Amazon Application Recovery Controller(ARC)とは?機能・料金・Route 53 ARCとの違いを解説
Amazon Application Recovery Controller(ARC)は、AWS上のアプリケーションを「アベイラビリティーゾーン(AZ)1つの障害」と「リージョン全体の障害」の両方から素早く復旧させるためのAWSサービスです。障害時にトラフィックを健全なAZ・リージョンへ切り替える操作を、事前定義したガードレール付きで制御します。2024年に旧称「Amazon Route 53 Application Recovery Controller(Route 53 ARC)」から現在の名称へ変わり、2025年8月には複数リージョンの切り替えを束ねるRegion switchが加わりました。この記事では、ARCの機能・料金・対応リージョン、そしてRoute 53 ARCからの変更点を実装目線で整理します。
まとめ:ARCの要点
- 役割:AZ障害・リージョン障害からの復旧を「事前設計+ワンオペで切替」できるようにするAWSの可用性制御サービス。復旧の実行手段であり、監視ツールそのものではない。
- 2つの守備範囲:単一リージョン内(マルチAZ)はゾーンシフト/ゾーンオートシフト、複数リージョン間はルーティングコントロール/Region switch/準備状況チェック。
- 名称:旧「Route 53 ARC」が2024年に「Amazon ARC」へ改称。ゾーンシフト単体は名称変更後も同じ考え方で使える。
- 料金の勘所:ゾーンシフト/ゾーンオートシフトは追加料金なし。ルーティングコントロールは常時稼働するクラスター課金(1クラスター2.50 USD/時間)が発生するため、使う機能を絞ることがコスト管理の中心。
- 誤解の是正:ARCはAWS内の復旧サービスで、Google Cloud等の他社クラウドへトラフィックを切り替える機能ではない。
Amazon ARCとは何か:解決する課題とRoute 53 ARCからの変更点
クラウド上のシステムは、AZやリージョンを分散させれば理論上は冗長化できます。しかし実際の障害時に「どのトラフィックを、どの健全なリソースへ、誤操作なく切り替えるか」を手作業で判断すると、対応が遅れたり設定ミスで二次被害を招いたりします。ARCは、このフェイルオーバーの実行と安全確保を専任で担うサービスです。健全性の常時監視はCloudWatch Syntheticsによる外形監視などが担い、ARCはその結果を受けて切替を制御する、という役割分担になります。
Route 53 ARCからの名称変更と再編
ARCはもともと「Amazon Route 53 Application Recovery Controller(Route 53 ARC)」として提供され、DNSベースのルーティング制御(ルーティングコントロール)と準備状況チェックを中心にした機能でした。その後、AZ単位で切り替えるゾーンシフト・ゾーンオートシフトが加わり、2024年後半に名称が「Amazon Application Recovery Controller(ARC)」へ変更されました。さらに2025年8月には、複数リージョン・複数アカウントにまたがる大規模なフェイルオーバーを計画・実行するRegion switchが追加され、AZからリージョンまでの復旧を1サービスに統合した形です。「route53 arc」で探している場合も、現行の実体はこのARCを指します。名称や対応範囲は更新が続くため、最新は公式ドキュメントで確認してください。
ARCが扱う2つの復旧領域
ARCの機能は、障害の広がりに応じて2領域に分かれます。
| 復旧領域 | 対象の障害 | 主な機能 |
|---|---|---|
| マルチAZ(単一リージョン内) | 1つのAZの障害 | ゾーンシフト/ゾーンオートシフト |
| マルチリージョン | リージョン全体の障害 | ルーティングコントロール/Region switch/準備状況チェック |
自社のワークロードが単一リージョンのマルチAZ構成なら前者だけで足り、地理冗長を組む場合に後者を追加する、という順で検討すると機能とコストを絞り込めます。可用性設計そのものの考え方は可用性と稼働率の計算もあわせて確認してください。
マルチAZ復旧:ゾーンシフトとゾーンオートシフト
同一リージョン内で1つのAZだけが不調になったとき、そのAZからトラフィックを外して健全なAZへ寄せるのがゾーンシフト系の機能です。ロードバランサーの分散対象からAZを一時的に外すイメージで、ロードバランサーの振り分けと組み合わせて効きます。
ゾーンシフト(手動・一時的)
ゾーンシフトは、管理者が対象リソースを指定して手動でトラフィックを不調AZから外す操作です。恒久設定ではなく一時的なもので、開始時に最大3日(延長可)の有効期限を指定します。想定用途は、AZ単位のAWS側障害だけでなく、特定AZに配備した不良デプロイの影響切り離しなど。期限を持たせることで「切り替えたまま戻し忘れる」事故を防ぎます。対応リソース(ELBやAuto Scalingグループ等)が決まっているため、利用前に対象リソースが対応しているかを確認します。
ゾーンオートシフト(自動・AWSのテレメトリ起点)
ゾーンオートシフトは、AZの不調をAWSが検知したときにAWS側が自動でトラフィックを退避させる機能です。判断には、AWSネットワーク・Amazon EC2・Elastic Load Balancingなど複数の内部テレメトリが使われ、問題が解消したと判断されると自動的に元へ戻します。管理者の即応を待たずに退避が始まるため、AZ障害の初動を短縮できます。一方で、意図しないタイミングで退避が起きても健全なAZが残りの負荷を吸収できる容量設計が前提になる点は、有効化前に押さえておく必要があります。ゾーンシフト・ゾーンオートシフトはいずれも追加料金なしで利用できます。
マルチリージョン復旧:ルーティングコントロール・Region switch・準備状況チェック
リージョン全体が使えなくなる事態に備えるのが、マルチリージョン向けの3機能です。過去の大規模なクラウド障害の実態はAWS障害の原因と対策で整理しています。
ルーティングコントロールと安全ルール
ルーティングコントロールは、DNSレベルでリージョン間のトラフィックを切り替えるスイッチです。障害時に稼働系(アクティブ)と待機系(スタンバイ)を切り替えてフェイルオーバーします。DNSの制御自体はRoute 53などの名前解決を基盤にします。ここで重要なのが安全ルールで、たとえば「アクティブとスタンバイの両方が同時に有効化されない」といったガードレールを定義でき、切替時の二重稼働やスプリットブレインを防ぎます。ルーティングコントロールは、後述するクラスター上で常時稼働するため、この機能を使う構成では継続的なクラスター料金がかかります。
Region switch(2025年追加の広域フェイルオーバー)
Region switchは、複数リージョン・複数アカウントにまたがる復旧を、計画(プラン)として定義し、集中管理・自動実行・観測できる機能です。ルーティングコントロールがトラフィックの向き先を切り替える「スイッチ」なのに対し、Region switchは「どの順で、どのリソースを、どう切り替えるか」という復旧手順全体をオーケストレーションします。大規模なフルスタックのフェイルオーバーを人手で回すと手順漏れが起きやすいため、手順をコード化して繰り返し検証できる点が実務上の利点です。
準備状況チェック(フェイルオーバー前提の維持確認)
準備状況チェックは、切り替え先リージョンが「いつ切り替えても受けきれる状態」に保たれているかを継続監視する機能です。リソースのクォータ・キャパシティ・ネットワークのルーティングポリシーを監視し、フェイルオーバー能力を損なう変化を通知します。重要なのは、これは障害発生中のクリティカルパスに置く機能ではない点で、平常時に待機系の劣化(容量不足や設定ドリフト)を早期に見つけるための仕組みだと位置づけると使い分けを誤りません。なお準備状況チェックは2026年4月30日以降、新規顧客への提供が終了しました(既存顧客は継続利用可)。これから同種の構成検証を始める場合、AWSはRegion switchのプラン評価機能への移行を推奨しています。
ARCの主要コンポーネントと設定の流れ
ルーティングコントロールを使う構成は、いくつかの構成要素の組み合わせで動きます。設定の全体像を押さえると、料金の発生源も理解しやすくなります。
| 要素 | 役割 |
|---|---|
| クラスター | ルーティングコントロールの状態を保持する高可用な基盤。複数のリージョンエンドポイントで冗長化される |
| コントロールパネル | ルーティングコントロールをまとめて管理する単位 |
| ルーティングコントロール | オン/オフでトラフィックの向き先を切り替えるスイッチ |
| 安全ルール | スイッチ操作に課すガードレール(同時有効化の禁止など) |
| 準備状況チェック/復旧グループ | 復旧対象のリソース群と、その準備状況の監視単位 |
大まかな流れは、クラスターとコントロールパネルを作り、ルーティングコントロールと安全ルールを定義し、切替先の準備状況チェックを設定する、という順です。クラスターは複数のリージョンにまたがるエンドポイントを持つため、単一リージョンの障害でも制御操作自体が止まらない設計になっています。
ARCの料金体系
ARCは、使う機能ごとに課金体系が分かれます。無料の機能と、常時稼働で費用が積み上がる機能を区別することが、コスト設計の要点です。金額は米ドル建てで、最新の単価は公式の料金ページで確認してください。
| 機能 | 料金の目安 | 課金の性質 |
|---|---|---|
| ゾーンシフト/ゾーンオートシフト | 追加料金なし | 無料 |
| クラスター(ルーティングコントロール) | 2.50 USD/時間・クラスター(最大2/アカウント) | 常時稼働で継続課金 |
| 準備状況チェック | 0.045 USD/時間・チェック | 継続課金/2026年4月30日以降 新規受付終了(既存は継続可) |
| Region switch | 70 USD/月・プラン(日割り) | プラン数に応じた月額 |
費用が読みにくいのはルーティングコントロールのクラスターで、1クラスター2.50 USD/時間は月換算で概算1,800 USD規模になります。加えてRoute 53やCloudWatch、ELBなど連携サービスの料金は別途発生します。AZ障害への備えだけならゾーンシフト系は無料で始められるため、まずは無料機能で運用を固め、リージョン冗長が要件になった段階でクラスター課金を含む機能を足す、という段階導入が無駄がありません。
対応リージョンと、ARCを使うべき/使わなくてよい判断基準
ARCは全リージョンで同じ機能が使えるわけではなく、北米・欧州・アジア太平洋の主要リージョン(東京を含む)を中心に提供されます。ゾーンオートシフトのように提供リージョンが順次拡大している機能もあるため、利用予定のリージョンと機能の組み合わせは公式ドキュメントで都度確認するのが安全です。
そのうえで、導入判断は次のように切り分けられます。ARCが効くのは、AZ障害で即座にトラフィックを退避したい、あるいは事前設計したリージョンフェイルオーバーを手順漏れなく実行したい構成です。特にゾーンシフト系は無料かつ小さく始められるため、マルチAZ構成なら導入して損はありません。一方で、単一AZ・単一リージョンでしか動かないシステムや、そもそも冗長構成を持たないワークロードにルーティングコントロールを載せても、常時課金だけがかさんで復旧効果は得られません。ARCはあくまで「冗長化された複数の受け皿があること」を前提に、その切替を安全化する道具だという点を外さないことが、費用対効果を決めます。
よくある質問(FAQ)
ARCとは何の略ですか?
Amazon Application Recovery Controllerの略で、AWS上のアプリケーションをAZ障害・リージョン障害から復旧させる制御を担うサービスです。旧称はAmazon Route 53 Application Recovery Controller(Route 53 ARC)です。
Route 53 ARCとAmazon ARCは別物ですか?
別サービスではなく、同じサービスの名称変更です。2024年に「Route 53 ARC」から「Amazon ARC」へ改称され、2025年8月にはRegion switchが追加されました。旧名で書かれた資料も、実体は現行のARCを指します。
ゾーンシフトの利用に料金はかかりますか?
ゾーンシフトおよびゾーンオートシフトは追加料金なしで利用できます。費用が発生するのは主にルーティングコントロールのクラスター(2.50 USD/時間)や準備状況チェック、Region switchのプランです。
ARCは東京リージョンで使えますか?
東京を含むアジア太平洋の主要リージョンで提供されています。ただし機能ごとに対応状況が異なり、拡大も続いているため、使う機能と対応リージョンの組み合わせは公式ドキュメントで確認してください。
ARCで他社クラウドへフェイルオーバーできますか?
できません。ARCはAWS内のAZ・リージョン間の復旧を制御するサービスで、Google CloudやAzureなど他社クラウドへトラフィックを切り替える機能は持ちません。マルチクラウドのフェイルオーバーは別の仕組みで設計する必要があります。