公庫に出すなら様式は創業計画書(記入欄10)が基本で、公庫は歯科医院の記入例も公開しています。自作の計画書でも提出できますが、同じ項目は埋めます。公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は限度額7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(据置はいずれも5年以内)です。
- 保険診療の売上は「1日の患者数×1日当たり点数×10円×診療日数」で積みます。厚生労働省の令和6年社会医療診療行為別統計では、歯科の1日当たり点数は835.8点でした。
- 運転資金は「保険収入が口座に入るまでの空白」から数えます。保険医療機関の指定日は原則毎月1日で、診療報酬は診療月の翌月10日までに請求し、翌々月の20日すぎに支払われます(支払基金の令和8年度予定表では20〜24日)。開業月の保険者負担分が入るのは、開業から2か月半ほどあとです。
- 経費は統計で検算します。第25回医療経済実態調査では、個人立の歯科診療所は医業収益5,088万円に対し損益差額1,409万円(27.6%)でしたが、この中から院長の生活費・税金・借入元金を払います。損益分岐点に加えて、返済と生活費まで賄える1日の患者数を計画書に示します。
- 歯科医師個人の開設は開設後10日以内の届出(医療法8条)、医療法人などそれ以外の開設者は事前の許可(同7条)です。保険医療機関の指定申請は開設届のあとなので、指定日から逆算して物件・内装・届出の日程を組みます。
- 歯科診療所は令和8年7月末で64,975施設あり、同年1月から7か月で500施設減っています。診療圏の競合は数で示し、自院の患者数の根拠につなげます。
歯科医院の事業計画書を出す相手と様式
歯科医院の開業資金は、日本政策金融公庫、民間の金融機関(自治体の制度融資・信用保証協会付きを含む)、医療機器のリースを組み合わせて調達するのが一般的です。どこに出すかで様式は変わりますが、審査で確かめられる中身は同じで、「計画どおり患者が来るか」と「その売上で返済できるか」です。
公庫の創業計画書で歯科医院が埋める欄
公庫の創業計画書は、各種書類ダウンロードのページで配布されているA4横1枚の様式で、1創業の動機、2経営者の略歴等、3取扱商品・サービス、4従業員、5取引先・取引関係等、6関連企業、7お借入の状況、8必要な資金と調達方法、9事業の見通し(月平均)、10自由記述欄の10欄です。冒頭に「お客さまご自身が作成された計画書をご提出いただいても結構です」とあり、自作の計画書でも出せます。公庫は歯科医院の創業計画書の記入例も公開しているので、記入の粒度はこれで確かめられます。歯科医院で特に厚く書くのは次の4欄です。
- 経営者の略歴等:勤務先の歯科医院名と在籍期間、担当した診療(補綴・インプラント・小児・訪問など)、分院長や院長代理の経験。臨床研修修了登録の有無もここで示せます。
- 取扱商品・サービス:診療科目(歯科・小児歯科・矯正歯科・歯科口腔外科)、保険診療と自費診療の構成、訪問診療の有無、診療時間と休診日。
- 必要な資金と調達方法:設備資金と運転資金を分け、見積書のある金額で書きます。合計と調達方法の合計は一致させます。
- 事業の見通し:創業当初と軌道に乗った後(1年後など)の月平均の売上・原価・経費・利益。計算根拠を余白か別紙に書きます。
融資制度は新規開業・スタートアップ支援資金が中心で、新たに事業を始める方と事業開始後おおむね7年以内の方が対象です。限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内で、いずれも据置期間5年以内です。以前の新創業融資制度にあった「創業資金総額の1/10以上の自己資金」の要件は、2024年度の制度改正でなくなりました。ただし自己資金の額は審査で見られ続けるので、通帳の動きで貯めた経緯を説明できるようにしておきます。1枚の様式に何を書くかの全体像は、事業計画書を1枚(A4)で書く方法でも整理しています。
記入例は、勤務歴10年・副院長経験のある歯科医師が駅近の商業ビルで開業する想定です。数字の置き方は次のとおりです。
| 欄 | 記入例の数字 |
|---|---|
| 取扱商品・サービス欄の売上構成 | 保険診療80%・自由診療20%(創業当初の売上計算とは不一致) |
| 必要資金 | 設備1,700万円+運転345万円=2,045万円 |
| 調達 | 自己資金745万円・公庫1,000万円・信用金庫300万円 |
| 創業当初の売上 | 保険6,000円×15人×23日=207万円+自由診療5万円 |
| 原価率・人件費 | 20%・60万円(常勤2人+パート1人) |
| 利益(当初/軌道後) | 月42万円/月63万円 |
利益欄には「所得税等の税金や借入金の返済元金はここから支払われます」「個人営業の場合、事業主分の人件費はここに含まれます」と注記があり、院長の生活費と元金返済は月42万円の中から出す前提です。販売先の欄では、窓口負担・自由診療を30%即金、社保・国保分を70%・翌々月20日/25日回収としており、保険収入の入金が遅れる構造も書き込まれています。記入例の設備資金は内外装500万円・診療設備1,000万円で、CTの有無やユニット台数によって金額は大きく変わるので、見積書の数字に置き換えます。
民間金融機関向けの月次計画と医療機器リースの支払額
民間金融機関や信用保証協会付きの制度融資では、様式は金融機関ごとに違います。公庫の創業計画書は「月平均」の2時点しか書かない様式なので、複数年の収支計画や月次の資金繰り表を求められたときに備えて、元になる表を最初から月次で作っておくと使い回せます。ユニットやCTをリースにすると、そのぶん設備資金の借入額は減り、毎月のリース料の支払いが始まります。会計・税務上の処理は契約の種類によって異なり(国税庁 No.5702)、売買として扱うリースもあるので、資金繰りでは借入の返済とリース料を合わせた毎月の支払額で確かめ、損益上の扱いは税理士と決めます。
開業資金の内訳と運転資金の積み方
必要資金は「設備資金」と「運転資金」に分けて書きます。設備資金は業者の見積書から積み、公庫の様式も見積書の添付を求めています。運転資金は人件費・家賃・材料仕入などの月額と、何か月分を見込むかの算定根拠で示します。
開業前の必要資金と見積書の対応
下表には設備資金と運転資金の両方が入っています。計画書の必要資金欄では使途ごとに振り分け、内装・機器・看板・保証金は設備資金、前払家賃・広告・求人などの支払いは運転資金に入れます。公庫の記入例でも、保証金は設備資金、家賃は運転資金の側に書かれています。
| 区分 | 主な項目 | 根拠にする書類 |
|---|---|---|
| 物件 | 保証金・仲介手数料・前払家賃 | 賃貸借契約書(案) |
| 内装・設備工事 | 内装・給排水・電気・空調・エックス線室の防護 | 内装業者の見積書 |
| 診療機器 | 歯科用ユニット・エックス線装置/CT・滅菌器・コンプレッサー | ディーラーの見積書 |
| IT | レセコン・電子カルテ・予約システム・オンライン資格確認 | ベンダーの見積書 |
| 開業前の費用 | 看板・ホームページ・内覧会・求人 | 見積書・発注書 |
ユニットの台数は、開業時に使う台数と将来増やす台数を分けて書きます。配管だけ先に引いておけば、ユニット本体の増設は、患者数が増えた段階でその時の手元資金と増設費用を見て判断できます。レセコンは算定や請求の要件と直結するので、選び方は歯科レセコンの選び方を参照してください。予約・問診・会計をレセコンとどうつなぐかまで含めて設計する場合は、医療機関向けのシステム開発のように開業前から相談できる窓口もあります。
運転資金:保険収入の入金待ち期間と必要残高
歯科医院の運転資金には、保険者負担分が口座に入るまでの支払いを見込む必要があります。窓口で受け取るのは患者負担分(原則3割、年齢と所得により1〜2割)だけで、残りは審査支払機関を通じて後から支払われます。請求は療養の給付及び公費負担医療に関する費用の請求に関する命令2条で「各月分について翌月十日まで」と決まっており、支払基金の令和8年度の支払予定日は診療月の翌々月の20〜24日です(国保連合会は別の日程)。社会保険診療報酬支払基金は2026年10月1日に医療情報基盤・診療報酬審査支払機構へ改組されましたが、本記事では公表資料との対応が分かるよう旧称の「支払基金」と書きます。
さらに、保険診療ができるのは保険医療機関の指定を受けた日からです。指定日は原則として毎月1日で、関東信越厚生局千葉事務所の令和8年度の締切表では、たとえば令和9年1月1日の指定を受けるには、受付番号情報提供依頼書を令和8年11月2日まで、指定申請を12月14日までに出す日程です(締切日は事務所ごとに違います)。この日程で1月1日に保険診療を始めると、支払基金分の入金は次のように進みます。
| 時期 | 出来事 | 入金 |
|---|---|---|
| 令和9年1月1日 | 保険医療機関の指定日・保険診療開始 | 窓口の患者負担分のみ |
| 2月10日まで | 1月診療分のレセプトを請求 | 窓口の患者負担分のみ |
| 3月23日 | 1月診療分の保険者負担分が支払われる(支払予定日) | 保険者負担分の初回入金 |
| 4月以降 | 2月診療分から毎月、翌々月の支払予定日に入金 | 以後毎月 |
1月1日から最初の入金日の前日までの約2か月半は、家賃・人件費・リース料・返済を窓口収入と手元資金で払うことになります。資金繰り表には、請求先(支払基金・国保連合会)ごとに対象年度の支払予定日を入れます。しかも開業直後は患者数が少ないので、最初に入る1月分の保険収入も小さい額です。運転資金は「固定費の何か月分」と丸めるより、患者数の立ち上がりを月ごとに置いた資金繰り表で、残高が最も少なくなる月を見つけ、その月でもマイナスにならない額を積むほうが審査で説明しやすくなります。資金繰り表の作り方は資金繰り表の作り方で解説しています。公庫の据置期間(最長5年)を使って開業当初の元金返済を止めるのも、この空白を埋める手段の一つです。
売上計画の算定式と患者数・点数・診療日数の根拠
保険診療の売上は、診療報酬の点数に1点10円を掛けて計算します。事業計画書では次の式で月の売上を積みます。
月の保険診療売上=1日の延べ患者数×1日当たり点数×10円×月の診療日数
1日当たり点数の全国値と令和8年度の初診料・再診料
1日当たり点数の目安には、厚生労働省の令和6年社会医療診療行為別統計が使えます。令和6年8月審査分のレセプトで、歯科の1日当たり点数は835.8点、1件(1か月ごとに提出される診療報酬明細書1枚)当たり点数は1,315.8点、1件当たり日数は1.57日でした。内訳は「歯冠修復及び欠損補綴」が29.9%で最も多く、「処置」20.9%、「医学管理等」14.6%が続きます。たとえば1日20人、月22日診療なら、20人×835.8点×10円×22日で約368万円です。全国値は全歯科の平均なので、自院の計画では予防・補綴・訪問など診療内容ごとに想定点数を積み上げ、全国値との差を説明できるようにします。公庫の記入例は保険診療の平均単価を1人6,000円と、全国値より控えめに置いています。
令和8年6月1日施行の令和8年度歯科点数表では、歯科初診料は272点、歯科再診料は59点です。ただし歯科外来診療における院内感染防止対策の施設基準を地方厚生局に届け出ていない医療機関は、初診料245点・再診料45点になります。開業時にこの届出を済ませるかどうかで、初診1回27点、再診1回14点の差が出るので、計画書の点数はこの届出を前提に置き、届出の段取りも開業スケジュールに入れます。改定の全体像は診療報酬改定2026の解説にまとめています。
患者数の立ち上がりと自費診療の置き方
患者数は開業初月から満席にはなりません。計画書では「開業当初」と「軌道に乗った後」を分け、月ごとの延べ患者数を段階的に増やして置きます。根拠には、勤務医時代に担当していた1日の患者数、診療圏内の人口と歯科診療所数、ユニット台数から見た上限を並べます。上限は予約枠で確かめます。たとえば診療時間8時間・1枠30分なら1ユニット1日16枠で、ユニット3台なら48枠です。ただし歯科医師や歯科衛生士の人数、処置の長さ、キャンセルで実際に使える枠は減るので、設備台数だけで診療能力を決めず、人員配置と合わせて上限を置きます(数字は仮定の例)。
自費診療(インプラント・矯正・セラミックなど)は、保険診療とは別の行で「月の件数×単価」で積みます。自費は1件の金額が大きく、件数が1〜2件ぶれるだけで月の利益が大きく変わるため、開業当初の計画では件数を控えめに置き、保険診療だけで固定費と返済をまかなえる形にしておくと審査で説明しやすくなります。自費診療の広告は医療広告ガイドラインの規制を受けるので、ホームページで集患する計画なら歯科医院のホームページ制作で規制の線を確認しておきます。
経費の統計比較と損益・資金収支の分岐点
計画書の経費率が業界の実態から外れていないかは、厚生労働省の医療経済実態調査と、日本政策金融公庫の小企業の経営指標調査の2つで確かめられます。前者は個人立と医療法人立を分けて集計しており、個人開業の計画と比べやすい統計です。
個人立と医療法人立の歯科診療所の収支
中央社会保険医療協議会の第25回医療経済実態調査(令和7年実施)の歯科診療所(集計2・青色申告者を含む)では、令和7年3月末までに終わった直近の事業年度の1施設当たり収支は次のとおりでした。括弧内と保険診療収益の割合は原表の構成比率で、分母は新型コロナウイルス感染症関連の補助金を除く医業収益と介護収益の合計です(医業収益単独に対する割合ではありません)。
| 項目(前年度) | 個人立 | 医療法人立 |
|---|---|---|
| 医業収益 | 5,088万円 | 1億1,737万円 |
| うち保険診療収益の割合 | 85.4% | 70.2% |
| 給与費 | 1,540万円(30.2%) | 5,954万円(49.1%) |
| 歯科材料費 | 369万円(7.2%) | 859万円(7.1%) |
| 歯科技工委託費 | 422万円(8.3%) | 944万円(7.8%) |
| 減価償却費 | 305万円(6.0%) | 539万円(4.4%) |
| 損益差額 | 1,409万円(27.6%) | 668万円(5.5%) |
個人立の損益差額率27.6%は高く見えますが、個人立の給与費には開設者本人の報酬相当額が含まれていません。院長の生活費、所得税・住民税、借入元金の返済は、損益差額に減価償却費などの現金支出を伴わない費用を足し戻した手元資金から払います。医療法人立は院長の役員報酬が給与費に入るため、給与費率が49.1%と高く、損益差額率は5.5%にとどまります。
公庫の小企業の経営指標調査(医療,福祉)は、2025年度調査で、公庫国民生活事業が2025年4〜12月に融資した従業者50人未満の法人の決算(2024年7月期以降)を集計したものです。歯科診療所122社の中央値は売上高総利益率87.4%、人件費対売上高比率52.2%、売上高営業利益率0.1%、損益分岐点比率100.8%でした。法人の数字なので、医療経済実態調査の医療法人立と同じく人件費が売上の半分を占めます。
個人開業の計画書で人件費率を法人の表と同じ50%前後に置き、さらに院長の生活費を利益から引くと、院長の取り分を経費と利益の両方から差し引く計算になり、必要な患者数を過大に見積もります。公庫の創業計画書も、事業の見通し欄の人件費に「個人営業の場合、事業主分は含めません」と注記しています。スタッフの給与と社会保険料だけで人件費を積み、院長の生活費は返済原資の計算で別に引きます。原価率は、個人立の歯科材料費と技工委託費の合計(約15%)や公庫の記入例(20%)を検算の目安にします。自費の技工物や外注の比率が高い診療方針で原価率がこれより高くなるなら、その理由を計画書に書きます。
現金収支の分岐点と返済に必要な患者数
損益分岐点売上高は「固定費÷(1−変動費率)」で求めます。会計上の損益分岐点には減価償却費も固定費として含めますが、開業資金の計画で知りたいのは「毎月の現金支出を賄える売上」なので、以下は減価償却費を除いた現金支出で計算します。変動費は主に歯科材料費と技工委託費で、上の個人立の数字から売上の15.5%と置きます。仮に月の固定費(家賃・スタッフの給与と社会保険料・リース料・保守料・水道光熱費・支払利息など)を260万円とすると、次のようになります。
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 現金支出を賄う売上 | 260万円÷(1−0.155) | 約308万円 |
| 1日の患者1人当たり売上 | 835.8点×10円 | 8,358円 |
| 現金支出を賄う1日の患者数 | 308万円÷(8,358円×22日) | 約17人 |
| 返済と生活費まで賄う売上 | (260万+元金返済21万+生活費・税60万)÷0.845 | 約404万円 |
| その1日の患者数 | 404万円÷(8,358円×22日) | 約22人 |
固定費・返済額・生活費の金額は計算の流れを示すための仮置きで、実際の計画では見積書と返済予定表の数字に差し替えます。元金返済21万円は、設備資金5,000万円を20年・元金均等(据置なし)で返す場合のおおよその月額で、支払利息は固定費260万円の中に含めています。据置期間を設ける場合は、元金返済が始まった後の資金繰りも確認します。損益分岐点の考え方と比率の目安は損益分岐点比率の解説で詳しく扱っています。審査担当者が確かめるのは、この「返済まで賄う患者数」が、開業から何か月目に、どの根拠で達成されるかです。
開設手続きと保険医療機関の指定から逆算する日程
開設の手続きは、開設者が誰かで変わります。医療法8条により、臨床研修等修了歯科医師が個人で診療所を開設したときは、開設後10日以内に都道府県知事(保健所を設置する市・特別区では市長・区長)へ届け出ます。医療法人など臨床研修等修了歯科医師以外の者が開設する場合は、同法7条で開設前に許可が必要です。医療法人で始めるには法人の設立認可も要ります。令和8年7月末の医療施設動態調査では、歯科診療所64,975施設のうち開設者が個人の施設が46,542(約72%)、医療法人が17,712で、個人開設が多数を占めます。
手続きの順番は、川崎市の歯科診療所新規開設の手引き(個人開設・令和8年6月改訂)が分かりやすく、事前相談→施設完成→開設→開設届(10日以内)→地方厚生局の社会保険手続き→保険診療開始の順です。エックス線装置を設置したときは、設置後10日以内にエックス線装置設置届も出します。保険医療機関の指定申請には開設届を出していることが前提になるため、指定日から逆算すると、開設と開設届は指定申請の締切より前に済ませる必要があります。
| 順番 | 手続き | 提出先 | 期限・時期 |
|---|---|---|---|
| 1 | 事前相談(平面図・開設スケジュール) | 保健所 | 物件契約・内装着工の前 |
| 2 | 診療所開設届 | 保健所 | 開設後10日以内 |
| 3 | エックス線装置設置届 | 保健所 | 設置後10日以内 |
| 4 | 保険医療機関の指定申請 | 地方厚生局 | 指定日の前月中旬ごろが締切 |
| 5 | 施設基準の届出(院内感染防止対策など) | 地方厚生局 | 算定を始める月に合わせて |
事業計画書の開業予定日は、この表の4の指定日に合わせて書きます。内装工事が1か月遅れると指定日も1か月ずれ、その間の家賃とスタッフの給与は売上なしで出ていきます。工事の遅れに備えて、運転資金に1か月分の固定費を上乗せしておくと計画が崩れにくくなります。
審査で突かれやすい計画書の弱点
運転資金と返済原資は前の章で扱ったので、ここではそれ以外に提出前に確認しておく3点を挙げます。
- 診療圏の競合を数で示していない:医療施設動態調査(令和8年7月末概数)では歯科診療所は64,975施設で、令和7年12月末の65,475施設から7か月で500施設減っています。令和7年医療施設調査では、2024年10月から2025年9月までの1年間で開設1,282件に対し廃止が1,915件でした。この開設・廃止には、移転に伴う旧施設の廃止と新施設の開設も含まれます。全国で減っていても、駅前など個別の診療圏では新規開業が続く場所があります。半径500mや1kmの歯科診療所数と人口を数え、1院あたりの人口で競合の密度を示します。自院の患者数は、この密度に受診率や勤務医時代の実績などの仮定を重ねて別に置き、仮定を明記します。
- 自費診療の件数で利益を作っている:保険診療だけでは赤字で、自費の件数が増えたときだけ黒字になる計画は、自費の件数の根拠(勤務先での実績など)を求められます。
- 金額に見積書がない:内装・機器の金額がネットの相場だけで、業者の見積書が添付されていない計画は、必要資金そのものを疑われます。
よくある質問
歯科開業の事業計画書は自分で書けますか?
書けます。公庫の創業計画書は記入欄10のA4横1枚で、自作の計画書での提出も認められています。数字の根拠(患者数・点数・見積書)は院長本人が面談で説明する必要があるので、税理士やコンサルタントに頼む場合も、根拠の数字は自分で集めておきます。
歯科医院の開業に自己資金はいくら必要ですか?
公庫の新規開業・スタートアップ支援資金には、2024年度以降、自己資金の要件はありません。ただし自己資金の額と貯めた経緯は審査で見られます。必要資金のうち融資で足りない分と、開業後数か月の生活費は自己資金でまかなう前提で計画します。
保険診療の収入はいつ入金されますか?
診療月の翌月10日までにレセプトを請求し、翌々月の支払予定日に支払われます。支払基金の令和8年度の予定日は20〜24日で、国保連合会は別の日程です。1月に保険診療を始めた場合、1月分の保険者負担分が入るのは3月下旬です。開業から入金までの約2か月半は、窓口収入と運転資金で固定費を払います。
歯科医院の開業手続きは何から始めますか?
保健所への事前相談から始めます。平面図と開設スケジュールを持って相談し、構造設備に問題がないことを確かめてから物件を契約し、内装工事に入ります。保険医療機関の指定日は原則毎月1日なので、指定申請の締切から逆算して開設日と開設届の日程を決めます。
医療法人で歯科医院を新規開業できますか?
できますが、医療法人の設立認可と、医療法7条による診療所開設の許可が必要です。個人で開設する場合は開設後10日以内の届出で済みます。歯科診療所の約72%は個人開設(令和8年7月末)で、医療法人化は開業後に所得や分院展開の計画が固まってから検討する選択肢です。