n8n Chat Hubは、ワークフロー自動化ツールn8nに組み込まれたAIチャット画面です。OpenAIやAnthropicなど複数のLLMとの会話、ユーザーが自分で作るPersonal agent、Chat Triggerを持つワークフローを呼び出すワークフローエージェントの3つを、n8nのナビゲーションにある「Chat」から使えます。n8nは2025年12月15日、コミュニティフォーラムで「n8n 2.1.0 beta で利用できる」と告知しました。
ただし2026年10月時点では、Chat Hubは非推奨の扱いです。n8n 2.29(2026年6月30日)から利用実績のないインスタンスでは既定でオフになり、2026年10月に予定されているn8n 3.0ではモジュールごと既定オフ、4.0で削除されます。この記事では、2.42.4(2026年10月7日時点の安定版)のドキュメントとソースをもとに、使い方と有効化の手順、3.0への備え、移行先の選び方を整理します。なお、複数のAIチャットを並べて比較するブラウザ拡張「ChatHub」(chathub.gg)は別の製品で、本記事では扱いません。
まとめ:n8n Chat Hubの現状と対応方針
- 機能:n8nの画面内で、LLMとの会話・Personal agent・ワークフローエージェントを切り替えて使うチャットUI。Chat userロールを割り当てると、ワークフローを見せずにチャットだけを使わせられる。
- 提供状況:2.1.0でベータ公開。2.29から未使用インスタンスでは既定オフ。3.0でモジュールが既定オフになり、4.0で削除予定。新規の社内チャット基盤として採用するのは避ける。
- 2.xで使う:オーナーか管理者が Settings > Chat で有効にする。
- 3.xで使い続ける:環境変数
N8N_ENABLED_MODULESにchat-hubを加える。3.x系の間だけの暫定措置で、会話データはデータベースに残る。 - ワークフローのエージェント化:新しい版のChat Triggerで「Make Available in n8n Chat Hub」をオンにし、AI Agentノードのストリーミングを有効にして公開する。
- 移行先:n8n内で完結させるならAgents(Preview)、社外や社内ポータルに出すならChat Triggerの公開チャット、複数モデルの切り替え画面を残したいならLibreChatなど外部のチャットUIからn8nを呼ぶ構成。
n8n Chat Hubで使える3種類の相手
Chat Hubを開くと、モデル選択欄から会話の相手を選びます。選べる相手は次の3種類で、作る人と制約が異なります。
| 相手 | 作る人 | 設定場所 | 主な制約 |
|---|---|---|---|
| LLM(モデルを直接選ぶ) | 管理者が資格情報を登録 | Settings > Chat | 管理者が許可したモデルのみ |
| Personal agent | 各ユーザー | Personal Agents > +New Agent | ファイル知識を追加できない・ツールは少数 |
| ワークフローエージェント | ワークフローの作成者 | Chat Triggerノード | ストリーミング対応のAI Agentが必要 |
Personal agentは、名前・説明・システムプロンプト・使うモデル・ツールを決めて保存するだけの簡易なエージェントです。定型の文章校正や議事録の整形など、毎回同じ指示を書く作業をまとめる用途に向きます。社内データベースの検索や他システムへの書き込みが必要なら、ワークフローエージェントにします。
Chat Hubが対応するモデルプロバイダ
n8n 2.42.4のソース(chat-hub.constants.ts)に定義されているプロバイダは14サービスで、Azure OpenAIはAPIキー認証とMicrosoft Entra ID認証が別の項目になっています。
- OpenAI、Anthropic、Google Gemini、Azure OpenAI、AWS Bedrock
- xAI Grok、DeepSeek、Mistral Cloud、Cohere、NVIDIA
- Groq、OpenRouter、Vercel AI Gateway
- Ollama(自社サーバーで動かすローカルLLM)
社外のAPIに入力を送れない業務では、Ollamaだけを有効にして他のプロバイダをオフにします。Ollamaにはクラウドモデルもあるため、Ollama側でも環境変数 OLLAMA_NO_CLOUD=1 を設定してクラウド機能を無効にし、ローカルモデルに限定します。Azureのようにモデル一覧を自動取得できないプロバイダでは、2.12から「Choose model by ID」でモデルIDを直接入力できるようになりました。
2.1.0のベータから4.0での削除予定までの経緯
Chat Hubはベータのまま正式版にならず、非推奨に切り替わりました。版ごとの変化は次のとおりです。
| 版 | 時期 | Chat Hubの変化 |
|---|---|---|
| 2.1.0(beta) | 2025年12月15日告知 | ベータとして公開。Chat onlyロールを同時に導入 |
| 2.8 | 2026年2月11日 | Chatノードの承認ボタンをChat Hubで表示 |
| 2.11 | 2026年3月3日 | Chat Triggerに提案プロンプト(Suggestions) |
| 2.29 | 2026年6月30日 | 利用実績のないインスタンスで既定オフ |
| 2.40 | 2026年9月15日 | 移行レポートに非推奨の警告を追加 |
| 3.0 | 2026年10月予定 | モジュールが既定オフ。環境変数で3.x系のみ再有効化 |
| 4.0 | 未定 | 機能を削除 |
2.29の変更(GitHub PR #33136)では、アップグレード時にインスタンスごとの設定値が保存されます。すでにChat Hubの会話があるインスタンスはオンのまま、会話がないインスタンスはオフになり、管理者が設定画面で切り替えられるようになりました。続く3.0向けの変更(PR #38612)は「Chat hub is being deprecated. v3 turns the module off by default, and v4 will fully remove it.」と説明しています。3.0での変更と利用者側の対応は、n8n公式のv3.0 Breaking changesにまとまっています。
Chat Hubを有効にする手順
有効化の方法は、使っているn8nが2.x系か3.x系かで変わります。
n8n 2.x:Settings > Chat の管理者トグル
2.29以降でナビゲーションに「Chat」が出ない場合は、インスタンスのオーナーか管理者が Settings > Chat を開き、Chatを有効にします。設定ページ自体は無効のときも開けるので、いつでも戻せます。2.28以前から使っていてすでに会話があるインスタンスは、アップグレード後もオンのままです。
n8n 3.x:環境変数 N8N_ENABLED_MODULES に chat-hub を追加
3.0ではchat-hubが既定のモジュールから外れ、Chatの項目がナビゲーションから消えてエンドポイントも応答しなくなります。3.x系で使い続けるセルフホスト環境では、環境変数でモジュールを読み込ませます。値はカンマ区切りのリストなので、すでに指定しているモジュールは残したまま追加します(v3.0 Breaking changesの例は N8N_ENABLED_MODULES=agents,chat-hub)。
# docker-compose.yml の n8n サービス(抜粋)
services:
n8n:
# 4.0 を誤って取得しないよう 3.x の版番号でタグを固定する(3.0.0 は例。公開後の実在タグに合わせる)
image: docker.n8n.io/n8nio/n8n:3.0.0
environment:
- N8N_ENABLED_MODULES=agents,chat-hub
この指定で起動すると、n8nは起動時に「Chat hub is deprecated. It is off by default since v3 and will be removed in v4.」という警告をログに出します(PR #38612の説明)。モジュールを読み込んだうえで、2.xと同じく Settings > Chat でオーナーが有効にする必要があります。3.0ではnpmやnpxでの起動がサポート外になり、セルフホストはDockerでの運用が前提になる点もあわせて確認してください。
Chat Hubの有効状態と会話件数の確認
Chat Hubの有効状態は、2.40以降なら Settings > Migration Report に「Chat hub is deprecated and off by default」が出るかで分かります。データベースを直接見る場合は、2.29で追加された設定キーと会話のテーブルを確認します(PostgreSQLの例。DB_TABLE_PREFIX を設定している場合はテーブル名に接頭辞が付きます)。
-- 'true' なら Chat Hub が有効
SELECT key, value FROM settings WHERE key = 'chat.access.enabled';
-- 会話セッションの件数
SELECT count(*) FROM chat_hub_sessions;
移行レポートの判定も chat.access.enabled の値を見ています(PR #38613)。値が true で、セッションが残っているインスタンスは、3.0に上げた時点で利用者がChatの画面と会話履歴にアクセスできなくなります。データ自体はテーブルに残ります。
プロバイダ・モデルの利用制限と既定の資格情報
Settings > Chat では、Chat Hubで使えるプロバイダとモデルも管理します。設定できるのは次の4点です。
- プロバイダ単位・モデル単位での有効化と無効化
- ユーザーが独自のモデルを追加することの禁止
- プロバイダごとの既定の資格情報(APIキー)
- ユーザーが自分の資格情報を追加することの制限(n8nの権限設定で行う)
既定の資格情報を管理者が登録しておくと、利用者は自分のAPIキーを用意せずに会話できます。利用料金は、設定した資格情報に対応する各プロバイダの契約に従います。
ワークフローをChat Hubのエージェントにする手順
n8nのワークフローをチャットボットとして社内に提供する場合、Chat Hubでの入口はChat Triggerです。ワークフローエージェントにする手順は次のとおりです。
- Chat Triggerノードを用意する。typeVersion 1.2より古いノードでオプションをオンにすると「Your Chat Trigger node is out of date」と表示されるので、ノードを削除して新しく追加し直す(2.42.4の既定は1.5)。
- 「Make Available in n8n Chat Hub」をオンにする(ドキュメントでの表記は「Make Available in n8n Chat」)。
- Agent Name(空欄ならワークフロー名)、Agent Description、Agent Icon、Suggestions(利用者に見せる提案プロンプト)を設定する。
- Response Modeを確認する。Chat Hubに公開するとStreamingが既定値になる。
- AI AgentノードのオプションでEnable Streamingをオンにする(AI Agent 3.xでは既定でオン)。
- ワークフローを公開(Publish)し、使わせたいユーザーに少なくともProject Chat User権限で共有する。
設定後のChat Triggerは、ワークフローのJSONでは次の形になります(パラメータ名はn8n 2.42.4のソースによる)。
{
"type": "@n8n/n8n-nodes-langchain.chatTrigger",
"typeVersion": 1.5,
"parameters": {
"availableInChat": true,
"agentName": "経費規程アシスタント",
"agentDescription": "経費精算の規程と申請手順に答えます",
"options": {
"responseMode": "streaming"
}
}
}
ドキュメントは「Chat TriggerとストリーミングをオンにしたAI Agentを持つワークフローだけがワークフローエージェントとして動く」と制約を明記しています。ソース内の設定ヒントは、ログ記録などの処理をAI Agentの後ろに直列でつながず、Chat TriggerかAI Agentから分岐させた並列の枝に置くよう求めています。Response Modeを「When Last Node Finishes」にした場合は最後に実行されたノードの出力が応答になるため、データテーブルへの書き込みなどで終わるワークフローは回答を返せません。また、Chat Triggerへのメッセージは1件ごとにワークフローを1回実行するので、利用者が1つの会話で10回送信すると実行数を10回分消費します。2.8以降は、Chatノードの「Send and Wait for Response」で人の承認を待つと、Chat Hubに承認ボタンが表示されます。
Chat userロールとワークフロー共有の設計
Chat userは、ワークフローを作らずに使うだけの人のためのロールです。チャット画面だけが見え、既定では資格情報やワークフローを追加できません。n8nドキュメントの提供範囲は次のとおりです。
- n8n Cloud:全プラン
- セルフホスト:BusinessとEnterprise
セルフホストのCommunity版は提供範囲に含まれていないため、「ワークフローは見せずにチャットだけ使わせる」分離をロールで作るにはBusiness以上の契約が要ります。ワークフローエージェントを使うChat userには、そのワークフローを共有するか、ワークフローのあるプロジェクトで権限を与えます。Chat Triggerの画面には、公開後に少なくともProject Chat Userで共有するよう注意書きが表示されます。
Chat Hubを新しく採用すべきでないケース
4.0での削除が決まった以上、これからChat Hubを社内チャット基盤として整備するのは勧めません。特に次の条件に当てはまる場合は、最初から移行先で組みます。
- 1年以上の運用を見込む:3.xでは環境変数で残せても、4.0で機能がなくなる。利用者への周知と移行を二度行うことになる。
- セルフホストのCommunity版で、チャット専用の利用者を作りたい:Chat userロールが提供範囲外。
- Personal agentに社内文書を読ませたい:ドキュメント上、Personal agentにはファイル知識を追加できない。ワークフローエージェントでベクトルストアを組む必要があり、それなら移行先でも同じ手間で作れる。
一方、すでにChat Hubで会話を積み上げている2.xのインスタンスは、3.0へ上げる直前まで現状のまま使って構いません。アップグレードの計画に合わせて、利用者と主要なワークフローエージェントの一覧を作っておくと移行が速く進みます。
Chat Hubからの移行先の選び方
移行先は、チャットの入口をどこに置くかで3つに分かれます。
| 移行先 | 利用者の入口 | 提供状況 | 向くケース |
|---|---|---|---|
| n8n Agents | Agent Builderのチャット、Slack・Telegram・Linear | Preview・セルフホストは2.32.3以降 | n8n内で完結させたい |
| Chat Triggerの公開チャット | Hosted Chat、埋め込みウィジェット | 1.24.0以降 | 社外向けや社内ポータルに埋め込む |
| 外部のチャットUI | LibreChatやOpen WebUIなど | 各OSSの版に依存 | 複数モデルの切り替え画面を残したい |
n8n Agents:提供範囲・公開先・運用制約
Agentsは、モデル・指示・ツール・スキル・ナレッジベース・メモリを設定したエージェントを、ワークフローと並ぶ単位として作る機能です。n8n Cloudの全プランと、セルフホストでは2.32.3以降の全プランで使え、既定でオンになっています。公開したエージェントにはSlack・Telegram・Linearのチャンネルや定期実行から到達でき、ワークフローからは「Message an Agent」ノードで呼び出せます。
注意点は3つあります。機能自体がPreviewであること、キューモードには未対応でチャンネル接続が失敗しうるためレギュラーモードでの運用が推奨されていること、エージェントとの1往復が1実行としてワークフローと同じ実行数の枠を消費することです。キューモードで動かしている本番インスタンスでは、Agentsへ移る前に構成を見直す必要があります。
Chat Triggerの公開チャット:Hosted Chatとウィジェット
Chat Triggerの「Make Chat Publicly Available」をオンにすると、n8nがホストするチャット画面(Hosted Chat)か、npmパッケージ @n8n/chat のウィジェットを自社サイトに埋め込む形(Embedded Chat)で公開できます。認証はNone・Basic Auth・n8n User Authから選べます。モデルの切り替え画面はありませんが、1つの業務に絞ったチャットボットならこれで足ります。
外部チャットUIとn8nのWebhook・MCP連携
Chat Hubの「複数モデルを1画面で切り替える」使い方を残したい場合は、LibreChatやOpen WebUIを社内チャットの画面にし、業務処理だけをn8nのWebhookやMCPサーバー経由で呼び出す分担が現実的です。チャット画面の利用者管理はそれぞれのOSS側で行うので、n8n側でChat userロールを使う必要もなくなります。社内ナレッジへの回答が中心なら、Difyでチャットボットを作る構成も比較対象になります。
よくある質問
n8n Chat Hubはどのプランで使えますか?
Chat Hub本体は、公開時のn8n公式ブログで「Community Editionを含む全プラン」で使えると案内されています。チャット専用のChat userロールは、現行ドキュメントではn8n Cloudが全プラン、セルフホストがBusinessとEnterpriseです。外部の有料LLM APIを使う場合は、各プロバイダの料金が別途かかります。Ollamaでローカルモデルを動かす場合は、実行環境の維持費などを見込みます。
ChatHub(チャットハブ)というAIツールとn8n Chat Hubは同じものですか?
別物です。chathub.gg のChatHubは、ChatGPT・Claude・Geminiなど複数のチャットボットに同じ質問を送って回答を並べて比べるブラウザ拡張とアプリです。n8n Chat Hubはn8nのインスタンスに組み込まれた機能で、n8nのワークフローを呼び出せる点が違います。
n8nのメニューにChatが表示されないのはなぜですか?
2.29以降、Chat Hubを使ったことのないインスタンスでは既定でオフになっているためです。オーナーか管理者が Settings > Chat で有効にすると表示されます。3.x系では、先に環境変数 N8N_ENABLED_MODULES に chat-hub を加える必要があります。
n8n 3.0に上げるとChat Hubの会話履歴は消えますか?
消えません。3.0ではモジュールが既定でオフになり画面から見えなくなりますが、会話セッション・エージェント・メッセージはデータベースに残ります。3.x系の間は chat-hub を有効にすれば再びアクセスできます。4.0で機能が削除された後の扱いは、2026年10月時点で公表されていません。
作ったワークフローがChat Hubのモデル一覧に出てこないのはなぜですか?
公開の条件を満たしていない可能性があります。確認する点は4つです。Chat TriggerがtypeVersion 1.2以上か(古ければ削除して追加し直す)、「Make Available in n8n Chat Hub」がオンか、AI AgentノードのEnable Streamingがオンか、ワークフローを公開してその利用者に共有しているかです。