ニューノーマル(new normal)は「新しい常態」を意味し、大きな出来事を境に元の状態へ戻らず、別の状態が当たり前として定着することを指す言葉です。日本ではコロナ禍の言葉と受け取られがちですが、英語圏では2003年のIT不況後に使われ、2009年には金融危機後の世界経済、2014年には中国経済の「新常態」を表す語として使われてきました。本記事では語義と語源を一次資料でたどり、テレワークなど「ニューノーマルな働き方」が2026年時点でどこまで残っているかを国土交通省の調査データで確かめます。
まとめ:ニューノーマルの意味と2026年時点の要点
- 意味は、危機の後に以前の状態へ戻らず、新しい常識が定着することです。デジタル大辞泉は、金融危機後の経済、中国の新常態、パンデミック後の社会という3つの語義を載せています。
- 2003年にはPolly LaBarreの記事にロジャー・マクナミーの発言として登場し、2009年にPIMCOのモハメド・エラリアン、2014年に中国の習近平国家主席が別の文脈で使いました。
- 日本のコロナ禍での具体例として、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の2020年5月4日の提言を踏まえて厚生労働省が示した「新しい生活様式」があります。
- 2025年度の雇用型テレワーカーの割合は全国25.2%、首都圏37.7%です。首都圏は2021年度の42.1%から下がりましたが、前年度からは増えて安定しています。
- 業種差は大きく、情報通信業の74.1%に対し宿泊業・飲食業は6.0%です。「テレワークが当たり前になった」と一括りにはできません。
- 制度の土台は厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」で、出社していることを理由に高く評価することは適切な人事評価とはいえないと明記しています。
ニューノーマルの意味と「新常態」「新しい生活様式」との違い
デジタル大辞泉が挙げる3つの語義
デジタル大辞泉は「ニューノーマル」を《新しい常識の意》とし、次の語義を載せています。
- 世界経済が、リーマンショックから回復したとしても以前の状態には戻れないということ
- 新常態(見出し「新常態」を参照)
- パンデミックや戦争、大規模災害などが起こった際に、終息後も以前の状態には戻らず、新しい常識や価値観が社会に定着すること
共通するのは、一時的な異常ではなく戻らない変化を指すという点です。景気が悪いだけなら不況や景気後退と呼べば足ります。わざわざニューノーマルと呼ぶのは、その状態が続く前提で計画や行動を組み替えるべきだと主張するときです。
新常態・新しい生活様式との使い分け
| 語 | 主な文脈 | 本記事で取り上げる使用時期 |
|---|---|---|
| ニューノーマル | 経済・社会全般の戻らない変化 | 2003年(英語圏) |
| 新常態 | 中国経済の成長減速 | 2014年5月 |
| 新しい生活様式 | 日本の感染対策の実践例 | 2020年5月 |
新常態は、デジタル大辞泉が2つめの語義で参照させているとおり、ニューノーマルと同じ意味で使われる語です。ただし中国政府の説明では、第一の特徴を「経済が高速成長から中高速成長へ移ること」としており、中国経済の話として使うのが本来の用法です。新しい生活様式は厚生労働省が示した具体的な行動の例で、コロナ禍のニューノーマルの一場面を指す行政用語と整理できます。
ニューノーマルの語源と用法の変遷:IT不況からコロナ禍まで
語源は英語のnew normal(新しい常態)です。「コロナ禍で生まれた言葉」という説明は正確ではありません。同じ語が、危機のたびに別の対象へ使われてきました。
2003年:IT不況後のビジネス環境(ロジャー・マクナミー)
2003年4月30日公開のFast Company誌の記事「The New Normal」(筆者はPolly LaBarre)で、投資家のロジャー・マクナミーは“The next thing has started. It’s called the New Normal, and 2003 will be the first full year of it.”(次の時代はもう始まっている。それはニューノーマルと呼ばれ、2003年がその最初の通年になる)と語っています。ITバブル崩壊と景気後退を経た時期に、以前の成長の前提には戻らないビジネス環境を指した用法です。
2009年:金融危機後の低成長(モハメド・エラリアン)
債券運用会社PIMCOのモハメド・エラリアンは、2009年5月に長期見通し(Secular Outlook)「A New Normal」を発表しました。本人が2010年にIMFで行った講演「Navigating the New Normal in Industrial Countries」では、ニューノーマルの症状として、先進国の抑制された成長(muted economic growth in industrial countries)と、構造的な性格を強めつつある高失業(persistently high unemployment which is increasingly structural in nature)を挙げています。
2014年:中国経済の「新常態」(習近平国家主席)
新華社の習近平総書記大事記によると、習近平国家主席は2014年5月9日から10日にかけての河南省視察で、初めて「新常態」という重要論断を示しました。中国政府は同年12月の中央経済工作会議(中国政府網の報道)で、新常態の第一の特徴を経済が高速成長から中高速成長へ移ることと説明しています。成長率の減速を異常ではなく常態として位置づけ直す言葉でした。
2020年:コロナ禍と「新しい生活様式」
日本でこの語が一般に広まったのはコロナ禍です。厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の2020年5月4日の提言を踏まえ、「新しい生活様式」の実践例を公表しました。働き方の項目には「テレワークやローテーション勤務」「時差通勤でゆったりと」「オフィスはひろびろと」「会議はオンライン」が並びます。その後、2023年5月5日にWHO事務局長がCOVID-19は国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に当たらないと判断し、日本では同年5月8日に感染症法上の位置づけが5類感染症へ変わりました。
2026年時点のテレワーク:経験者割合と実施率の推移
5類移行から3年が過ぎ、「ニューノーマルな働き方」は残ったのか、元に戻ったのか。国土交通省が2026年3月24日に公表した令和7年度テレワーク人口実態調査(2025年10月24日〜11月4日にWEB調査、有効サンプル数40,000人)で確かめます。
首都圏の雇用型テレワーカー割合:2021年度と2025年度の比較
雇用型テレワーカー(雇用型就業者のうち、これまでテレワークをしたことがある人)の割合は、2025年度に全国25.2%(前年度比0.6ポイント増)、首都圏37.7%(前年度36.8%)でした。首都圏の推移は次のとおりです。
| 年度 | 首都圏の雇用型テレワーカー割合 |
|---|---|
| 2019年度 | 18.8% |
| 2020年度 | 34.1% |
| 2021年度 | 42.1% |
| 2022年度 | 39.6% |
| 2023年度 | 37.6% |
| 2024年度 | 36.8% |
| 2025年度 | 37.7% |
同調査は2021年度にテレワークの定義を見直しており(勤務先に出勤せず自宅その他の場所で仕事をすることを含める変更)、2019年度との差がすべて実態の変化とは言い切れません。それでも、直近1年間に実際にテレワークをした人の割合(直近1年間の実施率)は全国16.8%と前年度から1.2ポイント増え、国土交通省はコロナ禍後に続いた減少が「令和7年度調査において増加に転じ安定基調で推移している」とまとめています。首都圏の割合は2021年度のピークには戻っていませんが、減少は止まりました。ただし、この結果だけで今後も元の状態に戻らない変化と断定することはできません。
業種で開く定着差:情報通信業74.1%、宿泊業・飲食業6.0%
国土交通省の調査結果資料の業種別集計では、雇用型テレワーカーの割合は情報通信業が74.1%で最も高く、学術研究、専門・技術サービス業が54.0%で続きます。低いのは宿泊業・飲食業の6.0%、医療、福祉の6.4%です。これらはテレワーク経験者の割合であり、現在の日常的な実施頻度を示す数値ではありません。また、割合が低い業種でも、デジタル化など働き方の変化が無関係になるわけではありません。自社の施策を検討するときは、全国平均ではなく自社と同じ業種の数字と比べるべきです。
出社回帰の動き:Amazonは2025年1月から原則出社
海外では出社へ戻す企業もあります。Amazonのアンディ・ジャシーCEOは社員向けメッセージで、週3日以上の出社を15か月続けてその利点への確信が強まったとして、COVID以前のようにオフィスで働く形へ戻すと表明し、2025年1月2日から、特段の事情がある場合や、s-teamリーダーによるリモート勤務の例外承認を既に得ている場合を除き、オフィスに出社することを求めました。本人や子どもの病気、家の緊急事態、顧客や取引先への訪問、集中してコードを仕上げるための1〜2日の在宅などは、コロナ以前と同様に認めるとしています。日本の調査では実施率が増加に転じ、Amazonでは原則出社への方針転換が示されています。ニューノーマルは「テレワーク一択」ではなく、職種と目的に応じて出社と在宅を選び分ける形に落ち着きつつあると本記事では見ています。
企業が整えるべき制度:厚生労働省テレワークガイドラインの要点
ニューノーマルな働き方を制度として続けるなら、根拠にするのは厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(令和3年3月25日改定)です。
導入前に労使で決めておくルール
ガイドラインは、導入目的、対象業務、対象となり得る労働者の範囲、実施場所、テレワーク可能日、申請等の手続、費用負担、労働時間管理の方法や中抜け時間の取扱い、通常又は緊急時の連絡方法について、あらかじめ労使で十分に話し合い、ルールを定めておくことが重要だとしています。対象業務については、エッセンシャルワーカーなどテレワークが難しい業種・職種があると認めつつ、テレワークに向かないと安易に結論づけるのではなく、管理職側の意識を変えることや業務遂行の方法の見直しを検討することが望ましいと書いています。打刻や中抜けの具体的な運用はテレワークの勤怠管理とは?打刻・中抜け・不正防止の方法と選び方【2026年】で扱っています。
人事評価:テレワークの選択を妨げない評価基準
制度設計で具体的に効くのが評価の扱いです。ガイドラインは、テレワークの実施頻度が労働者に委ねられている場合などに、オフィスで勤務していることを理由として出社している労働者を高く評価することは、労働者がテレワークを行おうとすることの妨げになり「適切な人事評価とはいえない」と明記しています。あわせて、上司が部下に求める内容や水準等をあらかじめ具体的に示し、評価対象期間中にも達成状況について労使共通の認識を持つ機会を設けるよう例示しています。出社回帰を進める企業でも、テレワークを選べる制度を残すなら、評価項目にこの点を反映させる必要があります。
労働時間の把握と情報セキュリティ
労働時間は、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として始業・終業の時刻を確認する方法が原則的な方法として示され、機器の使用時間の記録が始業・終業の時刻を反映できない場合には、労働者の自己申告による把握も考えられるとしています。その場合は、自己申告制について十分に説明すること、パソコンの使用状況などの客観的な事実と申告時刻に著しい乖離があれば労働時間を補正すること、申告できる時間外労働に上限を設けるなど適正な申告を阻害する措置を講じないことが求められます。セキュリティについては、全ての業務を一律にテレワークの対象外と判断するのではなく業務ごとに個別に判断し、総務省の「テレワークセキュリティガイドライン」等を使った対策と労働者への教育を行うことが望ましいとしています。リスクの洗い出しはテレワーク導入企業が直面するセキュリティリスクの全体像と優先度整理を参照してください。
製造業とオフィスのニューノーマル
製造業:2021年版ものづくり白書の「レジリエンス・グリーン・デジタル」
2021年版ものづくり白書は、総論の題名に「製造業のニューノーマル/レジリエンス・グリーン・デジタル」を掲げ、「製造業のニューノーマル」はレジリエンス・グリーン・デジタルを主軸に展開されると整理しました。第1章第2節の題名も「ニューノーマルでの生き残りに向けて」です。製造業でいうニューノーマルは、働く場所の話より、供給網の強靱化、脱炭素、デジタル化という事業の前提の変化を指している点が、オフィスワーク中心の文脈と異なります。
オフィス:サテライトオフィスとコワーキングスペースの位置づけ
厚生労働省のガイドラインは、テレワークを在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイル勤務に分類しています。サテライトオフィスにはシェアオフィスやコワーキングスペースも含まれ、通勤時間を短縮しつつ、在宅勤務やモバイル勤務以上に作業環境の整った場所で働ける形態と説明されています。オフィスの縮小や拠点の見直しは、在宅勤務だけを前提にせず、どの形態を誰に認めるかから決めると判断を誤りにくくなります。コワーキングスペースとシェアオフィスの違いはコワーキングスペースとは?意味・料金相場・シェアオフィスとの違いをわかりやすく解説にまとめています。
「ニューノーマル」という言葉の誤解と使いどころ
誤解されやすいのは2点です。1つは「コロナ禍で生まれた言葉」という理解で、前述のとおり2003年には使われていました。もう1つは「ニューノーマル=テレワーク」という理解です。語義は戻らない変化全般を指し、金融危機後の経済では低成長と高失業、中国では成長率の減速、製造業では供給網や脱炭素を指してきました。
2026年に社内文書やプレゼンでこの語を使うなら、何が戻らなくなったのかを数字で添えるべきです。「首都圏の雇用型就業者のうちテレワーク経験者は37.7%」のように対象と数値を示せば、流行語ではなく状況認識として伝わります。変化の中身を示せない場面では「ニューノーマル時代」と書かず、テレワークや出社回帰など具体的な変化の名前で書いたほうが誤解を生みません。
よくある質問
ニューノーマルとは簡単に言うと何ですか?
大きな出来事の後に以前の状態へ戻らず、新しい状態が当たり前として定着することです。英語のnew normal(新しい常態)に由来し、コロナ禍以前から、金融危機後の経済などについて使われていました。
ニューノーマルの語源は何ですか?
英語のnew normalです。2003年4月30日公開のFast Company誌の記事に投資家のロジャー・マクナミーの発言として登場し、2009年5月にはPIMCOのモハメド・エラリアンが長期見通し「A New Normal」を発表しています。
新常態とは何ですか?
中国の習近平国家主席が2014年5月の河南省視察で初めて示した言葉で、中国政府は第一の特徴を経済が高速成長から中高速成長へ移ることと説明しています。デジタル大辞泉は「ニューノーマル」の語義の1つとして「新常態」を挙げています。
新型コロナの拡大に伴いビジネスや社会生活が変化して定着した状態を何といいますか?
ニューノーマルです。日本では厚生労働省が2020年5月に「新しい生活様式」の実践例を示し、テレワークやローテーション勤務、時差通勤、オンライン会議などが働き方の例として挙げられました。
テレワークは2026年も続いていますか?
続いています。国土交通省の令和7年度調査では、雇用型就業者のうち直近1年間にテレワークを実施した人は全国16.8%で、前年度から1.2ポイント増えました。ただし業種差が大きく、雇用型テレワーカーの割合は情報通信業の74.1%に対し、宿泊業・飲食業は6.0%です。