Rephrase and Respond(RaR)とは|質問を言い換えてLLMの回答精度を上げるプロンプト手法
Rephrase and Respond(RaR)は、投げた質問をLLM(大規模言語モデル)自身に言い換え・具体化させ、その言い換えた質問に答えさせるプロンプト手法です。rephraseは英語で「言い換える」の意味で、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のDengらが2023年の論文で提案しました(arXiv:2311.04205)。人間の質問に含まれる曖昧さをLLMが取り違えて誤答する問題を、言い換えのひと手間で表面化させて解消するのが狙いです。プロンプトに一文を足すだけで試せるため、追加のツールも学習も要りません。
まとめ
- やること:質問の後ろに「曖昧な点を補って言い換えたうえで答えて」と一文足すだけ。
- 出典:UCLAのDengらによる論文(arXiv:2311.04205)。裏付けのある手法。
- 効果:GPT-4で全タスク平均の正答率が64.95%から89.77%へ改善。問いの取り違えが誤答原因のタスクでは21.36%→86.82%と大きく伸びた。
- 2つの型:1プロンプトで完結するOne-stepと、言い換え役と回答役を分けるTwo-step。
- CoTと併用可:Chain-of-Thoughtと補完関係で、組み合わせると精度がさらに上がる。
- 限界:知識不足や計算力そのものが原因の誤りは直らない。言い換えが元の意図を歪めることもある。
以下でRaRの仕組み、One-stepとTwo-stepの違い、GPT-4での実測値、具体的な書き方、限界の順に解説します。
Rephrase and Respondの意味と、精度が上がる理由
RaRの発想は「人間の質問はそのままではLLMにとって曖昧」という観察から来ています。人は文脈で補って読むため質問の曖昧さに気づきにくい一方、LLMは人間と違う解釈で読んでしまい、推論力があっても答えを外します。Dengらは、GPT-4の誤答の多くが推論能力の不足ではなく質問理解のズレに起因すると指摘しました。
RaRはこのズレを、LLM自身に質問を言い換えさせることで表に出します。言い換えた文にはモデルがその質問をどう受け取ったかが表れるため、人間の意図とすり合わせやすくなり、そのまま答えるより正答率が上がります。たとえば「ある日付が偶数日か」を問うタスクでは、何を「偶数」とみなすかの解釈が割れますが、言い換えさせると判定基準が明示され、誤読が減ります。人が会話で相手の質問を「つまり◯◯ということですか」と確認し直すのと同じ働きを、プロンプト内で完結させる手法だと捉えると位置づけやすい。
One-step RaRとTwo-step RaRの違い
RaRには、言い換えと回答を1回で行うOne-stepと、2つのモデルに分担させるTwo-stepの2つの型があります。手軽さのOne-step、精度と汎用性のTwo-stepという住み分けです。
One-step RaR:1つのプロンプトで完結させる
最も簡単な型で、質問の直後に言い換えと回答をまとめて指示します。論文で使われた英語プロンプトは、質問の後ろに次の一文を付けるだけです。
{質問文}
Rephrase and expand the question, and respond.
日本語なら「上記の質問について、曖昧な点を補って具体的に言い換えたうえで、その言い換えた質問に答えてください」と添えます。モデルは言い換え文と回答を続けて出力するため、追加のAPI呼び出しは不要で、そのまま日常のChatGPT利用に組み込めます。
Two-step RaR:言い換え役と回答役を分ける
先に性能の高いモデル(論文ではGPT-4)に質問を言い換えさせ、元の質問と言い換え文の両方を別の回答役モデルに渡して「言い換えた質問への答えを使って元の質問に答えて」と指示します。狙いは、強いモデルが作った良質な言い換えを、回答役が弱いモデルにも移植できる点にあります。組織で安価なモデルを回答に使いつつ質問理解だけ強化したい場合に向きますが、推論を2回走らせるためトークンとレイテンシは増えます。
GPT-4での正答率の改善幅(論文実測)
効果の大きさは論文の実測値で確認できます。次の表はGPT-4に対し、RaRなしとOne-step RaRを適用した場合の正答率(%)の比較です。
| タスク | RaRなし | One-step RaR |
|---|---|---|
| 偶数日の判定 | 54.29 | 93.33 |
| 偶数月の判定 | 58.10 | 83.96 |
| 末尾文字の連結(2語) | 52.05 | 99.09 |
| 末尾文字の連結(4語) | 21.36 | 86.82 |
| 全タスク平均 | 64.95 | 89.77 |
伸びが大きいのは、誤答の原因が知識ではなく質問の曖昧さや指示の取り違えにあるタスクです。末尾文字連結(4語)は21.36%から86.82%へ4倍以上に改善しました。逆に、純粋な知識量や計算そのものが問われる問題では伸び幅は小さくなります。RaRは「分かっているのに問いを読み違えて外す」タイプの誤りに効く、と割り切って使うのが実務的です。
RaRプロンプトの書き方と使うべきでない場面
ChatGPTやClaudeでの実践は、普段の質問文の末尾に言い換え指示を足すだけです。「次の質問を、前提や条件を補って具体的に言い換えてから答えてください」と書けば機能します。言い換えの質を上げたい場合は「質問の中で解釈が分かれそうな語を特定し、あなたの解釈を明示してから答えて」まで指定すると、モデルの読み取りが可視化され、意図とのズレをその場で修正できます。より体系的なプロンプト設計はプロンプトエンジニアリングの基本概念とその重要性についてで整理しています。
一方で、RaRを常用すべきではありません。単純な事実確認、要約、翻訳のように質問の意図が最初から明確なタスクでは、言い換えが冗長な前置きを生み、出力が長くなるだけで精度は上がりません。曖昧な質問・複数の解釈がありうる質問・条件が省略された質問に絞って使うのが効率的です。
Chain-of-Thought(CoT)との組み合わせ
RaRはChain-of-Thought(CoT)と競合せず補完します。CoTが「答えに至る推論過程を段階的に書かせる」手法で回答側を整えるのに対し、RaRは質問側の曖昧さを先に潰します。論文は両者を組み合わせると単独より精度が上がることを示し、特に例示付きのfew-shot CoTとの併用が有効だと報告しています。
また、例示のないzero-shot CoTは、モデルが誤った前提のまま推論を積み上げて幻覚を強めることがあります。RaRで質問を明確化してからCoTを走らせると、この暴走を抑えやすくなります。質問の設計と文脈の与え方をより広く捉える観点はPrompt Engineeringとの違いで理解するContext Engineeringの本質と全体像が参考になります。
RaRの限界と注意点
RaRは万能ではありません。第一に、言い換えの過程で元の質問の意図が歪むリスクがあります。「リスクを減らす方法」を「課題の解決策」に言い換えるように焦点がずれると、まったく別の答えが返ります。言い換え文を一度目視し、意図と合っているか確認する運用が安全です。
第二に、Two-stepは推論を2回行うためトークン消費と応答時間が増え、リアルタイム性が重要なチャットボットでは体感速度を損ないます。第三に、医療や法律のように専門用語と文脈依存が強い領域では、用語の定義や背景をプロンプトに添えないと言い換え自体が誤ることがあります。そして繰り返しになりますが、知識の欠落や計算力不足が原因の誤りは、質問を言い換えても解消しません。LLMそのものの土台については大規模言語モデル(LLM)とは?基本概念と仕組みの全貌を解説で確認できます。
よくある質問
rephraseとはどういう意味ですか?
英語で「言い換える」「表現し直す」という意味の動詞です。RaR(Rephrase and Respond)は、この言い換えをLLM自身に行わせてから回答させるプロンプト手法を指します。
RaRとChain-of-Thoughtの違いは何ですか?
RaRは質問側の曖昧さを言い換えで正す手法、CoTは回答側の推論過程を段階的に書かせる手法です。役割が異なり補完関係にあるため、併用すると精度がさらに上がります。
One-stepとTwo-stepはどちらを使うべきですか?
手軽さ重視ならOne-step(1プロンプトで完結)、精度重視や、回答に弱いモデルを使いつつ質問理解だけ強化したい場合はTwo-stepが向きます。Two-stepは推論2回分のコストがかかります。
RaRは無料で試せますか?
プロンプトに一文足すだけの手法なので、ChatGPTなど既存のLLMサービスでそのまま追加費用なく試せます。Two-stepはAPIを2回呼ぶため、従量課金では相応のコストが乗ります。
日本語の質問でも効果はありますか?
言い換えで質問理解のズレを減らすという原理は言語に依存しないため、日本語で言い換え指示を書けば機能します。ただし論文の検証は英語のベンチマークが中心(中国語の課題も一部含む)で、日本語での定量的な効果は自分のタスクで確かめるのが確実です。