火災保険の控除証明書を探しても見つからない、年末調整の用紙に書く欄がない、という行き止まりに当たるのは、火災保険料が所得控除の対象から外れているからです。同じ保険証券に含まれていても、税金が安くなるのは地震保険料の部分と、平成18年までに契約した一部の長期火災保険だけ。この記事では、控除できない条文上の理由、令和8年分の申告書のどこに何を書くか、そして受け取った火災保険金に税金がかかるのかまでを、国税庁の様式と条文で確認します。
まとめ:火災保険料が対象外になる理由と控除できる2つの保険料
- 火災保険料そのものは年末調整でも確定申告でも所得控除の対象外。所得税法77条1項が対象を「地震等損害部分の保険料」に限っているため。
- 控除額の上限は所得税が5万円、住民税が支払保険料の2分の1で2万5000円。所得税率10%の人で年7,605円の負担減にとどまる。
- 平成18年12月31日までに契約した満期返戻金付き10年以上の火災保険は、旧長期損害保険料として所得税で最高1万5000円まで控除できる。
- 年末調整は令和8年分の給与所得者の保険料控除申告書、確定申告は第一表16欄と第二表16欄に書く。証明書は添付か提示(年末調整で済んでいれば不要)。
- 自宅の損害で受け取った火災保険金は非課税なので確定申告に書かない。ただし賃貸経営や事業用資産では収入金額になる場合がある。
以下、控除できない理由、金額の計算、申告書の書き方、受け取った保険金の扱いの順に見ていきます。
火災保険料が年末調整・確定申告で控除できない理由
所得税法77条1項は、控除の対象を「地震若しくは噴火又はこれらによる津波を直接又は間接の原因とする火災、損壊、埋没又は流失による損害」を補償する契約の「地震等損害部分の保険料又は掛金」と定めています。火災・落雷・風災・水災といった通常の火災保険の補償部分は、この定義に入りません。1枚の保険証券で火災保険と地震保険をセット契約していても、税務上は地震保険料の部分だけが切り出されます。
平成18年度改正による損害保険料控除の廃止と平成19年分からの置き換え
国税庁のタックスアンサーNo.1145は「平成18年の税制改正で、平成19年分から損害保険料控除が廃止されました」と明記しています。廃止前の損害保険料控除は、長期の損害保険料で所得税15,000円・住民税10,000円が上限でした。これが地震保険料控除に置き換わり、上限は所得税5万円・住民税2万5000円へ広がった代わりに、対象が地震等損害部分に絞られています。火災保険料が控除できないのは制度が消えたからで、書き方を間違えているわけではありません。
控除証明書の区分表示による対象保険料の見分け方
判断は自分でする必要がありません。令和7年分の確定申告の手引き31ページは「保険契約の区分は、損害保険会社等が発行する証明書に表示されています」としており、証明書には地震保険料か旧長期損害保険料かの区分と、その区分に対応する金額だけが印字されます。地震保険を付けていない火災保険単独の契約では、そもそも控除証明書が発行されません。証明書が届かないこと自体が、控除できる保険料がないという答えになります。
地震保険料控除の上限額と控除額の計算
所得税は最高5万円(所得税法77条1項)
| 区分 | 年間の支払保険料 | 控除額 |
|---|---|---|
| 地震保険料 | 50,000円以下 | 支払金額の全額 |
| 地震保険料 | 50,000円超 | 一律50,000円 |
| 旧長期損害保険料 | 10,000円以下 | 支払金額の全額 |
| 旧長期損害保険料 | 10,000円超20,000円以下 | 支払金額×1/2+5,000円 |
| 旧長期損害保険料 | 20,000円超 | 15,000円 |
| 両方がある場合 | - | それぞれ計算した金額の合計(最高50,000円) |
両方を持っていても合計の上限は5万円で、旧長期の1万5000円が上乗せされて6万5000円になることはありません。控除額の計算で1円未満の端数が出たときは切り上げて差し支えないと手引き31ページが認めています。
住民税は支払保険料の2分の1で最高2万5000円
住民税側の根拠は地方税法34条1項5号の3(道府県民税)と314条の2第1項5号の3(市町村民税)です。5号の2は現行法では「削除」となっており、条番号を5号の2と書いている解説は改正前の番号のままになっています。控除額は支払った地震保険料の2分の1で、2万5000円が上限です。
住民税の旧長期損害保険料は、地方税法等の一部を改正する法律(平成18年法律第7号)附則5条5項・11条5項が計算式を置いています。5,000円以下ならその全額、5,000円を超えるときは5,000円に超過額(1万円を超えるときは1万円)の2分の1を加えた額で、最高1万円。地震保険料と旧長期の両方がある場合は同項3号により合計2万5000円が上限です。
税率別に見た軽減額の目安(年5,052円から19,346円)
地震保険料控除は所得控除なので、戻る金額は控除額そのものではなく「控除額×税率」です。地震保険料を年5万円以上払って所得税5万円・住民税2万5000円を満額使った場合の目安が次の表です。所得税の税率は所得税法89条、住民税所得割は10%、復興特別所得税2.1%を含めています。
| 課税総所得金額 | 所得税率 | 所得税の軽減 | 住民税の軽減 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 2,552円 | 2,500円 | 5,052円 |
| 195万円超330万円以下 | 10% | 5,105円 | 2,500円 | 7,605円 |
| 330万円超695万円以下 | 20% | 10,210円 | 2,500円 | 12,710円 |
| 695万円超900万円以下 | 23% | 11,741円 | 2,500円 | 14,241円 |
| 900万円超1800万円以下 | 33% | 16,846円 | 2,500円 | 19,346円 |
表の金額は1円未満を切り捨てて計算しています(切り上げの取扱いは控除額を求める段階の話で、税額の計算とは別です)。住民税の軽減は申告した年ではなく翌年度の住民税に反映されます。年末調整で地震保険料控除を受けた分も勤務先から市区町村へ回るので、住民税のために別途手続きをする必要はありません。住民税額そのものの確認方法は住民税はいくら?年収別早見表と均等割・所得割の内訳、市民税所得割額の確認方法【令和8年度】で扱っています。
旧長期損害保険料の経過措置で控除できる火災保険
経過措置の3要件
損害保険料控除の廃止時に、既に長期契約を結んでいた人のために経過措置が置かれました(平成18年改正法附則10)。国税庁No.1145と令和8年分の保険料控除申告書の裏面注1が挙げる要件は次の3つで、すべて満たす必要があります。
- 平成18年12月31日までに締結した契約であること(保険期間または共済期間の始期が平成19年1月1日以後のものは除く)
- 満期返戻金等のあるもので、保険期間または共済期間が10年以上の契約であること
- 平成19年1月1日以後にその契約の変更をしていないこと
3つ目が実務でいちばん引っかかります。契約期間の延長、保険金額の増減、補償内容の変更を一度でも行っていれば、契約日が平成18年以前でも経過措置から外れます。該当するかどうかも自己判断は不要で、保険会社が経過措置の対象と認めた契約についてのみ、旧長期損害保険料と表示された控除証明書が届きます。
地震と旧長期の両方が証明された契約での有利選択
1つの保険契約について地震保険料と旧長期損害保険料の両方が証明されている場合、どちらか一方でしか控除を受けられません(No.1145の注)。令和7年分の手引き31ページの計算欄は、この選択を機械的に処理できる形にしています。その契約を地震保険料側に入れて計算した金額(欄H)と、旧長期側に入れて計算した金額(欄J)を両方出し、多い方を欄Kの控除額にします。年末調整の保険料控除申告書も同じ考え方で、区分欄について「地震保険料か旧長期損害保険料かに応じて、いずれか一方を丸で囲んでください」(裏面注2)と指示したうえで、大きい方の金額を採る欄を用意しています。
片方だけを計算して終えると損をします。地震保険料が少額で旧長期の保険料が2万円を超えているようなケースでは、旧長期側に寄せた方が控除額が大きくなります。
火災保険金・給付金を受け取ったときの課税関係と申告要否
自宅や家財の損害に対する保険金は非課税
台風で屋根を直した、水漏れで家財を買い替えたという場合に受け取る火災保険金は、所得税がかかりません。所得税法9条1項18号が保険金等の非課税を定め、その範囲を受けた所得税法施行令30条2号が「損害保険契約に基づく保険金…で資産の損害に基因して支払を受けるもの」を挙げているためです。非課税である以上、確定申告書に記入する欄はなく、金額の大小にかかわらず申告は不要です。給付金が数百万円になっても同じです。
賃貸経営・事業用資産で収入金額になる保険金の範囲
非課税が崩れるのは、その保険金が必要経費を補う性質を持つときです。所得税法施行令30条の柱書は、非課税額から「必要経費に算入される金額を補塡するための金額」を除くと定めています。さらに同令94条は、棚卸資産や工業所有権等の損失に対して受け取る保険金(1号)と、業務の休止・廃止による収益の補償として受け取る補償金(2号)を、不動産所得・事業所得等の収入金額とすると規定しています。
アパートオーナーであれば、建物そのものの損害に対する保険金は非課税側、火災で入居できなかった期間の家賃を補う家賃補償特約の保険金は不動産所得の収入金額、という切り分けになります。修繕費を必要経費に算入している場合、それを補塡する部分の保険金は柱書の除外規定によって非課税の範囲から外れます。経費に落としたうえで受け取った保険金も非課税、という両取りはできない設計です。
雑損控除で保険金を差し引く順序
災害の損害が保険金でカバーしきれなかった場合は雑損控除の出番ですが、所得税法72条1項は損失の金額から「保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く」と定めています。国税庁No.1110の注3はこの順序を具体化しており、保険金等の額はまず損害金額から差し引き、それでも保険金等が損害金額を超える場合に災害関連支出の金額から差し引きます。取壊し費用だけを先に控除対象にすることはできません。適用条件は雑損控除の対象・計算式と親族の所得要件で確認してください。
賃貸物件・自宅兼事務所・共済の扱い
投資用マンションや賃貸アパートは地震保険料控除の対象外
所得税法77条1項が対象とするのは「自己若しくは自己と生計を一にする配偶者その他の親族の有する家屋で常時その居住の用に供するもの」です。人に貸している物件は、自分も家族も住んでいないので要件を満たしません。不動産投資家が投資用マンションの地震保険料を年末調整で出しても控除されないのは、書類の不備ではなく要件の問題です。
ただし控除できないだけで、税金が減らないわけではありません。賃貸に出している物件の火災保険料も地震保険料も、不動産所得の必要経費になります(所得税法37条1項)。所得控除ではなく経費として引くので、確定申告書の16欄ではなく収支内訳書・青色申告決算書の損害保険料の欄に書きます。
自宅兼事務所は按分した部分だけが必要経費
自宅の一部を事務所や店舗に使っている個人事業主の場合、火災保険料は家事関連費になります。所得税法45条1項1号は家事関連費を必要経費に算入しないと定め、所得税法施行令96条1号がその例外として「主たる部分が…業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合」の按分部分を認めています。床面積比などの合理的な基準で区分し、その根拠を残しておきます。青色申告の承認を受けている人は同条2号があり、取引の記録等で業務上必要だったことを明らかにできる部分まで認められます。
居住部分に対応する地震保険料は所得控除に回せますが、必要経費に算入した部分を重ねて控除することはできません。経費と控除の使い分けは個人事業主の経費と控除の違い|1万円で減る税金と令和8年分の所得控除16種で整理しています。
JA共済・県民共済が対象になる条件
民間の損害保険会社の契約だけが対象ではありません。所得税法77条2項2号は「農業協同組合法第10条第1項第10号(共済に関する施設)の事業を行う農業協同組合の締結した建物更生共済又は火災共済に係る契約その他政令で定めるこれらに類する共済に係る契約」を損害保険契約等に含めています。JA共済の建物更生共済や、都道府県民共済の火災共済がここに入り得ます。
もっとも、共済だからといって掛金の全額が控除できるわけではありません。控除できるのは地震等損害部分に対応する掛金か、旧長期の要件を満たす部分だけです。共済団体から届く控除証明書に区分と金額が印字されているかどうかで判断します。
年末調整と確定申告での記入欄と添付書類
年末調整は令和8年分の保険料控除申告書の地震保険料控除欄
令和8年分の給与所得者の保険料控除申告書は、用紙の右下に地震保険料控除欄があります。契約1件ごとに次を記入します。
- 保険会社等の名称/保険等の種類(目的)/保険期間
- 保険等の契約者の氏名
- 保険等の対象となった家屋等に居住又は家財を利用している者等の氏名
- 地震保険料か旧長期損害保険料かの区分(いずれか一方を丸で囲む)
- 本年中に支払った保険料等のうち、その区分に係る金額
記入した金額の合計がA欄、そのうち地震保険料の合計がB欄、旧長期損害保険料の合計がC欄です。控除額はB欄の金額(最高5万円)と、C欄の金額(1万円を超えるときはC×1/2+5,000円、最高1万5000円)を足して最高5万円。1円未満の端数は切り上げます。家族名義の契約でも、実際に保険料を負担しているのが本人で、対象の家屋に本人か生計を一にする親族が住んでいるなら控除できます。契約者氏名と居住者氏名の欄が分かれているのはこのためです。
確定申告は第一表16欄と第二表16欄
確定申告では、令和7年分の手引き31ページの計算欄で出した控除額を第一表16欄に記入します。第二表16欄は「地震保険料」と「旧長期損害保険料」に分かれており、それぞれの支払保険料等の計を書きます。年末調整で既にこの控除を受けた金額を書くときは、種類欄に「源泉徴収分」と記入し、「うち年末調整等以外」欄には年末調整で控除を受けていない金額だけを書きます。
証明書は、手引き69ページのとおり「支払額などの証明書」を添付書類台紙に貼って提出するか、提出時に提示します。二次元コード付きの電磁的記録印刷書面でも構いません。年末調整でこの控除を受けている場合は添付も提示も不要です(No.1145)。医療費控除やふるさと納税のために確定申告をする給与所得者が、年末調整済みの地震保険料控除の証明書を探し直す必要はありません。
出し忘れた年分の還付申告の期限(5年)
控除証明書が締切に間に合わなかった、年末調整の後に地震保険を追加した、といった場合は確定申告で入れ直せます。既に申告期限が過ぎた年についても、還付申告は翌年1月1日から5年間提出できます(手引き12ページ。令和7年分なら令和12年12月31日まで)。過去5年分を一度に出すこともできるので、旧長期の証明書を長年放置していたなら確認する価値があります。手続きの流れは会社員でも対象になる還付申告の基本的な仕組みと確定申告との違いにまとめています。
よくある質問
家を買った1年目の年末調整でも火災保険料は控除できませんか?
できません。入居初年度かどうかは関係なく、火災保険料は制度上の対象外です。地震保険を付けているなら、その部分は初年度から控除できます。なお住宅ローン控除は、控除を受ける最初の年分は確定申告が必要で、年末調整で受けられるのは2年目以後です(No.1213)。1年目に年末調整の用紙へ書けないのは住宅ローン控除の方で、火災保険料とは理由が違います。
家財だけにかけた地震保険は控除の対象になりますか?
なります。所得税法77条1項は、対象を居住用家屋のほか「これらの者の有する第九条第一項第九号(非課税所得)に規定する資産」としています。9条1項9号の資産とは「自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、じゆう器、衣服その他の資産」、つまり生活用動産です。家財のみの地震保険でも、控除証明書に地震保険料として金額が出ていれば控除できます。
5年分をまとめて払った長期契約はいくら控除できますか?
払込総額ではなく、控除証明書に表示されたその年分の金額です。確定申告の手引き31ページの計算欄は「保険契約の別に証明された支払保険料」を書かせる作りで、年末調整の申告書にも払込総額を書く欄はありません。一括払いをした年に総額を書いてしまうと過大控除になります。
賃貸住宅の入居者が払う地震保険料は控除できますか?
家財部分について控除できます。所得税法77条1項が対象とするのは「自己…の有する家屋で常時その居住の用に供するもの」と、9条1項9号の資産すなわち生活用動産です。借家の建物は大家の所有なので入居者は建物の地震保険に入れませんが、自分が所有する家財の地震保険料は自分の控除になります。対象外になるのは、自分が住まずに人へ貸している側の物件です。
令和8年度の税制改正で地震保険料控除は変わりましたか?
変わっていません。所得税法77条の5万円、地方税法34条1項5号の3の2万5000円はどちらも据え置きで、令和8年分の保険料控除申告書の計算式も従来どおりです。同じ用紙のなかで改正が入ったのは生命保険料控除の側で、年齢23歳未満の扶養親族がいる場合の新保険料等の計算式(最高6万円)が追加されています。詳細は生命保険料控除はいくら戻る?令和8年分の計算式と23歳未満の子がいる6万円特例を参照してください。