NVIDIA Isingは、NVIDIAが2026年4月14日(World Quantum Day)に公開した、量子コンピュータ開発向けのオープンAIモデル群です。量子プロセッサの測定結果を読んで校正作業を支援する「Ising Calibration」と、量子誤り訂正の復号を速める「Ising Decoding」の2系統からなり、2026年9月時点でHugging Faceに6モデルが並んでいます。
発表の見出しは「実用的な量子コンピュータへの道を加速する」でしたが、実体はGPU上で動く視覚言語モデルと小さなCNNです。量子計算そのものを速める製品ではありません。以下、公開後に追加された版も含めて、何ができて何ができないかを一次情報で整理します。
まとめ:NVIDIA Isingの要点(2026年9月時点)
- 2系統のモデル群:校正用の視覚言語モデル(Ising Calibration)と、誤り訂正用の3D CNNプリデコーダー(Ising Decoding)。
- 公開後に版が増えた:2026年7月にGemma 4 31BベースのIsing Calibration 1.5と、カラー符号用デコーダーが追加された。1.5は複数の例を見せて読ませる評価で44.5から83.0へ伸びた。
- デコーダーはPyMatchingの置き換えではない:局所的な誤りを先に消し、残りをPyMatchingやChromobiusに渡す前段処理。
- 「2.5倍速く3倍正確」は別々の条件の数字:2.5倍速いのはFastモデル(精度は1.11倍)、3倍正確なのはAccurateモデルをd=31に適用したとき。
- 全部がApache-2.0ではない:コードはApache-2.0、モデルの重みはNVIDIA Open Model License(初期の3本)またはOpenMDW-1.1(7月追加の版)。デコーダーの重みはHugging Faceでのログインと同意が必要。
- 使うのは主にQPUを作る側:自前の量子プロセッサや独自のノイズモデルを持たない利用者には、直接の使い道が少ない。
NVIDIA Isingのモデル一覧と名前の由来
NVIDIAのニュースリリースは、名前の由来を「複雑な物理系の理解を大きく単純化した画期的な数理モデル」と説明しています。統計力学のイジング模型から取った名前で、モデル自体がイジング模型を解くわけではありません。
中央のリポジトリgithub.com/NVIDIA/Isingが掲げるモデルは、2026年9月時点で次の6本です。
| モデル | 系統 | 規模 | ベース/構造 | 公開 |
|---|---|---|---|---|
| Ising-Calibration-1-35B-A3B | 校正 | 総35B・稼働3B | Qwen3.5-35B-A3B(MoE) | 2026-04-14 |
| Ising-Calibration-1.5-31B-BF16 | 校正 | 約31B | Gemma 4 31B(dense) | 2026-07-23(NGC) |
| Ising-Calibration-1.5-31B-NVFP4 | 校正 | 約31B | 上記のNVFP4版 | 2026-07-23(NGC) |
| Ising-Decoder-SurfaceCode-1-Fast | 復号 | 0.91M | 3D CNN・受容野R=9 | 2026-04 |
| Ising-Decoder-SurfaceCode-1-Accurate | 復号 | 1.79M | 3D CNN・受容野R=13 | 2026-04 |
| Ising-Decoder-ColorCode-1-Fast | 復号 | 2.94M | 3D CNN・受容野R=13 | 2026-07 |
公開日は、Calibration 1がモデルカードの記載、1.5がNGCでの公開日、デコーダーはHugging Faceのリポジトリ作成月です。Calibrationは300億パラメータ級の視覚言語モデルで、デコーダーは100万〜300万パラメータの小型CNNです。同じ「Ising」の名前でも、規模は4桁違います。
Ising Calibration:校正プロットを読み取る視覚言語モデル
超伝導量子ビットなどの量子プロセッサは、動作条件が時間とともにずれていきます。そのため、ラビ振動やT1測定などの校正実験を繰り返し、グラフを見て次のパラメータを決める作業が欠かせません。Ising Calibrationは、この「グラフを読んで判断する」部分をモデルに任せるための視覚言語モデルです。
入力は校正実験のプロット画像(PNG・JPEG)とテキストで、出力は6種類の分析です。技術的な説明、実験の結論、実験の意義、フィットの良否、パラメータの抽出、実験が成功したかの判定を返します。NVIDIAはこれで校正を自動化し、所要時間を「数日から数時間」に縮められるとしていますが、これは発表時の主張で、測定条件は公開されていません。モデルカードも「実験の結論に基づいて動く前に、出力を専門家が検証すること」と明記しています。
Calibration 1と1.5の違い
1.5は1の単純な後継ではなく、ベースモデルと配布条件がまとめて変わっています。
| 項目 | Calibration 1 | Calibration 1.5 |
|---|---|---|
| ベース | Qwen3.5-35B-A3B | Gemma 4 31B |
| 構造 | MoE(256エキスパート中8稼働) | dense |
| 重みのライセンス | NVIDIA Open Model License | OpenMDW-1.1 |
| 精度の版 | BF16のみ | BF16とNVFP4 |
| ホスト型API | API一覧に無し | build.nvidia.comで提供 |
| GPUの記載 | 最小でL40S 2枚かH100 1枚 | L40S・H200・GB300・DGX Sparkなどで試験 |
学習データはどちらも7.25万件です。内訳は、複数画像を例示として読ませる形式が2.38万件、1枚のプロットを読む形式が4.87万件です。後者はQwen3.5-397B-A17Bで文面を増やした合成データで、実機の生データではありません。1.5のモデルカードも1と同じ7.25万件・同じ内訳を記載しています。
QCalEvalのスコアの読み方
性能評価には、NVIDIAの研究者らが公開したベンチマークQCalEval(arXiv:2604.25884)が使われています。超伝導量子ビットと中性原子を対象に、22の実験ファミリー・87のシナリオ種別から243サンプルを作り、各サンプルを6種類の質問で評価します。正解はシミュレーションのパラメータから作られており、採点はGPT-5.4とGemini 3.1 ProをジャッジにしたLLM採点の平均です。
| モデル | ゼロショット平均 | MM-ICL平均 |
|---|---|---|
| Calibration 1.5(BF16) | 75.7 | 83.0 |
| Calibration 1.5(NVFP4) | 70.5 | 81.2 |
| Calibration 1 | 74.7 | 44.5 |
上表はQCalEvalの公式リーダーボード(2026年7月版)の値です。1から1.5で大きく伸びたのは、校正済みの例を複数枚見せてから新しいプロットを読ませる設定(MM-ICL)で、44.5から83.0へ上がりました。ゼロショットは74.7から75.7で、ほぼ横ばいです。
数値は資料によって少しずれます。1.5のモデルカードはBF16をゼロショット74.5・MM-ICL 81.2としており、比較相手のGemma-4-31B-ITは同じく68.8・81.2です。差の原因は公開されていないため、どの資料の値かを明記して引用してください。
QCalEvalの論文は、汎用モデルのゼロショット最高点を72.3としています。発表時の開発者ブログにある「Gemini 3.1 Proより3.27%、Claude Opus 4.6より9.68%、GPT 5.4より14.5%高い」も、この合成ベンチマーク上の比較です。モデルカード自身が「幅広い汎用能力の評価ではなく、ドメインでの検証として解釈すべき」と書いており、実機の校正がそのまま自動化できる保証にはなりません。
Ising Decoding:PyMatchingの前段に置くプリデコーダー
量子誤り訂正では、測定で得たシンドローム(誤りの痕跡)から、どこで誤りが起きたかを推定する「復号」を毎ラウンド行います。量子ビットの動作は止まらないため、復号が遅れると誤りが積み上がって計算が破綻します。表面符号で広く使われるオープンソースの復号器がPyMatching(最小重み完全マッチング)です。
Ising Decodingは、PyMatchingを置き換えるものではありません。3D CNNが空間2次元と時間1次元のシンドロームを受け取り、局所的な誤りを並列に先に消します。残ったシンドロームだけを大域的な復号器に渡す構成です。大域側は、表面符号ならPyMatching、カラー符号ならChromobiusです。arXiv:2604.12841(Chamberlandら)はこれを「物理誤りの大半を取り除いてから残差を下流の大域復号器に渡す」プリデコーダーと定義しています。
Fast・Accurate・ColorCodeの使い分け
| モデル | 符号 | 受容野 | パラメータ | 大域復号器 |
|---|---|---|---|---|
| SurfaceCode-1-Fast | 表面符号 | R=9 | 約91.2万 | PyMatching |
| SurfaceCode-1-Accurate | 表面符号 | R=13 | 約179万 | PyMatching |
| ColorCode-1-Fast | カラー符号 | R=13 | 約294万 | Chromobius |
受容野は、CNNが一度に見る範囲(符号距離方向×時間方向)です。Fastは9×9×9、Accurateは13×13×13の入力で学習されています。受容野が広いほど長い誤りの連鎖を拾えますが、1回の推論は遅くなります。どちらを選ぶかは、符号距離、物理誤り率、QPUが許す往復の遅延予算で決まります。
3D CNNなので、推論時には学習時と違う符号距離やラウンド数を与えられます。公開済みの重みは、一様な回路レベルの脱分極ノイズで学習されています。自社QPUの偏ったノイズに合わせる場合は、25パラメータの非一様ノイズモデルを定義して学習し直す前提です。
「2.5倍速く3倍正確」の測定条件:モデルと符号距離の違い
ニュースリリースは、Ising Decodingを「PyMatchingより最大2.5倍速く、3倍正確」と紹介しました。NVIDIAの開発者ブログを読むと、2つの数字は異なるモデルと符号距離で得られたものです。
| 主張 | モデル | 符号距離 | 物理誤り率 | もう一方の指標 |
|---|---|---|---|---|
| 2.5倍速い | Fast+PyMatching | d=13 | p=0.003 | 精度は1.11倍 |
| 3倍正確(論理誤り率) | Accurate+PyMatching | d=31(d=13で学習) | p=0.003 | 速度の倍率は記載なし |
| (参考)2.25倍速い | Accurate+PyMatching | d=13 | p=0.003 | 精度は1.53倍 |
速度を取ったFastは、精度の改善が1.11倍にとどまります。3倍の精度改善は、より重いAccurateを、学習時より大きいd=31に適用したときの値です。同じd=13で比べると、Accurateは2.25倍速く1.53倍正確で、1ラウンドあたり2.33µs(GB300・FP16・104ラウンド)でした。測定環境は、プリデコーダーをDGX GB300のGPUで、PyMatchingをGrace(Neoverse-V2)のCPUで動かしたものです。
論文の要旨も、GB300上で1ラウンドあたりO(1µs)の復号時間と、無相関PyMatching単独より低い論理誤り率を主張する書き方です。相関付きPyMatchingを上回ったとしているのは、大きいモデルを学習させたd=13までです。公式READMEが性能ベンチマークとして扱わないよう断っている動作確認の出力例では、d=7・7ラウンドで論理誤り率は0.002678から0.002285、PyMatchingの速度向上は1.815倍でした。
導入を検討するなら、見出しの倍率ではなく、自社QPUの符号距離・誤り率・ノイズ特性で「PyMatching単独」と「プリデコーダー+PyMatching」を比べてください。リポジトリには両モードを同じ入力で比べる手順(pymatching_only と ising_decoding_pymatching)が用意されています。
7月に追加されたカラー符号版は、2026年7月13日の開発者ブログでd=31・物理誤り率0.3%のとき、Chromobius単独比で論理誤り率347.7倍改善・実行時間7.3倍短縮と発表されました。こちらも1条件での値です。
入手と実行の手順
Ising Calibrationのホスト型APIによる実行手順
いちばん手軽なのは、build.nvidia.comのOpenAI互換APIです。2026年9月時点で、APIのモデル一覧に載っているのは nvidia/ising-calibration-1.5-31b だけで、1は含まれていません。build.nvidia.comで発行した NVIDIA_API_KEY を環境変数に入れ、プロット画像をbase64で渡します。推奨設定はモデルカードに合わせて temperature=0.2、ゼロショットのmax_tokens=8192です。実行前に python -m pip install openai でOpenAI Python SDKを導入し、読み取り対象のPNG画像を実行ディレクトリに rabi_oscillation.png として保存してください。
import base64
import os
from openai import OpenAI
client = OpenAI(
base_url="https://integrate.api.nvidia.com/v1",
api_key=os.environ["NVIDIA_API_KEY"],
)
with open("rabi_oscillation.png", "rb") as f:
img_b64 = base64.b64encode(f.read()).decode()
resp = client.chat.completions.create(
model="nvidia/ising-calibration-1.5-31b",
messages=[{
"role": "user",
"content": [
{"type": "text", "text": "このラビ振動の測定結果について、フィットの良否と抽出できるパラメータを答えてください。"},
{"type": "image_url", "image_url": {"url": f"data:image/png;base64,{img_b64}"}},
],
}],
temperature=0.2,
max_tokens=8192,
)
print(resp.choices[0].message.content)
自社の測定データを外部に出せない場合は、NGCのNIMコンテナ(1と1.5の両方あり)か、Hugging Faceの重みをvLLMで自前サーバーに載せます。1のモデルカードが挙げる最小構成はL40S(48GB)2枚またはH100(80GB)1枚です。
校正実験の実行まで含めて自動化したいなら、Apache-2.0のQuantum Calibration Agent Blueprint(github.com/NVIDIA/Quantum-Calibration-Agent-Blueprint)が出発点になります。Python 3.11以上で、qca コマンドから実験の一覧・実行・ワークフロー実行を呼べます。エージェント本体のLLMにはNVIDIA、Anthropic、OpenAIを選べ、プロットの読み取り部分にIsing Calibrationを使う構成です。
Ising Decodingの学習・推論手順
手順はIsing-DecodingのREADMEに沿っています。デコーダーの重みはアクセス制限付きです。Hugging Faceでトークンを作ってログインし、利用条件に同意してから取得します。対応するPythonは3.11〜3.13です。
git clone https://github.com/NVIDIA/Ising-Decoding.git
cd Ising-Decoding
python -m venv .venv && source .venv/bin/activate
pip install -r code/requirements_public_inference.txt
pip install -U "huggingface_hub[cli]"
hf auth login
hf download nvidia/Ising-Decoder-SurfaceCode-1-Fast --local-dir models/
PREDECODER_SAFETENSORS_CHECKPOINT=models/ising_decoder_surface_code_1_fast_r9_v1.0.77_fp16.safetensors \
WORKFLOW=inference EXPERIMENT_NAME=predecoder_model_1 bash code/scripts/local_run.sh
自社のノイズで学習し直す場合は、conf/config_public.yaml で符号(code: surface か code: color)とノイズモデルを指定し、code/requirements_public_train-cu12.txt(またはcu13)を入れて、WORKFLOW を付けずに local_run.sh を実行します(既定が学習)。学習データは、cuQuantumのcuStabilizerで合成したシンドロームです。
本番の遅延に近づけるには、ONNX_WORKFLOW=2 QUANT_FORMAT=fp8(または int8)でONNXに書き出し、TensorRTで推論します。FP8の形式と対応GPUはFP8の仕組みと対応GPUの解説を参照してください。FP8の量子化に失敗すると処理は止まりますが、INT8で失敗したときは警告なしでFP32のONNXに戻る点に注意が必要です。書き出した .onnx と generate_test_data.py が作るテストデータは、CUDA-Q QECのリアルタイム復号にそのまま渡せます。
カラー符号の経路には、2026年9月時点で制約が残っています。Y基底の分解は未実装で、学習データは固定の誤り率pでしか作れません。.dets ファイルからのオフライン復号も表面符号だけです。
ライセンスと商用利用の条件
ライセンスはコードとモデルの重みを分けて確認する必要があります。Apache-2.0なのはコードとリポジトリで、モデルの重みは別のライセンスです。
| 対象 | ライセンス | 補足 |
|---|---|---|
| Ising/Ising-Decoding/Blueprintのコード | Apache-2.0 | GitHub |
| Calibration 1の重み | NVIDIA Open Model License | ベースのQwen3.5はApache-2.0 |
| Calibration 1.5の重み | OpenMDW-1.1 | 商用利用可と明記 |
| 表面符号デコーダー2本の重み | NVIDIA Open Model License | HFで要ログイン・同意 |
| カラー符号デコーダーの重み | OpenMDW-1.1 | HFで要ログイン・同意 |
| QCalEvalデータセット | CC-BY-4.0 | 評価用 |
Calibration 1のモデルカードは「商用・非商用で利用可」、1.5は「商用利用の準備ができている」と書いています。4月公開の3本と7月公開の2系統でライセンスが入れ替わっているため、版を上げるときは重みごとに条件を読み直してください。
CUDA-Q・NVQLinkとの関係(2026年9月時点)
IsingはNVIDIAの量子向けソフトウェア群の中で「AIモデル」の層を担い、実行基盤は別製品です。CUDA-Qは量子と古典のハイブリッド計算のプラットフォームで、NVQLinkは量子プロセッサ(QPU)とGPUをつなぐ接続のアーキテクチャです。プリデコーダーをリアルタイムで動かす部分は、CUDA-Q QEC(github.com/NVIDIA/cudaqx)が受け持ちます。
- CUDA-Q QEC 0.6.0(2026-04-14):CUDA-Q Realtime上で動く最初の版。Isingの3D CNNプリデコーダーとPyMatchingを組み合わせた表面符号のリアルタイム復号パイプラインが入った。
- 0.7.0(2026-08-03):TensorRTのデコーダーに、PyMatchingやChromobiusを2段目としてつなぐ設定が追加された。
- 0.8.0(2026-09-12):Stimの誤りモデルから直接リアルタイム復号器を組めるようになり、カラー符号のプリデコーダーにChromobiusをつなぐ構成に対応した。
2026年9月28日に確認したCUDA-Q本体のGitHub正式リリースは0.16.0(2026-09-12)で、PyPIのcudaqは0.16.0.post1(2026-09-17)です。2026年9月14日のCUDA-Q Logical発表では、シリコン量子ビットを開発するDiraqがIsingで自社プロセッサを校正したと紹介されています。
採用機関の顔ぶれと導入判断
発表時点でIsing Calibrationを使っているとされたのは12組織です。Atom Computing、Academia Sinica、EeroQ、Conductor Quantum、フェルミ国立加速器研究所、ハーバード大学ジョン・A・ポールソン工学・応用科学大学院、Infleqtion、IonQ、IQM、ローレンス・バークレー国立研究所のAdvanced Quantum Testbed、Q-CTRL、英国国立物理学研究所(NPL)です。Ising Decodingは、コーネル大学、EdenCode、Infleqtion、IQM、Quantum Elements、サンディア国立研究所、SEEQC、UCサンディエゴ、UCサンタバーバラ、シカゴ大学、南カリフォルニア大学、延世大学の12組織が展開中とされました。
顔ぶれは、QPUを作るメーカーと、制御系・誤り訂正を研究する機関です。Isingが解くのは「量子コンピュータを作る側」の課題で、量子コンピュータを「使う側」のアルゴリズムや業務応用を速めるものではありません。方式ごとの違いや実用化の段階は量子コンピュータの仕組みと方式の解説で整理しています。
採用を見送ってよいのは次のような場合です。
- 自前のQPUも校正データも持たず、クラウドの量子コンピュータを使う立場にある(校正と誤り訂正はクラウド事業者側の仕事)。
- 復号用途でIsing Decodingを検討しており、表面符号でもカラー符号でもない符号(qLDPC符号など)が主対象である。qLDPC符号はCUDA-Q QECのRelay-BPなど別の復号器が担う領域で、校正用のIsing Calibrationを見送る理由にはならない。
- 公開済みの重みが前提とする一様な脱分極ノイズと、自社の実機ノイズがかけ離れているのに、再学習の計算資源を用意できない。
逆に、超伝導・中性原子などのQPUを開発し、校正担当者のグラフ確認が律速になっている組織や、表面符号の復号遅延に悩む組織には、公開コードと重みで自社データに当ててみる価値があります。市場の見通しとしては、NVIDIAがリリースでResonanceの予測「2030年に110億ドル超」を引いています。
よくある質問
NVIDIA Isingとは何ですか?
NVIDIAが2026年4月14日に公開した、量子コンピュータ開発向けのオープンAIモデル群です。2026年9月時点で6モデルあり、校正プロットを読む視覚言語モデル「Ising Calibration」と、量子誤り訂正の前段で誤りを減らす3D CNN「Ising Decoding」からなります。
名前のIsingはイジング模型と関係がありますか?
名前は統計力学のイジング模型に由来し、NVIDIAは「複雑な物理系の理解を大きく単純化した数理モデル」にちなんだと説明しています。モデルがイジング模型を計算するわけではありません。
NVIDIA Isingは無料で商用利用できますか?
コードはApache-2.0で、重みも無償で取得できます。ただし重みのライセンスは、Calibration 1と表面符号デコーダーがNVIDIA Open Model License、Calibration 1.5とカラー符号デコーダーがOpenMDW-1.1で、デコーダーの取得にはHugging Faceでのログインと同意が要ります。商用に組み込む前に各条件を確認してください。
Ising DecodingはPyMatchingの代わりになりますか?
なりません。局所的な誤りを先に消す前段のプリデコーダーで、最終的な判定はPyMatching(表面符号)またはChromobius(カラー符号)が行います。「2.5倍速い」はFastモデルとPyMatchingの組み合わせをPyMatching単独と比べた値です。
量子コンピュータを持っていなくても試せますか?
試せます。Ising DecodingはcuStabilizerやStimで合成したシンドロームで学習・推論でき、GPUのあるLinuxマシンで動きます。Ising Calibrationは、校正プロットの画像を用意すればbuild.nvidia.comのAPIから呼び出せます。