ドッグカフェの事業計画書は、日本政策金融公庫の創業計画書の記入欄に沿えば骨格はそろいます。一般のカフェと違うのは2点です。客の犬を迎えるだけか、店の犬と触れ合わせるかで必要な許認可が変わること。そして、犬連れの客は長く滞在するため、席の回転数を一般カフェの感覚で置くと売上が過大になることです。
この記事では、営業形態ごとの許認可の分かれ目を法令と自治体の公表資料で整理し、滞在時間から必要な回転数を逆算する設例で収支計画の組み方を示します。
まとめ:ドッグカフェの事業計画書で押さえる要点
- 飲食店営業許可と食品衛生責任者は全形態で必要です。客が連れてきた犬と客席で過ごすだけの同伴型は、埼玉県が県議会で「動物取扱業ではない」と答弁しています。
- 店の犬と触れ合わせるなら第一種動物取扱業の「展示」、客の犬を預かるなら「保管」の登録が必要です。常勤の動物取扱責任者を置き、5年ごとに更新します。
- 店内で調理して食べさせる犬用メニューは、ペットフード安全法の届出も表示も不要です。包装して持ち帰らせる手作りおやつを売るなら、製造業者の届出が必要になります。
- 売上は公庫の算式「客単価×席数×回転数」で積み上げます。本記事の設例では、返済と生活費まで賄うのに1日平均約2回転が必要でした。
- 入店ルールでは、狂犬病予防法に基づく犬の登録と毎年の予防注射の状況を確認します。犬同士の咬傷事故の賠償責任は、民法718条により原則として犬を連れてきた飼い主が負います。
以下、許認可の分岐から順に、計画書に書く中身を説明します。
営業形態で分かれるドッグカフェの許認可
ドッグカフェという言葉には、飼い主が自分の犬を連れて来店する同伴型と、店で飼っている犬と触れ合える触れ合い型(犬カフェ)の両方が含まれます。計画書の許認可欄は、どちらの形態か、預かりや物販を併設するかで書く中身が変わります。
| 営業の中身 | 必要な手続き | 根拠 |
|---|---|---|
| 飲食の提供(全形態) | 飲食店営業許可・食品衛生責任者 | 食品衛生法55条 |
| 客の犬の同伴のみ | 動物取扱業の登録は不要 | 埼玉県議会答弁(平成30年) |
| 店の犬と触れ合わせる | 第一種動物取扱業(展示) | 動物愛護管理法10条 |
| 客の犬を預かる | 第一種動物取扱業(保管) | 動物愛護管理法10条 |
| 店内で与える犬用メニュー | 届出・表示とも不要 | 農林水産省Q&A A3 |
| 手作り犬用おやつの製造・包装販売 | 製造業者の届出・表示等 | 同上 |
飲食店営業許可と食品衛生責任者:全形態で必要
飲食を出す以上、所轄の保健所で飲食店営業許可を受け、食品衛生責任者を置きます。中小企業基盤整備機構のJ-Net21「業種別開業ガイド ドッグカフェ」には「飲食店営業」か「喫茶店営業」を申請すると書かれていますが、このページの最終内容確認日は2014年2月です。2021年6月施行の改正後、食品衛生法施行令35条の許可業種は32に整理され、喫茶店営業は独立した業種として残っていません。古い開業ガイドの区分をそのまま計画書に写さないよう注意してください。
犬を店に入れること自体は、食品衛生法上の許可業種の問題ではありません。食品衛生法施行規則別表第17は「食品又は添加物を取り扱い、又は保存する区域において動物を飼育しないこと」と定め、厚生労働省の施行通知(令和元年11月7日 生食発1107第1号)は、この区域に「原則として客席は含まれない」としています。計画書の店舗図面では、厨房と客席の境界、犬が厨房側へ入らない仕切りを示しておくと、保健所の事前相談がスムーズです。衛生管理の記録の付け方はHACCPの義務化範囲と記録保存の実務で整理しています。
第一種動物取扱業:店の犬と触れ合わせるなら展示、預かるなら保管
動物愛護管理法10条は、動物の販売、保管、貸出し、訓練、展示を業として行う者に、都道府県知事(指定都市は市長)の登録を求めています。展示には「動物との触れ合いの機会の提供」が含まれます。さいたま市の解説は、展示の例に猫カフェを挙げ、保管を「顧客から動物を預かる業」と定義しています。同じ解説は、ショッピングセンターの無料ふれあいコーナーでも全体の収益性が上がるので営利性ありと判断されると説明しています。看板犬との触れ合いを無料にしても、集客の目玉にしているなら登録が必要と考えて計画を立ててください。
一方、同伴型について埼玉県は平成30年2月定例会で「ドッグカフェは、動物取扱業ではないことから、ペットの適正な健康管理は、飼い主の責任となります」と答弁しています。ただし、トリミングのために犬を預かったり、一時預かりを併設したりする場合は保管に当たります。さいたま市は、トリミング中に必ず飼い主が立ち会う場合には、保管業とみなさない場合もあると説明しています。判断が分かれる業態は、管轄の動物愛護センターに図面と営業内容を持って確認するのが確実です。
登録が必要な場合、計画書には次の3点を反映します。
- 人件費:事業所ごとに常勤かつ専属の動物取扱責任者を選任します(東京都の案内)。要件は、獣医師か愛玩動物看護師の免許を持つこと、または「経験」と「学歴か資格」の両方を満たすことです(施行規則9条)。経験は、営む種別に対応する常勤職員としての半年以上の実務経験か、それと同等と認められる1年以上の飼養経験です。学歴か資格は、その種別を1年以上教える教育機関の卒業か、公平性と専門性のある団体の試験の合格です。東京都はペットとしての飼育経験を認めていないため、経験・学歴・資格が当てはまるかは管轄自治体に確認します。
- 費用と期限:東京都の登録申請手数料は1種別15,000円(2種別同時なら計25,000円)です。登録は5年ごとに更新が必要で(法13条)、無登録営業は100万円以下の罰金の対象です(法46条1号)。
- 営業時間:犬猫を展示する業者は、午後8時から午前8時までの夜間に顧客を犬の飼養施設へ立ち入らせない措置が要ります(施行規則3条2項10号)。触れ合い型で夜のバー営業を計画するなら、犬のいる区画を分ける設計が前提です。
犬用メニューとペットフード安全法:店内提供と持ち帰り販売の手続き
農林水産省の「ペットフード安全法に関するQ&A」(令和8年4月27日更新)のQ3は、ドッグカフェなど調理した店舗内で消費される場合は届出不要で、表示義務もないと回答しています。一方、店内で作って事前に包装し、店外へ持ち出すことを想定した犬用おやつやビスケットを売る事業者は、製造業者としての届出、表示、成分規格や製造方法の基準の遵守が必要です。手作りおやつの物販を売上計画に入れるなら、届出を開業前の工程表に組み込んでください。
公庫の創業計画書の記入欄ごとの書き方(ドッグカフェ版)
個人の創業で第一候補になる融資は、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内)です。公庫の各種書式ダウンロードページで配布している創業計画書は、1 創業の動機から10 自由記述欄までの10欄で構成されています。ドッグカフェで差が出るのは次の4欄です。
創業の動機と経営者の略歴:飲食経験と動物取扱経験の記載
略歴欄は、飲食店での勤務経験と、犬に関わる経験(トリマー、ペットショップ、動物病院、しつけ教室など)を別々の行で書きます。飲食の運営経験と犬への対応経験を分けると、開業後に担当できる業務と、採用や研修で補う業務を説明できます。触れ合い型では、展示業に対応する実務経験かどうかを施行規則9条に照らして確認します。略歴欄への記載だけで証明が完了するわけではなく、管轄自治体が求める経験・学歴・資格の確認資料を別途用意します。
取扱商品・サービス:人用・犬用・物販の売上構成
人用メニュー、犬用メニュー、物販(市販のおやつ・グッズ)、併設サービス(預かり・撮影など)に分け、それぞれの単価と売上シェアを書きます。犬用メニューは人用より単価が低くても、1組あたりの客単価を押し上げる商品として位置づけると説明が通ります。ペットフード安全法の届出が要る持ち帰り商品は、この欄で店内提供と分けて記載します。
必要な資金と調達方法:犬対応の内装費と見積書の明細
J-Net21の開業ガイドは、住宅地の大きな公園のそばに20坪・20席で出店する例として、物件取得費264万円、内装工事費1,500万円、厨房設備工事180万円、空調・什器備品850万円、看板その他180万円、合計2,974万円を示しています。内装工事費が合計の約半分を占め、同じガイドは防臭壁紙、傷や汚れに強い床材、換気システムや空気清浄機、入口のペット用足洗い場を衛生上の配慮として挙げています。2014年確認の数字なので、金額は自分の見積書で置き換え、犬対応の設備を見積書の明細で示してください。
比較の物差しとして、公庫の「2025年度新規開業実態調査」では、開業費用は調査対象業種全体で平均975万円、中央値600万円でした。対象は公庫国民生活事業の融資先のうち融資時点で開業後1年以内の企業で、不動産賃貸業は除かれています。開業時の資金調達額は平均1,219万円で、金融機関等からの借り入れが827万円(67.9%)、自己資金が279万円(22.9%)です。ドッグカフェ専用の相場ではない点は、計画書でも明記しておきます。
事業の見通し:月平均の売上・経費・利益
創業当初と軌道に乗った後の2時点で、売上高、売上原価、経費(人件費・家賃・支払利息・その他)、利益を書きます。公庫の「売上高等の計算方法について」によると、個人営業の場合、人件費には事業主分を含めません(家族の分は含めます)。支払利息は「借入金残高×年利÷12か月」で計算します。この欄の数字の根拠を、次の章の逆算で用意します。
滞在時間から逆算するドッグカフェの売上と必要回転数
公庫は飲食店などサービス業の売上予測式として「客単価×設備単位数(席数)×回転数」を示しています。ドッグカフェで最も外しやすいのは回転数です。
回転数の設定:滞在時間と席稼働率による検証
犬連れの客は、犬を落ち着かせ、犬用メニューを食べさせ、写真を撮るので滞在が長くなりがちです。さらに犬が足元で伏せられるようテーブル間隔を広く取るため、同じ坪数でも席数は一般のカフェより少なくなります。J-Net21の例は平日に20席で80人(4回転)を置いていますが、仮に営業8時間・平均滞在90分とすると、理論上の上限は約5.3回転で、4回転に必要な席稼働率は、営業時間全体の平均で約75%となる計算です。開業前に近隣の同業店で平日と週末の滞在時間を自分で計り、その実測を回転数の根拠に書くのが最も説得力があります。
設例:16席の同伴型で返済と生活費まで賄える売上
次の条件で試算します。数字はすべて本記事の設例で、相場を示すものではありません。所得税・住民税や事業主の社会保険料は別途見積もる簡易試算のため、実際の必要売上には、それらの支出と予備資金も反映します。
- 16席、客単価1,800円(犬用メニューと物販を1人あたりに按分)、平日17日・土日祝8日の月25日営業
- 回転数は平日1.5回、土日祝2.5回
- 原価率32%、家賃22万円、パート人件費25万円、水道光熱費5万円、消耗品・犬対応備品2万円、保険・広告・通信ほか6万円
- 借入1,200万円を年2.5%・据置なしの7年で元金均等返済(毎月の元金返済は約14.3万円、初月の利息は月割り概算で2.5万円)、事業主の生活費20万円。以下は返済初月を想定した試算です
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| 売上(平日73.4万円+土日祝57.6万円) | 131.0万円 |
| 売上原価(32%) | 41.9万円 |
| 経費(支払利息を含む) | 62.5万円 |
| 利益 | 26.6万円 |
| 元金返済+生活費 | 34.3万円 |
| 不足額 | 7.7万円 |
損益分岐点の売上は62.5万円÷(1−0.32)=約91.9万円で、この計画は黒字です。それでも、個人営業では元金返済と生活費を利益から払うため、この試算月は手元資金が約7.7万円不足します。元金均等返済では残高の減少に伴って利息も減るため、不足額は毎月一定ではありません。必要な売上は(62.5万円+14.3万円+20万円)÷0.68=約142.3万円で、1日平均に直すと約2.0回転です。
この設例では、現在の客数を保ち、原価率も32%のままなら、客単価を約1,955円に上げると約142.3万円に届きます。回転数を増やす案と比べ、追加原価・作業時間・需要を確認して選びます。犬用メニューのセット化、市販品の物販、撮影や預かりサービスの追加が候補になります。ただし預かりは保管業の登録、包装した手作りおやつはペットフード製造業者の届出が前提です。売上と借入返済の入出金を月ごとに並べる方法は資金繰り表の作り方を参照してください。
季節・天候別の客数に基づく月次売上計画
犬連れの来店は散歩と組み合わせることが多いため、雨や猛暑の日の客数を見込んでおく必要があります。計画書の月次売上を12か月同じ数字にせず、近隣店で自分が計った曜日・天候別の客数に基づく通常計画と、来店減少を想定した下振れ計画を分けると、必要な運転資金を比較できます。例えば本記事の設例で平日と土日祝の回転数をともに20%下げると、月売上は約104.8万円になり、損益分岐点の約91.9万円に近づきます。
計画書に記載する入店条件と事故の賠償責任
同伴型のリスクは、犬同士の咬傷や、ほかの客への吠え・粗相によるクレームです。入店ルール、事故時の対応手順、賠償への備えを計画書の自由記述欄や添付資料にまとめると、営業上のリスクと対応策を具体的に説明できます。
- 狂犬病予防法に基づく確認:飼い主には犬の登録と鑑札の装着(4条)、毎年1回の狂犬病予防注射と注射済票の装着(5条)が義務づけられています。入店時に何を確認するかは店が定めるルールで、犬に着いた鑑札・注射済票か、獣医師が発行する注射済証の提示を求めます。特例制度に参加する市区町村では、登録済みのマイクロチップが鑑札とみなされるため(動物愛護管理法39条の7)、鑑札を着けていない犬の扱いも決めておきます。混合ワクチンの接種証明は法律上の義務ではないため、求めるなら店の独自ルールとして明示します。
- 入店条件:発情期(ヒート)中の犬、他の犬に攻撃的な犬の入店可否、マナーベルトやマナーパンツの着用、1組あたりの頭数上限、リードの長さを決めて掲示します。
- 賠償責任の所在:民法718条1項は、動物の占有者がその動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負うと定めています。同伴型では原則として連れてきた飼い主の責任ですが、2項は「占有者に代わって動物を管理する者」も同じ責任を負うとしています。預かりサービス中の事故は店が責任を負う前提で、施設の賠償責任保険を経費に入れておきます。
融資面談の前に点検するドッグカフェの計画書の欠陥
- 回転数を一般カフェの数字で置き、滞在時間の根拠がない
- 看板犬との触れ合いを売りにしているのに、展示業の登録と動物取扱責任者の人件費が計画にない
- 持ち帰りの手作りおやつを売上に入れているのに、ペットフード安全法の届出が工程表にない
- 損益分岐点しか示さず、元金返済と生活費を賄えるかを計算していない
- 月次売上の季節変動を検証しておらず、天候による来店減少の下振れ試算もない
- 入店ルールと事故時の責任分担、保険の記載がない
よくある質問
ドッグカフェの開業資金はいくら必要ですか?
物件と内装で大きく変わります。J-Net21の20坪・20席の例(2014年確認)は合計2,974万円で、そのうち内装工事費が1,500万円でした。全業種の開業費用は、公庫の2025年度新規開業実態調査で平均975万円、中央値600万円です。居抜き物件か、犬対応の床材や換気設備をどこまで新設するかで見積もりを取り、積み上げてください。
ドッグカフェの開業に必要な資格は何ですか?
全形態で食品衛生責任者が必要です。店の犬と触れ合わせる、客の犬を預かるといった第一種動物取扱業に当たる場合は、事業所ごとに常勤かつ専属の動物取扱責任者も置きます。動物取扱責任者は、獣医師・愛玩動物看護師の免許か、対象種別に対応する常勤での半年以上の実務経験等と、対象種別を1年以上学ぶ教育機関の卒業または認められる資格試験への合格の組み合わせが要件です。実務経験に代わる飼養経験には自治体の確認が必要で、ペットとしての飼育経験は含まれません。
看板犬がいるだけでも動物取扱業の登録は必要ですか?
看板犬を客に見せたり触れ合わせたりして集客につなげているなら、展示業に当たる可能性が高いと考えてください。動物愛護管理法の展示には触れ合いの機会の提供が含まれ、無料のふれあいコーナーでも営利性ありと判断した自治体の解説があります。店主の飼い犬が客席に出ない住居部分にいるだけの場合などは扱いが変わり得るので、管轄の動物愛護センターに確認してください。
猫カフェやドッグラン併設でも同じ書き方でいいですか?
創業計画書の記入欄と売上の算式は共通です。猫カフェは店の猫と触れ合うことが目的なので、展示業の登録と動物取扱責任者が前提になります(猫カフェの事業計画書も参照してください)。ドッグランを併設する場合は、利用料の単価と1時間あたりの受け入れ頭数を別の売上行として立て、預かりやしつけ教室を伴うなら保管業や訓練業の登録を確認します。
自己資金が少なくても公庫の創業融資は受けられますか?
新規開業・スタートアップ支援資金の制度ページには、自己資金の割合を条件とする記載はありません。ただし公庫は、適正な事業計画を策定し遂行する能力が十分あると認められる人に限るとしており、創業計画書で計画の内容を確認します。2025年度新規開業実態調査では、自己資金は平均279万円で資金調達額の22.9%でした。自己資金をどう準備してきたかも説明できるようにしておきます。