エフィカシーは、心理学者アルバート・バンデューラが1977年に示したself-efficacy(自己効力感)を指し、「自分はその行動をうまくやり遂げられる」という確信を意味します。英単語のefficacy単体は「有効性」を表す一般語で、心理学の用語として使うときはselfが付きます。ビジネス研修では「エフィカシーを高める」という言い方が広まりましたが、元の理論は「特定の課題に対する見通し」であり、自分をまるごと肯定する自己肯定感とは別の概念です。この記事では原論文と測定尺度の原典に当たり、意味・違い・高め方・測り方を整理します。
まとめ:エフィカシーの意味と押さえるべき要点
- 意味:ある結果に必要な行動を自分が遂行できるという確信(Bandura 1977の「効力予期」)。self-efficacyの日本語訳は自己効力感で、カタカナではセルフエフィカシーと表記します。
- 自己肯定感との違い:自己肯定感は自分自身への態度、エフィカシーは特定の行動への見通しです。自己肯定感をカタカナで言うなら、エフィカシーではなくセルフエスティーム(self-esteem)が近い語です。
- 高め方:情報源は達成体験・代理体験・言語的説得・生理的/感情的状態の4つ。バンデューラ自身が最も強いとしたのは達成体験です。
- 成果との関係:114研究のメタ分析で職務遂行との相関は.38。ただし複雑な課題の現場では弱まり、個人内では高すぎる見通しが次の成績を下げる実験結果もあります。
- 測り方:日本で使われるGSES(坂野・東條1986)は16項目、海外のGSE(Schwarzer & Jerusalem)は10項目で、別の尺度です。
エフィカシーの意味と英語表記:efficacyとself-efficacy
英単語efficacyの語源と一般英語での意味
英語辞典のEtymonlineによると、efficacyは1520年代から使われている語で、ラテン語のefficacia(効力)に由来し、さらにefficere(成し遂げる)にさかのぼります。一般英語では「薬の効き目」「施策の有効性」のように、物事が期待した効果を生む度合いを表します。「efficacy 意味」で辞書を引くと「効能・有効性」と出てくるのはこのためです。
心理学で使うのは、頭にselfを付けたself-efficacy(セルフエフィカシー)です。ビジネスの文脈で単に「エフィカシー」と言う場合も、ほぼこのself-efficacyを指しています。
心理学のself-efficacy:効力予期と結果予期の区別
バンデューラ(当時スタンフォード大学)は、1977年の論文「Self-efficacy: Toward a Unifying Theory of Behavioral Change」(Psychological Review 84巻2号、191〜215頁)で、2つの予期を分けました。
| 用語 | 原語 | 原論文の定義 |
|---|---|---|
| 結果予期 | outcome expectancy | その行動が一定の結果をもたらすという見積もり |
| 効力予期 | efficacy expectation | 結果に必要な行動を自分が遂行できるという確信 |
「毎日30分勉強すれば資格に受かる」と分かっていても(結果予期)、「自分には毎日30分を続けられない」と感じていれば(効力予期が低い)、取り組み始めたり続けたりすることが難しくなります。エフィカシーはこの後者の効力予期のことです。同論文は、効力予期が「対処行動を始めるか」「どれだけ努力するか」「障害や嫌な経験に直面してどれだけ続けるか」を決めるという仮説を立てています。
コーチングで使われる「エフィカシー」の定義
日本のビジネス書やコーチングで「エフィカシー」が広まった背景には、コーチング理論の流れがあります。苫米地英人氏が2025年に公開したコーチングの形式定義の資料では、「コーチングでエフィカシーとは、自身のゴールを達成する自己能力の自己評価」と定義されています。心理学の効力予期が「特定の行動」を対象にするのに対し、コーチングの用法は「ゴール」を対象にしている点が異なります。研修資料を読むときは、どちらの意味で使われているかを確認すると混乱しません。
エフィカシーと自己効力感・自己肯定感の違い
エフィカシーと自己効力感は同じ概念
エフィカシー(self-efficacy)と自己効力感は、原語と訳語の関係にあり、意味の違いはありません。論文や教育・医療の現場では「自己効力感」「セルフ・エフィカシー」、人事やコーチングの現場では「エフィカシー」と呼ばれる傾向がある、という使われ方の違いだけです。
自己肯定感とエフィカシーの評価対象の違い
自己肯定感に近い心理学の概念は自尊感情(self-esteem)です。自尊感情尺度で知られるローゼンバーグ(1965年の著書『Society and the Adolescent Self-Image』)は、self-esteemを自己という対象に向けた肯定的または否定的な態度として扱いました。対象は自分という存在そのものです。
エフィカシーの対象は行動です。「自分には価値がある」と感じていても「このプレゼンは成功させられない」と見通すことはありますし、その逆もあります。部下の育成で「自己肯定感を上げる声かけ」と「エフィカシーを上げる課題設計」を混同すると、施策の焦点がずれます。失敗した自分への向き合い方を扱う概念としてはセルフコンパッション(自己慈愛)もあり、自己肯定感との違いはそちらで詳しく扱っています。
自己肯定感のカタカナ表記と訳語の限界
「自己肯定感 言い換え カタカナ」で探している場合、エフィカシーは適切な言い換えではありません。近いのはself-esteemをそのまま音訳したセルフエスティームです。ただし、国立国会図書館の雑誌記事索引には、件名として「自尊感情(Self-esteem)」と「自己肯定感(Self-affirmation)」が別々に付与された論文の書誌があります。研究の場では両者を分けて扱う例もあるため、自己肯定感とself-esteemを完全に同じ語とは言い切れません。
エフィカシーを高める4つの源泉と職場での使い方
バンデューラは1977年の論文で、効力予期は4つの情報源から作られるとしました。1997年の著書『Self-Efficacy: The Exercise of Control』では呼び方が一部変わっています。
| 源泉 | 1977年論文の原語 | 1997年著書の見出し |
|---|---|---|
| 達成体験 | performance accomplishments | Enactive Mastery Experience |
| 代理体験 | vicarious experience | Vicarious Experience |
| 言語的説得 | verbal persuasion | Verbal Persuasion |
| 生理的/感情的状態 | physiological states | Physiological and Affective States |
4つは同じ重みではありません。実務で最初に手を入れるべきは達成体験です。
達成体験:影響の強さと序盤の課題設計
原論文は、達成体験を「自分自身の習熟経験に基づくため特に影響力が強い」と位置づけ、成功は見通しを高め、失敗の繰り返しは下げ、とくに序盤の失敗が響くと述べています。職場で使うなら、最初の課題は「少し頑張れば届く」難度に置き、序盤で連続して失敗させない設計にします。本人の力量より一段上の仕事を任せるストレッチアサインメントも、この序盤の成否を管理できるかどうかで効果が変わります。
代理体験:ロールモデルの効果と限界
自分と似た人が成功するのを見ると「自分にもできそうだ」と感じます。ただし原論文は、代理体験は社会的比較からの推論に頼るため、本人の達成という直接証拠より当てにならず、見本を見るだけで生じた見通しは弱く変わりやすいとしています。先輩の成功事例を見せたら、同じ手順を本人に小さく試させるところまでを1セットにします。
言語的説得:実体験による裏づけと声かけの具体例
上司や同僚からの「できる」という言葉も見通しを動かしますが、原論文は、説得によって生じた見通しは本人の実体験という裏づけを持たないため、自分の達成から生じたものより弱いとしています。声をかけるなら「前回の見積もり精度が上がっていた」のように、本人の過去の行動を具体的に指すほうが達成体験と結びつきます。逆に、低い期待をかけ続けると成績が下がる現象はゴーレム効果として知られています。
生理的/感情的状態:緊張の解釈と自己効力感
原論文は、ストレスのかかる場面で生じる感情的な覚醒は、状況によっては自分の能力についての情報になり得るとしています。動悸や手の震えを「自分には無理だというサイン」として受け取れば、見通しを下げる材料になるということです。出来事の受け止め方を変える手法はリフレーミングで整理しています。
「エフィカシーの3つのタイプ」の出どころ
日本語の解説記事では「自己統制的自己効力感・社会的自己効力感・学業的自己効力感」の3タイプが紹介されることがあります。ただし、その区分を理解するには、出典となる研究の対象と測定領域を確認する必要があります。この3領域は、バンデューラらが子どもの学業成績への影響経路を分析した研究(Bandura, Barbaranelli, Caprara, Pastorelli 1996、Child Development 67巻3号)で扱われた領域に対応します。
同研究の抄録で分析されているのは、学習を自分で調整する効力感、社会的な効力感、そして問題行動へ誘う仲間からの圧力に対処する効力感です。自己調整(self-regulatory)の効力感は、問題行動を抑える道徳的な自己規制を通じて学業成績と関係していました。つまりこの3領域は、子どもの学校生活を説明するための区分です。「エフィカシーは3種類に分けられる」という一般的な分類ではなく、ビジネスの人材タイプ分けにそのまま当てはめる根拠はありません。
エフィカシーと成果の関係:メタ分析と負の効果をめぐる研究
職務遂行との相関.38と課題の複雑さによる違い
StajkovicとLuthansのメタ分析(1998、Psychological Bulletin 124巻2号、240〜261頁)は、114研究・157の相関・合計21,616人を統合し、自己効力感と職務関連の遂行の相関を.38と報告しました。エフィカシーが高い人ほど成果が高い傾向ははっきり存在します。
ただし、この関係は課題の複雑さで変わり、単純な課題で最も強く、複雑な課題を現場で扱う研究で最も弱くなっていました。企画や設計のような複雑な仕事では、エフィカシーを上げるだけで成果が出ると期待しすぎないほうが安全です。
高すぎる見通しが次の成績を下げる場面
個人の中での変化を追うと、別の姿も見えます。Vancouverらの2001年の研究(Journal of Applied Psychology 86巻4号)は、大学生56人を繰り返し測定し、同じ人の中では自己効力感が次の成績に負の影響を与え得るという予測を支持しました。同じ論文の第2研究(185人)では、難しい目標を与えた条件に限り、自己効力感は成績と正の関係でした。
2002年の続報(同誌87巻3号)では、87人中43人に自己効力感を操作する手続きを加え、その操作が次の試行の成績と負に関係していました。第2研究(104人)では、自己効力感が過信を生み、ゲーム中の論理的な誤りを増やしていたことが示されています。
この負の効果には反論もあります。バンデューラとロックは2003年の論文(同誌88巻1号)で、9件のメタ分析を含む多数の証拠は自己効力感と個人目標が動機づけと成果を高めることを示しており、能力への信念が自らを弱めるというVancouverらの知見とは矛盾すると主張しました。
いずれも大学生を対象とした実験で、職場での介入を比べたものではありません。そのうえで本記事は、正の関係を示すメタ分析を前提にしつつ、十分に習熟していない段階で「完璧だ」と過大に評価するフィードバックは避けることを勧めます。慣れてきてミスが増えた人には、エフィカシーをさらに上げる声かけより先に、直近の誤りとその原因を具体的に確認します。
チームのエフィカシー:コレクティブ・エフィカシー(集団効力感)
個人ではなく集団が持つ見通しを、コレクティブ・エフィカシー(collective efficacy、集団効力感)と呼びます。バンデューラは2000年の論文(Current Directions in Psychological Science 9巻3号)で、集団の主体性は「集団で行動することで効果を生み出せるという共有された信念」を通じて発揮されると述べています。
ポイントは「共有された」という部分です。メンバー個人のエフィカシーを単純に足し合わせるのではなく、集団として必要な行動を遂行できるという共有された信念の強さを捉えます。困難な局面での立て直しを個人の資質として捉えるなら、レジリエンスの研究も合わせて参照すると整理しやすくなります。
エフィカシーの測り方:GSESとGSEは別の尺度
一般的な(特定の課題に限らない)エフィカシーを測る尺度として、ここではGSESと、日本語版も公開されているGSEを紹介します。名前が似ていますが、項目数も開発者も違う別の尺度です。
| 項目 | GSES | GSE(日本語版あり) |
|---|---|---|
| 開発者 | 坂野雄二・東條光彦 | Schwarzer & Jerusalem |
| 発表 | 1986年『行動療法研究』12巻1号 | 掲載日本語版:Keiko Itoら、2005年 |
| 項目数 | 16項目 | 10項目 |
| 回答形式 | 2件法(Yes/No) | 4件法(合計10〜40点) |
| 下位因子 | 3因子 | 単一 |
GSESの3因子は「行動の積極性」「失敗に対する不安」「能力の社会的位置づけ」です(原著論文)。GSEは開発者の公式サイトに英語版と日本語版の質問票が掲載されており、日本語版は「全く当てはまらない」から「全くその通り」までの4段階で回答します。
研修の効果測定に使う場合、一般性の尺度は「この研修で扱った業務」の変化を拾いにくい点に注意します。営業提案なら「初回訪問でヒアリング項目を聞き切れる自信」のように、バンデューラの定義どおり特定の行動に絞った質問を別に用意したほうが、施策と結果の対応が見えます。
よくある質問
エフィカシーを日本語で言うと何ですか?
自己効力感です。心理学ではself-efficacyの訳語として定着しており、「セルフ・エフィカシー」と表記されることもあります。意味は、ある結果に必要な行動を自分がうまく遂行できるという確信で、バンデューラが1977年の論文で「効力予期(efficacy expectation)」として定義しました。「自信」と言い換えられることもありますが、自信は対象を限定しない言葉なので、特定の行動に対する見通しという元の意味は薄れます。
自己肯定感をカタカナで言い換えると何ですか?
近いのはセルフエスティーム(self-esteem)です。エフィカシーは自己効力感のことで、自己肯定感の言い換えには向きません。セルフエスティームは心理学では自尊感情と訳され、ローゼンバーグは自己に向けた肯定的または否定的な態度として扱いました。なお、国立国会図書館の雑誌記事索引には自尊感情(Self-esteem)と自己肯定感(Self-affirmation)を別々の件名として付与した論文の書誌もあり、両者は完全な同義語とは言い切れません。
エフィカシーを高めるにはどうすればいいですか?
最も効果が大きいのは達成体験です。少し頑張れば届く課題から始め、序盤に失敗を重ねない順序で経験を積みます。そのうえで、自分と似た人の成功を見る代理体験、過去の行動を具体的に指す言葉による説得、緊張を失敗の兆しと解釈しない感情の扱いを組み合わせます。バンデューラは見本を見るだけ、言葉をかけられるだけで生じた見通しは弱いとしているため、必ず本人が実際にやってみる機会につなげます。
エフィカシーが高い人の特徴は?
バンデューラの理論では、自己効力感は、対処行動を始めるかどうか、努力の量、困難に直面したときの持続に影響します。成果との関係はメタ分析で相関.38と確認されています。一方で、同じ人の中では自己効力感が過信を生み、次の試行で誤りが増えて成績が下がる実験結果もあり、「高ければ高いほど良い」わけではありません。複雑な仕事ほど成果との結びつきが弱まる点も押さえておきます。
Efficacyはビジネスでどういう意味ですか?
一般英語のefficacyは「有効性・効き目」で、医薬品の有効性や施策の効果を表すときに使います。人事や研修の文脈で「エフィカシー」と言う場合は、ほぼ心理学のself-efficacy(自己効力感)の意味です。コーチングの分野では「自身のゴールを達成する自己能力の自己評価」という定義も使われており、特定の行動ではなくゴール全体を対象にする点で心理学の定義と少し異なります。