AWS Transit Gatewayとは|仕組み・VPC Peeringとの違い・料金を解説
AWS Transit Gateway(TGW)は、複数のVPCやオンプレミス網を1つのハブに集約してルーティングする中継ルーターです。少数のVPCを1対1でつなぐVPC Peeringと役割が重なりますが、両者の違いは突き詰めると「推移的ルーティングの可否」に集約されます。この記事は、TGWの仕組みと構成要素、VPC Peeringとの違い(選択の決定打になる推移的ルーティングの可否)、名前が紛らわしいTransit Gateway Peeringとの整理、そして料金体系までを、AWS公式仕様にもとづいて1つずつ解説します。
まとめ:Transit GatewayとVPC Peeringの結論
先に結論を示します。Transit Gatewayは多数のVPCやオンプレ網を中央のハブに集約する「ハブ&スポーク」型で、VPC Peeringは少数VPCを直接つなぐ「1対1」型です。両者を分ける最大の判断軸は推移的ルーティングの可否です。VPC Peeringは推移的ルーティングに対応せず、3つ以上のVPCを相互接続するには接続を網の目状に張る必要があります。Transit Gatewayはハブを経由するため、各VPCをハブに1本つなぐだけで相互到達できます。
料金構造も異なります。Transit Gatewayはアタッチメントの時間課金とデータ処理量(GB)課金の2要素がかかります。VPC Peeringは接続自体に時間課金がなく、同一AZ内の転送は無料で、AZやリージョンを跨ぐ転送にだけデータ転送料がかかります。VPCが2〜3個程度の小規模なら料金が乗らないVPC Peering、それ以上に増える・オンプレ接続も束ねるならTransit Gateway、という基準で選びます。以下、仕組みから順に掘り下げます。
AWS Transit Gatewayとは:フルメッシュ問題を解くハブ&スポーク
AWS Transit Gatewayは、VPC・VPN・AWS Direct Connectなどの接続を1つのリージョン単位のハブに集約し、その間のトラフィックを中継するマネージドルーターです。略称はTGWで、「トランジットゲートウェイ」とも表記されます。なお、IPの到達性ではなくサービス単位で複数VPC・複数アカウントを横断して接続するアプリケーション層の選択肢としては、Amazon VPC Latticeがあります。
必要性はVPC Peeringの構造的な制約から生まれます。VPC Peeringは2つのVPCを直接結ぶため、n個のVPCを相互接続するにはn(n−1)/2本の接続が要ります。VPCが5個なら10本、10個なら45本、20個なら190本と、接続数は二次関数的に増えていきます。この網の目(フルメッシュ)を、中央ハブに各VPCを1本ずつ束ねる構成へ置き換えるのがTransit Gatewayです。VPCが10個でも接続は10本(各VPCからハブへ1本ずつ)に収まり、追加VPCはハブへ1本足すだけで全体に到達できます。
Transit Gatewayの仕組みと構成要素
Transit Gatewayは「何をつなぐか(アタッチメント)」「どう経路を持つか(ルートテーブル)」「どう中継するか(ルーティング)」の3層で動きます。読者が別々に調べる論点なので、構成要素ごとに分けて説明します。
アタッチメント:VPC/VPN/Direct Connect Gateway/Peering/Connect
アタッチメントは、Transit Gatewayに接続先を結びつける単位です。接続先の種類ごとに、VPCアタッチメント、AWS Site-to-Site VPNアタッチメント、Direct Connect Gatewayアタッチメント、別のTGWとつなぐPeeringアタッチメント、SD-WAN機器を収容するTransit Gateway Connectアタッチメントがあります。課金の主体は種類で異なり、VPCアタッチメントはVPC所有アカウント、VPNアタッチメントとConnectアタッチメントはTGW所有者、Direct ConnectアタッチメントはDirect Connect Gateway所有者に時間課金されます(AWS公式)。
TGWルートテーブル・アソシエーション・ルート伝播(propagation)
Transit Gatewayは独自のルートテーブルを持ちます。各アタッチメントをどのルートテーブルに従わせるかを決めるのがアソシエーション、各アタッチメント側のCIDRをルートテーブルへ自動登録するのがルート伝播(route propagation)です。アソシエーションで「経路の参照先」を、伝播で「経路の登録元」を制御するため、両者は別概念として設定します。注意点として、TGW同士のPeeringアタッチメントはルート伝播に非対応で、静的ルートを手動で書く必要があります(AWS公式)。1つのTGWルートテーブルが保持できるルート数は既定で最大10,000です(クォータは引き上げ申請や改定がありうるため、最新値はAWS公式のTransit Gatewayクォータで確認してください)。
ルーティングの流れと推移的ルーティング
送信元VPCのルートテーブルが宛先CIDRをTGWアタッチメントへ向け、TGWは自身のルートテーブルを参照して該当アタッチメントへ転送します。このとき、VPC AとVPC CがどちらもハブのTGWにつながっていれば、A→ハブ→Cという経路でハブを跨いだ通信が成立します。これが推移的ルーティングで、ハブ&スポークの中核的な振る舞いです。VPC Peeringにはこの中継機能がない点が、次章の違いに直結します。
VPC PeeringとTransit Gatewayの違い:選択の決定打
主軸の比較です。接続トポロジ、推移的ルーティングの可否、スケールと運用・料金、そして判断基準の順に整理します。
接続トポロジ:1対1メッシュ vs ハブ&スポーク
VPC Peeringは2つのVPCを直接結ぶ1対1の接続で、全VPCを相互接続するとメッシュ(網の目)になります。Transit Gatewayは中央ハブに各VPCをぶら下げるハブ&スポークです。VPCが3個までならメッシュでも接続は3本で済みますが、4個で6本、5個で10本と増えるため、トポロジの差は規模が大きいほど効いてきます。
推移的ルーティングの可否:ここで選択が決まる
結論を言い切ります。VPC Peeringは推移的ルーティングに対応しません。VPC AとB、BとCをそれぞれPeeringしても、AはBを経由してCへは到達できず、AとCを直接Peeringする必要があります(AWS公式)。一方Transit Gatewayはハブ経由で全スポークが相互到達できます。したがって「3つ以上のVPCを相互につなぎたい」時点で、VPC Peeringの素直な選択肢は消えます。逆に「2つのVPCだけを直結できれば十分」なら、推移性は不要なのでVPC Peeringで足ります。この一点が選択の決定打です。
スケール・運用・料金の違い(比較表)
| 観点 | VPC Peering | Transit Gateway |
|---|---|---|
| トポロジ | 1対1メッシュ | ハブ&スポーク |
| 推移的ルーティング | 非対応 | 対応 |
| n VPC相互接続の接続数 | n(n−1)/2 | n |
| オンプレ接続(VPN/DX)集約 | 不可 | 可 |
| 時間課金 | なし | アタッチメント時間課金 |
| データ課金 | AZ内無料/AZ跨ぎ各方向$0.01/GB | データ処理量(GB)+転送 |
運用面では、VPC Peeringは接続ごとに両側のルートテーブルへ経路を書くため接続数の増加がそのまま設定箇所の増加になります。Transit Gatewayはハブのルートテーブルに経路を集約でき、伝播も使えるため、台数が増えても管理点が中央に集まります。
どちらを選ぶか:VPC数で判断する
判断基準を数で言い切ります。相互接続するVPCが2〜3個で、オンプレ接続を束ねる必要がなく、推移的な通信も要らないならVPC Peeringを選びます。時間課金が乗らないぶん小規模では割安です。VPCが4個以上に増える見込みがある、VPN/Direct Connectでオンプレと束ねたい、複数VPC間でハブ経由の到達性が必要、のいずれかに当てはまればTransit Gatewayを選びます。なお「とりあえず全部Peering」で増やし続けると、接続数とルート設定が二次関数的に膨らんで破綻するため、将来VPCが増える計画があるなら最初からTransit Gatewayに寄せる判断が無難です。
混同しやすい3つ:VPC Peering/Transit Gateway/Transit Gateway Peering
名前が似ているため検索でも混同が起きやすい3者を、役割と使う場面で切り分けます。同じ「Peering」でも対象が違います。
| 名称 | つなぐ対象 | 使う場面 |
|---|---|---|
| VPC Peering | VPC ↔ VPC | 少数VPCの1対1直結 |
| Transit Gateway | 多数のVPC/オンプレ ↔ ハブ | 多数を集約・推移的接続 |
| Transit Gateway Peering | TGW ↔ TGW | TGW同士を相互接続 |
VPC PeeringはVPC同士の直結です。Transit Gatewayは多数の接続をハブに集約する中継です。Transit Gateway Peering(ピアリングアタッチメント)は、ハブであるTGWをさらに別のTGWへつなぐ仕組みで、リージョンを跨ぐInter-Region Peeringと、同一リージョン内でTGW同士をつなぐIntra-Region Peeringがあります。Intra-Region Peeringは2021年12月に提供開始され、同一リージョン内で別々に管理されたTGW同士(例:別部門や外部パートナーが管理するTGW)を、ブリッジVPCを介さず直接つなげるようになりました。前述のとおりピアリングアタッチメントはルート伝播に非対応で、静的ルートで経路を通します。「transit gateway peering」を調べているなら、それはVPCの話ではなくTGW同士をつなぐ話だと押さえてください。
Transit Gatewayの料金体系:2要素で見積もる
Transit Gatewayの料金は2要素で構成されます。1つ目はアタッチメントの時間課金(接続1つあたりの時間単価)、2つ目はVPCやDirect Connect、VPNからTGWへ送信したデータのデータ処理課金(GB単価)です。AWS公式のUS East(Ohio)の例では、アタッチメントは1時間あたり$0.05(VPCアタッチメント単価)、データ処理は$0.02/GBと示されています。東京リージョン(ap-northeast-1)の個別レートは公式料金ページに数値が掲載されていないため、実際の金額はAWS公式のTransit Gateway料金ページで対象リージョンを選んで確認してください。料金は改定されることがあります。
課金の細部で重要なのは、ピアリングアタッチメント経由でTGWへ送られるデータにはデータ処理課金が適用されない点です(リージョンを跨ぐ場合のリージョン間データ転送料は別途かかります)。VPC Peeringとの料金分岐点はシンプルで、VPC Peeringにはアタッチメントの時間課金が存在しません。したがって、つなぐVPCが少なく転送もAZ内に収まるならVPC Peeringが割安に振れ、接続数が増える・オンプレを束ねる・ハブ経由の到達性が要る状況になると、Transit Gatewayの集約メリットが時間課金を上回っていきます。
Direct Connect・VPNでオンプレ網をハブに集約
Transit Gatewayはオンプレ網の収容も同じハブに束ねられます。専用線で接続するならDirect Connect Gatewayアタッチメント、インターネット経由のIPsecで接続するならSite-to-Site VPNアタッチメントを使い、どちらもTGWのルートテーブルでVPC群と相互に経路を持たせます。経路交換にはBGPを用い、オンプレ側ルータと動的にルートをやり取りします。これにより、各VPCを個別にオンプレへつなぐのではなく、ハブを1点でオンプレと接続して全VPCへ配る構成が取れます。
利用時の制約と注意点
導入前に押さえる制約を、影響の大きい順に挙げます。
- CIDRの重複:接続するVPC間でアドレス範囲が重なると正しくルーティングできません。設計段階でCIDRを重複させないことが前提です。
- 同一リージョン前提とリージョン跨ぎ:1つのTransit Gatewayはリージョン内のリソースを束ねます。別リージョンのVPCと接続したい場合は、各リージョンにTGWを置きInter-Region Peeringで結びます。
- クォータ:既定でTGWルートテーブルあたり最大10,000ルート、TGWあたり最大5,000 VPCアタッチメントなどの上限があります。大規模設計では最新値をAWS公式のTransit Gatewayクォータで確認してください。
- 料金増:アタッチメントを増やすほど時間課金が積み上がり、通過トラフィックが多いほどデータ処理課金が増えます。少数VPCではVPC Peeringより割高になりうる点に注意します。
とくにCIDR重複は後から直しにくく、稼働後の再採番は影響範囲が広いため、最初のアドレス設計で確実に避けておくのが現実的です。
よくある質問
TGWとは何の略ですか?
TGWはTransit Gateway(トランジットゲートウェイ)の略称です。AWSの公式表記でも略語としてTGWが使われます。複数のVPCやオンプレ網を1つのハブに集約して中継するマネージドルーターを指し、検索では「transit gateway」「トランジットゲートウェイ」「tgw」のいずれでも同じサービスを指しています。
VPC PeeringとTransit Gatewayはどちらを使うべきですか?
相互接続するVPCが2〜3個でオンプレ接続も推移的通信も不要なら、時間課金のないVPC Peeringが割安です。VPCが4個以上に増える、VPNやDirect Connectでオンプレを束ねる、複数VPC間でハブ経由の到達性が要る、のいずれかに当てはまるならTransit Gatewayを選びます。判断軸は推移的ルーティングが必要かと、VPCの数です。
Transit Gatewayは推移的ルーティングができますか?
できます。Transit Gatewayはハブ&スポーク構成で、各スポークがハブを経由して相互に到達するため推移的ルーティングが成立します。これに対しVPC Peeringは推移的ルーティングに非対応で、AとB、BとCをPeeringしてもAからCへはBを経由できません。この差がTransit Gatewayを選ぶ主な理由になります。
Transit Gatewayの料金はいくらですか?
アタッチメントの時間課金とデータ処理量(GB)課金の2要素で決まります。代表例はUS East(Ohio)の$0.05/アタッチメント時間・$0.02/GBで、東京リージョンの正確な額は対象リージョンを公式料金ページで確認してください(詳細は本文の料金体系の章を参照)。
別リージョンのVPCと接続できますか?
できます。1つのTransit Gatewayはリージョン内を束ねるため、別リージョンのVPCとつなぐには各リージョンにTGWを置き、Transit GatewayのInter-Region Peeringで両TGWを結びます。同一リージョン内で別々のTGWをつなぐIntra-Region Peeringも利用でき、いずれのピアリングアタッチメントも静的ルートで経路を通します。