アノマリー(anomaly)とは、既存の理論では説明できないのに、経験的に繰り返し観測される株価の規則性のことです。「1月は上がりやすい」「月曜は下がりやすい」といった相場の言い伝えが代表例で、売買のタイミングを測るヒントとして語られてきました。この記事では、相場の言い伝えとデータで確認できる傾向を区別して説明します。この記事では、代表的なアノマリーを一覧で整理したうえで、日経平均株価の1949年以降77年分のデータを使って一つずつ検証します。
まとめ:アノマリーの要点
- アノマリーとは、現行の理論の枠組みでは合理的に説明できないのに、実証的には繰り返し観測される規則性を指します。
- 1950年以降の日経平均では、11月から4月の半年の平均騰落率が+8.41%、裏の5月から10月が+2.43%でした。セル・イン・メイやハロウィン効果と呼ばれるアノマリーに対応します。
- 一方で「月曜は下がる」は日経平均では成立しません。2006年以降で最も弱い曜日は金曜で、月曜との差も統計的に有意ではありませんでした。
- 1月効果は1949年以降の平均では12カ月中1位(+2.21%)でしたが、2006年以降は-0.38%と下から2番目に沈んでいます。
- ただし、11月から4月だけ持つ戦略を75年間続けた資産は225倍で、単に持ち続けた場合の558倍に届きません。「保有期間の平均騰落率が高い」ことと「保有継続を上回る累積収益を得る」ことは別の話です。
- 学術研究でも、予測力があるとされた97の変数のリターンは、論文公表後に58%低下したと報告されています(マクリーンとポンティフ、2016年)。アノマリーは知られるほど効きにくくなります。
アノマリーの意味と金融での定義
アノマリーは英語のanomalyで、変則・例外・異常といった意味の語です。金融の世界では、一般的な相場理論では説明がつかないのに、過去のデータで繰り返し観測される価格変動の傾向を指す言葉として使われます。
学術的な定義としてよく参照されるのは、リチャード・セイラーがJournal of Economic Perspectives誌1巻1号(1987年)の論説で示したものです。セイラーは、ある実証結果が現行のパラダイムの枠内で合理的に説明しにくい場合、あるいは説明するのに不自然な仮定が必要になる場合に、その結果はアノマリーであるとしました。つまりアノマリーとは、観測された事実そのものではなく、理論と事実のあいだに生じたズレを指す言葉です。
効率的市場仮説との関係
アノマリーが問題になるのは、効率的市場仮説(EMH)という基準があるからです。ユージン・ファーマはJournal of Finance誌25巻2号(1970年)の論文で、価格が利用可能な情報を常に完全に反映している市場を効率的市場と定義しました。この考え方に立てば、過去の株価パターンから将来の値動きを読み取って超過リターンを得ることはできないはずです。したがって、暦や曜日で株価の動きに偏りがあるという観測は、効率的市場仮説への反証候補になります。
ただし、ファーマ自身はアノマリーの存在を市場が非効率である証拠とは認めていません。Journal of Financial Economics誌49巻3号(1998年)の論文で、長期リターンのアノマリーは研究手法を合理的な範囲で変えると多くが消えてしまうと指摘しています。そこには、市場効率性の検証が常に「期待リターンのモデル」との結合仮説になるという事情があります。価格の偏りを見つけたつもりでも、それが本当の異常なのか、それとも用いたリターンモデルが不十分なだけなのかを切り分けられない、という問題です。効率的市場仮説そのものについては効率的市場仮説とは?3つの型と投資戦略への意味をわかりやすく解説で詳しく扱っています。
株式市場のアノマリー一覧【年間カレンダー】
日本株で語られる代表的なアノマリーを暦の順に並べます。右端は日経平均株価の実データで検証した結果です。検証の方法と数値の根拠は、このあとの章で順に示します。
| 時期 | 呼び名 | 言われている内容 | 日経平均での検証結果 |
|---|---|---|---|
| 1月 | 1月効果 | 年末の節税売りの反動で1月は上がりやすい | 1949年以降の平均は+2.21%で12カ月中1位。ただし2006年以降は-0.38%で下から2番目 |
| 2月上旬 | 節分天井 | 節分のころに高値をつけやすい | 2月3日から3月20日の騰落率は平均+0.76%、下落した年は51%でほぼ五分五分 |
| 3月中旬 | 彼岸底 | 春の彼岸のころに底を打ちやすい | 同上。「天井から底へ下げる」という方向性は確認できない |
| 4月 | 新年度相場 | 新年度入りの資金流入で上がりやすい | 2006年以降の平均+2.48%は12カ月中1位。1949年以降でも+1.69%で上位 |
| 5月 | セル・イン・メイ | 5月に売って秋まで相場を離れよ | 5月単月は平均+0.44%(2006年以降は+0.99%)。5月そのものは弱くない |
| 7月から9月 | 夏枯れ相場 | 参加者が減り値動きが鈍る | 7月1日から9月30日の騰落率は平均+0.09%(2006年以降は-0.33%)で横ばい圏 |
| 9月 | 9月安 | 9月は下がりやすい | 1949年以降で平均がマイナスになる唯一の月(-0.40%、上昇した年は47%) |
| 10月末から翌4月 | ハロウィン効果 | 10月末に買い春まで持つと有利 | この半年は平均+8.41%、裏の半年は+2.43%で約6ポイントの差 |
| 12月下旬 | 掉尾の一振 | 年末の最終盤に上がりやすい | 12月最終5営業日は平均+1.16%、上昇した年は68%。2006年以降は+0.68%、55%に減衰 |
| 毎月の月初・月末 | 月替わり効果 | 月初と月末は上がりやすい | 1949年以降は月末3営業日が+0.1024%で他の日(+0.0188%)を上回る。2006年以降は差が消える |
| 4年周期 | 大統領選挙サイクル | 米大統領選の年次で株価に癖が出る | 本記事の検証対象外(米大統領選の周期で日経平均を分類した比較は実施していない) |
検証に使ったのは、セントルイス連邦準備銀行が公開するFREDの日次系列「Nikkei Stock Average, Nikkei 225」(提供元は日経産業研究所、季節調整なしの指数値)です。1949年5月16日から2026年9月18日までの19,204営業日を集計しました。本記事に掲載した騰落率・勝率・累積倍率は、すべてこの系列を用いた当社の独自集計です。日経平均は配当を含まない価格指数であること、この系列は月曜から金曜のみで土曜立会のあった時期のデータを含まないことに注意してください。
曜日のアノマリー(週末効果)の検証結果
「月曜は株価が下がりやすい」という週末効果は、アノマリーの中でも特に有名です。学術的な出発点はフランク・クロスがFinancial Analysts Journal誌29巻6号(1973年)に発表した金曜と月曜の株価の振る舞いに関する論文で、その後ケネス・フレンチがJournal of Financial Economics誌8巻1号(1980年)で、1953年から1977年のS&P複合ポートフォリオでは月曜以外の4曜日の平均リターンが正であるのに対し、月曜の平均は5年ごとのどの部分期間でも有意に負だったと報告しました。
では、日経平均ではどうでしょうか。曜日別の平均日次騰落率を集計すると、次の結果になりました。
| 曜日 | 1949年以降の平均(上昇した日の割合) | 2006年以降 | 2016年以降 |
|---|---|---|---|
| 月曜 | +0.0101%(52.8%) | +0.0026%(53.6%) | +0.0509%(55.2%) |
| 火曜 | +0.0152%(49.7%) | +0.0672%(52.6%) | +0.1659%(57.3%) |
| 水曜 | +0.0764%(54.0%) | +0.0556%(51.8%) | +0.0263%(49.1%) |
| 木曜 | +0.0660%(53.4%) | +0.0794%(53.7%) | +0.0526%(51.9%) |
| 金曜 | +0.0239%(52.5%) | -0.0165%(52.1%) | -0.0088%(52.4%) |
読み取れることは3つあります。
第一に、月曜の平均騰落率は1949年以降の全期間でわずかに最下位ではあるものの、値そのものはプラスです。上昇した日の割合で見れば月曜は52.8%で、むしろ火曜の49.7%を上回っています。「月曜は下がる」という言い方は、少なくとも日経平均の終値ベースでは当てはまりません。
第二に、2006年以降で最も弱い曜日は月曜ではなく金曜(-0.0165%)でした。2016年以降も最下位は金曜で、月曜は火曜と木曜に次ぐ3番目の成績です。通説とは順序が逆になっています。
第三に、2006年以降について検定すると、差は統計的に有意ではありません。月曜とそれ以外の曜日の平均を比べるとウェルチのt値は-0.78、金曜とそれ以外でも-1.35でした。いずれもt値の絶対値は、標本数が大きい場合の両側5%検定の目安である1.96を下回ります。この検定では平均の差を確認できませんでした。ただし1949年以降の全期間で同じ検定を行うと、水曜とそれ以外の差はt値2.18となり、個別の検定としては5%水準を満たします。曜日ごとに5回の比較を重ねれば、そのうち1つが基準を超えること自体は珍しくありません。ばらつきの読み方については標準偏差の求め方|計算表でたどる5ステップとエクセル関数・分散との違いが参考になります。
米国市場でも、この効果は薄れていると報告されています。チョ、リントン、ファンによるJournal of Empirical Finance誌14巻5号(2007年)の研究は、1987年以降のダウ平均とS&P500では月曜効果が反転または弱まった一方、ナスダックやラッセル2000といった対象の広い指数では依然として強いとしています。つまり月曜効果は、市場や指数によって残り方が違う現象だということです。
なお、祝日で月曜が休場になった週は火曜が週明けの初日になります。曜日で機械的に切る集計はこの違いを吸収できないため、週明けの影響を厳密に測るなら「休場明けの初日」で切り直す必要があります。
季節性アノマリーの月別・区間別の検証結果
次に、暦に沿った季節性のアノマリーを一つずつ検証します。月別の平均月次騰落率は次のとおりです。月次の騰落率は月末終値どうしを比べており、まだ終わっていない2026年9月は集計から除いています。
| 月 | 1949年以降の平均(上昇した年の割合) | 2006年以降の平均(同) |
|---|---|---|
| 1月 | +2.21%(69%) | -0.38%(57%) |
| 2月 | +0.88%(57%) | +0.65%(57%) |
| 3月 | +0.52%(57%) | 0.00%(52%) |
| 4月 | +1.69%(65%) | +2.48%(62%) |
| 5月 | +0.44%(53%) | +0.99%(67%) |
| 6月 | +0.93%(64%) | +1.02%(67%) |
| 7月 | +0.06%(49%) | -0.06%(48%) |
| 8月 | +0.62%(55%) | -0.66%(48%) |
| 9月 | -0.40%(47%) | +0.12%(55%) |
| 10月 | +0.38%(53%) | +0.98%(55%) |
| 11月 | +1.18%(56%) | +1.94%(60%) |
| 12月 | +1.18%(64%) | +1.74%(70%) |
1月効果の全期間と直近20年の違い
1月効果を学術的に有名にしたのは、マイケル・ロゼフとウィリアム・キニーがJournal of Financial Economics誌3巻4号(1976年)に発表した株式リターンの季節性に関する論文です。年末に節税目的の売りが出た銘柄が年明けに買い戻される、といった説明が添えられてきました。
日経平均でも1949年以降の平均で見れば1月は+2.21%、上昇した年は69%で、12カ月中トップです。ところが2006年以降の21年に限ると平均-0.38%となり、8月に次いで下から2番目に沈みます。米国でも同じ傾向が報告されており、アンソニー・グーはQuarterly Review of Economics and Finance誌43巻2号(2003年)で、1988年以降は大型株指数でも小型株指数でも1月効果が明確な減衰傾向を示し、ラッセル指数では消えつつあると述べています。少なくとも、この日経平均の集計からは、1月という理由だけで買う根拠は得られません。
セル・イン・メイとハロウィン効果の半年ごとの比較
「5月に売って相場を離れ、セント・レジャー・デーに戻ってこい」という英国の相場格言を学術的に検証したのが、バウマンとヤコブセンによるAmerican Economic Review誌92巻5号(2002年)の論文です。11月から4月の半年のリターンが5月から10月を上回る傾向を、ハロウィン指標として報告しました。
日経平均で10月31日に買って翌年4月30日に売る場合と、その裏の半年を比較します。指定日が休場なら当日以降の最初の営業日の終値を使います。夏季の7月1日・9月30日の集計にも同じ処理を適用します。
| 保有期間 | 1950年以降の平均騰落率(プラスだった年) | 2006年以降の平均(同) |
|---|---|---|
| 10月31日から翌4月30日(冬半期) | +8.41%(75%) | +6.41%(70%) |
| 4月30日から10月31日(夏半期) | +2.43%(55%) | +2.34%(60%) |
冬半期と夏半期の平均騰落率には、約5.98パーセントポイントの差があります。ただし統計的な確からしさは期間によって変わります。1950年以降の全期間ではウェルチのt値が2.39で5%水準を超えますが、2006年以降に限ると0.80まで下がり、有意とは言えなくなります。
この効果には有力な反論もあります。マバリーとピアスはEcon Journal Watch誌1巻1号(2004年)で、バウマンらの米国の結果が1987年10月と1998年8月の株価急落という2つの外れ値に強く依存しており、これらをダミー変数で調整するとハロウィン効果は統計的に有意でなくなると指摘しました。さらにS&P500先物について1982年4月から2003年4月を検証し、取引で利用できるハロウィン効果の証拠は見つからなかったと報告しています。
節分天井・彼岸底と夏枯れ相場の区間騰落率
節分天井・彼岸底は、野村證券の証券用語解説集が「節分の時期(2月上旬)に高値をつけて、彼岸の時期(3月中旬)に安値をつけるという、相場の言い伝え」と説明する、日本独特のアノマリーです。
これを日経平均で検証するため、毎年2月3日以降の最初の営業日から3月20日以降の最初の営業日までの終値間騰落率を計算しました。1950年以降77年分の平均は+0.76%、中央値は-0.06%で、下落した年は51%でした。ほとんどコイン投げと変わりません。2006年以降に絞っても平均+0.15%、下落した年57%で、天井から底へ下げるという方向性は読み取れませんでした。
夏枯れ相場についても、大和証券の用語解説は「夏場に取引参加者が減り、相場の動きが鈍ること」と説明しています。7月1日から9月30日の騰落率は1950年以降の平均で+0.09%、2006年以降では-0.33%でした。期間騰落率の平均はゼロに近いものの、これだけでは値動きの鈍さや売買の減少は確認できません。夏枯れ相場の検証には、出来高や日次騰落率のばらつきも調べる必要があります。月別では1949年以降で唯一平均がマイナスになるのが9月(-0.40%)ですが、2006年以降の9月は+0.12%とプラスに転じており、直近20年で最も弱いのは8月(-0.66%)に移っています。
掉尾の一振の上昇割合の期間比較
掉尾の一振について、大和証券の用語解説は「理論的根拠があるわけではないが、よく当たる相場での経験則であるアノマリーのひとつで、株価が年末の大納会に向けて上昇すること」と定義しています。同社のテクニカル分析講座は、1997年から2016年の20年間で年末5営業日の日経平均が上昇した年は17回あり、上昇した際の平均上昇幅は約239円だったと紹介しています。
より長い期間で確かめると、12月の最終5営業日の騰落率は1950年から2025年の76年間で平均+1.16%、上昇した年は68%でした。方向としては確かにプラス寄りです。ただし2006年から2025年の20年に限ると平均+0.68%、上昇した年は55%まで下がります。かつてほど当てにできる経験則ではなくなってきた、というのが実データの姿です。
月替わり効果の月初・月末の比較
月初と月末に株価が上がりやすいとされる月替わり効果も、よく挙げられるアノマリーです。月末には機関投資家が保有銘柄の評価額を高めるために買いを入れる、いわゆるお化粧買いが起きるという説明が添えられます。
各月の営業日を月初3日、月末3日、それ以外に分けて日次騰落率を比べると、1949年以降では月初3日が+0.0715%、月末3日が+0.1024%、それ以外の日が+0.0188%でした。月末3日とそれ以外の差はウェルチのt値が3.28で、本記事で検証した中では数少ない明確な差です。ところが2006年以降に限ると、月初3日は-0.0028%、月末3日は+0.0756%、それ以外は+0.0396%となり、t値はそれぞれ-0.68と0.63まで下がります。長期では痕跡がある一方、直近20年では確認できないという点で、1月効果や掉尾の一振と同じ経過をたどっています。
アノマリー戦略と保有継続の累積収益の比較
ここまでの検証で、11月から4月の半年が平均的に強いことは確かめられました。ではその通りに売買すれば資産は増えるのでしょうか。日経平均を使って、実際に運用した場合の資産の増え方を計算します。
| 戦略 | 1950年10月末から2026年4月末(75.5年) | 2006年10月末から2026年4月末(19.5年) |
|---|---|---|
| 買って持ち続ける | 558.45倍(年率+8.74%) | 3.62倍(年率+6.81%) |
| 11月から4月だけ持つ | 225.33倍(年率+7.44%) | 2.81倍(年率+5.43%) |
| 同(片道0.1%の売買コスト込み) | 193.54倍(年率+7.22%) | 2.70倍(年率+5.22%) |
結果は明確です。11月から4月だけ持つ戦略は、単に買って持ち続ける戦略に大きく負けます。理由は単純で、夏半期の平均リターンも+2.43%とプラスだからです。平均が相対的に低いだけの期間を現金で外していると、その分の値上がりを取り逃がし、複利で効いてきます。売買コストを片道0.1%として年2回の売買を織り込むと、差はさらに広がります。
曜日でも同じことを確かめました。売買コストをまったく考えない理論値でも、1949年以降の77年間で全日保有が368.99倍だったのに対し、月曜を現金で避けた場合は370.62倍とほとんど変わりません。一方、金曜を避けた場合は191.14倍で、半分近くまで落ちます。ところが2006年以降の20年に限ると順位は入れ替わり、全日保有3.97倍、月曜回避4.35倍、金曜回避5.27倍となって、金曜を避ける戦略が最も良い成績になります。
この逆転は、期間によって戦略の順位が変わることを示しています。なお、ここで比較したのは累積収益であり、最大下落率やリスク調整後の成績は比較していません。検証する期間を変えるだけで、どの曜日を避けるべきかという結論がひっくり返るということは、そこで見えているものが安定した法則ではなく、期間の偶然である可能性が高いという意味です。過去データを何通りも試せば、必ず何かは当たって見えます。これがデータスヌーピングと呼ばれる落とし穴です。
なお、この試算は日経平均の価格指数を用いており、配当も、現金で待機している期間の利息も考慮していません。配当再投資だけを加味すれば、夏半期も保有する戦略にはその期間の配当を受け取れる利点があります。ただし、待機資金の利息も含めた実際の優劣は、この試算では確認していません。
銘柄の属性に現れるアノマリー
暦とは別に、銘柄の属性によってリターンに偏りが出るというアノマリーもあります。こちらは資産価格理論の研究対象として、季節性よりはるかに厚い蓄積があります。
- 小型株効果:時価総額の小さい銘柄のリターンが、リスクで説明できる水準を上回る傾向。
- バリュー効果:純資産に対して株価が割安な銘柄のリターンが相対的に高い傾向。
- モメンタム効果:直近に上昇した銘柄がその後も上昇を続ける傾向。
- 低ボラティリティ・アノマリー:値動きの小さい銘柄のほうが、リスクの割に高いリターンを上げる傾向。
このうち小型株効果とバリュー効果は、ユージン・ファーマとケネス・フレンチがJournal of Financial Economics誌33巻1号(1993年)で示した3ファクターモデルに取り込まれ、アノマリーというよりリスク要因として扱われるようになりました。ただし、モデルで平均リターンを説明できることと、合理的なリスク補償であると確定することは別です。アノマリーかどうかは、基準にする資産価格モデルによって変わります。
低ボラティリティ・アノマリーは、理論との矛盾が特に際立ちます。通常の理論ではリスクが高いほど期待リターンも高いはずですが、マルコム・ベイカー、ブレンダン・ブラッドリー、ジェフリー・ワーグラーがFinancial Analysts Journal誌67巻1号(2011年)で報告した1968年1月から2008年12月の米国株の検証では、ベータが最も低いポートフォリオに投じた1ドルが60.46ドルに増えたのに対し、ベータが最も高いポートフォリオでは3.77ドルにとどまりました。取引費用を控除する前の数値ですが、理論の予測とは逆向きの結果です。値動きの大きさをどう測るかについては、ボラティリティとは?意味と読み方、高い・低いの目安を実数で解説とボラティリティの種類と計算方法|ヒストリカル・インプライド・VIXの違いを解説で扱っています。
アノマリーが消える理由と、使うときの注意点
ここまで見てきたように、1月効果も掉尾の一振も、昔ほどは効かなくなっていました。これは日本株に限った話ではありません。
デイビッド・マクリーンとジェフリー・ポンティフはJournal of Finance誌71巻1号(2016年)で、株式のクロスセクション・リターンを予測するとされた97の変数について、論文の検証期間外と論文公表後のリターンを調べました。その結果、ポートフォリオのリターンは標本外で26%、公表後では58%低いという結果になりました。著者らは標本外の26%をデータマイニングによる見かけ上の効果の上限とみなし、その差である32%を、公表された情報にもとづく取引によって消えた分と推定しています。アノマリーは、知られて資金が集まるほど自らを打ち消していきます。
そもそも、報告されたアノマリーのうちどれだけが本物なのかという問題もあります。キャンベル・ハーベイ、ヤン・リュウ、ヘチン・ジューはReview of Financial Studies誌29巻1号(2016年)で、期待リターンのクロスセクションを説明するために少なくとも316のファクターが検証されてきたと集計しました。そのうえで、これだけ多くの候補が試されている以上、新しいファクターが本物と認められるにはt値が3.0を超える必要があると提唱しています。通常の統計的有意性の目安である2.0前後では、偶然の当たりを拾ってしまうという指摘です。
以上を踏まえると、アノマリーとの付き合い方は次のように整理できます。
- 単独の売買根拠にしない:本記事の検証でも、勝率の高さと運用成績の良さは一致しませんでした。企業の業績や経済環境の分析と組み合わせて、補助的な材料として扱うのが現実的です。
- 売買回数が増える戦略ほど不利になる:取引条件に応じて手数料やスプレッドが生じ、課税口座では売却益への課税も運用成績に影響します。期待される偏りが年に数ポイントの水準なら、コストで簡単に打ち消されます。
- 有名なアノマリーほど効きにくい:公表された情報に基づく取引によって、収益機会が縮小する可能性があります。同研究がこの取引の影響として推定したのは32%で、公表後の低下率58%すべてではありません。
- 期間を変えて確かめる:ある期間でだけ成立する関係は、偶然や市場環境の変化による可能性があり、そのまま将来に当てはめるべきではありません。少なくとも複数の期間と複数の市場で同じ方向が出るかを確認してから判断してください。
なお、なぜ投資家の行動が価格をゆがめるのかという心理面の説明は行動ファイナンスの領域です。損失を確定させたくないために下落した銘柄を持ち続けてしまう行動などは、プロスペクト理論とは?損失回避と価値関数の仕組みを原典データ・再現性検証で解説で扱っています。
よくある質問
アノマリーとは簡単に言うと何ですか?
理屈では説明できないのに、過去のデータでは繰り返し見られる相場の癖のことです。「1月は上がりやすい」「年末は上がりやすい」といった言い伝えが該当します。理論と事実のズレを指す言葉なので、そのズレが説明できるようになったり、データで確認できなくなったりすると、アノマリーとは呼ばれなくなります。
株価が下がりやすい曜日はありますか?
日経平均のデータでは、明確に下がりやすい曜日は見つかりません。1949年以降の平均では月曜が最下位ですが値はプラスで、2006年以降で最も弱いのは金曜でした。2006年以降では、各曜日と残りの曜日の平均騰落率の差は、個別のウェルチ検定で5%水準の有意性を満たしませんでした。この結果だけで曜日別の売買を正当化することはできません。
株価が下がりやすい時期はいつですか?
1949年以降の日経平均で平均がマイナスになる唯一の月は9月(-0.40%)です。ただし2006年以降の9月は+0.12%とプラスに転じており、直近20年で最も弱いのは8月(-0.66%)に移っています。時期による弱さは固定されたものではなく、期間によって移り変わります。
アノマリー投資で儲かりますか?
本記事の試算では資産は増えましたが、冬半期だけ保有する戦略の累積収益は、買って持ち続ける戦略を下回りました。最も差が大きかった11月から4月だけを持つ戦略でも、75年間で225倍にとどまり、単に持ち続けた場合の558倍に及びません。5月から10月の平均リターンもプラスであるため、その期間を外した分だけ複利の効きが弱まるからです。売買コストを加えると差はさらに広がります。
セル・イン・メイは日本株にも当てはまりますか?
平均の偏りとしては観測できます。1950年以降の日経平均では、11月から4月の半年が平均+8.41%、5月から10月が+2.43%でした。ただし2006年以降に限れば統計的に有意な差とは言えず、米国市場でも1987年の暴落などの外れ値を調整すると有意でなくなるという反論があります。5月に必ず売るべきだという結論は導けません。
アノマリーと効率的市場仮説はどちらが正しいのですか?
どちらか一方が正しいという決着はついていません。アノマリーの報告は効率的市場仮説への反証候補ですが、ファーマは手法を変えると多くが消えると反論しています。本記事では、2006年以降の曜日別比較と冬・夏半期の比較で統計的な有意性を確認できませんでした。冬半期戦略はコスト控除後も資産が増えましたが、累積収益は保有継続を下回りました。これは効率的市場仮説と矛盾しない結果です。