ERPの種類を調べると、「3種類」と書く記事もあれば「5種類」と書く記事もあります。数が揃わないのは、製品の組み立て方(統合型・コンポーネント型など)と、置き場所(オンプレミス・クラウド)という別々の分類軸が、1つのリストに混ぜて並べられているためです。
本記事ではERPの種類を「構成」と「提供形態」の2軸に分けて整理し、SAP S/4HANA Cloud、Oracle NetSuite、OBIC7、GRANDIT、マネーフォワード クラウドERPなどの主要製品を、各社の公式記述をもとに当てはめます。各タイプの詳しい解説は個別記事に任せ、ここでは自社がどの型を選ぶべきかを判断できる状態を目指します。ERPそのものの定義から確認したい場合はERPの意味と基本機能の解説を先に読んでください。
まとめ:ERPの種類を分ける構成と提供形態の2軸
- 構成の軸は、複数の基幹業務を1製品で揃える統合型と、必要な業務システムから組み合わせるコンポーネント型。業界の商習慣を標準機能に持つ業種特化型は対象業界による区分で、mcframe 7のように統合導入と部分導入を選べる製品もある
- 提供形態は、オンプレミス、1社専用環境のプライベートクラウド、ベンダーのアプリケーションを利用するSaaSで比べる。NISTの定義ではSaaSはサービスモデル、プライベートクラウドは配備モデルで、本来は別の観点
- 2つの軸は独立しており、「統合型かつSaaS」「業種特化型かつオンプレミス」のように組み合わせで表せる。GRANDITやBusiness Centralのように複数の提供形態を選べる製品もある
- 同じ「クラウドERP」でも、SAP S/4HANA Cloudは Public Edition がマルチテナント、Private Edition がシングルテナントで、カスタマイズ範囲とアップグレードの周期が異なる
- ポストモダンERPとコンポーザブルERPは製品の種類ではなく、複数の製品をどう組み合わせるかという戦略の名前
選び方の結論は、構成は「業務の複雑さがどこに集中しているか」、提供形態は「カスタマイズの量と、アップグレードを誰の計画で回すか」で決まります。以下、軸ごとに根拠を示します。
ERPの種類が記事ごとに3種類・5種類と食い違う理由
「コンポーネント型ERP」で上位に表示される解説記事を比べると、分類の立て方がそれぞれ違います。マネーフォワードの記事は業務範囲(コンポーネント型・統合型・業務システム型)と導入形態(クラウド型・オンプレミス型)の2軸、アラジンオフィスの記事はクラウド型・オンプレミス型を説明したうえで、モノリシック型とコンポーネント型の違い、ポストモダンERPとの関係を扱っています。一方、統合型・業務システム型・業界特化型・アプリケーション型・コンポーネント型の5種類を1つの表に並べる記事もあります。
問題になるのは、軸の違う種類を同列に並べたときです。「クラウド型とコンポーネント型のどちらにするか」という比較は成り立ちません。クラウドで提供されるコンポーネント型ERPも、オンプレミスで動く統合型ERPも実在するからです。候補製品を比較表に並べる前に、次の2つの問いを分けて答えておくと、比較の軸がぶれません。
| 分類軸 | 答える問い | 主な種類 |
|---|---|---|
| 構成(対象業界) | どの業務を1製品で持つか、どの業界向けか | 統合型/コンポーネント型(対象業界で見ると業種特化型) |
| 提供形態 | どこで動かし、誰が運用するか | オンプレミス/プライベートクラウド/SaaS |
なお「業務ソフト型」「業務システム型」と呼ばれるものは、会計ソフトや販売管理ソフトを単体で使う形を指すことが多く、部門をまたいでデータを統合するというERPの前提から外れます。本記事ではERPの種類ではなく、ERPと比べられる選択肢として扱います。
構成で分けるERPの種類:統合型・コンポーネント型・業種特化型
統合型ERP:会計から販売・生産・人事まで1製品で揃える型
統合型ERPは、会計・販売・購買・在庫・生産・人事などの業務モジュールを1つの製品にまとめ、共通のマスタとデータベースで動かす型です。GRANDITは公式サイトで自らを「基幹業務の枠を超えた統合型ERP」と位置づけています。取引先や品目のマスタが1つなので、受注から請求、原価、決算までを同じコードで追えます。
注意点は、刷新の対象が複数部門に広がりやすいことです。複数部門を同時に刷新する場合は標準プロセスへの調整範囲が広がりますが、一斉切替か段階導入かは、対象業務と移行方式に応じて選びます。どの業務がどのモジュール名で提供されるかは製品によって粒度が違うため、比較するときはSAP・GRANDIT・OBIC7のモジュール対応表で揃えてから見ると取り違えを防げます。
コンポーネント型ERP:必要な業務システムから導入して組み替える型
コンポーネント型ERPは、会計・経費・給与・販売管理などを独立したサービスとして提供し、必要なものから導入して連携させる型です。マネーフォワード クラウドERPは公式ページで「必要なシステム1つから導入でき、企業の成長に合わせて組み替えてご利用いただけます」と説明しています。初期に導入する範囲を絞れるため、上場準備や拠点増設など、会社の段階に合わせて領域を足していけます。
導入時には、標準連携で同期できるマスタ・データの範囲を確認し、不足する連携の設計・保守を利用企業と導入パートナーのどちらが担うか決めます。取引先コードを各サービスが別々に持ったまま月次の一括取込で結ぶと、二重入力と照合作業が残り、統合したはずの効果が出ません。定義やメリット・デメリットの詳細はコンポーネント型ERPの概要と基本概念で、連携方式の選び方はERP連携の方式選定で扱っています。
業種特化型ERP:業界の商習慣を標準機能に持つ型
業種特化型ERPは、特定の業界で必要になる機能を最初から標準で持つ型です。製造業向けのmcframeは「組立加工からプロセス製造まであらゆる製造業に対応します」と公式に掲げ、mcframe 7シリーズは生産・販売・在庫の統合システム「mcframe 7 SCM」や原価管理システム「mcframe 7 PCM」などで構成されています。販売・在庫管理のアラジンオフィスは、適応業種を「流通卸業」「製造業」「印刷業・サービス業」「工事業」の4カテゴリに分けて公開しています。業種特化型は対象業界による区分のため、統合型・コンポーネント型という作りの区分とは重なり合います。
ロット管理、加工賃計算、工事別原価など、自社に必要な業界固有の処理が標準機能で賄える場合は、フィット率が上がりやすいのが利点です。複数業種にまたがる事業では、製造と小売など各事業の要件を分けて確認し、標準機能で対応できない業務と追加費用を洗い出します。製品ごとの守備範囲はMCFrameの製品構成と適合しない場面、アラジンオフィスの対応業種と機能範囲、業界単位の選び方は建設業向けERPの選び方が参考になります。
提供形態で分けるERPの種類:オンプレミス・プライベートクラウド・SaaS
提供形態の言葉は、米国国立標準技術研究所(NIST)のクラウド定義文書 SP 800-145 に沿うと整理しやすくなります。SaaSは「提供者のアプリケーションをクラウド基盤上で利用する」サービスモデル、プライベートクラウドは「単一の組織が専用に使うようにプロビジョニングされた」配備モデルで、両者は別の観点として定義されています。プライベートクラウドは自社構内にも社外にも置ける(on or off premises)とされています。そのためERPの比較では、設置場所、基盤の専有・共有、運用を誰が担うかを分けて確認したうえで、実務でよく比べられる次の3つの形態に整理します。
| 提供形態 | 環境 | カスタマイズ | アップグレード | 製品例 |
|---|---|---|---|---|
| オンプレミス | 自社またはDCに自社保有 | 広い | 自社の計画 | GRANDIT、Business Central |
| プライベートクラウド | 1社専用(シングルテナント) | 広い | 顧客ごとに計画 | S/4HANA Cloud Private Edition、OBIC7クラウド |
| SaaS | 複数社で共有(マルチテナントの製品が多い) | 設定・拡張機能(製品による) | ベンダー主導(日程調整の可否は製品による) | S/4HANA Cloud Public Edition、NetSuite |
表の区分はissoh編集部による整理で、各製品の提供形態は下の章で示す公式記述に基づきます。
シングルテナントとマルチテナントで変わるクラウドERPの運用
「クラウドERP」とひとくくりにされがちですが、運用への影響が大きいのはテナント方式の違いです。SAPの公式学習コンテンツでは、SAP S/4HANA Cloud Public Edition は「infrastructure is multi-tenant」、Private Edition は「single-tenant server」から提供されると明記されています。
この違いは2点に出ます。1点目はカスタマイズで、SAPの比較表では Public Edition が SAP Central Business Configuration による設定、Private Edition が「Full access to Customizing」です。これは設定(Customizing)の範囲の比較で、Public Editionで拡張開発ができないという意味ではありません。2点目はアップグレードで、Public Edition は毎年2月と8月の年2回のメジャーアップグレードをSAPが適用し、Private Edition は2年のリリースサイクルの間に6か月ごとの機能拡張が提供されます。SaaSを選ぶ際は、製品ごとの更新頻度と日程調整の範囲を確認し、業務への影響を検証する体制を用意します。
国産製品では、OBIC7クラウドが公式に「お客様個別のプライベート型での提供」「お客様専用環境を構築」と説明しており、マルチテナントのSaaSとは提供方式が異なります。クラウドの中の種類(パブリック・プライベート・ハイブリッド)はクラウドERPとオンプレミスの違い・種類、共有型の仕組みはSaaS型ERPの基本概要と仕組みで詳しく扱っています。
オンプレミスとクラウドを両方選べる製品の見分け方
提供形態を1つに限らない製品もあります。GRANDITは「オンプレミスやSaaS形態に加えて、Microsoft Azure等のクラウド環境をサポート」と公式に記載しています。Microsoft Dynamics 365 Business Central も、Azure上に構築されたオンライン版に加えて、オンプレミスの導入形態が公式ドキュメントに用意されています。
こうした製品では、提供形態ごとにライセンス体系や使える拡張の範囲が変わることがあるため、「製品名で比較する」のではなく「製品名と提供形態の組み合わせで比較する」必要があります。オンプレミスを残す判断基準はオンプレミス型とクラウド型の基幹システム導入形態の違いにまとめています。
2軸で当てはめた主要ERP製品の種類一覧
主要製品を構成と提供形態の2軸に当てはめると次のようになります。提供形態は各社の公式記述、構成の区分は公式記述と製品構成をもとにしたissoh編集部の判断です。
| 製品 | 構成 | 提供形態 | 公式記述の要点 |
|---|---|---|---|
| SAP S/4HANA Cloud Public Edition | 統合型 | SaaS | マルチテナント・年2回更新 |
| SAP S/4HANA Cloud Private Edition | 統合型 | プライベートクラウド | シングルテナント・主要リリースは2年周期 |
| Oracle NetSuite | 統合型 | SaaS | 共有DBのマルチテナント |
| Dynamics 365 Business Central | 統合型 | SaaS/オンプレミス | Azure上のオンライン版とオンプレミス |
| OBIC7 | 統合型 | プライベートクラウド | お客様個別のプライベート型 |
| GRANDIT | 統合型 | オンプレミス/SaaS/Azure等 | 公式に「統合型ERP」と表記 |
| マネーフォワード クラウドERP | コンポーネント型 | SaaS | 1つから導入し組み替え |
| mcframe | 業種特化型(製造業) | 系列により異なる | 統合導入と業務範囲を絞った導入を選択可 |
| アラジンオフィス | 業種特化型(販売・在庫) | 系列により異なる | 流通卸業・製造業など4カテゴリ |
表から読み取れるのは、同じ構成の製品でも提供形態の選択肢が大きく違う点です。統合型ERPを検討していても、SaaSしか選べない製品とオンプレミスも残せる製品では、比較すべき論点が変わります。NetSuiteは「multi-tenant service offering on shared databases」と公式ヘルプに書かれており、基盤を個社専用に変更することは前提にできませんが、SuiteCloudを使った個社向けの機能拡張は比較対象にできます。製品ごとの費用や保守期限はERPパッケージの主要製品の価格と保守期限、個別製品はOBIC7の機能範囲と費用が動く変数やGRANDITのコンソーシアム型という構造で確認できます。
ポストモダンERP・コンポーザブルERPは製品の種類ではなく組み合わせ方の戦略
ERPの種類の文脈でよく並べられる「ポストモダンERP」と「コンポーザブルERP」は、特定の製品カテゴリではなく、複数の製品をどう組み合わせるかという考え方の名前です。ポストモダンERPは一般に、会計などのコアERPを残したまま周辺業務をクラウドの専用サービスで補う構成として説明されます。
コンポーザブルERPについて、Gartnerは公式のERPトピックページで「an adaptive technology strategy」、つまり事業の変化に追随するための適応型の技術戦略と定義しています。2024年9月10日の発表でも「composable ERP is a strategy more than a thing」と述べ、製品よりも戦略であると明言しました。
実務上の意味は、コンポーザブルERPという名前の製品を探しても比較にならないということです。統合型・コンポーネント型・業種特化型の製品を、どの業務の軸に据え、どこをAPIで外付けするかという設計の問題として扱ってください。考え方の違いはポストモダンERPと従来型ERPとの違い、コアERPまで部品化する設計はコンポーザブルERPとポストモダンERPとの違いで扱っています。
自社に合うERPの種類を決める判断基準
構成の決め方:業務の複雑さが集中している場所
構成は、例外処理の多い業務と導入単位から絞ります。例えばmcframe 7は、製造業向けでありながら、生産・販売・原価管理の統合導入と必要な業務範囲だけの導入を選べます。
- 会計・人事・販売を1つのマスタで回し、連結や内部統制まで1製品で閉じたい場合は統合型
- 会計や経費など一部の業務から段階的に刷新し、事業の成長に合わせて領域を足したい場合はコンポーネント型
- ロット追跡、加工賃、工事別原価など、業界固有の処理が業務量の大半を占める場合は業種特化型
コンポーネント型を選んではいけないのは、取引先・品目・部門のマスタを管理する担当部署を決められない場合です。各サービスが別々にマスタを持つ状態で運用が始まると、コードの不一致を人手で照合する作業が恒常化し、統合型を選ばなかった利点を失います。
提供形態の決め方:カスタマイズ量とアップグレードの主導権
提供形態は、要件定義で見えた追加開発の量と、アップグレードを自社で止められる必要があるかで決めます。標準機能と設定で業務の大半を賄えるならSaaSが第一候補です。基盤の運用を持たずに済み、SAP S/4HANA Cloud Public Edition のように半年ごとに新機能が入ります。
一方、他システムとの連携や独自帳票など標準外の要件が多い場合、または決算期や繁忙期に変更を入れたくない場合は、候補製品の拡張機能と更新日程の調整範囲を確認し、要件を満たせなければプライベートクラウドやオンプレミスを検討します。拡張や外部連携が多い場合は、提供形態を問わず、更新による影響範囲と回帰テストの工数を見積もる必要があるためです。迷ったときは、例えば5年間など一定の期間で見込むカスタマイズの件数と開発・保守工数、更新ごとの回帰テストに割ける人員を並べて比べてください。
よくある質問
ERPには何種類ありますか?
分類軸によって数が変わります。構成では統合型・コンポーネント型、対象業界では汎用型と業種特化型、提供形態ではオンプレミス・プライベートクラウド・SaaSに分かれます。1つの製品が複数の提供形態に対応する場合もあるため、製品名と提供形態の組み合わせで比べます。
コンポーネント型ERPと統合型ERPの違いは何ですか?
GRANDITのような統合型ERPは、複数の基幹業務を共通基盤にまとめます。ただし、標準で対応する業務範囲は製品によって異なります。コンポーネント型ERPは業務ごとのサービスを必要なものから導入して連携させるため、初期の範囲を絞れる代わりに、標準連携の範囲と、追加設計・保守の担当を確認する必要があります。
クラウドERPとSaaS型ERPは同じものですか?
同じではありません。SaaS型ERPはクラウドERPの一形態で、SAP S/4HANA Cloud Public EditionやNetSuiteのように複数社で環境を共有するマルチテナント方式の製品が代表例です。クラウドERPには、SAP S/4HANA Cloud Private Edition やOBIC7クラウドのように、1社専用の環境で提供されるプライベート型も含まれます。
ポストモダンERPはERPの種類の一つですか?
製品の種類ではなく、コアERPと周辺のクラウドサービスをどう組み合わせるかという構成の考え方です。コンポーザブルERPについても、Gartnerは製品ではなく戦略であると説明しています。
中小企業にはどの種類のERPが向いていますか?
企業規模だけでは決まりません。情報システムの専任担当が少なく標準機能で業務を回せるならSaaS、業界固有の処理が多いなら業種特化型、会計などから段階的に始めたいならコンポーネント型が候補になります。追加開発が多い場合は、NetSuiteのSuiteCloudのようなSaaSの拡張機能で対応できるか確認し、難しければ他の提供形態も比較してください。