エクセルで原価計算をするときに先に固めるのは2つです。原価率と売上原価の計算式をセルにどう落とすか、そして単価マスタ・入力・集計をどう分けるかです。この2つが曖昧なままだと、数式は動いているのに数字が合わない表になります。この記事では実際に入力するセル式、原価計算表に置く欄とその根拠規定、見積と実績の差を出す原価管理表の組み方、運用中に表が崩れる原因の切り分け方を、手を動かす順に並べます。
まとめ
原価計算表は様式より集計単位で、原価管理表は差異の分け方で決まります。
- 覚える式は3本:製造原価=材料費+労務費+経費、原価率=売上原価÷売上高、商品の売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高−期末商品棚卸高。製造業では当期仕入高ではなく当期製品製造原価を使います。
- 原価率のセル式に×100は入れない。
=C2/B2と入力して表示形式をパーセントにします。式にも100を掛けると100倍になります。 - 原価計算表に決まった様式は無い。原価計算基準に「原価計算表」という語は出てきません。先に決めるのは、指図書ごとに集計するか(個別原価計算)、期間で集計するか(総合原価計算)です。
- 個別原価計算の間接費は予定配賦率で配るのが原価計算基準三三(二)の原則です。月末に実績総額を按分する運用は原則から外れます。
- 原価管理表にするなら標準と実際の差を出す。材料は価格差異と数量差異、労務費は賃率差異と作業時間差異に分けると、原因が単価なのか使い方なのかが分かれます。
- 表が崩れたら参照ズレ・シート複製・保護の誤解・非原価項目の混入の4点から確認します。シート保護はMicrosoftが「セキュリティ機能として意図されたものではありません」と明記しています。
- XLOOKUPはExcel 2016と2019では使えません。共有相手の環境が混在するならVLOOKUPかINDEX+MATCHで組みます。
原価率・売上原価・製造原価をエクセルで出す計算式
まず3本の基本式を確認します。そのうえで、費目の範囲、仕掛品・製品在庫の評価、間接費の配賦方法を決め、集計を自動化します。
原価率の計算式と表示形式・ゼロ除算の処理
原価率は売上原価を売上高で割った比率です。式に100を掛けたうえで表示形式もパーセントにすると、30%と表示すべき値が3000%になります。
原価率(%) = 売上原価 / 売上高 × 100
セルB2に売上高、C2に売上原価を入れた場合
D2: =C2/B2 ← 式に100は掛けない
セルの表示形式を「パーセンテージ」に設定する
粗利率: =1-D2
売上が未計上の行では売上高が0になり #DIV/0! が出ます。エラーのまま放置すると、その列を参照する合計まで巻き込んでエラーになるため、割り算は例外処理ごと書きます。
D2: =IF(B2=0,"",C2/B2) ← 売上0だけ空白にし、他のエラーは確認する
月次平均を出すときは行ごとの原価率を平均しない
正: =IF(SUM(B2:B13)=0,"",SUM(C2:C13)/SUM(B2:B13)) 合計売上高0は空白
誤: =AVERAGE(D2:D13) 売上規模の違いが無視される
月次の平均原価率を原価率列の単純平均で出す表は珍しくありませんが、売上100万円の月と1,000万円の月を同じ重みで扱うことになり、実態とずれます。合計同士で割ってください。
売上原価の計算式と棚卸資産の3科目
売上原価は仕入額そのものではなく、期首在庫と期末在庫で調整した額です。財務諸表等規則75条1項も、売上原価を期首棚卸高、当期商品仕入高または当期製品製造原価、期末棚卸高の3科目に区分して掲記すると定めています。表の列もこの3科目に合わせておくと、決算数値との突合が楽になります。
売上原価 = 期首棚卸高 + 当期仕入高 − 期末棚卸高
B2:期首棚卸高 C2:当期仕入高 D2:期末棚卸高
E2: =B2+C2-D2
翌月の期首棚卸高は前月の期末棚卸高を参照する
B3: =D2 ← 転記ミスを防ぐため前月末を参照する
翌月の期首棚卸高を手入力すると、転記ミスによって前月末残高と一致しなくなるおそれがあります。前月の期末セルを参照する形にしておけば、この種の転記ミスは起きません。
製造原価の3要素と原価計算基準八(一)の形態別分類
製造原価を材料費・労務費・経費に分ける根拠は、原価計算基準(企業会計審議会、昭和37年11月8日)八(一)の形態別分類です。基準は労務費に含まれるものを賃金、給料、雑給、従業員賞与手当、退職給与引当金繰入額、福利費(健康保険料負担金等)と例示しています。健康保険料の会社負担分は労務費であり、経費に落とすと労務費が過小になります。
経費は材料費・労務費以外の原価要素で、基準は減価償却費、たな卸減耗費および福利施設負担額、賃借料、修繕料、電力料、旅費交通費等の諸支払経費を挙げています。費目マスタはこの3分類を第1階層、基準の例示を第2階層にすると、集計軸が決算書の区分とそろいます。人件費をどこまで原価に入れるかで迷う場合は、原価計算における人件費の扱い方|原価に含める範囲・賃率の出し方・販管費との線引きに賃率の出し方まで整理しています。
全部原価と直接原価の使い分け(基準四(三)・三〇)
同じ製品でも、集計する原価の範囲で数字は変わります。基準四(三)は「最も重要な部分原価は、変動直接費および変動間接費のみを集計した直接原価(変動原価)である」とし、三〇は総合原価計算で「固定費を製品に集計しないことができる」と認めたうえで、会計年度末には当該期間の固定費額を期末の仕掛品および製品と当年度の売上品に配賦すると定めています。
外部報告用の在庫評価では全部原価を用います。余剰能力のある状況で追加受注を判断する際は変動費を確認しますが、継続的な値決めでは固定費の回収や能力制約も考慮します。エクセルで両方を出すなら、費目マスタに変動費か固定費かのフラグ列を1つ足し、集計側の条件に加えるだけで足ります。
直接原価(変動費のみ)
=SUMIFS(原価入力!$F:$F, 原価入力!$B:$B,$A2, 原価入力!$E:$E,"変動")
全部原価(変動費+固定費)
=SUMIFS(原価入力!$F:$F, 原価入力!$B:$B,$A2)
原価計算表に置く欄と根拠規定
原価計算表の作り方で迷う人の多くは、まず様式の正解を探します。ところが原価計算基準の全文に「原価計算表」も「原価計算票」も出てきません。基準が定めているのは集計の単位と各欄の算定方法で、文書の例示があるのは標準原価の側です(四三は「標準原価を指示する文書の種類、記載事項および様式は、経営の特質によつて適当に定めるべき」としたうえで標準製品原価表・材料明細表・標準作業表などを挙げています)。実際原価を集計する表の様式は自社の生産形態に合わせて設計でき、最初に決めるのは列の並びではなく、何を単位に締めるかです。
集計単位の選択基準:指図書と期間生産量
基準二〇は製品別計算を、単純総合原価計算・等級別総合原価計算・組別総合原価計算・個別原価計算の4類型に分けています。エクセルの表として分かれるのは次の2つです。
- 個別原価計算(指図書単位):基準三一は「種類を異にする製品を個別的に生産する生産形態に適用する」とし、特定製造指図書ごとに直接費と間接費を集計して、生産完了時に製品原価を算定すると定めています。受注生産の機械・金型、工事、受託開発が該当し、入力シートの集計キーは指図書番号(工事番号・案件番号)になります。
- 総合原価計算(期間単位):基準二四は、総合原価計算の3形態に共通する特質を「原価集計の単位が期間生産量であること」としています。月次で締め、完成品と期末仕掛品に割り振る表で、指図書番号の列は要りません。代わりに仕掛品の完成品換算量の欄が要ります。
同じ工場で受注品と量産品を扱うなら、1枚のシートで兼ねずに表を分けます。列の意味が矛盾し、片方の締めのたびにもう片方の数字が動くからです。三一の後段は、自家用の建物・機械・工具等の製作や修繕、試作、仕損品の補修も特定指図書を発行して行う場合は個別原価計算の方法によると定めています。設備の内製にかかった材料と工数を表の外に置いているなら、指図書を起こして集計する対象です。総合原価計算側の手続は総合原価計算とは?完成品換算量の計算手順と累加法・非累加法の違いを設例で解説で扱っています。
欄ごとの算定方法と基準三二・三三の対応
欄の設計は、基準三二と三三が定める計算方法を列に翻訳すると決まります。
| 原価計算表の欄 | セルに入れる計算 | 根拠規定 |
|---|---|---|
| 指図書番号・品名・数量 | 指図書から転記 | 三一 |
| 直接材料費 | 実際消費量×消費価格 | 三二(一) |
| 直接労務費 | 実際の作業時間又は作業量×賃率 | 三二(二) |
| 直接経費 | 実際発生額(外注加工賃など) | 三二(三)・一〇 |
| 製造間接費 | 予定配賦率×実際の配賦基準 | 三三(二) |
直接経費は、外注加工賃なら加工数量と契約単価から算定することもあります。三二(三)は「原則として当該指図書に関する実際発生額をもつて計算する」としています。ただし、基準一三(一)では必要な場合に予定価格・予定額の使用も認めているため、予定額の使用を一律に誤りとは扱いません。基準一〇の分類例で直接経費に挙がっているのは外注加工賃で、特定の指図書に紐づく外注加工賃を間接費に混ぜている表は、この欄に移すだけで指図書別の原価が正しくなります。
製造原価明細書へそのまま流せる費目区分(財規75条2項)
個別原価計算の表では、完成した指図書の合計が当期製品製造原価、未完成の指図書が期末仕掛品原価で、どちらも売上原価ではありません。当期発生の製造費用を期間で集計した表なら、期首仕掛品原価を加え期末仕掛品原価を差し引いて当期製品製造原価を求めます。財務諸表等規則75条2項は、当期製品製造原価について「その内訳を記載した明細書を損益計算書に添付しなければならない」と定めています(連結財務諸表でセグメント情報を注記している場合を除く)。この製造原価明細書の内訳が材料費・労務費・経費です。原価計算表の費目を基準八(一)の形態別分類でそろえておけば、決算期の明細書作成は集計の付け替えだけで済みます。当期製品製造原価と売上原価の差は、まず製品の期首・期末棚卸高で照合します。差が残る場合は、原価差異の処理や棚卸資産の評価なども確認してください。
マスタ・入力・集計の3層で組むシート設計
マスタ・入力・集計を別シートにすると、更新場所と数式の管理範囲を区別しやすくなります。1枚のシートに単価表と実績入力と集計表を同居させると、行の挿入や並べ替えのたびに参照が壊れやすくなります。
3層それぞれの列構成と業種別に変える項目
マスタシートは単価や配賦率など「めったに変わらない値」を1か所に集めます。入力シートは日付・コード・費目・数量・金額を1行1明細で記録します。単価参照や数量×単価の明細計算は保護した計算列に置き、製品別・月別の集計は集計シートへ分けます。集計シートは入力シートをSUMIFSで参照し、手入力のセルを持たせません。この分離に加えて、集計範囲の自動拡張、コードの入力規則、未登録値の検出を設定し、行追加後に集計漏れがないか検算します。骨格は業種を問わず同じで、変わるのは集計キーとマスタの中身です。
| 業種 | 集計キー | マスタに持つ値 | 差異を見る単位 |
|---|---|---|---|
| 製造業 | 製品コード・指図書番号 | 部品単価・標準使用量 | 製品別・月別 |
| 建設・工事業 | 工事番号 | 実行予算・外注単価 | 工事別・出来高 |
| 飲食店・食品加工 | メニューコード | 仕入単価・歩留まり率 | メニュー別・日次 |
| サービス・受託 | 案件番号 | 担当者別の時間単価 | 案件別・月別 |
SUMIFSによる製品別・月別の集計式
集計の中心はSUMIFSです。参照範囲は $F$2:$F$500 のような固定行にせず、列全体または行追加に追従するテーブルの構造化参照で指定します。行数を決め打ちすると、501行目の明細が静かに集計から漏れます。条件はSUMIFSの公式ヘルプのとおり範囲と条件のペアで最大127組まで指定できるので、製品×月×費目区分程度で足りなくなることはありません。
原価入力シート D列に年月キー(例: 202610)を記録する
集計シート A列に製品コード、1行目に同じ形式の年月キーを置く
B2: =SUMIFS(原価入力!$F:$F, 原価入力!$B:$B, $A2, 原価入力!$D:$D, B$1)
合計対象:金額列 条件1:製品コード 条件2:月
検算セルは集計範囲の外に置く(例: 集計範囲がB2:M50ならB52)
B52: =SUM($B$2:$M$50)-SUM(原価入力!$F:$F) ← 0以外なら集計漏れか二重計上
検算セルを範囲の内側に置くと自分自身を参照して循環参照になります。0以外なら、集計対象の年月・製品範囲、キーの不一致、重複を確認します。0でも過不足が相殺される場合があるため、年月別の照合と未登録コードの件数確認を併用してください。
作業時間×賃率で労務費を出す工数シート
労務費を月給の按分で入れている表は、どの製品が手間を食っているかを示せません。基準三二(二)が直接労務費を「実際の作業時間又は作業量に、その賃率を乗じて計算する」と定めているとおり、時間を記録する工数シートを1枚足します。
工数入力シート: A日付 / B指図書番号 / C作業者 / D作業区分 / E時間 / F金額
賃率マスタ: A作業区分 / B賃率(円/時間)
F2: =E2*VLOOKUP(D2, 賃率マスタ!$A:$B, 2, FALSE)
未登録の作業区分は #N/A を解消してから集計を確定する
指図書別の直接労務費(集計シート)
=SUMIFS(工数入力!$F:$F, 工数入力!$B:$B, $A2)
指図書番号が未入力の時間を確認する(間接作業か入力漏れかを判別する)
=SUMIFS(工数入力!$E:$E, 工数入力!$B:$B, "")
賃率に何を含めるかは、間接費との二重計上に注意して決めます。会社負担の社会保険料は八(一)の福利費として労務費ですが、基準一〇の分類例では福利費は間接労務費に置かれています。社会保険料込みの賃率で案件に直接賦課するなら、製造間接費の側から同じ額を除いてください。給与以外の労務費を賃率にも間接費にも含めていない場合は、案件原価が過小になり、案件粗利が実態より大きくなります。この構造はシステム開発業の原価管理:売上原価の範囲・工数×賃率の計算と月次レビューの手順で詳しく扱っています。
XLOOKUPとVLOOKUPの選択基準(Excel 2019以前の制約)
単価は入力シートに直接打たず、マスタから引きます。XLOOKUPは見つからない場合の戻り値を第4引数で指定でき、列番号ではなく範囲で指定するため列の挿入に強い関数です。ただしMicrosoftの公式ヘルプは「XLOOKUP は Excel 2016 および Excel 2019 では使用できません」と明記しています。
Microsoft 365 / Excel 2021以降
=XLOOKUP(B2, 商品マスタ!$A:$A, 商品マスタ!$C:$C, "未登録")
Excel 2016 / 2019 と共有する場合
=IFERROR(VLOOKUP(B2, 商品マスタ!$A:$C, 3, FALSE), "未登録")
列の挿入に強くしたい場合
=IFERROR(INDEX(商品マスタ!$C:$C, MATCH(B2, 商品マスタ!$A:$A, 0)), "未登録")
共有先にExcel 2016・2019が含まれる場合は、VLOOKUPやINDEX+MATCHを使います。全員がXLOOKUP対応版なら、共有することだけを理由に避ける必要はありません。
間接費の配賦率設定と基準三三(二)の予定配賦率
月末に間接費の総額を製品ごとの基準値で按分する式をよく見かけますが、基準三三(二)は「間接費は、原則として予定配賦率をもつて各指図書に配賦する」と定めています。三三(三)によれば予定配賦率は、一定期間の各部門の間接費予定額を同期間の予定配賦基準で除して算定し、三三(五)は予定操業度を原則として一年または一会計期間において予期される操業度としています。
予定配賦率 = 間接費予定額 / 予定配賦基準(予定直接作業時間など)
(例)年間間接費予定額 2,400万円 / 予定直接作業時間 20,000時間 = 1,200円/時間
マスタシート H2 に 1200 を置く
配賦額: =E2*マスタ!$H$2 マスタシート名は「マスタ」、E2は当月の指図書別実際直接作業時間
配賦差異: =SUM(配賦額列) - 実際発生額
※「配賦額列」「実際発生額」は定義した名前か実際のセル参照に置き換える。マイナスが配賦不足。
実績を按分する方式では総額が必ず一致するため、間接費が予算からどれだけ離れたかが表に出てきません。予定配賦率にすると月次で配賦差異が見え、原価表が集計表から管理資料に変わります。
見積と実績の差を出す原価管理表の組み方
原価を計算するだけの表と、原価を管理する表は別物です。原価計算基準一(三)は原価管理を「原価の標準を設定してこれを指示し、原価の実際の発生額を計算記録し、これを標準と比較して、その差異の原因を分析し」報告して原価能率を増進する措置を講ずることと定義しています。エクセルでは、比較基準となる単価・使用量・作業時間と実績を並べ、差を原因別に分けます。見積を基準に使う場合も、実際の生産数量や仕様にそろえて比較します。原価管理の進め方全体は原価管理とは?目的・進め方4ステップと差異分析からシステム化の判断まで解説で扱っています。
価格差異・数量差異と賃率差異・作業時間差異のセル式
差の総額だけを出しても、仕入値が上がったのか、使いすぎたのかが分かりません。基準四六(二)は直接材料費の差異を価格差異と数量差異に、四六(三)は直接労務費の差異を賃率差異と作業時間差異に分け、それぞれの掛け方を定めています。掛ける相手が「実際」か「標準」かを取り違えると、2つの差異の合計が総差異と一致しなくなります。
材料(四六(二))
価格差異 =(標準単価-実際単価)*実際消費数量
数量差異 =(標準消費数量-実際消費数量)*標準単価
(例)標準 500円/kg×100kg、実際 540円/kg×110kg
価格差異 =(500-540)*110 = -4,400
数量差異 =(100-110)*500 = -5,000
合計 -9,400 = 標準50,000 - 実際59,400 ← 一致を検算セルで確認
労務費(四六(三))
賃率差異 =(標準賃率-実際賃率)*実際作業時間
作業時間差異 =(標準作業時間-実際作業時間)*標準賃率
マイナスは標準より原価がかさんだ不利差異です。標準消費数量は「製品1個あたりの標準使用量×当月の実際生産数量」で出し、標準単価・標準使用量は単価マスタと同じシートに置きます。差異列に条件付き書式で色を付けておくと、どの製品のどの費目が外れたかが月次会議でそのまま読めます。
単価マスタを改訂する時機と価格転嫁の根拠資料
標準を一度決めて据え置くと、差異が毎月同じ方向に出続け、表が警報として機能しなくなります。基準四二は、材料価格、賃率等に重大な変化が生じた場合には現状に即するよう標準原価を改訂すると定めています。改訂のたびにマスタを上書きせず、適用開始日と単価版IDを持たせて旧単価を残し、実績行にも使用した単価版IDを記録してください。本文のXLOOKUP・VLOOKUPの例はコードだけで検索するので、単価の履歴を持たせるときは検索キーを単価版IDに変えます。旧単価が残っていれば、改訂前後の原価差を製品別に示せます。
受注側でこの表を使うなら、改訂の記録はそのまま価格交渉の材料になります。2026年1月1日に施行された取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)は第5条第2項第4号で、費用の変動等が生じて中小受託事業者が代金の協議を求めたのに協議に応じず、または必要な説明や情報の提供をせずに一方的に代金を決定することを禁じています。協議を求める側が示すべきは、どの費目がいつからいくら上がったかです。改訂前後の単価と価格差異の推移を製品別に出せる表なら、それが説明資料になります。労務費については、内閣官房と公正取引委員会の労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針が、根拠資料に最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額・上昇率などの公表資料を用いることを受注者に求めています。賃率マスタに改訂理由の列を設け、参照した公表資料を書き残しておくと、交渉の場でそのまま使えます。
原価管理表が崩れる4つの原因と検証手順
ここでは、原価表の不一致につながる原因として、参照ズレ、版の混在、数式の上書き、非原価項目の混入を確認します。原因ごとに確認場所が違うので、順に切り分けます。
行挿入による参照ズレと循環参照の特定手順
確認する原因の一つが範囲指定のずれです。=SUM(B2:B100) の下、101行目に明細を足しても合計は変わりません。範囲末尾への行追加は範囲を広げないためです。入力範囲をテーブル(挿入→テーブル、Ctrl+T)に変換すると追加行が自動で範囲に入り、式もセル番地ではなくテーブル名と列名で書く構造化参照になります。
循環参照は、合計セルを自分自身の範囲に含めたときに起きます。ステータスバーに「循環参照」とセル番地が表示され、数式タブのエラーチェックから一覧をたどれます。反復計算を有効にして警告を消す対処は、原価計算では使わないでください。警告が消えるだけで、参照の誤りは残ります。
シート複製によるバージョン分裂と一元化
月次でシートやファイルを複製する運用は、原価表を壊す代表的なパターンです。複製先に独立した単価マスタを持たせると、更新漏れや版の混在が起こります。ただし、確定済みの過去原価を旧単価で保持することは必要であり、現在の単価を過去実績へ一律に反映してはいけません。月ごとにシートを増やすのをやめ、入力シートに年月列を持たせて1つのテーブルに積み上げてください。月次の見え方はピボットテーブルで作れます。
シート保護の限界と共同編集での破損防止
数式セルの破壊を防ぐ手段としてシート保護が使われますが、Microsoftの公式ヘルプは「ワークシート レベルの保護は、セキュリティ機能として意図されたものではありません」と明記しています。防げるのは誤操作までで、ブックのパスワード保護とは別の機能です。
設定順は、まず入力させたいセルだけロックを解除し、そのうえでシート全体を保護します。既定では全セルがロック状態なので、順番を逆にすると誰も入力できない表になります。共同編集では、範囲を選んだまま貼り付けて数式列を上書きする事故が多いため、数式列は保護の対象に含めてください。
非原価項目の混入と費目マスタでの遮断(基準五)
エクセルは何でも足せてしまうため、原価に入れてはいけない費用が紛れ込みます。原価計算基準五は非原価項目として、支払利息や社債発行費償却などの財務費用、火災・震災・盗難といった偶発的事故による損失、臨時多額の退職手当、法人税や住民税、配当金、役員賞与金などを挙げています。ただし役員賞与は、企業会計基準第4号が既存の会計基準より優先するとしたうえで「発生した会計期間の費用として処理する」と定めており、基準五の利益処分としての扱いは現在の会計処理には当てはまりません。混入すると、その月だけ原価率が跳ね上がります。費目マスタに「原価・非原価」の区分列を持たせ、入力シートの費目をデータの入力規則でマスタからの選択に限定してください。入力時点で選べないようにするのが、集計後に探すより確実です。
飲食店・食品加工業の原価率を左右する歩留まりと正味単価
飲食店と食品加工業で原価率が計算と合わないとき、まず確かめるのが歩留まりです。歩留まりは仕入れた食材のうち実際に商品になる割合で、皮むきや骨抜き、下ろしで生じる廃棄を反映しないと、食材原価を過小に見積もります。そこで使うのが、実際に使える量あたりの単価である正味単価です。
正味単価 = 仕入単価 / 歩留まり率
(例)仕入単価200円/kg 、歩留まり0.8 → 250円/kg
食材マスタ: A列 食材コード / B列 仕入単価 / C列 歩留まり率
D2: =B2/C2 ← 正味単価
レシピシート: =使用量 * 正味単価 ← 使用量がkg、正味単価が円/kgの場合
使用量をgで入力する場合: =使用量/1000*正味単価
メニュー原価率: =IFERROR(食材原価計/売価,"")
レシピシートの単価は、必ず食材マスタの正味単価を参照させてください。仕入単価が動いたときにマスタの1か所を直せば全メニューの原価率が更新され、売価改定の判断に当日中に使えます。レシピ側に単価を直接打ち込んだ表は、単価改定のたびに全メニューを開くことになり、更新が止まった時点から実態と離れていきます。
エクセルの限界と原価管理システムへの移行ライン
エクセルの原価計算は、行数ではなく更新頻度と関係者数で限界に達します。ワークシートの上限は1,048,576行×16,384列ですが、実務で先に問題になるのは再計算の時間です。再計算時間はデータ量、数式、参照範囲、端末性能で変わるため、実際のブックで測り、締め処理に必要な時間内に収まるかを確かめてください。
移行を検討する目安は3つです。原価の確定が締め後になり、値決めや受注判断に間に合わない。数式を理解しているのが担当者1人で、その人が不在の月に原価が出せない。販売管理や会計とのデータ突合に毎月まとまった時間を取られている。いずれも、手順の文書化、担当者の複数化、入力期限の設定、データ取込の自動化で解消できるかを先に確かめ、それでも締めや権限管理の要件を満たせない場合にシステム移行へ進みます。
逆に、品目数が限られ、更新するのが1人か2人で、月次で締まれば足りる規模なら、エクセルのまま精度を上げるほうが費用対効果は高くなります。判断に入る段階では原価管理システム導入の流れ|業務フローと課題の棚卸しから会計・ERP連携まで、製品を比べる段階では原価管理システムの比較で見る6つの軸|タイプ別選定基準とランキングの読み方が実務の順序に合います。既製品では自社の指図書体系や配賦ルールに合わない場合は、エクセルで固めた列定義と計算式をそのまま要件にして原価管理システム開発を検討する方法もあります。
よくある質問
エクセルでの原価率の計算式は?
式は =C2/B2(C2が売上原価、B2が売上高)で、表示形式をパーセンテージにします。間違いが起きるのは分子です。ここに入るのは当期仕入高ではなく、期首棚卸高と期末棚卸高で調整した売上原価です。在庫を多めに仕入れた月に仕入高をそのまま分子へ置くと、原価率だけが跳ね上がって見えます。
原価計算のエクセル無料テンプレートはありますか?
Web上で無料配布されているものはありますが、自社の費目区分と集計キーに合わないまま使うと、後から列を足す作業のほうが重くなります。品目数が少ないうちは、マスタ・入力・集計の3シートを自分で作るほうが早く、崩れたときの原因も特定できます。テンプレートを使う場合は、単価がマスタ参照になっているか、集計が固定行の範囲指定になっていないかの2点を先に確認してください。
正味単価とは何ですか?
実際に商品になる量あたりの単価で、仕入単価を歩留まり率で割って求めます。歩留まり率そのものは、下処理後の重量を仕入時の重量で割って実測します(廃棄率が2割なら歩留まり率は0.8)。同じ食材でも産地や時期、下処理する担当者で変わるため、マスタには実測値を入れ、産地・仕入規格・季節・下処理方法が変わった時点で計り直してください。仕入単価のまま計算すると、原価率は実態より低く出ます。
原価計算表とは何ですか?
製品や指図書ごとに、集計した直接材料費・直接労務費・直接経費・製造間接費を並べた集計表です。「原価計算表」は実務と簿記学習での呼び名で、原価計算基準の本文には出てきません。基準が定めているのは集計の単位(三一の特定製造指図書、二四の期間生産量)と各欄の算定方法(三二・三三)です。様式は目的に合わせて設計できますが、その4欄だけで足りるとは限らず、数量、期間、仕掛品残高、配賦基準なども必要に応じて設けます。
個別原価計算をエクセルで行うことはできますか?
できます。入力シートと工数シートに指図書番号(案件番号)の列を持たせ、SUMIFSの条件をその番号にすれば指図書別に集計されます。注意点は間接費で、基準三三(二)が予定配賦率による配賦を原則としているため、月末に総額を按分する式にしないことです。適用する生産形態や指図書の考え方は個別原価計算とは?受注生産の原価集計・仕訳と総合原価計算との違いにまとめています。